ミッション39 炎の復讐者達・・・!? 4
『死んじゃえぇっ!!』
『その命、差し出しなさい!!』
怪人となった津川昌子と霧崎美緒は、緑色の炎を噴出させている手をこちらへと向け、その手から炎弾を次々と発射してくる。
「うひぃっ!?」
「ちょっ!?問答無用かよ!?」
迫り来る炎弾に恐怖して身をすくませるオッサン。そして巻き込まれる俺。
位置的にオッサンの前にいた俺は、このタイミングでは回避することは難しいと判断して、防御策を講じた。
「こんのぉっ!?」
ドガガガガガガッ!!
『うえぇぇっ!?』
『馬鹿な!?唯の木桶で私達の炎弾を弾いたですって!?』
浴場に置かれ積み重ねられていた木桶を一つずつ両手に持ち、炎弾を迎撃していく。
それを見た二人の怪人は「信じられない!?」と驚愕した。
まあ、そんな風に驚くのも当然かもしれない。まさか、結構な威力のある炎の弾丸を、たかが木桶程度で弾くことが出来るだなんて思わないだろう。
というか本来なら不可能であり、接触した瞬間に壊れてしまうのが普通だ。
では何故、俺が両手に持っている木桶が壊れないのかといえば、勿論これには種も仕掛けもある。
その仕掛けとは、木桶を『Kエネルギー』で丸ごと包み込んでコーティングしたこと。
これにより木桶の耐久性はかなり強化され、炎弾を防げる程度には頑丈になったのだ。
とはいえ、コーティングしているKエネルギーが剥がされれば元の耐久性に戻ってしまうし、元となる木桶が限界に達すれば普通に壊れてしまう。
なので、あまり木桶に負担を掛けて壊してしまわないように立ち回る必要がある。
実を言えば、自身の体をコーティングすれば素手でも炎弾を防ぐことが可能なのだが、さすがに衝撃まではどうしようもなく、痛い思いをわざわざしたくはなかったのでやるつもりはなかった。
『こ、このぉっ・・・!』
『炎弾がだめなら、これならどうですか!?』
二人の怪人は、自分達の炎弾が木桶なんかで防がれるという事実に納得がいかなかったものの、このまま続けても意味がないと理解して攻撃方法を変える。
片方の掌に炎を出現、圧縮させ、小さな炎球となったそれを投げるようにして放つ。
二つの炎球は前へと進むにつれて周囲の空気を取り込んで膨張。俺の目の前に到達する頃には、身の丈程の大きさになっていた。
ゴォォォオオオオオッ!!!
『これならどうですか!?』
『とっておきの技だよ!当たった瞬間に大爆発するんだから!!』
自身満々にそう語る二人の怪人。
だがそれは、次の瞬間に見せた俺の技によって驚愕に変わる。
「【流水回麗】!」
ゴォォオオオ――――――オオォォォンッ!!
『『うそぉっ!?』』
俺は目の前にまで迫った二つの炎球に対し、己の体を右回転させ、その過程でKエネルギーでコーティングした木桶を炎球の側面から掬うように添わせる。
回転の流れに乗せられた炎球は俺の体を軸にしてぐるりと大きく円を描き、そして元来た方向へと帰っていく。
「これ、返すぞ・・・!」
ゴォォオオオオオオッ!!
『か、かかか、帰って来たぁっ!?』
『じょ、冗談でしょう!?』
ドッカァァァアアアアアアンッ!!
『『キャァアアアアッ!?!?』』
必殺の一撃として放った技がまさか返されるとは思っていなかった二人は大慌て。帰って来た攻撃を防ごうと思ったのか、激しく焦りながらもなんとか防御用に炎の壁を展開する。
一発目の炎球が着弾した際に大爆発が起こったが、それは何とか防ぐことは出来た。しかし二発目の際には耐久度が持たなかったらしく、着弾時の大爆発と同時に炎の壁が崩壊。津川昌子と霧埼美緒の二人は爆風に吹き飛ばされ、彼女達の後ろにあった岩風呂の中へボチャン!と着水した。
バシャンッ!!
