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ミッション61 夏だ!海だ!海の家だ!・・・あれ?


夏。

それは天高く登った太陽から放たれる日射しが最も強くなり、大量の汗が噴き出てくる程気温が上昇する季節。

この時季に連想されるモノと言えば色々とあるが、よく挙げられるモノと言えば海が多いと思われる。

そして海と言えば・・・


「それはもちろん―――海の家だな・・・!」


「いや、そこは普通海水浴とかだろ」


ハッピを着たシャチの着ぐるみを身に纏い、〝大漁〝という文字が書かれたのぼり旗を片手に持ったブレーバーがそう口にして、そんなちょっとズレた事を言った彼に向けて、水色を基調にしたビキニを身に纏い、その上に『Mermans』とロゴが付いたTシャツを着ている俺がツッコミを入れた。


「イイ~!イーイー、イイイ~?」(そこの二人~!話ばっかしてないで、これ運ぶのを手伝って欲しいんですけど~?)


そんなどこぞの漫才の様なやり取りをしていた俺達の下へ戦闘員の声が届いた。


「今行くー!・・・ほら、呼ばれたから行こう、ブレーバー」


「うむ!・・・・・・それは良いのだがディーアルナよ、実は一つ問題があるのだが」


「問題・・・?」


それを耳にした俺はブレーバーに一緒に行こうと声を掛けたのだが、それに対してブレーバーは何故か真剣そうな声音で返してきた。


「うむ。―――実は両足が砂の中に埋まって動けなくなってしまってな。すまないが、引っ張ってくれると助かる」


「・・・・・・いや、何でそんな事になってんだよ。というか、むしろどうやったらそんな事になるんだよ」


ブレーバーの動けなくなってしまったというセリフを耳にした俺は彼の足元に視線を向け、そこで着ぐるみに包まれたブレーバーの両足が膝まで砂の中に埋まっているのを目にして、何がどうしてこうなるのかと頭を抱えてしまった。


「はぁ、もうしょうがないなぁ。ほら、引っ張るから手を出して、ブレーバー」


それから俺は一度小さな溜め息を吐いた後、彼の着ぐるみに包まれた両手―――魚のヒレにしか見えないそれ―――を掴み、引っ張り上げた。


「助かった。礼を言うぞ、ディーアルナよ!」


「どういたしまして。それはそうと早く行こう。あっちで皆が待ってるから」


「うむ!」


砂の中から抜け出せた事に、嬉しそうに両腕のヒレをパタパタと動かすブレーバー。

その様子を目にした俺はクスリと苦笑を零し、彼と共に先程声を掛けてきた戦闘員達の元へと足を向けるのであった。









俺達が今現在いる場所は『守谷海水浴場』という千葉県に存在する海水浴場であり、水の透明度が高く、『日本の渚・百選』と呼ばれるものにも選定されている絶景のビーチである。

そんな所にどうして俺達がいるのかと言えば、もちろん悪の組織としての活動―――ではなく、仕事の手伝いを依頼されたからだ。

依頼内容はとある怪人達が運営している海の家で臨時店員として働く事。

なんでも、その海の家で働いている怪人達が前日にフグ料理を食べたそうで、その時に彼等の大半が運悪くフグ毒に当たってしまったのだそうだ。

幸いと言うべきか、怪人達は常人よりも体が頑丈だったので、そのフグ毒で死ぬ事はなかったらしいのだが、それでも数日はまともに動けない状態となってしまったらしい。

当然こんな状態では海の家を開く事は無理だと彼等は嘆いていたのだが、そんな時にある人物から俺達悪の組織アンビリバブルに依頼を出してみてはどうかという話が持ち掛けられたらしい。

その人物とは情報屋であり、ブレーバーの酒飲み友達であるぺスタさんであった。

どうもその海の家では夏の時季に限定販売されるお酒があったらしく、彼女はそのお酒を飲む為に毎年客として通っていたらしいのだが、今回はそれが飲めないかもしれないと知ってショックを受けたのだそうだ。

