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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第五章 〜新米辺境伯編〜
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646.後世に伝えようとする想い。






 港街の方では、食料や物資の一部が配給制や購入制限が掛かっているとは言っても、屋敷や村の方では関係がない。

 ある程度は港街の方に回してはいるものの、此処での食事では特に制限は掛けていないのが理由と言える。

 屋敷の人間だけでなく、村人達も新鮮な青野菜や果物や卵やお肉を使った食事を、お腹いっぱい食べれる生活。


「まずいとは言わんけど、味気ねえ」

「よく、これっぽっちの量で俺等動けていたよな」

「こんなのでも、食べれただけマシだったと思うと、昔は我慢強かったんだな」

「そもそも手抜きだよな。

 俺でもこれよりマシな料理作れるぜ」

「あっ、俺も俺も」


 と、聞こえてくるけど誤解しないでもらいたい。

 村人達が自主的に昔食べていたと言う粗食を作って、食べたその感想が聞こえて来ただけであって、盗み聞きした訳ではないからね。

 屋敷近くにある二つの村は元難民とは言え、更に元を辿れば、ごく普通の生活をしていた人達。

 彼等が、今の生活が如何に恵まれているか忘れないように、年に一度で良いから粗食の日を作って、今の生活を感謝する日を作ろうと言いだし、その流れから先ずは有志を募って試しに作ってみたらしいのだけど、味の方はかなりイマイチらしい。

 見た目からして量も少ない上に、品数も彩りもないから、言いたい事は分かるけど、もう少し周りの空気読もうね。

 作った人達(じょせいじん)が、和かな笑みを浮かべてお冠ですよ。


「アンタらね、これでもマシな方だよ」

「そうそう、此処では掛けられる時間もあるし、薪の量を気にする必要ない」

「水も綺麗で量があるから、砂やゴミが入っていないのよ」

「野菜だって新鮮で形の良い部分なんて、使えなかったんだから」

「売り物にならない部分の寄せ集めだものね」

「それでも、少しでもお腹に膨れるように苦労していたって言うのに」

「「「「大体、アンタらが飯を作れるようになったのは、この村に来てからでしょうがっ!」」」」


 とね。

 最初はともかく、後半の部分は作ってくれる人に対して完全にアウト。

 とりあえず、お怒りの女性陣を宥める前に、頼れる皆んなのおっ母ちゃん、ケーニャが領主である私の前で恥ずかしい真似は止めな、とお怒り。

 別に私は気にしないし、例によってお散歩気分で突然やって来たのだから、寧ろ領主様扱いは止めてもらいたいけど、私をネタに喧嘩を収めようとしているのなら、そこは良い様に使われます。

 仕方ないので、通りすがりの振りは止めて話の輪に参加する。

 ついでに、私に気にしないでと言うアピールを兼ねて、目の前の料理を一口戴いてみる。


「……うーん、確かに、これよりも美味しくできる手段は幾らでもあるけど、時間とお金の問題は大きいかな」


 そこらの山や森に自生している香草を一つ二つ入れるだけでも、だいぶ風味が変わるし、しっかりと出汁の取るなどすれば素朴ながらも、味わえる料理が出来るとは思う。

 でも、香草の一つ二つだって買えばお金が掛かるし、採りに森や原っぱに行くのも時間が掛かる。

 庭で栽培した物なら、すぐだと思われるかもしれないけど、栽培するためにはそのための土地と労力を必要とする。

 勿論、出汁をしっかり取るためには、手間と時間が掛かる上に、燃料の薪代も嵩んでしまう。

 なにより貧しい農家や家だと、調味料どころか塩ですら贅沢品扱いで、満足に使えない状態だと聞くもの。

 なら余計にお金を掛けれないし、余分な時間があったら働いたり、他の家事に時間を取られてしまうのだから、私みたいに魔法でズルが出来ないのであれば、出来る事など限られてくる。