『プハッ!?ケホッ、ケホッ!?うぅ~・・・、さすがは私達の大技。その威力は自分が食らって初めて分かる・・・!ってか、二発目の威力なんか一発目より高くない!?特にあの爆発!?確かあれって美緒の撃った奴だよね!?』
『ゲホゲホッ!?・・・ハァ・・・ハァ・・・!と、当然でしょう・・・。私が撃ったのは進行速度を犠牲にして爆発の威力を上げたタイプですから、技を試行錯誤していなかった昌子のモノとは違いますよ。』
『ちょっ!?何気に私の事をディスってない、美緒!?』
温泉の中に身を沈ませていた二人は、すぐに水面から上半身を出して浴槽の縁に乗せて咳き込む。
お湯に濡れたせいなのか、彼女達の体から噴出していた炎は大部分が鎮火しており、時折ボッ、ボッ・・・!と小さな炎が点いては消えてを繰り返している。
それからザバッ、と湯の中から全身を出した彼女達は、肩で息をしながら浴場のタイルの上に立つ。
濡れた髪が頬に張り付き、それが美女二人の容姿を際立たせて濡れ美人と呼べそうな色気を放っている。
だがこちらを見るその両目は吊り上がり、その瞳は復讐とほんの少しの驚きの色に染まり、また全身から剣呑とした気迫が漂い、その容姿に呆然と見惚れていようものなら即座にその隙を突いてきそうな雰囲気が感じられた。
『くっ・・・!?・・・しかし、驚きました。唯の一般人だと思っていた少女が、まさか私達の技に対処して、しかも返して来るだなんて・・・!』
『そこについては同意だね。あんなこと、そん所其処らのヒーローなんかじゃ出来ない芸当だよ。一体君は何者なのかな・・・?』
「何者って言われても・・・。」
怪人二人の問い掛けに口籠る。
まさか「悪の組織に所属する怪人です!」なんて正直に答えるのは、現在の作戦の都合上ではする訳にいかないし、かといって「唯の旅行に来た一般人です!」なんて当初の設定を貫こうにも、反射的に高い戦闘能力を見せてしまったことで信じられるわけがない。
「う~ん・・・。」
『答えられないのですか?いえ、答えたくないと言うべきなのでしょうか?・・・まあ、いいです。では、その事は一旦置いておくとして、それとは別に貴女に聞きたい事があります。』
「うん?」
どう答えるのが最善かを考えて頭を抱えていると、その様子を見た霧埼美緒が溜め息を吐きながら質問を変えて来た。
『貴女は先程からそこの屑を庇っているようですが、何故ですか?』
「庇っている?俺がこのオッサンを?」
『・・・違うのですか?』
「そんな訳ない!自分にまで被害が及びそうだったから対処していただけで、それが結果的にオッサンを守る形になっていただけだ!というか俺は巻き込まれた側!このオッサンとは本来無関係!」
『なにか弱みを握られているとかはないの?以前同僚にそんな人がいて、そこのゴミの命令に逆らえなかったってことがあったけど。』
「無いから。そんなの無いから。」
二人の問いにブンブンと首を横に振って否定する。
「というか、こっちに被害が来ないのであればどうぞご勝手にと言うぞ、俺は。」
そう言って、疲れた様な溜め息を溢す俺。
その反応を見た彼女達は怪訝そうな表情になる。
そしてオッサンは「助けてくれないの!?」とガビーン!?とショックを受けた表情となる。
『・・・では、貴女に危害を加えなければ邪魔はしないと?』
「その通り。どうも今回の件は、全部このオッサンの自業自得っぽいからな。」
うん、と頷く。
あの旅館の一室で聞いた向井さんの推理。怪人となった真柴伝助や女将さん、斉藤五郎元警部の経歴。そして先ほどから俺の後ろで頭を抱えて体を震わせているオッサンの行ってきた犯罪。
これらの話を聞いたら、どう考えてもオッサンが悪いと思うし、復讐されてもおかしくないと判断できる。
普通の一般人であれば巻き込まれたくないと見て見ぬふりをするだろう。
正義感の強い人であれば悪人だろうと死なせるわけにはいかないと何かしらの行動をするだろう。
薄情な人であれば、勝手にやれと見捨てるかもしれない。
