ミッション70 密会するヒーロー達・・・?
前回に続いて今回も文章を詰め込み過ぎました。・・・まさか2万字近くまで行くとは、書いているうちは思ってもいませんでした。
内容としては、ほぼシリアス構成となっています。
ともあれ、今回のストック分はこれで最後です。
長い文章になってしまいましたが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
海水浴場から少し離れたとある街中の一角。
そこには人気が全くない廃工場が存在していた。
その外観はボロボロで、壁の所々に穴が空いているのが見える程の寂れ具合だ。
そんな建物の入り口に、ある一人の人物が足を踏み入れた。
「はぁ~・・・!コイツは結構な年代ものだなぁ。築五十年ってとこか?よくもまあ、こんな建物が残っていたもんだ・・・!」
廃工場の仲に入り、外観だけでなく内装までも相当にボロボロであることを確認したその男は、感嘆の声を上げる。
彼の名前は『ラッセル・バレンスタジー』。ヒーロー連合協会に所属するヒーローの一人であり、『メタルブレード』というヒーロー名を名乗っている男である。
彼の体はそのほとんどが『バイオメタル』と呼ばれる特殊金属で作られたメカメカしく、刺々しいパーツで構成された、所謂サイボーグであるのは有名だ。
だが、今の彼の格好はとてもそうとは思えないモノであった。
一見すればアロハシャツに短ズボンといった、まさしくオフだと言わんばかりのラフな服装。
しかも、服で覆われていない手足の肘膝の先は、まるで生身の人間の手足の様に肉感的で、それは到底機械的なパーツとは思えない程であった。
・・・ただし、頭の部分を除いてであったが。
黒を基調にした、緑色に発光するラインが走る頭部にキラン!と光るツインアイ。その装甲は廃工場の天井の穴から降り注ぐ月明かりをキラリキラリと、それはもうメタルチックなほどに反射させていた。
なんというか、その見た目は首から下の格好と比較するとあまりにギャップが激しすぎて、傍から見たら変質者っぽいというか、変態チックな感じを匂わせる。
もし一般人がこんな恰好の人物を見かけようものなら、一一〇番をされることは間違いないだろう。
というか、彼はその格好で此処までやって来たのだろうか?そう考えると良く通報されなかったものである。
・・・・・・まあ、実はそれもちゃんとした理由があったりするのだが。
彼の頭部には光学迷彩機能が搭載されており、その機能をオンにすると、マスクの表面に誰かの顔が投映される仕組みとなっている。
投映できるのは飽く迄登録されているデータのモノのみではあるものの、要はこれを使えば彼の顔がそん所其処らにいる一般人A的な見た目になるのである。
・・・まあ、触ればわかる程度の偽装ではあるのだが。
「お待ちしておりました、ラッセルさん」
廃工場内を見回すラッセルに声が掛けられる。
その声が聞こえた方向へと視線を向ければ、廃工場の中心と思われる場所に二人の男達が立っていた。
一人はラッセルの知り合いであり、同僚でもある探偵ヒーロー『シルバリオン』こと『向井秀一』。
見た目は身長が約一七〇cm前後とそこそこあり、耳元にかかる程度の長さの濡れたように輝く黒髪と、目尻が垂れた優しそうな印象を感じさせる整った顔立ちの二十代前半くらいの男だ。
彼は薄らとした笑みを浮かべた顔をラッセルに向けていた。
「よう、向井。例の依頼の件で話がしたいって言うからわざわざ来たぜ。・・・たださあ、もうちょっと場所を選べなかったのか?どうしてこんな所を選んだんだよ?」
「それについては少々事情がありまして、今回は出来るだけ人目がある場所を避けたかったんですよ」
「ふぅん?それはそこにいる奴が関係しているって事でいいのか?」
「ええ、まあ。それについてもこれからお話しますが・・・・・・その前にちょっと質問していいでしょうか?」
「あん?」
「その姿はいったいどうしたんですか?貴方はサイボーグであったはずですよね?それがどうして首から下だけ生身の体と言う不可思議な姿に?」
「不可思議言うな。・・・まあ、言ってしまえば簡単な話なんだが、要は何時も着ていたアーマーの下は普通に生身の体だった、ってだけの事だよ」
ラッセルは向井の質問にそう答える。
そう。確かに彼はサイボーグではあるが、しかし機械化されている部分はかなり限定されているのだ。
具体的には脳髄以外の頭部と、心臓や肺といった内臓器官の一部、そして背骨から手足にかけての全身の骨だ。
彼が自身の体をそんな風に改造したのは、怪人との戦闘に耐えうる肉体を得る為―――というわけではなく、元々は十代後半の頃に負った怪我の治療の為であった。
当時彼が負った怪我は相当な深手で、今の現代医学では治す事が難しいモノだった。故に最初は唯の延命治療を目的としての一部サイボーグ化手術が行われる筈だったのだが、そこである人物の手が加わった事で手術の方向性は変わってしまった。
その人物とは当時のラッセルの後輩であり、若干十四歳で機械工学の権威と名声を欲しいままにしていた一人の少女であった。
彼女の手が加わった事で改造された彼の体は結果的に怪人との戦闘に耐えうるそれとなってしまい、そして目を覚ましたラッセルが自分の体を見て「何じゃこりゃ~~~!!?」と驚きの声を上げたのは当然言うまでもなかった。
「一般には公表してないから知らなくても無理はないし、それにこれからも公表する気は無いからな」
「おや、それはまたどうして?」
