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ミッション67 海の怪人迎撃・・・!!

ある程度ストックが出来たので投稿再会します。



「いくぞオラァァッ!!」


「フンッ・・・!どこぞの弱小組織の怪人か?このワシ相手に啖呵を切るとはいい度胸だな!よかろう。相手をしてやろうではないか!」


荒げた声を上げながらクランゲドンに向けて全力ダッシュをスタートさせるアルミィ。

それを目にしたクランゲドンは鼻を―――どこにあるか分からないけど―――鳴らした後に、彼女に向けて数本の触手をシュバッ!と伸ばした。


「ハッ!遅い遅い!」


勢いは鞭の様に、動きは蛇の様に迫り来る触手群。

それらをアルミィは持ち前の身体能力と反射神経で軽々と躱していく。

左右にステップを踏んだり、時折地面に伏せるような体勢でしゃがんだり、触手が一点集中で向かって来た時には棒高跳びの選手が行う様な背面飛びで回避し、クルクルと空中で回転して着地するなど、その動きは何処の軽業師だと言いたくなる程に軽快なものであった。


「ぬぐぐっ・・・!?これならどうだ!!」


「よっ!はっ!ととっ・・・!?うりゃっ!」


クランゲドンは自身の触手がアルミィに当たらない事に苛立ったらしく、さらにもう数本の触手を追加で伸ばす。

だがそれすらもアルミィは回避する。数が増えたことで多少動き辛そうにはしていたが、それでも全て紙一重で躱していた。


「そこだ!!」


「ぬぐっ!?」


そして触手の包囲網の中に出来た一瞬の隙を突いて跳び上がるアルミィ。

彼女は空中で体を一回転させると、クランゲドンの半円状の体の上に着地し、両手をバン!と叩き付ける。


「食らえ、必殺!【キャットサンダー】!!」


そしてアルミィは自身の能力を発動する。

全身からバチバチと電流を発生させた彼女は、それを一旦両腕に集中させた後に、クランゲドンに向けて一気に流し込んだ。

・・・って、ちょっと待って!それ、もしかしなくても触手を通して俺も感電する奴じゃないか!?さすがに仲間の攻撃の巻き添えは食らいたくないんだけどぉっ!?


「待て待て待ってぇぇ、アルミィィーーー!?・・・・・・って、あれ?」


「フハハハハハッ!効かぬ効かぬ効かぬわぁぁぁーーーッ!!」


「な、何ぃぃーッ!?」


アルミィの技で感電する事を覚悟して思わず目を瞑っていた俺であったが、しかし何故か電流が触手を通って流れてくる様子が無かった。

何故?と首を傾げていると、そこにクランゲドンの笑い声とアルミィの驚く声が響いた。


「目の付け所は良かったが、残念だったなぁ!ワシの体の表面を覆っている粘液は電気を通さない性質を持っているのだ!貴様の電撃なぞ効くわけなかろうッ!!」


「な、なん・・・だと・・・・・・!?くっ!だったら今度は、アタシの爪で引き裂いて・・・!」


「おおっと、それは流石に勘弁してもらおう」


「うにゃっ!?」


電撃が効かないのならと、ジャキンッ!と両手の爪を伸ばして振り被るアルミィであったが、その前にクランゲドンの触手が彼女の体を掴み、持ち上げる。


「このっ・・・!こんな触手なんて、すぐに・・・!」


「だからさせないと言っているだろう?」


「う、うにゃーーー!?」


自身の体に巻き付いた触手を爪で切ろうとするアルミィ。

だが体を切り裂かれる事が本当に嫌なのか、クランゲドンはさらに触手を追加してアルミィの四肢それぞれに絡ませ、ピクリとも動かせなくなるようにしてしまった。

だが、そんな状態になってもアルミィは諦めなかった。

彼女は唯一自由に動かせる頭を動かし、腕に絡まっている触手に噛み付こうとする。が、しかしクランゲドンはそれすらも見越していたようで、偶然近くに流れて来ていたタオルを拾うと、それを使ってアルミィに猿轡までしてしまった。

というか、無駄に器用だなその触手!?


