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ミッション84 日常の一コマ・・・?

皆様、明けましておめでとうございます。そしてお久しぶりです、kudoです。数話分出来上がったので今日から投稿していきます。

今回はギャグ部分とシリアス部分が半々くらいの構成です。



 唐突だが、皆はピョン太郎という兎の事を覚えているだろうか。

 元々は坂之上動物園という所で飼育されていたのだが、ひょんな事から悪の組織アンビリバブルの女幹部ディーアルナに飼われることとなった雄の白兎の事だ。

 そんなピョン太郎だが、実は今大変なピンチに陥っていた。


「・・・グッ!・・・グッ!グッ!?」


「は~い。それじゃあ、今からお注射を打つからねぇ~」


 ピョン太郎の目の前には白衣を着た初老の男性が立っており、その手には何らかの液体が入った注射器を持っていた。

 注射器の針の先は光を反射してキラリと光り、そこからピュッと液体が軽く噴き出る。


「~~~ッ!?」


 それを目にしたピョン太郎は「ヒィッ!?」と言わんばかりに驚きと恐怖で体をビクッと震わせる。

 そのすぐ後に彼は、その場から跳んで逃げようと考えてか両の後ろ脚に力を入れ、その場から跳んで逃げようとする。


「はいはい。良い子だから逃げないでねぇ~?」


「―――ッ!ッ!・・・ッ!?」


 ・・・だがしかし、逃げられない!

 後ろにいる水色のナース服を着た中年女性がしっかりとピョン太郎の体を掴んで押さえつけていたからだ。


「~~~グッ!ググッ!?」


「おっとっとっ・・・!随分と元気な子ねぇ・・・!」


 「離せ!離しやがれ!!」とでも言いたげに身を捩ったり、前足をわちゃわちゃと動かしたり、時には中年女性の手を蹴り飛ばして何とかその手の中から逃れようとするピョン太郎。

 しかし中年女性の方が一枚上手であったらしい。それらの行動は軒並み封殺され、逆にガッチリとピョン太郎の体を抱え込む様に固定してしまった。


「~~~ッ!~~~ッ!!グッグッグッグッ!!」


 碌に体を動かす事が出来ない状態となったピョン太郎は、せめてもの抗議の意味を込めて鼻を鳴らして警戒音を出す。

 彼の言いたいことを敢えて訳すなら、某バイクに乗って活躍する仮面のヒーロー番組に出て来る主人公が悪の組織に改造されてしまう時に出した悲痛なセリフの様な感じだろうか。なんか今にも「やめろぉ!〇ョッカー!?」なんて声が聞こえてきそうだ。

 ・・・いやまあ、悪の組織の女幹部に飼われている君が言うのはどうかと思うが。


「はい。それじゃあ、ブスッとな」


 ブスッ!チュ~~~!


