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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第四章 〜新米領主編〜
497/1054

497.とある王女の物語、えっ、お兄様に想い人が!?




 シンフォニア王国、第三王女。

【フィニシア・フォル・シンフォニア】視点:




『フェニッ、大丈夫かっ』


 私の記憶の中で、一番心の中に強く残っている言葉と光景。

 まだ幼かった私を、まだ成人もしていないお兄様が私を凶刃から庇い、腕から血を流しながらも相手を押しのけ、守りきってくださった時の事は、何年も経った今でも瞼を閉じれば、鮮明に思い浮かべられる。

 あの時の私の無事の姿を見て、安堵の息を吐くお兄様のお顔と息遣いは、少しも色褪せる事なく私の中にあり続けています。

 思い浮かべる度に、早鐘の様に鳴る私の胸の鼓動と暖かくなる心と共に。


 無謀にもヴェルお兄様とバルお兄様が引き起こした謀反。

 ルイお兄様も途中まで関わっていたらしいけど、背後にいる者の存在と真相を知って此方についた事もあって、内々に収める事が出来た幼い日の出来事。

 だけどヴェルお兄様とバルお兄様だけでなく、多くの王族の血が流れたそれは、私の未来をも奪う事になった。

 仕方なかったとは言え、少なくなってしまった王家の血を、これ以上は国外に出す事はできない。

 かと言って、内々に収めたとは言え、ああ言う事が起きたすぐ後で、貴族達に王家の血と言う力を与える事など出来るはずもない。

 だから私の身体に流れる王家の血を使い、増やす事が求められるのは、幼い私にも理解出来ていた。

 それが何を示すのかも。


 だから不謹慎ながらも、私は少しばかし、あの忌まわしい騒動に感謝していた。

 もし、それならば可能性があるからと。

 あっ、でもルイお兄様は嫌っ。

 見た目は格好良いし、優しいし、侍女達の評判も良いんだけど、何となく気持ち悪いのよね。

 女性に対する目が何となくだけど。

 こう、嫌な目つきと言う訳ではなく、何かを羨望する様な目。

 それが男の人が女性を愛でる目とは違う気がして、私はそれがなんとなく嫌やなだけなんだけど。

 だから、ルイお兄様が外交のお役目で、国外を飛び回るため、もう城には住む事はないと聞いて、安堵してしまったのはきっと私は悪い子なんだと思う。

 それでも、私はお兄様達の不幸を喜んでしまう。

 これで、お兄様を独り占め出来ると。

 お兄様だけに甘える事が出来ると。


 だから、天罰が当たったのかもしれない。


 ず〜〜っと、何年もお兄様と仲良く過ごせていたのに、そのお兄様に好きな方が出来てしまった。

 口では否定していたけど、どう見てもお兄様のベタ惚れ状態。

 お兄様の口から出る、私以外の女性のお話し。

 正直、毎回その女性の話が出るたびに、直ぐにその口を塞ぎたい気持ちだったけど、私はグッと我慢をした。

 情報収集は大切ですからね。

 力のない女性にとって、情報は大切な武器であり鎧ですもの。

 楽しそうに笑みを浮かべながら、お兄様の話を促し情報を集める。

 だから何度目かにして、ようやく相手の名前を聞き出す事に成功した。


 ユゥーリィ・ノベル・シンフェリア。


 最近、よく耳にする名前。

 女性でありながら、その実力を認められて爵位を得た功臣。

 しかも、いきなり子爵になるほどの逸材で、化粧品や今までに聞いた事もない便利な道具を世に送り出していると聞いている。

 私と二つしか違わないと言うのだから、素直に凄いと思う。

 正直、お兄様の事にしたって、少しは感謝している。

 だってお兄様、あの女の事を口にする様になってから、一層素敵になったのですもの。

 今まで、お兄様にあまり見向きもしなかった侍女達が、お兄様の事を口にするくらいお兄様は格好良くなられた。

 でも、私は泣き喚きたい気持ちを、必死になって我慢して耐える事にした。

 だって、お兄様はあの女性の事を口にはしていても、実際にはお父様の御命令でお会いになれないらしいので、お兄様が勝手に盛り上がっているだけの可能性の方が高い訳ですから。

