ミッション83 決着と後日談
長らくお待たせしました。新話投稿します。
いやほんと、7月中に投稿出来ればと言っておきながら今日まで掛かってしまい申し訳ありません。言い訳ですけど、リアル事情が忙しかったのと軽い夏バテ状態になってしまってやる気が激減してまして・・・・・・まあ、その状態でもコツコツ書いてはいたのですが。
ちなみに今回の話も長いです。約2万字くらいです。長くなりすぎたので一時分けようかなとも思いましたが、そのまま出すことにしました。
その事を前提にお読みください。
「ぬ、ぬぅぅぅっ・・・!まさか、兄貴モグラが倒されるとは・・・!?」
兄貴モグラと侵入者達の戦闘の様子をモニタールームで見ていた隊長モグラは、思わずといった風に唸り声を上げながらそう呟いた。
・・・というのも、彼がそういう反応を示すのには理由があった。
「(兄貴モグラは、怪人でありながら戦う力を持たない我々にとって唯一の最大戦力・・・!それが敗れたのであれば、もう我々に戦う力など残されてはいない・・・!)」
頭を抱えながら内心でそう呟く隊長モグラ。
そう。隊長モグラも含めた彼等モグラの怪人は、そのほとんどが戦う力がない怪人であった。
いや、正確に言えば一応怪人ではあるのである程度の戦闘能力は持ってはいる。・・・持ってはいるのだがしかし、その戦闘センスは壊滅的と言っていい具合に悪い。ハッキリ言って戦う力がないのとほぼ同義なくらいに。
その中で唯一兄貴モグラというモグラの怪人は、彼等の中で唯一高い戦闘能力を持っている個体であったのだが、しかしそんな彼が敗れてしまった今、隊長モグラが内心で呟いていた様に、もう彼等には戦う力など残されてはいなかった。
一瞬、「トラップを用意できればワンチャン・・・!?」とも思った隊長モグラであったが、しかしそれを作る為の時間が圧倒的に足りなかった。
「た、隊長、我々はこれからいったいどうすればよろしいのでしょうか・・・?」
これからどうするべきかと頭を悩ませる隊長モグラであったがそこへ部下モグラが声を掛けて来た。
その表情は困ったと言いたげなものであり、その顔には大量の冷や汗を流していた。
「う~むむむっ・・・どうすればと言われてもなぁ。―――もうこうなったら、この秘密基地を放棄して脱出するくらいしか、我々が打てる手はもうないのだが・・・・・・」
困った様にポリポリと頬を掻きながらそう答える隊長モグラ。
それに対する部下モグラ達の反応は様々であった。
「そんな・・・!?せっかくここまで作り上げた秘密基地を放棄するだなんて・・・!」
「いや、だが、隊長の言う通り、もう俺達に打てる手はないだろう」
「ああ・・・ある程度の材料があれば武器を作るなり、トラップを作って設置するなりして対策を練る為の時間稼ぎをすることが出来たかもだが、肝心のその材料が今此処にはないしなぁ・・・」
「え?あれ、そうだっけ?確かつい一週間前くらいに調達班が新しい物資を確保してたんじゃなかったけ?」
「そんなもん、秘密基地の拡張と維持の為にとっくのとうに使い切っちまってるよ。今俺達の手元に残っているのは、こんだけだ」
「・・・ネジが四本に、厚さ二mmの鉄板一枚って・・・・・・え、マジでこんだけなの?」
「マジもマジ。大マジだ。」
「うっそだろ、おい・・・!?これじゃ何にも作ることが出来ねぇじゃん・・・!?」
「くっ・・・!やっぱり、撤退するという選択肢しか俺達にはもう残されていないのか・・・!?」
折角自分達の手で作った秘密基地を放棄したくはないと嘆いたり、何か対策を打つことは出来ないかと思案し、仲間内で相談したり、諦めて脱出するしかないのか目尻に涙を溜めるなどの様々な反応を示す部下モグラ達。
ザワザワガヤガヤと口論を繰り広げていた彼等であったが、そこへドンッ!と力強くテーブルを叩く音が響いた。
「ええい・・・!静まれぇい、お前達!!」
『た、隊長・・・!!』
その音を出したのは隊長モグラであった。
彼は声を張り上げて部下モグラ達を一喝すると、次々と指示を出し始めた。
「このまま話をしていても打開策など出て来はしない!今は侵入者達が此処に来る前に必要な荷物をまとめて脱出する準備を急げ!」
『あ、アイアイサー!』
隊長モグラの指示を受けてパタパタワタワタと急ぎ撤退準備を始める部下モグラ達。
そんな彼等を目にした隊長モグラは一瞬だけ「やれやれ」と言いたげな表情を浮かべた後、自身もまた撤退の準備を始めようとした。
・・・ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「むっ!いったい何事・・・!?」
その時だった。突然モニタールームに警戒音が鳴り響いたのは。
それは部下モグラ達が操作していたコンソールから鳴っていたらしく、慌てた部下モグラの一人がそれを操作して何が原因で警戒音が鳴っているのかの確認を行った。
「こ、これは・・・!?大変です、隊長!侵入者が・・・侵入者がこのモニタールームに向かって急速接近しています!!」
「な、なんだとぉ!?」
コンソールを操作していた部下モグラは、叫ぶと同時に大型モニターに自身が見ていた画面を表示した。
大型モニターに表示されたのは秘密基地の内部構造マップであり、その最深部に当たる場所―――自分達が今いるモニタールームへと通じる通路部分を敵性存在を意味する赤い光点が進んでいる様子が映し出されていた。
光点の数は一つだけであり、別のモニターにその場所の映像を映し出せば、そこには物凄い早さで通路を走る侵入者―――ディーアルナの姿があった。
「ど、どうする?どうするどうするどうする!?まだ、撤退準備が完了してないぞ!?」
