491.なんでこう言う時に現れるんですか!
船で工事現場に移動して、止水鉄板の打込工事を実際に目の前でお見せした後は、ジュリに操船をおまかせして、私は現場で工事の続き。
と言っても既に、事前に五分の四程を終えていたので、その続きをやるだけ。
陛下達をお乗せした船は要塞ではなく、港街の方に行ってもらっているので、一刻程で到着予定。
私はその間に工事を終わらせ、空間移動の魔法で合流しなければいけないので、結構ハードなスケジュール。
一応はジュリには観光を兼ねて【断頭台の滝】や大渦、その他に周りの景色を楽しんでもらえる様に、安全運転重視で時間を稼ぐ様にはお願いしてあるので、私の方が全力でやれば何とか間に合う予定。
「あまり無茶を言われなければ良いけど」
私も大変だけど、アドル達とポーニャはもっと大変。
なにせ、あの陛下達の相手をしないといけないからね。
流石に護衛であるアドル達を揶揄って遊ぶほど、陛下達も悪趣味ではないだろうし、護衛である彼等の仕事の邪魔をする事はない、とは信じてはいる。
けど、側で護衛を務めるアドル達の心的負担は大きいらしく、予定を話をした時に四人とも死んだ様な目をしていたんですよね。
その点、末娘とはいえ、伯爵令嬢としての教育を受けているポーニャはしっかりとしたもので、穏やかな笑みを浮かべ……、浮かべたまま、緊張のあまり気絶していました。
仕方ないので、コッフェルさんに雪中熟成させたお酒一樽で、フォローをお願いしておきましたよ。
コッフェルさん、なんだかんだとこう言う事を引き受けてくださるのだから、意地悪のふりをしてはいるけど、実際は面倒見が良いんですよね。
若かった頃には、さぞやモテたと思う。
いや、意地が悪いから無理か。
「よしっ、終わり」
予想より若干早く終えた止水鉄板の打ち込みと、形状変化の魔法を応用した溶着作業。
後は魔導具の狂水の宴をポイポイと海に放り投げて行きながら排水作業を開始。
魔力貯蔵庫として、大型の魔石を元にした魔法石を幾つか繋いである改良型なので、明日の朝まではしっかりと仕事をしてくれるはず。
空間探知の魔法で陛下達の現在地に意識を向けて見れば……、うん、良い感じに時間を潰してくれたみたいで、彼方は予定通りの時間に入港かな。
では少し早いけど、此方も空間移動の魔法で先回り。
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陛下が率いる視察団の初日は、軍港の拠点となる要塞の下見と止水鉄板の打込工事の見学。
軍港周辺環境の視察と言う名の観光を終えたら、初日の予定は終了。
温泉を堪能してもらって、夕食後は就寝。
え? 夜を徹した談笑?
昼間に散々やっておられるでしょうから、今更必要ないでしょう。
と言うか、我が家は人数に余裕がないため、護衛にも休息は必要。
【体力回復薬】と【睡眠耐性薬】を使用するにしても、当人達のモチベーションと集中力の維持のためには、最低限の休息は欠かせないので、強制終了です。
陛下達も普段の激務の疲れを癒す目的もあるので、此方の要望はアッサリと受け入れられたのも大きい。
各自で交友を深めるのは別問題ですけどね。
そんな訳で、視察二日目は昨日よりノンビリな日程。
魔導具に魔力を補充するついでに、止水鉄板に囲まれた内側が水が減っているのを確認。
その光景を、展望台浴場で風景を眺めながら眺めてもらい、身を清めた後は、此方の教会で礼拝。
その後は村の様子と繁殖槽の見学をして、三日目に領内挙げてのイベントを予定しているので、本当にノンビリした予定、……と、思っていなのに、なかなか世の中うまくいかない。
「申し訳ありません、本日の予定に少々問題が発生しました」
出かける準備を済ませ、いざいかんと言う時の私の言葉に、眉を顰める陛下達。
いえいえ、私もこんな事を言いたくはなかったんですよ。
でも仕方ないじゃないですか。
「探知の魔法に、魔物らしき反応がありました」
空間移動の魔法の前に、念の為に探知の魔法で安全確認をしたら、軍港予定地周辺に、魔物らしい反応がある事に気がつく。
追っ払うにしろ狩るにしろ、そんな場所に陛下達を御案内する訳にはいかないので、事情を説明して陛下達には、此処で待機して戴くか、先に教会に礼拝をしに行くかを提案。
あ…、陛下のニンマリと浮かべる笑みに、なにか嫌な予感が。
「いや、予定を変える必要はない。
僕等は安全な要塞内で、君の奮闘ぶりを応援させてもらう」
「……私としましては、此処で待って戴いた方が、陛下達の安全にも関わりますし、気が楽なんですけど」
予感的中。
またもや陛下がとんでもない事を言い出す。
仮にも国王なんですから、自分の身を案じてください。
……いえ、確かにあの岩盤は凄く頑丈で、私の普通の攻撃魔法ではビクともしませんけど。
なら大丈夫って、どう言う意味ですかっ!
