ミッション49 猫怪人VS戦隊ヒーロー・・・!? 後編
「ゥゥゥォォォオオオーーーっ!!オラの勝ちだーーーっ!!!」
【大地怒天】にて作り出した巨大岩をアルミィへと投げ、そして地面へと着弾するという結末を見届けたバッファローグリーンは体を仰け反らせながら大声を上げた。
それはまさしく雄叫びと呼べるようなモノであった。
「あー・・・、あのな、グリーン。勝ち誇っているところ悪いんだが、ちょっと良いだろうか?」
「オオオーーーッ・・・オッ?なんだべ、ブラック?」
そんな彼の肩にポンッと手が置かれた。
その手の主はバッファローグリーンの仲間であるウルフブラックであり、勝利の余韻に浸っていたバッファローグリーンは上げていた雄叫びを止めて振り返る。
「お前、自分が結婚してくれと告白した相手をペシャンコにしちまったわけだけど、いいのか?」
「え?・・・・・・・・・・・・・・・あ、あぁぁぁああぁぁあああぁぁぁっ!?!?し、しまったぁぁぁーーーっ!?」
ウルフブラックに指摘されたことで、ようやく自分が何をしたのかを理解したバッファローグリーンは、後悔と悲観の感情が混ざった悲鳴を上げながら、自身が投げた大岩の下へと急ぎ駆け寄る。
「や、やっちまっただぁ~!?あああ~・・・!熱くなると抑えが効かなくなるオラの悪い癖が出ちまっただよぉ~・・・!?」
未だ周囲に土煙が立ち込めている巨大岩の近くに来たバッファローグリーンは大岩の周りに視線を巡らせる。
もしかしたらアルミィが上手く避けているのではないかと期待しての行動であったのだが、しかし彼女の姿は見当たらない。
「う、うぅぅ~~~・・・!せ、折角お嫁さんになってくれるかも知れなかった人なのにぃ~~~・・・!?」
ガックリと膝を着くバッファローグリーン。告白した相手を自分の手で葬ってしまったことにショックを受けた受けた彼は、さめざめと泣く。
「うっ・・・!うっ・・・!ぐすっ・・・!――――――うん・・・?」
顔を俯かせ、嗚咽を漏らすバッファローグリーン。だがそこで、彼は何かに気付いたように顔を上げた。
「あれ・・・?岩の下に隙間が、ある・・・?」
巨大岩の真下。そこに人一人が潜り込めそうなくらいの隙間がある事に気付いたバッファローグリーンは首を傾げた。
よくよく見てみると、巨大岩は地面に接していない。傍から見たその様子は、まるで浮いている様にも見えた。
巨大岩の下に何かつっかえ棒的なモノでもあるのかと、その隙間を覗き込もうとするバッファローグリーン。
その時、その隙間からキラリと光る二つの輝きと黄色と黒の縦縞模様の毛に覆われた腕が飛び出して来た。
「――――――シャァアアアーッ!」
バリッ!
「ヌグワァァァーッ!?」
飛び出してきた腕。その指先に伸びた爪で思いっきり顔を引っ掻かれたバッファローグリーンは、顔を押さえ、痛みに悶えながら後ろにすっ転んだ。
「――――――ったく・・・、死ぬかと思ったよ」
バッファローグリーンが地面に転がった後、一人の人物が巨大岩の隙間から這い出して来た。
それは巨大岩の下敷きになったと思われていたアルミィであった。
彼女は顎の下を伝う冷や汗を腕で拭いつつ、「マジで危なかったぁ・・・!」と呟いた。
「よ、良かったぁ・・・!アルミィが無事で本当に良かったよ・・・!」
アルミィの無事を目にしたディーアルナは、胸に手を当てながらホッと安堵の息を吐いた。
「イイッ・・・、イーイイー・・・!」(いやぁ・・・、さっきのはマジで焦ったなぁ・・・!)