「だ、大丈夫だ・・・!こんな事もあろうかと、あの通路には足止め用の簡単なトラップが仕掛けてある!それらが起動すれば、時間稼ぎが出来る筈だ・・・!」
「な、なあ・・・?それって、もしかしてアレの事か・・・?なんか、モニターの映像を見る限りでは軽々と躱されているっぽいけど・・・?」
「そうそう、それそれ・・・・・・ってぇ、全部突破されちゃってるぅぅーーっ!!?」
「暴音爆竹に硬化おはじきだけでならまだ分かる。アレ等は単発式だしな・・・!でも電磁独楽にドローンけん玉の攻撃まで躱されるとは・・・!?一応あれ、浮遊しながら対象を追尾する機能が付けられているだけどなぁ・・・!」
「っていうか、なんで玩具系ばっかなん・・・!?しかも昭和とかに良くあったような物ばっか・・・!?あれ用意したの誰だよ!?」
「・・・てへっ」
「お前かぁ!?用意するならもうちょっと真面目な奴を用意しとけやぁ・・・!!」
「なにおう!?これはこれで優秀なトラップなんだぞ!確かに威力はそんなにないけど、コストはあんまり掛からないだからな!!」
「優秀なのは認める。だけど、なんであんなデザインにしたんだよ!?」
「そんなの―――趣味に決まってんだろ」
「・・・・・・こぉんのアホンダラァァッ!!」
「んだとコラァァッ!!」
「―――やめんか、お前達!言い争う暇があれば、さっさと撤退準備を済ませんかっ!!」
焦燥感と恐怖からか、ギャアギャアと言い争う部下モグラ達。中には殴り合いを行う者達もいて、クロスカウンターをお互いに浴びせてのダブルノックアウトでぶっ倒れる等をしていた。
そんな彼等を落ち着かせたのは隊長モグラの再びの一喝であった。
「お前達が焦るのは分かる。だが、心配する必要はない!このモニタールームの入り口に付いている扉は超頑丈な分厚い合金製だ。こうしてロックを掛けている限り、あちら側から開けられはしない!!」
そう言いながらピッ!と手元のリモコンを操作する隊長モグラ。
次の瞬間モニタールームの扉からカシャンッ!という音が鳴り、続いて扉の縦横の外枠から何本もの金属の棒が表れて、カシャンッ!カシャンッ!ガッシャンッ!と交差する様に組み合わさった。
その光景を目にした部下モグラ達は「そんな所にそんな機能があったんだ・・・!?」と驚きと感嘆の声を上げた。
「よし。これでしばらくは侵入者の足止めが出来るだろう。さあ、今の内に撤退準備を進めるのだ、お前達!」
『アイアイサー!!』
安堵の息を吐いた後に再び撤退準備の指示を出す隊長モグラ。
自分達の安全がある程度確保されたからだろうか、部下モグラ達もまた安心混じりの返事をしながら撤退準備を再開させようとした。
ドンッ!
「むむっ!?」
その時、モニタールームの扉からドンッ!ドンッ!という音が響いた。
それはまるで扉の外にいる何者かが力づくで扉を開けようとしている様な感じであった。
「ふんっ!無駄だ無駄だ!例えどれだけ強力な力を持っていようが、この超分厚い合金製の扉を打ち破ることなど・・・!」
フンッ、と鼻息を荒くしながら言う隊長モグラ。
脱出準備を終えた彼は、同じく準備を終えた部下モグラ達と共に脱出用通路へと走ろうとする。
『奥義【土牛―――』
「うむ・・・?」
その時だった。扉の向こうから声が聞こえて来たのは。
それは然程大きい声ではなかったが、しかし隊長モグラの耳にはしっかりと聞こえた。
『―――怒濤】!!』
ドッガアアアァァァンッ!!!
「な、なんとぉぉっ!?」
響き渡る轟音。同時に吹き飛んで行く超合金性の扉。
どうやら侵入者であるディーアルナが体当たりでもって力尽くで扉を抉じ開けたらしい。
当然それを目にした隊長モグラは目を驚きに見張り、戦慄の声を上げた。あの扉を強引に開けられるだなんて、いったいどんだけ馬鹿力なんだとツッコミを入れるかのように。
「ふぅ・・・ようやく見つけたぞ。お前達がこの秘密基地を作った連中だな!さあ、大人しくお縄を頂戴してもらおうか!」
合金製の扉を吹き飛ばして一息吐いた後、スパァンと左の掌に右拳を叩き付けながらそう言うディーアルナ。
そんな彼女の姿を目にした隊長モグラは悔しそうな声を漏らす。
「うぬぬぬぬ・・・!?ま、まさかあの扉を力尽くで抉じ開けるとは・・・!化け物か、この女・・・!?だが、その快進撃も此処までだ!これ以上貴様等の思い通りになると思うなよ・・・!者共、作戦Tを発動するぞ!用意は良いか!?」
『あ、アイアイサー!!』
だが、そのすぐ後でサングラスをクイッとしつつ部下モグラ達にあらかじめ決められていたであろう指示を出した。
「チッ・・・!まだなんか用意してたのか・・・!」
妙に自信満々な彼等の様子を目にして思わず警戒し、腰を少し落とすディーアルナ。
それはこれまで散々トラップに引っ掛かって来た事で、もしかしたらこの部屋にも何かしらのトラップが用意されているかもしれないと思ったからだった。
・・・だからと言うべきか、彼等が取った次の行動に彼女は反応が遅れてしまった。
「作戦Tとは逃走のT!つまり―――脇目も振らずケツを振りまくって逃げる事だぁぁーーーッ!!!」
『ウォオオオーーーッ!!三十六計逃げるにしかずぅぅーーーっ!!!』
ズダダダダダダダッ・・・!!!
「・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」
踵を返し、土煙を上げながら全力で逃げ出す隊長モグラ達。
それはもういっそ清々しいと思えるくらいに見事な逃走であった。
「・・・は、はぁ!?ちょ、待ちやがれ、お前等ァァ!!」
一拍遅れて彼等が逃げ出したことにようやく気付いたディーアルナは、逃げ出した彼等を追いかけようと足を前に一歩踏み出すのだが―――
ビンッ!
