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ミッション56 開幕!怪人ドッジボール・・・!!



デパート内の一角に存在する運動場スペース。

その中心で今、一つの戦い《ゲーム》が始まろうとしていた。


『さあ、始まりました。皆様お待ちかね、”怪人ドッジボール”の開幕だワン!司会はオイラ、デパートのマスコットキャラであるデパワン君と!』


『私、デパートのオーナーがお送りします。それからこちらには、本日のヒーローショーに参加予定であった、ヒーローのプラスマンさんに解説アドバイザーとして来てもらいました』


『どうもプラスマンです。詳しい解説に関しては任せてください』


『いやぁ、すみませんねぇ、プラスマンさん。急にこんな事を頼んでしまいまして』


『いえいえ、こちらとしても良い息抜きになりますから気にしないでください』


『そうですか?そう言って頂けるとありがたいですねぇ』


互いにペコリと頭を下げるオーナーとプラスマン。


『そこのお二人さん。自己紹介と世間話はそこまでにして、そろそろ今回の戦い(ゲーム)についての説明をしようワン!』


そんな彼等の話をぶった切ったデパワン君は、ダンッと解説席に足を乗せる。


『まずはこの会場に来てくれた観客の皆様に〝怪人ドッジボール〝とは何かの説明をするワン!怪人ドッジボールとは、怪人達の間で勃発する様々な争い事の決着を着ける為に作り出されたゲームの一つであり、既存のドッジボールを怪人用に改めたものだワン!ルールは基本的なドッジボールとほぼ同じ!違うところは舞台となるコートの周囲を特殊なバリアが覆っているという点だワン!このバリアはゲームを見に来てくれている観客の皆さんにボールが向かわない様にする為だワン!』


『まぁ、怪人の力って普通の人の何倍もあるからねぇ。当たったらかすり傷じゃ済まないし』


デパワン君はそう言いながら、バッと運動場の中心を手で指し示す。

そこには、青く輝く薄透明のエネルギーの壁に囲われたコートがあった。


『それに加えてこのバリアは、ぶつかったボールを勢いそのままに跳ね返すといった特性も持っているぞ。ボールをキャッチするか、地面に着くまでは相手ボールだから、選手のみんなは注意するように!』


『このバリアがある為、外野とかもいらないっていうのも普通のドッジボールとは違う点ですねぇ』


『あと、この怪人ドッジボールに参加できる人数は最大で九人まで。体の大きさが縦横三m以上の者は参加出来ないという制限もあったりするワン!』


『まあ後者に関しては、今回参加する人達の中にはいないので関係ないでしょうけど』


『さてさて!ゲームに関する説明を終えたところで、今度は戦い(ゲーム)に参加するチームを紹介するワン!まずはこちら!ナマハゲ丸さん率いる『ステージ劇団』チームだワン!彼等はこのデパートの屋上でヒーローショー等のステージイベントを行っている人達であり、デパートに来るお客さんに親しまれている人達だワン!・・・・・・・・・リーダーのナマハゲ丸さん以外は』


「ちょっ!?最後のセリフは余計じゃないですか、デパワン君!?」


デパワン君の紹介に踏み出そうとしていた足をズルッと滑らせるナマハゲ丸。

その後で、「〝自分以外は〝とはどういう事だ!」と抗議する。


『いやだって、君の顔怖いし。以前実施したアンケート調査の統計でも、デパートに来たお客さんの九割が怖いと感じたというのが出ていたからね』


「なん・・・だと・・・!?」


そんなものを何時の間に・・・!?と思いながら、自分の顔はやっぱりそんなに怖かったんだな・・・!?とナマハゲ丸は愕然とした。


『まあ、彼は顔が怖いですからねぇ。未だに私も突然あの顔を目にすると悲鳴をあげちゃいますからねぇ。・・・でも、その心根が優しい人物であることを知っていますから、見た目以外を怖いと思った事はありませんよ』


