ミッション5 お仕事を開始しました!?
2021年10月20日に文章の一部変更をしました
衝撃的な展開が続いた運命の日―――出会いから目覚めまで三日くらい空いていたけど―――から一夜明けた翌日。怪人名ディーアルナこと俺、渡辺光は、現在戦闘員一号、二号、三号と共にある工場前にやって来ていた。
何故俺達がこんな所にいるのかというと、話は今から約一時間前に遡る。
朝七時という朝日が昇り始めた早い時間帯、第一会議室という場所で俺はブレーバーからこれから行う仕事の説明を聞かされていた。
「朝早くに来てくれてありがとう、皆の衆。これより仕事の話をするぞ。あ、朝ごはんも用意しといたから食べながら聞いてね」
「「「イーッ!」」」(はーいっ!)
そう言いながらホワイトボードの前に立っているブレーバーは、左手に持ったおにぎりをパクパクと食べつつ右手に持ったボードペンでホワイトボードに何かを書いていた。
・・・というか、あれはどうやって食べているんだろうか?見た感じはマスクの下におにぎりを当ててそこから食べているように見えるけれど・・・もしかして見えずらい位置に開閉式の部分があったりするのだろうか?あと口調軽いなオイ。
「・・・・・・気にしてもしょうがないか」
考えても答えなんて出ないと思った俺は視線を下に向け、テーブルの上に置かれている物に目を向ける。
そこには『奔放中華店、本場の中華弁当!』と名前が張られたお弁当が用意されており、蓋を開けてみると、お弁当の中にはチャーハンや空揚げ、焼売が数個、唐辛子が混ぜ込まれた葉野菜といった物が入っていた。
特にこの唐辛子が混ぜ込まれた葉野菜がすっごく辛そうに見える。なんせ本来緑色であるはずの葉が赤色に変色しているのだから。正直、これは食べるのは勇気がいると思う。
この葉野菜をどうしようかと考えていた俺は、そういえば他の人のお弁当ってどんなのだろうと思い、視線を横に動かしてみた。
そこには仲良く並んで座っていた戦闘員達が丁度お弁当の蓋を開くところであった。
「イー、イイー。イー、イイー。イッイッイーッ!」(おべんと、おべんと、うれしいなぁー!)
「イッ?イイー、イー?」(お?花丸伴亭のお弁当か?)
「イイー!」(へへん、いいだろうー?)
戦闘員三号のお弁当箱は木製の物だ。その中身は半分が五目御飯、もう半分が焼き魚や各種煮物、漬物数点といったそこそこバランスの良い内容だ。
「イーッ!イッ、イーッ!イイー!」(なにおう!こっちだって負けてないぞ!こっちは盤石飯店のお弁当だ!)
戦闘員一号のお弁当は小さな重箱と呼べるお弁当であった。
二段重ねの構造になっているようで、一段目には四隅に区分けされたご飯が入っており、梅しそご飯、赤飯、肉そぼろ、卵そぼろとなっていた。二段目にはおかずが入っており、豚の角煮と大根、葉野菜の和え物、人参や牛蒡の酢漬け、胡瓜の漬物が入っており、その配置はとても丁寧に揃えられたもので、戦闘員三号のものより豪華そうに見えた。
「イーッ!?イッ、イイー、イー・・・・・・!?」(うわ、何それ!?う、美しすぎる・・・・・・!?)
「イー・・・・・・イイッ。イー、イイーッ」(確かに・・・・・・さすがは盤石飯店。彩りもそうだが、栄養バランスも素晴らしいな)
「イーッ?」(そういうお前は?)
「イー、イイー?」(そうそう、テーブルの上に何も置かれてないけど?)
「イッ?イイー。イッイイー」(俺?俺はこれ。超ド級カロリー丸太り君)
戦闘員二号のお弁当は・・・お弁当は・・・・・・いやお弁当じゃないわアレ。飲料ゼリーだわ。
「「イーッ!?」」(なんで!?)
「イイー、イッ、イー」(いやぁ、これが美味くてさぁ、最近すっかりド嵌まりしちゃって)
「イー、イイー、イー」(いや、でもだからって、この名前はないでしょう)
「イイー、イー。イッイイー?」(なんだよ、丸太り君て。肥え太れと?)
「イイー。・・・イーイッイー、イイイー?」(ちょっと表記を見せて。・・・通常一日に取れる量の三十倍のカロリーが入っています。これさえ飲めば一週間飲まず食わずでも問題ありません?)
「・・・・・・イッ、イイッ!イー?・・・・・・イーイーッ?」(・・・・・・って、問題あるよ!これ、飲んだら死ぬ奴じゃないか?・・・・・・お前、これ飲んで大丈夫?)
「イー、イー。イイー、イッイー。」(大丈夫、大丈夫。一ヶ月近く続けて飲んでるけど、特に支障はないから。)
「「イッ!?」」(ちょ、おま!?)
