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ミッション44 影で動くヒーロー達・・・?



那須岳の麓にある警察署。

犯罪から善良な市民を守る警察官が多数所属している筈のその場所は、今現在複数のヒーローと怪人が戦う戦場と化していた。


ドォォォンッ!ドドォォォンッ!!


『くそっ、なんて強さだ!?アレが上位ランクのヒーローの実力なのかよ!』


警察署内にて幾度も響く爆発音の中、一人の怪人が廊下の壁を背にしながら悪態を吐く。

現在この警察署は複数のヒーロー達による襲撃を受けており、警察署に務めていた既に怪人と化していた警察官達が応戦し、迎撃戦闘を行っていた。

ヒーローと怪人双方の攻撃の余波によって破壊されていく警察署。

怪人は、自身が警察官として務めていたその場所がボロボロになっていく様を見て、瞳に悲しみの色を滲ませる。


ドォンッ!


『グアァァッ・・・!?』


『宮本!?』


怪人が思わず感慨に耽っていると、突然廊下の向こうにある曲がり角付近が爆発し、一人の怪人が吹き飛ばされてきた。


『おい・・・!無事か、宮本・・・!?』


『加藤、か・・・?す、スマン・・・。止めきれなかった・・・!奴が・・・、奴が、ここに来るぞ・・・・・・!!』


宮本と呼ばれた怪人を加藤と呼ばれた怪人が抱き起こす。

その瞬間、ジャリッという地面が擦れる音が聞こえた。


「――――――おっ?おいおい。怪人を吹き飛ばしたら、他の怪人も発見しちまったよ。コイツはラッキーか?それともアンラッキーか?」


怪人達の前に姿を現したのは、黒を基調にしたメカメカしい体に緑色の発光するラインが走り、体の各所から刺々しいパーツが伸びているヒーローがいた。


『ぐっ!?メタルブレードか!?』


「正~解~。正解したご褒美にぃ、【ビームスラッシャー】!」


ヒーロー名を『メタルブレード』。本名『ラッセル・バレンスタジー』と名乗っているその男は、両腕の刺々しいパーツに纏わせるようにエネルギーを放出し、怪人達に斬撃として放った。


『『グハアァァァァーーーッ!?』』


それを受けた怪人達は全身を切り刻まれながら廊下の奥へ向かって吹き飛んで行き、全身から緑色の炎を発しながらバタリと地面に倒れて焼失した。


「おぉおぉ・・・。景気よくぶっ飛んで言ったなぁ!――――――ん?」


ドコォォンッ!


『『『グハァァッ!?』』』


自らの攻撃によって吹き飛んでいった怪人達の姿を見ていたメタルブレードは、自身の右側の壁から粉砕音のようなモノが聞こえてバックステップする。

そして二、三歩分下がると同時に、右側の壁を砕きながら三人の怪人達が吹き飛ぶ様に現れた。


「おおぅ・・・!?なんという強烈な一撃・・・!――――――コイツはあれだな。バニーちゃんの仕業だな。」


「――――――誰がバニーちゃんよ。」


壁に叩きつけられた後に焼失していく怪人達の惨状を見たメタルブレードが、誰の仕業によるものなのかを察して呟くと、そのセリフに文句をつける様にして粉砕された右側の壁の向こうから一人の女性が姿を現した。


「そりゃあ、もちろん。アンタの事だよ。『クラッシャーバニー』ちゃん。」


「随分とふざけたことを抜かすわね。――――――そのピンク色に染まった頭を砕いて差し上げましょうか?」


その女性はヒーロー名『クラッシャーバニー』。本名『ヴィルマリア・羽沢』であり、現在の彼女はヒーローとしてのコスチュームを身に着けていた。

頭には機械的なウサ耳バンド。上半身は全体的に白いフワフワとした毛に覆われたファーコートに、その下にはバニースーツを元にデザインされた白い衣服。膝から下は硬質的な輝きを見せる機械的なヒールブーツ。

全体的に白い色合いで統一されており、その姿はさながら『白ウサ耳バニーお姉――――――、


「――――――ふんっ!!」


バキッ!


「うおっ!?どうした、突然!?」


「いえ、なんだか不愉快な発言を誰かがしていたような気がして、つい。」


目を細め、エメラルドブルーの瞳に冷たい色を彩らせるクラッシャーバニーと、彼女の突然の行動に驚くメタルブレード。

なんという勘の鋭い女性だろうか。まさか地の文に蹴りでツッコミを入れるとは。しかもこの勘の良さが原因で婚期を逃しているのだから、本当にしょうがな――――――、


「――――――ふんっふんっふんっ!!」


ドカッ!バキッ!グシャッ!!


