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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第六章 〜オルディーネ編~
700/864

700.子供達を見てあげるのを忘れてました。





 室内鍛錬場にはブロンとジャグラードも付いて来たけど気にしない。

 この時間は彼等がお子様四人組を鍛える時間だし、私が何をさせるか気になるのだろう。

 職務に熱心なのであって、物見遊山ではないと信じている。


 どんっ。


 収納の魔法の中から、高さ一メートルちょいの深めの壺を取り出す。

 その後は、同じく収納の魔法から材木を取り出し、魔法で加工。

 シュババッ、って縦に長く切って棒を作ったら、それを三十センチぐらいの長さに、人数分だけ切断。

 一応角は落として丸くしてあるけど、取り敢えず今はコレで良いか。

 必要なら、自分達で加工してもらう。

 魔法石と魔法銀(ミスリル)を取り出し、魔法石はチョチョイと魔法陣を描き込み、棒の側面に埋め込む。

 魔法銀(ミスリル)は魔法石から棒の先端に繋いて、その先端の面には魔導回路を描き込み、薬剤で完全に固定する。

 一本を作るのに五分程掛かってしまい、その間待っていた皆んなには退屈させてしまったかもしれないけど、そこは思いつきなんだから勘弁してほしい。

 残った材木を、全て魔法で細かな粉にして壺の中に。

 これで準備よし。


「お待たせしたわね。

 身体強化の魔法の要領で、この木の棒に魔力を流しなさい。

 得物を手の延長として考え、魔力を流す事による物質の魔力強化だけど、一応は習っているはずよね。

 その棒を壺の中の木の粉の中に入れて、自分の得物を想像なさい」


 見本を見せる様に、壺の中から木の棒を引き上げ……、うっ身長が足りなかった。

 見っともないと思いつつも、ブロック魔法で足場を作ってやり直した結果。


「「「「えっ?」」」」


 短な木の棒はその長さを増やし、剣の形をしている姿を見て、四人は驚きの声を出すが、それほど驚く事ではない。

 この世界の魔法は、想像による創造。

 身体強化も無意識であろうとそこは一緒で、身体強化の延長として扱える物質の魔力強化も、自分の獲物の形をより強く持つ事で、より効率よく無駄なく強化できるようになる。

 魔物の領域の奥に生える、とある特殊な魔樹。

 この魔樹の特殊な特性を利用して作ったのは、同じ材質の木の粉末を想像通りに硬める事で、一本の剣を創造する魔導具。

 理論上、剣でも槍でも好きな形を織りなす事が出来る。


「ジャグラード、貴方もお願いできるかしら?」

「畏まりました」


 ジャグラードは渡した柄の部分しかない木の棒を手にすると、私と同じ様に壺の中から自分の愛用の剣と同じ形の剣を取り出す。

 そしてその剣を、私の持つ剣に向かって振るい。


 かんっ。


 硬く軽い音が室内に響き渡る。

 粉末で形成されているはずの剣は、まるで硬い木同士がぶつかり合う音を広い部屋の中に響かせた。


「ビクともされないとは、少しは手加減してくださいよ」

「身体が小さくても、一応はこれでも魔導士ですからね。

 魔力での強化で負けるつもりはないわ」


 短かい会話の後、何も言わなくても再び振り上げられる剣。


 ふぉしゅ。


 今度は風切り音だけして、私の手にした剣はジャグラードの持つ剣によって二つに切り裂かれ、元の粉末となって地面に落ちる。


「今見て貰ったから分かるでしょうけど、魔力の操作がきちんとなされていれば、木剣と同等以上の強度が得られる反面、魔力の操作が未熟だと元が形を成さない粉末だけに簡単に崩れてしまうわ。