「ムーッ!ムムーッ!ムーッ!?」


「あ、アルミィッ・・・!」


「ふう・・・。これでうるさい奴はどうにかなった。―――さて、それでは先程の続きといこうか」


「・・・ッ!?」


アルミィを無力化したクランゲドンは息を一つ吐いた後、その半円状の体ををゆっくりと傾ける。

その傘の下にあったのは無数かつ半透明な小さな触手の群れ。数えきれない程あるそれらは、獲物である俺の体を今にも引き寄せ、飲み込もうと、ウニョウニョと蠢きながら精一杯こちらに向けて伸びて来ようとしていた。

気持ち悪ッ!?マジで気持ち悪ッ!?ちょっ、来んな来んな来んなぁぁーーーッ!!?


「ヒッ・・・!?」


「それじゃあ、いーただーき―――」


「あらあら。それ以上のお痛は許さないわよぉ?」


ブスリッ・・・!ヂュウゥゥゥーーー・・・!


「―――まースッ・・・!?」


「・・・ッ!?」


そして、今にも俺の体が触手の群れの中に包まれようとした瞬間、何処からともなく聞き覚えのある声と、何かが突き刺さるような音が聞こえた。


「お、おう・・・!おうおうおう・・・!?あ、熱い・・・!体が熱いぃぃぃーーッ!?」


何かが注入されていくような音。それが響いて来た後で、驚くべきことに俺の体を拘束していた幾つもの触手がドロドロと溶け始めた。


「えっ・・・?えっ・・・?い、一体何が・・・!?」


「ご無事かしらぁ、ディーアルナさん?」


「め、メドラディ・・・!?」


そんな突然の事態に困惑していた俺であったが、そこに誰かの声が掛けられた。

声が聞こえた方へと視線を向ければ、そこには注射器を片手にクランゲドンの隣で佇むメドラディの姿があった。


「ど、どうして此処に・・・?」


「そんなの決まっているじゃない。もちろん助けに来たからよぉ」


どうして此処にいるのか?という俺の問いに、ニッコリと笑いながらそう答えるメドラディ。

その笑みは柔らかく、慈愛に満ちていると感じられるモノであった。


「お、おのれぇ・・・!一体何をした、貴様ァッ・・・!?」


「おっとぉ・・・!」


俺達がそんなやり取りをしている最中、方法は分からないがメドラディが自身を害した存在であるとクランゲドンは察したらく、彼女を排除しようと徐々に溶け始めていた触手の内の一本を持ち上げ、叩き付けようと鞭の様に振るった。

だがその動きは先程までと比べると明らかに遅く、精細さを欠いており、メドラディに易々と回避されてしまった。


「ふむ・・・。『発熱薬』を投与したと言うのに、まだそこまで動けるのね。予想より意外と頑丈ねぇ、その体」


「は、『発熱薬』って、何?」


「『発熱薬』とは、私が調合した”水に触れると熱を発する様になる薬品”の事よぉ」


俺の問いに、「原理としては、使い捨てのホッカイロとかにも使われている”鉄が酸素と反応して酸化鉄になる時の化学反応で熱が発生する”というものに近いでしょうかぁ」とそう答えるメドラディ。


「この怪人の体は、見た感じでは普通のクラゲと同じゼラチン質と多量の水分で構成されている様だったわ。ゼラチンはタンパク質で出来ていて、熱すると変質して固まりにくくなる。―――であれば、熱してしまえば体の形を保つことは難しくなるわよねぇ?」


クランゲドンへと視線を向けながら、注射器を持っていない方の手で自身の頬を押さえるメドラディ。

その口元は、うふふ・・・!と笑みの形をしてはいたが、しかしその瞳の色は濁り、淀んでおり、どこか怪しい雰囲気を携えていた。


「ぐっ・・・!ぐうぅぅっ・・・!?おのれ・・・!おのれおのれおのれぇぇっ・・・!?このワシを舐めるでないわぁっ!?」


そんな、瞳から爛々と怪しい輝きを放っている様にすら見えるメドラディに対し、一瞬怯んでしまうクランゲドン。

しかしそのすぐ後で、ハッ・・・!と気を取り直すと、彼女に対抗するかの様に、吠える様に声を上げた。


「た、確かにワシの体の構成は、そこの女が言った通りではある・・・!―――だが・・・!その体の大半を構成している水は、温度が変動し辛い特別性だ・・・!この程度の熱など、時間が経てばどうとでも―――」


「では、どうにかされてしまう前にケリをつけてしまいましょうかぁ」


「―――な、何・・・!?」


声を張り上げているクランゲドンの様は、まるで自身を鼓舞しているかの様。

だが、そんなクランゲドンのセリフに被せる様な形でメドラディの声が響いた。


「こちらに来てください、田中さぁーん!」


「イエスマム!」


ピィウィィ!と口笛を吹いた後で誰かを呼ぶように大きな声を上げるメドラディ。

そしてそのすぐ後で、彼女の呼び声に応えて姿を現したのは、ぽっちゃりとした体系の中年男性であった。


「―――メドラディ様のお呼びに応えこの田中、只今参上いたしました」


シュバッ・・・!!と、何処からともなくメドラディの傍に姿を現したその中年男性は、その言葉を紡ぎつつ、スッ・・・と跪いた。

いや、本当に何処から現れたんだ、このオッサン・・・!?


