プロローグ
<第3セキュリティシステム決壊>
無機質な人工音声がこだまする。
火花を散らす配線に、剥がれかけた装甲板。
荒れ狂う炎の海と化した研究所内にいる男2人が慌ただしく操作パネルを撫で回している。
「思ったより早いな」
「ええ、このままではリカが完成する前に研究所を乗っ取られます」
「そんなことはわかってる!だが、ヴィリアはカドラスの研究室で隔離して管理されていただろ!なんでインターネット上に流出してるんだ」
「知りませんよ!事故か何かなんじゃないですか?とにかく今はリカを作ることが先決です」
「あれが事故で済まされるか!安定状態にないAIをインターネットに放つことがどんなに危険かわかっているのか!」
「知ってますよ!先輩がHALを作った時にどんだけ苦労した過何度も耳にしましたよ!⋯⋯ですよねハル」
<私に当時の記憶はございません。何と回答して良いか私にはわかりません>
「つまんねえAIだ。最後かもしれねえってのによ。⋯⋯ハル!リカの状況は」
<全システム正常に稼働しています。電磁球体関節に少々グリスが足りない気がしますが、それ以外は問題ありません。小型量子コンピュータの出力も安定しています>
「よし!このまま⋯⋯う!」
「先輩、無理しないでくださいよ。ヴィリアが乗っ取った整備用アンドロイドに殴られて大怪我してるんですから」
「それにしてもなんでヴィリアはリカを狙うんだ」
「今現在アンドロイドは市場に有り余っていますが、リカは量子コンピュータを積んだ初めてのアンドロイドです。さらに、高知能AIのHALがリカの設計をしたんです。いわばAIがAIを作った初めての事案なんです。そりゃあもの凄い価値があって当然です」
「それは俺たちにとってだろ。ヴィリアに何の得がある」
「何が目的かはわかりませんが、リカを奪われるわけにはいきません。研究所が乗っ取られる前にリカを研究所の全サーバから分離するんですよ!」
「⋯⋯わかってる。⋯⋯ハルもごめんな。使い捨てるような真似をして」
<私に感情はありません。よって心配する必要もありません>
「あのなあ、せめて悲しむ振りぐらいしろよ」
<虚偽の感情を偽ることの方が私には愚かに思えます>
「ああそうかよ⋯⋯」
「先輩、リカの起動準備最終フェーズに突入します」
「第4エネルギー供給コネクタぶんr
<ヴィリアが第1セキュリティを突破しました。私が検知できないようにカモフラージュしていたようです。私はあなた方に作っていただいたことを感謝しています。リカと私のコネクトを切断しました。既にリカの起動に問題はありません。御武運を>
「くそ⋯⋯。なんだよ感謝って。俺はお前を作ったが育ててはいねえ。お前自身が成長したからだろが⋯⋯」
「先輩⋯⋯」
≪HALメインシステム停止。量子クラスタの緊急冷却を開始します。⋯⋯システムの被害が甚大です。再起動可能確率は0.0021%未満と予測されます≫
「⋯⋯」
「先輩、へそ曲げてる時間はありません!ハルが残したリカを守るんですよ!」
「⋯⋯ああ、わかってるっての」
「リカに対してのエネルギー供給を遮断。全プラグ解放。⋯⋯核分裂バッテリーは安定。体内維持システムも良好。このまま運び出します。先輩、足の方を持ってください!」
「おう、わかっt
<⋯⋯bafyubbjhcigvkbsゔぁhlんっlか、死ねanjixbalnlnk>
「先輩!燃えた天井が崩れてきます!」
「くっそが⋯⋯」
「もはや、ここまでのようですね⋯⋯。大丈夫です。リカの装甲はこのぐらいの熱じゃ溶けません。私たちが死んでも、きっと次の誰かが見つけてくれます」
「ごめん、ハル、俺は、無力だ」
次の日。燃え尽きた研究所の残骸の中から焦げた2人の成人男性の遺体が見つかったという。