表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/155

ミッション36 山奥の温泉旅館殺人事件・・・!? 5

今回はいくつかの伏線回収のため結構話が長いです。



「ぎゃぁぁあああっ!?し、死体が蘇ったぁぁあああっーーー!?」


「うぇっ!?」


「やはり、生きていましたか。」


叫ぶオッサン。驚く俺。そしてやはりと頷く向井さん。

俺達は死んでいた筈の真柴伝助さんの遺体が起き上がった様子を見て、それぞれ三者三様の反応を示した。

・・・・・・というか、向井さん冷静過ぎない!?


「その反応・・・、どうやら君は、私が死んだという事を随分と疑っていた様だね?」


死んでいた筈の真柴さんは、包丁を胸に刺したまま完全に立ち上がると、冷静な様子を見せる向井さんを目にして訝しんだ。


「疑っていた、というよりも不思議に思っていたというのが正しいですね。具体的には、生存確認を行う時に貴方の体に触れた時から、ですが。」


向井さんは薄らとした笑みを浮かべる。


「脈を測る為に触れた時、貴方の体は既に冷たかった。――――――いいや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「どういうこと?」


「人間の体は死後一定時間ごとに体温が下がって行きます。時間にして、一時間ごとに約一度ずつ、ね。」


「・・・そうか。真柴さんが死亡したと思われていた時間帯は、言い争いをしていた時の事も考えて、午後七時十分から発見された七時半の間。そんな短時間で体温が下がる筈が無い。」


「ええ、そうです。もちろん偽装工作をするために遺体を冷やしていたという可能性もなくはないですが、彼等の目的は西條さんを犯人にする事。なので、わざわざ工作なんて事をする必要がありません。」


そう断言する向井さん。

真柴さんは、彼のその言葉にジッと耳を傾け、そして「ククッ・・・!」と笑った。


「なるほど。探偵と言うのは嘘ではないようだな。その素晴らしい推理に敬意を表してこう答えよう――――――その通りだ、とね。」


「クククッ・・・!」と笑みを浮かべ、喉を鳴らす真柴さん。

しかしその笑顔はとても歪んでいて、怒りとも悲しみとも形容しがたい表情をしていた。


「何故こんなことを、と貴方に言うのは無粋なのでしょうね、この場合は・・・。」


「その言いぐさ・・・、やはり私の事も調べていたのか?」


「ええ、まあ・・・。別件の調べ物がありまして、その過程で。」


向井さんは頷くと、真柴さんについての情報を語りだした。


「『真柴伝助』。元ヒーロー連合協会情報司令部所属の指令補佐官の一人。活動しているヒーロー達へ的確且つ最適な指示が出せる人物として周囲から一目置かれていた人物。上層部からも期待の声が上がっていて、上のポストに上がらないかとも勧誘されていたそうですね?」


「本当に良く調べているな。・・・ああ、確かにその通りだよ。十年前のあの事件まではな・・・・・・。」


「十年前の事件・・・。『無人島消失事件』の事ですね。とある無人島から高密度のエネルギーが観測され、調査の為に情報司令部所属の人間と護衛のヒーロー達が調査隊を組んで向かい、最終的には調査対象の無人島が影も形もなくなったという。」


「おいおい・・・。お前、一体何処まで知っているんだ?あの事件の情報のほとんどは、そこの西條が自分の不祥事を隠すために念入りに隠蔽(いんぺい)していたんだぞ。・・・まあ、そこまで知っているのなら、俺がその当時の事件に調査員として派遣されていた人間の一人であったという事も知っているんだろう?」


「ええ。そして、今ここにいる西條さんが当時の調査隊の隊長であったという事も、ね。」


「本当に、何処まで知っているんだか・・・。」


もちろん知っていますという態度を取る向井さんを見て、呆れたと言いたげな表情になる真柴さん。

真柴さんは、はぁっ・・・と溜め息を吐いていたが、向井さんはそれを意図的に無視して自身が知っている当時の事件の詳細を真柴さんに確認しながら語り始めた。


「あの事件の調査では、件の無人島に向かう際に調査隊は船を使ったという話は聞いていましたが、確かそれは、無人島周辺で暴風雨が吹き荒れていた状態だったからですよね。」