「・・・というか、あれ?あのオッサンって、確か前にウチの店に来ていた人だった様な・・・?」


突然姿を現した中年男性にびっくりした俺であったが、しかしその後で、彼の姿に見覚えがある事に気付いた。

そう。確か此処で働き始めたばかりの時にメドラディに手を出そうとして返り討ちにあっていた人だった様な・・・?


「あ、あの、メドラディさん・・・?その人は一体・・・?」


「紹介致しましょう。この人は田中さん。色々あって、私とお友達になってくれた方よぉ」


「ご紹介に預かりました、田中と言います。以後、お見知りおきを」


「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「ムー・・・!」


跪いた体勢のまま、俺とアルミィに向けて挨拶をする中年男性―――改め、田中さん。

その様子は最初に見かけた時と比べて明らかに変わっており、そんな彼に戸惑いを覚えてしまった俺は、つい捕まった状態のまま、そう挨拶を返してしまった。あとアルミィも。


「・・・って、そうじゃなくて!?なんでそのオッサンが此処にいんの!?それとどうしてメドラディに跪いてんの!?アンタに使った『心服薬』の効果はとっくに切れている筈だろう!?」


まあその後で、いやいやそうじゃなくて・・・!?とツッコミを入れだが。


「それについては、私から説明させていただきましょう」


そんな俺のツッコミに対して応えたのは田中さんであった。

彼はスッと立ち上がると、右手を胸に当てながら口を開いた。


「確かにディーアルナ様の仰る通り、メドラディ様が私に投与された『心服薬』の効果は既に切れております。しかし今の私には、その様な物は最早必要ありません。―――何故なら今の私は、メドラディ様の事を心から敬愛しているのですから・・・!」


「・・・・・・はっ?」


キラキラとした瞳でそう語った田中さん。

そんな彼の言葉を耳にした俺は目が点となってしまった。

いや、いやいやいや・・・!いきなり何言っちゃってんの、この人・・・!?


「ああ、ああ・・・!メドラディ様は本当に素晴らしい方です!何せ、人生に絶望していたこの私に、光を見せてくれたのですから・・・!!存在するのであれば、彼女と巡り合わせてくれた神様に感謝をしたいくらいです」


「え・・・?いや、あの・・・」


「元々私がこの海水浴場に来たのは傷心旅行が目的でした。―――実は長年働いていた会社では人間関係で上手く行かず、業績不振も相まってクビになり、更には妻と娘がそんな私にほとほと呆れて、荷物を持って家を出て行ってしまいまして・・・」


うっ・・・!?なんか、唐突に重い話しが・・・!?


「齢四十で仕事を失くし、家族すら失くしてしまった私は、それはもう落ち込みました。何が悪かったのかと、悩みもしました。ですがいくら考えても答えは出なくて、果ては精神的にも参ってしまい、うつ病すら患ってしまいました」


重い・・・!だから重いって・・・!


「そんな事があり、もう色々と疲れ切ってしまっていた私は、もうどうにでもなってしまえ!といった心境になっていまして、メドラディ様に手を出そうとしたのも、半分自棄になって欲望に身を任せたからです。・・・・・・まあ、その後はご存じの通り、彼女に返り討ちにされてしまいましたが」


うん。思いっきり言いなりになっていたよね。


「ですがそれが、私にとっては人生の一つの転機となりました」


「・・・・・・ん?」


「彼女の指示を聞き、その通りに仕事をして、そしてその果てに”良く出来ました”と彼女に褒められる。それが私には、とても、とても心地よかった。まさに甘美と言っても過言ではありませんでした」


「・・・・・・んん?」


あれ?なんか、話がおかしな方向へ向かっている様な?