その中で俺は、自身がどの位置に当て嵌まるのかと言えば、おそらく二番目と三番目の中間あたりだろうと思っている。
何でそんな中途半端なのかと問われると答えるのが難しいのだが、敢えて言うのであれば”怪人となっても俺は俺のままだから”としか言いようがない。
怪人となる以前の俺は、普通と比べると多少の”ズレ”こそあったが、真っ当な感性の持ち主であった。
自分と唯一の家族であった父が生きていくだけの生活の糧を得ることが優先順位としては高かったものの、それでも普通の感性の持ち主であったのだ。
その感性は怪人となった今も変わっていないと自分では思っている。
――――――いや?ここでふと、自分のこれまでの行動を振り返ってみたのだが、もしかしたら多少の変化はあるのかもしれないと思った。
怪人に成る前に比べて多少なりとも感情的になりやすくなったし、味覚に関しても以前よりも甘い物や酸っぱい物が好ましく感じる様になった。それに加えて今初めて自覚したのだが、自身の行動が自分本位と言うか、自己中心的な傾向になって来ている様にも感じられている。
ただそれが”怪人に成った”からなのか、”男から女に成った”からなのかは不明なのだが。
「まあ、でも、どうせやるのなら俺がいない所でやってほしいな。さすがに目の前で死なれるのはちょっと・・・・・・。」
『その考えは分からないでもないですが、意外と薄情ですね、貴女。』
「俺の立場としては、無関係な事件に巻き込まれてしまった唯の一般人だからね。何の罪もない人間が理不尽な目に遭うのなら首を突っ込むのも吝かではないけれど、オッサンの場合はそうじゃないし。」
むしろオッサンは事件の原因と言うか、犯罪の首謀者的立場の人間だろう。
何度も繰り返し言うのだが、完全な自業自得。因果応報。そんな人間を救う義理も守る義務もないし、助けたいなんて気持ちも起きはしない。
「そう言うわけで、やりたければやればいい。――――――あっ、でも、どうして貴女達がこの男に復讐をしたいのかの理由は聞かせて欲しいかな?関係のない人間を巻き込んだんだからそれぐらいは聞いても良いよね?」
ついでとばかりに彼女達の事情を聴き出そうとする俺。
何一つ事情を知らない状況で事件に巻き込まれたという腹立たしく思う気持ちもあったが、同時に彼女達がオッサンにどのような目に遭わされたのか気になっている部分もあった。
言うなれば唯の野次馬根性とも言えるのだが、あえて聞いたのは、自身の胸の内に燻る、事件に囲まれたことに対する不完全燃焼の苛立ちを消火するきっかけになるかもしれないとも思ったからだ。
『私達の復讐の理由ですか。・・・・・・良いでしょう。』
『えっ?教えちゃうの、美緒?』
『別に構わないでしょう。確かに彼女は、本来であればそこの屑とは無関係の巻き込まれた人物。彼女自身が言った通り、事情を話せば私達の邪魔はすることはないでしょう。』
霧埼美緒は俺の問い掛けに一瞬考える動作をすると、構わないと頷いた。
『それに彼女に事情を話しながら、そこの屑にも己の犯してきた所業を思い出して貰わないと、復讐の意味がないですからね。』
『そっか・・・。それもそうだね!』
そしてスッと殺気を含む凍えるような視線をオッサンへと向ける霧埼美緒。そしてそれに頷く津川昌子。
それを受けたオッサンは体の震えをより一層強くし、「ブヒィィィイイイイイイッ!?!?」と情けない豚のような悲鳴を上げた。
『私達の復讐の理由は、ある意味ではありきたりな話です。そこの屑に十年前に殺された両親の仇討ちですよ。』
二人はそれを一瞥してフンッ!と鼻を鳴らした後、こちらに顔を向けて自分達の復讐の理由を語り始めた。
『私達の両親はこの屑の親族が経営していた会社に勤務していました。私の両親は経理面で、昌子の両親は営業面で多大な営業成績を収めていた人達で、当時のあの人達は幹部職に就いていました。それに私達の両親はそれぞれが仲の良い親友同士で、会社でも協力して仕事に取り組んでいたそうです。』