・・・と、そんなコントのような言い合いをしている戦闘員達の様子は和気藹々としていてとても楽しそうだ。ついでにお弁当の中身もこっちと違ってまともそうで羨ましい。・・・ただし、戦闘員二号の物を除いてだが。
なあ、戦闘員二号。その飲料ゼリーは本当に大丈夫なやつなのか?お前の体調がすっごく心配なんだけど。
「はーい!それじゃあ皆の衆、こっちに注目してくださーい!」
そこでホワイトボードに色々な事を書き終えたブレーバーが俺達に声を掛けてきた。
「はい、それではこれから本日行う作戦について説明します。これに注目!」
ブレーバーはビシッと右手に持った指し棒でホワイトボードを叩く。
指し棒で指された先には写真が張られており、その写真にはどこかの工場が映し出されていた。
「本日君たちに行って来てもらいたいのはこの写真に写っている工場です。君達はこの工場内部に潜入し、中にある工業機械を我の作った機械と取り換えてきてほしいのだ。ちなみに、取り換える機械は既にこの工場の近くにある貸倉庫の中に送ってあり、トラックへ詰め込まれていて何時でも運べる状態になっているぞ」
続いてブレーバーはその隣にあるトラックが写った写真へ指し棒を動かすブ。トラックの荷台にはブルーシートが被せられているが、その取り換える機械が大きいのか、それとも量が多いのか、どこか溢れているような印象を受けた。
「君たちは今から三十分後に転送装置を使って貸倉庫内に向かい、作戦を行ってきてほしい。実際の機械の取り換えは戦闘員達が行ってくれ。」
「「「イッ、イーッ!」」」(了解しました、ボス!)
「うむ。それからディーアルナには彼らの監督役を行ってもらう」
「・・・・・・へっ?俺が監督役?」
「そうだ。戦闘員達が滞りなく仕事を行っているかを確認することが主な仕事だ。だが、もし仕事の邪魔をする連中がいた場合は、それを排除するのも君の仕事だ」
「排除・・・・・・」
ブレーバーの言葉を聞いて、自分は本当に悪の組織に入ったんだなと思う。借金返済の為の結果とはいえ、実際にそれを行うとなると良心が痛み、躊躇いから手が震えてしまう。
だが、この程度で怖気づいていてはいけないのだろう。ここは悪の組織なのだから、もっと恐ろしいことをしてもおかしくないのだから、その覚悟を―――
「・・・・・・あ、排除といっても、この『即良眠スプレー』を使って眠らせればいいから」
―――決めようと思ったら、組織のボスである筈のブレーバーからそんな言葉が出てきて、思わずズッコケそうになった。
「・・・・・・え?排除って、それだけ?」
「それだけだけど、他に何が?」
「いや、悪の組織なのだから、邪魔をする奴は皆殺し、とかするんじゃないかと思って」
自分にとっての悪の組織のイメージを伝えてみたら、何故かドン引かれた。
「え、なにそれ。そんな物騒なことをするわけないじゃないか。極力人死になんて出ないように、それこそ君たちも含め相対する人たちも怪我なんてすることなく終われれば万々歳じゃないか」
「なにこの子、考え方がすごく怖いんですけど・・・・・・」と呟き、戦慄するように体を震わせながら後退るブレーバー。
いや、ここは悪の組織でアンタはそのボスだろうが!なんでアンタの方がそんな尻込みしているんだよ!?・・・あれ?俺がおかしいのか、これ?
そう頭の中で想像していた悪の組織とブレーバーの反応のズレに頭を悩ませていた俺であったが、そこでポンと俺の肩に戦闘員の手が置かれた。
「イーイー」(いや、あんたは間違っちゃいないよ、ディーアルナ様)
「イー、イイー」(そうそう、悪の組織としてはそっちの方が正しいんだよ)
「イイー、イッイー」(ウチの場合はボスが平和主義だから、その活動内容はどうしても温いものになっちゃうんだよ)
「だよな・・・!悪の組織って、そうだよな・・・!」
分かる分かる、大丈夫、あんたは間違ってはいないと戦闘員達は何度も頷く。
そんな風に彼等に慰められ、考え方を肯定された事に、俺は自分がおかしいわけじゃないのだと再確認し、安堵した。
「あれ?なにこの空気?なんか、疎外感を感じるんだけど。我、寂しい」
視界の端では、仲間外れにされたと思ったのが、ブレーバーが指をツンツンして寂しいという意思表示をしていた。
その姿を見た俺は、今更ながらこの組織って本当に大丈夫なんだろうかと、一抹の不安を抱いた。
そして、そんなやり取りの後に転送装置を起動して貸倉庫に転送された俺達は、そこにあった機械が乗せられたトラックを運転して、今こうして目的地である工場前へと辿り着いたのである。
・・・・・・辿り着いたのであるが。
「・・・・・・見事に門が閉まっているなぁ」
いざ工場内に突入しようとした時に、工場の出入用の門が閉じられているのを発見し、一度立ち止まることになってしまった。
本日は大半の会社が休みとなる日曜日。門が閉じられているのは当然の帰結と言える話である。
「これは、何か侵入方法を考えないといけないな」
門の前でどうしようかと俺が考えていると、そこで突如ガチャンッ!という音が響いた。
「イッ、イイッ。イーイー」(オシ、鍵が開いたぞ。これで門を動かせるようになる)
「イイー。イイイー!」(こっちも監視カメラの掌握完了したよ。映像の偽装工作の準備はバッチリ!)
「イッ、イッイー!イーイーイイー!」(よぉし、それじゃあ皆乗れー!・・・それじゃあ行きますよ、ディーアルナ様!)
「・・・・・・あ、うん」
何時の間にか戦闘員達がテキパキと軽やかに問題を解決していたらしい。
何なのお前等?その筋のプロか何かなの?と内心で思いつつも、彼らのそのあまりの手際の良さに俺は頷いて返すしかなかった。