そしてどうしてそのお酒が飲みたかったぺスタさんは、ある考えを思いついたそうだ。

〝店員が足りなければ増やせばいいじゃない〝と。

それからぺスタさんは海の家の手伝いをして欲しいとブレーバーに頼み込み、ブレーバーもそこで販売されているお酒が飲みたかったという理由もあって今回の仕事を受ける事にしたそうだ。

そうして今、俺達は件の怪人達が運営している海の家にて臨時店員として働いていた。


「いらっしゃいませー!ようこそ、海の家『Mermans』へ。ご注文はお決まりでしょうか?」


「え、えっと・・・!焼きそばをお願いします・・・!」


(うけたまわ)りましたぁ!オーダー、焼きそばを一丁!」


「イッ!イイッイー!イイイィィィ!!」(了解!俺のフライパン捌きが火を吹くぜ!ウオオォォォ!!)


「いや、マジで火を吹かせない様にな。火事になったら洒落にならないから」


店内に入って来た男性客から注文を取った俺は、手元の注文票に文字をスラスラと書き、厨房のキッチンカウンターへと置く。

それを受け取ったのは厨房内にいた三人の戦闘員達の一人である一号で、彼はその注文票を確認した後にフライパンを手に取り、ガスコンロに火を点けて、焼きそばを作り始めた。

フライパンにサラダ油を入れて熱し、最初に豚肉を炒める。火が通ったら野菜を入れて炒め、ある程度しんなりしたら一度別の更に移す。

その後フライパンに中華麺、水を加えて熱し、炒め、麺がほぐれて火が通ったら豚肉と野菜を入れ、更にソースを加えて炒める。


「イッ!イイッ!イー、イイー!」(ヘイ!焼きそば完成!持ってって、ディーアルナ様!)


「応!」


そして戦闘員一号は完成させた焼きそばをプラスチックの平皿に盛ってキッチンカウンターへコトリと置き、それを俺は手に持っていたお盆に乗せて、先程料理を注文した男性客の下へと運んで行く。


「お待たせしました。ご注文の焼きそばです。お熱いのでお気を付けてお召し上がりください」


「は、はい・・・!ありがとうございます・・・!」


男性客に声を掛け、彼のいるテーブルの上に焼きそばが盛られて皿を置く。


その際にありがとうと言う男性客だったが、何故かその視線は自分が注文した焼きそばに向けられておらず、俺の事をジッと見つめていた。

頬が赤く染まっていたので、軽い熱中症にでもなっていたのだろうか?今日も相当に暑いし、体調には気を付けてほしいものだ。


「ふう・・・。以外と忙しいんだな、海の家って。ここまで大変だとは思ってもみなかったよ」


その後も俺は店にやって来たお客の対応を行って注文を受けたり、料理を運んだりしていた。が、流石に長時間動き続けるとなると、怪人のそれとなった今の体であっても当然のように疲労は溜まっていく。