「―――うぇ?へぶっ!?」
―――何かに足が引っ掛かってつんのめり、転んで強かに顔面を床にぶつけてしまった。
「うぐぐっ・・・!?い、いったい何が・・・・・・」
彼女が自身の足下に視線を向ければ、そこには白いロープが一本ピンと張られていた。
どうやらそれがディーアルナの足を引っ掛けたらしい。その事に気付いた彼女は、「しょうもないトラップを用意しやがって・・・!」と悪態を吐きながら立ち上がろうとする。
「・・・って、ちょっ、何これ!?なんか体に絡みついて来たんだけどっ!?」
だが次の瞬間、ディーアルナの足を引っ掛けた白いロープが突如としてウネウネと動きだしたかと思えば、
彼女の体に向かって足下から徐々に這い上がり、絡みついて来た。
ロープが独りでに動いているという事に驚き、次いで自身の体がどんどん縛られていく―――しかも何故か卑猥な縛り方であり、例えるなら亀甲縛りが近い―――という状況に混乱するディーアルナ。そしてそんな彼女を、逃走用の通路へと走りながら肩越しに振り返った隊長モグラが嘲笑った。
「フハハハハハハッ!!それは我々が用意した最後のトラップ!その名も『バインドスネークロープ』だ!近くにいる者を無差別に縛り上げ、拘束するので使い所は限られるが、足止めとして使う分には十分よ!!」
「くそっ!こんなロープ、すぐに外して・・・!」
「おおっと、そういえば一つだけ言い忘れた事があった。―――我々が用意したのはそれ一本だけではないぞ?」
「・・・えっ?」
そう言いながら、まるで「しまったしまった」とでも言いたげにペシッと自身の頭を叩く隊長モグラ。
その瞬間、モニタールームの至る所から大量の『バインドスネークロープ』がウネウネウニョウニョと姿を現し、ディーアルナへと一斉に向かい始めた。
「・・・・・・えっ?」
軽く見回すだけでも百本くらいはあるだろうか。自身の体を縛っているロープを外そうとしていたディーアルナはその光景を目にして、思わず頬を引き攣らせた。
「痛ッ!痛たたたっ!?その縛り方は痛いって・・・ひゃっ!?こ、こらっ、いったい何処に入り込んで・・・!?ひぃんっ!ちょ、そこはやめろ!やめろってば、入って来んなってばぁっ・・・!?!?」
「フハーハッハッハッハッ!!貴様はそこでロープに絡まれ、縛られながら我等が逃げ切る様を見ているがいいっ!!」
「ちょっ、こら・・・!待ちやがれぇぇーーーっ!!?」
ディーアルナの全身に殺到し、彼女の体に絡まり、縛り、時折戦闘服の中にまで入り込んでくる白いロープ。
そんな状況下にありながらも逃げる隊長モグラ達に待てと叫ぶ彼女であったが、まあ当然と言うべきか、彼等が立ち止まるわけがなく、むしろその逃げ足を更に加速させていた。
ガンッ!!
「うおっ!?」
そして、あと少しで彼等が地上へ向かうエレベーターに到着しようとしたその時、突然彼等の頭上から何かが落ちて来た。
落ちて来た物は二つ。一つは通気口等に付けられる事が多く、この秘密基地でも使われている格子窓。そしてもう一つは全身ほぼ青アザだらけのズタボロ状態であり、且つ顔面が原型を留めないくらいに膨れ上がった兄貴モグラであった。
「・・・う・・・うぅぅ・・・・・・」
「あ、兄貴モグラ!?だ、大丈夫か、兄貴モグラよ!?」
「イッ、イイイー、イー」(おっと、そこまでだぜ、モグラ共)
「・・・ッ!?な、何奴!?」
床の上に倒れ、呻き声を発する兄貴モグラ。そんな彼を目にした隊長モグラ達は、当然の様に彼を助け起こそうと近づくのだが、しかしその前に一人の人物が文字通り降って現れた。
現れたのは戦闘員二号であった。どうやら彼もまた兄貴モグラと同じく通気口を通って此処に来たらしい。・・・いや、状況から見るに、どちらかと言えば彼が兄貴モグラを連れて来た、と言った方が正しいのかもしれない。
「イイイッ。イーイー、イイイーイー」(ここは通行止めだ。通りたければ、俺が放つ銃弾の雨の中を通って行くんだな)
ともあれ、隊長モグラ達の前に立ちはだかった戦闘員二号は両手に一丁ずつマシンガンを持つと、そのままジャキリと銃口を隊長モグラ達に向けた。
「むむむっ・・・!?」
ドガンドガンッ!―――ドッガンッ!!
「な、何事!?」
その時だ。突然彼等の後ろから爆発音のようなものが聞こえて来たのは。
隊長モグラ達が振り返ればそこには大量の土煙が舞い上がっており、そしてその中から一人の人影が―――ディーアルナが姿を現していた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!な、何とか抜け出す事ができた・・・!ヤバかった・・・!色んな意味で本当にヤバかった・・・!!よく分かんないけど、なんか、開いちゃいけいない何かを開きそうになったぞ・・・!!」
口に入った埃を吐き出す様にペッペッと唾を吐き出すディーアルナ。
頬を真っ赤に染め、瞳を潤ませ、荒く呼吸を繰り返すその姿は、傍から見れば扇情的にも蠱惑的にも見えるものであり、男であれば一目見れば思わず前屈みになってしまう事は間違いないだろう。
「お前等・・・よくもまあ、恥ずかしい目に遭わせてくれやがったなぁ、オイ・・・!―――覚悟は、出来てんだろうなぁ?」
まあ、そのすぐ後で額に青筋を浮かべながらペキッポキッと手の骨を鳴らしながら近づいてくる姿を目にすれば、恐怖を覚えてタマがヒュンッとなっただろうが。
加えて、背中に怒りの気炎を背負いつつハイライトが消えた赤い目を向けられでもしたら、覚えたその恐怖は倍率ドンだろう。
現に、それら全てを目にした隊長モグラ達は恐怖に身を竦ませて動けなくなっていた。
「往生せいやゴラァァァーーーッ!!!」
ガガガガガガガガガッ!ドカンッドガンッドッガンッ!!ゴガガガガガガガガッ!!!