「オ、オーナー・・・!」


だが、その後でオーナーから出されたフォローに涙を浮かべながら喜んだ。

しかしナマハゲ丸よ、彼も君の事を怖いと言っていたことを忘れてはいけないぞ。


『そしつもう一つのチームは、牛丼マスクさん率いる『筋肉愛好団』!その鍛え抜かれた筋肉でどんな戦いをするのか見ものだワン!』


「我等のマッスル魂、今こそお茶の間の皆様に見せようではないか!行くぞ、お前達ぃ!―――はぁ~!マッスルマッスル!」


『マッスルマッスル!』


「『マッスルマッスル、フォーーーッ!!』」


掛け声を合わせ、ビシッ!とポージングを決める牛丼マスク率いる『筋肉愛好団』の面々。

うん、暑苦しい。


『さぁ、勝利の栄冠を掴むのはどちらのチームなのか!戦士達よ!今こそ血湧き肉踊る戦いのゴングを鳴らせぇ!!・・・ワン!』








「・・・ブレーバーの奴、何であんなにテンション高いんだ?」


デパワン君の着ぐるみを着ながら、実況席でマイクを手にヒートアップしているブレーバーの姿を目にした俺は、思わず呆れた声を出した。

というか、本当に何で司会なんてやってんだろうか?甚だ不思議だ。


「どうも、ディーアルナさん」


「あ、カンガ・エルーさん」


ついブレーバーに呆れた視線を向けていた俺は、ふと自身の後ろから声が掛けられたのに気付いて振り向く。

そこにはメガネを掛けて、上半身だけスーツを着たカンガルーがいた。

彼の名前は『カンガ・エルー』さん。ナマハゲ丸さんの事務所に所属し、経理担当を担当している人物であり、カンガルーを改造して生み出された怪人だ。

冷静沈着な性格で計算高い人物だが、それに比例するかの様に戦闘能力はそう高くはないらしく、一応ヒーローショー等で怪人役として働く事もあるがその頻度は多くないらしい。


