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ミッション82 狙撃主VS狙撃主・・・!?

お久しぶりです。kudoです。大変お待たせしました。新話投稿です。

いや、本当にお待たせして申し訳ありません。6月末に投稿できればと言っておきながら結局今月まで掛かってしまいました。

言い訳になりますが、先月末辺りにパソコン周辺機器関係でちょっとトラブルがあってネットに繋がらない状況になってしまいまして、一時的に執筆作業が行えなくなったり、その後も6割書いてからほぼ書き直すことにもなったりもして、予想以上に遅れてしまいました。

今回のお話しの内容はほぼシリアスです。一部コメディっぽい所もありますが、面白いと思うかどうかは読む人次第かなと思います。



「むぅ・・・侵入者共の動きが無い。さっきのであぶり出してやろうと思っていたんだが、そう簡単にいかんか・・・・・・」


所変わって、所々に七色に薄く輝くラインが走るSF染みた部屋の中。その壁に所々存在している窪みの様な、穴の様な場所の一角でそうポツリと呟いたのは一匹のモグラ―――兄貴モグラであった。

彼は地面に俯せで寝そべる様な体勢になりながら両手でボルトアクション式―――手動で弾丸の装填、排出を行う機構の事―――のスナイパーライフルを構えており、その銃口は彼が今いる場所から斜め右下辺りに―――より正確に言えば、通路の影に潜んでいるであろうディーアルナ達に向けられていた。


「コイツの性能がもっと高ければ、例え通路に隠れられたとしても問題なく狙えたんだがな」


そう呟きながら兄貴モグラが視線を横に向けた先には何やら大型の機械が置かれていた。

その機械の一部からは二本のケーブルが伸びており、その内の一本は兄貴モグラの掛けているサングラスに、もう一本は彼の持つスナイパーライフルの照準器に接続されていた。

実はこの機械の正体は、戦闘員二号が予想していた通り一種の照準補助機であった。

それはトラップ発動の為にSF染みた部屋の中に仕掛けられていた動体センサーと連動しており、センサーに反応があった場所の情報を兄貴モグラの掛けているサングラスに映像として投映し、加えてどういう風に撃ったら対象に当たるのかという弾道計算も行うものであった。

ちなみに、スナイパーライフルの照準器に接続されているのもその関係であり、照準器で捉えた情報も大型機械を経由して彼の掛けているサングラスへ映像として投映される仕組みとなっている。


「まあ、無い物強請りをしてもしょうがないか。今あるもので何とかするしかない」


そう言いながら何時自身の獲物が現れても良い様に、ジャキッとスナイパーライフルを構え直すアニキモグラ。

その口元には防弾チョッキのポケットから取り出した草臥れた様な煙草が咥えられていた。


「お・・・?来たな・・・!」


その時だ。侵入者達が隠れ潜んでいる通路から誰かが飛び出して来たのは。

飛び出して来たのは先程自身が仕留め損ねていた年若い女性の姿をした怪人―――ディーアルナだった。

頭に少し膨らんだ黒い軍帽の様な帽子を被り、顔には目元を覆う形のアイマスクを、その体に機械的なアーマーが所々に取り付けられている黒いハイレグレオタードを身に纏い、その上にゴツく感じられる緑色の軍服を羽織った彼女は通路から飛び出すと、部屋の中を物凄い速さで駆けていく。


「フンッ、なるほどな。自身が囮となって狙撃主である俺の居所を探り出そうという考えか・・・」


それを目にした兄貴モグラはフンッと鼻を鳴らしながらそう呟いた後で、「だが・・・」と続けて呟く。


「そう簡単に考え通りに行けると思うなよ。こっちには照準補助マシン『ガンルード』がある。コイツの機能を使えば怪人の一人くらい沈めるのなんて訳はない・・・!」


兄貴モグラはジャキリとスナイパーライフルを構えると、その銃口を部屋の中を駆けるディーアルナに向け―――ずにその横の壁へと向けた。


「さあ、哀れな獲物よ。俺の掌の上で思う存分に踊るがいい・・・!」


そう呟きながら兄貴モグラがスナイパーライフルの引き金を引いた瞬間、その銃口から一発のライフル弾が発射され、それに少し遅れるようにドバンッ!という銃声が鳴り響いた。

放たれたライフル弾は兄貴モグラが狙っていたディーアルナの横―――部屋の壁へと直進していき、壁にぶつかった瞬間にチュンッという音を響かせながら進路を変える。

そしてその変えた進路の先には身構えたディーアルナがおり、彼女の頭部へと吸い込まれるように銃弾は進んで行く。

そして今まさに銃弾が彼女の頭に当たる瞬間を『ガンルード』の機能で見ていた兄貴モグラが、「当たる・・・!」とそう思った時、カキンッ・・・!という音と共に銃弾が突然掻き消えた。


「・・・む?」


いったい何が起こったのか?と内心でそう思う兄貴モグラであったが、しかしそれとは裏腹に彼の体は次の銃弾を撃ちこむ為の準備を進めていた。

ジャキッと空薬莢(やっきょう)を排出し、新しい弾丸をスナイパーライフルの弾倉へと込め、そして再び狙いを付ける。


「・・・・・・ッ!」


そして再び引き金を引く。

今度は彼女の頭上―――部屋の天井に向けて放たれた銃弾は、そこで先程と同じようにチュンッと音を響かせながら進路を変え、真下にいるディーアルナに向かって直進する。

死角とも言える真上からの攻撃に早々気付ける筈がない。そう思いながら口元に小さな笑みを浮かべる兄貴モグラであったが、しかしその意図は次の瞬間には外れてしまった。


「なにっ・・・!?」


『ガンルード』の機能で様子を見る限りではディーアルナが防いだ様子はない。だが、ディーアルナへと直進していた銃弾が彼女へと当たろうとした瞬間に、その途中でカキンッという甲高い音を音を響かせながら再び姿を消したのだ。