「イッ・・・。イッイイッ、イイイーイー・・・」(ああ・・・。まさかの質量攻撃、それもあんなデカいのを投げ込むとは思っていなかったからな・・・)
「イイーイーイイー、イーイーイイー。・・・イッ、イイイーイーイー・・・・・・」(彼女も怪人だからアレくらいじゃ死にはしないだろうとは思っていたけど、それでもさすがにアレが直撃すれば大ダメージは必須だったとは思うよ。・・・まあ、動きに支障が無いという事は何とか防ぐことが出来たってことなんだろうけど・・・・・・)
そしてそれは戦闘員達も同じであったようで、彼等もディーアルナと同じように安堵の息を吐いていた。
ただ戦闘員三号だけは、その後でどうやってあの巨大岩による攻撃を防いだのだろうと首を傾げていたのだが。
「ど、ど、ど、どうやって・・・!どうやって・・・!?」
「ハン・・・!その顔。どうしてアタシが無事なのかという事を聞きたいって顔だねぇ・・・?」
「・・・・・・ッ!」
アルミィの爪によって顔を引っ掻かれ、しばらく地面を転がっていたバッファローグリーンは、ある程度痛みが治まった後に体を起き上がらせ、どうやってあの巨大岩を防いだのかと口を開こうするのだが、驚きが強すぎたせいか口調が吃ってしまい、キチンとした言葉が出てこない。
だが、アルミィは彼の言いたいことが何なのかを察することが出来たようで、にんまりとした笑みを浮かべ、自身の後ろにある巨大岩に手を当てた。
「その理由はこれさ・・・!」
そう言って巨大岩を軽く押すアルミィ。本来なら結構な質量のある巨大岩がその程度でうんともすんとも言う筈がない。、だがしかし、驚くべきことにその巨大岩は、まるで氷の上を滑っているように軽やかに、滑らかに移動した。
そしてある程度進んだ後で、まるで傾くようにしてドスゥン!と地面に落ちた。
「な、な、なぁっ・・・!?」
「ふふっ・・・!マスクで隠れているけど何が起きたのかって顔をしているのが分かる反応だねぇ!そのリアクションに免じて、どういうカラクリかを教えてあげようじゃないか」
驚きのあまりまともな言葉が出ない様子のバッファローグリーンの姿を見て上機嫌になったアルミィは、地面に落ちていた岩を持ち上げた。
「そ、それは、オラの【大地怒天】で作った岩・・・?」
アルミィが持ち上げたのは約一m程の大きさの岩。それは初めの方でバッファローグリーンが作り、攻撃の為に投げた岩であった。
しかしそこで再び首を傾げるバッファローグリーン。
何せ彼が投げたの普通の岩だ。確かに己の技で作り出したものだが、何かしらの特殊な力などは籠められていない物の筈。
だからこそ、アルミィが無事なのと巨大岩が簡単に動く絡繰りになるとは、彼には到底思えなかった。
「これを、こう・・・!」
彼女がその手に持つ岩を、地面に落ちている岩の上に落とすまでは。
「なっ・・・!?い、岩が浮いた・・・!?」
バッファローグリーンは、約一m程の岩が地面に落ちていた同じくらいの大きさの岩の上でフワフワと浮いている光景を目にして思わず驚きの声を上げた。
「な、なんで・・・?」
「まさか、これは磁力で浮いているのか・・・!?」
「そこの黒い奴、正解」
何でそうなっているのか。理解不能と言いたげに茫然とするバッファローグリーン。
だがそこでハッとしたウルフブラックが口を開いた。
「そう。その通り、コイツは磁力で浮いているのさ!」
彼の出した答えにアルミィはパチパチパチと拍手をする。
「・・・あの巨大岩が落ちて来た時はマジで死ぬかと思ったけど、その時ちょっと前に戦闘員から聞いた話を思い出したアタシは、咄嗟に巨大岩と足元に散らばる無数の岩に電撃を放ったのさ!」
「イイッ・・・。イッ・・・。――――――イッ、イイーイー・・・!」(電気・・・。岩・・・。――――――ああ、なるほど。磁化か・・・!)
「磁化・・・?」
「イイイッ、イイーイーイーイー、イイーイー・・・」(分かりやすく言うなら磁石化ですね。具体的には磁性体に外部磁場をかけた時に、磁性体が磁気的に分裂して・・・・・・)
「ごめん、三号。もうちょっと分かりやすく頼む」
「イー、イーイイイーイー。イッ、イイー?イーイイー、イーイー」(えーと、要するに物が電気を帯びる事で磁石になる現象の事です。ほら、どっかの話で聞いた事がありませんか?雷の落ちた岩が磁石に成った、みたいな話を)
「ああ・・・。なんか聞いた事がある。じゃあ、アルミィはそれをしたのか?」
「イー・・・」(多分・・・」
ディーアルナの問いに頷いて見せる戦闘員三号。
とはいえ、疑問に思う部分も無いわけではない。
岩が磁石に成った物を天然磁石とも言い、それに成るには磁鉄鉱。つまりは鉄が必要となる。
おそらく磁化が出来たのは、バッファローグリーンが作った岩の中にそれが混じっていたからではないかと考える戦闘員三号であったが、所詮それは彼の憶測に過ぎず、実際の所どうなのかまでは彼にも分からなかった。
「つまりアルミィは、岩を磁石に変えて、岩同士を反発させる事でぺしゃんこになるのを防いだってことか。凄いな・・・!」
