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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第四章 〜新米領主編〜
498/1055

498.とある王女の物語、お兄様の想い人は完璧? それともヘンテコ?





 今度こそ駄目かもと思っていたシンフェリア様の聖女認定の話は、意外な所から否定された。


『ユゥーリィが聖女?

 ありえんな。彼奴、そういう面倒そうな話は絶対に拒絶するぞ』


 まさかのお兄様からの否定の言葉。

 シンフェリア様を想うお兄様からしたら、今回の話は願ったりの話のはずなのに。

 お兄様曰く、シンフェリア様は大変な面倒臭がり屋なのだとか。

 ぇ……と、お料理が好きなのですよね?

 本出したり、自ら毎日料理を作るくらいに。

 それに、髪型やお化粧の本も出すくらい、しっかりした方ですよね?

 刺繍もアーカイブ家のリューセリア嬢から得意と聞いた事がありますし、そんな方が面倒臭がり?


「ヴィーの奴も言っていたが、面倒臭がりだから、魔法で全部やってしまうらしい」

「すみません、お兄様、言っている意味が分からないんですが」

「そうだよな、俺も最初は意味が分からなかった。

 色々と気がつくし、騎士団の連中に手料理を差し入れたり、甲斐甲斐しい所があるしな。

 たえず何かしているほど働き者で忙しいはずなのに、貧民街の子供を拾って、教育を施し居場所を与えるなど、女神と思えるほど慈悲深い優しさを持っている。

 他にも気が強いところを見せるかと思えば、ふとした事で守ってやりたい様な、か弱さを見せたり。

 その癖して、社交会では堂々と、素知らぬ顔で悪意を無視している。

 あいつは、人から聞いた自分ではなく、俺の目で見た(・・)自分を見ろと言ったが、もう訳が分からん」


 何時も思うのだけど、シンフェリ様の事を話している時のお兄様は、本当に楽しそう。

 今も、意味が不明だと喚きながらも、本当に楽しそうに見える。

 ああ、お兄様は本当に、シンフェリア様の事が好きなのだと思い知らされた。

 だからこそ、お兄様はシンフェリア様が望まないだろう、聖女の話はあり得ないのだと言い切ったのだと思う。

 自分の想いよりも、シンフェリア様の事を想って。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 落ち込みながらも、それでもそれをお兄様にだけは見せまいと、月日を過ごしたある日。

 お兄様が酷く落ち込まれた顔をされて訪ねてきた。

 気持ちの切り替えのために、愚痴を言うが申し訳ないと言ってから始まったお話は、本当に酷い話でした。

 よにもよって、私以外の女性に告白しようとした話。

 幾ら敬愛するお兄様でも、酷すぎる。


 でも、お兄様からしたら、別の意味で酷い話でもありました。

 お兄様がシンフェリア様のために、選びに選び抜いた宝石を使った装飾品を用意し、それを贈ったと言う話も人伝で聞いていた。

 お兄様は、シンフェリア様に与えられた()のお礼と言う形を取ってはいたけど、そうではない事は明らか。

 きっとお兄様はシンフェリア様に告白する。

 そう思っていたのだけど、現実には想いを告げる前に挫折。


「はははっ、笑うだろ。

 だけど、言われてみれば考えるまでもない事だったんだよな。

 よくよく思い起こせば、あいつが俺に接する態度は、姉上達と近い気がする。

 そもそも、最初の出会いが最悪だしな。

 ああ、そう言えば、その後も、更にその後も最悪だったか」


 シンフェリア様は男爵家の次女。

 ですが、その家にシンフェリア様の籍は、もうない。

 とある伯爵家との結婚が嫌で家を飛び出したのが、その理由。

 相手がどうこうではなく、男性そのものが駄目なのだと。

 お兄様は、出会いどうこう以前に、最初から一欠片も芽がない相手を好きになり、その想いを口にする前に、シンフェリア様からその話をされたのだと。

 しかも、お兄様の想いを知っての事ではなく、只の世間話として。

 ……うん、正直お兄様が哀れに思える。


「でも、不思議なんだよな。

 ここまで悉く空振りさせられても、少しも彼女を嫌いになれないなんてな」


 前言撤回。

 お兄様には、少しぐらいどん底まで落ち込んで欲しい。

 シンフェリア様を諦め切れるほど、徹底的にっ。

 だいたい男性に興味がないと言うシンフェリア様からしたら、只の付き纏いですよ。

 側から見たら、只の変質者です。

 私、お兄様にはそんな風にはなって貰いたくありません。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 王家主催の舞踏会。

