表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第五章 〜新米辺境伯編〜
609/864

609.こういう時のために、無駄遣いせずに貯めておくものよ。





「大凡の概算で、白金貨(おく)で二千四百枚になります」


 覚悟はしていたけど、現実を見せられると眩暈がする。

 今回の移民支援計画で、七千人以上にもなる元不労労働者達、彼ら一人一人が今後生活できるようにし、その後の自立出来るように支えるのに掛かる金額の総合金額。

 本来、その殆どが路上生活者だった彼らを生かすだけなら、こんなにお金は掛からない。

 彼らに生活基盤を与え、食べて行ける職を与え、教育を施し、将来の港街を支える大切な領民として、彼らに投資する金額だと言える。

 食糧や物資、住まわす家に、家具や道具、御協力戴いている家の礼金や人件費と、差額による赤字分など。

 実際、そこに私が耕して使える状態にした田畑や水路、それにインフラ整備代を含めれば、更に値段が跳ね上がるけど、そこは考えない。

 大抵は私の労働代(タダ働き)で終わる事だからね。


「それと、非常事態宣言により、港を封鎖した事も含めての経済損失が……」


 うん、聞くんじゃなかった。

 でも宣言をした以上、当初に見込んでいた税収分の差額は補填はするわよ。

 領主として当然よ。無茶苦茶に泣ける話だけどねっ!

 でも、悔いはない、また頑張って稼げば良いだけだもの。

 それに、巡り巡って最終的には、税収としてそれ以上の金額になって帰ってくる予定だもん。……たぶん。


「……これまでも大概に使ってきたけど、やはり人数が増えて一気に来ると、大きく感じるわね」

「正直、シンフェリア様でなければ、無理だったかと」

「普通の伯爵家程度であれば、財政が大きく傾いていたかと思います」


 うーん、でも古き血筋とかは、平気で出せそうな気がする。

 領地が広いし、商売も上手くいっているからね。

 古き血筋は、元々シンフォニア王国に併合される前は王家だった一族。

 自ら進んで王位をシンフォニア王国に捧げた事で、あらゆる特権が与えられた一族だし、特権を得るだけの義務と責務を果たしている一族でもあるので、資金は他の貴族達よりも豊富。

 でも逆に義務と責務を忘れたい古き血筋は、その歴史を閉じる事になってしまっている。

 オルミリアナ侯爵家のようにね。


「確かに私の実家とかなら、間違いなく財政破綻をして潰れていたわね」


 貧乏だけど、歴史だけは何故か無駄にある私の実家は、今は嘗てない勢いを見せているけど、所詮は子爵家になったばかりの元男爵家。

 稼ぎ頭の主要産業も特定の技術特化型なので、産業の幅としては狭く、ある程度広まってしまえば、頭打ちになって下降する事は目に見えている。

 実家にいる時にも、お父様とお兄様に釘を刺したけど、最初の二十年は保証されても、その後の二十年は追いかけられる側になるため、生き残れるかどうかは、それまでにどれだけ努力し研鑽し続けて力を蓄えてきたかしだいで、その後はそれまでに築いた風格に合う品質と技術を維持し、更なる発展をし続ける事が出来るかだとね。

 結局、男爵家や子爵家としては、成功した部類にはなるけど、それ止まり。

 幾つもの大貴族のお力添えを戴いて商売をしている私の商会とは、規模も売り上げも比べ物にはならない。

 ゼルに任せてある商会も、昔は本当に小さかったんだけどね。

 私が何かを作る度に、あれよあれよと、大きくなってしまった。


「それでも我が家の財政が傾く事はないから安心して下さい。

 寧ろ、まだまだお金が掛かるだろうと言う事は覚悟しています。

 確かに、今回の国の貧民政策を受け入れるために使われるお金は、私にとって少なくない金額である事には変わりませんが、私個人の収入で賄えれる程度のもの。

 シンフェリア家の財産の本体には、まだ一銅貨も手を付けていませんので、これからも本当に必要であるのであれば、更なる出資も覚悟しております」


 贅沢しているつもりはないけど、少し財布の紐を閉めた方が良いかな?

 でも、セバスが怒るんだよね。もっと使いましょうって。

 辺境伯になって、ドレスを作る枚数も装飾品の数も増えたと言うのに、それでは足りないと言うんだもの。

 なんで中身が男の私が、女物のドレスや装飾品を買い漁らないのかと、文句を言いたいのをぐっと我慢している状態なのによ。

 あれ? どうしたの皆んな急に黙り込んで?

 ……シンフェリア家の財政?