一度ならず二度までもその現象を目にした兄貴モグラが驚きの声を零してしまうのは仕方のない事だろう。


「一体何が・・・見えないバリアか何かでも展開しているのか?・・・いや、それなら『ガンルード』の機能で弾が弾かれる様子が見える筈・・・・・・」


それに、どちらかと言えばアレは何かに吹き飛ばされた様だと狙撃主(スナイパー)としての勘で感じていた兄貴モグラは、「ならばこれならどうだ・・・!」と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を手に取った。

それは形からして元はボルトアクション式のそれだったのだろうと思われるが、各部の部品(パーツ)が徹底的に改造されたり別のモノに交換されたりしていて、最早元の造形が何だったのか分からなくなるくらいに見た目が変わっていた。

更にはその改造によってセミオートマチック式―――引き金を一回引くごとに、弾丸の発射と弾丸の装填、排出を自動で行う機構―――にも変更されており、また銃身(バレル)の横には強制排熱及び冷却機能が付いた部品(パーツ)が取り付けられていて、銃弾を連続発射した際に発生する熱で銃身が曲がらない対策が取られていた。


「クククッ・・・!さあ、哀れな獲物よ!わが愛銃『スーパードラグノフ・カスタム』の威力を思う存分味わい、そしてその鉛玉を腹いっぱい食らうがいい!!」


兄貴モグラは先程置いたスナイパーライフルの照準器に繋げていたコードを外すと、それを今度は今手に持っている『スーパードラグノフ・カスタム』の照準器へと繋げ、そして再び床に俯せになるとジャキリッとディーアルナに狙いを定めた。


ドバンドバンドバンドバンッ!!


そして引き金を引いた瞬間、銃口からライフル弾が連続発射された。

合計四発発射されたそれ等は、一発は高速回転しながらディーアルナに直接、他三発はそれぞれ壁、床、天井で跳弾してから一拍遅れで彼女へと向かった。


「ハァッ・・・!」


カキンッ・・・!


「ふっ・・・それは囮だよ、お嬢さん」


最初の直接ディーアルナに向かっていた一発は彼女に気付かれ上着の袖に付いているアーマーに弾かれる。

だが、それは兄貴モグラにとっては()()()()の事であった。

彼の本命は他の三発。それらは様々な角度からディーアルナの下へと向かい、そして今まさに彼女へと同時に当たろうとしていた。


チュンッ・・・!チュンチュンッ・・・!カチュンッ・・・!


「ヌゥッ・・・!?」


しかし、それらの弾丸全てがまたもや消えた。消えてしまった。

その光景を『ガンルード』の映像越しに見ていた兄貴モグラは顔を顰めるが、しかし今回彼が顔を顰めた理由はそれだけではなかった。


「(あの一瞬・・・弾丸が消える際に何かが横から飛んで来るのが見えた。アレは・・・まさか、銃弾か・・・!?)」


先程自身が撃ち、壁や天井や床に当たって跳弾しながらディーアルナに向かっていた三発の弾丸が消えたあの一瞬、兄貴モグラはその三発の弾丸に迫り、ぶつかった小さな何かをサングラスに投映された『ガンルード』の映像で確認していた。

そしてその小さな何かの正体がおそらく銃弾だと、映像を見ていた兄貴モグラはそう当たりを付けていた。


「おそらく何者かが撃ち放ったモノなのだろうと思うが、しかしいったい誰が・・・・・・」


その銃弾が何者かの手によるものという事はすぐに分かったが、しかしどこの誰がそれを撃ち放ったのかまでは皆目見当もつかなかった兄貴モグラは「ムゥッ・・・!」と唸り声を上げる。


「ムッ・・・!」


そのすぐ後に、兄貴モグラはディーアルナがとある場所に向かおうとしている事に気付いた。

彼女が向かおうとしていたのは隊長モグラ達がいるモニタールームに繋がる通路に出る扉であった。

それを目にした兄貴モグラは、「流石に隊長モグラ達の下に行かせるわけにはいかないな」と呟きながら、彼女へ向けて再度銃弾を連続で放った。

ドドドドドドドドドドバンッ!!と連続して鳴り響く発砲音。

スナイパーライフルの銃口から撃ち出された銃弾は合計十発であり、放たれたその十発の弾丸は様々な方向へと飛んび、部屋の中の壁、天井、床に何度も当たって跳弾し、ディーアルナの下へと飛んで行く。


「クッ・・・!」


複数の銃弾が自身に向かって飛んで来る事にディーアルナは、それらを迎撃しようとしてか走りながら両腕を構える。

そして先程の様に上着の袖のアーマーで何発か弾いたり、エネルギーを纏った足で蹴飛ばして見せた。

だが、流石に全てを撃ち落とす事は出来なかったらしい。というか、兄貴モグラがそうさせなかった。

ディーアルナが五発目の弾丸を回し蹴りで弾き飛ばした際に、地面に着地しようとした彼女の足へ向けて十一発目の銃弾を発射したからだ。

彼女の足は銃弾が当たっても怪人の体故か大きな怪我を負う事は無かったが、しかしその勢いによって足が払われる事となり、その体勢を大きく崩した。


「しまっ・・・!?」


宙に浮くディーアルナの体。そこへ未だ残っていた五発の弾丸が、跳弾を繰り返しながら彼女の下へと向かう。

そして、それらがディーアルナへと当たろうとしていたその瞬間、やはりというかなんというか、これまでと同じようにその弾丸全てが横合いから飛んで来た小さな何か―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によって弾き飛ばされてしまった。


