表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/155

ミッション59 戦いを終えたその後に・・・!



デパートの屋上のその一角を賭けた戦い。

それを終えた俺達はデパートの入り口前にて、互いに向かい合う様に立っていた。


「それでは約束通り、貴方達の望みは諦めていただきましょうか」


「く、くそぅ・・・!」


勝負に負けたのだから自分達の職場であるデパートの屋上にあるステージ会場から手を引けと暗に語るナマハゲ丸さん。

彼の言いたいことを察した牛丼マスクは悔しげに歯を食いしばり、その後ろにいた他のマッスル達も、その全員がシクシクと悲しそうに涙を流していた。


「また、また俺達は居場所を求めて各地を放浪しなければならないのか・・・!?く、くそぅ・・・!」


「仕方がねぇよ、牛丼マスク。俺達ゃ自分達がふっかけた勝負で負けちまったんだからな・・・!」


「ああ、そうだな・・・。悲しいし悔しいけど、これで難癖を付けちまったら漢じゃねぇよ・・・!」


牛丼マスクはグスグスと涙と鼻水を流しながら、ガッガッ・・・!と地面を殴る。

そんな彼の姿を見た仲間のマッスル達は、仕方がないと悲しげな顔で首を横に振る。


「・・・そう悲しまないでください、牛丼マスクさん」


「オ、オーナー・・・?」


悲しみに暮れる牛丼マスクの肩に、ポンと誰かの手が優しく置かれた。

その手の主はデパートのオーナーであった。


「実はこのデパートの中で近々他の場所へと移転する予定の店があるのですが、貴方達さえ良ければ、その空いた場所で働いてみませんか?」


「な、なに・・・!?」


「え・・・!?」


「オ、オーナー・・・!?」


オーナーのその言葉に、彼以外のその場にいた全員が驚きに目を見開いた。

脅迫までして権利を奪い取ろうとした相手にそんな言葉を掛けるだなんて誰も思ってはいなかったからだ。


「な、何を・・・何を言っているんだ、アンタは・・・!?」


何より一番驚いているのは、声を掛けられた牛丼マスクとその仲間達だった。

彼等は流していた涙と鼻水を引っ込め、オロオロと戸惑う様子を見せていた。


「俺達がしたことを忘れたのか!?俺達はアンタを脅迫したんだぞ!なのに、どうして・・・!?」


「そうですね。ですが、それが困っている人を助けない理由になるのでしょうか?」


「な、何だと・・・!?」


オーナーのその言葉に牛丼マスクは驚きで声が出ないのか、パクパクと口の開け閉めを繰り返す。


「困っている者に手を差し伸べる、そこに理由など、本来は必要ないのだと私は考えております」


驚愕の表情を浮かべている牛丼マスクに、オーナーはにっこりと慈しみを感じさせる笑顔を向ける。


「それでも敢えて理由を上げるとすれば、助けたいから助ける、理由なんてそれだけで十分なのだと私は思っていますよ」


「お、オーナー・・・!アンタって人は、アンタって人は・・・!?う、ううぅ・・・!あ、ありがとう・・・!本当に、本当にありがとう・・・!!」


オーナーの手を両手で握りながら男泣きをする牛丼マスク。

その表情は先程の悲しみに暮れ、落ち込んでいたモノから一変して、ホッと安心したような、嬉しそうなモノに見えた。

・・・まあ、顔がマスクに隠れているから大体でしか分からないのだが。


「あの、ナマハゲ丸さん。あの人の―――オーナーさんの言っている事って本当なんですか?」


そんな彼等を尻目に、俺は自分の隣にいたナマハゲ丸さんに声を掛けた。

デパートのオーナーが口にしたもうすぐ別の場所に移る予定の店があるのかと。


「うん?ああ、オーナーの言っている事は本当ですよ、ディーアルナさん。あの人の言う通り、近々閉まる予定というか、別の場所に移転する予定の店はあります」


そんな俺の問いにナマハゲ丸さんは本当の事だと頷いた。


「その店は数年前からこのデパートの一角で和菓子を専門に扱ってきた、とある怪人達が運営していた店なのです。その者達は元々このデパートの外で店を開いていたのですが、怪人が運営しているという風評のせいで一般の人々は怖がり、客足が遠退いた為に、その場所では店を続けることが出来なかったそうなのですよ。唯、その味は有名な老舗の和菓子店に勝るとも劣らないモノがあって、その事を惜しんだオーナーが、人々からの信用と信頼を得るまでウチで働かないかと声を掛けたのが、ウチのデパートで働いていた理由だそうです」