「キュ、キュ~~~ッッッ!!?」


 そして、そんな状態のピョン太郎の体に容赦なく突き刺さる注射器の針。

 その瞬間彼の兎耳はピンと直立し、液体が体内に入って行く感覚を覚えた際には、その目尻に涙を浮かべながら悲鳴の様な鳴き声を上げた。

 その声を敢えて訳すなら、「アァ~~~ッ!?!?」と言う感じだろうか。なんだかそんな風に聞こえそうな鳴き声であった。








「・・・はい。これで予防接種はおしまいですよ。お疲れ様でした。またのお越しをお待ちしておりますね」


「ありがとうございました」


 受付で料金を支払った後にペコリと頭を下げた俺は、床に置いていたピョン太郎の入ったペットを入れる籠―――ペットキャリーを持ち上げ、そのまま動物病院の外に出た。


「ふう。お疲れ様、ピョン太郎。後は帰るだけだぞ」


「グッグッグッ・・・・・・!」


 外に出た俺は軽く息を吐いた後、道路脇の道を歩きながらペットキャリーを持ち上げ、その中に入っているピョン太郎に目を合わせながらそう言う。

 だが、当のピョン太郎は不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。

 その様子はまるで「嫌だって言ったのに・・・!?」とでも言いたげな不貞腐れた感じであり、そんなピュン太郎の様子を見た俺は困り顔を浮かべつつ思わず苦笑してしまった。

 ・・・そもそも、どうして俺がピョン太郎を連れて動物病院に行ったのかと言えば、それは彼に予防接種を受けさせる為であった。

 ちなみに何の予防接種かと言うと・・・まあ、色んな病気に対してのやつとしか言いようがなかったりする。

 なにせ今回ピョン太郎に打ってもらったのは『パキャラントD型』という物で、それはありとあらゆる動物が病気に罹患する確率を大幅に減らすという薬だ。

 アニマルドクターヒーロー『ドックス』という人物が開発した薬であるらしく、その人物のおかげで様々な動物が病気に罹ったり、死亡すると言ったケースが今までより格段に減ったという話は有名だ。

 特に畜産農家の人々には大変感謝されているそうで、なんでも動物達が薬の効果で動物性ウイルスにも殆ど感染しなくなった事で、病気に罹った家畜を殺処分する必要が格段に減ったかららしい。

 その事から一部界隈では『動物界の救世主』なんて呼ばれていたりする。

 ・・・・・・ただまあ、同時に謎の多い人物としても結構有名であるらしいのだが。

 なにせかのヒーローは”白衣を纏った犬の着ぐるみ”を常に被っているらしいのだ。公の場で働いている時も、裏方で動いている時にもその着ぐるみを脱いだことはないらしく、その素顔を見た者は誰もいないらしい。

 加えて、ヒーローと言われてはいるものの別にヒーロー連合協会に所属している訳でもないらしく、だというのに個人で画期的とも言える薬を開発し、それを瞬く間に民間に広めた手腕は凄まじいと言うほかない。

 なお、どうしてそんな物をピョン太郎に打ってもらおうと考えたのかと言えば、それは明後日から三日間の間、俺達悪の組織アンビリバブルのメンバーは『悪の組織、秘密結社合同スーパーロボットコンテスト!』に参加する為に総出で出かけるからであった。

 総出ということで、当然この前新しく仲間になった隊長モグラや部下モグラも行く事になるわけだが、その話を聞いた彼等は、最初「自分達は留守番していようか?」なんて言う様子が見られた。

 多分、自分達は悪の組織アンビリバブルに入ったばかりの新参者だから、的な感じで遠慮したのだろうが、それに対してブレーバーが「君達は今までずっと耐え忍ぶ生活を続けて来たのだ。こんな時くらい羽目を外しても(ばち)なんぞ当たらないだろう」と言って彼等も連れて行く事を決め、別ルートでコンテスト会場に向かう手筈を整えたのだ。

 その点に関しては凄い部下思いだなと思いはするのだが、そうなると唯一ピョン太郎だけが秘密基地の中で留守番する事になり、その間彼の世話をする人がいなくなってしまうという事になる。

 まあ、なので・・・当然そのコンテスト会場にピョン太郎も一緒に連れて行くという事になったわけなのだが、そこから「出かけた先でもし病気にでも罹ったら心配だ」という話が出て、当然と言うべきか飼い主である俺が急遽ピョン太郎を動物病院へと連れて行く事になったのである。

 ちなみに、他の面々は秘密基地で留守番中だ。・・・いや、あれはもう死屍累々とでも言うべきなのかもしれないが。

 なにせ、つい昨日の夜に、コンテストに出す予定の巨大ロボットを完成させたブレーバー達は、その後に体から力が抜ける様に崩れ落ちて、まるで屍の様に眠ってしまったからだ。

 そんな彼等の対応と看病をする為にメドラディや戦闘員一号、二号が秘密基地で留守番する事になり、唯一アルミィだけは「アタシは姐さんと一緒に行くんだぁ!」と俺の下へ来ようとしたが、しかし「あらあら、貴女はこっちで私達と一緒にボス達の面倒を見ましょうね。今は猫の手も借りたいくらいですからぁ」と言うメドラディの手によって引き摺られながら連れて行かれた。「アァァァ~~~・・・!?!?」と涙をちょちょ切れさせながら。