「ウォォッ・・・!?いや、だからなんなんだよ、さっきから!?」


「・・・・・・失礼。誰かがとぉっても不愉快な発言をしようとしていた気がしたから、つい。」


「――――――怖っ・・・!?」


極寒の吹雪さえ感じさせるクラッシャーバニーの冷徹な表情を見て体を震わせるメタルブレード。


「しっかし、アイツの話で聞いてはいたが、この警察署に所属している奴等、その全員が本当に怪人だったとわなぁ・・・。」


「そうね。私も初めはまさかと思ったけど、いざ現実として見てみると驚く他ないわね。」


未だに震えの止まらない己の体を両手で擦りながらそう溢すメタルブレード。

それに同意すると言うように頷くクラッシャーバニー。


「それにこの警察署にいた怪人達の力は、どれも並みの怪人を優に上回っているわ。それこそ、序列下位のヒーローなんて一蹴出来るほどに・・・。」


「確かにな・・・。まあ、俺達のような序列上位のヒーローなら、こうやって逆に一蹴仕返すことが出来るんだけどな。」


メタルブレードとクラッシャーバニーの二人は、残っている怪人を探そうと、話をしながら横並びとなって廊下を歩いていく。


「だけど、これほどの力を持つ怪人達が一つの集団となって集まっていたなんて、もはや異常としか言えないわ。」


「しかも計画性があって、全員が一つの目標の為に一丸となって動いていた、ってんだから、マジでゾッとする話だよな。」


「例え机上(きじょう)の空論であっても洒落にならない――――――というか、実際に洒落になっていないわ、本当に。もし、この状況を作り出した元凶が目の前にいたのなら、その土手(どて)(ぱら)を蹴り抜いてやるのに・・・!」


「元凶ねぇ・・・。まあ、あの男――――――『西條睦月(さいじょうむつき)』には俺も思うところがあるから止めはしないが、出来ればそれをやる前に話だけは聞かせて欲しいな。」


「お断りよ。だって貴方が先に手を出したら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「クハハッ!いや、確かに、お前の言う通りだな。――――――俺も腸が煮えくり返っているからな。()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


そう語るメタルブレードの声に温かみなど一切無く、その体からは周囲の気温を数度下がらせるほどの殺気が放たれていた。


「だからお断りなのよ。そういうところがあるから。」


それを横目で見ていたクラッシャーバニーは呆れ、溜め息を一つ吐くのであった。







それから襲い掛かってきたり、物陰に隠れて隙を伺っていた怪人達を倒しながら先を進んでいた二人は、とある部屋の前にまでやって来ていた。


「ここが署長室ね。彼からの話では、ここに私達の求めるデータがあるという話だったわね。」


「ああ。そのほとんどは、おそらく西條睦月に関するモノばかりだと思われるという話だが、おそらくその中に、()()()()()()()()()()()()()()()も混じっている可能性があるらしい。」


「――――――そう。なら、何時までも足踏みをしていないで、さっさと突っ込むわよ・・・!」


その言葉を口にした途端、クラッシャーバニーは署長室の扉を蹴り破り、中へと入って行く。

それを見たメタルブレードは、「おいおい・・・。」と、クラッシャーバニーの短気な行動に呆れながらも、彼女の後を追って署長室へと入る。


「――――――おや?いらっしゃいませ、お二人とも。お早いお着きでしたね?」


二人が入って行った署長室。その部屋の奥にある署長の椅子に一人の青年が座っていた。


「いやはや、僕の計算ではもう少し時間がかかるモノと思っていたのですが。」


「おいおい・・・。お早いお着きって、どうしてお前がこんな所にいるんだよ。『シルバリオン』。」


署長の椅子に座っていたのは自称探偵を名乗る人物。ヒーロー名『シルバリオン』。本名は『向井秀一』と言う名の青年であった。

彼はヒーローコスチュームを着ておらず、生身の状態でそこにいた。


「ふんっ・・・!大方、私達が正面から乗り込んでいる時に、影から入り込むように別ルートからここまで辿り着いたのでしょう。私達を囮に使うだなんて、随分と姑息な手を使うモノね?」


