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ミッション86 再び登場!兎頭のマッチョメン・・・!?



「(くっ、しまった・・・!みすみす新しい怪人を生み出させてしまった・・・!)」


 大量の白煙の中で立ち上がった、赤褐色且つ筋肉質の肉体を持つウサギ頭のマッチョメンの姿を目にした御城は、すぐにそれがディーナのペットであるピョン太郎を元に怪人化した野良怪人であることを見抜いていた。

 そしてその現象を引き起こしたのが、先程光線を放ってきた黒いサンタクロースである事も。


「チッ・・・!まさか、例の()()()()()()()()()がこんな所にいるなんて・・・!」


 御城は黒いサンタクロースの正体を知っていた。

 なにせかの存在を発見次第早急に討伐するようにと、ヒーロー連合協会から一定の序列以上のヒーロー達に指示が出されていたからだ。

 その理由としては、先程御城が呟いた”怪人を生み出す怪人”というのが関係していた。

 そう。御城の目の前でフワフワと浮きながら、キシシシッと笑っている黒いサンタクロースは、初めてその存在を確認した八十年前から今日に至るまで数多の怪人達を生み出してきた怪人なのである。

 その大半が野良怪人であり、この世界で世間一般に知られている『野良怪人化』が、かの怪人が原因であるという事はヒーロー連合協会も含めたあらゆる組織が知っている事実だ。

 ・・・・・・ただし、無用な混乱を避けるために一般にはその情報は規制されていたが。

 ヒーロー連合協会が付けた黒いサンタクロースの名前は『ブラックサンタ』。見た目そのままというか安直な感じだが、付けられた意味合いとしてはそれだけでない。世間一般で知られているサンタクロースがプレゼントという幸せを運んで来れる存在であるとすれば、こちらは怪人という不幸を運んで来る存在という、そんな皮肉も込められていた。

 ブラックサンタの戦闘能力に関してだが、ヒーロー連合協会が調べた限りではハッキリ言ってまるでない、戦闘力ゼロである事が分かっている。

 過去のデータでは物理攻撃をしてきた事もあったそうだが、人形の様な見た目通りと言うか、中に綿が詰まった様な感じに物凄く柔らかくて、全然、まったく、これっぽっちも痛くも痒くもなかったらしい。

 それだけでなく、そん所其処らの子供にさえ簡単に倒されて捕まってしまったという事例もあり、貧弱と言う言葉じゃ足りない程弱い事が判明していたりする。

 具体的には、ブラックサンタが能力で空を飛んでいた時に偶然子供達が投げたボールが直撃し、それによりかの怪人は地面に墜落して気絶。その後、倒れているブラックサンタを見つけた子供達の一人に拾われてお持ち帰りされてしまった、みたいな感じに。

 ・・・・・・まあその後、お持ち帰りされてしまったブラックサンタはすぐに目を覚まして転移能力を使い、その子供の下から逃げ出しているのだが。

 だが、同時に疑問に思う事だろう。それ程までに弱いというのに、何故今日に至るまでヒーロー達に倒されることがなかったのかと。

 その理由はブラックサンタが持つ能力が関係していた。

 かの怪人が持っている能力は二つ。一つは一定の高さまで飛ぶ事が出来る飛行能力。そしてもう一つが、様々な場所へ瞬間移動する事が出来る転移能力だ。

 これらの移動系の能力によりその存在を発見してもすぐに見失ったり、あと一歩まで追い詰める事が出来ても一瞬の隙を突いて逃げられてしまったりと、ヒーロー連合協会及びその指示を受けたヒーロー達は今もブラックサンタを倒すどころか捕まえる事すら出来ないでいるのである。


「(さっきまでいなかったのに突然現れたということは、おそらく例の転移能力を使ったからなんだろうが、なにも今此処に現れなくてもよかっただろうに・・・!)」


 御城がそう思ったのは、今いるこの公園が知り合いと合流する予定の場所だからというのもあったが、御城にとって色々と恩を感じている人物であるディーナが偶然とはいえこの場にいるからだ。