『アーーーッ!!!???』
暴力性を感じさせる連続音と同時に上がる隊長モグラ達の断末魔の悲鳴。それらは壁に当たって反響し、エコーとなって通路内へと響き渡るのであった。
「よっ・・・はっ・・・と。―――ふぅ、これで全員縛り終えたかな。二号、そっちはどうだー?」
「イッ、イイッ。イーイー」(ああ、問題ない。こっちも縛り終えたぞ)
「う、うぐぐぐぐっ・・・・!お、おのれぇぇ・・・!?」
あの後俺達は、ズタボロの状態となって地面に倒れ伏したモグラ怪人達を縛り上げて拘束した。
拘束に使ったのは、コイツ等が俺を足止めする為に用意したバインドスネークロープとか言う白いロープだ。
あの大型モニターが幾つか設置されている部屋で拘束された時はマジで混乱した。本当にいきなりだったから反射行動も間に合わなかったし、その後に迫って来た大量の白いロープが戦闘服の中に入って来た時に感じたゾクゾクッとした全身に電流が走る様な感覚に戸惑っていたのもあったからだ。
まあ・・・そのすぐ後に俺は、刃状に形成したエネルギーを全身に纏わせて操作する【竜鱗刃】という技を使い、自身の体を縛っていたロープを切断する事で何とか脱出する事が出来たのだが。そして、その際に白いロープは半分以上が使い物にならなくなってしまったのだが、残った分だけでもモグラの怪人達を拘束するには十分だったので利用する事にしたのである。
近くにいる者を無差別に縛り上げるという言葉に嘘偽りはなかったらしく、白いロープの拘束能力は作成者であるモグラ怪人達にも如何なく発揮され、シュルルルッといった感じに彼等を瞬く間に拘束してしまった。―――何故か、卑猥さを感じさせる縛り方で、だ。
・・・いや、マジで何なんだこのロープ?なんでワザワザこんな縛り方をするんだ?
「イッ・・・イイイーイー。・・・イイッ・・・イーイー、イイーイーイーイイイー」(ふむ・・・後ろ手縛りに、胡坐縛りか。こっちは・・・ほうほう、屈腕固定縛りと圧脚固定縛りか。随分とマニアックな縛り方までインプットされているんだな、コレ)
「み、妙に詳しいな、二号。いったい何処で覚えたんだそんな事?」
「イイイッ・・・イーイイーイーイー。―――イイッ」(昔取った杵柄というか・・・昔、傭兵としてとある陣営に所属していた頃に知り合いの傭兵から教わったんだよ。―――実施でな)
「・・・・・・待て。待って、二号。実地でって、何?」
「イッ?イッ、イーイーイイイー。イイッ、イーイーイー。・・・イッ、イイーイー、イイッ。イィ、イーイイー」(ん?ああ、実は当時俺が所属していた陣営には結構な数の女スパイが潜り込んでいてな。その陣営がむさ苦しい男所帯ということもあって、ハニートラップに引っ掛かる奴がそれはもう多かったんだよ。・・・んで、その知り合いの傭兵がスパイだと分かった連中を捕まえて、そいつ等を使って教えてくれたわけだ。いやぁ、あの時は色々と勉強になったよ)
「そ、そうなんだ」
「イイイッ、イーイーイー。イイーイーイーイイー」(ついでに言えば、その傭兵は傭兵家業を生業とする連中の間ではそれなりに有名でな。その見事な緊縛術と調教の腕前から『スパイ調教師』なんて二つ名で呼ばれていたんだぜ)
「なにその微妙に格好良さそうで格好良くない二つ名!?」
「イーイイーイー、イイイーイー、イイッ」(容姿も相当に良い女だったもんだから、自ら調教されようと突撃する男女が後を絶たなかった、なんて伝説もあったりなかったり)
「しかも女性だったの!?」
戦闘員二号がどうして色々な緊縛方法を知っていたのか?その理由を本人から聞いた俺は思わずそうツッコミを入れた。
・・・というか、『スパイ調教師』とか呼ばれていたその女傭兵だけど、性別とやっている事から思うに、
どちらかと言えば女王様とか呼んだ方が似合いそうな気がするのは俺だけだろうか?
「くっ・・・!?くそっ・・・!貴様等、我々をいったいどうするつもりだ!?こんな事をして、タダで済むと思うなよ!!?」
そんな風に俺達が話している最中に声を上げた者がいた。
それは体をロープで縛られて地面の上を転がっている帽子を被ったモグラの怪人―――縛り上げた彼等から聞き出した隊長モグラと呼ばれている人物であった。
彼は俺達にボッコボコにされて全身ズタボロ状態となっている筈なのに、とてもそうとは思えないくらい元気にビッタンビッタンと自身の体を跳ねさせていた。
「今に見ておれ!我々が所属している組織の本部が今回の事を知れば、すぐさま報復の為に動き出すだろう!そうなれば貴様等はもうおしまいよ!どれだけ泣き叫び、命乞いをしようとも、我々の組織に喧嘩を売った貴様等を本部の連中が―――『シャドウビースト』が許しはしない!徹底的に滅ぼし尽くすまで止まりもしない!本当に馬鹿な真似をしたものだな、貴様等!!」
「ハーハッハッハッハッ!!」と高笑いをする隊長モグラ。
それは俺達の事を馬鹿にしている様に聞こえる物言いと笑い声ではあったがしかし、俺にはどうにもそれが負け犬の遠吠えの様にしか聞こえなかった。
「―――イッ、イイイーイー?」(―――今、『シャドウビースト』って言ったか?)
「ん?ああ、一号か。それにアルミィも。目が覚めたんだな」
そんな俺達の下へ新たな人物の声が掛けられた。
聞こえて来たのは後ろからであり、振り向けばそこには改造された状態から何時もの姿に戻った戦闘員一号と、銃弾のダメージが未だに残っているのか頭を押さえてふらつくアルミィの姿があった。
「イッ、イイイッ。イーイーイー・・・イッ、イイーイーイーイイー?」(ええ、おかげ様でなんとか。ところで今の話しですけど・・・コイツ等、もしかして『シャドウビースト』の構成員だったりしますか?)