アルミィが行ったことがどういう事かを理解して驚きの表情を浮かべるディーアルナ。その内心は、よく咄嗟に思いついたものだと感心していた。
「説明ありがとう!つまりそう言う事さ!」
「な、なるほど・・・。納得しただよ・・・。――――――でもこの戦い、オラが有利である事に変わりはないだよ。」
「だって電撃なんて効かないんだから」と、己の勝利は揺るがないと言いたげに胸を張るバッファローグリーン。
だが、そんなバッファローグリーンに対して、アルミィは不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ!アタシの持っている技が一つだけだと思った大間違いだよ!」
「む・・・!?来るだか・・・!」
そう叫び、走り出すアルミィ。
自身に向かって駆けて来るアルミィの姿を見たバッファローグリーンは、迎え撃たんとどっしりと腰を構えた。
「行くぞぉ!変・身!」
「変身!?」
トウッ!と声を上げながら太陽を背にして跳び上がるアルミィ。そして変身という言葉を口にした瞬間、彼女の体は徐々に変化を始めた。
女性的な体型は見る見るうちに大きくなり、その全身が黒と金の毛に覆われて行き、その端整な顔も鼻と口先が突き出る様に伸びて行く。
「ガオォォォーーーッ!!これがアタシのもう一つの技。【獣化形態】だぁぁっ!!」
そして地面に着地した彼女の姿は大型猫科動物のソレに、つまりは虎に姿を変えていた。
「と、と、と、虎ァ!?」
「食らえ【猫パンチ】ィ!」
「いやそれ猫って言うか最早虎パンチィブヘェッ・・・!?」
美少女が肉食動物に変身すると言う光景を目にしたバッファローグリーンは、驚きのあまり反応が遅れ、アルミィの一撃をもろに食らって吹き飛んだ。
「まだまだ終わりじゃないよ!食らえ【回転乱れ猫パンチ】!ニャアアアァァァーーーッ!!」
更に追撃を行うアルミィ。彼女は前に飛び出しつつ体を高速横回転させ、そのままバッファローグリーンに向かって連続パンチを放った。
「だからそれ猫じゃな、アブブブブブブブブブラッハァッ!?」
吹き飛ばされた後に起き上がろうとしたバッファローグリーンだったが、間髪入れずに放たれたその連続攻撃に避ける事も防ぐことも出来ずに食らって再び吹き飛んだ。
「グフッ・・・!そ、そこで第二形態とか、反則・・・!?――――――ガクッ・・・!」
「アタシの勝ちだ!ガオォォォーーーッ!!」
力尽き、地面に崩れ落ちるバッファローグリーンと勝利の雄叫びを上げるアルミィ。
この戦いの勝者は誰なのか、その結果がありありと分かる光景であった。
その頃のライオンレッドはと言うと。
「ヌ、ヌググッ・・・!?ハァッ・・・!な、何とか抜け出せたぜ・・・!」
長い溜息を吐きだしながら四つん這いの体勢となっているライオンレッド。
彼はつい先ほどまで木々の下敷きとなっていたのであったが、時間を掛けて何とか抜け出すことに成功していた。
「くっそぅ・・・!今日は散々な日だな、ちくしょう・・・!」
悪態を吐きつつ立ち上がり、戦場となっている場所へと戻ろうと足を進ませようとする。
だがそんな彼の下へ更なる不幸が舞い降りた。
「・・・・・・・・・――――――食らうべぇぇ!【大地怒天】!」
「うん?今度はグリーンの声か?というか【大地怒天】なんて技、アイツ持っていたっけ――――――って、まさか・・・!?」
仲間の声が聞こえた時、今までの経験から嫌な予感を感じ取ったライオンレッドであったが、それを行動に移すには明らかに遅すぎた。
「ヤバい・・・!ここから逃げな――――――ゴッフゥッ!?」
ライオンレッドが急ぎ踵を返そうとした瞬間、彼の溝内に約一m程の岩が直撃し、彼の体を吹き飛ばした。
「く、くそっ、たれぇ・・・・・・!――――――ガクッ・・・!」
岩を腹に抱えて仰向けに倒れたライオンレッドはダメージが許容量を超えたのだろう。そのままガクリと気絶するのであった。
「うっ・・・!うっ・・・!負けただ・・・。負けちまっただ・・・。折角・・・、折角お嫁さんになってくれそうな人を見つけたのにぃ・・・・・・!」
地面に倒れ伏しながらえぐえぐと泣くバッファローグリーン。
その胸中は勝負に勝てなかった事よりもお嫁さんが手に入らなかったことを悔しがっている様子であった。
だが、そんな彼の目の前にザッと二つの影が現れる。
「イイイッ。イイーイーイイー――――――」(お待たせしました。そんな失意に濡れてしまった貴方様に――――――)
「――――――イイーイーイーイー」(――――――プレゼント・フォー・ユーのお時間です)
「・・・・・・ぬへっ!?」
その影とは戦闘員一号と二号であった。
彼等はバッファローグリーンを挟むような位置に立つとスッと屈みこんだ。
「くっ!?ブルーやイエローの様に、オラにもトドメを差しに来ただか!?でも残念だったな。オラにはあの二人の様な弱点はないべ!」
「イイー、イイイーイー」(おいおい、俺達のリサーチ力を甘く見て貰っちゃあ困るぜ)
「イッ?イイッ?」(弱点が無いだと?これを見ても同じことがいるのか?)