「チィッ、またか・・・!?だがこれで、お前が何処にいるのか見抜いたぞ、狙撃主(スナイパー)!」


自身が撃ち放った弾丸が全て弾かれた事に一瞬舌打ちをした兄貴モグラであったが、しかしその視線は既にディーアルナとは別の方向へと向けられていた。


「食らえぇい!!」


スナイパーライフルのカートリッジを交換し、ジャキリッとその方向に銃口を向けた兄貴モグラは引き金を引き、ドドドドドパンッ!!と五発の銃弾を撃ち放った。

弾丸が進む先は先程ディーアルナが出て来た通路の近く―――彼から見て右斜め下に見える部屋の隅だ。

一見すれば何もない様に見えるが、しかしその場所に弾丸が当たろうとした瞬間、バサリという何かが翻る音と共に細長い銃身(バレル)が姿を現し、そこからマズルフラッシュが瞬くと同時に五発の弾丸が撃ち放たれた。


「ヌゥッ・・・!?」


どうやら敵狙撃主(スナイパー)は光学迷彩が施された布を被って姿を隠していたらしい。加えて、自身が撃ち放った五発の弾丸が全て撃ち落とされてしまった事に兄貴モグラは悔しげな声を零したが―――


「いや、いいや!まだだっ!!」


ジャキッ・・・!ドパンドパンドパンッ!


―――しかし、すぐさま追撃を放たんと敵狙撃主(スナイパー)向けて連続で銃弾を撃ちこんでいく。


「・・・ッ!」


銃口から撃ち出され、真っ直ぐ標的である光学迷彩シートに身を隠した敵狙撃主(スナイパー)に向けて飛んで行く三発の弾丸。

しかしその弾丸をかの者は前に走り出す事で回避してみせる。


「その行動は予想済みだ!」


ドパンドパンドパンッ!ドドドドドパンッ!ドドドパンッ!


しかし、その行動を予想していた兄貴モグラは、続けて十一発の弾丸を逃がしはしないと言いたげに部屋中に撃ち放った。

それらは壁や天井、床に当たって繰り返し跳弾し、それぞれタイミングをずらして次々と敵狙撃主(スナイパー)へ向かって行く。


「・・・ッ!!」


それに対して敵狙撃主(スナイパー)は、己が武器を両手持ちのスナイパーライフルから片手持ちのマシンガン二丁に持ち換え、その銃口を自らに迫り来る十一発の弾丸に向ける。


ドドドドドドガガガガガガッ!!


そして連続で撃ち放たれる無数の弾丸。

その軌道はまるで兄貴モグラが撃ち放った弾丸の動きが見えているかの様に正確に、次々と撃ち落としていった。


「な、なにぃっ・・・!?」


その光景を目にした兄貴モグラは驚愕した。

ああも正確に弾丸の軌道を読まれて撃ち落とされた事もそうだが、それ以上に未だ跳弾を繰り返していた弾丸すらも撃ち落とされた事に彼は絶句していたのだ。


「(真っ直ぐ飛んで来る弾を撃ち落とすという技は、熟練且つ凄腕の狙撃主(スナイパー)であれば出来ても別におかしくはないと思う。・・・だが、まさか、跳弾を繰り返していた弾丸さえも落ち落とすなんてのは流石に想定外だ・・・!!)」


というか、そもそもそんな事が出来るとすら彼は思っていなかった。

なにせ今のは、まさに神業と呼んでもいいモノだった。正直自身では、例え『ガンルード』のサポートがあったとしても真似る事すら難しいと思えるくらいには。


「―――いや、待て。そういえば昔、それが出来る男が一人いたな・・・!」


しかしその瞬間、兄貴モグラの脳裏には、ある記憶が思い出されていた。

それは昔、自身がとある戦場で一人の傭兵として参加していた時の記憶だった。

その時の兄貴モグラは狙撃主(スナイパー)としての腕を買われて敵対する組織の構成員を狙い撃つ役割を与えられていた。

そしてその戦場で彼は件の男と鉢合わせをしたのだ。

・・・まあ、鉢合わせたと言っても実際には何百mと距離が離れていたわけなのだが。

ともかく兄貴モグラが出会ったその男は、傭兵家業を生業とする者達の間では『夜闇の鷹』という二つ名で呼ばれ、恐れられ、有名だった人物であり、その二つ名も鷹の様に時に静かに、時に獰猛と思えるくらいに血気盛んに狙った標的を仕留めるからであり、またそれは真っ暗闇の中でも変わらない―――どころかそちらの方が獲物を仕留められる確率が高い事から付けられたモノであった。


「『夜闇の鷹』。確かにあの男であれば跳弾している弾を撃ち落とすなんて芸当が出来ても不思議ではないな」


ボソリとそう呟く兄貴モグラ。

実際彼はその戦場で『夜闇の鷹』と撃ち合いをしており、その時に自身が撃ち込んだ弾丸が全て撃ち落とされ、逆に無数の弾丸を撃ち込まれてしばらくの間行動不能にさせられたという苦い記憶があったので余計にそう思った。