「いや察しろよ。というかお前も今言ったじゃねえか、不可思議なってさぁ。俺の頭こんなだぞ。こんな姿で人目に出て見ろよ。ぜってぇ不審者だと思われて通報される。・・・というか、実際故郷では通報されたことあるし」
そう。ラッセルはサイボーグ化手術を終えた後、家に帰ろうと街中を歩いていた時に周囲の人々から不審者と思われて警察に通報された事があったのだ。
その時は訳も分からないまま捕まってしまい、数日間牢屋の中で臭い飯を食う羽目になってしまったのである。
その事を思い出したラッセルは、ズゥーンと落ち込んだ。
「なるほど。それはまた、災難と言うか何と言うか」
ラッセルの話を聞いた向井は、納得する様に首を縦に振ると苦笑を浮かべた。
それは同情と質問をしてしまった居たたまれなさから来る笑みであったが、しかしその姿は天井の穴から降り注ぐ月明かりの下という場と、彼の容姿も相まって凄く絵になる光景となっていた。
「(はっ、相変わらず嫌になるくらいにイケメンだな、こいつ。クソッ、俺も顔が良ければ女性にモテるのに・・・!!)」
それを見たラッセルは、口からギリッ・・・!と歯軋りのような音を発し、嫉妬と羨望の感情が籠った言葉を内心で呟く。
だがそこで、「お前は顔以前に頭部がメカっぽいだろう」とツッコミを入れてはいけない。なにせそれは彼も気にしている事だからだ。
もしツッコまれようものなら、こう言いながらキレることだろう。「俺だって好きでこんな頭してるわけじゃねぇ!!」と。
ピキピキと額に青筋が―――メタルチックな頭なので実際に出るわけではなく、飽く迄イメージとして―――浮き出るラッセルであったが、そこでふと、そういえばと向井の隣に立っている男に視線を向けた。
「(それはそうと、向井の隣にいるのは誰だ?見た感じじゃあ、どうやらアイツが連れて来たみたいだが)」
その男の見た目は短い茶髪に程々に整った顔立ち、長方形の形をしたメガネを掛けた、一見すれば真面目そうな優男に見える風貌だ。
しかしそのメガネの奥に見える目は、まるで鷹の目の様に鋭くラッセルの事を見つめているが、しかしラッセルはこの男が何者か知らなかった。
顔も見た事が無いので、少なくともこれまでラッセルとは関わりが無かった人物であることは間違いないだろう。
そう思った彼は先程まで抱いていた感情を一旦棚上げし、彼は何者なのかと向井に問い掛けた。
「なあ、向井。そろそろお前の隣に立っている男が誰なのか教えてもらっても良いか?」
「ああ、そう言えばまだ紹介していませんでしたね。彼の名前は『後藤啓助』。警視庁所属の刑事です」
「ご紹介に預かりました、警視庁の後藤啓助刑事と申します。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく・・・って、刑事?何で刑事が此処に?」
向井から紹介された男―――『後藤啓助』はビシッと敬礼をしながらそう自己紹介をする。
そんな彼によろしくと返事をしたラッセルであったが、その後すぐに「どうして刑事の彼がここに居るのだろうか?」と疑問に思った。
「彼、後藤刑事とは例の依頼の件で情報を集めている時に知り合いましてね。どうやら彼も別件であの人の子供を探していたらしいんですよ」
「・・・なに?」
その疑問に答えたのは向井であった。
彼の言葉を聞いたラッセルは、現在行方不明となっている今は亡き元序列一位の子供をどうして刑事が探しているのか、と首を傾げる。
それから刑事という役職と別件で探していたという言葉から、何処ぞの刑事ドラマでもやっている様な事件の捜査という単語を連想した彼は、「まさかあの子が何かしらの事件に巻き込まれていたのか!?」と背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
が、そんなラッセルの内心を察したのか、違うと言いたげに向井が首を横に振った。
「どうやら、例の探している子が事件に巻き込まれていたんじゃないか、と思っているみたいですが、違うので安心してください」
「そ、そうなのか?」
「ええ。彼が例のあの子を探していたのは、元序列一位だったあの人に関する話を詳しく聞く為だそうですから」
「アイツに関する話を・・・?」
「ここからは自分が。・・・実は、かのヒーローが死亡した後で些か不可解な事が判明しまして、自分はその調査を行っていたのです」
そこまで言った後藤刑事は、一度間を置いてから、どうして自身がそんなことをしていたのかを語り始めた。
「今から数ヵ月前。現在では『大量銀座誘拐事件』や『ヒーロー爆撃事件』と呼ばれる様になった事件にて、かのヒーローが一般人の救出活動中に亡くなられたのは当然ご存知の事だと思いますが、その死亡原因は何だったのかはご存知でしょうか?」
「ああ、知ってるよ。一般人の体に巻き付けられた爆弾によって、だろ?」
正確には、ヒーローが近づいたら爆発するセンサー付きの爆弾を体に巻き付けられた一般人が、崩れ落ちて来たビルの瓦礫に潰されようとして、それをかのヒーローが助けはしたものの、しかしその際に近づきすぎたが為にセンサーが反応し、その爆弾が今にも爆発しそうな状態となった事を察したかのヒーローが、急いでそれを一般人の体から取り外して、そしてそれを手に持ったまま人のいない遥か上空へと跳んで爆死した、というのが実際のところだ。
それを思い出したラッセルは、「アイツらしいよな」と呟く。
なにせあの男は、その考え方から姿勢までもが正にヒーローと呼ぶに相応しい人物だった。