 お兄様の恋に対して酷いと思われるかもしれないけど、私はそうであって欲しいと願っている。

 希望はまだ残されているのに、それを自ら潰す訳にはいかないもの。

 そんなある日、王宮から言付けがあった。


「陛下より、御予定を変更して、至急お茶会の支度をする様にと」

「お父様が? 何か急なお話かしら」

「いえ、陛下は御参加されない様ですが、陛下のお知り合いをお相手する様にと申しつかっております。

 エリザベート(おかあ)様とセレスティナ(おねえ)様も御出席されるとの事です」

「分かりました」


 知らせに来た者の話の感じからして、私的な席の様なので、丁度遊びに来ていたお友達のレティを誘った。

 王族ばかりでは相手も緊張してしまうかもしれないでしょうから、緊張を和らげるのに役割にもなるでしょうと言う配慮からです。

 私的な席であるならば構わないでしょうし、侯爵家の令嬢なら、話し相手として問題もないでしょう。

 もしも駄目そうなら、レティには申し訳ないけど、そのままお帰りになって戴けでば良い訳ですしね。


『ユゥーリィ・ノベル・シンフェリアです。

 本日は思いも掛けず、王妃様、王太子妃殿下、そして王女様にお目に掛かれた事を嬉しく思います』

『あら、そんなに畏まらなくても、貴女の事はよく覚えておりますわ。

 今日この時より、貴女と私は親しき仲なのですから、今後はその様な堅苦しい挨拶は不要よ』


 そして、思いも掛けずに顔を合わす事になったお兄様の想い人。

 いえ、実際には一度か二度は顔を合わせてはいるはずなのですが、生憎と王女と言う立場上、多くの人と会う事があり、一々覚えていないのが実情でして。

 それでも会った事があると覚えているのは、彼女の特徴とも言える白い髪。

 色なし(アルビノ)、忌み児、様々な表現はあるけど、生まれつき病弱な者が多く、直ぐに天に帰る事から、愛情を注げばより悲しむ事になるためという理由で、忌避される存在と聞いている。

 私よりも二つ年上らしいけど、私と然程変わらない背丈から、どうにも年上には見えないどころか、もしかすると年下ではないかと思えてしまえる。


 顔は、……悪くはない。

 特別美しいと言う訳ではないけど、白い髪と白い肌、そして儚く可憐な顔立ちと相まって神秘さがある。

 ただ、言葉を交わしてみれば、受ける印象はまた変わり、令嬢らしくない浮かべる楽しそうな微笑みが、細い身体もあってか一層力強く感じ、それが魅力的に映る。

 その事に、あぁ、彼女は感情を表に出す人間なんだと感じる。

 私が少し苦手とする種類の人間ではあるけど、対応できない訳ではない。


 お母様との会話から、どうやらお父様、いえ、陛下は私達に彼女を支えさせたいために、急遽この席を用意したのだと思う。

 お兄様の想い人に力を貸すなど面白くはないですが、個人の感情と王族としての役目は別。

 でも、こうしてゆっくりと言葉を交わす機会が出来たので、積極的に情報収集ぐらいはさせて戴きます。

 適当に話を合わせながら、始めて見るお菓子を摘み。


 お、美味しい。


 えっ? これ、彼女の手作りよね?

 確か先程、そんな話をしていましたし。

 手にしたお菓子の見た目は、うん可愛い。

 彫刻の様に整っていないけど、それが逆になんとなく可愛いさを感じるお菓子の造形に、自然と心が和む。

 その上、口にして広がるお菓子の甘さと美味しさ、尚の事、笑みが浮かんでしまう。

 確か、男性は女性の手作りの料理に弱いと聞いた覚えが。

 もしかしてお兄様も、これにやられたとか?