 貴方達が魔力の扱いが未熟なのは、魔力が目に見える形ではない事と、その用途をきちんと理解できていない事が原因の一端よ。

 まずは剣を形作る所からやってみなさい」


 四人の魔力操作がお粗末なのは、目に見えた成果もそうだけど、感覚が掴みにくい事だと思う。

 少し邪道だけど、まず目に見える形にして、そこから感覚を掴んでもらって鍛えてもらう事にした。

 私の本業は魔導具師。

 私の護衛騎士になるのだから、当然そのための装備を貸し与えるつもり。

 それなのに肝心の魔力操作が、ああまでお粗末では話にならない。


「うわつ!」


 何かイリーナが、壺の中の木粉を爆発させて悲鳴をあげている。

 まぁ、魔力形成を疎かにして魔力強化を力任せにやれば、ああもなるわね。

 それでも諦めずに壺から引き上げた柄には……、うん、笑うのは止めよう。

 本人は真剣なんだから笑っては可哀想だ。

 ジャグラードとブロンが声をあげて、敢えて笑っているから手遅れかもしれないけど、まぁ指導教官と見物人と立場が違うからね。

 きっと何らかの思惑があっての事だと信じている。


「……うぅ」

「げっ」

「……ははは」


 他の三人はイリーナほど酷くはなくても、散々な状態。

 クラリスがかろうじて剣に近い形を成していたけど……、良く言って歪な棒でしかないわね。

 それも振り上げようとした途端、形状が保てずに木粉へと返ってしまった。

 まずは四人とも、きちんと剣の形を作る事かな。

 目に見える分、創意工夫をしやすいはず。


「しかしユゥーリィ様、これは結構きつい鍛錬ではないかと」

「何故そう考えに至ったのか聞いても?」


 ブロンの言いたい事は大体想像はついている。

 先ほど私とジャグラードが行った様に、剣の形を成して剣を振るう。

 これだけならば、四苦八苦するだろうけど、それほど大変な事ではない。

 たぶん数ヶ月で出来る様になるはず。


「お答えする前にお聞きしますが、用意されるのはこの柄の部分だけで終わりで?」

「いいえ、籠手と足当て、そして一応は盾も用意するつもりよ」

「打ち合いの最中にアレを維持させ続けるだけでも、当分は掛かると思うんですがね」

「必要な時に必要な場所に必要な形に魔力を集中させれて、初めての魔力運用と言えるのではないかしら?」

「仰る通りで」


 ブロンが口にした様に、魔力の扱いが下手な今の四人では、形にする事は出来ても、それを維持し続けるのは難しい。

 でもそこに打ち合う行為が合わさると、途端に難易度が上がる。

 動きながら、魔力操作を想像し続けなければならないからだ。

 魔導士が戦闘訓練を受けた際に躓くのが、まずこの工程だとも言われている。

 でもそれは魔力持ちの剣士も同じ事。

 無論、無意識下での力技での魔力強化、それで戦っている魔力持ちの方が大半らしいけれど、上を目指すのであれば、最初からきちんと魔力操作を習っていた方が良い。

 何故なら威力も効率もまるで別物になるからよ。


「身体と剣の腕を鍛えながら、魔力を手足の様に扱えるようにならなければ、私の護衛騎士に成り得る事はないわ」

「ユゥーリィ様、それが出来る者が、どれだけいるか知っておられますか?」

「少なくともアドル達は全員出来るわよ」

「本人達は死に物狂いだったと、今でも愚痴ってますよ」


 そんな事は知らない。

 出来る様になるかならないか、それだけよ。

 実際にアドル達は出来る様になったのだから、それで良いじゃない。

 無論、私も出来る限り協力するつもりよ。

 この鍛錬は、剣を維持できるようになって終わりではない。

 剣を打ち合い続ける様になるには、魔力の強弱を身につけないと、すぐに魔力切れをする事になるし、籠手や足当てや盾を使わせるのも、利き手以外にも繊細な魔力操作ができる様にするため。

 何より極めた身体強化は防具などなくても、その身で相手の剣を受け止めるほど強度を高める事が出来る。

 魔導士でもない魔力持ちがそれが出来る様になるには、局所的に瞬時に最大の魔力を集めれる様にならなければ出来ない事。

 そんな大道芸じみた技に頼る必要がないのが一番だけど、武器は一つでも多い方がより生き残る可能性を高める事になるもの。


「道具が一通り揃ったら、アドル達に見本を見せて貰った方が、より励みになるかしら?」

「ええ、まぁそうですね。

 ですが練習する時間ぐらいは、与えてあげた方がよろしいかと」


 そこは勿論あげるつもりよ。

 アドル達も知らない鍛錬方法だもの。

 ただ、ぶっつけ本番でも出来ると信じているけど。


「でもその前に、壺を四人分用意してあげた方が良いかもね」

「ユゥーリィ様が、宜しければ我々の分もお願いいたします。

 まだまだ、若い者には負けられませんので」

「ええ、分かったわ」






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