「・・・その通りだ。丁度無人島辺りが台風の目になるような形で凄まじい乱気流が渦巻いていてな。航空機等がそこに入れば、まず間違いなく墜落確定となるほどだった。そのため、当時の技術では最先端の嵐の中も踏破出来る調査船が使われた。」


「そこまでは僕も調査の過程で知りました。・・・ですが、それ以降の事件に関する情報を得ることは出来ませんでした。貴方の同僚だった人たちにも話を聞いたりしましたが、誰一人詳しい事を知る人はいませんでした。」


「だろうな・・・。なにせ俺達は、()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()。――――――()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、知らなくて当然だろう。」


真柴さんは、まるで自虐でもするかの様な言い草をする。


「あの時、船がもう少しで無人島へと到着しようとした時、無人島から二つの強力なエネルギー波が観測された。それらは何度も何度もぶつかり合っているような反応を示していて、更には余波と思われる衝撃波が辺りへと無秩序にばら蒔かれていた。その状況は当事近くにいた俺達調査員にとっては、はっきり言って世界の終わりなんじゃないかと思えた程だ。」


語りながらその時の事を思い出したのか、遠くを見る真柴さん。

そんな黄昏ているような雰囲気を出し始めた彼の様子が気になった俺は、思わず声を掛けた。


「えっと、そんなにヤバかったんですか?」


「ヤバイなんて言葉で表せるもんじゃなかったな・・・。空の雲が真っ二つに裂けるは、無人島の一部が抉られる様に砕け散るは、果ては海の一部が蒸発して大穴が空くはで、生きた心地がしなかったし、実際その余波のせいで海に叩き落とされたり、粉微塵や黒焦げになった調査員がいたからな・・・。」


「うわぁ・・・」


「護衛役のヒーロー達も頑張っていたが、正直焼け石に水。彼らのほとんども同じ運命を辿っていた。」


その言葉を聞いて、思わずヒクリと頬を引き吊らせる。

なにその天変地異?


「それが約十分間続き、最後まで無事だったのは船の操舵とヒーロー達への指示を出していた俺と、片手で数えられる数のヒーロー達、そして事が起こり始めた時に逃げ出していた西条だけだった。」


「・・・・・・ん?逃げ出していた?」


気になる内容を耳にした俺は首を傾げる。

確か、当時のオッサンは調査隊の隊長を務めていたんじゃなかったっけ?

そんな俺の内心の疑問を察したのか、真柴さんは苦虫を噛み潰したようような顔になりながら教えてくれた。


「二つの強力なエネルギー波が観測されてすぐ、コイツは〝私はこんな所で死ぬべき人間ではない〝とか抜かしながら、脇目も振らずに脱出挺を使ってその宙域から逃げ出しやがったんだ!」


真柴さんはそう言いながら、殺意の篭った視線を斎藤警部に襟首を捕まれたオッサンに向け、その視線を受けたオッサンは、「ひぃっ!?」と短い悲鳴を上げながら身をすくませた。

俺は内心で、「それは無いだろう」と思いながらオッサンにジト目を向けた。


「し、仕方ないだろうっ・・・!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだぞ!逃げ出さなければ、間違いなく死んでいた!」


「じゃあ、何で指示を放り出して一人で逃げやがった!?アンタは隊長だっただろうが!!」


「そ、それは・・・!し、指揮官が死んだら、一体誰が上に報告するというのだ!わ、私は自分の職務を全うしたに過ぎん!」


そう言い切るオッサンだが、その視線は挙動不審気味に左右に揺れ、声にも震えが混ざっている。


「ふざけるなっ!それが部下を見殺しにして良い理由になるかっ!?何より、その後にお前が行った隠蔽工作のせいで、その時に死んだ部下やヒーロー達が失踪扱いされて、未だに葬儀も挙げることすら出来ていないんだぞ!」