「うぅん・・・話を聞く限りではどうやらそれっぽい感じなんだけど・・・・・・というか、一号は『シャドウビースト』とか言う組織の事を知っているのか?」
「イッ、イイッ・・・イーイーイー、イイイー。イイッ―――イーイーイイーイー」(ええ、まあ・・・『シャドウビースト』という悪の組織は今から二十数年程前に結成され、当時世界中で活動を行っていた有名な一大勢力の事です。同じ頃に活躍していた五人組の女性ヒーローチーム―――『バーストレディーズ』と日夜戦いを繰り広げていた事でも有名で、よくニュースの話題に挙がっていました)
「へぇ・・・・・・っで、実際の所はどうなんだ?」
そう俺が隊長モグラに問い掛けると、彼はフンスッと鼻息を荒くしながら肯定した。
「フンッ、その通り!我々は悪の組織『シャドウビースト』に所属するモグラ怪人!組織の為にありとあらゆるアイテムを日夜作成、改造している開発のプロフェッショナルよ!」
胸を張る隊長モグラ。そして彼の部下達もまた縛られながらも同じように胸を張っていた。
その様子から、彼等が『シャドウビースト』という組織に所属していることを誇らしげに思っているという事が分かったが、しかしそこで俺はある一つの疑問が頭の中に浮かび上がった。
「でも、なんでそんな奴等がこんな所にいるんだ?組織の為に色々なアイテムを作ったり改造したりしていたって言うのなら、その組織の本部とかで作った方が色々と効率が良いんじゃないのか?」
内心で思った疑問を口にすると、隊長モグラ達は「うっ!?」と呻き、ダラダラと大量の脂汗を流し始めた。
「そ、それは・・・その・・・・・・」
「・・・イッ、イイイッ、イーイイー?イー」(・・・もしかして、何かしら失敗でもして此処に送り込まれたとか、そういう話なんじゃないですかね?こう、島流し的な感じで)
「ぐっふぅぅっ・・・!?」
「あ、当たったっぽい」
戦闘員一号の呟きが胸に突き刺さったかのように体をグリンと捻じる隊長モグラ。それはまさに痛い所にクリティカルヒットしたと言わんばかりの反応であった。
「ぐっ・・・!た、確かに我々が此処に送り込まれたのは、そこの一号とか言う戦闘員が言う様に失敗したからではあるが・・・・・・!!」
「え~と・・・ちなみに何に失敗したのかは、聞いても大丈夫か?」
「フンッ・・・!そのような事、ワザワザ部外者に教えるわけが・・・・・・!」
「イイイーイーイー、イイイッ、イー?」(たぶん新しい兵器を作る様に命令されたけど、要求されたスペックが高すぎて作れなかったとか、そんな所じゃないか?)
「ぐっはぁぁっ・・・!?」
「あ、また当たったっぽい」
再び何かが胸にグサッと突き刺さったように身を捩る隊長モグラ。その横では部下モグラ数人がその通りと言いたげにウンウンと頷いていた。
「そうそう、どんな敵も一撃で消し飛ばせる兵器を作れ、ってウチの組織の開発部部長から言われたんだけど、要求されたスペックがあまりにも高すぎてさぁ」
「うんうん。一応作る為に必要な材料は十分にあっけど、そいつをたった三ヶ月で作れって無茶振りを言われたんだよなぁ」
「それで一度試作品を作ってはみたんだけど、試作品だからか色々と不具合とかバグとかが多くて、安全性は全くなかったんだよなぁ。・・・で、その事をキチンと部長に伝えて、”完成品を作るにはまだまだ時間が掛かります、三ヶ月だけじゃ時間が足りません”とも言ったんだけど・・・・・・」
「部長ってば”それで構わん!いいから使わせろ!”って無理矢理持ってって、ヒーローとの戦いに向かう怪人に装備させてさぁ。・・・そんで当然のように試作品は戦闘中に暴走を起こして大爆発。装備していた怪人諸共木っ端微塵になっちまったんだよ」
「え、ちょっ、お前達・・・!?」
「だけど、最悪だったのはその後でさぁ。部長の奴、試作品が爆発した責任を俺達におっ被せやがったんだよ!”お前達がしっかりとした物を作らなかったからだ!”・・・って」
「そんで、罰として極秘裏に地下秘密基地を建設してこいって命令してポイッだぜ。本当に酷ぇよな」
「まあ・・・幸いと言って言いのか、ウチ等の組織のボスは事の子細を知っていたみたいで、地下秘密基地の建設が終わったら戻って来いと言ってくれたんだよなぁ。それまでには色々と体制を変えておくから、とも言ってくれたから此処で頑張ってたんだよ」
「お、おおおお前達ぃぃーーーっ!!?何を勝手に我等の裏事情を暴露しているかぁぁーーーっ!!??」
「そっか・・・なんというか、お前等も苦労してるんだなぁ」
「・・・って、なんかこっちはこっちで同情的な視線を送って来てるぅぅーーっ!?」
モグラ怪人達の話を聞いた俺は、思わず彼等に同情的な視線を向けてしまった。
後ろにいるアルミィなんかは、目尻に浮かんだ涙を指で拭っていたし。
「イッ、イイッ・・・イーイイーイー・・・・・・」(しかし、そうか・・・まさか、あの悪の組織の生き残りがこんな所にいるなんてな・・・・・・)
「・・・ん?んん!?ま、待て、待ってくれ戦闘員一号とやら!生き残りとはいったい何だ・・・!どういう事だ・・・!?」
そこでポツリ、といった感じに呟く戦闘員一号。
それを偶然耳に拾った隊長モグラが、青アザだらけの顔に大量の冷や汗を流しながら「待った!?」という感じに彼へと声を掛けた。
ちなみにその後ろでは、彼の部下であるモグラ怪人達が「いや、いやいやいや。そんなまさか、まさかな・・・」とか「聞きたくない聞きたくない・・・でも、めっちゃ気になる・・・!」と小さくブツブツ呟いてもいた。
「イイイッ・・・イイーイーイー、イイイー」(いや、どうもこうも・・・俺が知る限り『シャドウビースト』っていう悪の組織はとっくの昔に、今から十六年くらい前に壊滅してるんだよ)
『・・・・・・え・・・ええぇぇぇえぇええええーーーっ!!!???』
そんな彼等に対して後ろ頭を片手で掻きながら、「悪の組織『シャドウビースト』はもう壊滅した」と答える戦闘員一号。
そして彼のその答えを聞いた隊長モグラ達は「うっそだろう!?」と言わんばかりの驚愕の声を上げた。
「かかか壊滅!?壊滅だと!?我々が所属していた悪の組織が、あの『シャドウビースト』が壊滅した!?いったい何の冗談だ!!??」
「イイイッ、イイー。イッ、イイイーイイーイー」(びっくりするのは分かるが、冗談とかじゃないぜ。実際、俺がまだ学生やってた頃にニュースで大々的に取り上げられていたからな)
「しかもお茶の間の皆様にお届けされてた!?」
「イイッ、イーイーイイーイー」(ついでに言えば、他にもあと三つくらい悪の組織とか秘密結社も壊滅したっていう話もあったな)
