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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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16.新たな出会い、でもこんな山奥で?





 少し歩けば汗ばむ季節になってきた頃、私は久しぶりに山の中を散策している。

 魔法の実践と体力づくりの一環で、ついでに美味しい食べ物の確保。

 家の中とはいえ、春先に一度倒れたので一応は自粛していたのだけど、そろそろ良いだろうと屋敷を抜け出してきた。

 ちなみに本日の髪型は、動きやすいようにポニーテールをアレンジしたもの。

 これだとお手軽だけど、お手軽髪型に見られずに動きやすいので、お気に入りの髪型の一つ。

 おかげで長い髪が枝葉に取られる事もなく収穫は順調で、今の所は野苺、木苺、枇杷、ヤマグワ、行者ニンニク等、すでに収穫物で背負った籠の中の八割ほど埋まっている。

 途中、大鼠をまた見かけたけど、今度は仕掛ける前に逃げられてしまった。

 でも、彼等が狙っていた獲物を横取りできたので問題なし。

 大鼠が一生懸命地面を掘り返そうとしていたのは、黒い宝石と言われているけど、見た目的には乾燥した……止めておこう、仮にも食べ物だからね。

 とにかく美味しくて有名なキノコで、私的には普通に椎茸とかの方が好きだけど、基本的にキノコ栽培の技術がないこの世界では、椎茸や平茸は高級品。

 なので山でよく採れるキノコ以外は、我が家の食卓に上がる事はない。


「お父様達、喜ぶかな♪」


 いつもより遠い山奥に来た甲斐があった。

 短時間でこれだけの収穫があると言う事は、人の手が入っていないと言う事。

 この辺りの収穫物は当分は私の独占状態だぁ、いえいっ♪

 気分良く左手にある深い渓谷を眺めながら方角を再確認して、遠くまで来たなぁと実感する。

 もっとも、此処に来るまでの時間は今までの山と比べてそうは掛かっていない。

 大人の足でも踏み込まないような山奥だと言うのにも関わらず。

 種明かしは簡単。


「身体強化って凄いわね」


 教会以外の外出を自粛していた分、屋敷内で頑張って覚えたのがシンフェリア領の帳簿の監査と身体強化魔法。

 前半はともかくとして、身体強化の魔法は力場魔法と同じく【無】属性魔法に分類される魔法で最近やり方を発見した。

 どこかの剣製の魔術使いのように、手足に魔力を強く通して身体強化、目に魔力を集めて鷹の目、とか思っていたのだけど、一つ一つなら歯応えはあるのに、上手く連動できないと言った感じで、どうにも相性が悪いのか遣り方が悪いのかと試行錯誤をしている内に、もっと簡単な方法を発見した。