 正直な話、彼女をこの場から早く逃がしたいと思っていた御城であったが、しかしそれは同時に悪手であることも彼は理解していた。

 その理由は、今もブラックサンタが手に持っている玩具の様な見た目の銃であった。

 先程ピョン太郎が怪人化した事から分かる通り、アレは光線に当たったモノを怪人化させるアイテムだ。しかもその対象は生物非生物を問わない。

 極論を言えば、そこら辺にある路端の石ころすらも怪人とする事が出来るのだ。それがどれ程厄介でヤバイのかは詳しく言わなくても察せられるだろう。

 例えるなら、ある日突然周囲にある無害なモノが爆弾に変わるようなものだからだ。

 ―――そして、その銃と先程説明した移動系能力が合わさったらどうなるか、想像力のある人間なら簡単に思い付くことだろう。

 そう。転移能力で何処かに唐突に現れてはそこで目についたモノを怪人化するといった行為を繰り返すことで、様々な場所に大量の怪人を産み出すといった事が出来るのだ。

 実際、これまでに何度もそういった事が行われており、数多のヒーロー達があっちこっちで奮闘させられる羽目になっている。

 御城もその事件の一つに関わった事があり、その時は二百体もの野良怪人がたった一時間の間に出現したこともあって、対処に多大な苦労をさせられた。

 そしてここでディーナをこの場から逃がす事が悪手になるという話に戻るのだが、要は例え彼女を逃がしたとしても先回りされる可能性が高く、最悪の場合は対象を怪人化させる例の銃によって彼女が野良怪人にされかねない。

 そうなるくらいなら、自身の傍に居てもらった方がいい。そっちの方が守りやすいし対処もしやすい。


「(アイツの移動系の能力はなんてことはない、さして脅威とならないモノだが、それにあの色んなモノを怪人化させる銃が合わさると厄介どころの話じゃすまない。せめてあの銃だけでもどうにかすれば危険度は一気に下がるんだが・・・)」


 自身とブラックサンタの間にある距離は大体十数m。ヒーロースーツを身に纏っていない今の状態でも一息で十分に辿り着ける距離だ。さらにかの怪人がキシシッと笑って油断しているのも加味すれば、おそらくそのまま倒してしまう事も不可能ではないだろう。

 ―――不確定要素が無ければの話だが。


「(問題はあの兎頭のマッチョだ。アイツがどう動くのか分からないから動くに動けない・・・!)」


 顔はブラックサンタに向けながら視線だけを怪人化したピョン太郎に向ければ、なにやら変化した自身の姿に戸惑っているような様子を見せていた。

 突然ただの兎から怪人となってしまったのだ。そのような反応になるのも無理はないだろう。

 ・・・ただ、何故か時折フンッ!フンッッ!!といった感じにポージングをしているようだが。

 ギチギチと鳴り響く筋肉のしなる音がいっそ生々しい。


「(それに加えて、どんな能力を持っているのかが怪人化したばかりだからまるで分からないのも痛い。場合によってはあっち以上に警戒する必要があるかもしれない)」


 野良怪人は大抵一つ、多くて二つの何かしらの能力を怪人化した際に手に入れるが、その手に入れた能力次第ではブラックサンタ以上の脅威になる可能性がある。

 そう考えた御城はどちらかが、もしくは両方が何時襲ってきても対処できるように身構える。


「・・・・・・ぃ・・・ぃゃ・・・」


「・・・?ディーナさん?」


「・・・ぃゃ・・・ぃや・・・いや・・・!イィィヤァァァーーーッッ!!?」


『ッ!?』


 その時だった。自身の後ろに庇っていたディーナが突如として悲鳴のような声を上げたのは。

 思わずその場にいた彼女以外の全員がビクッ!?となる。

 御城が肩越しに目にした彼女の表情は、恐ろしい何かを目にしたような、もう二度と見たくなかったものを再び見てしまったような、そんな恐怖にひきつったものであった。


「~~~ッ!?!?」


 シュババババババッ!


「ちょ、ディーナさんっ!?いったい何処に行くんだディーナさぁんっ!?というかめっちゃ足早ッ!?時速何kmあるんだアレッ!?」


 そして彼女はクルリと踵を返すと、物凄い勢いで駆け出した。

 それはまさしく全力疾走。見紛うことなき猛ダッシュ。

 見ていた御城が思わず「え?それ本当に人間が出せる速度なの?脚力どんだけなの?」というツッコミを入れたくなる程の速さであった。


「ウサッ!?ウサウサウサウサウサァァーーッ!!」


 ギュピーンッ!ズダダダダダッ!


