498.とある王女の物語、お兄様の想い人は完璧? それともヘンテコ?
今度こそ駄目かもと思っていたシンフェリア様の聖女認定の話は、意外な所から否定された。
『ユゥーリィが聖女?
ありえんな。彼奴、そういう面倒そうな話は絶対に拒絶するぞ』
まさかのお兄様からの否定の言葉。
シンフェリア様を想うお兄様からしたら、今回の話は願ったりの話のはずなのに。
お兄様曰く、シンフェリア様は大変な面倒臭がり屋なのだとか。
ぇ……と、お料理が好きなのですよね?
本出したり、自ら毎日料理を作るくらいに。
それに、髪型やお化粧の本も出すくらい、しっかりした方ですよね?
刺繍もアーカイブ家のリューセリア嬢から得意と聞いた事がありますし、そんな方が面倒臭がり?
「ヴィーの奴も言っていたが、面倒臭がりだから、魔法で全部やってしまうらしい」
「すみません、お兄様、言っている意味が分からないんですが」
「そうだよな、俺も最初は意味が分からなかった。
色々と気がつくし、騎士団の連中に手料理を差し入れたり、甲斐甲斐しい所があるしな。
たえず何かしているほど働き者で忙しいはずなのに、貧民街の子供を拾って、教育を施し居場所を与えるなど、女神と思えるほど慈悲深い優しさを持っている。
他にも気が強いところを見せるかと思えば、ふとした事で守ってやりたい様な、か弱さを見せたり。
その癖して、社交会では堂々と、素知らぬ顔で悪意を無視している。
あいつは、人から聞いた自分ではなく、俺の目で見た自分を見ろと言ったが、もう訳が分からん」
何時も思うのだけど、シンフェリ様の事を話している時のお兄様は、本当に楽しそう。
今も、意味が不明だと喚きながらも、本当に楽しそうに見える。
ああ、お兄様は本当に、シンフェリア様の事が好きなのだと思い知らされた。
だからこそ、お兄様はシンフェリア様が望まないだろう、聖女の話はあり得ないのだと言い切ったのだと思う。
自分の想いよりも、シンフェリア様の事を想って。
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落ち込みながらも、それでもそれをお兄様にだけは見せまいと、月日を過ごしたある日。
お兄様が酷く落ち込まれた顔をされて訪ねてきた。
気持ちの切り替えのために、愚痴を言うが申し訳ないと言ってから始まったお話は、本当に酷い話でした。
よにもよって、私以外の女性に告白しようとした話。
幾ら敬愛するお兄様でも、酷すぎる。
でも、お兄様からしたら、別の意味で酷い話でもありました。
お兄様がシンフェリア様のために、選びに選び抜いた宝石を使った装飾品を用意し、それを贈ったと言う話も人伝で聞いていた。
お兄様は、シンフェリア様に与えられた眼のお礼と言う形を取ってはいたけど、そうではない事は明らか。
きっとお兄様はシンフェリア様に告白する。
そう思っていたのだけど、現実には想いを告げる前に挫折。
「はははっ、笑うだろ。
だけど、言われてみれば考えるまでもない事だったんだよな。
よくよく思い起こせば、あいつが俺に接する態度は、姉上達と近い気がする。
そもそも、最初の出会いが最悪だしな。
ああ、そう言えば、その後も、更にその後も最悪だったか」
シンフェリア様は男爵家の次女。
ですが、その家にシンフェリア様の籍は、もうない。
とある伯爵家との結婚が嫌で家を飛び出したのが、その理由。
相手がどうこうではなく、男性そのものが駄目なのだと。
お兄様は、出会いどうこう以前に、最初から一欠片も芽がない相手を好きになり、その想いを口にする前に、シンフェリア様からその話をされたのだと。
しかも、お兄様の想いを知っての事ではなく、只の世間話として。
……うん、正直お兄様が哀れに思える。
「でも、不思議なんだよな。
ここまで悉く空振りさせられても、少しも彼女を嫌いになれないなんてな」
前言撤回。
お兄様には、少しぐらいどん底まで落ち込んで欲しい。
シンフェリア様を諦め切れるほど、徹底的にっ。
だいたい男性に興味がないと言うシンフェリア様からしたら、只の付き纏いですよ。
側から見たら、只の変質者です。
私、お兄様にはそんな風にはなって貰いたくありません。
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王家主催の舞踏会。
年々王族としての責務の量が増え、少しばかし疲れて、王族専用の談話席で疲れた頭を休ませようと、ソファーに身を任せる。
この場所なら中二階になっているのもあり、お客様からの視線を避ける事が出来るため、安心して踊り疲れた身体も休めさせれる事ができる。
忙しく長い夜を明かすためには、少しばかしの休息は必要。
そう気を緩めたのが、いけなかったのかもしれない。
ついウトウトしてしまい、侍女達以外には誰もいなかったはずなのに、気がつけばよく知った声が聞こえる。