彼が命を賭して無辜の人々を守ろうとする様子を想像することは難しくなかったし、そしてそのせいで命を落としてしまったというのも違和感なく頷けてしまえた。
・・・まあ、だからといって自分の子供を残して逝ってしまうのはどうかと思うのだが。
「だけど、それがどうしたんだよ?・・・まさか、実はアイツが生きているんじゃないか、なぁんて冗談を言うつもりじゃないだろうな?」
「・・・・・・・・・」
「・・・え、何で無言?・・・・・・え、まさか、マジで?」
冗談のつもりで口にした言葉だったのだが、返されたのはまさかの無言。
その返答が肯定の意味するものだと察したラッセルは、「マジで!?」と驚愕の声を上げた。
「い、いやいやいや、ありえねぇだろ・・・!?だってアイツの体は爆弾の爆発でバラバラになったんだぞ・・・!生きてる訳ないだろう!?」
「ええ。僕も最初はそう思っていました。あんな死に方をしたら普通は生きていないと。・・・ですが後藤刑事の話を聞いて、もしかしたら、と」
「は?コイツの話?」
「・・・実は、あの事件の後で行われた彼の遺体の回収作業中に判明した事なのですが―――足りなかったそうです」
「足りない?一体何が足りなかったってんだ?」
「・・・あの人の、元序列一位のヒーローの頭が、ですよ」
「・・・・・・は?」
かのヒーローの遺体を回収した時に、その頭だけが足りなかった。
そんな話を聞いたラッセルは、こいつ等何言ってんだ?と一瞬呆けてしまったが、その後で「待て待て待て・・・!」と右手で頭を抱えつつ左手を待った!?という風に前に突き出した。
「ちょっと待て・・・!アイツの体は至近距離で爆発を食らったんだぞ・・・!だったらまともな原型なんて残ってるわけが・・・!?」
「確かにラッセルさんの言う通り、あの人の遺体は爆発によってバラバラの肉片になってしまいました。・・・・・・ですが唯一彼の頭部だけは、あの異常なほどの頑強なマスクに包まれていた首から上だけは、まず間違いなく無事で、原型を留めていた筈なんですよ。―――ラッセルさんもあのマスクの頑強さをご存じのはずでしょう?」
「お、おいおいおい・・・!確かにあのマスクの異常な頑丈さは知っちゃあいるが、それでもあの爆発の直撃を受けてどうして無事だって言いきれるんだよ!?」
「簡単な話です。なにせあのマスクは最低でも核爆発数十発分のエネルギーを受けても無傷であったと言う事実があるからですよ」
「はぁ・・・!?」
まさかの応えにラッセルは空いた口が塞がらなかった。
かのヒーローが頭に被っていた物―――五芒星の様なバイザーが付いたフルフェイスマスク―――が、核爆発数十発分のエネルギーを受けても無傷?一体何の冗談なのか、と。
「まあ、そう言う反応になるのは仕方がないと思います。実際僕もその事を知った時は、誇張した情報だと思ったくらいですからね。―――ですが事実です。実際そう言う研究結果の資料がヒーロー連合協会のデータベースにありました」
「いやいやいや待て待て待て・・・!何だそのデタラメさは!?」
唐突にブッ込まれた情報に頭がついて行けていない。というかそんな実験何時やったんだよ!?とラッセルは頭痛が痛いと言いたげに頭を抱えてフルフルと横に振る。
「どうやらあのマスクは何か特別な素材で作られた物らしいのですが、その材質や成分はこの地球上には存在しない物であったらしく、更には何やらブラックボックス的な機能も搭載されていたのも確認されていたそうなのですが、しかしそのどちらもヒーロー連合協会は解析する事が出来なかったそうです」
「マジかよ!?」
地球の技術の粋が集められている場所と言っても過言ではないヒーロー連合協会。そんな所でさえも解析できなかったと言う話を聞いたラッセルは本気で愕然とした。
「・・・・・・な、なるほどな。そんくらい頑丈だったってんなら、無事だと考えてもおかしくねぇな―――って、待て。どっちにしても頭だけ、首から上だけってのには変わりねぇじゃねぇか・・・!」
そして思わず納得しかけたのだが、しかしその後すぐに思い返して「普通に考えて生きてるわけねぇだろ!?」と彼は叫んだ。
「ええ、そうですね、普通なら。―――ですが、その普通ではない事を起こせる連中を僕らは知っている筈ですよ、ラッセルさん」
ラッセルの心からの叫びに同意する様に頷いた向井であったが、その後で良く考えてみてくださいと言いたげに左の人差し指を一本立てて見せた。
「はっ・・・!?お前何言って・・・って、まさか!?」
「お察しの通り。―――悪の組織や秘密結社といった連中ですよ」
向井が何を言わんとしているのか。それを察したラッセルは、まさか!?という様にそのツインアイを驚きに見張らせ、それを見た向井は同意する様に頷いた。
「連中の中には僕達の知らない、持っていない技術を保有している所もあります。もしかしたらその中に、あの人の頭部を回収して利用しようとしている輩がいるかもしれません。実際過去に存在した秘密結社に所属していた怪人で頭だけの状態から再生を果たした者もいましたし」
「・・・ってことは、何か?お前等はアイツがマジで生きていると、そう思っているのか?」
「いえ、その・・・飽く迄も可能性の話で、もしかしたらといった感じでして・・・・・・」
「・・・最悪、奴等の技術によって体を再生させた彼が、ついでに洗脳されて敵となって出てくる可能性もあると考えてもいます」
「はぁぁぁ・・・・・・なるほど、な」