 ・・・と、まあそう言うわけで、俺は今現在ピョン太郎が入ったペットキャリーを持ち運びながら街中一人で歩いているわけだ。


「しっかし、今日は日差しが嫌に強いなぁ。もう秋も半ばだってのに・・・」


 木枯らしが吹く季節になってきたという事で、俺はオレンジ色のタートルネックに白いパーカー、薄いグレーのデニムパンツといった感じに軽く厚着をして外出したのだが、しかし外の天気は眩しいくらいに快晴で、降り注ぐ日差しは未だ夏の気配を感じさせていた。


「・・・・・・ん?あれは・・・?」


 じっとりとした汗が体から出るのを感じていた俺は、歩道橋の上を歩きながら服の胸元を軽く引っ張ってパタパタとさせていたのだが、そこでふと視界の端に気になるモノを捉えて思わずそちらへと視線を向けた。


「・・・・・・やっぱり、御城さんだ。なんであんな所に・・・?」


 それはこれまで何度も出会い、お世話になった事もある『御城輝幸(みじょうてるゆき)』さんだった。

 公園の一角に存在するベンチに座りながら顔を俯かせているその姿は、まるで働き疲れて草臥れたサラリーマンの様な様相だ。

 遠くを見る様に目を細めながらそんな御城さんの姿を見ていた俺は、つい気になって彼に声を掛けてみようと思い、歩道橋の階段を降りて行った。









「はぁ~・・・・・・疲れた・・・本当に疲れたよ、マジで」


 とある町中にある公園。そこに設置されていたベンチに座っていた御城輝幸は、顔を俯かせながら深い、それはもう深い溜め息を吐いていた。

 良く見れば若干白目も剥いていて、口から魂と思われる白い何かもひょっこりと頭を覗かせている。

 何故御城がそんな風になっているのかと言えば、それは彼の仕事であるヒーロー活動によるものもそうだが、何より彼がずっと探している親友の息子―――『渡辺光』を未だに見つけることが出来ないでいたからだ。

 以前、彼が地元だけでなく、日本全国に存在している五十もの悪の組織や秘密結社を壊滅させたと言う話を覚えているだろうか?その際に同時進行で―――というか、優先的に渡辺光の事を探していたのだが、見つけることも、その手がかりすらも彼は手に入れることが出来なかった。

 一度日本国外に出向こうとすらも考えた事もあったが、しかしそれはヒーロー連合協会の意向によって止められてしまった。

 その為、御城は苦肉の策と言うか、もう半分ヤケクソ気味に「こうなったら日本国内に存在する悪の組織を全部壊滅させてくれるわぁぁ!!」と決め、その言葉通りに日本全国を東奔西走し、数にして一五〇近くもの悪の組織や秘密結社を壊滅させた。

 ・・・・・・だがしかし、それでも渡辺光に関する情報を手に入れることが出来かった。その事に「嘘だろぉ・・・・・・」と愕然とした彼は、疲労感も相まって現在こうしてベンチに座りながら呆然自失の状態となっていたのである。

 それはさながら、某ボクシング漫画の主人公が最終回に呟いたような「燃え尽きたよ、真っ白にな」という感じに。


「(すまない、親友よ。君の息子を見つけることが出来ないこの不出来な俺を許してくれ・・・!)」


 心の中で今は亡き親友に謝りながら目尻から一筋の涙を流す御城。


「あの・・・御城さん?大丈夫ですか?」


「・・・・・・んぅ?」


 そんな時だった。彼の下へ年若い女性の声が掛けられたのは。


「・・・・・・え?・・・へ?でぃ、ディーナさん?な、なんでこんな所に!?」


「えっと・・・その、お久しぶりです。お元気でしたか・・・なんて言いたいところですけど、なんだか凄くお疲れ気味の様ですね。ヒーロー活動って、そんなに大変なんですか?」


 御城に声を掛けて来たのは、これまで何度も出会い、時に精神的に助けられた事もあるディーナという少女であった。

 彼女はほんの少し屈みながら、御城の顔を下から覗き込む様な姿勢を取っていた。


「い、いや、その・・・・・・ッ!?」


 そんな彼女の姿を目にした御城は、内心で「え!?なんで彼女が此処に!?」とビックリしつつ、同時に彼女の胸元の谷間が視界の中に入っていることに気付いて、視線を顔ごとグリン!と勢いよく脇へと逸らした。