『当時の部下だった人達からの話だけど、ある種のカリスマ性もあったらしくて、色んな人達から相当慕われていたらしいよ。――――――ただ、それを良く思っていなかった人もいたみたいだけど。』
「良く思っていない人・・・?」と思わず首を傾げていると、霧埼美緒が口を開く。
『嫉妬。妬み。呼び方はいろいろありますが、その感情を私達の両親に向けていたのが、彼等と同時期に入社したある一人の人物で、そこの屑の甥であり、会社を経営していた親族の息子でした。彼は自分よりも優秀で周りの人達から慕われている私達の両親を羨み、そして憎悪していたそうです。』
『その人は親族のコネで入社して、そこそこのポストに収まったらしいんだけど、まともに仕事が出来なかった人みたい。周りへ威張り散らしたり、八つ当たりをしたりして、しかも部下の功績を自分のモノとしてもいたことから、同僚や部下の人達からはかなーり嫌われていたみたいだけどね。』
「うわぁっ・・・」
やれやれと言いたげに首を横に振る津川昌子に、内心で最悪じゃんその人・・・!?と思わず引いた。
『ただ、そのやり口が時間が経つごとにどんどんエスカレートして行って、それに比例するように社員もどんどん辞めて行くようになり、その状況を見てさすがに看過できないと感じた私達の両親が、彼の事を止めようと動いたんだ。でも・・・・・・。』
『彼はそれで止まらなかった。それどころか、最悪の手段を取ったんです。』
霧埼美緒は少し俯き、「・・・薬ですよ」と呟いた。
『当時裏で流通していた違法薬物。それを私達の両親に盛ったのです。』
『その違法薬物は、元はヒーロー連合協会の研究施設で作られた薬で、服用者に複数の思考を同時に行えるようになる並列思考能力とコンマ秒で複雑な計算を熟せるようになる驚異的な演算能力を与えると言ったモノだったんだ。それだけなら画期的な薬だと言えたんだけど、中毒性がかなり高くて、定期的に服用しないと感情抑制が出来なくなり、暴走してしまうという副作用があった。』
『その為、当時のヒーロー連合協会はその薬を危険性が高すぎると判断して廃棄処分する事に決定したのですが、それをこの屑が横から掠め取ったのです。金になりそうだからという理由で・・・!』
ギリッ!と歯軋りする霧埼美緒。その彼女の肩に手を置いて「落ち着いて」と津川昌子は宥める。
津川昌子に声を掛けられたことで、多少は気持ちが落ち着いた霧埼美緒は、一度深呼吸をしてから再び口を開く。
『その薬は副作用さえ気にしなければ、とても有用だったこともあり、十年前は頭の良くなる薬として裏社会で出回っていたらしく、それを購入する者たちも結構な数いたとか・・・。』
『その親族の息子も何処からかその薬を手に入れて、私達の両親に知らないうちに服用させていたみたいなんだよね。部下の人達の話では、ある時期からその親族の息子が入れるコーヒーを求める様になって、その時から両親達の仕事ぶりが神憑かるようになっていたみたい。その事から、多分そのコーヒーの中に薬を入れていたんじゃないかな。』
「最早鬼気迫る程に見えていたって言っていたから・・・。」と溜め息を吐く津川昌子。
そこに霧埼美緒が「ですが・・・」と続く。
『これは後から判明したことなのですが、その薬の副作用は、実は感情抑制が出来なくなるだけではなかったようなんです。・・・ここで一つ貴女に質問しますが、薬の効果によって驚異的な能力を手に入れた人間の脳は、その後どうなると思いますか?』
「へっ?え、ええっと・・・、薬の効果によって急激に能力が上がったわけだから、その分の負荷が脳に掛かる、とか・・・?」
霧埼美緒からの唐突の質問に対し、自分が思いつく答えを返すと、彼女は「その通りです」と頷く。
『その薬を長期的に服用し続けていると、脳に多大な負荷が掛かっていき、最後には思考や計算を司る器官が暴走して壊れ、廃人もしくは植物人間状態となってしまうのです。』
「え゛っ・・・!?」
ヒクリと思わず頬が引き攣る。
何なのその薬!めっちゃヤバいやつじゃん!?
