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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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10.これぞ自爆魔法! そんなの嫌ですっ!





 楽しい家族旅行も終えた明くる日、そろそろ新しい事に挑戦してみようと考えていた。

 無論、魔力制御の練習はこれからも続けてゆくつもりではあるけど、最近は慣れてきたせいか、練習メニューを消化するのに、そう時間が掛からなくなったと言うのもある。

 仕方ないので、何セットも繰り返していたのだけど、やはり人間同じ事をひたすらに同じ事を繰り返すと飽きがくるもの。

 そんな訳で次に考えたのが、魔法を放つ事。

 ええ、何を言っているか分からないと思うけど、そのままの意味です。

 まだ扱える数は少ないけれど、魔法でいくつかの現象を引き起こせるようにはなった。


「……あの時は本当に焦った」 


 つい先月の事だけど、魔力制御にある程度自信が持てたので、いよいよ攻撃魔法に挑戦してみようと、屋敷を抜け出して誰もいない河原でやってみたのだけど、これが大失敗。

 火を強くイメージして魔法を発動してみたら、運動会で使う大玉競技のような火の玉が出現。

 しかもそれが目の前に現れたので、慌てて魔力を虚空へと返して消したものの、前髪が焦げてしまい、後で少しだけこっそりと切る羽目に……。

 次は流石に怖かったので、比較的安全そうなコップ魔法を制限せずに発動。

 ……ええ、ポリバケツ数杯分の水を被り、一瞬溺れかけました。

 濡れた服を乾かそうと風魔法を……とりあえず怖いので少しだけ威力を抑えたけれども、六歳児の小さく軽い身体にはそれでも足りず、強風で吹き飛びましたよ。

 他にも挑戦してみたけど、結果は散々。

 結局、びしょ濡れのまま家に帰って大目玉な上、二日ほど寝込む羽目に。


「……今、思い返せば水で止めておけば良かった」


 魔力制御のおかげでとっさに威力を抑えたり、魔法を消したりできたから良かったけど、そうでなかったら大事になっていたかもしれない。

 とりあえず漫画やゲームの感覚で攻撃魔法だーーーっ!

 て言って挑戦して散々な結果だったのは、良くはないけど良かった事とする。

 何故なら、攻撃魔法を放つためには、重大な問題点がある事を見つけられたからだ。

 それはさっきも言ったけど魔法を放つ事。

 魔法を発動させる事ではなく、魔法を放つ(・・)事。

 これは似ているようで全くの別物であり、思い返してみれば、魔力制御の練習や威力を思いっきり抑えた生活魔法は、全て手元で行っていた。

 でも攻撃魔法は、その魔法を遠くに放たなければいけないのだけど、魔法の発動は体から離れれば離れるほど難しくなり、やがて発動すら出来なくなる。

 逆に言うと威力のある攻撃魔法を発動するには、自分に近ければ近いほど威力が高くなると言う事になる。

 そしてせっかくの高威力の攻撃魔法も、手元でしかその威力を解き放てないのであれば、そんな物は攻撃魔法ではなく自爆魔法だ。

 私には、そんな自傷行為に喜ぶ趣味はない。


「投げれるって言う物ではないし」


 炎や水なんて物は幾ら魔力で手を覆っていても、手で掴めないから当然の事で、その事は野球ボールぐらいの光球魔法で実証済み。

 手では掴めないし、投げようと腕を回しても揺れるだけ。

 そこで思い出したのが八つの系統のうち一つである【無】属性の魔法

 これは身体強化や防御、そして物の運搬によく使われるらしい。

 この運搬を利用して魔法を運べば、魔法を放つ事にならないだろうかと思い至った。

 使い方に関しては、例によって芸術的な感覚的表現で記載されていた本の中から、それらしい文の物を試行錯誤の予定。

 そんな訳で早速練習開始。

 練習には使うのは、安心安全で使い慣れたピンポン球サイズの光球魔法。

 今では両手の指に一つずつの光球を出せるし、足先にも出せるようになったので、夜中にお手洗いに行きたくなっても安心です。


「光よ」


 言葉とともに浮かび上がる光球。

 呪文は唱えなくても魔法は発動するけど、気分の問題でノリが欲しい時には唱えたりする。

 右の掌の上に浮かぶ光球は、その掌との距離は十センチ程。

 光球が発生する瞬間は一瞬だけど、その瞬間は空中の意識した空間から生まれており、手の平の中から飛び出た訳ではない。

 他の魔法もそうだけど、実際にこうして手の平から離れている訳だから、ゼロ距離である必要はないようだ。

 でも距離を空けようとすると。


 ぽんぽんぽん…ぽんっ…ぽんっ……ぽん………。


 真っ直ぐ伸ばした腕の先に、次々とピンポン玉サイズの光球を生み出す。

 だけどそれは、五十センチぐらいのところから時間が掛かるようになり、一メートルぐらいのところで発動できなくなる。

 多分、これが今の私の魔法発動の限界範囲なのだろう。

 生まれた光球も、距離が離れるにつれて揺らいでいる。

 動くイメージを送っても、当然ながら動かない。

 ここまでは敢えて意識していなかったけど、分かっていた事でもある。

 でも、分かっていた事であっても、意識的に行い検証する事は大切。

 だから、一度光球を全て消して、指先に一つだけ光球を生み出しては消してを繰り返してみる。


 この世界の魔法は想像の産物。

 魔力を燃料に想像でもって創造するもの。

 多分、そう言う事で間違っていない。

 なら放出するイメージで創造する?