最初は訝しげ混じりな視線を向けていたラッセルであったが、二人の話を聞いた後には、深く、長い溜め息を吐いて納得する様に頷いて見せた。
「ご理解いただけたようで何より。・・・では話を戻しますが、彼の頭が無い事に気付いた当時の回収班が他にも探し残している所はないかと周辺を調べたそうです。ですが、どこにもそれらしい物は見当たらず、ならばと飛び散ったと思われる範囲以上の場所も探してみたそうなのですが、それでも見つけられなかったと、彼等がヒーロー連合協会に提出したレポートには記載されていました」
「ほぅ、レポート・・・・・・ん?レポート?待て、待ってくれ。あの事件についての資料は俺も目を通したが、そんなレポートがあっただなんて話は無かったぞ・・・!?」
「当然ですよ。何せその情報はとある人物の手によって途中で握りつぶされていたんですからね」
「ああ・・・!?一体誰だよ、そんなことをした奴は!?」
「西條睦月です」
「・・・・・・あいつかぁ」
情報を握りつぶした下手人が自身の友人を苦しめていたあのクソ上司であったという事を知ったラッセルは、「どこまで面倒を掛けてくれるんだ、アイツは・・・!?」と、最早人間としては色々と終わっているであろう男に向けて恨み節を零した。
「しっかし、どうやってそのレポートを見つけたんだ・・・って、そうか。そこでその男が出てくるわけか」
「ご名答。何を隠そう、その握りつぶされたレポートを見つけたのが、この後藤刑事なのですよ」
ラッセルの問いに、向井はその通りだと頷いた。
「彼は西條睦月に関する調査を行っていたそうなのですが、その際にかのレポートの存在を知り、気になって調べていたそうなんですよ」
「僕と鉢合わせしたのはその最中の事です」と言う向井に、「それでか」とラッセルは納得した。
「だがアイツに関しての調査か・・・だけど、なんでこの刑事はアイツの事を調べていたんだ?」
「あ~・・・えっと、それは・・・・・・」
その後でラッセルは、後藤刑事は一体何を調べていたのかと問い掛けたのだが、それに対して何故か向井が歯切れの悪い声を漏らした。
そんな向井の様子に、いったいどうしたんだ?と訝しんだラッセル。
しかしその時、スッと足を一歩前に踏み出す後藤刑事の姿が視界に入り、ラッセルはそちらへと視線を向けた。
「・・・問題ありませんよ、向井さん。自分は気にしていないので、話してくれて構いません」
「うぅん・・・まぁ、後藤刑事がそう言うのなら」
頷いて見せる後藤刑事。
彼のその姿を見た向井は、意を決したように口を開いた。
「実は彼は、以前とある山奥で起こった事件―――僕達ヒーロー連合協会に所属している者の間では『協会幹部襲撃事件』と呼ばれるようになったあの事件に関わっていたんです。・・・あの男の事を調べていたのも、その関係でして」
「『協会幹部襲撃事件』って言うと、確かお前が解決したっていう、あの?」
どういう事だ?と首を傾げるラッセル。
それに答えたのは話の中心人物である後藤刑事であった。
「―――それは、あの事件の首謀者の一人が自分の元上司であったから、ですよ」
「・・・・・・・・・はっ?」
後藤刑事が口にした首謀者の一人が自分の元上司であったという言葉を耳にしたラッセルは、たっぷり数秒の間理解しようと熟考して、マジで?と言いたげな声を上げた。
そんな彼の様子を見た後藤刑事は「本当です」と頷いた。
「あの事件の首謀者の一人である『斉藤五郎』という人物は、自分の元上司であり、尊敬する先輩でしたから」
「そ、そいつぁ・・・・・・」
「加えて言うなら、貴方達が壊滅させた地方警察署には自分も過去に所属していまして、怪人化していた元警察官達とは一緒に働いていた同僚の関係でもありました」
「マジかよ・・・」
ラッセルは息を飲んだ。
まさか後藤刑事が、あの事件の関係者―――自分達が壊滅させた地方警察署に所属していた人物だとは思わなかったからだ。
「あ~、えっと、その、だな・・・・・・」
絶句し、どう言えば良いのか分からず言葉を詰まらせるラッセル。
内心で「知り合いをやっちまって済まなかった」と謝罪をするべきだろうかと考えるも、いやそれじゃ謝っている事にならないだろうと彼は頭を抱えた。
「ああ・・・安心してください。だからと言って自分は、貴方達を仇だとは思ってはいないし、恨んでもいませんから」
しかしそんなラッセルの様子を目にした後藤刑事は、気にしなくていいと言いたげに首を横に振った。
「彼等は、自分の同僚達は覚悟していましたから。―――自分達の最後が、ヒーロー達の手によって終わる事を」
「なに・・・?」
「地方警察署に務めていた警察官達が怪人化していた、という話は、市民の安全を守る警察の威信と名誉に関わります。何より、その守るべき市民にいらない恐怖と不信感を与えることになる。それは自分も、そして彼等も望んではいませんでした」
「・・・だから倒されることは仕方がない、と?」
「はい。・・・確かに彼等は西條睦月に対する復讐心から怪人と成りました。ですがそれでも、人々を守りたいという気持ちは、信念は変わらなかった。だからこそ彼等は、その身が怪人と成り果てても警察官として、人々を守る立場の人間としてこの十年間この地で活躍していた。・・・それはあの事件に関する資料を目にした貴方もご存じの筈でしょう?」
「・・・まあ、な」
後藤刑事が語ったその話に、彼が言う様にあの事件の資料を目にしていたラッセルは頷いて見せるしかなかった。
