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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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7.光石と魔力と路傍の石。




 病気のせいか、それとも家族のほとんどが実は魔法が使えていた事へのショックのせいかはともかくとして、やっと寝床から抜け出せれるようになった頃には、自分の中で色々な考えがとりあえずは整理ができた。

 復活できた理由の一つに、ミレニアお姉様から貰った石。

 碁石より一回り以上大きい程度のそれは、魔導具の一種ではあるものの天然の素材で、その名を【光石】と言うらしい。

 文字通り微量な魔力を流すと光り輝くそれは、光源の一つとして使われるものだと言う。


『燃え移ったら危ないから渡しておくわ。

 あと夜遅くまで起きてたら駄目よ』


 きっと、暗くなってからも本を読むために魔法の練習をしていたのだと思ったのだろうお姉様の言葉は、実は見当違いではあったものの、ショックから立ち直るだけの事を私に気付かせてくれた。

 まず最初に気が付いたのは、私とお父様達から見せてもらった魔法の違い。

 私の魔法が光り輝く球に対して、家族のそれはどれもマッチぐらいの小さな炎だった。

 次に気が付いたのは、その発動した魔法の大きさの違い。

 最初の違いは、恐らく固定概念の差によるもので、前世の記憶を持つ私にとって、明かりと言うと電気の眩しい白い光を想像した。

 それに対して電気のないこの世界において、明かりと言って皆が想像するのが、炎の放つ灯を想像したのではないか。

 これが魔法の発動の仕方の差を生み出し、ついでにお姉様の勘違いの原因ではないかと考えた。


 そして肝心の魔法の大きさの差。

 家族のは全て同じくらいの大きさ。

 そして私のは炎と光球の差はあれど、その数倍の大きさを放っていた。

 イメージ力がまだ甘く、魔力の殆どが光に変換できずに、多くを虚空へと放出していたにも拘らず。

 それにミレニアお姉様だけならともかく、お父様とアルフィーお兄様も、ミレニアお姉様と同じ程度の大きさだった。

 お父様達が力を抑えていただけと言う可能性もあるけど、火起こしぐらいにしか使えないとか言っていた気がするので、たぶん言葉通りの意味なのだと思う。

 と言うかそう思いたい。

 仮定の上に仮定を重ねるようだけど、もし考えている通りならば、その原因は魔力の強さの差。

 ならば希望はある。

 もし魔力の違いが病気の原因になっているとしたら、いろいろと説明がつくからだ。

 それを証明するには、まずは魔力の制御を磨いてゆく事、これ一択に限る。

 今後の事を考えても、これが一番重要になるだろうし、基盤になるはずだから。


「光石か、良い物を貰えた♪」


 僅かな魔力を流せば、ほんのりと優しく光る。

 ただそれだけの、魔導具とさえ言えない天然の石。

 読書の光源として使うには指に挟めば、光源が視界に入るためやや眩しく、紐などで掌に押さえれば眩しくはないが、かざした手が本を読むのに邪魔になる。

 かといって魔力を止めたり、身体から離せば、直ちに光るのを止めてしまうため、意外に使い勝手は悪い。

 お姉様曰く、夜にお手洗いに行くには便利だけど、ランプの方が何をやるにも集中できるし、なにより照らす範囲が広いとの事。

 そのため使い勝手はランプの方が良いから、光石は燃料も要らない非常用の光源扱いらしい。

 六歳児の私には火の取り扱いは危ないから、ランプは渡せないというのが本音だろうけど、なんにしろこれは使える。

 光源ではなく、魔力制御の練習のための道具として。

 何度か試したけど、この石はある程度制御された魔力で、ムラの無い魔力が石に流れ込む事で綺麗に光るらしい。

 ムラがあると文字通り光にムラが出来たり、光が不規則に点滅してしまう。

 つまり魔力を流す先の指針にもなるし、それに至るまでの魔力の制御とその速度の向上の練習にもなる。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そうして半月経つ頃には、光石を使った制御にもだいぶ慣れてきた。

 右手に握り光らせ、光ったら左手に投げ受けとったら光らせる。それが光ったら今度は右の人差し指と中指指で摘んで光らせ、その次は左手の親指と人差し指で石を挟んで光らせる。