「だ、だからなんだ!そんな事、私には関係ない!」


「この・・・!」


そしてそんなオッサンに対してより感情的になって叫ぼうとした真柴さんであったが、それを向井さんが口を開くことで止める。


「なるほど。つまりそれが、貴方の西條さんに対する復讐と言った所でしょうか?」


「・・・・・・それも理由の一つだが、それだけじゃない!コイツは事件に関係ない俺の妻すら弄び、その存在すら消しやがったんだ!!」


その表情を憤怒の形相へと変貌させながらギリリッと歯軋りをする真柴さん。


「あの事件の後、俺はこいつの代わりに責任を負ってヒーロー連合協会をクビにされた。そして同時にある病気も発症してしまったんだ。――――――『急衰症(きゅうすいしょう)』という不治の病をな。」


『急衰症』。

それはここ十数年の間に世界中に広まりだしてきた奇病の事である。

ありとあらゆる肉体機能や新陳代謝等が急激に衰弱していくことから名付けられ、その患者の状態にもよるが、たった一年で骨と皮だけになるという病気だ。

何より恐ろしいのが、発病原因が分からないという事。

先天性か後天性か、感染性かそれとも何かしらの薬物によるものなのか。

この奇病が最初に発見されたのは、今から約四十年くらい前のとある村からなのだが、現在に至るまで何一つ分かってはいない謎の病気だ。

十年程前に症状を緩和させる技術が確立され、現在では適切な処置を半年ごとに受ければ急激な衰弱は免れるようにはなったのだが、その金額はバカみたいに高くて、一回の施術で百万円くらいは軽くかかってしまう程。


「当時はまだ症状を緩和させる技術が発見されたばかり。その金額は今よりも高く、ヒーロー連合協会の結構上の役職に務めていた俺でも支払いが躊躇われるほどだった。職場をクビにされて収入の当てが無くなった後は余計にな。・・・正直その時は、もう生きる気力なんて無かったから、さっさと死んで咲子の奴に保険金でも残そうかと思っていたんだ。だが、アイツは、咲子は俺に生きていてほしいと言ってくれた。自分が頑張るから生きていてくれとな・・・。」


ふっ・・・、と息を吐きながら懐かしそうな顔になる真柴さん。


「それからアイツは資金集めに奔走することになったんだが、そう簡単に百万以上の金が集まる訳が無かった。そんな時だった。西條からある提案をされたのは。」


「提案?」


「妻に、咲子に、体を売れと言いやがったんだよ・・・!」


ギンッ!音が聞こえそうな程の殺意のこもった眼差しをオッサンに向ける。


「そうすれば、俺の治療費を肩代わりしてやると提案された咲子は、俺の為にとその提案に乗ってしまった。それを知った当時の俺は悔しかったし、悲しかったさ。まともに働く事が出来なくなったばかりに、アイツに、咲子に、そんな苦渋の決断をさせてしまったんだからな。」


