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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第五章 〜新米辺境伯編〜
644/864

644.服飾産業を革命する準備は順調です。





【商会、森の滴、トライワイト王国支店】



「会長、これは?」

「以前に言っていた制服よ」


 魔絹織物の合間に、村の人達に織ってもらった新しい布織物。

 それを、同じく村の服飾師のミリアに頑張って人数分作って貰った物のお披露目。

 うんうん、デニム生地系の意匠は止めて、ベストパンツルックがよく似合う。

 若い子にも、ある程度年齢が入った女性にも似合うように、身体のラインがあまり出ない程度のゆとりを持たせたし、ベストの丈を少し長めにしてあるので、お尻のラインもきちんと隠れるように配慮。

 それでいて、女性らしい華やかさを残した意匠にするには苦労したわ。


「会長、随分と良い生地を使っている様ですが?」


 ゼンター、文句を言うよりも、まずは彼女達の装いを褒める所からじゃないの?

 紳士としてどうかと思うわよ。


「少し値段は上がったけど、ちゃんと安い生地を使っているわよ」

「どこがですっ!

 あの艶や柔らかさ、どう見ても安い生地ではないでしょう!

 そこらの男物より良い生地ではないですかっ!

 この国ではまだ、女性の立場は低いのに、本気で拙いんですっ!

 会長の趣味や自己満足よりも、彼女達の安全を考えてくださいっ!」


 あ〜、五月蝿い、五月蝿い、耳元で怒鳴らなくても聞こえているわよ。

 あと、嘘は言っていないからね。

 収納の魔法から、幾つ家の生地のロールを取り出し、そこに貼ってある紙を指差す。

 もちろん、その紙に記されているのは、この生地の予定卸し売り価格。


「……えっ、この値段って、本気ですか?」

「勿論、本気よ。

 そのために、ゼンターにトライワイト王との取引をして貰った訳だもの」

「いえ、ですが、あんな条件とこれとは」

「関係あるわ、だってあれ等が原材料だもの」


 元々ゼンターに教えて貰った、この地域にある安いだけで、人気のない幾つかの布地。

 でもその原材料の植物の殆どが、トライワイトの王族直轄地で作られている。

 意外と思われるかもしれないけど、王族の治める土地全てが、肥えた裕福な土地と言う訳ではない。

 そう言う土地の多くを所有している反面、誰も治めたがらない寂れた土地も王族の直轄地になっている。

 まぁ、大半は放置されているだけのところが多いのだけど、トライワイト王はこう言う土地で、安い生地の材料を作らせる事で、貧困層に仕事を与えていたみたい。

 その辺りの話を、アーカイブ家の商会のトライワイト王国支店にいるデリット氏から聞いていたので、ゼンターに独占売買契約を持ちかけさせたの。


「ゼンター、工房の方は?」

「王家の主導で建てさせた物を、我が商会が買い取る形で建てて下さっています」

「そう、そこでこの布を織らせます。

 専用の織機を幾つか練習用に持っては来たけど、更に数を用意させている最中だから、もっと人を雇いなさい。

 衣食住を保証し、男性に怯える心配がないと言えば、この国なら幾らでも働き手が集まるはずよ」


 少なくとも百人や二百人は軽く集まるはず。

 勿論、布を織るだけではない。

 その先をやるからこそ、意味と価値があるもの。


「エルヴィス様、後の説明はお願いしても宜しいでしょうか?」

「ああ、任された」


 ビジネスパートナーとして、アーカイブ家の商会と手を組んだ事をゼンターに説明。

 私は案を提供しただけなので、事業の全容としてはエルヴィス様の方が詳しいし、その道の専門家。

 いつもの丸投げです。

 三日後に、お迎えに上がるとだけ伝えて、私とジュリはとっとと撤収。

 これでも意外に忙しいんですよ。

 おっと、買い物リストを渡すのを忘れていた。


「と言う訳で、それを買っておいてね〜」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 商会、森の滴、トライワイト王国視支店長。

【ゼンター・セレザール】視点:



「ふぅ〜、良い仕事をした後の酒は美味い」

「ははは……、うちの会長がご迷惑をお掛けしております」


 当主争いから身を引いたとは言え、あのアーカイブ公爵家の嫡子である目の前の人間を前に、どうにも緊張する。

 気楽に態度も言葉を崩してくれて構わないと言われても、相手の言葉を無視したとして不機嫌にならない程度に、少し崩す程度しかできない。


「私は私で、楽しんでいるから構わない。

 いや、正直に言えば、最初はかなり彼女に怯えて、みっともなく錯乱したが。

 まぁ、君程の苦労はしてはいないさ。

 法衣の、しかも急拵えの男爵でしかない君が、一国の王を相手に取引を持ちかけるだなんて、生きた心地がしなかっただろう?」


 ええ、まぁ、とエルヴィス氏の問い掛けに、口にはせずに心の中で答える。

 会長にやれと言われた以上やるしかなかったとは言え、本気で心臓に悪かった。

 だとしても、エルヴィス氏のあの笑みと、気遣う様な言葉。

 やはり、私の事など調べ済みと言う訳か。

 元々、当主を引き継ぐ予定がなかったため、そう言う教育を受けていなかったし、そうでなくとも、他国の王に取引を持ち掛けるなど、当たり前の事だが普通はあり得ない。

 通常は何らかの伝手を幾つも伝って、結果的に取引をする物であって、幾らこの国が先の紛争の件で会長に低姿勢だとしても、爵位持ちとは言え商会の支店長でしかない私が直接謁見を許され、直答で取引など誰が想像できると言うのか。

