488.おうこ~~く歌劇団~~♪ 違いますっ!
陛下達を宿泊されるお部屋に案内した後、各自着替えてから下の広間に集合。
本来、奥様方の着られているドレスは一人では脱げない作りのドレスだけど、そこは旦那様方の手でね。
まぁ、脱がすのは慣れてらっしゃるでしょうから。
一部の最初の騒ぎは何だったのかと思うくらい、不便さを楽しむと言う此処での生活の趣旨が伝わっている様で、一人で脱ぎ着の出来る上等な街着 ―但し、生地は最上級の絹で仕立てられた― を纏って来られたので、心の中で安堵の息を吐いたのは内緒。
皆様高位貴族ですので、口煩い従者や侍女を引き連れて来たら、出来ない事ですからね。
奥様方、立場と人の目を気にする事がなく、互いの秘密を共有すると言う楽しみもあって、年甲斐もなく互いの服を褒め合って笑っていらっしゃっているけど、半分は笑顔の仮面の下でマウントを取り合っているなぁ、と感じてしまう。
街着と言うコンセプトで、如何にセンス良く、そして上品に着こなしているかをね。
使われている生地が上等な絹と言う時点で、色々と街着と言うコンセプトから外れている事に気が付いていない辺り、良家の奥様と言うか世間知らずと言うか。
街着なんて、富裕層でも暑いこの時期は、普通は麻か木綿の物だしね。
羊毛などの動物性の物もあるにはあるけど、どちらにせよ庶民だと中古の服が大半。
今回奥様方が着られている絹の服なんて、下位貴族ではそうそう手が出ない様な代物。
実家のお母様だって、光舞ドレスの件まで、絹のドレスなんて嫁入りの時に持ってきた二着しか持っていなかったと仰っていたし。
あっ、気が付いている一部の男性陣が苦笑を浮かべていられている。
気が付いているなら、作るのを止めなよと思うけど、多分、今日初めて見るんだろうなぁ。
そんな御婦人方とは対照的に、私より年下のフィニシア様が、純粋に街着を楽しんでいる姿には癒されるわぁ。
流石にフェニシア様には、双子ちゃん女中の方割れであるメアリーを付けたけど、その分、手間が掛かっており、誰よりも華やか。
うん、可愛い♪可愛い♪ 尊いとはこの事かも❤︎
そんな華やかな女性陣と違って、男性陣は来た時の儘の旅装姿。
直ぐに出かけるつもりですからね。そんなものです。
高位貴族の御婦人が、建設現場を視察する事なんて事態が普通は無いし、あっても遥か遠くから、しかも馬車の中からみたいですからね。
でも今回は、その足で現場を歩いてもらう必要がありますから、来た早々お着替えをして戴きました。
「街着姿の奥さん達も綺麗だけど、今回の君は中々勇ましい格好だね。
もちろん似合ってはいるが」
なので奥様方が着替えている間に、私もお召し換え。
面倒だけど、一応はこれでも令嬢ですから、皆様に合わせてお着替えです。
ただし、合わせたのは奥様方にではない。
白のブラウスに黒のズボンにブーツ、鮮やかな青の上着ではあるけど、その意匠は軍服風の物。
中世ヨーロッパと言うより、何処かの歌劇団とか、宇宙の英雄伝説に出てきそうな華やかな騎士服。
左肩から、家紋要りの白マントをペリース風に掛けているので、勇ましいと思ってくれたのなら嬉しい。
私の場合、年齢にそぐわない小柄な身体に童顔だから、騎士団ごっことセレナとラキアに揶揄われはしたけど、そこは気にしない。
「今から行くのは、お渡しする前とは言え、軍の施設になりますので、それらしい装いをと思いましたが、いけませんでしたか?」
揶揄われても、軍関係の行事で制服となると、私の場合こういう服に行きあたってしまうんですよね。
ルチアに領軍を作ると言われた時に、今後の事を考えると一応は制服なども作った方が良いと助言を戴いたので考えた物。
今、私が着ているのが将校用の衣装で、一般兵は簡略化した物になる予定。
生地は丈夫な綿だけど、多分、私のは将来的には魔絹織物になると思う。
魔絹で織った服は、頑丈で軽いからね。
煌びやかなドレスに注目が浴びている素材だけど、むしろドレスよりも防御服として使った方が優れた素材だったりする。
「いや、君の意気込みを感じると言う意味では、十分に伝わると言うものさ。
カイルもそう思うだろ」
「ええ、女性のズボン姿も悪くない。
女性らしい柔らかさの中に勇ましさを感じる
愛しいセレスティナ、今度、君も着てもらえないかな?