それを聞いた俺は驚きと呆れが混ざった声を漏らした。

本当に何処まで下衆なんだろう、このオッサンと。


「提案を飲んだ咲子は、西條の指定したホテルに向かった。俺の治療費を得るために。・・・そしてその後、アイツは帰ってこなかった。」


「帰ってこなかった?えっ、何で・・・?」


咲子さんが帰ってこなかったと聞いて俺は驚き、思わず真柴さんに聞き返した。

だが、その答えが返って来たのは彼からではなかった。


「『バシュライト広域襲撃事件』のせいですね。」


俺の問いに答えを返したのは向井さんであった。


「・・・やっぱりそれも知っていたんだな。ああ、そうだ。俺も事件が終わった後に知ったことだが、どうやらその時に咲子の奴は事件に巻き込まれて死んじまったらしい。」


そう溜息を吐いた真柴さん。

その事件の事を知らなかった俺が向井さんに質問すると、彼は「説明しましょう」と頷いて教えてくれた。

『バシュライト広域襲撃事件』とは、今から十年前に存在していた『バシュライト』という悪の組織が引き起こしたヒーロー連合協会に関係する企業への襲撃事件の事。

全世界規模且つ同時多発的に発生した所謂テロリスト行為とも呼べるそれの被害は甚大であり、ヒーロー連合協会もそれに対応するために各所にヒーローを派遣したりもしたそうなのだが、活動範囲があまりにも広く、そして暴れている怪人の数が多すぎて対応が間に合わず、ライフライン等が一時的に麻痺してしまった所もあったらしい。

規模の大きさからして長期的な被害見込めたその事件だが、関係各所の予想に反して事件発生からたった三日で事態は収束した。

事件を解決したのは、とある一人のヒーローであり、そのヒーローの活躍によって悪の組織『バシュライト』が壊滅させられたことで事件は解決したのだそうだ。


「咲子の向かったホテルは、ヒーロー連合協会の関連施設の一つだったらしくてな。襲撃されたホテルで火災が発生して逃げ切れずにそのまま・・・・・・」


「そんな・・・!?」


「こんなご時世だ。仲の良かった知り合いが、気が付いたら事件に巻き込まれた死んでいたなんて話は、今時珍しくない話さ。そこは仕方がないと割り切るしかない。――――――だが、それでも許せないと思う事はあった・・・!」


フルフルと首を横に振った真柴さんは、再びギッと鋭い視線を向ける。


「コイツは・・・!西條は・・・!その事件で死んだ咲子の事を、初めからそこにはいなかったことにしやがったんだ!」


「はぁっ!?」


真柴さんの話を聞いた俺はなんだそりゃ!?と驚きの声を上げながらオッサンへと視線を向けた。


「うっ・・・!?いや、その・・・!?」


俺達の視線を一身に受けたオッサンは、顔色を真っ青に染めながら両の瞳を右往左往させている。

その反応から、真柴さんの言っていることが真実であるという事が分かった。

まさか、そこまでの下衆野郎だとは思っていなかった俺は、思わずため息が漏れた。


「まさかそこまでの下衆野郎だったとは・・・。」


「げ、下衆野郎とはなんだっ!下衆野郎とは・・・!!」


しまった。つい思ったことがそのまま口に出てしまった。

とはいえ、発言を撤回する気がなかった俺は、オッサンが訴えてくる抗議を敢えて無視した。

オッサンは俺が聞く耳を持つ気が無い事を悟ると、ぐぬぬ!?と唸り声を漏らした後で「コホン・・・!」と咳払いをした。


「ま、まあ、なんにせよ、これで私が人を殺していないという事が分かっただろう。それどころか私を嵌めるための狂言事件だった訳だ。それでは警察諸君、事件の首謀者として早く彼を逮捕したまえ。」