「いやぁ、はっはっはっ!実にありがたかったですよ。貴方達が盛大に暴れてくれていたおかげで、こうして楽に入り込めましたからね!」


向井秀一に対して嫌味を言うクラッシャーバニーであったが、それを軽く流され、それどころかお礼まで言われてしまったことに、クラッシャーバニーは下唇を噛む。


「ぬぐっ!?こ、この男ぉ・・・・・・!!」


「やめとけ。お前がコイツに口で勝てる訳ないだろうが。」


悔しさのあまり、プルプルと震える拳を構えるクラッシャーバニー。

そんな彼女の肩をメタルブレードがポンッと叩く。


「何を根拠にいうのよ・・・!」


「今までの勝率を根拠に。俺が知っているだけでも、通算五十回近くは負けてただろうが。」


「グハッ・・・!?」


噛みつく先をメタルブレードに変えるクラッシャーバニーであったが、まさかの言葉の爆撃攻撃に撃沈した。


「う、うぅ・・・・・・!」


「さて、それじゃあ聞かせてもらってもいいか?お前が手に入れた情報をよぉ・・・。」


「ええ、構いませんよ。僕も貴方達と情報共有をしたいと思っていましたから。」


暗雲背負うクラッシャーバニーを無視して向井秀一に問うメタルブレード。

それに笑顔で頷いた向井秀一は、椅子から立ち上がって部屋の真ん中へと向かう。

そして長さ五cm程の細長い棒を懐から取り出すと、それを操作して複数の映像を投映した。


「これが、僕が手に入れた情報ですよ。まあ、そのほとんどは事前に話していた通り、西條睦月に関するモノばかりですがね・・・。」


「ふむ・・・。なになに・・・。――――――おい、マジかこれは。」


「・・・・・・?どうしたのよ?」


投映された情報を目にしたメタルブレードは絶句。

そんな彼の様子に気付いたクラッシャーバニーが片眉をピクリと上げながら近づく。


「こいつを見てみろ。バニーちゃん。」


「だからバニーちゃんは止めなさいと、――――――ちょっと待って。何よこれ・・・!?」


そして彼女もまた、同じように絶句した。


「ヒーロー連合協会の活動費と研究費の横領に、各種資材の横流し。それで得た資金の一部を犯罪組織への資金援助に使用・・・!?」


「こっちも凄いぜ・・・。西条睦月という男は、ヒーロー連合協会上層部役員としての権限を使って、自分や自分の部下が犯した犯罪や、それから親族が行っていた不正取引の隠蔽工作をしたり、揉み消していたりもしていたらしい。叩けば埃が出るどころの数じゃねぇな、こりゃ・・・・・・。」


メタルブレードとクラッシャーバニーの二人は、冷や汗をタラリと流しながら、投映されている情報を閲覧していく。


「これ程のことがよく今まで・・・。、それこそ、十年以上も発覚しなかったものね。」


「その点については、西条睦月の手腕が素晴らしかったとしか言いようがありませんね。事実あの男は、危険を察知すると即座に対応して手を打つか、いの一番に逃げ出すなどして(ことごと)くノーダメージで回避していたようですし。」


「確かにね・・・。情報を見る限りでも彼の優秀さがよく分かるわ。その能力を善良な人々の為に使うことが出来れば、歴史にも刻まれる傑物に成れていたと思える程に。」


「西条もそうだが、これだけの情報を集めたここの連中(警察官達)もかなり優秀だったんだな・・・。これとか、あとこれとか。念入りに情報隠蔽されている筈なのに、証拠まで揃えられているぜ。」


「本当・・・!しかもこっちの情報も見て。十年程前からこの警察署が担当している区域の犯罪率が徐々に下がってきているわ。この一年は十年前と比べると三分の一以下にまで・・・!でも、どうして?」


ここ十年間の犯罪率が徐々に下がっていることに首を傾げるクラッシャーバニー。

彼女のその疑問に向井修一が答える。


「彼等は、西条睦月に対する復讐心を抜かせば、元々は真面目且つ優秀な警察官達でした。おそらくですが、怪人化した後も〝善良な市民を守る警察官〝としての矜持を胸に真面目に働いていたのでしょう。犯罪率の急激な低下も、怪人としての能力を駆使すれば可能だと思います。」