 でも、王女たる者が台所に立つなど、許される訳がありませんし、そもそも料理などした事が無いと言うか、それ以前にどうやれば料理が出来るかさえも知らない。

 くっ、でも今はそんな事を悔しがっている暇はありませんわね。

 今は少しでも多くの情報を、本人から収集出来る貴重な機会なのですから。

 そう思って視線でレティに話を振る様に合図を送ったら、あら意外。

 どうやらレティにとっても、彼女は気になる存在だった様で……。


「そうですよね。お義母様(・・・・)からだけでなく、ルメザヴィサ様(・・・・・・・)からも、よく(・・)シンフェリア様の名前を聞きますので、是非とも(・・・・)一度お会いしたかったですの」


 レティが、見た事もない目で彼女を見つめている。

 表情では笑みを浮かべてはいるし、目が笑っていないなんて事はよくある事だけど、年上のレティの瞳が浮かべる感情は、……なか親近感が湧くものの、怖い気がする。

 こう、なにか肌寒くなる感じがする会話の中で、なんとなくレティの事情を察した。

 レティの婚約者であり、ジュシ叔母様の子供であるヴィー様が、お兄様同様に目の前の女に熱をあげているらしい。

 しかも、ジュシ叔母様公認と言うのだから、レティの心内は穏やかではいられないはず。

 レティに対して裏切りかもしれないけど、私としては寧ろ応援したい。

 お兄様に近寄る毒虫を引き受けてくれるなら、最高だと思ってしまう。


 ……ただ、肝心の本人の反応からして、ああ、これは無いな、と言うのが素直な感想。

 だって、本人、全然、分かっていないのですもの。

 寧ろ、レティが勝手に勘違いしているのでは、と思えてしまえるぐらい。

 もしかすると、お兄様の事もこうなのかもしれない。

 そもそもお父様の命令で、彼女に会う事が禁じられているお兄様を、彼女が覚えているかも怪しいですわ。

 お兄様の話題を出した時も、特に何の反応もありませんでしたし、寧ろ誰か知らない人の話を聞いている様な反応でした。

 もし、彼女がお兄様に付き纏っているのなら、幾らなんでも、この様な反応になる訳がありません。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「少し調べて貰いたい事があるのだけど、お願いできるかしら?」