 【魔道甲冑魔法】と言えば厨二的発想になって恥ずかしいけど、要は自分をマリオネットの人形に例えて操作する…、とも違うか。

 自分の身体ではなく、魔力側に重ねたアームスレイブと呼ばれる主従追随式機甲システムのような物。

 薄皮一枚の力場魔法を部位に這わせて操作する。

 体内の魔力と同時に制御しないといけないところにコツはあるけど、慣れれば筋力を全く使わずに駆けれる事ができるし、岩だって持ち上げられる。

 意識の仕方の問題なのか、体を一緒に動かした方が楽だけどね。


「まさに山を駆け上るだったものね」


 ブロック魔法を併用すれば、山道でなら馬より早いかもしれない。

 発生させる力場魔法が体に密接しているためか、魔力効率も良くて思ったより減っている感じはしいない。

 むしろ体力の方が減りが早いと感じるのは、たぶん私が虚弱なのが原因なのだろう。

 そんな訳で休憩と言う名の試食タイム。

 渓谷がよく眺められる拓けた場所にある岩に腰掛けて、野苺、木苺、枇杷を少しずつ戴くと、甘酸っぱくて美味しい♪

 山の味覚を堪能した後で水魔法で出した水の中に、魔法で擦り潰した野苺の果汁を混ぜて果実水で喉を潤す。

 屋敷に帰ったら野苺と木苺でジャムを作ろうかな。

 枇杷もジャムにしてもいけど、数が少ないからそのままで売り切れちゃうかも。

 種から油を取れるけど、お薬にもなるから乾燥させて、ジャムと一緒に教会へ。

 ヤマグワもジャムにできるけど、きっとお母様達に果実酒用に確保される。

 行者ニンニクは素直にオカズで、下茹でしてからお肉と一緒に炒めてもらおう。

 薬草類は教会は受け取ってくれないので売却と。

 理由は教会の御用商人の邪魔をしちゃうから。

 まぁ売却先はその商人なので、最終的には教会に納められるから、人伝で納めれただけと思う事にしている。


「あれ?」


 そんな事を考えながらの休憩を終えて振り返ると、黒い物が視界の端に映る。

 ん〜……洞穴?