「ステージの事でもそうですが、今回の件でもご協力いただきありがとうございます」


クイッとメガネの真ん中をほんの少し押し上げ、ペコリと軽くお辞儀をするカンガ・エルーさん。


「正直我々だけでは人数が少なすぎて、不利が過ぎましたからね。助っ人の立場とは言え、協力して頂く事には感謝しますよ」


「いえ、そんな・・・。今回俺達はそちらに派遣された立場、謂わば一時的な社員です。なら協力するのは当然ですよ」


そんな彼に対して俺は、苦笑を浮かべつつ両手を目の前でフルフルと振る。

その言葉に嘘はない。一時的とはいえ同じ現場で働く者同士だ。協力するのは当然だと俺は思う。

・・・まあ、今回の様な勝負事に関しては色々と予想外過ぎたけど。


「はっ・・・。なんだ、良い子ちゃんなんだな、オメェは」


「あっ、鉄カマキリさん」


カンガ・エルーさんと話をしている最中に、横合いから声が掛けられる。

今度はそちらへと目を向けると、人型のカマキリと呼べそうな姿の人物がそこにいた。

彼の名前は『鉄カマキリ』さん。先程のヒーローショーでも怪人役として活躍していた怪人だ。

性格や言動は荒くれ者のそれだが、ナマハゲ丸さんの事を兄貴と慕い、曲がった事が嫌いな一本筋が通った人物だ。


「その気持ちはありがてぇと思う。が、テメェ等は本来外様なんだ。あまり首を突っ込みすぎるんじゃねえ。体を壊しても俺は知らねえぞ」


鎌となっている両手を腰に当てて、どこぞのチンピラの如き物言いをしながらこちらに近寄ってくる鉄カマキリさん。

言い方そのものは高圧的なそれだが、しかしそのセリフは、こちらの事を心配して言っている様にも聞こえるものであった。


「大丈夫です。体が頑丈なのが取り柄ですからね、俺は」


そう言って、俺は鉄カマキリさんに向けてニッ!と笑い返す。


「・・・そうかよ。まあ、期待しねえでおくさ」


それを見た鉄カマキリさんは呆れた様な溜め息を一つ零すと、ヘッ・・・!と笑みを浮かべながらその場から離れ、舞台となるコートへと歩いて行った。


「申し訳ない、ディーアルナさん。アイツは口が悪いものでして・・・」


「大丈夫ですよ。あの人が俺達の事を心配して言っているってことは、なんとなく分かっていますから」


申し訳なさそうに頭を下げるカンガ・エルーさんに、俺は気にしないでくれと手を振る。


「それはそれとして、一つ聞きたい事があるんですけど良いですか?」


「何でしょう?」


「今回のゲーム。俺達が加わったとしても人数が足りないと思うんですけど」


そう。ナマハゲ丸さん、カンガ・エルーさん、鉄カマキリさんに加えて、ディーアルナこと俺と、戦闘員一号、二号、三号を含めても七人しかおらず、ゲームの最大参加人数である八人には足りていない。

対して『筋肉愛好団』の方は総勢で二十名くらいいる為、八名という参加人数は余裕で満たしているし、おそらく彼等の中でも精鋭といえる者達を出して来るだろう。

そう考えると、一人足りないという現状は不利と言えた。


「ああ、その事については大丈夫ですよ。実はつい先程、有志の助っ人の方が自分も参加させて欲しいと参りましてね。正直ありがたかったので、その人に参加してもらう事にしたんですよ」


「え?そうなんですか?」


だが、その事に関して問題ないと言いたげに、ある方向へと手を伸ばすカンガ・エルーさん。


「ええ。・・・ああ、ほらあそこ。丁度コートの脇でストレッチをしている人ですよ」


「へぇ、どれどれ。いったいどんな人が来たの、か・・・な・・・・・・って、あ、アイツは・・・!?」


指し示されたその方向へと視線を向け、そこにいた人物の姿を目にした瞬間、俺は思わず瞠目した。










『さて、ルール説明と各チームの紹介を終えた所で、そろそろ”怪人ドッジボール”を始めたいと思うワン!司会のお姉さーん!』


「はーい!」


デパワン君がマイクを片手にとある場所をビシッと指差す。

そこには、ボールを片手にコートの中央に立つ司会のお姉さんがいた。

彼女は観客達に向けて笑顔で手を振っている。


『彼女はナマハゲ丸さんの所にアルバイトに来ている学生さんで、今回はゲームの審判役をお願いしております』


『それじゃあ、選手のみんなはコートに入ってくださいワン!』


デパワン君から出される指示。それを耳にしたゲームに参加する面々がコートの中に入る。

片方は自信満々に胸を張って。

片方は決意の籠もった瞳を携えて。


『両チームとも、準備はOK?それでは、戦い(ゲーム)スタートォッ!!』


カァンッ!


デパートのマスコットであるデパワン君の宣言と共になるゴング。

それを皮切りに運動場を囲んでいた観客達の歓声が湧き上がった。


「それでは行きますよ、皆さん!―――よーい、始めぇ!」


ゴングが鳴り響いた後に、コートの中央に立つ司会のお姉さんが手に持つボールを高々と上へ放り投げる。


「はぁっ!」


『ゲーム開始の合図と同時に最初に動いたのはカンガ・エルー選手!自慢の脚力による大ジャンプでボールの下へと急接近していくぅ!』


その動きに一番早く反応したのはカンガ・エルーさんだった。

彼はボールが上に上がるとほぼ同時にシュバッと跳び上がる。

そして空高く舞い上がったボールのすぐそばにまで近づいた彼は、それを掴み取らんと手を伸ばそうとして、


「フハハハハハハハッ!アイアムキャァァァッチ!!」


「な、なんですとー!?」


しかしその寸前で魚頭のマスクを被ったマッスルにボールをビュン!と奪い取られてしまった。


『トビウオマスク選手が先にボールを手に取ったぁ!?これは凄い・・・!何という上昇速度、というかジャンプ力だワン!遅れて跳び上がったというのに、カンガ・エルー選手を軽々と追い抜いてしまったぞぉ!!』


「フハハハハハハッ!このトビウオマスクにとって、この程度の高度を跳ぶなどお茶の子さいさいよぉ!―――食らえ、オラァ!!」


「グボァッ!?」


そしてカンガ・エル―さんに向かってボールを投げ、顔面に直撃した。

・・・って、カンガ・エルーさぁぁん!?


