ミッション85 黒いサンタが現れた・・・!?
「そうですか、例のお子さん、まだ見つかってないんですね・・・」
御城さんの隣に座り、足下にピョン太郎の入ったペットキャリーを置いた俺は、彼の話を聞いてそう言葉を零した。
なんでも御城さんの話では、これまでに日本全国に存在する一五〇もの悪の組織や秘密結社を壊滅させてきたらしいのだが、その何処にも探している親友のお子さんの姿はなく、またその手がかりも手に入れることが出来なかったらしい。
・・・というか、この人サラッと言っていたけど、そんだけの数の悪の組織や秘密結社を潰せるなんて、いったいどんだけ強いんだろうか。しかも話的にここ二、三ヶ月の間っぽいし、そんな短期間の間になんて、有能なんて言葉じゃすまないと思うんだけど・・・・・・!?
「ああ・・・でも、それは無駄じゃなかった。おかげであの子を連れ去ったであろう悪の組織が何処なのか、だいぶ絞り込む事ができた。俺が壊滅してきた所は、どれも凶悪犯罪を主導していたり、その片棒を担いでいた連中ばかり。そいつ等を片付けた後、残るは未だ本格的に活動していなかったり、活動内容的に被害があまり大きくなることがない中小規模の連中だけ。そいつ等のアジトにカチコミを掛ければ、おのずとあの子の事を見つけることが出来ると思う」
そう語る御城さんの瞳には希望の光を携えていたが、しかし鋭く細められたその目は、傍から見れば獲物を前にして集中する猛禽類の様にしか思えない。ぶっちゃけめっさ怖いです。
・・・というか、あれか?もしかして今度は俺が今所属している悪の組織アンビリバブルの様な所が彼のターゲットにされるのだろうか?
・・・・・・出来れば来て欲しくないなぁ。知り合いだからというのもあるけど、どちらかと言えば短期間の内に一五〇もの、しかも結構大規模な所ばかりを壊滅させた人と戦うなんて命が幾つあっても足りないと思うし。
「えっと、その・・・無理しないでくださいね?」
「ああ、大丈夫。今は体力のペース配分をしっかりと考えて動いているから。今もこうしてのんびりしているのも、次の悪の組織を壊滅させるための休養期間の様な物だしね」
「そ、そうなんですね」
内心でちょっと引きながら無難なセリフを言った俺だったが、それに対して返された御城さんの言葉に思わず頬を引き攣らせた。
そのまましばらくの間お休みくださいお願いします、いやマジで。
「もう一つ付け加えるなら、俺は今、知り合いを待っている最中でもあるんだ」
「知り合い、ですか?」
「ああ、同業者でね。何でもあの子に関する手がかりを掴んだらしいんだ」
「えっ、それ本当なんですか?」
「うん。軽く概要を聞いただけだけど、どうやら何処かの悪の組織に連れ去られたらしい。それもあまり規模の大きくない所に、ね。詳しい話はこれから合流してから聞く事になっているんだ」
そう語りながら、フッとした笑みを浮かべる御城さん
彼の話を聞いた俺はちょっとだけ驚きの声を上げた。まさか本当に悪の組織が関わっていたとは思っていなかったからだ。
「(う~ん、あまり規模の大きくない悪の組織や秘密結社かぁ・・・・・・そうなると結構な数があるなぁ。俺の知る限りでも、確か百くらいはあった筈だし。それも東京やその周りの都道府県だけで。・・・でもその大半はなんていうか、どいつもこいつも人畜無害な連中ばっかりなんだよなぁ)」
内心でそう言葉を零した俺だったが、しかしその後すぐに「でも、彼等がそんな事をするだろうか?」と首を傾げた。
なにせ、俺の知る限り中小規模の悪の組織や秘密結社は無闇な破壊活動を行った事がないし、これまで行ってきた犯罪行為も大抵が軽犯罪なモノばかり。”打倒ヒーロー!”とか”一国を征服する!”なんて御大層な目的を掲げたりしている所もあるにはあるが、そういった所もやってる事は実質ご近所付き合いみたいなそんな感じだ。
