122.美味しい食事と、不器用な関係。
「美味しいっ!」
「ですよね〜♪
此れで熟成していないお肉って、ありえないですよね」
ペンペン鳥は何度か食べたけど、相変わらず信じられない美味しさ。
これより上の白角兎もあるけど、あれは別次元の美味しさなので除外。
本当はペンペン鳥も熟成させたいのだけど、あれはそれなりの設備がいるし、豚ぐらいの大きさだと、雉や鴨みたいに軒先で吊るすと言う訳にもいかないので、今のところは断念。
このままでも十二分に美味しいので、其処まで拘る必要はないのも理由の一つではある。
「熟成してないって、熟成したのを買って来られれば良かったじゃありませんの?
と言うか、此れって何のお肉ですの?」
「ペンペン鳥です」
「ぶっ」
「……ジュリ、せめて手で口を押さえてください。
唾が飛んだじゃないですか」
それくらいで料理を下げる気はないし、そこまで気にはしないけど、無いに越した事はない。
何より女の子らしくありませんよ。
まぁ、前世が男の私が言うのも変ですけどね。
「高級肉じゃないのっ。
高かったんじゃありまえんか、これ?
と言うか、その、流石に此れを払うお金が……ちょっと厳しいかも」
「気にしなくても良いですよ」
「気にしますわよっ、普段甘えておいて何だけど、幾ら何でも」
「そう言う意味じゃなくて、私が獲ってきた物ですし、お肉屋さんに卸せない傷物の処分を兼ねていますから」
今日は私が色々とあり、美味しい物を食べて気を晴らしたいのもあってペンペン鳥とかの魔物のお肉を使ったけど、普段は普通に市場に出回っているお肉を使っている。
もっとも普通と言っても其処は前世と違って異世界。
場所が変われば品変わると言うように、普通に流通しているお肉も、鶏と豚は良いとして、あとは馬、羊、兎、雉、鴨、が多く、変わった物系でワニ、犬、野鳥、蛇など。
牛はと言うと、此方は貴族向けの高級肉の類なので、庶民的なお肉ではない。
「獲ってきたって」
「あれ、言っていませんでしたっけ?
私、趣味で狩猟をするので、結構それで稼いでいるんですよ」
何か以前にもあったような展開に、何処でだったろうと首を傾げながら、ジュリに説明するのだけど……、うん、どうやら信じられないみたい。
でも目の前にあるお肉が、その証拠ですので美味しく食べて納得してくださいね。
折角戴いている命なんですから、美味しく食べてあげないと。
「シチューも美味しいわね」
「そうなんですよね。
ペンペン鳥のお肉って、美味しい旨味と甘味のある油が出て、しかも馴染むんですよ」
「これってお肉以前に、結構手間暇が掛かっている味がするんだけど」
「そこはそこ、作り置きしておいたベーススープを、収納の魔法で保管してあるので、それを使ってあります」
流石にペンペン鳥のシチューにする事は想定していないので、コクと深み出し程度にしか使えなかったけどね。
それ以上は、折角出たペンペン鳥の旨味を殺しかねない。
それくらいペンペン鳥は旨味があって、繊細な味だからね。
そんな私を優しげな目で、でも同時に呆れながら…。
「そう言うところよ。
普通は料理にそこまで魔法は使わないわ、せいぜい先ほど言った程度。
貴女の場合、ほぼ全部に魔法を使っているじゃない」
「ん〜、じゃあ逆に聞きますけど、何で使わないんです?」
「え? それは、勿体ないじゃない」
「何がです?」
「それは魔力がだし、本来は魔法はそう言う事に使う物じゃないでしょ」
なるほど、ジュリの言いたい事は分かる。
故郷のシンフェリアに居た頃に、親友のエリシィーにも、教会の神父様にも似たような事は言われた覚えはある。
でも、二人は魔導師ではないので言っても仕方がなかったけど、同じ魔導師であるジュリ相手になら言える。
「魔法をどう使うかは本人の自由。
それこそ火を起こすのも水を出すのも、魔物を焼き殺すのもね」
「比べるべき物が違いすぎるでしょっ」
「そうですか?
魔法を使うと言う意味では同じだと思いますよ。
それに魔力が勿体無いって、別に此処は戦場ではないですし、魔物の領域内でもありません。
此処は街外れとはいえ安全な学習院内ですし、例え有事だとしても私達はまだ子供で戦力外扱い。
なのに、そこまで魔力を温存して何に使うつもりなの?」
「それは魔法の練習にしたり、魔力制御の鍛錬をしたり」
「もうすぐ夜なのに、実技の様な攻撃魔法の練習をですか?