「故に私は彼女にお願いしたのです。”どうか私を貴女の犬にしてください”と」


夢心地の様な、うっとりとした表情でそう語る田中さん。

そこまで彼の話を聞き、そしてどこかトリップしている様な彼の様子を見たことで、ようやく俺は今の田中さんがメドラディの事をどう見ているのかに気付く事が出来た。

それはメドラディが言った様なお友達なんて関係ではない。彼女を主、または神として信奉し、崇める従者や信者とかの類いのそれだ、と。


「そして同時にこうお願いしました。”私が粗相をした時には、どうかこの鞭で私を叱ってください”と」


・・・・・・訂正。どうやら彼はマゾヒストの類でもあったようだ。

どうやら先の一件が、彼に新しい扉を開かせてしまったらしい。

左手に黒光りする鞭を持ちながら、「ハァハァ・・・!」と気持ち悪い息遣いをしている田中さんの姿を見た俺は、そう確信した。

というか、その鞭は言った何処から出したのだろうか?今の彼の服装は水着だけなので、何処かに仕舞っておくことは出来ない筈なのだが。・・・・・・まさか水着の中に隠していたとか、そんなオチじゃないよな?


「あの、メドラディ?なんだかこの人の様子を見ていると、どうにも君の言う様なお友達という関係とは違う様に思えるんだけど・・・?」


「あら?お友達というのは、こういうものではないの?私のお母様はよくお友達の方と接せられる際に、この卑しい豚が!とか、無様にお尻を振ってそんなに〇〇〇(ピー)〇〇〇(ピー)を突っ込まれたいのか!?とか言いながら鞭を振るっていたのだけれど?」


「違う!それ絶対お友達と違う!!」


むしろご主人様と下僕の構図だそれぇっ!?SMか!SMなのか!?


「だけど、とっても楽しそうにしていたわよ?」


「・・・・・・ちなみに聞くけど、()()()()?」


「それはもちろん、()()()()


メドラディのその返事を聞いた俺は、うわぁ・・・!?と頬を引きつらせてドン引きした。

興味本意で聞かなきゃよかった・・・!?


「―――って、貴様等、一体何時までワシを無視しているつもりだぁぁーーーッ!!」


「「「あっ」」」


メドラディの口から語られた衝撃の事実を耳にして、思わずツッコミを入れたり、ドン引きしたりと忙しい俺と、そんな俺を見て不思議そうに首を傾げているメドラディ。

その最中、結果的にとはいえ先程まで蚊帳の外にいさせられていたクランゲドンが、自分を無視するな!と声を上げた。

いやすまん。捕まっていた立場である俺が言うのもなんだけど、マジで忘れていたわ。


「あっ、って言ったか、今あっ、て!?貴様等、ワシのことをすっかり忘れていただろう!?」


プンスカと頭から―――実際にはどこが頭か分からないけど―――湯気を出したクランゲドン。

その体は、『発熱薬』を投与されてドロドロと溶け崩れようとしていた時と比べて、幾らか形が整い始めていた。

どうやら彼が言いかけていた、時間が経てばどうとでもなる、というのは事実であったらしい。

クランゲドンは怒りのままに触手を振るい、その矛先を自身と対峙しているメドラディと田中さんに向けた。


「むっ!お下がり下さい、メドラディ様!」


「あらあら?」


しかしその攻撃を、二人は軽く飛び下がる事で回避して見せた。


「うーん・・・これ以上時間を掛けると完全復活してしまいそうだから、そろそろ倒すととしましょうか。―――田中さぁん、こちらに来てくださいなぁ」


「はっ」


「では行きますよ、田中さん。―――はい、ダバァァーー!」


跳び退り、地面に着地したメドラディは、一時悩んでいる様な声を出した後に田中さんを呼んだ。

そして彼が自身の下へと近寄り跪いたのを確認した後、変身ブレスレットからバケツを取り出したメドラディは、それを両手で持ち上げると田中さんの頭上でひっくり返し、中に入っていたピンク色の液体をぶっかけた。

・・・・・・って、何やってんの、メドラディ!?


「さあ、これで準備は出来てわ。貴方の力を今こそ見せる時よぉ!さあ、行きなさい田中さん!」


「イエスマム!―――ウオオオォォォーーー!!!」


手に持っていたバケツをそこらへんに捨てると、田中さんを激昂するメドラディ。

それを受けた田中さんは、全身にピンク色の液体を付着させたまま怪人に向かって突撃を開始した。

というか、そのまま行くのかアンタ!?