 ええ、本気で大丈夫だから安心して、こう言う事で無意味なハッタリを言う気はないもの。

 いきなり来月のお給金は払えないからなんて事は、まずないから。

 ……違うと。個人収益の事だと

 詳しい事は言えないけど、魔導具師や魔導士とて儲けているからね。

 実際、教会との取引だけで、今回の移民支援金の殆どは年間で稼いでいる。

 いやぁ流石は世界最大と言うか、一強状態の教会だけあるわ。

 ある所にはあるものよね。

 いえいえ、悪どくないですから、教会はそれ以上に利益を出せると見ているから、高い魔導具をどんどん買っている訳ですからね。

 しかもお値段を決めたのは私ではなく、魔導具師ギルド。

 私に責任はないっ!


「人が増えた分、これから治安も乱れ始めてくるでしょうから、領軍と連絡を密にして事に当たって下さい。

 最初にガツンとやっておく事が大切よ」


 ともあれ、移民として来たのが不労労働者と言っても、元々は仕事に溢れた人達が大半なので、環境と仕事を与えてあげれば、真面目に働く人達ばかり。

 でも、中には幾ら環境を整え、更生する機会があろうとも、楽に刹那的に生きる事を選ぶ人間はいる。


「そうですね、今までも既に大半の人間は改心していますが、その手の人間がいない訳ではないですな」

「普通はなるべく怪我をさせないように捕まえるのですが、此処では殺さなければ、問答無用ですからね」

「大抵の人間は怯え上がりますよ」


 数は少ないけど、今までこの町で犯罪が行われなかった訳ではなく、その結果を知っている者達が、その時の光景を想像、または思い出しては顔を青くしているけど、そこまで酷い事はさせていないわよ。

 あと殺さなければ問答無用って、誤解を与えるからその表現は止めてよね。

 周りを巻き込む怖れがあるなら、殺したり大怪我をさせない程度に、強引な手段に出て構わないと言ってあるだけで、相手がさして抵抗をしないのであれば、丁重にとも言ってあるわよ。

 勿論、リンチなんてものは禁止。

 小さな傷を幾つも与えても、屈辱と共に小さな反抗心を幾つも植え付けるだけだもの。

 もちろん、当身一発で相手を気絶させれるのならばそれが一番だけど、暴れる相手にはそこまで気を遣ってはいられない。

 此方側の安全が第一優先。


 だからやるからには一点豪華主義で、犯罪は割に合わないと植え付ける。

 腕を折るっ!

 足をへし折るっ!

 指の骨を全て甲ごと踏み砕くっ!

