ミッション37 炎の復讐者達・・・!? 1
「・・・と、まあ、最初の計画としては、俺達の仲間が待っている警察署に連れ込んで、拷も・・・、尋問して色々と吐いてもらおうと思っていたわけだが――――――。」
「い、今、拷問と言いかけなかったか!?一体私に何をするつもりグェッ!?」
「――――――その計画が駄目になった以上、もう一つの計画を実行するしかなくなったわけだ。」
そんなセリフを口にした斎藤五郎は、やれやれと頭を左右に振りながら溜め息を吐いた。
拷問という言葉に反応して喚こうとしたオッサンを首キュッをして黙らせながら。
俺は彼の口にしたもう一つの計画というのが気になって思わず聞き返した。
「もう一つの計画って、アンタ達が考えていた計画は一つじゃなかったのか?」
「ああ、そうだ。俺達が考えていた計画は二つあってな。一つは先程語った、コイツを犯罪者として連行して、今まで手を染めてきた犯罪の数々を吐かせる事。コイツは俺が建てた計画だ。そしてもう一つが真柴伝助が最初から建てていた計画だ。それは、――――――」
「――――――西条睦月を殺す。」
斎藤五郎の言葉の続きを語ったのは、真柴伝助であった。
彼のオッサンを見る目は濁り、淀み、とても正気とは思えないものであった。
いや?どちらかと言えば、獲物の前で待てをさせられ、我慢して我慢して、そしてようやく良しが出されたことで飛び掛かろうする寸前の猛獣であるかのように俺には見えた。
「殺す・・・!殺す、殺す、殺す・・・!!」
「あ~・・・、ずっと我慢させていたからなぁ、ようやく手が出せると分かって、箍が外れちまったらしい。」
「おや?ということは、今まで敢えてスルーしていた、包丁が胸に突き刺さっていながら生きていられる訳を教えてもらえるということですね?僕ワクワクしてきました!」
「向井さん、何でそんなに冷静なの!?というか、この状況に対する反応がおかしくない!?」
「だって、色々と組み立てていた推理の、その答え合わせをしてくれるんですよ?どれだけ僕の推理が合っているのか、今から胸が期待でワクワクするじゃないですか!」
「うん。やっぱりおかしい!!」
「そ、そこの君達!?訳の分からない話をしてないで、は、早く私を助けて欲しいのだが!?」
「いえ、貴方はもう少しそのままでいてください。今逃げられると、折角の答え合わせの機会がなくなってしまいますので。」
「えぇええっ!?」
「うわぁ、オッサンの扱い雑ぅ・・・!でも、何一つ罪悪感が湧かないや。」
「「それは確かに。」」
「私の扱いぃっ!?」
俺の呟きに同意するように頷く斉藤五郎と女将さん。そしてそれを見て泣き叫ぶオッサン。
「うぉっ、ウゥゥオオォォォッ!!!」
そんなコントのような掛け合いを俺達がしていると、殺す殺すと呟いていた真柴伝助が突如雄叫びを上げた。
体の各所から緑色の炎が噴き出したかと思ったら、それは瞬く間に燃え広がり、全身を覆い隠す程に大きくなって彼の体を包み込んだ。
『ガァァアアアァァァーーーッ・・・!!』
そしてその数秒後には、彼の全身を包み込んでいた緑色の炎が爆発でもするかのように飛び散った。
炎の中から姿を現したのは、緑色の炎の模様が描かれたライダースーツを身に纏い、露出している手足の先が骨となり、同様に露出している頭蓋骨からは緑色の炎が噴出し、纏い漂わせた異形の者。
それは、真柴伝助の怪人となった姿であった。
「ほうほう、これは珍しい!まさか〝魂の怪人化〝とは・・・!だが、これならば、胸に包丁が刺さっていても生きていられた理由に納得がいきます!なにせ今の彼にとって肉体なんてモノは、唯の器という物でしかないのだから!」
「なんか妙なハイテンションになっているとか、さっきと性格変わってるんですけどとか、色々ツッコミたい所だけどまずこれだけ聞かせて。――――――〝魂の怪人化〝って、何!?」
「宜しい!その質問にお答えしましょう!」