「怪人と化していながら、善良な市民を守る警察官、か・・・。そんな奴等も倒さないといけないなんて、ヒーローってのも因果な商売だよな。」


「はぁ・・・」と溜め息を吐きつつ暗く重たい雰囲気を纏うメタルブレード。

その内心では、西条睦月の犯罪行為にもっと早く気付けていればと後悔の気持ちが渦巻いていた。


「否定はしないけれど、貴方が責任を感じる必要はないと思うわよ。彼等を怪人にまでさせる程追い詰めたのは西条睦月なんだから。」


「そうですよ。一番の元凶はあの男なんですから。」


落ち込んだ様子を見せるメタルブレードを、向井修一とクラッシャーバニーは励ますように声を掛けた。


「気遣ってくれてありがとよ、二人とも。」


二人からの励ましを受けたメタルブレードは、苦笑を漏らしつつ礼を言うのであった。







その後も多くの情報を読み流していくメタルブレードとクラッシャーバニー。


「――――――と、あったあった。これだ。」


しばらくして、目当ての情報を見つけたメタルブレードは、とある項目の情報を開示する。

開かれたそれは、ヒーローに支払われる活動支援金――――――般で言うと会社員の給料に相当する――――――に関するものであった。


「先月の元序列一位の金額は、と・・・。――――――おいおい、こいつは冗談じゃすまねぇぞ・・・!」


「私にも見せなさい!――――――嘘でしょ?何なのよ、この金額は・・・!?一月の活動支援金がたった五万円って、いくらなんでも少な過ぎじゃないの!」


先月の元序列一位に支払われた金額を見た二人は驚愕に目を見開いた。


「いくら一億の借金をしていて、その返済に金額の一部が支払われているとしても、こんなのおかしいわよ!」


「ああ・・・。親子二人で暮らしていくには到底足りない・・・。――――――おい、向井。お前、何か知っているだろう。」


「相変わらず察しの良い人ですね。――――――もちろん知っていますよ。」


メタルブレードに問い掛けられた向井修一は、一瞬眉をピクリと動かすも、当然と頷く。


「元序列一位の活動支援金が少ない理由については、実は既に判明しています。・・・どうやら、西条睦月が横領していたみたいなんですよ。」


その言葉を聞いた二人は、「この件にもあの男が関わっていたのか・・・!?」と驚く。


「〝あの人〝のヒーロー活動をサポートする担当官が西条睦月の部下だったらしく・・・。彼の指示の元、〝あの人〝に支払われる筈の活動支援金をその担当者が横流ししていました。・・・横流しする金額の一割から二割を報酬としてね。」


「は、はぁ!?嘘だろう!?」


「まさか担当者が・・・・・・。でも、まって。そんなことをしていたのであれば、お金を受け取る彼が気付かないのはおかしいわ・・・!」


「――――――気付いている上で黙っていたとしたら?」


二人分のヒュッと息を飲む音が部屋の中で響く。


「活動支援金の半額。()()()()()()()()()()西条睦月に払う約束を、あの人がしていたそうです。」


「・・・口止め料だと?おい。それは、どういうことだ?何故、アイツがそんなことをしなくちゃならない・・・!!」


メタルブレードが焦燥と怒りが滲んだ疑問の声を発しながら向井修一へと詰め寄る。


「分かりません。どれだけ調べても、その理由だけが分からないんです。まるでポッカリと穴が空いている様な、最後のパズルのピースが見つからない様な、そんな感じなんです。」


だが、それに対する向井修一の答えは首を横に振るというものであった。


「唯一分かっているのは、先程言った口止め料に『コード:A』と名前が付けられた事件が関係していることくらいです。」


望む答えを得られず舌打ちするメタルブレード。


「チッ・・・!じゃあ、西条の野郎を締め上げて、知っていることを洗いざらい吐かせて――――――」


「それはもうしています。・・・ですがあの人、その件については頑なに口を開こうとしなかったんですよ。まるでそれを喋ったら死んでしまうとでも言わんばかりの表情で。」


「まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・」と溜め息混じりに語る向井修一。

彼の心底ガッカリしていながら、しかし罪悪感が一切感じられない笑顔を見た二人は背筋が冷える思いをした。


「・・・相変わらずのイカれ具合だな。」


「そうね。西条睦月は憎む相手ではあったけど、流石に同情するわ・・・。」


「だな・・・。」


体をブルリと震わせるメタルブレードとクラッシャーバニーは、内心で「この男はこういう面があるから恐ろしい・・・。」と呟く。

向井修一という青年が、真実を知る為なら非道や非情といったことを平然と行うことを二人は知っていた。

そのうちの幾つかは、()()()()()()()()()()()()()看過すべきではないモノも含まれているのだが、ヒーローを復職、探偵を本職と自称するこの青年にとっては些末事でしかないのだろう。