『私達の両親は知らないうちにその薬を服用し続けて、最後には自分で考える事も動く事も出来なくなって死んじゃったんだ。その後、私達の両親の死に方がその違法薬物の服用者の末路と同じだという事に気付いた警察官。当時はまだ現役で警部だった斉藤さんが、違法薬物使用の容疑で私達の両親の事を調べていたんだけど、死亡解剖では違法薬物を使用した痕跡はあるのに自宅などに隠し持っている形跡等が無かったそうなんだ。』
『その事を訝しんだ斉藤さんが私達の両親の人間関係にまで調査の手を広げた結果、親族の息子に違法薬物を盛られた可能性が浮上したそうです。』
『それによって、私達の両親の違法薬物所持及び使用の嫌疑から殺人事件に状況が変わって、捜査のメスがその親族の息子に入れられ、それと同時に西條睦月を違法薬物売買の容疑で逮捕しようとしたんだけど・・・・・・。』
「・・・その前に先手を打たれて潰されたという訳か。」
斉藤五郎元警部の話を思い出してそう呟くと、その通りだと頷く二人。
『その後、私達は斉藤さんに引き取られ、彼の下で育ちました。外見は怖そうな人ではありましたが、その心根はまっすぐで優しい人だという事を知っていたので、私達は彼に引き取られることは嫌ではありませんでした。』
『斉藤さんは私達を引き取る時、私達の両親の汚名を雪ぐ事が出来なくてすまないって、涙ながらに謝って来たことがあったんだ。別に斉藤さんが悪いわけじゃないのにね。』
昔の事を懐かしそうに語りながら苦笑する二人。
『当時の私達は両親の件で意気消沈し、生きる希望を失くしていました。ですが彼のその様子を見て、そして自分の娘の様に愛してくれた彼の姿を見て、私達はある一つの決意をしたのです。』
「それが復讐だった、と。」
『ええ。彼に引き取られた当時の時点から、私達は彼が真柴伝助さん達と共に計画を練っていることに気付いていました。』
『両親の仇討ち。恩人の斉藤さんの無念を晴らす為。そして何より、私達のような被害者をこれ以上出さない為に、私達は協力してこの豚オヤジを抹殺しようと動き出したんだ。』
「社会的か、肉体的かは計画の進行状況によるものだったけどね。」と語る津川昌子。
口元は楽しそうに笑みを浮かべている筈なのに、その瞳はとても冷え冷えとしていた。
彼女達から話を聞いて「なるほどね・・・。」と納得して俺は頷いたのだが、そこでふと一つの疑問が脳裏に過ぎった。
「・・・って、あれ?そういえば、オッサンに復讐するのは分かるんだけど、実際にアンタ達の両親に薬を盛った親族の息子は狙わないのか?直接手を下したのはその息子だろう?」
『ええ、もちろん。その親族の息子も私達の復讐対象でした。むしろ私達二人にとっては本命と言えたでしょう。ですが・・・・・・』
『残念ながら私達が手を下す前に、既に死んじゃってたんだよねぇ・・・。』
そう話しながら、心の底から残念そうにしている彼女達。
「死んじゃっていたって・・・」
『彼が部下の功績を自分のモノとしていたという話はしたでしょう?実はそれだけではなく、自分の仕事の失敗も部下に押しつけていたらしく。』
「・・・・・・まさか。」