「「「・・・・・・・・・」」」


真柴さんの事を逮捕しろと警察官達に指示を出すオッサンであったが、しかし斉藤警部を含めた警察官達は無言を返し、その場から動こうとはしなかった。

何時まで経っても動こうとしない彼等の様子に気づいたオッサンは、首を傾げた。


「・・・うん?一体どうしたのかね?何故誰も動こうとしないのだ?事件は解決したのだぞ?」


「・・・そりゃあ動く訳がないでしょう。だって事件はまだ解決してはいないのだから。――――――いいえ、ある意味ではここからが本番でしょうね。」


そう問いかけるオッサンに返事を返したのは、またもや向井さんであった。

しかも、そのセリフは中々に意味深そうですらあった。


「な、なに?それはいったいどういう事かね?」


「どうやら、まだ気付いていないようですね。彼の、真柴さんの状態に・・・。」


「じょ、状態・・・?何を言っているんだ、君は?今回の事件は私を嵌める為の-----」


「ええ、狂言事件でした。ですが、彼の胸に刺さっている包丁は本物ですよ。何かしらの仕掛けなどありません。」


「はっ?」


それを聞いたオッサンは、何を言っているんだと言いたげに疑問の声を上げた。

俺も声には出さなかったが、オッサンと同じ反応を示した。

だって胸に包丁という刃物が突き刺さっているのに問題なさそうに動いているのだから、某かの仕掛けがある筈だと、普通ならそう思うだろう。


「い、いやはや、なんとも面白い冗談だ。仕掛けがないなどと-----」


「冗談ではありませんよ。そうですよね、斎藤警部?いいえ、斎藤五郎()警部?」


「・・・・・・・・・」


「貴方も、------否、()()()も真柴さんの共犯者なんですから。もちろん知っている筈ですよね?」


向井さんはそう口にしながら、懐疑的な視線を斎藤警部へと向ける。

斎藤警部はそんな彼の視線を受けていながら無言のポーカーフェイス。

それどころか、オッサンの襟首を掴んでいる方とは逆の手で懐から煙草を一本取り出し、口に咥えてみせた。

・・・・・・というより、元警部とか共犯者とか、一体どういうことだろうか?


「・・・は、はははっ、元警部だなんて、コイツ等が警察じゃないとか、そんな笑えない冗談・・・・・・」


「「・・・・・・」」


「・・・え?なに?マジで警察じゃないの?」


向井さんの発言に、冗談だろうと笑おうとしたオッサンだったが、二人の無言の返答に、せっかく元の血色に戻っていた顔色が再び青褪めた。


「・・・何時からそうだと疑っていた?」


沈黙を保っていた斎藤警部は、溜め息を一つ吐くと、向井さんに問い掛けた。


「初めてお会いしたときから、ですかね。先程言った別件で調べていたモノの中に、貴方に関する情報も混ざっていましたから。とはいえ、最初は確信が持てませんでした。()()()()()()()()()()()()()()()貴方がこんな所にいるとは思っていませんでしたから。」


「・・・・・・」


問い掛けられた向井さんは、薄らとした笑みを口元に浮かべながら己の推理を語っていく。


「決定的になったのは、貴方達が真柴さんの体を検分した時です。あの時、貴方も含めた警察官は、真柴さんの遺体が冷えきっていたことにあまり疑問を抱いてはいなかった。まるで初めからそうなのだと知っていたかのように。」


「・・・・・・・・・」


「あとは、この新聞記事もですね。これを見たからこそ、今回の事件が貴方達が考えた茶番劇であると推理できました。」


「・・・・・・ふん、なるほど。どうやらお前は、想像以上に賢しい奴だったようだなぁ、探偵。」


斎藤警部は、------否、斎藤五郎は話を聞く際に閉じていた目蓋を開き、鷹のような眼光鋭い視線を向井さんへと向け、


「お前の言う通りだ。昔はともかく、今の俺は、警察官じゃあねぇ。一人の男の復讐に加担する唯の共犯者だ。」


そして堂々と宣言した。


「「・・・・・・!?」」


その宣言を聞いた俺は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。

彼に襟首を掴まれているオッサンも同じく口をあんぐりと開けて、そして青かった顔色がより一層青褪めた。

事件の共犯者に捕まっているわけだから、当然と言えば当然の反応だろう。


「そもそも、この茶番劇は俺から真柴に提案したものでな。クビにされても尚持っていた刑事としての矜持を貫く為と、コイツ(西条)が仕出かした汚職や犯罪の証拠を手に入れる為だった。」


「貴方が警察官を辞めさせられる切っ掛けになった『違法薬物密輸事件』のですか?」


「正確には、それも含めたコイツが関わっていただろうと思われるモノ全て、だな。」


ふんっ!と荒い鼻息を吐く。


「コイツは十年以上前から、下手をしたら二十年くらい前から違法薬物の密輸に関わっていた。ヒーロー連合協会を隠れ蓑にして、な。当時は薬物の取り締まりを担当していた俺と俺の部下達は、それに気付いて調査を始めたんだが、そしたら出るわ出るわ、西条の野郎が行ってきた犯罪の証拠がわんさかと。正直言ってそのあまりの数に、よく今までバレなかったものだと、思わず感心しちまったくらいだ。」