「ということは、だ。まさか、あの光学迷彩シートで姿を隠している奴の正体は、あの男なのか・・・!?」


故に、今自分が対峙している敵狙撃主(スナイパー)が実はその男なのではないかとすら一瞬思ったのだが、しかしそのすぐ後に彼はあり得ないと言いたげに首を横に振った。


「・・・いや、いいや、流石にそれはない。あり得ない。何故ならあの男は、『夜闇の鷹』はもう何年も前に死んでいる筈なのだから・・・!」


そう。あり得ないのだ。何故なら、彼が知る限り『夜闇の鷹』という二つ名が付けられていた男は、既に故人となっていたからだ。


「(俺もあの男の死因については飽く迄噂でしか聞いちゃいないが、なんでも奴は依頼人に裏切られ、背後から撃たれた後にそのまま戦場に置いて行かれて、しかもその後に奴がいた場所で大きな爆発があったとか・・・)」


飽く迄噂なので真偽の程は定かではないが、少なくともそれ以降『夜闇の鷹』の姿を見ていないし話も聞かないので、兄貴モグラ自身も含めた傭兵家業を生業とする者達の間では、彼はその爆発によって死んだものと思われていた。


「(だが・・・だがあの狙撃主(スナイパー)動きは・・・あれは俺の知っている『夜闇の鷹』の動きと似ている―――否、まったく同じと言ってもいいそれだ・・・!)」


だがしかし、今になって兄貴モグラは、それは誤りだったのではないかと思った。

何故なら、今目の前で数多の弾丸を撃ち落としてみせた敵狙撃主(スナイパー)の動きが、あの戦場で目にした『夜闇の鷹』の動きとそっくりであったからだ。

もしや生きていたのか・・・!?と、頬にタラリと冷や汗を流しながら驚愕する兄貴モグラだったが、しかしその口許はニヤリと、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「ク、クククッ・・・!そうか・・・そうか生きていたのか、『夜闇の鷹』ぁ・・・!!ならばあの時の、あの戦場で味わった雪辱を、今此処で晴らさせてもらおうじゃないか・・・!!」


ジャキッ、とスナイパーライフルのカートリッジを新しい物に交換した兄貴モグラは、敵狙撃主(スナイパー)へと狙いを定める。


「さあ食らうがいい、『夜闇の鷹』!これがあの時の敗北から学び、会得した奥義!【ガンズプリズンパーティー】だっ!!」


引き金を引き、ドドドドドドドドドドッと連続で十発の弾丸を撃ち放つ兄貴モグラ。

発射されたそれらの弾丸は敵狙撃主(スナイパー)へと収束するように真っ直ぐ向かって行き―――その途中で弾同士でぶつかり、弾ける様に様々な方向へ飛んだ。

バラバラな方向へと飛んだ十発の弾丸はそれぞれ部屋の壁や天井や床、はたまた弾丸同士でぶつかり、跳弾し続け、敵狙撃主(スナイパー)を囲む様に動く。

そしてかの人物をその囲いの中心に捉えた瞬間、十発の弾丸は囲いの中心に向けてそれぞれの方向から一斉に、ほぼ同時に向かい始めた。


「クハハハハハハッ!いくらお前でもこの銃弾の檻の中からは逃れられまい!俺の・・・勝ちだぁっ!!」


これなら奴を仕留められる・・・!!そう確信を抱いた兄貴モグラは笑い声を上げた。


「・・・ッ!!」


パンッ!―――カキュンッ!キンキンキンキンキンッ!!


その時だった。敵狙撃主(スナイパー)が片手に持つ一丁のマシンガンから銃弾を一発撃ち放ったのは。

撃ち放たれた弾丸は彼の下へ向かっていた十発の弾丸の内の一発に向かって行き―――そして擦る様に衝突した瞬間、その二発の弾丸は弾かれるように飛んで他の九発の弾丸へと連鎖的にぶつかって行った。


「―――はっ?」


気が付けば全ての弾が弾き飛ばされて、撃ち落とされているその状況を目にした兄貴モグラは、大きく開けていた口が塞がらなくなってしまった。


「(ば、ばか、バカな・・・!?一斉に跳弾していた弾を、全て撃ち落とした、だとぉ・・・!?し、しかも、たった一発の弾丸で・・・!?)」


あまりにも想像を絶する光景に動揺し、思わず体を硬直させる兄貴モグラであったが、しかしそうしている間にも敵狙撃主(スナイパー)はどんどん彼がいる場所に向けて距離を詰めて来ていた。

その事に気付いた兄貴モグラは、動揺に染まっていた感情を振り切り、固まっていた体を無理やり動かして、まるで機械(マシン)の様に的に敵狙撃主(スナイパー)へとスナイパーライフルの銃口を向け、その引き金を引き、弾倉内に残っていた最後の一発を発射した。

ドパンッ!という音が鳴るよりも早く突き進む弾丸。その進む先にいた敵狙撃主(スナイパー)は、当然のようにその弾丸を―――撃ち落とさなかった。


「イッ!イーイイー!」(今だ!ディーアルナ様!)


「応ッ!」


「イーイー」と言いながら身に纏っていた光学迷彩シートを掴んだ敵狙撃主(スナイパー)は、バサリッ!とそれを振るって翻し、自身の下へと迫って来ていた弾丸を弾き飛ばす。

そしてその瞬間、敵狙撃主(スナイパー)のその声に応える様に何時の間にかモニタールームの通路に出る扉の前に到着していたディーアルナがその手の中に光球を作り出し、それをかの人物の前に向けて勢いよくブオンッ!と投げた。


―――カッ!!