ナマハゲ丸さんはそこまで語ると一拍間を置き、


「元々ウチのデパートは怪人が働いている事で有名で、これまで問題らしい問題を起こさなかった事で、周囲からある程度の信用と信頼が得られていました。そして彼等の店もまたこのデパートの中で働く内に、実績を積み、人々からの信用と信頼を得たことで、今や一日に数百もの人々が通う様な有名店となったのです」


と、そう言い切った。

言うなれば一つの信用問題と言うやつだろう。

その和菓子店で働いていた怪人達は、ただ怪人であるという理由だけで周囲から怖がられ、忌避されていて、だからこそ人々からの信用と信頼を得る事は難しい状態だった。

だがその問題も、デパートのオーナーが一時的に後ろ盾となり、周囲に安心と安全性を示す事で解決した。

いや、より正確に言うのであれば、件の怪人達がその状況下で腐ることなく努力し、恐ろしい者達ではないと理解されたからこそ、デパートの外に店を移転しても問題なく運営出来るようになったという事なのだろう。


「元々私達怪人は、自らの意思に関わらず悪の組織や秘密結社など大なり小なり悪事を働いていた者が多く、例え『怪人更生法』が適用されて、更生したのでもう暴れませんよ、安全ですよと言われたとしても、普通の人々にとっては早々信用出来る筈がありません。むしろ組織と言う枷が無くなった事で自分本位に暴れるのではないかと疑ってしまうのが当然でしょう。故にこそ、更生した怪人が真っ当な職に就く事は難しく、だからこそ、その大半が後ろ暗い職業に就く事も多いのですよ」


視線を下に向け、俯きながらそう語るナマハゲ丸さん。

おそらく彼は、脛に傷を持っている人間が社会という名の世界で真っ当に過ごすのは、実は結構難しいものであるという事を伝えたいのだろう。

怪人の場合はその凶悪且つ凶暴そうな見た目も相まって、社会から爪弾きにされやすく、より生きにくいのだとも。


「・・・・・・私達もまたオーナーに出会えていなければ、後者の職に就いていたかもしれませんね」


そう語りながら目の前の光景に―――より正確には、おいおいと嬉し泣きをしている牛丼マスクの肩をポンポンと優しく叩いているオーナーに目を向けるナマハゲ丸さん。

遠くを見ている様なその瞳は、俺にはそれが、どこか昔を懐かしんでいる様にも感じられた。


「―――オオーイ!ナマハゲ丸殿にディーアルナよ!これから仕事を終えた後の一杯兼ナマハゲ丸氏の陣営が怪人ドッジボールに勝利したことを祝う兼牛丼マスク以下『筋肉愛好団』の歓迎会を行おうという話になったのだが、何処か行きたい所はあるだろうか?ちなみに我は焼き肉店を推奨するぞ!」


「いやいや、ブレーバーさん。ここは前にも話した海鮮料理が旨い店の方が私は良いと思いますよ?私オススメのあの店は酒に合う珍味も数多く取り揃えてますからね!」


「いやいやいや、この大人数で行くとなると、混み具合によっては何人か食いっぱぐれることになるぞ?それはまたの機会にして、今回は焼き肉の方が良いと我は思うが?」


「はははっ、なぁにその店は外でバーベキューだって出来ますからね!大人数で行ったとしても何ら問題ありませんとも!」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「肉!」


「海鮮!」


「肉!」


「海鮮!」


「肉!」


「海鮮!」


「ええい!これでは埒が明かない・・・!」


「ふむ、確かに・・・。おお、そうだ・・・!ここはディーアルナさんに決めてもらうのはどうでしょうか?」


「むむ・・・!その提案乗った!」


「さあ、ディーアルナさん。貴女はどっちが良いと思いますか!?」


「さあ、ディーアルナよ。お前はどっちが良いと思う!?」」


「んなもん、どっちでも良いわ、ボケェッ!?というか、さっきまでの俺のしんみり感を返しやがれ、この飲兵衛共が!!」


最後のオチで色々と台無しじゃねぇかっ!!