・・・まあ、その疲労は肉体的なモノではなく、精神的なモノの方の割合が大きいのだが。

・・・特に男性客から向けられる好色の視線が、俺の精神をガリッガリに削りに来ていたのだが。

なので俺は店内からお客の数が少なくなったのを契機に、一息吐こうと厨房内にその身を隠し、そこに備え付けられていたテーブルに上半身を乗せて突っ伏した。


「ぺスタさんは〝他にも店が開いとる所はあるし、客足も疎らやからそんなに忙しくなることはあらへん〝とか言ってはいたけど・・・」


あの人は嘘を吐いたのだろうか?と思わずそう愚痴った時、突然横合いから男性の声が掛けられた。


「いやいや、ぺスタさんは嘘なんて言っていないぞ。なにせ何時もはこれ程多くの客がウチの店に来るなんて事はなかったからな」


「あ、マリンマーマンさん。お疲れ様です」


「応、お疲れさん」


俺に声を掛けてきたのは、今回の仕事の以来主であり、『Mermans』の店長である『マリンマーマン』さんであった。

その姿は某国民的RPGに出てくる半魚人の様な見た目―――ただしこちらはきちんと足が二本ある―――であり、その上半身には店名のロゴが付いたTシャツを着ていた。

・・・まあ、筋肉質な体をしているので、シャツは結構パッツンパッツンになっていたけど。


「体は大丈夫なんですか、マリンマーマンさん?確か貴方もフグ毒に当たっていた筈ですが・・・」


「はっはっはっ!心配してくれてありがとう!だが、問題はない!悪の組織を辞めた後も体を鍛えていたからね。あの程度の毒ならば、一晩休めばどうにでも出来るのだよ!」


「・・・・・・いや、そんなんでフグ毒をどうにか出来るとは思えないんだけど」


なんだか物凄い事を当たり前の様に平然というマリンマーマンさんに、俺はボソリとツッコミを入れる。

このマリンマーマンさんだが、実は件のフグ料理を食べた時にフグ毒に当たってしまった人物の一人だったりする。

彼とは仕事内容を確認する為に、昨日の内に顔合わせを行っているのだが、その時の彼は病院のベッドの上であり、元々の色合いが青白いその顔色をより真っ青に染めて、今にも死にそうな表情で唸っていたのを覚えている。

だというのに、まさかそれが約一日という時間が経過しただけでこうも元気ハツラツといった風になるだなんて、いったい誰が予想できるだろうか。少なくとも俺には無理だった。

というか彼等が口にしたフグ毒というのは、一般的にはデトロドトキシンと呼ばれる無味無臭且つ無色の神経毒の事を差し、それを口にすると神経伝達が阻害及び遮断され、身体のあらゆる部分に麻痺が発生し、最終的には脳から発信される呼吸の指示が阻害されて呼吸困難となって死亡する猛毒だ。

更に言えば解毒剤や特効薬といった物もない為、呼吸の確保による延命治療を行うことしか対処法が無い恐ろしい毒でもある。

そしてそれは例え怪人であったとしても変わる事はなく、毒に対する耐性を持っていなければ普通の人間同様に中毒症状を引き起こす。

故に、本来ならば体を鍛えただけでどうにか出来る訳がない・・・・・・筈なのだが、実際になんとかしちゃった人物が目の前にいるので、正直脱帽する他ない。

ちなみにだが、目の前で元気いっぱいなマリンマーマンさんの姿を見て、「まさか店員として働いてる他の怪人達も、彼と同様に短時間で毒をどうにか出来るのか!?」と一瞬思った俺は辺りを見回したりしたのだが、しかしどれだけ探しても彼以外の姿は影も形も見当たらない。

どうやら色々と規格外と言うか、ブッ飛んでいるのはマリンマーマンさんだけの様であったらしく、それを悟った俺は思わず「アンタいったい何処のバグキャラだよ!?」と声高々にツッコミたい衝動に駆られてしまった。

まあ、流石に失礼になると思ったので敢えて口を(つぐ)んだが。


「そ、それはともかくとして、先程の言葉はどういう意味ですか?この店って普段はこんなにお客が来ることはなかったんですか?」


「ああ、その通りだよ。普段なら・・・そうだな、今日の半分から三分の一くらいじゃないかな?」


「へ?そんなに少なかったんですか・・・?」


俺はマリンマーマンさんのその答えに驚く。

まさか、普段の客入りがそんなに少ないとは思っていなかったからだ。


「君がさっき言っていた様にこの海岸で店をやっている所は他にもあるし、それにウチは海水浴場の端にあるからね。日影が出来る昼頃を過ぎた時間帯に涼みに来る人以外、そんなに来ることはなかったんだよ。だから今回、こんなにもお客が来たのは良い意味で予想外だった。支払いは色を付けるから期待してくれていいよ!」


