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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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3.魔力と瞑想。




「光よ!」

「ライティング!」

「焔よ!」

「メラ!」

「ファイア!」

「ギラ!」

「私は奏でる、炎の旋律!」


 ん〜、……やっぱダメか。

 いつものラウンジスペースで気合を入れて、適当に呪文を唱えてみたものの、それで欠片も何かが起こる様子はなかった。

 途中で厨ニ的にポーズを取ってみたものの、結果は同じ。

 昼から数時間も色々と頑張った結果、何かが起こる代わりに残ったのは、気恥ずかしさと、自分は何をやっているのかと言う虚しさだけ。

 よくよく考えれば、気合を入れようが入れまいが、結局は叫んだだけだもんな。

 これでもし魔法が発動されようものなら、子供達や厨二癖のある人達によって攻撃魔法が発動され、彼方此方で大惨事になっている事は間違いない。

 そうなると、やっぱり魔力を感じると言うところからか。

 はぁ……、溜め息がでる。

 あの本の続きの【魔法初級基礎編】や【魔法初級応用編】などに書かれていたのは、結局魔法をある程度使えるようになってからを前提に書かれており、その内容も魔法を使ってゆく上での注意事項が大半で、要するに今の段階の私には、知識として覚えておく以外、何ら役に立たない情報の塊でしかなかった。


「魔力を感じると言ってもなぁ……、そんな物を感じた事もないし」


 【ユゥーリィ】の記憶の中にも、家族が魔法を使っているのは見た覚えはない。

 そもそも厄介な野生動物の駆除に、魔法ではなく罠を仕掛けるとか言っているし、魔物にしたって傭兵を雇うとか言っていたから、多分、我が家で魔法の使い方を知っている者はいないのだろうと思う。

 読んだ数冊の魔法関連の本には、基本的な魔法の発動条件に関する記載は何処にも無かった。

 せめて呪文とか発動条件の一つとか、何か切っ掛けとなる事が書かれているのならば良かったのだけど、呪文に関係する記述は欠片も無い。

 それらしい物と言えば魔法陣の記載はあったものの、それはあくまで魔法を道具に封じ込めるための物であり、封じ込めた魔法そのものは特殊な魔法を放つとだけで、魔導具の製作に関しては何処かに弟子入りしろみたいな内容。

 つまり魔法陣そのものも、魔法の発動条件ではないと言う事だ。


「……うぐっ!…うぅっ、…ぅぉ…」


 まただ。むわんむわんと体中を揺れるように廻ぐる気待ち悪さが強くなり、胃から何かが込み上がって来そうになって、思わず口に手を当てて蹲ってしまう。

 まだ陽が高いと言える時間帯だけど、今日は此処までにして部屋に戻った方が良いだろうな。

 この明るいラウンジと違って、木の窓しかない自室は、窓を閉めれば光が差し込まない暗い部屋。

 だけど、その暗い部屋で少しだけ寝れば、きっとお姉様達も帰ってくる頃だし、ただでさえ白い顔が、更に顔色の悪くなっている姿を見せるのは申し訳ない。

 この家で、病弱な事を理由に穀潰し状態の私ができる事は、せめて家族に心配を掛けない事だろうだから。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 数日後、少し見方を変えて魔法を発動させる事ではなく、魔力というものを考察してみる。

 けっして数日続いた無駄な努力に飽きたからではなく、あの方法ではダメだと言う結論が出たからであり、視点を変えてみようという論理的な考えだと言っておく。

 だからその過程は決して無駄ではない……、多分。

 とりあえず、あの分かり難い抽象だらけの入門書によれば、魔力は誰にもあるものだと言う。

 他著者の本にも似たような事が書かれていたから、多分これは間違いない。

 そして魔力を感じるというのは……、ある種の特殊の才能なのだろうけど、厨二というか、前世の漫画やゲーム的に考えて当て嵌めたら、【氣】とか【フォース】とか言うものに近い物なのだろうと仮定できる。