そう。実際彼等―――怪人化した元警察官達は、一般的に知られている周囲へと被害を与える怪人達とは違っていた。
その人外の力を犯罪者の魔の手から人々を守るために使っていたのだ。
だからこそ、そんな彼等を”怪人と成ったから”という理由だけで倒す事に、ラッセルはその心中に苦い思いを抱いていた。
「本音を言えば、ああいう気概を持った奴等を倒す事はしたくなかった。『怪人更生法』を適用させて生かしておきたいとも思ったよ。・・・だが」
「彼等にそれは適用されない。―――いいえ。適用するわけにはいかなかった」
ラッセルが言おうとした言葉を後藤刑事が引き継いで言う。
そう。今のこの国には『怪人更生法』という組織に所属していない怪人を真っ当な良識ある存在として更生させる法律が存在する。それを行使する事が出来れば、彼等を生かす事は出来た事だろう。
・・・だが、今回に限っては後藤刑事の言う様に適用するわけにはいかなかった。
何故?という疑問が思い浮かぶだろうが、それに対する答えは”彼等が公的機関に所属する人間であったから”だ。
「元々『怪人更生法』は悪の組織に所属していた怪人を更生させて社会の為に、人々の為に働いてもらう事を目的に作られた法律でした。この法律は”前例”と呼べるモノが幾つもあり、また実際に人々の為に活躍する怪人の存在が確認され、その存在を人々に望まれていたからこそ作られたという経緯があります。・・・しかし、それは公的機関に所属していた人間が怪人化した場合の事は想定されていなかった。その当時の人々は、まさか彼等が怪人に成るだなんて事を全く考えていなかったからです」
「ああ。加えて、個人ではなく集団であったというのも問題だった。個人であれば唯の怪人として、犯罪者として扱い、片付ける事が出来た。・・・が、集団の場合は違う。それは傍から見れば一つの犯罪組織であり、共通の思想を持った危険な存在だ。そんな集団が公的機関から出たという話が広まれば、警察組織に対してもそうだが、国の政府にも人々は不信感を抱く事だろうよ。―――そしてそれをヒーロー連合協会が見過ごすわけにはいかない」
「ええ。悪の組織やそこに所属する怪人達と戦うヒーローという存在を保有しているヒーロー連合協会は、国からのバックアップを受けているからこそ、これまで大手を振るって活動する事が出来ていました。だからこそ、国の統治機能が衰える事を望まないかの組織の上層部は、彼等の存在が一般に知られるよりも前に消してしまおうと考え、彼等の殲滅の為に序列上位のヒーローである貴方達を送り込んだ」
「そうですよね?」と言いたげな後藤刑事の視線に、ラッセルは「そうだ」と言いたげに頷き、疲れた様な溜め息を吐いた。
「しっかし、なんだ。まさかアンタがそこまで裏事情に詳しいとは思わなかったぜ。・・・それも調査の賜物か?」
「その通り・・・と、言いたい所ですが少し違いますね。調べていた事は確かですが、自分がこの裏事情を知ったのは、斉藤さん達が事件を起こす前です」
「・・・?どういう事だ?」
後藤刑事の物言いに違和感を感じたラッセルは首を傾げる。
それを見たラッセルは薄く苦笑を浮かべながら、その答えを告げた。
「言ってしまえば自分は最初から知っていたんですよ。斉藤さん達が怪人化していた事も。どうしてそうなったのかの理由も。・・・そして、そんな彼等が西条睦月を狙っていた事も。―――そもそも都合が良いとは思いませんでしたか?一つの地方警察署に、西条睦月に恨みを持つ怪人化した警察官達が集まっていた、だなんて事」
「あん?・・・そういや、言われて見れば確かに・・・って、待て。そう言うってことは、まさか・・・!」
「はい。お察しの通り自分が手引きしたんです」
「マジかよ・・・!」
つまりは自身も『協会幹部襲撃事件』の共犯者だったのだと、そう後藤刑事は答え、それ聞いたラッセルは心底驚いたと言いたげに、あんぐりと口を開けた。
「正確に言えば、手引きをしたのは彼も含めた西條睦月とその親族達に恨みを持つ者達ですね。彼等の行いのせいで大切なモノを失った人間は、実は確認できるだけで結構な数に登っているんですよ」
西條睦月達に恨みを持っていたのは、なにも事件の首謀者達や怪人化した警察官達だけではない。それ以外にも存在していたのだと向井は語り、彼の言葉に後藤刑事もまたその通りだと頷いた。
「ええ・・・自分達もまた怪人化した彼等と同じで、西条睦月達の事を憎み、恨んでいました。だからこそ自分達は協力する事にしたんです。彼等を捕まえ、行ってきた悪事を日の光の下に出せるなら、と。・・・ですが、西条睦月にはヒーロー連合協会の幹部という立場もそうですが、本人の無駄に高い隠蔽能力がありました。その能力によって自身と、自身の親族の不祥事は揉み消されていて、真っ当な方法では逮捕どころか、容疑を掛ける事さえ不可能でした」
「そんな男を捕まえるには生半可な方法では難しい。だからこそ、彼等は真っ当ではない方法を取る事にした。それがあの『協会幹部襲撃事件』の、その真相だったわけです」
「な、なるほどなぁ・・・」
要するに西條睦月とその親族に対する復讐劇という事だったのだろう。
二人の説明を聞いてそう理解したラッセルは、背筋にタラリと嫌な汗が流れるのを感じた。
「ま、まあ、なんだ。その西条も向井が捕まえたわけだし、アイツが隠蔽していた諸々も、向井の手で白日の下に晒される事になるだろうから安心していいんじゃないか?」