いやまあ、中にはテロリスト染みた連中もいたりするが、実はそういった連中は日本国内には殆ど存在していなかったりする。
それは日本の警察が優秀で、不穏な活動をしている者を見掛けたら即摘発したり、しょっ引いたりしているからというのも理由の一つだが、もう一つの理由としてはそのテロリスト染みた連中とは別の悪の組織や秘密結社が睨みを効かせ、時に壊滅させているからだ。
何故彼等がそんな事をしているのかと疑問に思う者もいるかもしれないが、理由としては至極簡単であったりする。
これはブレーバーから聞いた話だが、何でも大体の小中規模の悪の組織や秘密結社には彼等なりの都合やポリシーの様なモノがあるらしいのだ。特に日本国内に存在するのはその傾向が強いらしく、テロリスト染みた連中の活動はそれ等に抵触する事が多い為、自分達の活動を邪魔されては堪らないとばかりに積極的且つ組織間で協力して狩り尽くしているのだそうだ。
一度それを行っている時の実際の映像を見せてもらったが、思わず唸るくらいには凄い物だった。つい、「こんなに連係プレイとかが上手いなら、悪の組織としての活動でも実際に手を組んでやれば効率とか良いだろうに」と思わず呟くくらいには。
だが、そんな俺の呟きに対してのブレーバーの答えは「それはそれ、これはこれ」というものだった。
なんでも別に敵対している訳ではないらしいのだが、どちらが先に目的を達成できるか、といった感じに競争の様な事をしているが為にその選択は取れないのだそうだ。
要は、悪の組織や秘密結社としての意地の様なモノであるらしい。
「(だからこそ、あの連中が誘拐なんて事をするとは思えないんだよなぁ。・・・いやまあ、勧誘とかならワンチャンあるかもしれないけど)」
どちらかと言えば、さっきも取り上げたテロリスト染みた組織とか、大規模な組織の方がやる可能性が高い。前者は言うに及ばず、後者は組織の規模が大きくなるにつれて末端の連中が段々と勝手をするようになるという理由からだが。
でもまあ、少なくともウチの組織はやってないだろうと俺は思っていた。なにせ、俺が所属している悪の組織アンビリバブルは世界征服を目的として活動はしているが、実際に行っている活動は「え?本当に悪の組織なの?」と思うものばかりだからだ。
唯一それっぽい事があったとすれば、『鉄拳校長』が運営していた私立の小学校を倒壊させた事件くらいだが、あれはどちらかと言えば、件の小学校が欠陥建築で建てられていた事と、偶々その小学校にいたヒーロー兼教師として働いていた人物―――女教師ヒーロー『ウィップティーチャー』の攻撃の余波が直接的な原因であって、自分達は件の小学校が欠陥建築であるという事を暴いただけ・・・・・・いやまあ、件の女教師ヒーローが攻撃を放つ切っ掛けになってはいるので間接的に関与しているとは言えるが、精々がそれくらいなのである。
そういった悪の組織アンビリバブルのこれまでの活動を振り返り、そして実際に組織の一員として活動してきた俺は、だからこそウチの組織が子供を誘拐するなんて事をするとは思えなかった。
なにより、組織のボスであるブレーバーがあまりそういった行為を好んでない事も理由の一旦だった。彼は悪の組織のボスとしては非常に善良というか、人間性や人格が基本的に真っ当なそれなのだ。正直、なんで悪の組織のボスなんてやってんの?と思うくらいには。
「(他に誘拐なんてことをする可能性がある所と言えば・・・・・・考えられるとすれば、あとは野良怪人が集まっている所くらいか・・・?)」