 忙しく駆け回る光球のイメージ……。

 もう一個光球が生まれただけでした。

 しかも存在が不安定で消えてしまう始末。

 うーん、今度は左手で違う魔法として、ドライヤー魔法を使ってみる。

 左手から生み出される暖かい風とともに白い髪が後ろに靡く。

 この風って空気が動いている訳だから、一種の運搬魔法だと思うんだけど、使い慣れた前世の家電器具のドライヤーのイメージが強固のせいか、アッサリと習得できた代わりに、いまいち理屈が不明な魔法。

 書物に乗っている風属性の魔法は強風で相手を吹き飛ばしたり、竜巻を発生させたり、鎌鼬で相手を切り刻んだりと物騒だけど、逆に言うとそれ以外は見当たらない。

 もっとも私が使うような生活魔法は、普通は書物に載らないと思うし、敢えて載せようとする物でもないだろうから一概には言えない。


「となると別のアプローチが必要か」


 前世の漫画やゲームの中の知識だと、移動系と言うと瞬間移動や飛翔魔法。

 いきなりそんな高等な魔法は使えないし、この世界にあるのかすら怪しい、なにせ魔法関係の書物にも伝説級の魔法として記載されているからね。

 となると……、少し違うかもしれないけど念動力か。

 魔法ではなく超能力ではあっても、不思議パワーという意味では同じ事。

 でも、念じても駄目なのは実証済み。

 まぁ練習が足りないだけかもしれないけど、今の私の魔力制御能力なら、それらしい兆候が少しくらい出てもいいはず。

 うーーーん、絶対に方法はあるはずだけど、どうしたものか。

 思考が行き当たって思わず髪をガシガシと描き毟る。

 前世での癖なんだけど転生後も治らないなら、一生治らない癖かもしれないと、場違いな事をと考えてしまう。

 

「ぃっ」


 走った小さな痛みに、思わず呻く。

 白い長い髪の毛が一本指に絡まって抜けてしまった。

 正直、長い髪が鬱陶しいと感じる時があるけど、この世界では若い娘が髪を短くするなど、普通は考えられない事らしい。

 貴族なら尚更の事だし、鏡を覗く度に切るのはもったいないと思う自分もいる。

 屋敷の外を出歩けば、奇異の目に晒されているアルビノの私だけど、そんな事を気にする自分ではないので、そう言う意味では自分のアルビノ特有の容姿は気にはならない。

 客観的に【相沢ゆう】の視点で見ればそれなりに整った容姿と、幼女特有の愛らしさは、我ながら素直に可愛いと思うし、短い髪より長い髪の方が似合うと思うからだ。

 ただし、……鏡に写る自分の横に、同じ服を着た前世の自分を幻視しなければだけどね。

 何にしろ、この癖を本格的に改めないと、そのうちハゲが出来たら家族に泣かれそうだ。


「ん〜……」 


 ふと指に絡み付いた髪の毛に目に付く。

 昔、どこかの子供にお婆さんみたいと揶揄(からか)われた白い髪は、年配の白髪と違って、細くとも艶やかでハリがあり、ゆったりとした三つ編みをしていれば、高級な絹糸のようにも見える。

 もっとも、今、気になったのはそこではなく別の事で、抜けた髪の毛は五十センチ、……いや六十センチ程の長さ。 


 プチッ。


 もう一本髪の毛を抜いてみる。

 同じくらいの長さ、合わせれば一メートルと二十センチ?

 ああ、結び目があるから少なく見積もっても一メートルと十センチほど。

 物は試しで、二本の髪の毛を結んで真っ直ぐと床に敷いて、その先端部分に指を当て。


「光よ」

 ぽんっ


 音が出そうな勢いで大きな光球が生まれる。

 その発動中心距離は、先ほどの一メートルの限界距離を超えた先。床に敷いた髪の毛のもう片方の先端だ。

 髪の毛は私の体の一部であり、その髪の毛の長さの分、魔法の発動距離は伸ばす事が出来たけど、この方法には問題もある。

 もしこの方法が正しいのであれば、世の中の魔法使いは全員禿げている事になるし、髪の毛が無くなったら攻撃魔法が放てない事になる。

 つまり髪の毛を使う事は正解ではあるけど、魔法を使って行くという点では不正解な解答だ。

 ただ、此処にヒントがある。

 髪の毛を通しての魔法の発動。

 髪の毛に通したのは魔法か?