「グフッ!?」


「だ、大丈夫ですか、カンガ・エルーさん!?」


ドシャリとコートの床に落ちるカンガ・エルーさん。

俺はすぐさま彼の下へ近寄り、その体を抱き起す。


「も、申し訳ありません、私は、ここまでの様です・・・。後をお願い、しま、す―――ガクッ・・・!」


「カ、カンガ・エルーさぁぁん!?」


罅割れたメガネを掛けた顔をこちらに向けたカンガ・エルーさんはその言葉を最後にガクリと気絶する。

その様子を見た俺は思わず驚きと心配からくる声を上げるのだが、


「ピピィー!カンガ・エルー選手、アウトォ!」


「何故に!?」


その後に続いた司会のお姉さんのアウト判定に思わず叫んだ。


「ちょっ!?当たったの顔なんですけど!?何でアウト!?」


『あ、言い忘れていたけど、”怪人ドッジボール”では顔に当たってもセーフにはならないワン!ついでに言えば、怪人ドッジボールのルールでは気絶すると問答無用で失格扱いになるワン!』


いやそれ、ゲームを始める前に言っとけよぉぉっ!?








『えー、それでは、気絶したカンガ・エルー選手がコートの外に運び出されたので、試合を再開したいと思いますワン!』


担架に乗せられて運ばれるカンガ・エルーさん。

怪人ドッジボールはそれを見送った後で再開された。


「ボールの主導権はこちらが先だ。ではいくぞ、諸君!」


先程の空中戦で最初にボールを確保したのはトビウオマスク。

つまり最初にボールを投げる権利を得たのは『筋肉愛好団』の方だ。


「先行は『ゴリラマスク』、君に決めたぞ!」


「おう!任せてください、牛丼マスクさん!行くぞぉ!!」


ゲームに参加している選手の一人―――ゴリラマスクは、牛丼マスクから投げられたボールをバシッと受け取り、その鋭い眼光をギラン!と光らせた。

その眼孔の先は相手コートにいる選手の一人―――戦闘員三号がいた。


「イ、イイッ・・・!?イ、イーイイー・・・!!」(ね、狙いは僕・・・!?く、来るなら来いや・・・!!)


「その心意気や良し・・・ヌウッ!!」


ゴリラマスクは手に持っていたボールを脇に挟み、締め付ける様にグググッ・・・!と力を込め始めた。

・・・って、投げるんじゃないのかよ!?


「【サイドチェストシュート】!フンハッ!!」


「うっそだろ!?」


そして次の瞬間、掛け続けられた圧力に押される様にボールが勢いよく()()された。


『物凄い勢いでボールが飛んでいくぅ!早い、早いぞぉ!』


『ほう、コレは凄いな・・・!早さもそうだが、威力も相当ありそうだ』


「イ、イイッ・・・!イーイイー・・・イッ!?」(き、来た・・・!よ、よーし、受け止めてやっ・・・あ!?)


戦闘員三号は真正面から飛んで来るボールを見据えつつ、腰を落として構える。

そして目の前にまで飛んで来たボールを掴もうとして、しかし掴み切ることが出来ずに、ボールはその土手っ腹に直撃した。


「―――イボァッ!?」(―――グボァッ!?)


「三号ォ!?だ、大丈夫か、三号・・・!」


「」(す、すみません、ディーアルナ様・・・。僕は、ここまでの、様、です・・・ガクッ!)