頬を赤く染め、何故か興奮状態となってしまった向井さんは、その状態のまま俺の問いに答えてくれた。
「魂の怪人化とは、文字通り魂そのものが怪人へと至ってしまう現象のことです。その確認例はたった数件と少なく、悪霊や怨霊などから変異したものばかりですがね。」
「普通の怪人とはどう違うの!?」
「そうですね・・・、敢えて違いを挙げるとすれば、通常の怪人とは違って肉体が無いため、通常の物理攻撃が効きません!それから保有エネルギー量自体は然程多くはないですが、短時間で瞬く間に回復するため、実質無尽蔵ですね!なので、エネルギー消費量を考えないでバンバン大技を撃ってきますよ!」
「それって、所謂無限砲台的な奴ってこと!?」
「機動力もそこそこあるので、より正確には移動無限砲台でしょうね。」
「そんな訂正されても嬉しくない!」
『西条、殺す。睦月、殺すぅ・・・!』
「・・・と、そうこうしている内に、どうやら完全覚醒されたみたいですよ?」
「すんごい今更だよそれ!」
怪人化した真柴さんはコハァーッ・・・!と緑色の炎の息吹を吐きだし、ユラユラと揺れ動いている。
目玉の無くなった眼孔には赤い光が爛々と輝き、まっすぐにオッサンを見つめていた。
「・・・ああ、コイツはダメだな。完全に暴走してやがる。」
「ですが、これはこれでよろしいではないですか。これで心置きなくこの汚豚を殺せるのですから。」
斉藤五郎は傍目から見て正気ではなくなってしまっている様に見える真柴さんに溜め息を吐き、女将さんは別にいいじゃないと言いたげに笑みを浮かべていた。
その反応から、真柴さんがあの姿になることをこの二人は最初から知っていたのだという事が分かったのだが、現状ではそれが分かったとしてもあまり意味はなかった。
「これ、逃げた方が絶対良いよね?・・・っていうか、逃げられるのか、これ?」
とんでも復讐劇に巻き込まれてしまった俺は、これ以上付き合っていられないと思い、この場から脱出を考える。
俺のその呟きが聞こえたのか、向井さんはフムと顎に手を当てると、助言?っぽいモノを口にした。
「まあ、怪人化した真柴さんの狙いは西条さんな訳ですから、このままあの人に餌と言う名の囮になってもらって、その間に逃げるという選択もあるわけですが。」
「うわぁ・・・、オッサンの扱い本当に雑ぅ・・・!?」
「イヤァァァーーーッ!?待って待ってお願い助けて置いて行かないでぇぇーーーっ!?!?」
餌呼ばわりされたオッサンは泣き叫びながら必死に助けてくれと命乞いをする。
まあ、自分の命が狙われているのだからその反応は当然だろう。
どっちかと言うと情け容赦ない向井さんの発言の方に俺はちょっと引いた。
「まあ、僕としても彼に今死なれてしまうのは困ってしまいますからね。仕方ないので助けましょうか。」
向井さんはそう言うと懐から細長い棒状の何かを取り出し、それを斉藤五郎の腕に向かって投げた。
「ぬぅっ!?」
細長い何かが飛んで来ることに気付いた斉藤五郎はオッサンの襟首から手を放して跳び退く。
投げられた棒状のそれはカカカッ!と壁に突き刺さる。
「針・・・、いや、棒手裏剣の類か?また時代錯誤的なものを・・・・・・」
「これはこれで結構重宝するんですよ?例えば先程のような時とか。」
オッサンの前に立ってにこやかにほほ笑みながらそう語る向井さん。
斉藤五郎はそれを見ながらチッと舌打ちをした。
「ふんっ・・・!まあいい。こちらとしては別に手を出すつもりはなかったが、邪魔をするのであれば話は別だ。」
斉藤五郎はそういうと顔の前で両腕を十字に重ねて構える。
その後ろでは、女将さんが斉藤五郎の動きに合わせる様に十字に重ねた腕をゆっくりと胸から頭上へと上げる動作をしていた。
そして二人は腕を大きく振るう動作をすると同時に雄叫びを上げた。
『『ォォォオオオオオーーーッ!!』』
雄叫びを上げた瞬間、二人の体から真柴さんが怪人化した時の様に緑色の炎が噴き出し、全身を包み込んだ。