「ぐ、ぐぅぉぉぉおおおーーーっ!?!?目が・・・目がぁぁぁーーーっ!?」


投げられた光球は爆発する様に弾け飛び、目が眩むような強い光で周囲を照らした。

それを目にした兄貴モグラは、まるで某空に浮かぶ城に登場する悪役の様に自身の目を押さえて思いっきり悶絶した。


「(し、しまったぁぁ~~!?まさか、『ガンルード』で映し出された映像越しに見ていたのが仇になるとはぁ・・・!?というか、マジであの女怪人の存在を忘れてたよ・・・!こう、頭の中からスポーンという感じに・・・!!」」


兄貴モグラは内心で「なんという誤算・・・!!」と叫んだ。

一応彼はサングラスを掛けてはいたが、しかしそのサングラスの裏には『ガンルード』の機能で映像が投映されていた。つまり彼は目が眩むような強い光を映像越しに、直で見てしまったのだ。それは目が眩むのも当然と言えよう。

加えて、その光球を作り出したディーアルナの存在を完全に忘れていたのも不意を突かれた要員の一つであった。

それは予想だにしていなかった己が宿敵の登場に思わず頭がいっぱいになってしまっていたが故だったのだが、しかしそれは明らかに彼の失態であった。


ジャキッ!


「イッ。イイッ、イー。イーイーイイー」(よう。チェックメイトだぜ、狙撃主(スナイパー)。さあ、ハリーアップをしてもらおうか)


「―――ッ!」


だからこそ、そんな彼に敵狙撃主(スナイパー)から―――戦闘員二号からチェックメイトが掛けられるのは必定であった。


「・・・よく俺がいる場所が分かったな。結構分かり辛い所に隠れていたと思うんだが?」


自身の後頭部に銃口が当てられている事に気付いた兄貴モグラは、一瞬息を飲み込んだ後に両手を持ち上げつつ戦闘員二号にそう問い掛けた。

それは眩んでしまった目が治るまでの時間稼ぎであったのだが、しかしその問いに対して彼は、何を当たり前な事を聞いてんだコイツは?と言いたげに「ハンッ・・・」と鼻で笑ってみせた。


「イイイー。イーイイーイー。・・・イッ、イイイーイイーイー。イーイーイイーイー」(そりゃあアレだけバカスカ撃ってたんだ。テメェが隠れている場所を特定するのなんざ訳ねぇよ。・・・というか、狙撃主(スナイパー)だってんなら一つ所に留まってんじゃねぇよ。普通何発かぶっ放したら別の所に移るのが狙撃主(スナイパー)の定石だろうが)


「ハハッ・・・耳が痛いなぁ。まあ、確かにその通りなんだが・・・それが出来ない訳があってなぁ・・・・・・」


「イッ、イイッ。イイーイーイーイイー、イーイー?」(ああ、別に言わなくてもいい。どうせ銃弾を連続且つ正確に跳弾させながら獲物にぶち込む為にこの機械の補助が必要だったとか、そういう話だろう?)


「・・・流石は『夜闇の鷹』。良い慧眼をお持ちで」


「イッ?イー、イイーイー・・・」(あん?お前、何処でその名前を・・・)


兄貴モグラが口にした『夜闇の鷹』という名前を耳にした戦闘員二号はいったい何処で聞いたんだ?と言いたげに不思議そうに首を傾げた。


「(・・・今だ!)」


戦闘員二号のその動きを察した兄貴モグラはクルリと回転。持ち上げていた左手で戦闘員二号のマシンガンを持つ手を横に押し退けつつ、右手で防弾チョッキの裏から一丁の拳銃を取り出すと、その銃口を眼前にいる己が敵へと向けた。


()ったぞ・・・!」


体勢が崩れているので迎撃は不可能。ましてやこの距離であればまず外す事はない。

これなら確実に弾が当たる・・・!と、内心でそう確信を抱きながら兄貴モグラは引き金を引こうとした。


チュンッ・・・チュンッ・・・チュンッ・・・―――ガキィンッ!!


「な、なにぃ・・・!?!?」


だがその瞬間、突如頭上から一発の弾丸が飛来してきた。

それは兄貴モグラが持っていた拳銃へと向かっていき、バキャリッ!という音を響かせながら破壊した。


「そんな・・・!どうして弾が上から・・・いや、そもそもいったい誰が・・・・・・!?」


「イー、イイーイー。イーイー、イイーイーイー。イイイー」(ああ、今の弾は俺が事前に撃っていたやつだよ。狙撃主(スナイパー)ってのは職業柄何かしらの保険を掛けたり、予備の武器を用意していたりする奴が多いからな。相手がどう動くのかを予想して、跳弾させておいたんだ)


「なん・・・だと・・・・・・!?」


そんな光景を目にした兄貴モグラは「そんな馬鹿な・・・!?」と言いたげに驚愕し、体をワナワナと震わせ、そして先程飛来した銃弾を放ったのが戦闘員二号であったということを知って、あんぐりと口を開けた。

反撃されることを予想していた、という点については兄貴モグラにも分かる。戦闘員二号の言う通り狙撃主(スナイパー)という職業に就いている者は大抵慎重派が多いからだ。その手段の一つや二つ持っていてもおかしいとは思わない。