 なので侍女に命じて、知りうる限りの事を調べてもらった。

 そしたら、出てくる出てくる。

 特に彼女を良く思わない話が、これでもかと言うほどに。

 積み上げられた報告書の束の高さに、思わず立ち眩みがしましたわ。

 まさか、何処の誰がどう言う事を言っているかなど、詳細に記されてくるとは欠片も思いませんでしたもの。

 そして内容に目を通して、頭痛を覚え、別の意味で目が眩んだ。


 酷すぎる。


 妬みや嫉妬の類が多い、と言う言葉では表せれないほど。

 社交界なら、成功した者への妬みや嫉妬はある程度付き物とは言え、流石にこれは度が越していると言わざるを得ない。


「お父様が、私達に彼女の味方に成れと命じる訳だわ」


 思わず声に出てしまうけど、この報告書を纏めた者は、誰が彼女の敵で、誰が彼女の味方なのかを知って貰うためなのでしょう。

 だけど、私の知りたかったのはこう言う事ではなく、客観的な彼女の事や、彼女の私生活の事。

 それらを探して、侍女に手伝ってもらいながら選り分けて行くと、報告書の山は一気に減った。

 まぁそれでも、一人の令嬢を記したにしては多い。

 その山を築く報告書の一つ一つ見目を通してゆく……。


「………成る程。

 お父様が力を入れるには十分な理由ね」


 新式の魔剣の開発に、行軍中の騎士や兵士達の食生活を含む、幾つもの問題を改善を齎している。

 他にも、国にとって無視できない様々な物を世に送り出している。

 特に、今やこの城では欠かす事の出来ない光石を使った照明も、彼女の実家が独占し販売しているけど、そちらも元々は彼女が実家にいる時に作り出した物。

 おまけに、魔導士としても王宮魔導士である魔法使い達よりも、優れているって噂がある。

 言葉は濁してはあるけど、本当の事なのでしょうね。

 国としては、そんな危険な人間を放置する訳にはいかないでしょうし、利用出来るのならば利用するのが当然。

 おそらく今もお父様、いいえ、国とって無視できない様な物を作り出しているのかもしれない。

 だからこそ、お父様は国王として、彼女を守ろうとしているのだわ。


「それにしても狡いですわ。

 頭も良くて、力もあって、可愛くて、性格も良くて、それでいて料理も上手いだなんて」


 私に勝てそうなものって言ったら、顔と血筋と令嬢としての質ぐらいなもの。

 おまけに、ジュシ叔母様から戴いたお肌のお手入れ用の化粧品は、物凄く良いらしい。

 私はあまり実感しないけど、ジュシ叔母様が彼女の味方を少しでも多くするためにも、強引にでもお店を開かせるとか言っていたから、ジュシ叔母様の本気具合が伺える。

 今は叔母様が想定している相手がヴィー様に対してだけど、それが何時お兄様に変わってもおかしくはない。

 叔母様からしたら、王家の味方に収まってくれれば良い訳ですからね。

 つまり、私の想いに対して味方をしてくれる人間はいないと言う事。

 ヴィー様でも、ルイお兄様でも、ラードでも構わない。

 ……ラードは流石にないわね。まだ幼いもの。

 それなら、まだ、カイルお兄様の第二妃として、御義姉様と呼ぶ可能性の方がよほどあり得る話。

 でも、まだ未婚でカイルお兄様よりも歳の近いサリュードお兄様がいるなら、普通に考えたらそちらになる。

 ああ、ルイお兄様、明日にでも帰って来て、彼女と結婚してくださらないかしら。

 そして、そのまま国外へ、それなら全て丸く収まるのに。

 って、流石にそれは無いわね。

 お父様が金の卵を産む鶏を、国外に出す訳がないもの。

 それに、ルイお兄様が国内に留まる事は、おそらくもうないでしょうから。


 結局、私に出来る事と言ったら、お兄様に嫌われない様に愛想を振る舞いながら、自分を磨く事だけ。

 厨房に立つ事は出来ないけど、王女として自分を磨きながらも、女性として可愛らしさも磨き、妹という立場を活かして、お兄様が顔をお見せになられたら、一生懸命に話を聞いてあげて、少しでも気を楽にして戴き、元気になってもらって部屋から見送る事ぐらい。

 できる事は少ないけど、それでもやらないよりマシ。

 幸いな事に、彼女はお兄様を此れっぽっちも気にしていないみたいだからね。

 うん、自分で自分を励ましておいて腹が立つ。

 あんな素敵なお兄様の何が不満なのかと。

 そんな悶々としながらも、お兄様との短い時間を楽しむ私に、あらたな悲報が届いた。


 魔導具:ポーション。


 不可能と言われた、治癒魔法を封じた魔導具の開発。

 それを彼女が成功させ、安価に世間に広めれる様に、世界中に信徒を持つ聖オルミリアナ教会をも巻き込んだ。

 教会は、この功績から、彼女を聖女認定をしようとしているとか。


 王子と聖女。


 うん、これほど世間が受け入れやすい婚姻はないだろう。

 吟遊詩人達が謡い、御伽噺の題材になる様な物語になるのは、誰の目にも明らか。

 もし本人達が望めば、国としては頷かざるを得ないような事だし、逆に国として命じる可能性の方があり得る事。

 お父様は恋愛派だと明言しつつも、お姉様達にはお父様が命じて他国の王族の下へ嫁がせたのだもの。

 どうしよう。

 どうしたら良い?

 このままじゃ、お兄様が取られてしまう。

 お兄様は私のモノなのに。







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[気になる点] 誤字報告 次女に手伝って、ではなく侍女では?
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