「は、はあ・・・。ありがとうございます」


親指を立てて、キラリン!と輝く白い歯を見せるマリンマーマンさん。

そんなめっちゃ良い笑顔を浮かべる彼に俺は返事を返し、その後でつい首を傾げてしまった


「・・・でも、普段がそんなに人が来ない状態だったのなら、どうして今回はこんなに人が来ることになったんだろうか?」


「・・・え?」


「え?」


その俺の呟きを耳にしたマリンマーマンさんは、「え?この娘、本気で言ってるの?」と言いたげな顔になった。


「えっと、今回沢山来ていたお客の目的って君達だったんだけど、気付いてなかったのかい?」


「・・・はい?」


マリンマーマンさんのその言葉に、俺は「え、何それ?」と言いたげに首を傾げる。

お客の目的が俺達って、それはどういう・・・?


「イー・・・イイー。イッ、イーイイー?」(あー・・・ディーアルナ様。とりあえず、アレを見てくれれば分かると思いますよ?)


俺とマリンマーマンが揃って首を傾げていると、そこに戦闘員一号の声が掛けられた。

マスクで顔が隠れているので彼のしている表情は分からなかったが、纏っているその雰囲気はなんとなく呆れている様であった。


「イッ、イイッ。イイーイーイー」(ほら、あそこ。アルミィとメドラディが働いている辺りを見てください)


戦闘員一号に言われるがままに、彼が指差す方向に視線を向ける。

そこでは、丁度二人がお客のいるテーブルに料理を運んでいる姿があった。

二人の服装は今の俺と同じで、水着の上に店のロゴが書かれたTシャツを着てはいるが、しかしその下に身に付けている水着の形はそれぞれ異なっていた。

まずアルミィが身に付けている水着だが、”ミィちゃん”と刺繍が縫われたピンク色の首輪を付けている首から下は黒と金の柄が交差したような色合いのビキニだ。

肌面積が多く、露出の激しい格好だが、普段から水着と変わらない服装をしているのでそう違いは感じられなかったりする。

しかしその上にTシャツを足すと、そのスレンダーな体型は隠され、また本人の元気ハツラツとした雰囲気も合わさって、見るものに快活な印象を覚えさせる。

ついでに言えば、今の彼女の手足は何時もの動物型のモノ―――元となったのが猫である為、当然猫科の手足―――ではなく、完全な人のそれであった。

その理由としては、なんでもこんな強い日射しが照りつけてくる海辺では動物型の手足のままだと蒸し暑さが倍以上に感じられるかららしい。

まあ、確かにあの肉球が付いた手足は結構毛深いし、より暑く感じたとしても不思議ではない。


「焼トウモロコシ、お待ちぃ!」


元気な声を上げながら、二本の焼トウモロコシが盛られた皿を料理を注文した二人の男性客がいるテーブルの上にコトリと置くアルミィ。

そして彼女がその場から立ち去ろうとした時、そのテーブル席に座っていた男性客達から声を掛けられた。


「ねぇねぇ、お姉さん。仕事が終わったら俺達と遊ばない?」


「ここら辺で知る人ぞ知る穴場スポットも知っているんだけど、どうかな?」


ナンパであった。見た目もなんか軽そうな雰囲気の若い男達がアルミィに一緒に遊ばないかと声を掛ける様子は、紛う事なきナンパであった。

正直に言えば、俺はこれまで生きてきた中で実際にナンパをするという光景を見るのはこれが初めてであった。

いや、漫画とかアニメとかでそういう展開は良くあったりするが、しかし現実にそんな事態が起こる事はそうそうなく、ましてやその現場を見るなんてこともまずない。

なのでナンパというのがどういうものなのか若干興味があった俺は、キッチンカウンターから軽く身を乗り出しながら三人の様子を注視した。


「あん?・・・ああ、またかい。ナンパはお断りだよ。そんな事より、冷めないうちにさっさと食べな」


だが、それに対するアルミィの返答は明確な拒否だった。

その態度や仕草にも「お前等なんて興味ない」という感情がありありと感じられ、そんな彼女の様子を目にした男達は一瞬怯んだ。


「そんなことを言わずにさぁ・・・!」


「俺達と遊んでくれたら、お姉さんが欲しい物を買ってあげるからさぁ・・・!」


だが男達は諦めなかった。

今度は物で釣ろうと考えたのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら再びアルミィをナンパしようとする。