だが、それを予想して弾を一発跳弾させておいて、しかもそれを相手が持つ武器に当ててみせた、という点については色々と物申したい気持ちになった。


「いや・・・いやいやいや・・・!普通そんな事出来ないから・・・!当たる事無く外れるのが普通だからなそれぇ・・・!?」


「というか、そんな超人技が出来る奴なんてまずいないから!?」と思わず叫ぶ兄貴モグラ。

なお、真正面から彼にそう訴えられた戦闘員二号はと言えば、その叫びを否定することなく、むしろ同意するかのように何故か頷いて見せていた。


「・・・イッ。イイイーイー。イイー、イーイーイイー」(・・・まあ、確かに。そん所其処らの奴に出来る事じゃないってのは間違いないな。俺の知る限り、こんな芸当が出来る奴は俺を除いてあと二人しか知らないしな)


「あと二人も出来る奴いんのかよぉ!?」


その後に呟かれた戦闘員二号の言葉に思わずツッコミを入れてしまう兄貴モグラ。

まあ、つまりは合計三人の人物が先程の様な超人技が使えるという事であるのだから、それを直に味わった彼からすればそうツッコミを入れてしまうのも仕方がない事だと言えた。


「イッ・・・イイイッ、イーイー」(さてと・・・お喋りはここまでにして、そろそろ片を付けるとするか)


「ッ・・・!」


そう言いながら戦闘員二号は、ジャキッとマシンガンの銃口を再び兄貴モグラへと向ける。

眼前に突きつけられたそれを目にした兄貴モグラは反射的に頬をヒクッと引き攣らせたが、しかしその後でニヒルな笑みを浮かべた。


「フ、フンッ・・・!俺には他にも仲間がいるんだ。此処で俺を倒したとしても、その志を継いだそいつ等が絶対にお前達を―――!」


「イイイッ」(いや、そういうのもういいから)


そんな兄貴モグラに向けてカチッとマシンガンの引き金を引く戦闘員二号。

瞬間、そのマシンガンの銃口から幾つものマズルフラッシュが瞬いた。


「―――って、せめて最後まで言わせろアバババババババァァァーーーッ!?」








閑話:その頃のメドラディは・・・


「さあ、らっしゃいらっしゃい!もうすぐ閉店時間だよぉ!今なら売り出している商品の値段を割引するよぉ!魚介類をお求めのお客様はぜひウチの店にどうぞぉ!」


「―――こんばんわぁ、魚屋さん。ちょぉっとよろしいかしら?」


「あん?ああ、アンタは・・・・・・いったいどうしたよ?アンタのお求めの品はしっかりと用意した筈だぜ?―――それともあれか?商品に何かしらの不備があったとかのクレームを言いにでも来たのか?」


「いいえ。別にそういう理由で来た訳ではないのだけれど。・・・というか、そういう事があるのかしら?」


「ああ、まあな。表の方はともかく裏の方では俺が用意した商品に難癖を付けて賠償金を請求しようとしてくる輩が一定数いてなぁ。―――まあ、そういうふざけた事をして来る連中にはそれなりの対応をさせてもらっているがな。・・・・・・んで、だ。そういう要件じゃないお嬢さんは、いったい何の様でまたウチの店に来たんだ?」


「お礼を言いに来たのよぉ。貴方の店が用意してくれた商品のおかげで、”協会の野犬”を捕まえる事が出来たのだから」


「なんっ・・・!?いや、待て。待ってくれ、お嬢さん・・・!店の奥に行こう・・・!その話は此処でするには不味過ぎる・・・!!」


「ええ。構わないわよ、魚屋さん。それじゃあ、行きましょうか」








・・・ザッ・・・ザザザザザッ・・・ザザッ・・・・・・!


『ふむ・・・つまり君達は対象である高梨悠里の捕縛に失敗し、しかも撤退させられる破目にまでなったのは、彼女の背後についた何処ぞの悪の組織のせいだと、そう言いたいのかね?ドッグワン』


「はっ。その通りです、閣下。真に申し開きのしようもなく・・・・・・」


『ううむ・・・君達の報告を疑うわけではない。ないのだがしかし、正直それは幾らなんでも話が荒唐無稽過ぎないかね?少なくとも君達の実力を知る私からすれば、ありえないと思えてならないのだが・・・」


「ですが、実際に我々は撤退という選択を取らざるを得ませんでした。そしてそれは我々が負った被害からも分かる筈です」


『うむ、それはそうなのだが・・・しかしだな、ドッグワン。今回はどちらかと言えば武装面の不備があったからこそだったのではないかと私は思うのだよ。でなければ、君達が何処ぞの無名の悪の組織に負けるなんて事態が起こる筈がない』


「は、はっ・・・!過分な評価を頂き、ありがとうございます!」


『君達に中途半端な機体と武器を用意した経理課には後で叱責と注意喚起をしておこう。それから、ちゃんとした物を君達に寄越すように指示も出しておく。次の任務はそれが来てからとするので、それまでの間君達はしっかりと体を休ませておきたまえ』


「はっ!ご配慮ありがとうございます、閣下」


『うむ。ではな』


―――ブゥン、ブツッ・・・!