戦闘員二号はその手に持つ箱をパカリと開けると、その中に納められていた物をバッファローグリーンの目の前へと突き出した。
「そ、それは、まさか・・・!?」
「イッ。イーイーイイイー。――――――イイイーイーイイー・・・!」(そう。これは丁度つい昨日に発売されたばかりの超限定レアアイテム。――――――『水着美女美少女の大ハッスル祭り―――ポロリもあるよ―――』だ・・・!)
「・・・!?」
バッファローグリーンの目の前に突き出されたのは一冊の雑誌。その表紙は様々な水着姿の美女美少女が海辺で楽しそうに燥いでいる写真が載っていた。
「イッ、イイー。イイイー」(確かにお前の言う通り、お前自身に大きな弱点は無かった。初心だという点以外はなぁ)
「イイーイー、イーイーイー、イイーイーイイイー、イー?」(そもそもヒーローを目指したのだって、お嫁さんが欲しいからというのもそうだけど、女性に近づくと赤面して固まってしまう自分をどうにかしたかったから、だっけか?)
「何故それを・・・!?」
「イイイッ・・・!イー。イイーイー・・・!――――――イッイー」(クククッ・・・!言った筈だ。俺達のリサーチ力を舐めるなとなぁ・・・!――――――という訳でさっそく一ページをペラリ)
「ブハァッ!?」
「イイッ、イイー・・・」(さらにもう一枚、二枚をペラリペラリと・・・)
「ボフォッ!?ブフゥッ!?」
戦闘員二号が雑誌のページを捲る度に、豪快に鼻血を噴き出すバッファローグリーン。
本当に嫌ならば目を閉じれば済む事なのだが、男としての性なのか思わず食い入るように見つめてしまい、彼の着ているスーツの前面がどんどん彼の血一色に染まっていく。
とはいえ、さすがに出血量的に限界が近いのだろう。戦闘員二号にやめて欲しいと懇願し始めた。
「こ、これ以上は、もう・・・!?」
「イッ・・・!イーイー。イイッ。イー?」(フッ・・・!次がこの雑誌の目玉。ポロリシーンだ。心して見ろよ?)
「や、やめで・・・!もうやめでぇ・・・!?オ゛ラ゛に゛見゛せ゛な゛い゛でぇ・・・!?」
「イーイー。イイー。――――――イッ」「そうかそうか。そんなにやめて欲しいか。――――――ほら、ペラリ」
ポロリシーンという言葉を聞いて、「それを見たら自分は死ぬかもしれない!?」と思い、もう見せないでほしいと戦闘員二号に頼み込むバッファローグリーン。
だがしかし、悪の組織に所属している戦闘員の一人である二号がワザワザヒーローの頼みを聞く筈もなく、問答無用で件のポロリシーン――――――ビキニの止め紐が解けて裸となってしまった一人の金髪美女の写真を見せた。
「ブッハァァァッ!?!?」
そしてそれを見たバッファローグリーンは一際大量の鼻血を噴き出し、精根尽き果てた様に真っ白になって、自らが出した血の海の中に沈んだ。
「よ、容赦ないな。本当に・・・!?」
尚、その光景をある程度の距離で見ていたディーアルナは戦慄を感じつつそう溢していたという。
「・・・・・・まさかグリーンまでやられてしまうとはな」
雄叫びを上げる虎の姿に変身したアルミィと、地面に倒れ伏すバッファローグリーンの姿を目にしたウルフブラックは、冷や汗を流しつつそう言葉を溢した。
「ふっ・・・ですが真打というモノは、真の実力者とは最後の最後に出るものだ。そう、俺の様な、な・・・!」
カチャリと音を鳴らしながら腰に下げている剣の鞘を握るウルフブラック。
そして一歩前に踏み出しつつ次は自分の番だと名乗りを上げようとした彼であったのだが、その時彼は自身の背後から荒い鼻息が聞こえ、生暖かい風が吹いて来るのを感じた。
「ブフゥゥゥ~~~・・・!」
「ん・・・?なんだ・・・?」
一体なんだと思いつつ振り返ったウルフブラックがその目にしたのは・・・――――――。
次回投稿は1月5日に投稿します。