呆れ果てたと言いたげなニュアンスで答える斎藤五郎。

オッサンが関わっていたその犯罪件数が全部で二百件にも上ると聞けば、彼の気持ちもよく分かる。

一体何をどうやったらそれ程までの数の犯罪を行えるのか、本当に不思議である。


「そして集めた証拠をまとめて、いざ西条の逮捕に動こうとした俺達だったが、そこで上からストップが掛かった。後から知ったことだが、どうも当時の上の何人かが西条と懇意にしていたみたいでな。俺達が調べていた犯罪の幾つかの片棒を担いでいたらしく、バレちゃ敵わんと、自分達が犯罪に関わっていた事を隠す為の邪魔を始めやがった。」


チッと舌打ちを溢しながら、当時の事を思い出したのか、彼の表情は酷く憎々しげであった。


「立ち上げていた捜査本部は何かしらの理由をつけて強制解散。中心メンバーだった俺達は不正な捜査を行ったとして全員クビ。市民を犯罪から守るはずの警察が市民を苦しめる犯罪者を守ろうとするなんて、これ程皮肉が効いて滑稽なことはないだろうよ。」


そう呟いて、今度は悲しそうな、寂しそうな表情となる斎藤五郎。


「俺は、俺達は相当な衝撃を受けたさ。俺達が信じてきたモノは一体何だったんだと、自棄になって酒に溺れるくらいにな。------そんな時だよ、死んだ筈の真柴伝助に俺が出会ったのは。」


斎藤五郎はそこで一度話を区切り、煙草に火を点けた。


「フーッ・・・。俺が出会った時の真柴は復讐心一色に染まっていてな。()()()()()()()()()()()()()()()()()、ブツブツと呟いている内容を聞き取っていく内に、ソイツが真柴伝助だと分かった。

その時の真柴は、自分の妻を弄んだばかりかそもそもいなかった事にした西条を恨み、奴の所へ突撃しようとしていたところだった。そのまま行けば、ヒーロー連合協会に所属するヒーロー達によって倒されていただろうな。------俺が引き留めたりしなければ、な。」


そこまで話すとプハァー・・・と、煙を吐く斎藤五郎。

彼の話を聞いていた向井さんはなるほどと頷いた。


「つまりそれが、今回の事件の始まりだったというわけですか。」


「まぁな・・・。もっとも、引き留めた当初はそこまで考えてはいなかった。真柴の就いていた役職と親しい人間関係を知る内に思いつき、互いに話し合って綿密に計画を練っていったのさ。」


「そしてその計画の実行場所をこの『三幻亭』に決め、女将である三幻寺豊子さんに協力を頼んだと言うわけですか。」


「ええ、その通りです。」


向井さんの確認をするような言葉に頷いたのは、今まで黙っていた女将さんであった。


「最初、彼等の話を聞いた時は驚きましたが、最終的には(わたくし)も計画に賛同し協力する事に決めました。」


しずしずと前に一歩踏み出す女将さんの姿は、先程までの狼狽えていた様子とは打って変わって、背筋をピンと真っ直ぐ伸ばし、堂々とした立ち居振舞いをしていた。


(わたくし)とて人の親です。大事に育てた子供が、何処ともしれぬ()()に汚され、その()()のせいで死んだと知れば、復讐を思い至るのは当然の事でしょう。」


そう語りながらオッサンを見る女将さんの目は、暗く淀んだ、殺意に満ちた色をしており、それを見たオッサンが「ヒィッ!?」と情けない悲鳴を上げた。


「その思いは尤もだろうな。でも、計画が上手くいって、オッサンを犯罪者として連行したとして、その後はどうするつもりだったんだ?斎藤警・・・、斎藤さん達はもう警察官じゃないんだろう?」