「・・・・・・ふぅ」


「良かったな、ドッグワン。お咎め無しで済んで」


「まあ、これも俺達の実績の賜物ってやつだな。少なくとも閣下は全く疑っていない様だったし」


「ああ、それに閣下が指摘した通り、武装面の不備も事実だったしな。アイツ等が用意した『叢雲三式』がもっとちゃんとした物だったら、勝てはしなくても負けたりもしなかっただろうとは思うし」


「それなぁ・・・というか、何で経理課の連中はそこら辺の予算を出し渋ってたんだ?俺達の受ける任務がどういったモノなのかは、アイツ等も知っている筈だろう?なのに、何でだ?」


「それについてなんだが・・・調べてみた感じ、どうにも一部の資金の流れがおかしい感じがするんだよ。なあ、ドッグワン」


「・・・・・・・・・」


「・・・?どういうことだよ、ドッグナイン。ドッグワンもだんまりってことは、何か知っているのか?」


「・・・確証はない。だが、協会が扱っている運営資金の一部に妙な偏りが確認されている。特にヒーロー課の方に、だ。そして、どうやらそのせいで私達の方に回される筈の予算の半分以上が削られてしまっていたようだ」


「ヒーロー課に・・・?俺達の方にも配られる筈の予算がそっちに流れて行っているってことは、何か新兵器でも作ろうとしているとか?いや、でも、そんな話も・・・どころか噂すらも聞いた事ないけどなぁ?・・・ドッグナインはどうだ?」


「いや、俺も聞いた事が無い。一応、此処に戻ってきた後に協会のデータベースなどを色々と漁ってもみたが、それらしい情報も無かった」


「てことは、あれか?協会の一部が―――特にヒーロー課の方で何かを秘密裏に行っている可能性があるって事か?だけど、いったい何を?」


「そこまでは分からん。だが、俺達にまでその情報が回されて来ないということは、おそらく相当秘匿性が高いという事だろう。軽く調べた感じではあるが、協会の上層部の殆どが関わっている様だしな」


「うえぇ・・・マジかよ・・・・・・だけど、そういった事を知れるようになったのもメドラディ様に洗脳されたおかげかねぇ。あの方に出会うまでは俺達、そんな事を気にすることなんて無かったからなぁ」


「それに、あの方から頂いた特注のウイルスデータのおかげもあるだろうな。アレのおかげで、協会が秘匿していた情報の幾つかを手に入れる事が出来たし・・・」


「その中にはあの方が求めいてた情報も混じっていたみたいで、その事を教えた時にはすっごく喜んでくれたもんな。いやぁ、良かった良かった」


「―――ちぃっっっとも良くない!!」


バンッ!!


「うおぉう・・・!?ど、ドッグワン・・・?」


「ああ、ああ、そうだとも。あの女のおかげだなんて、口が裂けても言えるモノかぁ!!」


バンッ!バンッ!バンッ!


「お、おぉう・・・お、落ち着けって、ドッグワン。そんなコンソールをバンバン叩くなって・・・な?」


「うっさいわ!この裏切り者がぁ!くそぅ・・・!『洗脳薬』とかいう薬のせいとは言え、あんな女なんかに簡単に尻尾を振りやがってぇ・・・!くぅぅぅっ・・・!!?」


「うぅむ・・・表面上は冷静さを保ってはいたようだが、その内心ではやっぱり腸が煮えくり返っていたようだな」


「お、おい・・・ドッグナイン。確かドッグワンも俺達と同じように『洗脳薬』を飲んだんだよな?なのに、なんであんなにメドラディ様に対して反抗的な態度を出せるんだ?普通、俺達みたいに”あの方の為なら例え火の中水の中!”・・・といった感じになる筈だろう?」


「そりゃあれだよ。ドッグワンの意思の強さもあるだろうが、おそらく一番の理由はドッグツーの事があるからだろうよ」


「ああ・・・なるほど。確かにドッグツーの奴、『洗脳薬』を飲んだ後に元の冷静沈着で計算高い性格から一変して・・・こう、能天気と言うか、あっぱらぱーな感じになったもんな」


「原液百%なんてモンを飲ませちまった俺等にも当然非はあるだろうが・・・それでも、流石にあんな風になるだなんて誰も予想付かないって」


「まあ・・・それは確かに」


「ちくしょう・・・!ちくしょうぅぅ・・・!頼むから、元の色々と頼りになるお前に戻ってくれよ、ドッグツーゥゥ・・・!!しょうもないギャグとか聞いて大笑いするとか・・・・・・いや、まあ、その幼い女の子みたいな笑顔は滅茶苦茶可愛らしいとは思うけど・・・!」


「可愛らしいと思うんだ・・・」


「つい、思う存分撫で繰り回して可愛がりたくなる衝動に駆られるけど・・・!」


「衝動に駆られるんだ・・・」


「それでも私は、何時ものキリッとしていたお前の方が良いんだよぅぅ・・・!!」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「どうする、ドッグナイン・・・?」


「どうするもこうするも・・・そんなの決まっているだろう、ドッグファイブ。―――落ち着くまで放っておくしかないだろう」


「・・・そだな。今はそっとしておくとしようか」


「うぅぅ・・・!ううぅぅぅ・・・!ドッグツーゥゥ・・・!!」


ザザザッ・・・ザザッ・・・ザーッザーッ・・・・・・!―――ブツッ・・・!








「―――といった感じで。おかげ様で万事滞りなく解決したわぁ」


「うわぁ、マジかよぉ・・・うっそだろう、オイ。・・・・・・つぅか、なんでそのドッグワンとかいう姉ちゃんにはアンタの、確か『洗脳薬』?だったか・・・それが効かなかったんだ?」


「別に効いていないわけではないわぁ。彼女の体は『洗脳薬』の効果で私の命令に従順になっているもの。意思や思考がそのままなのは、ただ単に彼女の我が強いからよ。どうにもこの『洗脳薬』は意志が強い者に服用させると、幾分効果が下がる様なのよねぇ。今後も改良の余地がありそうだわ」