 そんな事を繰り返し行う。

 まだまだ時間はかかるし、慣れない魔力制御に汗ばむものの、消耗もそこまで酷くはなくなってきており、確実に一歩一歩前進していると実感できる。

 その成果として魔法による光の発動も早くなり、光らせようと思ってから十数秒ほどで発動するし、掛け声も必要なくなった。

 最初の頃は体感時間で十数分掛かっていた事と、幼児という年齢を考慮すれば劇的な進歩だと言える。

 この進歩を大きく助けたのが、お姉様に戴いた光石の存在。

 正確には光石と言う、明確な魔法発動対象がある事。

 簡単に言えば、何も書かれていない紙を見るのと、紙の真ん中に一滴インクを垂らした物を見るのとでは、意識の集中の仕方が違うのと一緒だ。

 それに気が付いた時、某渦巻き忍者の漫画を思い出し……。


「なんでもっと早く気が付かないんだよっ」


 と声を出して、自分に突っ込んでしまったほど。

 とりあえず、思ったより早く此処までこれた。

 最初は半年、下手をすれば年単位で時間がかかると思っただけに、嬉しさもひとしおと言える。

 そのおかげかどうかはともかくとして、光球魔法も当初は魔力の殆どを無駄に散らせながら、野球ボールくらいの大きさだったものが、まだまだ溢れ出る魔力はあるものの、今ではバスケットボールくらいの大きさにまでになっている。

 ちなみに、今のところ使えるのはこの光球魔法のみで、他の魔法は今のところは自粛している。

 理由はごく当たり前の事で、もし私の魔力が魔法を使える家族より高かった場合、事故に繋がりかねないからだ。

 ただでさえ魔法に慣れていないのに、制御も未熟な状態で火の魔法が暴走したらと考えたらシャレでは済まないし、火事でも起こそうなものなら、いつかお姉様が注意したように家族でも私を庇う事はできないだろう。

 そしてそれは火魔法だけではない。


 水魔法で大量の水が吹き出たら。

 風魔法が部屋の中で暴れたら。

 土魔法で家を壊したら。


 どれもとても目を当てられない事態になる事この上ない。

 むろん考えすぎという事も十二分にありえるけど、大切な家族の住む家を失う危険を冒してまでする事ではない。

 あれからお父様やお兄様にもう一度訊ねたところ、二人とも使える魔法はあの時見せてもらった火種とも言える魔法だけで、もし魔法使いと言えるほど魔法が使えていたなら、こんな田舎で燻っていないで都会にでも出て一旗あげているとさえ言われた。

 少し大袈裟だと思うけど、それくらいきちんとした魔法を使える人間は少ないらしい。

 とにかくそんな話を聞いた後では、屋内での他の魔法の練習は怖くてできないし、そもそも雪が積もる冬は、身体の弱いは私は基本的に外出禁止。

 他の魔法を練習できる環境ではなかった事もあって、いまだ未修得のまま。

 おかげで魔力制御の練習に集中できたわ訳でもあるのだから、良かったのか悪かったのかで言えば良かったと思う事にしている。


「問題はこれからかな。

 このまま魔力制御を磨くか、新しい魔法の習得に力を入れるか」


 冬ももう終わりなので、外出禁止は解除されたため、外に練習しに行く事はできる。

 新しい魔法の習得。

 それはもの凄く魅力的な計画だと思うし、正直に言えば直ぐにでも屋敷の裏庭の奥で、こっそり練習しに行きたい程だ。

 でも、まだ魔力制御に不安があるのも本当の事なので、暫し悩んでから、やっぱり安全さを優先させる事にした。

 新しい魔法の習得は、ある程度魔力制御に自信がついてからでも問題はない。

 でも逆に魔力制御が未熟なのが原因で、習得しようとした魔法が暴走した日には皆に迷惑を掛ける事になる。

 なら、ここはぐっと我慢をするべき時だろう。


「という訳でお姉様、光石をもう少し頂けたらと思います」

「……何がという訳なのかはよく分からないけど、言いたくないのなら別に構わないわ。

 あと未加工の光石なら、庭に転がっているから、幾らでも持っていって良いわよ」

「……へ?」


 あまりと言えばあまりの返答に、つい間抜けな声が出てしまう。

 そんな私をお姉様は庭に案内し、地面を見ながら其処らを歩き廻ったと思ったら、しゃがんで石を摘み上げ。


「はい、これと同じ石だから探してみてごらんなさい」


 そう言って、昼間でも分かる程度には光る石を私の手の平に渡してくる。

 光っていたから、たしかに光石なんだと思うけど、なんで我が家の庭に?

