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ミッション6 ヒーローに出会っちゃった!?

2021年10月20日に文章の一部変更をしました。



「イー。イッ、イイー、イーイー」(それでは取り換え作業に行ってきます。この後の作業は俺達だけで出来るので、ディーアルナ様は周辺の見回りをお願いしますね)


「分かったよ。よろしくな」


「イー!」(了解です!)


 工場内の工業用機械の取り換え作業の為に工場内へと走り去る戦闘員三号。

 その後ろ姿を、俺は手を振りながら見送る事しかできなかった。機械に関する専門的な知識や技術がない俺では彼等の仕事を手伝った所でお荷物にしかならないからだ。

 というか、彼らがあそこまで淀みなく、手抜かりなく、迅速に作業を行うことができるとは想像もしていなかった。なんとなく悪の組織アンビリバブルに来る前の彼等の経歴が気になった俺だが、しかし他人の過去を詮索するのは本人達にとっては気分が良くないだろうなと思い、湧き出て来た好奇心を振り払う。


「・・・・・・はぁ、仕方がない。三号の言う通り、周辺の見回りを行うとしよう。警備員とかがいないとも限らないからな」


 そして俺はその場を離れ、工場施設内の探索を始めた。個室や休憩室、会議室、トイレといったところから、大型の冷蔵・冷凍保管庫、材料保管庫などを見て回り、特に材料保管庫には熟成途中の大量の魚を発見し、物凄い魚臭さに撤退することもあった。

 そうして、ある程度工場施設内を探索し終えた俺は工場の隣にある駐車場へとやって来た。ちなみに、ここまでで従業員や警備員といった人物の姿は見かけていなかった。どうやら無人であることは間違いないらしい。


「誰もいないみたいだし、戦闘員達が作業を終えるまですることないし―――暇だ」


 これ、本当に自分がいる意味があったんだろうか?と俺は本気で悩んだ。


「皆の仕事でも見ていようかな・・・?」


 少なくともこのまま此処にいたとしても暇であることには変わりないのだし、一度戦闘員達が作業している場所に戻ってみようかなと思った俺は、踵を返そうとした。


「待てぇい!」


「―――ッ!?」


 その時だった。何者かの声が突然響いてきたのは。


「「「「「トウッ!!」」」」」


 その掛け声と共に宙を舞う五つの人影。

 それらは上空でそれぞれ回転すると俺がいる場所へと着地した。


「シュタッ!ライオンレッド!」


「シュタンッ!シャークブルー!」


「バサッ!イーグルイエロー!」


「ドスンッ!バッファローグリーン!」


「スタンッ!ウルフブラック!」


「「「「「野獣戦隊アニマルレンジャー、参上!!」」」」」


 俺の前に着地して現れたのは五色の色のピッチリしたスーツを着た人物達であり、その頭部をそれぞれ動物を模したマスクで覆った彼等は着地した後でそれぞれポーズを行いながら名乗りを上げた。