これで西条睦月とその親族の被害にあってきた人達も浮かばれる事だろうと、重苦しくなってしまった空気を変えようとそう言うラッセル。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・え?何で無言?」
だが帰ってきたのは再びの無言。しかも今度は否定を意味している様な感じのそれ。
彼等が浮かべている表情をよく見れば、困惑や不満といった感情が滲み出ているのが分かった。
「い、いやいやいや、ちょっと待てよお前等・・・!なんでそこで無言を返すんだよ!?」
ラッセルがそうツッコミを入れると、向井と後藤刑事の二人は一度顔を見合せ、それからラッセルの方に振り向いた。
「実は、西条睦月が行っていた隠蔽工作の中で一部詳細不明のものがありまして・・・」
「ここからはラッセルさんが出していた依頼内容にも関わるんですが、どうやらあの男、渡辺光君の戸籍情報を抹消していたみたいなんですよ。・・・それもヒーロー連合協会の上層部から依頼されて」
「・・・は・・・はぁっ!?」
「それだけじゃありません。出生記録に通っていた学校の成績記録、更には彼の事をよく知っている筈の人間の記憶までもが抹消されていたんです」
「なんじゃそりゃ!?」
自身も所属しているヒーロー連合協会。その上層部が友人の子供の情報を抹消する依頼を出していた。
そんなまさかの情報を耳にしたラッセルは、「冗談だろ!?」と驚きの声を上げた。
「というか人間の記憶を消すって、いったいどうやって・・・!?」
「それはあれですよ。ほら、昔のアメリカ映画にもあったじゃないですか。宇宙人の目撃者、遭遇者のもとに現れた黒づくめの衣装の男達が、その人達に向けて赤い光をパシュッとして記憶を改竄するやつが」
「ああ、アレか・・・って、え?アレ作ったの?作っちゃったの?スゲェなヒーロー連合協会」
「秘密裏に行動する分には便利ですからねぇ、アレは」
「・・・ちょっと待て。なんかその口振りだと、まるで実物を持っているように聞こえるんだが?」
「持ってますよ?いやぁ、実は以前ヒーロー連合協会が保有する秘密工作部隊と殺りあった事がありまして、その時にそいつ等からぶん盗ってきたんですよねぇ」
「なんかヤリあうの字が物騒なやつに聞こえたんだが?というか、そんな奴等からぶん盗ってきたって、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。問題ありません。なにせ全員叩きのめした後に赤い光をパシュッとやって、僕にやられた記憶を突然出現した怪人にやられた事に改竄しましたし、それに痕跡もしっかり消してきたので、まずバレる心配はありません」
「・・・なあ、前々から思っていたんだけどさ。お前ホントにヒーローか?言ってる事とやってる事が全然それっぽくないんだが?」
「何言ってるんですか、ラッセルさん。僕はちゃんとヒーローですよ。―――ただ、腐りきった悪党共に掛ける情けを持ち合わせていないだけです」
ニィッ・・・!と三日月の形に口を歪める向井。ハイライトの消えたその目は全くと言っていいほど笑っておらず、見た者を凍りつかせる様な冷たい瞳を覗かせていた。
それを目にしたラッセルは「・・・怖ッ!?」と小さく呟きながら、その体をブルッ・・・!?と震わせ、その後で苛立たしげに悪態を吐くと共に疑問の言葉を呟いた。
「たくっ、なんだってウチの上層部連中はそんな依頼を西条の奴に出してんだよ・・・」
「その事なんですが、どうやら今回の件にも以前お話しした『コード:A』が関係しているみたいなんです」
彼のその疑問に答えたのは向井であった。
その言葉を耳にしたラッセルは、彼に訝しげな視線を向けた。
「またそれか・・・いったい何なんだよ、その『コード:A』てのは・・・?」
「詳しい事はまだ何も。・・・ですが、調査の過程で一つだけ分かったことがあります。・・・どうやらこの『コード:A』というのは、ある怪人が関わっている事件の事を指している様でして、〝A〝というのも、おそらくはその怪人のイニシャルを表しているのではないかと・・・」
「ただ、それ以外の情報は―――姿形や持っている能力なんかは、何一つとして分かってはいないんですけどね」と困ったように眉根を寄せながら肩を竦めて見せる向井。
そんな彼の様子を目にしたラッセルは、彼が言っている事はおそらく本当の事なのだろうと察した。
ラッセルと向井の付き合いの長さはそこそこだ。彼が仕事関係で嘘を吐く事などないと分かっているくらいにはラッセルは彼の事を知っていた。
「あ、あー・・・つまりは、なにか?もしかして今回俺を呼んだのって、上層部連中が裏で糸を引いていたってのと、そのせいであの子に関する情報が得る事が難しくなっちまったってのを伝える為だったのか?」
故にラッセルは若干気怠げにそう呟くのであったが、しかしそれに対して向井はいいえと言いたげに首を横に振った。
「いえ。ラッセルさんを呼んだ理由はそれもありますが、それだけじゃないんです。・・・実は渡辺光君の事を調べる過程で、僕達以外にも彼の事を調べていた人物がいるということが判明しまして。しかもその人物が彼の行方に関する有力な情報を持っている可能性があると分かったんです」
「なんだって!?それは本当か!」
ずっと探していた友人の子供の行方を知る人物がいる。
その言葉を耳にしたラッセルは、先程までの気怠げな様子を一変させて彼に詰め寄る。
「はい。これがその人物に関するプロフィールです」
そんな彼の様子を目にした向井は、苦笑を浮かべつつ自身の懐から紙の束を取り出してラッセルに手渡す。