「そうか・・・・・・頼むから、それを俺や俺の部下に使うのだけはやめてくれよな。使ったらマジで絶許だからな」


「あらあら、その辺は安心していいわよぉ。少なくとも私を・・・いいえ、私達を裏切らない限りは使うつもりなんてないから」


「ふん、どうだか。・・・・・・それで?お嬢さんは本当にお礼を言いに来ただけなのか?どうにも俺には、他に目的があったから来た様にしか思えないんだが?」


「・・・・・・あらあら・・・流石は、と言うべきなのかしらねぇ?ええ、その通り。貴方の下へ再び来たのは、貴方に聞きたいことがあったからよ。―――今から十六年ほど前に起こった『コード:A』という事件についての話を、ね」


「・・・・・・なに?」


「彼等が調べてくれたあの事件に関する情報の中で貴方に関するモノも存在していたわぁ。なんでも当時、貴方は死の商人としてヒーロー連合協会と様々な悪の組織や秘密結社に色々な物資を売っていたそうねぇ。そして『コード:A』という事件が発生した時も偶然にも現場近くにいた。・・・そうよねぇ?」


「・・・・・・・・・」


「あら、だんまりを決め込んでも無駄よぉ?既にネタは上がっているんだからぁ」


「・・・・・・ふっ、ネタが上がってるだって?おいおい、冗談は止してくれよ、お嬢さん。確かに当時の俺はヒーロー連合協会やそれと敵対している連中相手に商売をしていた。だが、その『コード:A』だったか?そんな事件になんざ俺は関わっちゃいないし、そもそもその現場にさえも近づいてすらいないぜ?」


「・・・ええ、そうねぇ。確かに彼等が調べてくれた情報には、貴方が当時そこに近づいたという記録も無ければ、居たという記録も存在してはいないわぁ」


「だろう?つまり、俺はその事件とは無関係―――」


「『海原の帆船』」


「―――ッ!」


「『黄金の鐘』、『シャドウビースト』『恐竜軍団』」


「なっ・・・!?その名前は・・・!」


「『コード:A』の事件が起こった当時の現場に秘密基地を置いていた連中であり、そして貴方がその日取引を行おうとしていた相手でもある。・・・そうよね?『西のシャチ(オーヴェストオルカ)』さん?」


「チッ・・・・・・その話、いったい何処で聞いたのか伺っても良いだろうか、お嬢さん?」


「情報屋よ。大酒飲みでネクロマンサーな、ね」


「アイツか・・・!?たくっ、せっかく隠し通せていたってのに、あのお喋りめ・・・!!」


「あら、言う程あの人はお喋りでは無かったわよ?目的の情報を聞き出す為に一見さんお断りな高級酒を結構な数―――それもダース単位で貢いでようやくだったもの。それなりの苦労と出費をしたわぁ」


「酒で買収したってのか・・・!?―――いや、アイツならそれで喋ったとしてもおかしくはないか」


「でも、そこまでやっても本命の情報については固く口を閉ざして語ろうとしなかったから、最終的にはどんどん酒を飲ませて徹底的に酔わせたわぁ。なんとか情報を引き出した時にはもうぐでんぐでんの状態だったわねぇ」


「な、なにぃ・・・!?あ、あの蟒蛇(うわばみ)女を泥酔するまで飲ませた、だと・・・!?」


「(アイツは自分自身でも結構酒を飲むが、同席する相手がいればその相手にも同じだけ飲ませようとして来る。しかも善意で。・・・って事はつまり、このお嬢さんもあの蟒蛇女と同じ分だけの酒を飲んだという事になるわけで・・・・・・)」


「ち、ちなみに聞くが、いったいどれだけの量の酒を飲んだんだ・・・?」


「え?そうねぇ・・・・・・ざっとお店五件分くらいかしら?貢いだ分のお酒を全部飲み切っちゃった後に複数の居酒屋を梯子したし、たぶんそれくらいは飲んでるわねぇ」


「しゅ、酒豪だ・・・!マジモンの酒豪がここに居やがる・・・!?」


「ふふふ・・・」


「(酒豪ねぇ・・・実を言えば私、彼女と飲んでいた時は全く酔っていなかったのよねぇ。それは、飲んだ端から能力を使ってお酒のアルコールを分解していたからなのだけれど・・・・・・まあ、上手い具合に勘違いをしているというか、説得力を持たれている様子だから、別に言わなくても良いわよね)」


「・・・それで、そろそろ教えて欲しいのだけれど?『コード:A』について。―――特に、その事件の首謀者である怪人の名前を、ね。間接的にとは言え、貴方もあの事件に関わっていたのだから知っているんじゃないかしら・・・ねぇ?」


「・・・・・・ああ、知っている。知っているとも。・・・だが、それを聞いてどうするつもりなんだ、お嬢さん?」


「どうするも何もないわ。私は隠された真実を知りたいのよ。あの子に関わるものであるならば、尚更に・・・!」


「・・・・・・どうやら、なにかしらの事情があるようだな。―――はぁ~っ・・・!分かった。分ぁかった。教えてやるよ、お嬢さん。・・・と言っても、俺もアイツに関しては殆ど何も知らない。実際に対峙した連中から又聞きで話を聞いただけだ。・・・そしてその話の中には、当然アイツの名前も出ていた。―――『アリスティーゼ』。アイツは・・・あの化け物は・・・自分の事をそう名乗っていたそうだ」






次回の投稿に付いてですが、現状ではまだ未定です。頭部分は書き始めていますが、まだ1割も執筆できていないので。

予定では今月中に投稿できればなと思っていますが、今月はちょっとリアル事情が忙しいので、予定通りに進めるかどうか・・・・・・

ともあれ、読者の皆様には広い心でお待ちいただければ幸いです。

それでは、また。

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