 年々王族としての責務の量が増え、少しばかし疲れて、王族専用の談話席で疲れた頭を休ませようと、ソファーに身を任せる。

 この場所なら中二階になっているのもあり、お客様からの視線を避ける事が出来るため、安心して踊り疲れた身体も休めさせれる事ができる。

 忙しく長い夜を明かすためには、少しばかしの休息は必要。

 そう気を緩めたのが、いけなかったのかもしれない。

 ついウトウトしてしまい、侍女達以外には誰もいなかったはずなのに、気がつけばよく知った声が聞こえる。


『アレが男だったら、フェニを娶らせたのだがな』

『また無茶な事を』

『何を言うか。アレがもし男だったら、なんら問題ないではないか。

 歳も合うしな』

『陛下、歳が合おうとも、あの娘は女です』

『アレを使えば子は成せるぞ』

『陛下』

『冗談に決まっていよう。

 ジュシの息子も、ウチの馬鹿息子も芽がなさそうだしな』

『ついでに言わせて戴くならば、ラード王子も無駄でしょうな。

 言っておきますが、望まぬ結婚はあの娘相手には悪手ですぞ。

 もしもそのような事をした日には、あの娘はあの地(オルディーネ)ごと、他国に渡るでしょう』

『分かっているさ。

 まさか上陸不可能と言われていた海沿いに、港を作ると言い出すだなんて、思いもしなかったよ。

 だがジル、言っておくが、それならまだマシだよ。

 人質を取ったりした場合、最悪、怒り狂ってこの王都を火の海にする可能性がある。

 アレにはそれだけの力があるし、一見して温厚だがアレは激情家だ。

 一度、その心に火が着いたら、誰にも止められぬ類のな』

『そうですな、せめてもの救いが、余程の事がない限り火が着かぬ事でしょうが、何方にしろ敵に回すよりも、どんな手を用いようとも味方に留めておくべきでしょう。

 ですが、どのようになさるおつもりで?』

『頭が痛い話だよ。

 まさか王族の、しかも王太子の妃にと言ってくるとは、此方も予想外だったよ。

 流石は隣国だけあって情報が早いと言うか、思い切りが良いと言うか。

 公爵や侯爵レベルの話なら、幾らでも断れるのだがな』


 え? シンフェリア様が他国の妃に?

 でも、シンフェリア様の価値を考えたら、分からない話でもない。

 国にとっては金の卵を産む鶏。

 しかも、聖オルミリアナ教を通して、各国へ圧力を掛けらる最強の手駒でもある。

 ですが、他国の貴族との婚姻は、政治的配慮の下ではよくある話。

 二人いるお姉様達も、国のために他国へと嫁いだ訳ですから。

 そして、他国の王族からの申し出で、シンフェリア様が王族ではなく只の子爵となれば、流石のお父様も断りにくい話のはず。

 おそらく、今までもシンフェリア様が女性である事を理由に、似たような話があったはず。

 かと言って、シンフェリア様を他国に渡すのは、シンフォニア王国としては認められない。

 シンフェリア様はあらゆる意味で、力そのものですから。


『うーん、そうだね。とりあえずは、彼女の病気を理由にはするさ。

 生まれつき病弱な彼女は、血を残せる可能性は薄いってね。

 実態はともかく、教会の正式な診察の結果だし、彼女が病弱だった事は、少し調べれば分かる事だ。

 あぁ、ついでにラードを診ていた時の彼女の様子を相手に流すのも良いね。

 あの時の彼女は、いつ倒れてもおかしくなかったのは、多くの人間に目撃されている。

 その方が信憑性が出るだろうし、なにより、何一つ嘘は言っていない。

 血を残す事の出来ない娘を、親善結婚の相手に出来ないとね』

『普通の令嬢であれば、そのような話を勝手に外に出されれば、自ら命を断ちかねない話ですぞ』

『なに、似たような話は既に亡きオルミリアナの奴が流している。

 ただ、何故か(・・・)再び噂になって僕の耳に入り、その真偽を確かめた。

 それだけの事だよ。

 だいたい、あの子はそう言うの気にしないさ』


 お父様のあまりもの言い様に、シンフェリア様が気の毒に思えてきました。

 幾ら断るためだからと言っても、流石にそのような事を勝手に多くの方に広められたら、どれだけシンフェリア様が傷つく事やら。


『はぁ……、仕方ありませんな』

『苦労を掛けるね。

 それで、芽が完全になくなったアレをどうするかだね。

 良い相手はいたかい?』

『望めば幾らでもありましょう。

 ただ、条件が合わないと言うだけで』

『金色の目を持つ王家の血だからね。

 他国に出さず受け入れず、此処十代程は王家の血が入っておらず、馬鹿な事を考えない家で、更に力を与えずに済み、尚且つ多くの者が納得いく相手と言っただけだが』

『その条件に合う者がおりましたら、あの歳まで婚約者がいない訳がありますまい。

 数年前のあの騒動で、王家の血を入れる事の怖さを知ったばかりですぞ』

『となると、やはりフェニと、と言う事になるか』

『あまり血が濃くなる事は誉められませんがな』

『ここ数代にはいないよ。

 何より……、フェニはその方が良いのだろ?

 寝たフリをして、大人の話を盗み聞きするとは、何時からそんな悪い子になったのだい』


 ビクッ!


 不意に掛けられた言葉と、話されている内容に、胸の鼓動が跳ね上がる。

 ドキドキと、聞こえる自らの内から発する音に、顔が熱くなる。

 そんな私を揶揄うかの様に、お父様は私の髪を優しく掴みながら、耳元で囁いて来られるんです。


『それでもサリュードの心を掴めるかは、お前次第だよ。

 形だけの夫婦で良いのなら、サリュードを可愛いお前には任せはしない。

 恋を知ろうともしない前の臆病な姉達同様、国の駒になってもらうだけの事さ』


 ……お父様、意地悪です。





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