「って、お前も行くのかよっ!?つぅかこっちも足早ェッ!兎だからか?兎だからなのかっ!?」


 そんな彼女を追い掛けるように兎頭マッチョメンことピョン太郎もまた走り出した。

 最初はディーナが上げた悲鳴のような声に、ビクゥッ!?と驚く様子を見せていたが、その場から逃げるように駆け出す彼女の後ろ姿を見た瞬間、両目に赤い眼光を携えて、覇気が感じられる野太い声を上げながら、全力全開フルスロットル!と言わんばかりに両足を動かして駆け出したのだ。

 その様はまさに「ターゲットロックオン。狙った獲物は逃がさない・・・!」なんて、そんな言葉が聞こえそうな感じであった。


「・・・え・・・えぇ・・・・・・」


 思わずといった風にディーナ達が走り去ってしまった方向に緩く手を伸ばしながら呆然と佇む御城。

 その場にヒュー、と寂しさを感じさせる木枯らしが吹いた。


「(くっ・・・彼女達を追い掛けるべきか?いやだが、コイツ(ブラックサンタ)を野放しにしておくのはそれはそれでマズイ。目を離した隙にやたらめったら怪人を産み出されでもしたら周辺への被害が馬鹿にならない・・・!くそっ、どうする・・・!)」


 グッと拳を握った御城は、自分はどう行動すべきかと考える。

 本音を言えば今すぐにでもディーナの事を助けに行きたい。だがそうなると、今も現在進行形で光線をあっちゃこっちゃにブッ放しているブラックサンタへの対応が―――より正確に言えば、ブラックサンタが産み出す怪人への対応ができなくなる。

 その事を考えると、この場から離れるという選択肢を選ぼうにも選べない。


「・・・・・・って、ん?()()()()()()()()()()?」


 どうするべきかと悩んでいた御城であったが、そこでふと何かがおかしい事に気づいた。

 タラリと嫌な汗を一筋垂らしながら振り返れば、そこには公園の至る所に光線を放っているブラックサンタの姿が・・・!


「キシシッ!」


 ビビビッ、ビビビッ、ビービビーッ!


「・・・いやお前何やってんのぉぉっ!?!?」


「キシッ・・・?」


 御城はツッコんだ。そりゃあもう心の底からツッコんだ。

 なにせ考え事をしている間に何時の間にか当たった対象を怪人化させる光線をブッ放されていたのだ。そりゃあそう叫びたくもなるだろう。

 放たれた光線は公園内にある様々なモノ当たり、怪人化を始めていた。

 草木はバキバキと音を立てながら獣の姿を形取る。

 ベンチは周りにある土や石を集めて人型を形成する。

 遊具は地面の下の土台ごと地面から抜け出たかと思うと、転がって他の遊具と合体していき、歪な球形となる。

 自販機はガションガションと、それ物理法則どうなってるの?とツッコミたくなるくらいに変形を繰り返し、最終的には戦車のような見た目となった。


「くそっ・・・!」


 その他にも様々なモノが御城の目の前で怪人化していく。その数は目算ではあるが、明らかに十や二十では済まない。

 最早ディーナの事を助けに行くかどうかで悩む余裕などない。今はそれよりも、ブラックサンタが産み出した怪人達の対処を優先しなければならない。

 そう判断した御城はザッと地面を踏み締めると、ズボンのポケットから変身アイテム―――先端に六角柱の形をした緑色の石の様な物が付いたボールペンサイズの長さ且つ指一本から二本分くらいの太さの棒を取り出した。


「(すまない、ディーナさん。コイツ等を倒したらすぐに助けに向かう!どうかそれまでの間、無事でいてくれ!)」


「―――変身!」


 此処にいないディーナに対して心の中でそう謝りながら、御城は右手に持った変身アイテムを頭上に掲げ、左手を腰へと引き寄せるポーズを取ると、覇気を込めて、声高らかにそう叫んだ。






次回は1/22に投稿予定です。

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