「しつこいよ、アンタ等!これ以上ふざけた事抜かすなら、営業妨害で店の外に放り出すよ!それが嫌なら大人しく飯を食いなっ!」


だがしかし、そんな男達の物言いをアルミィは一喝して黙らせた。

しかも体の表面がパチパチと静電気を帯び始めてきており、一目見ただけで「あ、なんかヤバそう」と思えるくらいにヤバい雰囲気が感じられるようになってきた。


「「あ、はい」」


男達もそんなアルミィの様子を目にして身の危険を察したらしい。

アルミィに一喝された彼等はこれ以上彼女をナンパすることは止めて、黙々と自分達が注文した焼トウモロコシを食べ始めた。


「はい、どうぞぉ。ご注文のイカのゲソ焼きとビールですよぉ」


アルミィに関してはもう問題ないだろうと判断した俺は、彼女のいる場所とは反対側のテーブル席に向かっていたメドラディの方へと視線を向けた。

そこでは丁度、メドラディが注文された料理を一人の男性客のいるテーブルの上に置いたところであった。

彼女が身に付けている水着は所々ピンクの花柄が描かれた白いレオタード型であり、体のラインにそってピッタリと張り付くそれは、彼女の豊満な体型をより強調させていた。

そしてそれはTシャツを着ていても隠しきれるモノではなく、むしろ隠したことで感じられる色気が増して、店に来ていた男性客の目を釘付けにしていた。


「ぐふ、ぐふふっ・・・!―――あ、ありがとうございます」


そしてそれはメドラディの目の前にいる男性客―――こちらはぽっちゃりとした体系の中年男性―――も同様であり、彼は料理を運んできてくれたメドラディにお礼を言いつつも、その視線は彼女の大きな胸やお尻に向けられていた。


「―――ぐふっ・・・!」


料理を運び終え、その場から立ち去ろうと身を翻すメドラディ。

その後ろ姿を視界に納めていた中年男性は、その口元を笑みの形に歪ませると、おもむろに自身の片手をゆっくりと動かし始めた。


「ぐふっ。ぐふふふふっ・・・!―――ぐひゅぅっ!?」


「あらあら、おいたはいけませんよぉ?」


音も無く静かに、ヌルリと滑らかに動かしてメドラディのお尻に向けて手を伸ばす中年男性。

そして指先がいざメドラディのお尻に触れようとした瞬間―――しかし、その動きよりも先にメドラディが迎撃に動き、その手の甲をつねった。


「セクハラは犯罪ですからねぇ。もうこんな事はしてはいけませんよぉ」


中年男性の手の甲をつねりながら、メッという風に叱るメドラディ。

眉間に眉を寄せているその表情は、おそらく怒っているのだと思われるのだが、しかし全くと言っていい程怖くなかった。

それどころか幼子を叱る様なその仕草や雰囲気が、その大和撫子の様な見た目と相まって、可愛らしいという印象を強く感じさせていた。


「イッ?イーイー?」(ほらね?言った通りでしょう?)


「君達は皆が皆美人さんばかりだからね。それを一目見ようとお客が―――特に男性客が大勢やって来ているんだよ。あわよくばお近づきになりたい、だなんて下心を持ちながらね」