 そんな私の疑問が表情に出ていたのか、お姉様は教えてくれる。


「一応は珍しい石らしいけど、ウチの領地での特産品の一つだし、昔はこの庭で石の加工もしていたらしいから、その名残でそこらに転がっているのよ。

 ほらあの庭石も実は光石なのよ。

 あんな大きいからとても持てないし、あのままでは大きすぎて光らせる事もできないわ」

「魔力の効率が悪いという事ですか?」

「そうよ、光石は指先ぐらいの大きさでないと、誰にでも光らせられないもの。

 もっとも魔力持ちで無い人では、大人にならないと光らせられないんだけどね」


 魔力持ち、お姉様から初めて聞く言葉。

 だけどその言葉の意味的に、おそらく魔力に対して適性がある人を指すのだと思う。

 お姉様のように種火程度の魔法しか使えなくても、大人にならずとも光石を光らせられれば、魔力持ちだと言う事。

 但し、あくまで可能性の話しでしかなく……。


「だからこれくらいの大きさになると、もう光らせられないわ」


 そう言って、今度は一握りくらいの白い玉石を渡される。

 十三歳の少女の手の中に隠れきるぐらいの石は、とても小さく感じるものの、六歳児の私の手には手の平に何とか乗る程の大きさ。

 そして手の平に乗せられた時の石は、確かに光っていなかった。


「ついでに覚えておくといいわ。

 貴女がよく使っている談話室(ラウンジ)の水晶壁、あれも領地の特産品なの。

 今の所は、採れる量は決して多いとは言えないけどね。

 あれも、あの大きさの物としては売り物にならない物を使っているから比較的安くできたけど、あれはあれで本来は使用用途がある物よ。

 価格的には安くなってしまうけどね」


 言外に、安くはあったけれど決して安い物ではなく、本来は特産品として得られた収入を、貴女のために出費してしまったわと言われた気がする。

 でもそれは私の捻くれた性格が生んだ勝手な思い込みだ。

 お姉様の性格を知っていれば、そんな事は有り得ない。

 言葉通り教えてくれているだけ。

 シンフィリア家の一員として、知っておくべき知識だと。

 だから……。

 

「透明度の高い箇所は小さな窓として、少し曇った箇所は明かり取り込み用として、あとは装飾品や宝石としてですか?」

「宝石としては少し無理があるけど、大体はそんなところね。

 ああ、あとは魔導具の材料にも使われたりするわ」


 私の質問に、淀みなく答えてくれる。

 むしろそう言う質問を待っていたと、お姉様の瞳は語っている気がする。

 やっぱりお姉様はお姉様、姉として愛しいと思うし、とても頼りになる。

 例え、私の方が遥かに年上だとしても。


「ちなみに、あの大きさの水晶が本来の品質だったら、どれくらい差があるのですか?」

「ん〜、あまり詳しいお値段は言っても分からないだろうから、一級品と二級品とでは十倍、更に三級品とでも五倍の差ぐらいはあるわ。

 ちなみにあれは、あの大きさのままでは三級品にも成れない規格外品ね。

 総合的な価値としては更に十倍以上の差がついてしまうの」


 それでもきっと凄い値段なのだと思う。

 町並みを見る限り、水晶の窓ガラスは教会以外には見た事がないから、きっと小さな物でも庶民には手の出ない高級品なのだろう。


「まだユゥーリィはお金の事を気にする必要はないでしょうけど、いずれは必要になる知識と考え方だから覚えておいて。

 その日が来たら、もっと色々な事を教えてあげるから」


 きっとそれはお姉様には、その約束が叶う事ができないと分かっているのだと思う。

 少しだけ見せた寂しそうな表情が、そうだと物語っていたから。

 でも、それは逆にお姉さまの望みでもあるのだと思う。

 その日が来る事を願って。

 例え夢でもその日が来る事を望んで、その日のための軌跡を残したかったのだと分かる。


「じゃあ、私はもうすぐしたら出掛けるけど、ユゥーリィも適当なところで屋敷に戻りなさい。

 暖かくなってきたと言っても、まだ長い時間外にいるのは身体に毒なんだからね」


 そう言って屋敷に戻るお姉様を見送ってから、私は早速地面にしゃがみ込んで光石を探す。

 なるべく同じ様な大きさが望ましいので、そのためには必要な数以上の光石を集めて、選別する必要がある。

 時間はあるけど、無駄な時間が惜しい事には違いない。

 あんな話を聞いた後ならばそれは尚更の事。

 私だってお姉様の望みは叶えたい。

 だってそれは私にとっても叶えたい望みでもあるし、そのためにも魔力制御を極めなければならない。

 もし制御できない魔力が病気の原因であるなら、魔力制御さえ上達すれば、お姉様の希望を叶えられる可能性が出てくのだから。








2020/03/01 誤字脱字修正

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