彼等の気持ちが分からなくもないと俺は頷きながら、しかしその後はどうするつもりであったのかと問い掛けてみた。

それに対する答えは、ちょっと予想外のものであった。


「計画が上手く行けば、俺達はそのまま麓の町にある警察署に西条を連れていくつもりだった。」


「え?でも、斎藤さん達は・・・・・・」


「ああ、もう警察官じゃあない。だが、現役の警察官の中には俺達の他にも西条に恨みを持っている奴等がいてな?十年という時間を掛けて、その警察署の人間全てが俺達の仲間に入れ替わっているのさ。」


「・・・え゛?」


「警察署だけではありませんよ。この旅館で働いている従業員達も、皆汚豚の被害に遭い、復讐を胸に抱いた同士です。」


「・・・・・・え゛!?」


まさかのオッサン総アウェイな環境に驚きの声を上げるしかない俺。

よくもまあそれほどの人員を集められたものだと感心するのと同時に、どんだけ敵を作っているんだこのオッサンはと、思わず呆れの感情を抱いてしまった。







閑話:その頃の秘密基地。


「・・・ッ!」


「よう、ピョン太郎!そっちも上手い飯にありつけたか?」


「・・・ッ!!」


「そうかそうか。アタシの方もほら、大量に確保できたよ。」


「・・・ッ?」


「あん?そんなに大量に食べられるのか、だって?大丈夫、問題ないさ。怪人と成った際に食べたものをエネルギーに変換できるようになったからね。今のアタシには満腹で食えなくなるなんてことはないんだよ!・・・まあ、この程度の量じゃそこそこしかエネルギーは回復しないんだけどさ。」


「・・・ッ?」


「どうして、そんなに急いでエネルギーを回復したいのか、だって?そりゃあもちろん、姐さんの手伝いをする為さ!アタシは姐さんの舎弟なんだから、姐さんの役に立ちたいんだよ!」


「・・・ッ!」


「・・・なに?自分も姐さんの為に何か手伝いたい、だって?そうかそうか!ウサギながらに義理堅い奴だなぁ、コイツめ!・・・だけど、唯の動物のお前じゃ姐さんの手伝いをするのは難しいと思うぞ?出来るとしたらアニマルセラピーぐらいじゃないか?」


「・・・ッ!!」


「だったら、アタシと同じように怪人に成りたい?・・・その気持ちは分からなくはないけど、今はちょっと難しいと思うぞ・・・。アタシの時の一件以来、そこら辺のセキュリティが強固になったからな。お前がいた飼育部屋もそうだろう?アタシが手を貸さなかったら自力では出て来れなくなったじゃないか。」


「・・・・・・ッ。」


「まあ、なんだ。そうがっかりするなよ。何時か機会が巡ってきたら成れるようになるさ。今はほら、たくさん食って腹ごしらえをしとこうじゃないか。」


・・・ザッ。


「・・・・・・ほう。という事はピョン太郎を出したのはお前だったのか、アルミィよ・・・!」


「・・・ッ!?」


「ゲッ・・・!?」


「ふ、ふふふ・・・!そうかそうか・・・。ピョン太郎がどうやって飼育部屋から抜け出したのかと思ったら、お前が手引きしていたのか。」


「・・・ッ?」


「ブ、ブレーバー様・・・?」


「よくも・・・、よくも我の食べたかったものをことごとく横取りしてくれたなぁ・・・!そこに直れぇぇいっ!我自ら説教&お仕置きをお前達にかましてくれるわぁ!!食べ物の恨みは恐ろしいという事を知れぇぇぇっ!!!」


「う、うわぁぁぁああああああっ!?!?」


「――――――ッ!?!?」


ドタドタドタドタ・・・!ドカーン!ガガーン!ドドドドドガガガガガッ・・・!!


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・







次回投稿は9月5日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