 ツタに殆ど覆われてはいるけど、よくよく見れば結構大きな洞穴が、山の切り立った斜面に見える。

 真っ黒に見えるからもしかすると洞窟かもしれない。

 周囲を何度も見渡しなおす。

 もし熊とか大型野生動物とかの巣穴だとすれば、こんな所でのんびり休んでいたら危険だし、最悪、魔物の巣かもしれない。


「……何もいないわね」


 緊張しながらも周りを警戒し、いつでも逃げ出せるように身体強化の魔法をかける。

 でもあれだけツルに覆われている訳だから、巣としては使われていないのかも。

 恐る恐る洞穴に近づいて観察してみると、穴の前は苔生(こけむ)しているのを確認。

 うん、どうやら、巣としては使われていないようだ。

 もし使われていたら、此処まで綺麗に苔生してはいないだろうからね。


「光よ」


 少し洞穴から離れて光球魔法を放り込んでみる。

 これで何か潜んでいれば、声と光で驚いて飛び出てくるだろうと思ったのだけど何も反応がない。

 蝙蝠ぐらいは飛び出てくるかと思ったのだけど、それすらいないと言うのも拍子抜けかな。

 とりあえず入口のツタを魔法で刈り取ってから、穴を覗き込むと意外に奥は深い。

 入口近くにある光球では曲がった洞穴の奥までは覗けないので、洞穴ではなくやはり洞窟だったのだろう。

 入り口はともかく、穴の高さも中は二メートル以上あるため、立って歩けるならばと、もう少し奥までと足を踏み入れてみる事にする。

 そして十メートルくらいで、更に大きく曲がった先に……。


「……っ!」


 思わず息を飲む。

 小さめの部屋くらいに広がった空間。

 そこに生きた物はいない。

 心配していた大型野生動物や魔物はもちろん、脅威になるような物は何もいない。

 ただ……、かつて生きていただろう、二つの人影が横たえていただけで。

 洞窟内はすえた匂いはするものの、異臭はあまり感じない事から、もう何年も経っているのだろう。

 それは、とうに肉はなくなり埃とカビに覆われていたが、意外にも衣服は残っていた。

 ボロボロで土埃まみれではあるけどね。


「仲間割れ? それとも此処で力尽きた?」


 本当の事は分からない。

 ただ、地面に剥き出しになっている錆だらけの剣と、割れた石がいまだに残っている朽ちかけた短い杖が転がっている様子が、当時を物語っているのだろうとしか。

 何にしろ二人の冥福を祈るべきだろう。


「……お墓、作らないと」


 何故、こんな所でこのような最期をと思わなくはないけど、こんな暗くて狭い場所で眠り続けるのは、あんまりだろう。

 かと言って町まで持ち帰ってあげれる距離でもないし、そう言う遺体状態でもない。


「さっきの場所でいいか。

 見晴らしがいいし、夕焼けも綺麗だろうからね」


 籠の奥から麻袋を二つ取り出してから、魔法で下の土ごと持ち上げて、麻袋の上にそっと乗せてからそのまま魔法で運び出す。

 状態が状態なので念のための処理なのだけど、せめてベッド代わりにと言う思いもある。

 墓穴は魔法があれば直ぐに掘れるので問題はないんだけど……。

 問題は……。


「ぅぅ、嫌だなぁ」


 できれば身元の分かる物があれば良いのだけど、それを探すためには、まぁ……御遺体を漁らないといけない訳で。

 腐肉を漁る事を思えば、既に骨だけになっているからマシとは言え、嫌なものは嫌だ。

 かと言って変わってくれる人はいないので仕方ない。

 ボロボロの剣の柄には、何とか紋章が彫り込まれているのは分かる。

 それが何の紋章かは分からないので、後で図に起こしておこう。

 後は革製だろう鞄や腰袋はボロボロな上、中身も朽ちているため、何もないに等しいため、少なくとも片方の人は、剣に彫り込まれた紋章以外の手掛かりはなしか。


「此方の方は」


 もう一つ短杖を持っていた方は、短剣らしき物が錆びた鞘ごと。

 それと服は触れると崩れるぐらいにボロボロなのに対して、小さめの革鞄は表面は土埃に汚れているだけで、払えば現役の鞄と言えるくらいしっかりとしている。

 身体と言うか骨に鞄の紐がきっちり掛かっていたから、これだけ後からと言う訳でもないだろうし、そんな事をする意味も分からない。

 何方にしろ。何か身元が分かる物があればと思って鞄を開けてみると。

 ……中身は真っ黒。


「なに、これ?」


 何度見ても、中身は真っ黒だった。

 空っぽと言うのなら分かる。

 鞄の内側が黒色と言うのも分かる。

 だけど、本当に真っ黒だ。

 下に振ってみても、何も出てこない。

 念のため其処らの木の枝を突っ込んでみると何も感触がない。


「え?」 


 鞄の底に当たる感触すらもない。

 手を引っ込めて枝を引き抜いて確認してみるが、やはりそう見ても突っ込まれていた部分は、鞄の丈より長い。


「どうなってるの?」 


 疑問に思いながら、手を入れてみると。

 

「……うっ」


 知らない感覚が頭の中を襲い、呻き声が漏れる。

 別に痛い訳でも苦しい訳でもない。ただ今までに体験した事のない感覚に驚いただけの事。

 突如として頭の中に並ぶ文字の羅列。

 その中でふと気になった言葉に意識を向けた時、何かが手に当たる。

 鞄から手を抜くと、そこには薄茶色の皮で装飾された本が握られていた。

 中に書かれていたのは、癖のある時で書かれた短い文や単語が不規則に書かれた物で、謂わゆる覚え書き。

 頭の中に浮かんだ文字の中には、手記と書かれていたけど。


「……魔法の鞄」 


 自然と口に出る。

 でも、そんな便利な物は世の中にはないので、正確には魔法の効力を封じ込めた鞄。

 脳裏に【時空】属性と言う属性魔法を思い出す。

 屋敷にある程度の魔法の本では概念くらいしか書かれていないけど、多分使われているのは

【収納の魔法】他にも【魔導具】のための魔法に【状態維持】の魔法。

 最低この三つの複合魔法が掛かった魔導具。

 よくよく見れば鞄の蓋にある部分に、赤く輝く石とそれを保護し固定するためなのか金属板と共に縫い付けてあるので、多分これがこの魔導具の核なのだろう。

 魔法石…、これも初めてみる。

 割れてはいたけど、杖に嵌め込まれていたのも多分そうなのだけど、あれはすでにその輝きを失っているただの石。

 魔物の心臓付近にある魔石を加工した物と、書物には記載されていたけど、多分、これがそれ。

 洞窟、二つもの遺体、魔導具、……全く、今日一日で驚きの連続だ。

 とりあえず錆びた剣と、同じく錆びた鞘付きの短剣。

 そして短杖の残骸を収納の魔法の掛かった鞄にしまい、静かに二人を埋葬する。

 墓石は先程まで私が腰掛けていた岩を、魔法で二つに割って立てる。

 刻むべき文字はない。

 刻むべき名前を知らないから。

 手記や収納の鞄の中を調べれば分かるかもしれないけど、そこまでの時間は……ちょっとない。

 お墓を作ったから、それで勘弁してほしい。


「……やすらかに、そして良い来世を」






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