また君の別の魅力を見られそうだよ」
愛妻家発言乙です。
鬱陶しいですから、イチャイチャは余所でやってください。
基本的にこの世界、騎士でも冒険者でも基本的に女性ってスカートなんですよね。
丈がそれほど長くなく、動きやすい様にスリットも入っているし、下にズボンの様な厚い下着を履いてはいるけど、ズボンを履く女性と言うのは、大抵がスカートすら買えずに、仕方なく中古でも数が多くて安い男物を履いている女性や、直ぐ大きくなるからと兄のお古を履かされている子供とかですからね。
私みたいに、女性用のズボンとして意匠した物とは全くの別物。
長身でスタイルの良いジュリが着たら、さぞかし凛々しいだろうなぁ、と思って意匠を凝らしたのは言うまでもない事。
そもそも中身がオッサンの私が、私の為だけにこんな服を考える訳がないじゃないですか。
と言う訳で、ジュリも色違いで少しだけ格を落とした服装です。
うん、何度見ても、凛々しく、かわ格好良い♪
惚れそうです。
もうとっくに惚れているけどね。
「では、早速、現地へ移動いたします。
コッフェルさん、最後尾をお願いしますね」
「ああ、まかされた」
行くのは、私と視察メンバー以外に、ジュリとアドル達四人にポーニャのみ。
他は歓迎の準備もあるし、魔導士であるルチアはこの地の守護。
それに屋敷の警備五人もあれば、魔物の襲撃さえなければ、過剰戦力とも言える防衛力です。
「「「「「……っ」」」」」
移動先は、軍港施設の一つである崖上の要塞と言う名の宿舎の屋上。
此処からなら周囲が一望できますからね。
以前にこの場にいる全員ではないけど、対岸からの光景は、前回の時にお見せしているので、今日の所は割愛。
落差が二百メートル以上もある断崖絶壁の上の大地、其処から更に高い五階建ての建物の屋上からの周囲への光景ではなく、何故か此処から見える内庭と反対側に見える建物部分を見つめている一同。
あれ? 高い所が駄目だったのかな?
流石に私も足元が直ぐ崖下と言う光景は嫌だけど、建物の縁迄は五メートル以上あるし、転落防止用の腰壁もあるから問題はないはず。
でも、世の中には例え数メートルしかない高さの橋でも駄目であろうとも、自転車で全国を手紙を読みながら巡る番組の芸能人もいるくらいですからね。
もしかすると、皆さんそうなのかもしれないので、早々に移動を開始。
「では、周囲の景色を堪能された事ですし、建物を降りながら順次案内をしたいと思います。
どうぞ此方へ」
と言っても地上部分は、剥き出しの構造壁と柱だけで、ただっ広い空間。
部屋割をどのようにするか、内装や装飾をどうするかは、私ではなく国が行う事なので、殊更見せる場所はないんですよね。
流石に水物関係の場所だけは決めて工事はしてあるけど、一階を除いた階以外は全て同じ作りで、天井がかなり高く作ってある事くらい。
実際、此処に防音や装飾を兼ねた天井が作られるので、実際にはもっと低くなるけど、それでも一般的な建物よりも高い天井になるはず。
地上部分に降りて来たら、一度、建物の外に出て外観を見学して戴く。
打ちっぱなしの異世界版超圧縮コンクリートだけど、表面は鏡のようにツルツル状態。
圧縮を掛けながら固めてあるので、表層が痩せる事はそう簡単にはないので、足掛かりにする事はできない。
侵入者が外壁をよじ登ろうとしても厳しいし、上から水や油を流されたら、魔法で上がるしかない程のツルツルさ。
そして魔法を使えば、私のような特殊な固有波長をしていない限り、見張の魔力感知で存在を知られてしまう。
まぁこの辺りは防衛を考えたら当り前の事なので、敢えて説明するまでもない事。
……面倒臭いからって説明を省くなって。
仕方ないので、事細かく説明。
「此方の石畳の右端の地下に、水路が掘ってあり、この先に溜池があります。
現在、内陸の水源に向けて水路を掘っていますが、その辺りは我が家の魔導士であるポーニャ・ラル・フリムガムが行なっております。
非常用に水の魔法石はありますが、基本的にこの水がこの砦を賄う事になるでしょう」
勿論、自慢すべき所は自慢しておきますよ。
家を出て私の家臣になったとは言っても、優れた功績は彼女の実家のフリムガム家にとっての功績にもなりますからね。
まぁ、良い功績は実家の物、罪科は知らんぷりと言う世界ではあっても、彼女自身の功績と評価が無くなる訳では無いので、ドンドンとポーニャを褒めちぎります。
ポーニャの反論は認めない。
顔を真っ赤にして恥ずかしがっているけど、そこは気が付かない振り。
私はポーニャの頑張りを褒めたいのだから、止まらない。
大丈夫、例え水路が完成しても、【ポーニャ橋】みたいに【ポーニャ水道】とは名付けないので、そこは安心してほしい。
……当たり前と。
うん、本気で怒り出さない内に止めておこう。
平和が一番。