「どどどどうしてそんな事に・・・!というか、何があった!?」
戦闘員一号の話を聞いて顔色を変えて叫ぶ隊長モグラにワタワタとパニック状態の部下モグラ達。
そんな彼等を視界に入れつつ、戦闘員一号は「う~ん・・・」と困ったような声を出す。
「イイイー。イーイーイーイー・・・」(それが実はよく分かってなくてさぁ。そん時やってたニュースではさっきも言ったように壊滅したって話だけだったし・・・)
「イイーイーイー。・・・イイッ、イイイッ。イーイーイイイーイー」(その件については俺も傭兵をやっていた頃に気になって調べた事がある。・・・だが厳重に情報統制がされていたのか、碌な情報は手に入らなかったな。唯一分かったのは何者かの手によって壊滅させられたという事くらいだ)
「な、何者か・・・?その何者かというのはまさか、『バーストレディーズ』か・・・!?アイツ等が我々の組織を・・・!?」
戦闘員一号と二号の話を聞いて、自分達が所属していた組織を壊滅させられる心当たりがあるとすれば敵対していた彼女達くらいだと思ったのだろう。隊長モグラはそのヒーローチームの名前を口にしたのだが、しかしそれに対して戦闘員二号は、違うと言いたげに首を横に振った。
「イッ・・・イイイッ・・・イーイイーイーイー。イイイーイー、イーイーイー」(いや・・・当時集めていた情報ではその何者かは一人・・・たった一人だけで『シャドウビースト』も含めた複数の悪の組織や秘密結社を壊滅させたらしい。『バーストレディーズ』は確か五人組のヒーローチームだった筈だから、それを考えると少なくともそいつ等ではないと思うぞ)
「で、では・・・いったい誰が・・・誰が我々の組織を壊滅させたと言うのだ・・・!?」
縛られた状態のまま頭垂れ、「うっ・・・ううぅっ・・・・・・!」と鋭く尖らせた目尻に涙を浮かばせる隊長モグラ。その様は自分達の所属していた組織が壊滅させられたことに悲しみながらも、その組織を壊滅させた何者かに対して怒りを抱いているという事が分かるものであった。
「くそっ・・・くそぅっ・・・・・・!我々は、我々はこれからどうすればいいのだ・・・!?帰るべき場所を失い、路頭に迷う事になった我々はどうすれば・・・・・・!!」
次第に悲壮感を漂わせ始める隊長モグラ。そんな彼の雰囲気と苦悩を察してか、部下モグラ達も難しい顔となり、中には涙を流したり、嗚咽を漏らす者もいた。
「あ~・・・・・・」
そんな隊長モグラ達を目にした俺は、「これはどうすればいいんだろうか?」と思いながら頬を人差し指でポリポリと掻く。
助けを求める様に戦闘員一号と二号、アルミィに視線を向ければ、彼等はそれぞれ悩ましそうに首を傾げたり、どうしようもないと言いたげに肩を竦めたり、「姐さんにお任せします」と丸投げの反応を返してきた。
そんな仲間達の反応を目にした俺は、右手を腰に当てつつ左手で後ろ頭を掻きながら頭の中で色々と考え、その後で「うん」と一つ頷いた。
「えっと・・・その、さ・・・帰る場所が無いっていうのなら、俺達の所に来ないか?」
『・・・・・・・・・え?』
「もしお前達が良ければなんだけど」とそう言いながら俺が声を掛けると、隊長モグラ及び部下モグラ達は驚いたように涙を引っ込め、目を見開いた。
「な、何を、何を考えているのだ貴様は・・・!我々は貴様等の敵だぞ!敵だったのだぞ!その我々を倒すのではなく勧誘するなど・・・・・・!?」
「これだけの巨大な地下秘密基地や様々なトラップとか、しまいにはロボットまで作れるくらいだ。お前等は手先が相当器用なんだろう?実はウチの組織は今、丁度そういった連中の人手が欲しいと思っていたところでさ。俺としては是非とも来て欲しいと思っているんだが・・・・・・どうだろうか?」
「本気か!?いや、正気か・・・!?」とでも言いたそうな隊長モグラに対してそう言葉を返す俺。
実際人手云々の話は本当だ。今現在ウチの組織は、ボスであるブレーバーを筆頭に『悪の組織、秘密結社合同スーパーロボットコンテスト!』という大会に出品する巨大ロボットを建造中なのだが、しかし開催日まで残り一週間とちょっとにまで迫っているというのにその巨大ロボットは半分ほどしか完成しておらず、何とか間に合わせようと奮闘もしているのだが、ロボットを建造しているのが実質ブレーバーと戦闘員三号の二人だけという事もあって、純粋に人手が足りなくて間に合いそうにない状況であった。
しかも、夜を徹して作業をしたりもしているせいで、二人の体調は悪化の一途を辿っており、このままではいつ倒れてもおかしくない。だからこそ、目の前にいる彼等に―――隊長モグラ達を仲間にして作業を手伝ってもらう事が出来れば、巨大ロボットの建造は早まるだろうし、ブレーバー達も休む事が出来る様になると思ったのだ。
・・・それに、彼等の境遇に同情しているというのも多分にあった。帰る場所を、居場所を失ったという点は特に。
俺も父親を亡くしてからブレーバーに会うまでの僅かな間一人暮らしをしていた。その時に住んでいたアパートにいても何処にも居場所がないと感じたことがあったし、あの頃は孤独とまでは言わないが、それでも寂しいと感じることもあったから。
だからこそ俺は彼等に手を差し伸べたいと、そう思ったのだ。
「・・・む・・・むむむ・・・・・・!」
内心でそう思う俺の目の前では、隊長モグラが顔を俯かせて悩む様な声を漏らしていた。
そして少しの時間が経過した後、彼は顔を上げると俺に質問をしてきた。
「・・・・・・聞きたい事がある。貴様等が我々に求めているのは手先の器用さ・・・つまりは物作りの腕前だそうだが、本当にそれだけか?」
「うん?どういうことだ?」
「・・・我々は怪人ではあるが戦闘能力はかなり低い。というか、いっそ壊滅的と言っていいぐらいに無い。ハッキリ言ってそっち方面に関しては一切期待には応えられないし、最悪足手纏いにしかならないだろう。それを知ってもなお貴様等は・・・いいや、貴様は我々を仲間にしたいと、そう言い続けられるのか?」
懐疑的な視線を向けながらそう質問してくる隊長モグラ。
そんな質問をして来るという事は、おそらく彼等は戦闘能力が無いという事に対して元々所属していた組織内でも色々と言われてきたのではないだろうか?だからこそ、そんな自分達を本当に仲間にしたいと思っているのか?と疑っているのだろう。
そんな彼等に向けて俺はほぼノータイムで答えた。
「ああ、うん。そっちに関しては大丈夫。そっちははなっからお前等には期待してないから」
「オイ」