「食らえぇい!必殺!【クロスチョップクラァァッシュ】!!」


田中さんは野太い雄叫びを上げつつ、海水浴場の砂浜の上を物凄い勢いで爆走し、そしてその勢いのまま空中へと跳び上がると、クルッと一回転しつつ眼前で両腕を交差させ、怪人に向かってフライングクロスチョップを放った。

勢いをつけてはいると言っても所詮一般人の攻撃。弱っているとはいえ、怪人に傷を付けることなど普通は不可能だ。

少なくとも俺はそう思っていたし、敵対しているとはいえ同じ怪人であるクランゲドンもそれは同じ考えであっただろう。

だがだからこそ、次の瞬間に目にした光景には度肝を抜かれた。


ズバシャァァァアアアッ!!!


「な、何ィ・・・!?」


「うそぉっ・・・!?」


驚くべきことに、彼が振るった両腕の一撃はクランゲドンの触手を易々と切り裂き、千切り飛ばしたのだ。


「まだまだ行くぞぉ!ハアァァァーーーッ!!【連続フルスイングチョォォップ】!!」


地面に着地した後も田中さんの攻撃は止まらない。

屈んだ体勢から跳び上がった彼は、グルグルと体を横回転させ、勢いを付けた両手のチョップを俺とアルミィを拘束している触手に向けて放った。


ザンッ!ザンッ!ザザザンッ!!ズバシャーーーッ!!


「マジで!?」


「うにゃ・・・!?た、助かった・・・!」


文字通り田中さんの手によって触手が千切れ、細切れになった事で俺達は拘束されていた状態から解放され、その体は砂浜の上に落ちた。


「あの・・・その・・・ありがとうございます、田中さん。おかげで助かりま・・・ッ!?」


「いえいえ、お礼は結構ですよ。貴女達はメドラディ様のお仲間。であれば、助けるのは当然の事ですから」


砂浜の上に落ちた後、俺は今にも見えそうな自身の体の大事な部分を両腕で覆って隠しつつ、助けてくれた田中さんへお礼を言おうとした。

だが彼の方へと視線を向けた瞬間、予想だにしなかった光景を見て硬直してしまった。

そこにいたのは先程まで見知っていた田中さんではなかった。

ダルンと肉が垂れている感じだった頬がシュッと細くなり、両腕両足の筋肉もモリッ・・・!と盛り上がり、更には腹筋がムキッ・・・!と見事に六つに割れている、キラリと白い歯を輝かせるイケてるおじさん―――略してイケオジがそこにいた。

アイエェェェーーーッ!?ナンデ!?イケオジ、ナンデ!?どうしていきなり田中さんがあんな姿に!?


「フフッ・・・!驚いたかしらぁ?」


「ハッ・・・!メドラディ・・・!」


驚きのあまりパクパクと口を開け閉めしていた俺の下に、メドラディの声が届いた。


「ちょっ、メドラディ!あれ、あれ・・・!一体何がどうしてあんな事に!?何をやった、アンタ・・・!?」


「彼がああなったのは、彼に掛けた薬品の効果のせいよぉ。あのピンク色の液体は先程あの怪人にも使った『発熱薬』でね。実はこの薬、副作用というか副次効果というか、熱が発生する過程で生物の持っている脂質を燃焼し、筋肉へと変貌させる効果があるのよぉ。だからぁ、この薬が効いている間に体を動かせばあら不思議、理想の体を短時間の間に作る事が出来てしまえるの」


何その簡易マッスル作成薬!?そんなのあったら、ムッキムキのマッスルを量産出来てしまえるじゃないか!!

いや、むしろこれはダイエット目的で使えそうな代物ではないだろうか?脂質を燃焼という事は、つまりは余分なお肉を無くすということに等しい。

たぶん世の女性がこれの存在を知れば、喉から手が出る程欲しがることだろう。


「ただこの薬には欠点があってねぇ・・・」


「欠点?」


「ええ。揮発性(きはつせい)がかなり高くて効果時間も数十秒と短いのよぉ。だからその効果時間内に体を激しく動かさないと脂質が筋肉に変わる事はないし、加えて用法要領をちゃんと守らないと体に必要な脂質まで筋肉に変えてしまうから、栄養失調を起こしかねないのよねぇ」


使用者に合わせて量を調整しないと死人が出てもおかしくない激物だと語るメドラディ。

それを耳にした俺は冷や汗を流しながら、「それはまた・・・」と思わず呟いてしまった。






次回は11/5に投稿予定です

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