後日談。

その後、牛丼マスク率いる『筋肉愛好団』は、デパートのオーナーの下で元気に働き始めたらしい。

オーナーの話にあった件の店―――とある怪人達が運営している近々移転予定の和菓子店―――が移転するまで約一ヶ月掛かるらしく、それまでの間は主に商品の輸送や掃除、書類整理やデパート内にある各店舗の手伝いといった各種雑用仕事を行う事になったそうだ。

とはいえ、元々彼等『筋肉愛好団』の面々は、格好に関してはともかく、その性格は真面目且つ勤勉であり、例え雑用仕事であったとしても不平不満を言うことなく、キッチリしっかりやっているらしい。

時には其処らのプロ顔負けの仕事振りも発揮しているらしく、デパート内の一部店舗では、「下手したら店を乗っ取られるかもしれない・・・!?」と、戦々怖々している所もあるとかないとか。

ちなみに、今回デパートの屋上を賭けて勝負を行ったナマハゲ丸さん達との関係についてだが、以外と良好な関係を築けているらしい。

境遇が似たり寄ったりであることと、怪人ドッジボールという勝負を行った事で、スポーツ勝負にありがちな、所謂互いの健闘を称え会う的なノリが起こった事が理由だそうだ。

今ではヒーローショー等のステージイベントに、臨時の助っ人として入る事もあるらしい。

なんにせよ、問題なく日々を過ごせている様で何よりである。








後日談の後日談。


「・・・・・・・・・」


デパートの屋上。その隅に置かれているベンチの上に、一人の年若い女性が呆然と空を見上げながら座っていた。

大和撫子に近い容姿とチアガールの様な格好をしている事から、彼女がステージイベントや怪人ドッジボールで活躍していた司会のお姉さんであることが分かった。

彼女はまるで物思いに耽る様に何処か遠くをぼんやりと見つめており、その脳裏にはとある光景が思い浮かべられていた。

それはデパートの屋上の一角を賭けて行われた怪人ドッジボールの最後の攻防戦で起こった出来事であり、その時にディーアルナと呼ばれる女性が起死回生の為に放ったとある技の瞬間であった。


「・・・・・・・・・」


ディーアルナが放った技―――【轟波龍砲撃(ごうはりゅうほうげき)】と似たようなモノを、彼女は過去に目撃した事がある。

それは今から数ヶ月前の事。とある悪の組織が起こした事件に巻き込まれた時の事だ。

その時に彼女は、自身よりも何倍も大きい瓦礫が落ちてきて潰されかけるという危機に直面し、そしてそこで何処からともなく飛んできた太陽の如き輝きを放つ黄色み掛かった龍が、その(あぎと)で瓦礫を粉微塵に砕くという光景を目にしている。

その時に見たモノとディーアルナが放った龍の(あぎと)は、輝きという点での違いはあるが、しかしその形は瓜二つと言って良い程似通っていた。


「・・・・・・よし!」


以前目にしたモノと、今回目にしたモノ。その二つの類似性を思い返した司会のお姉さんは、気合を入れながら立ち上がる。

そして彼女はデパートの屋上にあるステージの、その裏にある休憩小屋へと足を運び、そこで後片付けを行っていた自身のバイト先の上司であるナマハゲ丸に声を掛けた。


「あの、ナマハゲ丸さん!お願いがあるのですが・・・!」





ストックしていた分はこれでおしまいです。

現在も続きを執筆中ですが、いつ頃投稿出来るかはまだ未定です。

少なくとも9月か10月迄には投稿したいと考えております。

また感想に関しましては質問形式のモノ、またはそう判断したモノのみ返答させて頂きます。

それでは皆様、またの機会に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