 そう言えば密教とかお偉い僧侶とかは、何年も厳しい修行の果てに身に付けれるものとかも言っていた記憶もあるなぁ。

 確か絶壁の壁を命綱も無しにフリークライミングしたり、火の中を裸足で歩いたり、針の山で瞑想したり……うん、無理。

 痛いのも苦しいのも嫌です。

 それで確実に身について、安全がある程度保証されていると言うのならともかく、死ぬ可能性の方が高い修行で身につきませんでしたじゃ、泣くに泣けない。

 そもそも五歳児の身体でそんな事をやった日には、その日の内に(しかばね)へと再転生まっしぐら間違いないです。

 五歳児じゃ、せいぜい滝行か水行くらいが関の山。

 いや、この病弱な身体では、水行ですら命が危ない気もする。

 

「……やっぱ普通に考えたら、瞑想だろうな」

 

 そもそも私は、何でいきなり激しい事が浮かんだのだろうかと、自分の事ながら不思議に思う。

 いや、激しい奴も限界行とか言って、死ギリギリを体感させる事によって秘めたる力を引き出すと言う、火事場のクソ力を人為的に引き出す物らしい。

 確か火事場のクソ力って、脳内麻薬をジャブジャブ分泌させて、リミッターを無理やり解除しているらしいけど、その脳内麻薬って猛毒でもあって、出し続けると廃人になるとかなんとか。

 まぁそれは置いておいて瞑想と言うと、やっぱり座禅かな。

 小中高でそれぞれ体験授業として、お寺に泊まった時にやらされた経験程度。

 だけどこの座禅、大人になってから知ったけど、実はちゃんと学術的な根拠があって、きちんと測定できるデーターや統計があるらしい。

 そう言う意味では一番信頼のおけて安心が出来る方法と言える。


「…ぁぅ」


 なのに足を組もうとしたら、後ろにひっくり返ってしまう。

 座禅なんて子供の時以来だから、変な脚の組み方したのかもしれない。

 そう思ってやり直して見たのだけど。


 ころん、ころん。


 何度やってもバランスを崩して、後ろに転がってしまう。

 無理やり踏ん張ってみたけど、無茶苦茶不自然な格好になるし、とても瞑想なんて状態じゃないのは確か。

 この身体、基礎筋力が足りなさすぎるのか、それともお尻の厚みが足りないのかは分からないけど、瞑想の前段階の座禅すら組めないとは、いくら病弱な身体でも問題だよ。

 仕方ない、此処は少しお行儀が悪いけど、椅子の上で足を組んでみる。

 お尻と背中をなるべく座面に近づければ、今度はなんとかひっくり返らずに安定して座禅を組めた。

 目を瞑ってもいいんだけど、確かうっすらと目を開けて斜め前に視点を置いておくものだったと記憶している。

 細かいところはこの際気にしないとして、数度静かに深呼吸をして自分を落ち着かせて、意識を外にではなく自分の内側へ。


 むわん、むわん。


 うっ……、吐き気は無いけど、いつもの不愉快さと気持ち悪さを意識してしまう。

 いつもは無理やり気にしないように無視しているそれは、自分の内へと意識を向けると言う行為の上で、どうしても意識してしまう。

 ユゥーリィ自身は、物心ついた頃からこの不愉快な感覚に晒されていた為、そう言う物で在って、不快だと意識していなかったみたいだけど、前世の記憶を持つ俺が目覚めた為、これが異常なのだと自覚した。だけど……。

 うん、まだこの自分が二つあるような感覚には慣れないな。

 目覚めた時より慣れたし、なんとなく二つの境界が曖昧になっているような気がする。

 最初の頃は私(俺)と言う意識があったのが、いつの間にか私になっていたし、かと言って、【相沢ゆう】が消えていっていると言う訳でもなく、むしろ、それは自我としてはそちら寄りに強くなっているような気もするから、こう言った意味でも馴染んできているんだろう。

 結局、その二つの感覚を強く感じるのは、俺【相沢ゆう】が目覚める前と後の差を意識する時。

 だからこの身体を渦巻く嫌な感覚も、無視しようとすれば無視できるはず。

 まだ意識を向けたまま無視する、なんて真似に慣れていないだけだと思うし、それなら慣れれば良いだけの事。

 そう自分に言い聞かせて、再び瞑想に挑戦する。








2020/03/01 誤字修正

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