魔物の放つ攻撃の中には、人間の放つ魔法なんて足元にも及ばない物が多いんです。
陛下達の身に何かあれば、私としては責任が持てません。
「君も心配性だねぇ。
流石に奥さん達には残ってもらうけど、現役の辺境伯達と討伐騎士団長、それに騎士の資格を持つ者ばかり。
戦うと言うならともかく、安全な場所で大人しく隠れて見物しているくらいはできるさ。
ついでに魔導士の爺さんもいるしね」
一部後ろで、純粋な文官だと目で訴えている人がいますけど、文官なら陛下をお守りしなくても良いと言う訳はなく、陛下と共に危険な地に付いて行くのに文官も武官もないのが現実。
国と陛下に忠誠を誓う身ならば、付いて行かないと言う選択肢はないですからね。
と言うか、止めてください。
陛下達の暴走を止めるのも、文官達のお仕事でしょうが。
「ああ…、言っておくけど、これ、君のためでもあるからね。
提出されている地図が確かなら、あの地まで探知の魔法が届くなんて、人並外れた内容の発言の真偽の確認は必要なの。
この場ににいる者の大半は、君が魔導具師として優れた人物である事は知ってはいるけど、魔導士としての実力を知る者は殆どいないからね。
と言うか、昨日、そこの爺さんに自重しろと言われているのに、君は何をやっているの、このヘンテコっ!」
「がぁ〜〜んっ!
安全を配慮しているだけなのに、連日して陛下からヘンテコ呼ばわりっ!」
魔物がいるから、安全が確保できるまで止めましょうと言っただけなのに、何故私のせいになる流れなの?
それに自重って、十分に自重していますよ。
昨日だって本気を見せなかった訳だし、この距離で港周辺の探知の魔法が効くのは、仕掛けがあるからであって、私がヘンテコな訳ではない。
流石に秘密の実験も兼ねているので、そこまでは言えないけど。
「真面目な話、君の魔導士としての実力に関しては、噂が一人歩きしている所があってね、一度きちんと見定めておく必要がある。
証人も、これだけいるのであれば、問題はなかろう」
「つまり、私が嘘を言う様な人間ではない事に対して確認が必要と?
でも危険ですよ」
「君に関しては、見誤る訳にはいかない所がある」
駄目だ、これ何を言っても言い負かされるパターンだ。
では、ジル様に……、そうですよね、こう言う時はジル様は陛下側ですもんね。
こうなったら奥様方に……横を向かれました。
ならば財務局長をはじめとする文官達は……下を俯かれました。
皆んなして、私を見捨てるだなんて酷い。
「無駄な抵抗はそれくらいにしなさい。
あとこれ、国王命令だから」
ここまでいつもの軽薄な笑みを浮かべていた陛下が、一息に王としての威厳を纏い。王として臣下に檄を放つ。
「ユゥーリィ・ノベル・シンフェリア子爵。
これより視察地に蔓延る魔物を殲滅し、我等の目に、この地を守るだけの力がある事を示せっ!」
「……その命、しかと承りました」
仮にも臣下である以上、王として命じられては私に選択肢はなく、何処の世界にも、無茶を言う上司っているんですよね、と溜息を吐くしかない。
「嬢ちゃん、こう言う時は何も言わずにこっそり行って、事を済ませてから報告するのが一番被害がなくて済むぞ。
その分、後でグチグチと煩い事を言われるが、その方が幾分かマシな事が多い」
コッフェルさん、そう言う事はもっと早く教えてください。