それを受け取ったラッセルは、逸る気持ちを抑えながらその書類に目を通していく。
「なになに・・・名前は『高梨悠里』。年齢は二十歳で性別は女性。とある医療大学に通う大学生で、実家は・・・『高梨製薬』!?あの様々な医薬品を製造、販売していて、しかも世界中に支社を持っている事で有名な、あの!?」
「つまり、良いとこのお嬢さんというわけか」とプロフィールを読んだラッセルはそう呟き、その後で「あれ?」と呟いた。
「・・・え?何でこんな良いとこのお嬢さんが、あの子の事を調べてたんだ?」
訳が分からんと首を傾げるラッセルであったが、そんな彼の疑問に答えたのは向井であった。
「どうやら彼女はあの『大量銀座誘拐事件』の被害者の一人であったみたいでして、しかもそれだけではなく、あの人が死ぬ間際に助けていた女性でもあるみたいなんですよ」
「マジで!?え、じゃあ、あの子の事を探しているのって、まさか・・・」
「ええ・・・おそらくですが、自分の命を救ってくれた事への感謝の気持ちをあの人の子供である彼に伝える為か、もしくは自分のせいで父親を死なせてしまった事に対する謝罪をする為か。・・・まあ、考えられるとしたらそこら辺でしょうね」
「なるほどな。・・・じゃあ、彼女に話を聞く事が出来ればあの子が今どこにいるのか―――」
分かるかもしれない。そう言おうとしたラッセルであったが、しかしその前に向井が口を挟んだ。
「期待している所で申し訳ないのですが―――無理ですよ」
「・・・・・・なぬ?」
「彼女もまた渡辺光君と同じく、現在行方が分からなくなっているんですよ」
「なん・・・だと・・・・・・!?」
さあ、これから聞き込みだ!と内心で意気込みを入れていたラッセルは、しかしその言葉を耳にして愕然とさせられてしまった。
まさか、話を聞きに行こうと思っていた人物が行方不明になっているとは思わなかったからだ。
「行方不明となった状況も渡辺光君と似た様な感じでして、彼女の住んでいたマンションに引っ越し業者がやって来て、部屋の中の荷物を全て持ち去って行った様なんですよ。・・・まあ、彼の時との違いは、引っ越し作業の指示を高梨悠里さん本人が主導で行っていたことくらいですかね?」
「・・・つまり、彼女が自分の意思で行方を眩ませたと、お前はそう考えているのか?」
「ええ。しかも、渡辺光君を連れ去ったと思われる連中の所に、ね」
どうして件の人物が行方不明となったのか。その説明を意味深に告げながら行う向井。
彼の話を聞いたラッセルは、「くぁあああーーー!?」と荒げた声を出した。
「ちくしょう!ようやくあの子の情報が手に入るかと思ったら、またふりだしかよ!?」
両手で頭を抱えながら、苛立たしげに縦に横にとブンブン振るうラッセル。
だが、そんな彼に今まで黙っていた後藤刑事が声を掛けた。
「いいえ、それがそうとも限らないんですよ、ラッセルさん。・・・実は此処に来るまでに、自分は高梨悠里さんの事も調べていたのですが、その足取りを追って行く内に幾つか分かった事があるんです。・・・どうやら彼女は、『怪人更生法』によって更生されたと判断された怪人達が開いた店を転々としながら働いていた様なんです。おそらく情報収集を目的に行っていたのではないかと」
「あん?何でわざわざそんなことを?自分家の権力やら財力やらを使えば、楽に情報を集められた筈だろう?」
「それがそうでもないみたいなんですよ。僕も彼の話聞いてから彼女の事を調べてみたんですが、どうやら彼女の実家はヒーロー連合協会に協力している立場であるみたいなんです。おそらくは彼女もそれを知って、実家の力は頼れないと判断したんでしょう。妨害されたり、嘘の情報を与えられる可能性がありますからね」
「なるほどなぁ。そう言う事なら確かに自分の足で調べた方がまだマシか」
「ええ。・・・それと、彼女が最後に働いていたと思われる場所も後藤刑事が既に特定しています。僕たちはこの後にその場所へ向かうつもりですが、ラッセルさんはどうしますか?」
二人の話を聞いてウンウンと頷くラッセル。
その様子を見ていた向井は、ラッセルにこの後の自分達の予定を告げた後で、一緒に行きますか?と誘う。
だが、その誘いをラッセルは首を横に振る事で答えた。
「いや、実は御城の奴を待たせていてさ。アイツ、ここの所ずっと働き詰めで全然休んでいなかったからさ。協会からの指示もあったから丁度良いと思って無理矢理休ませようと、この近くにある海水浴場に連れて来てんだよ」
「おや、それはそれは。あの人も結構なワーカーホリックですからねぇ。あの人がいなくなってからはそれが更に加速している様にも見えましたから、一応心配はしていたんですよ。まあ、そういう事なら仕方がありませんね。では後藤刑事、目的の場所には僕達だけで行くとしましょうか」
「分かりました」
ラッセルの話を聞いた向井は、そう言う事なら仕方がないと納得して、後藤刑事と共に廃工場から出て行こうとする。
「それではラッセルさん、僕達はこれで失礼しますね」
「失礼します」
「ああ。またな、二人共。また何か分かった連絡を寄越してくれ」
ラッセルにそう別れの挨拶をしつつ、彼の横を通り過ぎて廃工場の出口に向かおうとする向井と後藤刑事。
その二人の事を見送りつつ、自身のズボンのポケットから携帯端末を取り出したラッセルは、友人である御城に連絡を入れてから廃工場を出ようと考え、携帯端末の画面を操作して通話機能を使おうとして、
ドドオォォォンッ・・・!チュドドドオォォォン・・・!?