「あ、ああ、まあ・・・ここのところちょっと(こん)を詰め過ぎていたからね」


 そのまま口元を押さえながらそう答える御城。

 その答えに納得したのか、姿勢を正したディーナは「なるほど」と呟いた。


「えっと、ディーナさんこそどうしてこんな所に?」


「え?ああ、俺はピョン太郎の為に動物病院に行っていたんですよ。今はその帰りなんです」


「・・・ピョン太郎?」


「この子の事です」


 そう言ってディーナは自身の手に持っていたペットキャリーを持ち上げ、その中にいる兎―――ピョン太郎を御城に見せた。


「少し前にウチで飼う事になった白兎なんです。可愛いでしょう?」


「あ、ああ。確かに可愛いね」


「(うん。確かに兎可愛い。―――でもそれ以上に君の笑顔がヤバすぎなんですけど!?)」


 ニッコリと笑いながらそう言うディーナに対し、御城も頷きながらそう答える。

 ・・・ただし、その内心では彼女の可愛らしい笑顔に心臓を撃ち抜かれた様な感覚を覚えて悶えていたが。

 ちなみにその感覚を覚えたのは今日が初めての事ではなかった。以前、海水浴場の時にも似た様な事が起こり、その時は正気を失って無意識の内に彼女の事を求め、手を出そうとした事があったのだ。

 その時は何とか正気を取り戻す事が出来たが、もし正気を取り戻せなかったら、たぶん自身が十八歳未満は閲覧禁止な事を仕出かしていたであろうと御城は思っていた。

 その光景を容易に想像出来てしまえる分、余計にそう思う。

 ・・・そして今回だが、何とか正気を保ったままその衝動を自制する事が出来た。ギリギリと自身の太腿を指で抓ることで、だったが。


「でも、動物病院ってことは病気か何かでもしたのかい?」


「あ、いえ、そうじゃなくて・・・実は明後日くらいに働き先の都合でちょっと遠出をすることになったんです。ただ、行き帰りと泊りがけで三日くらい日数が掛かってしまうので、その間この子だけを留守番させるとなると誰もお世話をする人がいなくなるので、一緒に連れて行こうと思いまして・・・・・・」


 「出先で病気にならない様に今の内に予防接種を受けさせようと・・・・・・」と答えたディーナに、御城は「ああ、なるほど」と納得する様に頷いた。

 ただ、その後で「・・・・・・ん?」と首を傾げたが。


「あれ?確かペットの予防接種って半年に一回を推奨されているんじゃなかったっけ?前回はしていなかったのかい?」


「ペットショップとかで売られていたのなら、されている筈だけど?」と御城が呟くと、ディーナは困った様な表情を浮かべた。


「えっと、その・・・実はこの子は拾った子でして、ペットショップで買ったとかではないんです。・・・それに拾う事になった経緯もちょっと複雑で・・・・・・」


「そうなのかい?」


 言葉を濁しながら答えるディーナに御城は不思議そうに首を傾げる。

 彼女の仕草は、かの白兎を拾う事になった経緯を語りたくないと如実に表しているものであったが、それは後ろめたさから来るものではなく、どちらかと言えば思い出したくないトラウマ的な何かが関わっているのではないかと御城には感じられた。

 顔色も若干青褪めているし。ウッと言う感じに口元も押さえてるし。


「そ、そうだ。そう言えば御城さんの方はあれから進展はあったんですか?」


「進展・・・?」


「ほら、行方不明になった親友のお子さんの捜索ですよ」


「ウッ・・・!?そ、それは・・・・」


 話題を変えようとしてか、ピンと人差し指を立てながら「前に言っていたじゃないですか」と言うディーナ。

 それに対して御城は、まるで痛い所を突かれたとでも言いたたげに、ウッ!?と呻いた。




次回は1/8に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらってます [一言] 探してる親友の息子(娘)に話しかけられてしかも・・・
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