『アレが男だったら、フェニを娶らせたのだがな』
『また無茶な事を』
『何を言うか。アレがもし男だったら、なんら問題ないではないか。
歳も合うしな』
『陛下、歳が合おうとも、あの娘は女です』
『アレを使えば子は成せるぞ』
『陛下』
『冗談に決まっていよう。
ジュシの息子も、ウチの馬鹿息子も芽がなさそうだしな』
『ついでに言わせて戴くならば、ラード王子も無駄でしょうな。
言っておきますが、望まぬ結婚はあの娘相手には悪手ですぞ。
もしもそのような事をした日には、あの娘はあの地ごと、他国に渡るでしょう』
『分かっているさ。
まさか上陸不可能と言われていた海沿いに、港を作ると言い出すだなんて、思いもしなかったよ。
だがジル、言っておくが、それならまだマシだよ。
人質を取ったりした場合、最悪、怒り狂ってこの王都を火の海にする可能性がある。
アレにはそれだけの力があるし、一見して温厚だがアレは激情家だ。
一度、その心に火が着いたら、誰にも止められぬ類のな』
『そうですな、せめてもの救いが、余程の事がない限り火が着かぬ事でしょうが、何方にしろ敵に回すよりも、どんな手を用いようとも味方に留めておくべきでしょう。
ですが、どのようになさるおつもりで?』
『頭が痛い話だよ。
まさか王族の、しかも王太子の妃にと言ってくるとは、此方も予想外だったよ。
流石は隣国だけあって情報が早いと言うか、思い切りが良いと言うか。
公爵や侯爵レベルの話なら、幾らでも断れるのだがな』
え? シンフェリア様が他国の妃に?
でも、シンフェリア様の価値を考えたら、分からない話でもない。
国にとっては金の卵を産む鶏。
しかも、聖オルミリアナ教を通して、各国へ圧力を掛けらる最強の手駒でもある。
ですが、他国の貴族との婚姻は、政治的配慮の下ではよくある話。
二人いるお姉様達も、国のために他国へと嫁いだ訳ですから。
そして、他国の王族からの申し出で、シンフェリア様が王族ではなく只の子爵となれば、流石のお父様も断りにくい話のはず。
おそらく、今までもシンフェリア様が女性である事を理由に、似たような話があったはず。
かと言って、シンフェリア様を他国に渡すのは、シンフォニア王国としては認められない。
シンフェリア様はあらゆる意味で、力そのものですから。
『うーん、そうだね。とりあえずは、彼女の病気を理由にはするさ。
生まれつき病弱な彼女は、血を残せる可能性は薄いってね。
実態はともかく、教会の正式な診察の結果だし、彼女が病弱だった事は、少し調べれば分かる事だ。
あぁ、ついでにラードを診ていた時の彼女の様子を相手に流すのも良いね。
あの時の彼女は、いつ倒れてもおかしくなかったのは、多くの人間に目撃されている。
その方が信憑性が出るだろうし、なにより、何一つ嘘は言っていない。
血を残す事の出来ない娘を、親善結婚の相手に出来ないとね』
『普通の令嬢であれば、そのような話を勝手に外に出されれば、自ら命を断ちかねない話ですぞ』
『なに、似たような話は既に亡きオルミリアナの奴が流している。
ただ、何故か再び噂になって僕の耳に入り、その真偽を確かめた。
それだけの事だよ。
だいたい、あの子はそう言うの気にしないさ』
お父様のあまりもの言い様に、シンフェリア様が気の毒に思えてきました。
幾ら断るためだからと言っても、流石にそのような事を勝手に多くの方に広められたら、どれだけシンフェリア様が傷つく事やら。
『はぁ……、仕方ありませんな』
『苦労を掛けるね。
それで、芽が完全になくなったアレをどうするかだね。
良い相手はいたかい?』
『望めば幾らでもありましょう。
ただ、条件が合わないと言うだけで』
『金色の目を持つ王家の血だからね。
他国に出さず受け入れず、此処十代程は王家の血が入っておらず、馬鹿な事を考えない家で、更に力を与えずに済み、尚且つ多くの者が納得いく相手と言っただけだが』
『その条件に合う者がおりましたら、あの歳まで婚約者がいない訳がありますまい。
数年前のあの騒動で、王家の血を入れる事の怖さを知ったばかりですぞ』
『となると、やはりフェニと、と言う事になるか』
『あまり血が濃くなる事は誉められませんがな』
『ここ数代にはいないよ。
何より……、フェニはその方が良いのだろ?
寝たフリをして、大人の話を盗み聞きするとは、何時からそんな悪い子になったのだい』
ビクッ!
不意に掛けられた言葉と、話されている内容に、胸の鼓動が跳ね上がる。
ドキドキと、聞こえる自らの内から発する音に、顔が熱くなる。
そんな私を揶揄うかの様に、お父様は私の髪を優しく掴みながら、耳元で囁いて来られるんです。
『それでもサリュードの心を掴めるかは、お前次第だよ。
形だけの夫婦で良いのなら、サリュードを可愛いお前には任せはしない。
恋を知ろうともしない前の臆病な姉達同様、国の駒になってもらうだけの事さ』
……お父様、意地悪です。