『ええ。それによって、その後の人生を狂わされ、満足に生活できなくなった人達がいたようなんです。』
『正確な数は分からないけど、最低でも三十人くらいいたらしいよ。その人達が徒党を組んで親族の息子を闇討ち。集団リンチでボコッて殺しちゃったらしいんだよ。それが丁度八年くらい前。』
「うわぁ・・・・・・!?」
開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
集団で殺しに掛かられるほど恨まれていたって、その親族の息子は一体何をやらかしていたのだろうか?微妙に気になる。
『まあ、そういう事で親族の息子の事は諦めるしかなかったわけ。』
『正直に言えば不完全燃焼な部分があるのですが、その分はこの屑を殺すことで解消しようかと。』
ギンッ!という音が聞こえそうなほどの眼光をオッサンへと向ける二人。
それを見たオッサンは汚い悲鳴を上げ、しかし理不尽だと抗議してきた。
「ふ、ふざけるな・・・!?それで何故私が狙われなければならない!?悪いのは殺されたその男なのだろう!?」
「私は関係ない!?」と喚くオッサンであったが、それを「何をふざけたことを言っている!」と津川昌子と霧埼美緒は切って捨てる。
『確かに直接手を下したのはその息子です。ですが、その手段を与えたのは貴方です!貴方がバラ撒いた違法薬物です!』
『つまり、私達の両親の死に間接的に関わっている訳だよ。少なくとも、アンタがあの薬を裏社会にバラ撒かなければ親族の息子がそれに手を出す事は無かっただろうし、私達の両親はあんなひどい死に方をしなくてすんだ筈なんだ・・・!』
顔を俯かせ体を震わせる二人。
その体からは、消えていた緑色の炎が徐々に噴出し始めていた。
『だからこそ・・・・・・。』
『そう。だからこそ・・・・・・。』
『『貴方 (アンタ) を殺す』』
その言葉を口にした瞬間、彼女達の全身から緑色の炎が勢いよく噴出。そしてその拭き出た炎をそれぞれの利き腕に纏わせてオッサンに向かって飛び掛かった。
『『死ぃぃねぇぇええええーーー!!!』』
「ブ、ブヒィィィイイイイイイッ!?!?」
跳躍し、炎を纏った腕を振り被り、後少しでオッサンを手に掛けられる距離まで近づいた二人。
最早オッサンの命は風前の灯であった。
ドドドドドドッ――――――ドカァァァッン!!!
「うおっ!?」
「ブヒィッ!?」
『『!?』』
後は彼女達が腕を振り抜くだけとなったその時、突如横合いから浴場の仕切り板をぶち壊しながら巨大な黒い塊が姿を現した。
「ブゥゥ、モォォォオオオオオオオッ!!!」
ドゴォォンッ!!
『なっ、アグゥッ!?!?』
『ガ、ハァッ!?!?』
巨大な黒い塊はそのまままっすぐ前へと進んでいき、その進路上にいた津川昌子と霧埼美緒の二人と激突。その勢いは凄まじく、ぶつかった際に轟音が鳴り響き、二人の体を遥か遠くまで吹き飛ばしてしまった。
「・・・・・・・・・え、えぇぇ・・・。」
そんな、欠片も予想していなかった展開に、俺は思わず呆然としてしまうのであった。
次回は9月25日に投稿予定です。