『はぁ・・・!俺達の復讐は邪魔させん・・・!』
『ふぅ・・・!ええ、そうですわね。そこの汚豚諸共、焼き尽くしてあげましょう・・・!』
そして炎が散った時には全身に緑色の炎のような模様が描かれたボディースーツを着て、頭から緑色の炎を漂わせた二人の姿があった。
「え、ちょ!?あの二人まで怪人化したぁ!?」
「むむっ!?これは真柴さんの時と同じ魂の怪人化ですか・・・?まさか生きた状態のまま至ることが出来るとは思ってもいませんでした。これは今後とも調査が必要ですねぇ・・・。」
「こっちはこっちで何か考察してるし!?」
二人の怪人化を見た向井さんは思案する様に顎に手を当てて、ブツブツと独り言を口にする。
しかしその両目は、この状況から見れば場違いなほどに好奇心一杯に光り輝いている様に見えた。
「いやいやいや!考え事をしている場合じゃないから、向井さん!早くここから逃げないと!?」
「ふむ。それもどうですね。それではお二人とも、私が彼等を引き付けておくので、その間に無事に逃げてくださいね?」
「「はい?」」
向井さんはそういうと左腕の浴衣の裾を捲った。
彼の左腕には銀色の機械的なブレスレットが巻かれており、キュイキュイーン!という独特な音を出し始めていた。
「ウェイク・アップ。シルバリオン!」
向井さんは左腕を頭上にまっすぐ伸ばし、そのセリフと同時に左の手の甲を前にしながら胸元まで引き戻した。
その瞬間、彼の左腕に巻き付いた銀色の機械のブレスレットから眩い光が放たれ、彼の体を覆い隠す。
そして光が治まった後には、ほぼ全身を銀色に輝く機械的なボディアーマーに覆われ、頭部は黄色のツインアイが輝き、V字型の角が額に付いた銀色のアーマーマスクに包まれた向井さんの姿がそこにはあった。
「隠された悪を暴き出し、真実を追い求める探究者。探偵ヒーロー『シルバリオン』。ここに参上!!」
「「ヒーローに変身したぁーーーっ!?!?」」
高らかにヒーロー名を名乗る向井さんと、それに驚く俺とオッサンの二人。
「・・・っていうか、なんでオッサンまで驚いてんの!?アンタ、ヒーロー連合協会の重役だろう?」
「いやいやいや!?いくら重役だろうとも全てのヒーローを知っている訳ではないんだぞ!?ましてや、探偵ヒーローシルバリオンと言ったら、上層部の中でも極一部の者しか知らない程情報が秘匿されたヒーローで、私も存在する事だけは知っていたが、本人を見たのはこれが初めてだ!」
「いや、なんでヒーローなのに情報が秘匿されてんだよ。」
「私が知るかぁ!」
「お二人とも言い合いはそこまでにして、そろそろ逃げて欲しいのですが?」
向井さんがまさかのヒーローだったという事実に驚き、混乱していた俺達は、件の人物である向井さん本人から声を掛けられることで、「はっ・・・!」と一応の正気を取り戻した。
『はっ・・・、まさかテメェがヒーローだったとはな。』
『少し驚きました。ですが、私達のやるべきことは別に変りませんわ。』
『殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺すぅ・・・!!』
怪人化した三人は、――――――否、正気を失っている真柴さん以外の二人は向井さんがヒーローであったという事実に多少の驚きを示したものの、自分達のすべきことは変わらないと構える。
「ふっ、そう簡単に僕を倒せると思わないでほしいですね。何なら全員で襲ってきても構わないんですよ」
余裕そうな且つ挑発染みたセリフを吐く向井さん。もとい探偵ヒーローシルバリオン。
そんな彼の態度が気に入らなかったのか、怪人化した三人は青筋を浮かべながら突撃を開始した。
『抜かせ、小僧ォ!!』
『身の程を、弁えなさい!』
『コォォォロォォォスゥゥゥーーーッ!』
一斉に飛び掛かる怪人達と、それを迎え撃たんとするヒーロー。
戦いの火蓋が今切って落とされた。
次回投稿は9月10日を予定しています。