 いいや違う。

 通したのはあくまで魔力そのもの。

 では、此処数ヶ月を振り返ってみる。

 只管練習を繰り返し磨いてきた魔力制御、それはどんな方法だったか?


 魔法の燃料である、魔力を引き出すための魔力循環訓練

 魔法の威力を制御するため、魔力出力調整の訓練。

 複数の魔法を同時に使うために必要な、魔力回路の訓練。


 大きく分けてこの三つ。

 そして、二つ目と三つ目の訓練の元になったのは何だったのか?

 それは魔力を糸のように細くして、魔力に強弱をつけた事から始まったけど、基本的に全て体内で行なってきた事。

 ならば、それを外に出せないか?

 魔法は基本的に外に発するものだから、決してできない話ではないはず。

 だから今度は床に敷いた髪の毛のすぐ横に、魔力を通してみる。

 この世界の魔法の発動には想像力の強さが要。

 だから其処に髪の毛があるかのように幻視しながら、魔力の糸を指先から押し出す様子を幻視する。


 ずずずっずず。


 いつかと似たような感触。

 ゆっくりと泥の中に棒を突き込むような手応えに自然と笑みが浮かぶ。

 目に見えないけど、確かに其処にある存在を感じ。

 幻視すればする程に、手応えは強くなる。

 やがて髪の毛と同じくらいになった魔力の糸。

 

 ……、……ぽっ。


 今度は呪文など必要ない。

 幻視するほどの確かな手応えに、呪文という名の掛け声など不要だからだ。

 とりあえずは遠距離での魔法の発動は成功。

 でも、これだけでは何ら意味のない実験。

 何故なら魔法を発生する場所が、少しだけ距離が伸びただけにすぎないからだ。

 練習は必要だけど、魔力の糸はまだまだ伸ばせそうな感触はある。

 でも魔法を発動させる場所も伸ばせそうかと言うと、やはり厳しいと思う。

 確かに髪の毛を使わずに魔法を発動させる事は出来たものの、発動させる時の感触の手応えが弱かった。

 つまり魔法を発動させる距離は、それほど伸ばせないと言う事。

 おそらく発生場所との距離が空き過ぎて、魔法の設計図となるイメージが伝わり難くなるのだろう。

 詳しい理屈は分からないけど、とりあえず今はそんなところと思っておく。

 肝心なのは魔力の糸。

 今回はイメージしやすい糸と考えたけど、この糸の形になる前は放出された只の魔力。

 

「……つまり力場(フィールド)


 そう考えれば納得がいく。

 どこかの狩人二乗の漫画に出てくる【念】でも良いけど、とにかくそんな感じ。

 魔力の循環を体内だけでなく外にまで伸ばせば良いのだけど、そんな事をした日には今度は魔力切れを起こす心配が出てくる。

 もっとも魔力切れを起こした事はないので今のところ心配ないけど、書物には魔力切れを起こすと頭痛と吐き気に襲われたり、気絶をしたりすると書かれている。

 ただでさえ病弱なのに、そんな三重苦はなるべくなら御遠慮願いたい。

 なら、もっと単純に考える。

 

「光よ」


 もう一度、光球を生み出すけど、今度はバスケットボールサイズのもの。

 それに魔力の糸を絡みつかせて伸ばしてみる。

 やがて魔力の糸に押されるようにして光球が動き出す。

 まだ慣れない魔力制御に四苦八苦しながらなので、虫が這いずるような遅さだけど、今まではいくら念じても動かなかった光球がゆっくりと遠ざかり、やがて部屋の壁際まで移動した。

 距離にして五メートル以上は動いた事になる。


 「…ぉぉっ」


 上手く行った。

 そして魔力の糸を消すと同時に光球も消える事からして、魔法を維持するための力場が消えたからだろう。

 その証拠に魔力の糸を絡めた場所から離れたバスケットボールサイズの光球は、距離が離れるほど消えてゆき、球ではなく円盤の形になっていた。

 魔法を本来の威力で維持するためには、糸や紐の輪ではなく包む必要があると言う事だ。

 その事からして、力場(フィールド)という概念は間違っていない事になる。

 なるほど、この世界の魔法というものが、だいぶ分かってきた気がする。

 この世界の魔法は力場(フィールド)の中で発生する。

 基本的に術者の周辺には無意識に形成された術者固有の力場(フィールド)があり、術者はその中で魔法を生み出す。

 魔法を遠くに放つには、その力場(フィールド)の形状を変化さて、発生させれば良いのだけど、発動させる魔法の設計図であるイメージは遠くに飛ばせない。

 だから近場で魔法を発生させて、別の力場(フィールド)でそこまで押し出し、留めていた魔法の威力を解放する。


「……とどのつまり、魔力の紐で魔法をぶん投げるようなものね」


 何と言うか、身も蓋もない脳筋魔法だ。

 脳裏にカウボーイの投げ縄が浮かんだ事は、心の奥底に押し込んでおく。






2020/03/01 誤字脱字修正

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