目を瞑り、「ムムム・・・」と唸り声のようなモノを口から零しながら考え事をしていた俺は、ふとそんな事を思った。
『野良怪人』とは、以前にも語った事がある『野良怪人化』という現象によって生物非生物問わず怪人と成ってしまった存在の事であり、彼等は怪人化した際に個体によって様々な能力を得るが、同時にその代償としてと言うか、はたまた対価としてと言うべきか、まるで人が変わったかと思えるくらいに性格が豹変するという特徴を持っている。また、その行動の大半が感情に任せてか、もしくは衝動的にといった感じのものばかりで、理性を保っていたり計画的に行動ができる個体は極一部しか存在していなかったりする。
・・・・・・が、一番厄介なのはその後者の行動ができる個体であり、彼等は感情に任せたり、衝動的に行動する野良怪人達をまとめ、自分達の配下として扱ったりするという。
ただし、ブレーバーが言うには彼等のそれは悪の組織とか秘密結社といった感じのそれではないらしく、どちらかと言えば不特定多数に嬉々として暴力を振るって来る不良集団とか、モラルがゼロに近くなるまで欠如した半グレ―――暴力団等に所属せずに犯罪行為を行う集団のそれがイメージや印象としては近いらしい。
だからと言うか、もしかしたら御城さんの親友の子供はそんな連中に攫われてしまったのではないかと俺は考えたのだ。
「(アイツ等ならやっていてもおかしくはない。実際、昨日もそいつ等が誘拐事件を起こしたっていう話を聞いたばかりだし)」
どうして俺がそんな事を知っているのかと言えば、それは情報屋であり俺達と親しい間柄であるネクロマンサーのペスタさんから仕事の依頼として聞いていたからだった。
なんでも、その連中が起こした事件のせいで彼女が今請け負っている仕事の一つが支障をきたしているそうで、このままの状態が続くと赤字となってしまうらしく、出来ればその前に俺達に連中を如何にかしてほしいと頼みに来たのである。
・・・・・・がしかし、彼女には悪いのだが今の俺達にはその依頼を請け負う事はできなかった。
というのも、現在ウチの組織はボスであるブレーバーも含めてその大半が巨大ロボット建設に全力を尽くし、完成した後に達成感を胸に抱きながら疲労でぶっ倒れていたからだ。
それでなくとも明後日には『悪の組織、秘密結社合同スーパーロボットコンテスト!』に参加する為に泊まり掛けの遠出をするので、そもそもその依頼を受ける余裕がなかった。
その事をペスタさんに説明したら、「あちゃ~・・・タイミングが悪かったかぁ」と彼女は残念そうに肩を落としていた。
「(・・・・・・そう言えば、もし『黒いサンタクロース』を見かけたら教えてほしいとも言っていたっけ?)」
その後で、ふと彼女から頼まれた事も思い出した。なんでも、ペスタさんの言うその『黒いサンタクロース』と言うのが、現在支障をきたしている仕事に関係しているらしい。
ただ、情報屋である彼女でもってしても梃子摺るくらいに見つけるのが非常に困難であるらしく、俺達に頼んで来たのも飽く迄できれば、もし偶然見かけでもしたらといった感じであって、あまり期待はしていない様であったが。
「(まあ、情報屋である彼女でも見つけるのに梃子摺っているんだ。そんなのを俺達が見つけられるとは到底思えないけどな)」
俺は内心でそう呟きながら嘆息した。
そう。情報屋として優秀なペスタさんでも見つけられないモノを俺達が見つけられるわけないのだ。それこそ今みたいに、自分達がいる公園のど真ん中でフワフワと浮かんでいたりしない限りは・・・・・・
「・・・・・・って、ん?」
「(・・・え?黒い、サンタクロース・・・?)」
そこで俺は思わず驚きに目を見開いた。