「ピピィー!戦闘員三号選手、アウトォ!」


「さ、三号ォォォ!?」


鳩尾(みぞおち)にボールがヒットした戦闘員三号は、その勢いに押されて吹っ飛び、バリアに体を叩きつけられてガクリと気絶した。


『カンガ・エルー選手に続いて、ここで戦闘員三号選手がアウト!』


『立て続けに二人アウトか、初っ端から『筋肉愛好団』の攻勢が激しいな』


『とはいえ、試合はまだまだ始まったばかり、勝負はこれからですよ』


「確かに勝負は始まったばかりだが、こうも立て続けにやられるというのは流石に・・・!?」


解説席にいるデパワン君もといブレーバー達の解説を聞きつつ、悔しさで思わず歯軋りをする俺であったが、その肩にポンと誰かの手が置かれた。


「安心しなさい、ディーアルナ君。彼等の仇は私が取って見せよう」


「な、ナマハゲ丸さん・・・!」


その手の主はナマハゲ丸さんであった。

彼は床に落ちていたボールを拾うと、ギンッ!と『筋肉愛好団』の面々を睨む。


「今度はこちらの番だ!食らえぇぇい!」


ナマハゲ丸さんはボールを片手に構えると、腕を大きく振って思いっきり投げた。

だが・・・、


「むっ・・・?これはもしかしてパスなのか?それならばありがたく頂くとしよう」


「あれぇ・・・!?」


「ちょっ・・・!何やってんの、ナマハゲ丸さん!?」


だがしかし、その弾速は然程勢いのある者ではなく、緩い回転をしながら山なりに飛び、ポスッと羊頭のマスクを被った男の手の上に落ちてしまった。

オイィィッ・・・!もうちょっとしっかりしてよ、ナマハゲ丸さーん!?


「それでは今度は、この『ジンギスカンマスク』がやらせていただこう!」


ジンギスカンマスクと名乗ったその男は上に向けて軽くボールを投げ上げる。


「【ダブルバイセップスシュート】!・・・ハァッ!」


そして落ちてくるボールに合わせて胸を張り、胸筋の力だけでボールを射出した。

・・・って、お前も投げないんかい!?


『おおっ!これまた凄い早い球・・・ってあれ?』


「・・・むっ?これは弾道が右に逸れている?ノーコンか?」


射出されたボールはこちらに向かって真っ直ぐには飛んで来ずに、左斜め上方向へと向かっていく。

それを見たナマハゲ丸さんは狙いが外したと思ったのか、ボールを受け止めようとしていた構えを解く。

―――だが、それは悪手であった。


「ナマハゲ丸さん危ない・・・!?」


「・・・む?」


普通のドッジボールならば外野のボールとなるのであろうが、今回は俺達が行っているのは怪人ドッジボールであり、コートの周囲にはボールの勢いをそのまま跳ね返すバリアが展開されている。

つまり先程右斜め上の方向へと飛んだボールは必然的にバリアに当たるという事であり、そしてそれは一度二度とバリアに当たりながら跳ね返ると、ナマハゲ丸さんの死角となる背後から襲い掛かり―――そしてその後頭部に直撃した。


「―――ゲハァッ!?」


「な、ナマハゲ丸さーん!?」


ボールがぶつかった瞬間、ゴッ・・・!という良い音が鳴り、ナマハゲ丸さんがバタリと倒れる。


「ピピィー!ナマハゲ丸選手、アウトォ!」


『なんと!これはまさか、バリアの反射能力を利用したのかワン!?』


『所謂跳弾と言う奴だな』


「フハハハハハッ!これが怪人ドッジボール限定の技【多角反射撃ち】よぉ!意図していない方向からボールが飛んできた気分はどうだ!驚いただろう!」


「ぐ、グフッ・・・!?し、しまった・・・!これが普通のドッジボールではない事を、忘れていた・・・!」


ジンギスカンマスクは高笑いをしながら倒れ伏すナマハゲ丸さんを見下ろしている。

その視線を受けたナマハゲ丸さんは、悔しそうにその顔を歪ませる。

・・・って、怖い。その顔怖いってば、ナマハゲ丸さん!?観客席にいる人達もあまりの怖さに滅茶苦茶引いてるって・・・!子供達も泣きだし始めたし・・・!?