「さっきお前等とやりあった時点で、どれくらいの強さなのか分かったし。・・・・・・流石に小学生以下の戦闘力しかない連中を戦いの場に出すなんて非道をする気は俺にはないよ」
「オォイッ!言い方ァッ!?特に最後ォッ!!?」
最後はボソリといった感じに呟いたのだが、どうやら隊長モグラにはそれが聞こえていたらしい。「バカにしてんのかテメェ!?」と言わんばかりに彼は声を上げた。
いやだって、コイツ等マジで戦闘力無さ過ぎるし。
実を言えば彼等がズタボロの状態となっているのは、俺達がボッコボコにしたからではない。言うなれば彼等自身の自爆が原因だった。それもお笑いとかで見るようなどこかコント染みた見事なやつ。
俺達が隊長モグラ達を追い詰めたあの時、彼等は恐怖が一周回ったのかそれとも自棄っぱちにでもなったのか、武器を―――主に銃火器が多かった―――構えて俺達に反撃をしようとしていた。・・・のだが、その瞬間に彼等はすっ転んだ。まるで最初から打ち合わせでもしていたかの様に一斉に。
そんでもってその時に手元から離れた武器が誤作動を起こして暴発―――いや、何が原因かは分からないのだが、引き金が引かれて銃弾が発射されていたので、アレはどちらかと言えば暴走とか乱射とかの方が言い方が正しいのかもしれない―――を起こして隊長モグラ達に全弾命中するといったけ事が起こっていたのである。
ちなみに、あの時響き渡った暴力性を感じさせる連続音というのはこの銃撃音が大半だったりする。俺がコイツ等に与えたダメージなんて、精々行動不能にする為にトドメとして放ったゲンコツ一発分くらいだったし。
・・・まあ、あれだけ怒っていたというのに何故それだけで済ませたかと言えば、彼等のコント染みた自爆を目にしてボッコボコにする気が失せたという事もそうだが、それ以外にこれ以上ボコッたらマジで死にかねないと思ったからでもあったりする。
「ともかく、俺達が仲間に欲しいのは戦闘能力が高い怪人なんかじゃない。手先が器用で物作りが得意なお前達を仲間にしたいと思ってるんだ。・・・・・・それで、返答は?」
話の流れを変える様に軽い咳払いをした後、俺はそう言いながら隊長モグラに手を差し伸べる。
「・・・・・・・・・分かった。お前等の仲間になろう。だが、何度でも言うが我々を戦力に数えるんじゃないぞ!絶対に死んでしまうからな、我々が!これはフリじゃないぞ!絶対だぞ!!マジなんだからな!!!」
それに対して隊長モグラは暫くの間熟孝する様に黙り込んだ後に俺達の仲間になる事を決めたようで、差し伸ばされた俺の手を握ろうとして・・・握ろうと・・・握・・・・・・・・・
「・・・って、縛られてたら握手できないじゃん!?」
「・・・あっ」
「縛った本人も忘れてたんかい!?」
うん、ごめん。すっかり忘れてたわ。
後日談。
怪人モグラ達の地下秘密基地を攻略し、彼等を仲間にしたあの日から今日で三日が経過した。
あの後俺達は、早速彼等にブレーバー達の手伝いを頼んだ。いい加減ブレーバー達も過労でヘロヘロの状態となっていたねで休ませたかったし、その間に建造中だった巨大ロボットの建造をある程度進ませてくれれば、といった感じで。
・・・が、ここでちょっと予想外の事が発生した。・・・いや、今回の場合はどっちかと言うと予想以上と言った方が正しいだろう。なにせ、隊長モグラ達はブレーバーが建造中だった巨大ロボットを一目見た途端、瞳を輝かせてやる気いっぱいの気炎を全身から噴き出し始めたからだ。
『巨大ロボット、巨大ロボットだとぅ!?そんなロマン溢れるモノを作ろうとは、なんて奴等だ!嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ、そういうの!むしろ大好きです!!君達のボスが休んでいる間とは言わず、残りの工程全部我々にやらせてくれたまえっ!!大丈夫!設計図もきちんとしたものがほら、ここにあるし!要望通りに完璧に・・・いいや、それ以上のモノを造り上げて見せるとも!!ああ・・・ああ・・・!ダメだ、もう辛抱できねぇ・・・!行くぞ、野郎共!ウォオオオーーッ!ヒャッハァーーッ!!』
『ヒャッハァーーッ!!』
隊長モグラ達はそう言いながら部下モグラ達を引き連れて建造中の巨大ロボットの下へと突撃していった。某世紀末な世界に登場するならず者達のような歓喜の声を出しながら。
まあ、流石はと言うべきか、あの様々なトラップ満載の地下秘密基地を作り上げた手先の器用さは伊達ではないらしく、彼等はテキパキテキパキとスムーズに、且つ物凄い速さで巨大ロボットの建造を進めて行った。それこそ、もう明日には完成してもおかしくないくらいには。
これなら『悪の組織、秘密結社合同スーパーロボットコンテスト!』なる大会に十分に間に合いそうだと思えた。
・・・・・・ただ、まあ、その中で一つだけ難儀していた事もあったのだが。
それが何かと言えば、ブレーバーと戦闘員三号の二人がなかなか休もうとしなかった事だ。
・・・いやまあ、最初は新しく仲間に加わった隊長モグラ達の腕前を見て、彼等にならば任せても問題ないと思ったらしく、俺に促されるがままに休もうとした。・・・のだが、何故かそのすぐ後にたいして間をおかずに起きて来て巨大ロボットの建造に再び参加していた。
二人の言い分によると、どうやら「用意した部品や各種パーツに不備があったりするんじゃないか?」とか、「この後搭載する予定の各種武装の調整をもう一度確認した方が良いんじゃないか?」とか言った感じに、気になって気になって仕方がなくなって起きてしまっているらしい。
最初は「やれやれ、しょうがないなぁ」と言った感じで呆れつつ、彼等二人を寝床にまで引き摺って連れて行った俺だったが、それが二度、三度と続くと流石にイラッと来るようになった。
そして両手の指で数える以上の回数起き上がってくるのを目にして、最終的にぶん殴ってノックアウトさせて強制的に眠らせていくようになった。
いやだって、そうでもしないとあの二人全く寝ようとしないし。というか、強制的に眠らせたとしてもしばらくするとまた起き上がって来るし。それも疲労と眠気が重なっているのもあってか、まるでゾンビみたいに。
「ヴァ~・・・ヴァ~・・・」言いながら作業する様は、傍から見れば何処ぞのホラー映画から出て来たんだと思えるくらいには怖かった。ハイライトの消えた何処か座った目で振り返った時は特に。実際、そんな彼等の姿を目にした部下モグラ達が怖がって一時作業が中断してしまった事があったし。
・・・・・・ついでに言うと俺も一緒に見てしまって、「ヒィッ!?オバケ!?」と驚いて思わず腰を抜かしてしまった事もあったし。うぅ・・・!?思い出したら体が震えてきた・・・!