それに魔力制御の鍛錬は、魔法を放つのと違って、殆ど魔力は消費しないはずでしょう。
無論、自分の身を守るための最低限の魔力は温存しておくべきでしょうけどね」
結局、彼女の言っている事は思い込みであり、固定概念でしか無い。
それは襲い来る魔物を迎撃するために、魔力をできる限り温存するために生まれた教訓。
生き残るためには正しい事であり、多くの犠牲の上で生まれ出た先人達から引き継がれた教え。
別にその考え方を否定する気はないけど、何でもかんでも当て嵌めるのはおかしいと言わざるを得ない。
無論、安全と言っても絶対ではないし、内部の犯行もゼロではないから、彼女の言う通り、身の安全のために最低限は残しておく必要はある。
結局、いくら守衛や警備の人間がいようとも、最終的に自分の身を守るのは自分だから、そこまで魔力を使い切れと言うつもりもないし、私も魔力を使い切るつもりはない。
「それに私だって最初から、あそこまで魔法で出来ていた訳じゃないわ。
一つ一つ増やして出来るようになっただけ、魔力制御の鍛錬の一環としてね」
「そ、それは……。
……でも、そんな事を一々事やっていたら、魔力なんてすぐに枯渇してしまうじゃない」
だから、一つ一つ突っ込まれると答えられなくなる。
当然だ、意味も分からずそう言うものだと、妄信していたのだから。
あと、あまり言いたくはなかったけど……。
「魔力切れなんてした事が無いから、その気持ちは分からないわね」
「っ!」
「あと貴女の魔法は無駄が多すぎるのよ。
魔力の殆どが魔法へと転換されずに、空中へと還っていっているって気がついている?
魔力制御だってそう、体内の魔力循環が未熟だから、魔力が体の外へと漏れて無駄に魔力を疲弊させるのよ」
別に私だって親切心だけで、彼女の魔力制御の鍛錬に力を貸していた訳じゃ無い。
この世界の一般的な魔導師としての教育を受けたジュリ、その魔力の流れや制御を肌で感じ取りたかったから。
魔力の強い彼女に、覚えたばかりの魔力感知の練習相手になって貰いたかったから。
ええ、利用ですよ。それが何か?
もしこの事を問われても、私は平然とそう答えるつもりだし、それを恥だとは欠片も思っていない。
「最近、やっと他人の魔力の流れを感じる事に慣れてきたからね。
そう言う意味では、ジュリエッタさんは、いい観察対象だったわ」
「……そう」
だから、こうして正面からその事を、彼女に告げる事ができる。
これが彼女との最後の食事になろうともね。
だけど彼女の発した言葉は、私の想定していたどの言葉でもなく。
「前から思っていたけど、貴女って本当に不器用ですわね」
「そうですか?
結構、昔から何でも卒なくこなせる方だと思っていますよ。
体力面以外は、ですけど」
「そうね、何でも一人で出来てしまうから、生き方が不器用なのね」
「そんな事、初めて言われましたけど」
「そうかしら?
似たような事を言われた事ないの?」
そんな事を言われても、基本的にボッチの私にそんな事を言う人間など限られている。
家族か数少ない知り合いかぐらい。
家族は……、うん色々心配はされていたのは事実かな。
腹黒神父様は放置として、新婦予定のライラさんには……、色々見抜かれてあの晩に色々言われたし言わされた。
コッフェルさんには、思いっきりヘンテコ扱いされてはいたけど、……まぁ危なっかしいみたいな事は言われたか、肝心の何がどう危なっかしいかは言ってくれないけど。
親友のエリシィーには、よく我慢しているとか、無茶ばっかしているとか怒られてはいたけど、色々と甘やかさせてもくれたし、……そう言えば冗談で私を守るとか、一人にしておけないとか言われた気もする。
もしかして、あれって、そう言う事だったのかな?
「……言われてたかも」
「でしょうね。
言われた本人が自覚していないだけでね。
あとジュリで良いと言いませんでしたっけ、私は貴女の知り合いというか、友達を辞める気はありませんわよ。
何があったか知りませんけど、疲れているから変な事を考えるのよ。
この話の続きは明日にでもして、今は素直に美味しい食事を楽しみましょう。
全く何でこんな話になったのかしら」
それは美味しい食事の話をしていたからですが。
なんで、そういう事を言うかと言われても、本当の事だし。
ちなみにこの後の出すデザートも、魔法がなければ作れないデザートですよ。
そうですね似たようなデザートはありますけど、この暖かい時期に冷やすための氷は魔法で作られたものですよね。
一層の事、美味しい料理と魔法の関連性の話について話してみません?
やれるやれない関係なしで、こうできたら、こう美味しい料理が出来たり、楽に出来たりしないかとか。
ほら、魔法の応用性の研究と思えばおかしくはないでしょ。
この後、パンやパスタの生地を練る事と、卵白を泡立てる事については、互いに魔法を使う事その物には相互理解が出来たとだけ。
身体強化を使うか、力場魔法を使うかには意見が分かれたけど。
おかげさまでブックマークが二百件に達しました。
ありがとうございます。