 何と言うか、見た目的には完全に日曜朝のテレビで放送している戦隊ヒーロー系というか、まんまそのものである。


「そこの怪しい奴!俺達は一部始終を見ていたぞ!」


 アニマルレンジャーという五人組の内、真ん中にいた赤色のライオンを模したマスク被った人―――ライオンレッドが最初の動きを見せた。

 彼はズビシッ!という音が聞こえそうなくらいの勢いでこちらに向けて指を差してきた。


「経営会社への不法侵入。これはいけませんねぇ」


 続いて青色のサメを模したマスクの人―――シャークブルーが額を抑えながらフルフルと首を横に振る。


「それに工場の方で何やら作業してもいるようだな」


 黄色の鷲を模したマスクの人―――イーグルイエローが腕を動かし、腕についている羽のようなものをバサリッと鳴らす。


「フンスー!・・・悪党はすべて叩き潰す!コイツも、向こうにいるアイツ等も!」


 緑色の牛を模したマスクの人―――バッファローグリーンが鼻息を荒くしながら叫ぶ。


「落ち着け、グリーン。まずは奴等の目的を探ることも同時に行おう。何でも間でも叩き潰すのは効率が悪すぎる」


 最後に黒色の狼を模したマスクの人―――ウルフブラックがバッファローグリーンを落ち着かせようと彼に声を掛けた。


「まあ、ともかく!俺たちの目の黒い内は悪党の悪巧みなんて見逃しはしないという事だ。そこのお前!覚悟しろよ!」


 全員が個々に語り終わった後で、再びライオンレッドがこちらに指を差し、その後に全員が固有の構えを取り始める。

 彼らから感じられる雰囲気からは、絶対逃がしはしない!という空気が如実に感じられた。


「・・・・・・まずいな」


 首筋に冷や汗が流れる。まさか仕事初日でいきなりヒーローに、それも複数人と遭遇するとは思わなかった。

 一人二人ならば、まだ何とかなったかもしれなかったが、一気に五人ともなると相当に厳しい。勝つ負ける以前に人数差でまともな戦いになる可能性の方が低い。まず間違いなくフルボッコにされるのがオチだろう。

 普通ならば、こんな風に複数人に囲まれた状況に陥った際には逃げるという選択肢を選ぶのが賢い選択と言えるだろうが、しかし今の俺にはその選択肢を選ぶ事はできなかった。何故なら、現在工場内では戦闘員達が今も工業用機械の取り換え作業を行っているからだ。

 ここで逃げたりしたら、コイツ等の矛先が彼等に向かうのは分かり切っていた。だからこそどう対応するべきかと考えていたわけなのだが、しかしその緊迫した状況は突如として変化を見せた。


「・・・・・・・・・タイム!」


「・・・!?」


 しばし睨み合っていると、突然ライオンレッドが両手でTの文字を作ってタイム宣言をし、仲間内で円陣を組み始めたのだ。








「おいおいおい!どうするお前等!というか俺がどうしたらいいんだ!?」


「おおおおお落ち着くんだレッド!焦ってはいけない!クールに、クールに行こう!」


「お、俺、あんな別嬪さんに出会ったの、初めてだぁ!胸が、心臓がバクバクしていて苦しいだよ!?」


 ライオンレッド、イーグルイエロー、バッファローグリーンの三人は興奮冷めやらぬといった感じで挙動不審気味に体をソワソワさせ、円陣を組みながら視線をチラチラと何度もディーアルナへと向ける。


「ヤベェ。今もう一回チラッと見たけど、すっげぇ可愛い子だ。顔をアイマスクで隠していてもそれが分かる可愛さマジヤベェ!」


「正直に言おう。ワタクシめは一目ぼれしました。今すぐ交際のご挨拶がしたい!というか結婚したい!」


「ぶふぅ~!!あ、あの子、花とか好きだべか。近くに花屋とかなかったべか」


「いや、落ち着けそこの三人。今はそんなことを話している場合ではないだろう」


 そんな、どこか暴走気味な三人を止めようとするウルフブラックだったが、しかし件の三人は自分達の世界にでも入っているからなのか、全く聞く耳を持っていなかった。


「無駄ですよ、ブラック。女に飢えすぎて飢餓症状まで出している今のこいつらに何を言っても聞こえません。それに、私達も人の事は言えない立場でしょう?」


「うぐ!?そ、それはそうだが・・・・・・」


 シャークブルーのその言葉に身に覚えがあったウルフブラックは言葉を詰まらせた。

 どうして彼が言葉を詰まらせたのかと言えば、その理由は彼等『野獣戦隊アニマルレンジャー』の結成理由に関係があった。

 野獣戦隊アニマルレンジャーは五人組の成人男性だけで構成されたヒーローである。そして、そんな彼らにはある共通した目的があった。

 ―――それは〝女性にモテたい〝というものだった。

 そんな目的を持つに至った経緯はそれぞれで異なってはいるのだが、しかしその共通した目的があるからこそ彼等はヒーローとして活躍する道を選んだ。・・・いや、むしろ彼等はその為だけにヒーローになったと言っても過言ではなかった。

 特にレッド、イエロー、グリーンの三人は常日頃から彼女が欲しい、嫁が欲しいと仲間内で言い合っていた。勿論、実際に彼女や嫁を手に入れる為に行動したこともあったが、しかしその悉くが失敗。がっつき過ぎたせいもあってか、女性側の大半が敬遠してしまい、残りはそれを切っ掛けにして他の男性とゴールインする等の結末を迎えてしまうこともあった。

 特に後者に関しては、「どちくしょおぉぉーーっ!!?」と血涙を流す程に本気で悔しがり、羨んだ。

 そうして自分達の周囲に全く女っ気がないことに苛立ち、モテないことに落ち込んでいた時だった。悪の組織アンビリバブルの幹部ディーアルナとして活動を始めたばかりの渡辺光の姿を目にしたのは。