常ににこやかな笑顔を見せている人物がそんな事をする人間だと、傍から見ただけでは分からないものだ。

そこでふと、クラッシャーバニーが「そう言えば・・・」と口を開く。


「元序列一位の彼の、活動支援金の横領の額が増えていったのも西条の指示だったのかしら?」


クラッシャーバニーは金欲しさにやっていたのでしょう?と向井修一に疑問を投げ掛ける。

が、向井修一は首を横に振った。


「いえ、それをしていたのは彼ではありません。彼の部下だった、〝あの人〝の担当官をしていた人物の方です。どうやら仲介をしているうちに味を占め、欲が出て自分の懐に仕舞い込んでいたようです。」


話を聞いて「え、そっち?」という顔をするメタルブレードとクラッシャーバニーに、「ええ、そっちです。」と頷く向井修一。


「ま、まあ、そういうことなら、ソイツを捕まえ――――――」


「あ、それには及びませんよ。既に此方で捕まえていますから。今は丁度事実確認と余罪追求をしている最中じゃないですかね?」


捕まえようと言おうとして「お、おぅふ・・・。」と出鼻を挫かれるメタルブレードと「い、何時の間に・・・。」と冷や汗をタラリと流すクラッシャーバニー。


「な、なるほどな。話は分かった。それじゃあ、そっちは任せるわ。お前のえげつなさに掛かれば、直ぐにでも知っていることを吐くだろう。」


「えげつないとは失礼な。」


メタルブレードの物言いに抗議する向井修一であったが、「事実だろうが。」とスルーされた。


「とりあえず、今後どう動けば良いのかの指針が今回の事で出来たわけだが・・・。」


「『コード:A』と呼ばれる事件ね。私も(つて)を頼って調べてみるわ。」


「僕の方は西条睦月に関係している案件を追ってみます。判明していない分がまだまだありそうですからね。」


「頼む。何か分かったら連絡してくれ。俺の方でも上層部に探りを入れてみる。」


この場で得られるだけの情報を得た三人は、今後はそれぞれがそれぞれの方法で情報を集めることを決めた。

その時、ふとメタルブレードが向井修一へ視線を向ける。


「――――――それと、向井。例の件を忘れるなよ?」


「例の・・・?――――――ああ、あの件ですか・・・。」


「・・・・・・何の話?」


メタルブレードの口にした例の件という言葉に最初は首を傾げていた向井修一であったが、すぐに何の話か思い至ったようで「大丈夫、忘れていませんよ。」と頷いた。

それを横で見ていたクラッシャーバニーは、突然始まった彼らのアイコンタクトに首を傾げる。。


「話としては単純ですよ。この人が僕に依頼をしたというだけのことです。」


朗らかそうに語る向井修一。

だがそれに対して「よく言うぜ・・・!」とメタルブレードが文句を言う。


「依頼を受ける代わりに、今回の怪人が潜んでいる警察署襲撃に協力しろとか言った癖に・・・!」


「報酬の前払いと言う奴ですよ。丁度使えそうな人材を探していたので、渡りに船でしたよ。」


「・・・・・・ちょっと待ちなさい。じゃあ、何?今回のコレ(襲撃)は、コイツに依頼を受けさせる為の仕事だったっていうの?私を呼んだのってその手伝いの為!?」


警察署襲撃の切っ掛けというか裏側を知ったクラッシャーバニーは、そんなことのため自分を呼んだのかと、驚きと共に憤慨する。


「おや?何を怒っているんですか?」


「何って・・・!」


だが、そんな彼女に対して向井修一は首を傾げた


「いえ、確かに僕は、今回の件を解決する事を依頼を受ける条件にはしましたが、本来こういった怪人退治は、僕達ヒーローの仕事でしょう?」


「ッ・・・!そ、それは・・・!?」


「それに文句を言うだなんて、貴女にヒーローとしての自覚は御有りで?」


「ぐ、ぐぅぅっ・・・!?」


嫌味混じりの正論に、苛立ちながらも二の句が告げられなくなるクラッシャーバニー。


「そ、それで?この男はアンタに何を依頼したの?」


このままだと自身に不利な状況が続くと判断した彼女は、話題を変えようと、向井修一にどんな依頼を受けたのかと問い掛ける。


「いやぁ、それがですね。実を言うとまだ依頼内容を聞いていないかったり・・・。」


「はぁっ!?」


「依頼は仕事が終わった後で。・・・と約束していまして、これから聞くところなんですよねぇ。」


が、まさかの依頼内容を聞いていないという発言にあんぐりと口を開ける羽目になってしまったクラッシャーバニー。

そんな彼女を尻目に、向井修一は「あははは・・・!」と笑いながらメタルブレードへと視線を向ける。


「というわけで、教えてもらっても良いですか?」


「・・・お前、本当にいい性格してるよな。」


驚愕で固まってしまったクラッシャーバニーを横目でみながら、メタルブレードは溜め息を一つ溢した。


「お前に依頼したいのは人探しだ。」


「人探し、ですか・・・?約束ですから受けはしますが、別に僕じゃなくてもいいような・・・」


「普通の人探しならな・・・。だが、お前に探してもらいたい人物は、色々と込み入った事情持ちでな。――――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「・・・ッ。・・・その話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」