「ジンギスカンマスク君、それ以上相手を乏しめるのはよしなさい。戦いの中にも礼儀あり、ですよ?」


「『白熊マスク』か・・・」


高笑いを続けていたジンギスカンマスクの背後から声が掛けられた。

その声の主は白熊頭のマスクを被った男であった。


「そして戦う相手の事は馬鹿にしたりなどせず、尊重なさい。でなければ、不要な争いが起こる切っ掛けとなりますよ?」


「むぐぅ・・・」


説教染みたその言葉に、口を噤むジンギスカンマスク。

その首筋には、何処かじっとりとした汗が滲んでいた。


「不毛な争いなど愚の骨頂。他者と手を取り合い、仲良くなることで、素晴らしい明日にまた一歩近づく事がデボホォッ!?」


「!?」


『ああっと・・・!仲間に話し掛けていた白熊マスク選手の頭部にヒットしたぁ!これはアウトになるのか!?』


まだまだ続きそうな白熊マスクの説教。

しかしその最中、突然ボールが横合いから飛んできて、白熊マスクの側頭部にヒットした。


「はっ!隙だらけなんだよ・・・!」


「鉄カマキリさん!?」


背後から声。

後ろへと振り向けば、そこには両手の鎌をブンブンと横に振る鉄カマキリさんの姿があった。

どうやら先程の一撃は彼が放ったモノだったらしい。

両手が鎌となっている彼がどうやってボールを投げられたのかという疑問については、彼が取っている動作がその答えなのだろう。

おそらく彼は両手の鎌の内の片方をテニスや卓球のラケットに見立てて振り回し、ぶつける事でボールを撃ち出したのだろう。


「今のはさっきやられちまったナマハゲ丸の兄貴の分だ!幾らか効いたか?ああ?」


「・・・・・・・・・」


鉄カマキリさんは白熊マスクに向けて、まるでどこぞのチンピラの如き物言い込みでガン付けをし始める。

一方、その視線を受けている白熊マスクはと言えば、無言のまま、上から落ちて来たボールをキャッチして、スッと冷えた視線を鉄カマキリさんに向けた。


『白熊マスク選手、跳び上がっていたボールをキャッチしたぁ・・・!』


『地面に落ちる前にキャッチしたので、セーフですね、これは』


『まあ、それは良いんだが・・・。なんかアイツ、雰囲気がおかしくなってないか?なんか、愛嬌のあった顔 (マスク)が、どんどん歪んでいっている様な・・・』


「・・・・・・・・・」


「お、おい、白熊マスク・・・!落ち着け、冷静になれって・・・!・・・な?な?」


どこか怯えた様子を見せながら白熊マスクに声を掛けるジンギスカンマスク。

それを尻目に、白熊マスクはふぅ・・・と溜息を一つ吐くと、


「・・・・・・・・・大丈夫ですよ、ジンギスカンマスク君。私は冷静です。ええ、冷静ですとも。冷静に―――あの野郎をブチ殺してやらぁ!!」


『・・・ッ!?』


「いやそれまったく冷静じゃねえだろオイィ・・・!?」


怒声を上げながらブチギレた。


「ふざけた真似をするんじゃねぇよ、この虫野郎がぁぁぁっ!!!」


「グッブハアアアアアァァァァァッーーー!?」


「て、鉄カマキリさーーーんっ!?」


白熊マスクによる怒りの全力投球。

その直撃を鳩尾で受けた鉄カマキリさんは、グルグルときりもみ回転を交えつつ吹き飛び、バシィンッ!!とバリアの壁に激突した。

うっわ、これまでで一番の威力だったぞ、今の・・・!?


「ピピィー!鉄カマキリさん、アウトォー!」


「ぐっ、くそぉ・・・こんな、筈じゃあ・・・!―――ガフッ・・・!」


そして鉄カマキリさんはその一言を最後に、ベシャリとコートの床に落ちるのであった。






次回は6/25に投稿予定です。

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