 彼女の姿を視界に捉えた瞬間、三人は異常なまでの性的興奮を覚えた。彼女と何としてもお付き合いしたい、嫁に欲しいと、そう思ったのだ。

 そしてそれは、三人と違って比較的冷静なウルフブラックとシャークブルーも同じであった。

 この二人は女性にモテたいという理由がレッド、イエロー、グリーンの三人とは少々事情が異なっていた為、そこまで女性という存在に固執してはいなかった。・・・が、しかし、彼等もまたディーアルナの容姿を見た瞬間に良いなと思い、どこか惹かれている様な感覚を覚えていた。だからこそ、ウルフブラックは反論できなくて口を告ぐんだのである。


「よぉし!俺、あの子にこの思いを伝えてくる!そして彼女になってもらうんだ!」


「ふざけるな!あの子は俺の彼女になるんだ!お前のなんかになりはしない!」


「あの子は田舎料理は好きだべか。三菜煮とか気に入ってくれればいいだなぁ」


「・・・・・・コイツ等、これほどまでに女に飢えていたのか?」


 もはや事態の収拾すら難しくなったと感じたウルフブラックは、内心で「もうコイツ等、放っておいた方がいいんじゃないか?」とすら思っていた。

 そんなウルフブラックにシャークブルーが宥めるように声を掛ける。


「しかしブラック。ここで無駄に話をしていては奴らの目的が達成されてしまうことになりますよ。まずは目の前の敵を捕まえて聞き出すことが先決では?」


「むっ、確かにそうだな。おそらくだが、今俺たちの目の前にいるのは今回の作戦指揮を執っていると思われる人物だろう。奴を捕まえて目的を吐かせれば、対処もしやすくなるか・・・・・・」


「まあ、捕まえた後で知っていることをすべて吐くまでは尋問が出来るでしょうからねぇ。・・・・・・あんなこととか、こんなこととか、らめぇ!なこととか」


 ボソッ、と呟くように言ったシャークブルー。

 だが、その声を最後までしっかりと聞き逃さなかった三人の変態(バカ)がいた。


「あんなこととか・・・・・・」


「こんなこととか・・・・・・」


「らめぇ、だべか・・・・・・」


 スゥッ、とこれまでのバカみたいに騒いでいた三人が突然静かになり、まじめな顔つき―――マスクで表情は隠れているので、飽く迄雰囲気から察してだが―――に変わる。


「よし、まずは今回の事件の解決を最優先にしよう」


「異議なし。手始めにそこにいる犯罪者と思われる彼女を拘束することから始めるか」


「んだな。知っている事全部言うまで問い詰め続けてやるべ」


 うんうん、と頷き合う三人。

 そんな彼等を見たウルフブラックは、天を仰ぐ様な仕草をしながら呆れていた。


「・・・・・・謀ったな、ブルー」


「何のことでしょう?」


 恨みすら感じる声音と共に鋭い視線をシャークブルーに向けるウルフブラックであったが、しかしそれを向けられた当の本人は漂々とすっ呆けていた。


「うっしゃぁ!とっととあの子を捕まえて終わらせるぞぉ!」


「気合MAXじゃぁ!エロエロのヌレヌレじゃぁ!!」


「グゥヘヘヘヘヘヘ・・・!!」


 もはや己が欲望を微塵も隠そうともしない三人。その姿はもうヒーローではなく、唯の性犯罪者としか呼べない様相になっていた。








「・・・・・・・・・」


 さて、そんな性犯罪者と化したヒーロー達と敵対していたディーアルナはと言えば、―――まるで汚物を見るかのような物凄く冷え切った視線をアニマルレンジャー達へと向けていた。

 彼女がこのような眼を向けていた理由はとても簡単だ。なにせ彼らの話が全部聞こえていたからだ。

 丸聞こえであった。

 もう一度言うが、一切合切何も隠す気なんてなかったんじゃないか、と思うくらいの大声で話していたので丸聞こえであったのだ。

 最初はバカかアホの類かと思っていたディーアルナであったが、しかし話の内容が段々と性犯罪者としか思えないような発言が飛び交うようになっていった時には正直彼女は引いた。ドン引きであった。

 そして、彼等が救いようがない変態にクラスチェンジした時にディーアルナは拳を握りながら決意した。「・・・うん。コイツ等、絶対叩き潰そう。その方が世のため人の為な気がする」と。





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