 それを考えたら、よく出来ている料理だと思うわよ。

 毎日食べたい味ではないけどね。

 そんな私の総評に、小さくなる文句を言っていた男性陣。


「此処での生活に感謝をする日を設けるのは良いけど、嘗てのその生活を支えていた人達にも感謝するのは必要事だと思うわ。

 今の日々の食事も、そう言う人達が中心になって、料理の味の向上に尽力を尽くしてくれているのだもの。

 そして、その料理に使うお野菜や果物を美味しく作ってくれている人達にも感謝すべきよ。

 勿論、私はいつも感謝しているわよ。

 美味しいお野菜と果物、そして繁殖を手伝ってくれているからこそ、毎日、美味しいご飯を食べれているのだもの」


 ついでに、私を崇めるための日になりそうなので、趣旨の方向性を修正しておく。

 放っておいたら、トンデモ方向に暴走しそうだもの。

 いやぁ〜、偶々だったけど、散歩に足を向けて良かったわ。

 そう言う訳だから、ジュリ、私のおかげで今の生活があるとか言って煽らないのっ!

 逆に言えば、今の私達の生活も、この村の皆んながいるから成り立っている部分もあるんだからね。


「そんな、ムクれなくても分かっていますわ。

 ただ、この村の成り立ちを刻んでおく事も大切な事ですもの」


 再開したお散歩する私の横で、ジュリがそう言い訳をしてくるけど、例えそうだとしても半ば強制するのは宜しくない。


「別に散歩について来なくても良いわよ」


 なので、ついつい意地悪な言葉が口に出てしまう私に、次から気をつけますわと口にはしてくれるけど、多分またやるんだろうなと、私も半ば諦め気分で受け取っておく。

 こう言うところでは、やはりジュリは生粋の貴族だから、ジュリの貴族あっての平民の生活と言う気持ちも分からないでもないんだけど、中身が小市民の私としては、やはり、そう言う考え方は苦手なのよね。

 せいぜい、港街と違って屋敷と村の人達の食事を制限しないのは、領主の特権と言って不自由させないくらい。


「でも、だいぶ普通の村らしくなって来たわね」

「……ユウさん、この村ほど異常な村はありませんよ」


 村が出来て四年が既に経ち、最初は形だけで足りない物だらけだった村も色々揃い、各自がそれぞれの新しい生活に向けて歩み出したなと感慨に耽ていると言うのに、この子は……。

 いえ、魔導具に溢れている村と言うのは確かに他にはないし、魔物の繁殖なんてやっている時点で、普通とは言えないかもしれないけど、それはそれ、これはこれと言うか。


「そう言えば、ポーニャさんが此処で使っている農業技術を実家で使えたらと、口にしていましたわ」


 だから、そこで更に他の村や街との差異を強調するような事を言わないの。

 とは言え、放っておけない話も織り交ぜているので、無視できないか。


「港街の方での効果を確認できたら、考えてはいるわ」


 ポーニャの実家であるフリムガム伯爵家の領地は、伯爵家に相応しいと言えるくらいに広く、領地を分断するかの様な大きな川もあって、一見して良い土地に思える領地。

 でも実際には領地の大半が険しい岩山で、石材産業で領地の運営が成り立っていると言って良い、

 そのため、食料を担う農業に使える土地はそれほど多くはない。

 おまけにその農地も痩せた土地が多いから、不作だと他所から食料を買わないといけない程。

 今は、領地を別ける大きな川に橋が出来たため、人や商人の行き来がしやすくなったので運送費が嵩まなくなったし、領地内の経済も上がってきている。

 更に、石材をある程度掘り終えた岩山を、私が残った石を石材として引き取る名目で魔法で平らにしたため、年数を掛ければ、そこを耕作地として開拓出来ると言う明るい未来が見えている状態。


 とは言え、痩せた土地である事には変わりはないのよね。

 ポーニャ自身、そう言った領内の事情を子供の頃から知っていたからこそ、【土】属性専門の魔導士として、領内の食料問題を解決しようと頑張って来ていた訳だもの。

 そのポーニャが私の家臣になったのは、その過程の中での解決策の一つでしかない。

 実際、用意されたポーニャの婚約者が、まともな性癖の持ち主だったら、ポーニャはひと回り以上も歳の離れた相手の下に嫁ぐつもりだったみたいだから、ポーニャの故郷を想い悩む気持ちは分かる。