向井修一の目の色が真剣なモノに変わる。


「探して欲しいのは、あの男の子供なんだ。」


「あの人の、子供・・・?ちょっと待ってください・・・!()()()()()()()()()()()()()・・・!?」


腕を伸ばし、手の指を広げて「待った!」をする向井修一。


「あん・・・?何だ、お前は知らなかったのか?」


「ええ、知りませんでした。まさかあの人に子供がいたなんて・・・・・・。」


向井修一の顔に一筋の汗が流れる。

その表情は、予想だにしていなかった情報を得たことで困惑している様であった。


「話を続けるぞ?その子の歳は十四歳。アルビノ染みた短い白髪に赤い瞳をした中性的な容姿の子だ。」


「十四歳・・・!?ちょ、ちょっと待ってください!あの人の子供が十四歳だなんて嘘でしょう!?」


馬鹿な!?と、向井修一は目を見開く。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()!もし、本当だとしたら、あの人が一体何歳の頃に産まれた子供なんですか・・・!?」


「まあ、そこは普通に疑問に思うわな。俺もあの子の歳を聞いた時は、一体何時に仕込んだ子だ?って、アイツに聞いたし。」


単純な計算でも十六歳から十八歳の間にしか思えないと言う向井修一に、「確かになぁ・・・」と頷くメタルブレード。


「・・・待って。私もそれは初耳よ。その子、本当に十四歳なの?」


少し前に正気に戻り、彼らの話を横で聞いていたクラッシャーバニーが「事実なのか?」と問い掛ける。


「俺は実際に何度か会っているし、話もしているからな。その時に本人から聞いたんだ。」


「事実だ。」と頷くメタルブレードに、クラッシャーバニーと向井修一の二人は目元をヒクヒクと引き吊らせた。


「な、名前は・・・?名前はなんと言うんですか・・・?」


何度か深呼吸を行い、平常心を取り戻した向井修一は、メタルブレードにその子供の名前は何なのかと問う。


「名前か・・・?名前は『渡辺光』。(ひかり)という字を(ヒカル)と読んで、渡辺光、だ。」


「渡辺、光・・・・・・?」


元序列一位だった男の子供の名前を聞いた向井修一は、「あれ・・・?」という風に内心で首を傾げた。つい先日にそんな名前を耳にしたような、と。

その名前を名乗っていた人物の容姿が、メタルブレードが語ったそれと似ていることを思い出した向井修一は、「まさかな」と思いつつ一応の確認をしようと口を開く。


「・・・すみません。聞きたいことがあるんですが、()()()()()()()()()()()()?」


「いや、()()()()()()()。まあ、傍目からでは中性的な容姿のせいで女の子に見間違えられそうではあったが・・・。」


話を聞き、「そうですか・・・」と呟きながら考え込み始める向井修一。

それから少しして「うん。」と頷く。


「話は分かりました。貴方が依頼したあの人の子供を探すという件、僕に任せて下さい。必ず見つけて見せます。」


顔を上げた向井修一のその目には、静かに燃える炎のような爛々とした光りが見えた。


「お、おう・・・。ま、任せたわ・・・。」


目の前の青年が憧れ、尊敬していた男に関係する話を聞けば、奮起とかするんだろうなぁと思っていたメタルブレードは、むしろ己の命を賭けそうな、自身の予想を越える程燃えている姿を見て、思わず「えぇ・・・」と一歩分身を引くのであった。






当作品をここまで読んでいただきありがとうございます。

次回の投稿についてですが、これから作者のもう一つの作品である『【改訂版】カオスゲート・サーガ』の執筆作業に集中する為、何時頃に投稿できるかはまだ決まっていません。

当作品の執筆再開は『【改訂版】カオスゲート・サーガ』が一段落してから再開したいと考えています。

お手数お掛けしますが、これからも当作品を読んでいただけると嬉しいです。

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