 中には、心得のある人がいて、手足の関節を全て外して、地面に寝転がせて踠く事もすらも許さず、恐怖を与える職人もいたのは幸いだったわ。

 まぁ想像したら、本気で痛そうで嫌なんだけど、ちゃんとポーションで癒してあげるまでがワンセット。

 怪我で明日から働けません、なんて甘えは許さない。

 当然ポーションの代金は問題を起こした相手持ち。

 犯罪者達には、手間を掛けさせるなと言いたいし、手間賃を更に請求したいけど、そこは我慢している。

 あまり追い詰めても碌な事にならないし、犯罪の捏造の温床になり兼ねないからね。

 犯罪者用の収容所なんて、金と人の無駄を掛ける余裕はまだこの街にはないから、苦渋の選択なんだけど、今の所は上手くいっている様子。

 再犯率は、殆ど無い状態だもの。


「骨を折られた時の、声にならない表情」

「その後にくる激痛に、周囲に響き渡る苦痛の悲鳴」

「痛みに、のたうち回る光景など」

「それでも、まだ歯向かう意思を見せれば、ポーションで回復させて、歯向かう意思がなくなるまで」

「「「「公開処刑も同じかと」」」」


 だ〜か〜ら〜っ、幾らなんでも、本気で公開処刑扱いは止めて欲しい。

 あれって、半分娯楽と化している悪趣味な催しよ。

 そんな物との同列視は、やりたくもない事を街を守るためにと、仕方なくやっている衛兵や領軍の人達に失礼ってもの。

 なので、その辺りは、きちんと注意しておく。

 勿論、私も暴力沙汰は嫌いよ、痛いのも痛くするのも苦手だし、貴族の世界でも暴力沙汰は忌避すべき事とされているけど、時と場合による。

 民を守るためや家の誇りのためには、時には剣を取る。

 力を振るうからには徹底的に、そして歯向かう気力を削ぎ落とす。

 それが本来の貴族の考え方。

 力がある故に、その力を安易に使用しないために、普段から自制心を要求されるの。

 こらこら私が言うなとか言うな。

 犯罪に手を染めるだなんて、民の平穏に対して暴力を振るったのは、相手が先なんだからね。


「最初の時にも言いましたが、今のやり方は、今だからこそ出来る事です。

 人が増え、街と共に育ってきたら、またやり方は変わってくるわ」


 今は、まだまだ不足しているものばかりで、仕事など幾らでもあるけど、十年、二十年も経てば、建物も物も揃うようになり、仕事が減ってくる。

 でもその時には、それなりに組織や体制も出来上がってくるから、あらゆる事で違うやり方が求められているはず。

 今この港街は戦時下と同じ。

 出来たばかりの港街は人も物も不足し、次々と状況が変わり行く。

 でも、作らなければならない決まりは多すぎるし、それを周知徹底させるだけでも大変。

 平時と戦時で、同じやり方を求める方がおかしいの。

 これからのやり方は、これから時間を掛けて築き上げてゆくしかない。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【家具工房】にて。




「来る前は、散々驚かされたけど、結構、平和な街だよね。

 まぁちょっと疫病にはビビったけど」

「そうですよね、王都より治安が良いかもしれませんわね、

 物も想像していた以上に手に入りますし」

「オメエらな、言っておくが、この街が異常なだけだからな」


 やっとこさ顔を出す事が出来た、家具職人のサラの店に顔を出したら、丁度そんな話をしている所だった。

 木工職人のネルミさんもいる所を見ると、同期の移住組として仲が良くなったのかもしれない。

 あっ、でも元々知り合いだから、そう言う訳ではないか。

 私がそう言う場面に、偶々出会わなかっただけでね。

 どちらにしろ、丁度良いわ。


「皆んな、お久しぶり〜。

 ごめんね、忙しくて顔を出せなかったのだけど、病気の方は大丈夫だった?」


 なにやら、二人してグラードさんに嗜められていたみたいだけど、そこは触れないようにしておく。

 触れたら、お説教が続きそうだもんね。


「お爺ちゃんが鬱陶しかった」

「お・め・え・なっ!

 俺がどれだけ心配したと思っているんだっ!」

「また、鬱陶しいのが始まったよ〜」


 どうやらサラは例の病気に掛かって、だいぶ熱に魘されたみたい。

 十日熱は、発症したら四割は死亡するとされる、物凄く怖い病気だもんね。

 解熱剤や、新薬である抗生剤などを大量に常備し、非常事態という事で無料開放したからこそ、死者をあまり出さずに済んだだけに過ぎない。

 だけど普通の街で感染が広がったら、死者を多く出す事になる、本当に怖い病気なの。

 年齢を深く積み重ねた分、そういう事を経験と共に知識として知っていて、孫娘が可愛いグラードさんからしたら、気が気じゃなかったと思う。

 因みにグラードさんは大丈夫だったのかと尋ねてみると。


「ふん、俺はそんな軟弱じゃねぇ、いえ、ありませんので」


 別に私が貴族で領主だからって、言い直さなくても良いのにと思いつつも、案の定、根性論バリバリな返事が返ってきた。

 まぁそこは、昔気質のグラードさんだしね。

 ネルミさんの方も、幸い病気には罹らなかったみたいなので、良かったと言える。

 三人に一人は病気に罹った計算だから、その通りの例が目の前にいる感じかな。


「はい、遅ればせながらお見舞い品ね」

「うわぁ、何これ何これ♪」

「か、可愛い〜〜〜❤︎」

「ほう、これは、なかなか」


 お見舞い品と言えば、お花やお菓子。

 でも、生憎と此処の人達は花より団子。

 当たり前の物より、変わった物と言う、変わり者の技術者集団。

 なので、お見舞い品も少し変わって、お花そのものをお菓子にしました。

 しかもお見舞いの品には不向きなスミレの植木鉢。

 勿論、植木鉢も含めてお菓子。

 花びらはは本物の花の砂糖漬け。

 葉や茎は飴細工。

 鉢は固焼きクッキーで、土の代わりに金平糖を敷き詰め。

 その周囲をマジパンで作った、可愛らしい動物達が戯れ合っているのよね。

 きっと、あっと言う間に消えるでしょう。


「はい、ネルミさんの分」

「わぁ〜、ありがとうございます。

 こちらも違う花で、違う子達がいる〜〜〜❤︎。

 いや〜ん、どの子も可愛い〜〜〜♪」


 うん、サラやネルミさんの反応が可愛いよね。

 この悶えた笑顔だけで、作って持ってきた甲斐があったと言うもの。

 眼福です、ご馳走様です。

 いえいえ、此方の事ですので、お気になさらずに。

 お友達ですから、こう言う時くらいは御見舞いの品を贈らせてください。

 その後、三十分ほどお話しして撤収。

 他にも数件、知り合いの所を回る予定だから、あまりノンビリしていられないのが残念。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