 だいたい爵位とは言っても他国で、しかも法衣の男爵など、王族からしたら平民とさして変わらない相手でしかない。


「それはともかく、こうも短期間に此処まで事業構想を作り上げるなど、本当に会長にはいつも驚かされます。

 この果実酒(ワイン)とて、間違いなくトライワイト王に献上すれば喜ばれるでしょうね」

「これで、まだ未完成と言うのだからな」


 会長がお土産だと、果実を原材料にした幾種類ものワインは、これまで味わってきたどの果実ワインよりも美味い。

 惜しむのは、素性の良さを強調するためなのか、女性や子供向けの甘口の物が目立つが、それこそこれからなのだろう。


「それで今回の提携、アーカイブ家としては何処までお考えであられるのですか?」

「まだ踏み出したばかりだ。

 長い目で育てるべき物であって、今はどうこう言える段階ではなかろう」


 そうでしょうね、確かに事業としてはそうだと言える。

 だけど、商売に関わっているの者ならば、これだけの品質の物を低価格で供給し続けれると言うのであれば失敗はないし、その先を見るのは当然の事。

 だが、私が心配しているのはそんな事ではない。


「他国の支店を任されるだけの才はある様だが、王族や貴族を相手にするのであれば、もう少し勉強をした方が良い。

 顔は作れてはいるが、目が何を言いたいか隠し切れていない所がある。

 後、会話の間を取る事と、言葉をもう少し選んだ方が良いだろう。

 余裕をもっと感じさせる事が大切だ。

 そうでなければ、足元を見られるぞ」


 ぐっ、トライワイト王と似た様な事を、エルヴィス氏からも忠告される。

 会長の下にいるのであれば、もっと自分を磨けと。


「安心しろ。

 この程度の事業を奪う事で得られる利よりも、彼女を敵に回す方が厄介だ。

 彼女の家を育て守れ、と言うのは親父から厳命されているし、私自身も彼女を利用して、私は私の夢を追う事で、彼女への手助けの代価とさせてもらう。

 商人は利益を求める事も大切だが、義理と信頼出来る人間と言うのは、それ以上に得難い大切な財産だ。

 それだけに裏切り者には、それ以上の報いを受けさせるがな」


 エルヴィス氏の最後の言葉が、脳裏に重戦車(チャリオット)の二つ名を思い浮かばさせられ、背筋に冷たいものが流れるのが表情に出ない様に必死に隠し通す。

 つい先ほど忠告されたばかりで、その様な失態を見せれば、間違いなく目の前の男は、私への評価を容赦なく下げるが、問題はそんな事ではない。

 商売をしていれば、騙される事もあれば、裏切られる事もあるのは当然。

 騙す奴が悪いと言うのは、単なる甘えでしかない。

 騙される方が悪いし、一々気にしていては商売などしていられない。

 その騙された相手と普通に取引する事など当然の様にあるし、利害が一致するならばば騙された相手であろうと手を組む事が出来なければ、商会など大きくは出来ない。

 ただ、世の中には限度と言う物があるし、やってはいけないと言う物がある。

 無論、法律や道徳なんて物ではない。

 相手にとって、侵してはならない領域と言う物は、確かに存在する。

 特定の事業、家族、恋人、繋がり、土地、人によって様々だが、それを見誤って、土足で踏み躙ればどうなるかなど、決まっている。


 重戦車(チャリオット)エルヴィス。


 まさにその二つ名の通り、目の前の男はそう言う輩を、ありとあらゆる手段で持って跡形もなく轢き潰してきた。

 間違いなく、私に対する警告だろう。

 見誤るなと、そして己が主人を裏切るなと。

 その時は、なんだかんだと甘い所がある会長に変わり、アーカイブ家が動くと。

 だが、そんな心配は不要だ。

 なにせ会長を裏切る気など、もはや欠片も我が身の内には無いからな。


「会長に力をお貸しいただけると言う、お言葉を今は信じさせて戴きます」

「それで良い。

 警戒心を残しながらも、相手を信じ受け入れる事はどの世界でも大切な事だ」


 どうやら、この答えで正解のようだ。

 まったく、会長もよくこんな怖い人を相手に、平気で話せるものだと感心すると共に、そんな事でも考えて、気を紛らわせていないと落ち着かない自分に、苦笑が浮かぶ。


「では、事業の成功を祈って、今一度祝杯をあげよう」

「ならば、会長とこの国の女性の未来に」

「世界中の女性の未来にだ。

 乾杯っ!」


 この時のエルヴィス氏の言葉の意味を、私は大袈裟なと思ってはいたが。

 それが誇張でも何でもない事に気がつかされたのは、数年後だった。

 まさかユゥーリィ様の商会が、世界中と取引する様になるとは……。





あぶなかった……。665話の後が667話と話数が一つ飛んで、760まで全部一づつズレているのに気がついた。

間違って消した訳では無くて安心しましたけど、心臓に悪い(滝汗


それにしても【666】話で抜けるだなんて、まさに魔の数字ですね(w

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