「む、むぅ・・・」


その光景を尻目に、俺の隣で「言った通りだろう?」と言いたげに彼女達を指差す戦闘員一号とそれについて補足するマリンマーリンさん。

そんな二人に対して俺は何も言えなくなった。

彼等の言っている事はある意味では正論ではあったし、俺も男のままであったなら興味を抱いて見に来ていたかもしれないと思ったからだ。

故にただ唸る事しか出来なかったわけだが―――しかしその最中、己の視界の先で突如として事態が急変する光景を俺は目にした。


「・・・・・・も・・・も・・・!」


「・・・?」


「もう、辛抱堪らぁぁんッ!!」


「あらあら?」


驚くべきことに先程メドラディにセクハラをしようとして阻止され、叱られていた中年男性が突如として席を立ち、メドラディに向かって飛び掛かったのだ。

力を溜める様にプルプルと体を震わせた後に飛び上がったその様子は、まるで今まで我慢していたモノを吐き出すかの様であり、その見事な空中ダイブは某三代目な大怪盗のそれを彷彿とさせるようなモノ。

更に言えば、ハートマークが浮かんでいる様に見えるその両目は完全にメドラディの事をロックオンしており、唇を突き出している様は色々な意味でアウトだと思える様な光景であった。


「さすがにそれはダメだろう・・・!?」


その光景を見た俺はメドラディを助けに行こうと厨房から飛び出そうとして、


「えいっ」


ブスッ・・・!


「ふぎぃ・・・ッ!?」


「え・・・!?」


だがその動きよりも早くメドラディが中年男性を迎撃してみせた。

左腕に着けていた変身ブレスレットの、その電子ストレージから注射器を取り出した彼女は、中年男性のポッチャリお腹にブスッ!とブッ刺して、


「―――悪い子にはおしおきですよぉ?」


チュウゥゥゥ~~~!


にこやかぁな笑顔を浮かべながら注射器の中身―――毒々しそうな緑色の液体―――を注いでいった。


「うごごごごごっ・・・!?」


その緑色の液体を体の中に注がれている側である中年男性はと言えば、くぐもった様な悲鳴を上げながらその顔色を赤くしたり青くさせたりしており、端から見ても具合が悪そうと感じられるものだ。


「はい、おしまいです・・・!」


ズポッ・・・!


「はうっ・・・!?」


それから数秒後にメドラディが中年男性の腹に刺していた注射器を引き抜き、中年男性の体はその勢いに引かれる形でバタリと地面に俯せとなって倒れた。


「ちょっ・・・!?あれヤバいんじゃないか!?」


その様子を見た俺は、思わず悲鳴を上げた。

もしかして殺っちゃったのか・・・!?と。

だがそんな俺に、大丈夫だと戦闘員一号が声を掛けた。


「イーイーイー。イッ、イーイー。イイー。」(大丈夫大丈夫。多分アレ、死んじゃいないと思いますよ、ディーアルナ様)


「い、いや、でもアレ、真っ青になってぶっ倒れて・・・!?」


「イイイッ。イー、イイー・・・・・・」(だから大丈夫だって。多分、あの液体は・・・・・・)


どういった理由で大丈夫なのかを戦闘員一号が口に出そうとして、


「ヒョホォォォオオオ~~~ッ!!」


その前にテーブルに突っ伏していた中年男性が勢いよく体を起こして立ち上がった。

・・・・・・妙な奇声を上げながら。


「うおっ!?お、起きた!?生きてた!?」


突如上がったその奇声に驚いた俺は、思わずビクッと体を震わせる。

死んだと思っていた人が突然豹変したように奇声を上げながら起き上がったのだから驚いて当然だと言えるだろう。

そんな俺に対して戦闘員一号が「だから大丈夫だって言ったでしょう」と口にした。


「イイイーイー、イーイイーイー。イイイー」(メドラディが注射していたアレは、多分『心服薬』の試作品でしょう。あの毒々しいまでの色合いは見覚えがあるので)


「『心服薬』・・・?それって確か、ブレーバーがこの任務に来る前に作ろうとしていたっていう、あの・・・?」


『心服薬』とは、それを投与された人物が主となる人物に心からの忠誠を誓う様になるという、謂わば一種の洗脳薬の事だ。

世界征服をする為に必要な道具として作られた物・・・・・・ではあるらしいのだが、現段階では戦闘員一号の言う通りにまだ試作品の域を出ない薬であり、当初想定していた程の効き目はないし、またその効果時間も短時間に限定されている物でもある。


「でもそれをどうして彼女が持っているんだ?」


「イイッ、イイー?イーイイーイーイー?」(忘れたんですか、ディーアルナ様?あの薬は()()()()()()使()()()()()()()()なんですよ?)