トンテンカンテントンテンカンテン・・・!ギュイィィィン!
「オーライ!オーライ!もうちょっと右にー!よぉし、オーケー!左腕の接続を開始するぞー!」
「すまんが、別の光学レンズを寄越してくれないかー?どうも今手元にあるのだと、この頭部に付ける部分に合わなくてさー」
「おーい!ついでにこっちの分も頼むわー!右腕のマニピュレーターを繋げる為のケーブルが足りないんだわー!」
まあ、そんな事もあったりしたが、巨大ロボットの建造は順調に進められており、今も俺の目の前で隊長モグラも含めたモグラ怪人達が嬉々として巨大ロボットの各種パーツを作っている最中であった。
「・・・うん。この調子なら本当に明日くらいには完成しそうだな。―――よし、そろそろ休憩時間も終わるし、俺も手伝いを再開するとしますか。えーと・・・光学レンズとケーブルが欲しいって言っていたっけ?確か、ここ等辺の資材置き場にあった筈・・・・・・」
ガサゴソガサゴソ・・・!
「・・・・・・ん?」
「ふっふっふっ・・・!コイツをこうしてああして・・・コレと合わせれば・・・・・・よし、完成だ!遂に例のパーツが完成したぞ、戦闘員三号よ!」
「イイッ、イー!イイイッ、イーイーイイー!」(やりましたね、ボス!何度も監視の目を掻い潜って材料を集め、こっそり作っていたかいがありましたね!)
「ああ・・・!後はコイツをアレに組み込めば各種性能が、とりわけ反応速度と敏捷性が格段に増す。具体的には三割強ぐらい!」
「イッ、イイッ!イーイイー!イッ、イーイイー、イーイーイー、イッ」(おぉっ、流石はボス!では早速向かうとしましょう!勿論、見つかったり気付かれたりしないように、抜き足差し足忍び足、で!)
「・・・・・・・・・」
昼休憩を終わらせて巨体ロボット建造の手伝いを再開しようとした時、ふと誰かが資材置き場でガサゴソやっている様子が目に入った。
いったい誰がと思いつつ確認してみれば、そこには逝っちゃった目をしたブレーバーと戦闘員三号がいた。
―――ピッ!
「イッ、イーイイー。イーイー。イイイーイー・・・イッ、イイイッ、イーイー・・・・・・」(あっ、ディーアルナ様。丁度良かった、実はあの二人が医務室からまた脱け出したみたいでして・・・たくっ、数日は安静にってメドラディから言われているってのに、いったい何処に行ったんだか・・・・・・)
「・・・ああ、うん。大丈夫だ、問題ない。今発見したから、これから眠らせてそっちに連れて行くわ」
戦闘員一号から掛かってきた通信に、俺はそう答える。
やはりと言うか、どうやらこの二人はまた起き上がって来てしまったらしい。今度は身動き出来ないように医務室のベッドにベルトで縛り付けたというのに、だ。
「さて・・・覚悟はいいか?そこのワーカーホリック二人」
「「・・・ギクッ!?」」
バキボキと指の骨を鳴らしつつそう声を掛けた瞬間、ドビクゥッ!?となるブレーバーと戦闘員三号。体を震えさせながら、ギギギッとブリキ人形の様に恐る恐る振り返る様は、まるで「やっべぇ、見つかった!?」とでも言いたげなそれだ。
「どうやらベッドに縛り付けるだけじゃ眠れなかった様だな。なら、今度は強烈な一撃を叩き込んで無理矢理眠らせてやろうか・・・?」
顔を俯かせながら俺がそう言うと、ブレーバーと戦闘員三号は「い、いやいやいや!?」といった感じに慌てて首と両手を横に振った。
「そんな事はない!そんな事はないぞ、ディーアルナよ!?我と戦闘員三号はもう十分に休んだとも!ほら、こんなに元気元気!!」
「イ、イイッ!?イッ、イッ?イイッ、イーイーイイイー・・・・・・イイッ、イーイイー?」(そ、そうそう!?だから、だからね?出来ることなら、温かい目で見逃してもらえると僕達としては大変ありがたいなぁと思うんですが・・・・・・い、如何でしょうか、ディーアルナ様?)
「ハ・・・ハハ・・・ハハハ、ハ・・・」と苦笑いをするブレーバーと戦闘員三号。
そんな二人の言い訳を聞いた俺は、俯かせていた顔を上げて一瞬だけにこやかぁな笑みを浮かべ―――グッと右拳を握った。
「問答無用!―――奥義【龍頭気弾撃】!!」
「イッ、イイィィーーーッ!?」(や、やっぱりぃぃーーーっ!?)
「というかそれ下手したら永眠するやつってギャァァァアアアーーーッ!!?」
右拳を振り切ると同時に放たれる龍の頭部を模したエネルギー弾。それはブレーバーと戦闘員三号の下へと真っ直ぐ直進し、彼等を物凄い勢いで打ち上げるのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿についてですが、申し訳ありませんが数ヵ月先の予定となっております。
というのも、暫くの間既に投稿している既存の作品の内容を修正しようと考えているからです。当作品も半分より上は物語の話し方や視点がごっちゃになっているので。元々ノリと勢いと思い付きで書いた作品ですし。
なので、話のストックを作ることもあわせて、最低でも半年前後は掛かるかなと思います。
次の話を待っている読者の皆様には申し訳ないと思いますが、お待ちいただければなと思います。
それではまた。