なぜなら、ペスタさんが言っていた存在が―――件の黒いサンタクロースが俺の目の前でフワフワと宙を飛んでいたからだ。
しかも、その視線は俺達の方を向いていた。というか、目尻が吊り上がった赤く染まっている目で俺と御城さんの事を思いっきりガン見していた。
「・・・キヒッ!キヒヒヒヒヒッ!」
大きさとしては人形くらいというか、両手で抱きかかえられるサイズのそれ。そんな小柄の黒いサンタクロースは唐突に不気味な感じに笑い出すと、左手に持っているプレゼント袋の中に右手を突っ込み、そこから何かを取り出した。
それは一見すれば玩具の銃と思えるモノであった。具体的には戦隊ヒーロー系の特撮で登場する悪役が持つような物をデフォルメした感じだ。
「キッヒーーーッ!!」
そしてその玩具の銃を俺達に向けた黒いサンタクロースは、一際大きな声を出すと同時にその引き金をカチッと引いた。
その瞬間、その玩具と思われていた銃の銃口から、ズビズババババババーッ!!といった感じの光線が放たれた。
「―――はっ?」
まさかそんなのが玩具の銃から放たれるとは思っていなかった俺は、驚きと共に呆けてしまい、思わず体を硬直させてしまった。
「―――危ないっ!」
「うぇっ!?」
だがそんな俺を、隣に座っていた御城さんが覆い被さる様に抱きかかえ、そしてそのまま大きく横っ飛びした。
距離にして数m。だが、十分に放たれた光線を回避できる距離であった。
「あ・・・!?ぴょ、ピョン太郎ッ・・・!?」
驚きの連続で頭が真っ白になり、御城さんの腕の中でされるがままの状態であった俺だったが、しかしその最中にピョン太郎を先程までいた場所に置いたままであった事を思い出した。
反射的にピョン太郎が居る場所に向けて手を伸ばす俺だったが、しかしその時にはもう遅かった。
俺が手を伸ばした時点で既に黒いサンタクロースが放った光線はピョン太郎のいる場所に着弾しており、チュドーンッ!という爆発音と同時に大量の白煙に覆われたところであったからだ。
「・・・あ・・・ああっ・・・!?そんな・・・ぴょ、ピョン太郎が・・・・・・!」
御城さんと共に地面に倒れた後、すぐに起き上がってピョン太郎がいたであろう大量の白煙に包まれている場所を見た俺は、唇をワナワナと震わせた。
ピョン太郎が死んでしまった。そう思った俺は思わずガクリと地面に膝を着いて、絶望感に浸る。
ピョコリッ・・・!
その時だった。白煙漂うその中で白いウサミミがピョコリと立つのが見えたのは。
「ぴょ、ピョン太郎・・・!?良かった、無事だったんだな!待ってろ、今すぐそっちへ―――」
「・・・ウサッ?」
「―――行くから・・・な?」
ピョン太郎が無事だった。そう思った俺は立ち上がり、急いでその場に向かおうとした―――のだがしかし、そこで何かがおかしい事に気づいた。
縮尺がおかしい。幾ら何でもピョン太郎はあんなに大きくはなかった筈だ、と。
そう思った俺は前に踏み出そうとしていた足をピタリと止めた。
「ウサッ、ウササッ・・・!ウッサウサァー!」
「・・・え゛っ!?」
白煙の中でゆっくりと立ち上がったその姿は以前にも見た覚えがあるものだった。
ピンと真上に立った細長い白い耳にキュルンと輝く黒い瞳、そして白いフワフワとした毛で覆われた頭は俺も知ってる可愛らしいピョン太郎のそれだ。
だが、首から下は違う。手足の先や隠すべき大事な所が白い毛で覆われていたが、その肉体は男性ボディービルダーの様な鍛え抜かれた赤褐色且つ筋肉質のそれだった。
その見た目はまさにウサギ頭のマッチョメン。あの動物園の一件でも目にした、あまりにもミスマッチ過ぎる存在がそこにいた。
次回は1/15に投稿予定です。