 私だって、なんだかんだ言って、実家に色々と技術移譲したり、便宜を図って貰ったりしているもの。

 村や港街でやっている土壌改良や、効果的な農業技術を、故郷のためにと思うのは当然でしょうね。


「問題はフリムガム伯爵が、それを望むかよ」

「親の心、子知らずと言いますけど、その逆もまたありますものね」


 幾らポーニャが望んだとしても、他所様の土地である事には変わらないため、勝手な事は出来ない。

 例え話を持って行っても、先方が望んでいなければ、どうしようもない事。

 今までの取引でも、ポーニャが望んだ方は望まなかったものね。

 フリムガム伯爵としては、今は領内の道を整備して人と物の流れを良くする事で、経済の活性化を図り、物価を安定させる事に力を入れたいと言う考え。

 ポーニャの望む領民のための食糧改革はどちらかと言うと後回しで、特産物である石材や石材加工品の運搬が楽になる事で、領としての収入を増やす事で税収を増やせたらと思っているみたいなのよね。


「ただ、後継者であるポーニャのお兄さんの方は、ポーニャ寄りで話の分かる方だから、それほど遠くはないわ。

 あと、五年か十年したら、変わってくるんじゃないかなぁ」


 当主の交代と言うと、よく現当主が亡くなったり寝込んだりして、ようやく当主が交代すると思われがちだけど、実際にはそうとは限らない。

 聖オルミリアナ教の大司教の座が、亡くなって初めて次の大司教が選定される制度だから、貴族とは縁遠い人達だと、猶更に勘違いする人達も多くなっている要因の一つではある。

 けど、少なくともシンフォニア王国では、当主の交代は当主の意思である事が多い。


 理由は簡単で現実的な問題から。

 この世界は天災だけではなく、紛争や魔物の脅威がある世界なので、寝たきりとまではいかなくとも、迅速な判断や指示が出来なくては、有事の際に領民を守れる訳がないし、きちんと後継者を決めて育てておかなければ、いざと言う時にアタフタするだけでなく、誤った判断をしてしまう可能性が高い。

 そのため、ある程度歳を取ったら、当主を後継者に譲り渡して見守りながら、要所要所で助言をすると言うスタイルが主流。


 現場の判断など家臣や配下の者がすれば良い?

 そりゃあ、高位貴族や中位貴族はそれで済むだろうけど、貴族の九割は男爵や子爵と言った下位貴族と、その家族や縁戚。

 そこまで大きな組織など持っていないため、当主自らが現場で動く立場なの。

 前世で言うならば零細企業の社長みたいなものよ。

 ふんぞり返って、椅子に座ってなんていられない訳。

 勿論、中位貴族であるポーニャの実家は、ふんぞり返れる立場ではあるけど、それをするかどうかは別問題で、フリムガム伯爵は早々に当主の座を引き渡す予定みたい。


「ポーニャやジュリとしては歯痒いかもしれないけど、たぶんフリムガム伯爵は、分かっていてやっていると思うわよ。

 食料問題を解決するのは、自分の代ではないとね」

「そう言うものなんですか?」


 何度か言葉を交わしたけど、フリムガム伯爵は本当の意味で娘の事を分かっていない方とは思えなかった。

 分かっていて、自分の信じる道を突き進んでいるのだと思う。

 フリムガム伯爵自身は、街道を整備する事で人の行き来をよくする事で、物価の安定を齎しながらも、次代に向けての下準備をしているのだと思う。

 息子さんの代で、ポーニャを通じて私と結んだ縁を利用して、食料問題を改善させる。

 街道が整備してあれば、私から教わった技術の伝達も容易くなるし、作った食料を腐らせる事なく運搬する事ができるようになるもの。

 どうせすぐに解決できないのであれば、自分の代に拘るよりも次の世代のためにとね。


「私の勝手な想像だけどね。

 でも親なんて、そんなものじゃないかなぁ?」






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