「「「・・・ん?」」」
唐突に響いて来た爆発音に三人の動きがピタリと止まった。
「今のは、爆発音か?音の響き方からしてそこそこ近そうだな」
「・・・どうやら近くの海水浴場で怪人が現れたみたいですよ。今の爆発音もその怪人が暴れたせいではないでしょうか?」
そう言いながら懐から取り出した携帯端末を確認する向井。
その画面には、自分達がいる場所を中心とした周辺の地図が表示されており、その右下の海に面した場所―――海水浴場と思われる場所には赤く点滅している光点があった。
「マズイな・・・あの場所には今多くの観光客がいる筈だ。急いで向かわねぇと・・・!」
同じく携帯端末の画面を目にしていたラッセルは、一刻も早く現地に向かって怪人の脅威から人々を守らなければと駆け出そうとする。
「いえ、その必要はなさそうですよ、ラッセルさん。どうやらもう終わったみたいです」
「・・・・・・ナヌ?」
だがそれに向井が待ったを掛けた。
彼は自身が手に持つ携帯端末の画面をラッセルに見せる。
そこには赤く点滅していた筈の光点が消え去っていた。
「どうやら、誰かが出現した怪人を倒したみたいですね。おそらく御城さんが倒したのではないでしょうか?」
「先程海水浴場に連れて来たと言っていましたし」と言う向井に、ラッセルは「・・・かもしれない」と頷き、その後で不思議そうに首を傾げた。
「ただなぁ・・・御城の奴が倒したってんなら、近くにアイツの名前が表記されたカーソルが出てくる筈なんだが、それが見当たんないのがちょっと気になるなぁ・・・」
「秒単位で倒したが故に表記されなかったんじゃないんですか?御城さんの実力はあの人と比べると若干劣ってはいますが、それでも他のヒーローよりも圧倒的に強いですからね」
「・・・・・・それ、御城の前で言うんじゃねぇぞ。あの男との力量差はアイツも気にしてたんだからさ」
推測ですがと呟いた向井に、ラッセルは人前で―――というか御城の前で言うのは止めておけよと、そう忠告をした。
「とりあえず、どっちにしても様子を見に行ってくるわ。アイツ結構疲れていたし、何かあった後で倒れていてもおかしくないからな」
そう言って、ラッセルは今度こそ廃工場を出ていった。
その後、事件現場を確認しに行ったラッセルは事件が既に解決している事を知り、おそらく考えていた通りに御城が対応したのだろうと思った。
ただ、何故かその事件を解決させたと思われる当人が現場に見当たない。
「御城の奴何処に行ったんだ?」と首を傾げたラッセルが、御城の持つ携帯端末へと連絡をするのだが、それも繋がらない。
もしかしたらホテルに戻っているかもとそちらに連絡を取ってみればビンゴ。彼が戻っている事を知った。
ただ、ホテル側から聞いた話で気になった事が一つ。なんでも、御城は年頃の少女に背負われて戻ってきたらしいのだ。
それを耳にしたラッセルは、「アイツ、やっぱり無理してやがったな・・・!」と呟き、ホテルへと向かった。
そして自分達が借りたホテルの一室の前へと到着したラッセルは、ガチャリと扉を開けて部屋の中に足を踏み入れた。
「やっぱりぶっ倒れていたか・・・」
部屋の中に入って最初に目に入った御城の姿は腰から下の下半身部分。
どうやらベッドの上で寝ているらしく、そうと理解したラッセルがからかい混じりに文句を言おうとして、
「よう、御城。お前、女の子に背負われて帰ってきたんだってなぁ・・・って、ちょっ!はあっ!?おまっ・・・!何があった御城ォォーーーッ!?」
だがしかし、その際に白目を剥き、鼻から鼻血を大量出血かと見紛う程にダクダクと流しながら横になっている御城の姿を見て思わず野太い悲鳴を上げた。
「い、いや本当に何があったんだよ!?お、おい御城!生きてるか?意識はあるのか!」
「・・・・・・・・・ああ、ラッセル」
驚きのあまり一瞬肩をビクつかせたラッセルだったが、その後すぐに御城の側へと近づき、何があったと問い掛ける。
すると、起きてはいたのか御城がゆっくりと目を開けながら返事をした。
「ラッセル・・・天国って、以外と身近にあったんだな」
「はっ?お前何言って・・・?」
「あの二つの果実は凄かったんだぞ?目の前でタユンタユンと揺れる様子は目が離せなかったし、体に押し付けられた時に感じられたグニュリとした柔らかさは昇天するかと思った程だ」
「マジで何の話ィィッ!?いや下ネタ的なもんだってことは分かるけど、お前そんな事言う奴じゃなかっただろ!冗談抜きで何があったんだよ!!?」
ガクガクと御城の体を揺すりながらラッセルは「本当に大丈夫か!?」と声を掛ける。
「ふふっ・・・女の人の体が柔らかいって話、本当だったんだな。出来るなら俺は、それに包まれながら最後を迎えたかったぜ・・・」
「うおぉぉい!?不穏なセリフ残しながら寝るんじゃねぇよ!おい御城?御城ォォーー!?」
そしてそれがある意味トドメとなってしまったのだろう。御城は幸せそうな笑顔を浮かべながらカクリと死んだ様に眠りにつくのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿についてですが、ある程度話のストック分が出来てから投稿するつもりです。
ただ、もう一つの作品の修正及び執筆作業も行っていくつもりなので、予定としては来年に投稿しようと考えております。
次回も皆様が楽しく読んでいたたければ幸いです。
それではまた。