「・・・・・・ああ、そういえば」


戦闘員一号に言われて『心服薬』が作られた経緯を思い出した俺は、そう言えばと納得する様に頷いた。

戦闘員一号の言っていたメドラディの能力。それは”自身の体液をありとあらゆる薬物へと変換する能力”の事だ。

文字通りに血や汗と言った物から唾液や下ネタ的な物まで、体液という括りに入る物であれば何でも薬物へと変換する能力であり、それによって生成できる薬物は怪我や病気を治す物や、生物を即死させるような強力な毒など様々だ。

そんな非常に強力な能力だが、そうれ相応の欠点も存在している。

その欠点とは、能力発動中に不用意に素手で人や物に振れるわけにはいかない、というものだ。

なにせ能力発動中は皮膚の表面に存在する微量の油すらも薬物へと変換してしまうのだ。その状態で触れられでもしたらどうなるかは、火を見るよりも明らかである。

コントロール出来るのであれば良いのだが、流石に怪人に成ったばかりの彼女にそれをしろと言うのは難しいし、何より生理現象の類でもある為、止めろと言う方が無理である。

故に彼女は、能力発動中は危険なので人や物に素手で触れない様にとブレーバーから厳命されていたりする。


「イーイイーイー、イイイーイー。イーイーイイー」(彼女はボスに頼まれて『心服薬』の元となる薬物を生成していましたし、その後も研究に協力して試作品が完成するところを目にしています。なのでその気になれば何時でも自身の能力で『心服薬』を作る事は出来ます)


「おそらくあれは能力で作っていた物なのでしょう」と言う戦闘員一号の言葉に、俺は彼の言い分は的を得ているだろうと思った。

だがしかし、それだけでは説明できない事もまたあった。


「でもさぁ、アレは本当に大丈夫なのか?」


「イッ・・・?」(アレ・・・?)


戦闘員一号に向かってそう言いつつ、一刺し指を向けたその先では、


「もうおいたをしてはいけませんよぉ?」


「イエス!マイロードッ!!」


「私の同僚や他のお客様に迷惑となる行動も控えてくださいねぇ?それではごゆっくり料理をお召し上がりくださぁい」


「イエス!マイロードォッ!!」


起き上がった中年男性に向かって、再びメッ!と叱っているメドラディ。

そしてその彼女の正面にいた中年男性は、見事な直立不動と敬礼をしながら元気よく返事を返し、その後に自身が座っていた席に座り直すとテーブルの上に置かれていたイカのゲソ焼きに手を伸ばして、「キヒャヒャヒャヒャッ!!」と奇声を上げながらムシャムシャと食べ始めていた。

・・・・・・うん。なんか下手なホラーよりもめっちゃ怖いですけど。


「なあアレ大丈夫なのか・・・?さっきとは別の意味で本当に大丈夫なのか、あれ・・・!?」


「イ、イィ・・・?イーイー、イイーイー・・・?」(む、むぅ・・・?まあ使われたのは試作品だし、時間が経てば元に戻ると思うから大丈夫なんじゃないか・・・?)


目の前の光景を見て戦慄し、恐怖を覚えた俺は、戦闘員一号に向かって大丈夫なのかと問い掛けたのだが、それに対する返答はハッキリとしない曖昧なものだった。


「いや、大丈夫なんじゃないか?じゃないってば・・・!?怖いって・・・!めっちゃ怖いって、あれ・・・!?」


戦闘員一号のセリフに対してそうツッコミを入れた俺であったが、その内心では戦慄を感じて、思わず自身の両腕で己の体をギュッと抱き締めるのであった。





次回は8/30に投稿予定です。

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