ミッション34 山奥の温泉旅館殺人事件・・・!? 3
今回は前回より短めです。
あの後、次第に気分が落ち着いてきた俺は、脱衣場の長椅子の上に置かれていた、籠の中に入っていた従業員の人が用意してくれたと思われる換えの浴衣に着替えた。
流石に下着までは無かったので、部屋に戻ったら風邪を引く前に着替える必要があるだろう。
「・・・あっ」
新しい浴衣に着替えて脱衣場から出た俺は、丁度入り口近くに付き添ってくれた警察官が立っているのに気付いた。
「お待たせしました。それと、お騒がせしてすみませんでした。」
「ああ、いや、大丈夫ですよ。ええ、もちろん大丈夫ですとも。」
「ご心配をおかけしました。」と謝りつつ声を掛けたのだが、何故か警察官は帽子を目深に被って目を合わせようとしなかった。
背筋も妙にピシッとまっすぐ伸びており、何やら緊張しているのが分かる。
「あの、どうかしたんですか?」
「どうって、あんなのを見せられたら・・・!?い、いえ、なんでもありません!!」
「あんなの・・・?」
「気にしないでください!何も問題はありませんので!」
「いや、えっと、でも・・・」
「何も、問題は、ありませんので!」
「は、はい・・・!」
警察官の決死の気迫と呼べそうな空気を纏いながらの断言に、二の句が告げずに押し黙る。
「えっと、それじゃあ、探し物は見つかったので、俺は部屋に戻りますね。」
「分かりました。それでは宿泊されているお部屋まで付き添いますので。」
まあ気にするなと言うのだから、特に問題はないんだろうと思った俺は、警察官に用事が済んだので自分の部屋に戻ることを伝える。
警察官は頷くと俺の泊まっている部屋まで付き添うと話し、一緒に廊下を歩いていく。
ただし、何故か徹底してこちらの顔を見ようとしないのが妙に気になったが。
「・・・・・・ん?」
テクテクテクと警察官と共に廊下を歩き、あともう少しで自分の部屋に辿りつこうとした時、とあるモノが目に入った。
それは廊下の端に設置されていたソファに置かれている色褪せて古ぼけた新聞紙であった。
「何でこんな所に新聞が?」
ソファの周囲を見渡しても、雑誌等を置くためのラックのような物はなく、どうしてこの古ぼけた新聞紙だけがここに置かれているのか不思議であった。
インクの色彩や色褪せぐらいから、少なくとも相当な年月が経っていそうなその新聞紙を手に取った俺は、とりあえず誰か従業員の人に誰かの忘れ物か落し物だと渡しておこうと思った。
「・・・うん?あれ?これは・・・・・・」
だが、その新聞紙に書かれていたとある記事を目にした俺は、思わず疑問と驚きの声を上げた。
「真柴伝助、死亡・・・?」
その記事に書かれていたのは、とある住宅街のある一軒家で起こった爆発事故であった。
爆発事故が起こったのは真昼間の時間帯であり、死亡した真柴伝助氏の自宅であったらしい。
爆発の規模は然程大きくは無かったと書かれているが、問題はそれによって発生した火災であり、炭しか残らないほど真柴伝助氏の自宅は全焼。
当時の家の中には体を壊して療養中だった真柴伝助氏がいたと、周辺住民からの話で分かったが、全焼後の自宅跡からは彼の遺体は発見され無かったとも書かれており、担当医師からは「彼は自力で外出することが出来る状態ではなかった為、おそらく彼の遺体は炭となった建築材に紛れ込んでしまったのだろう」という見解が出されたそうだ。
今回の事件があまりにも事件性が無いため、おそらく不審火による出火ではないかと言うのが警察側の見解であり、事故として処理することを警察は決定したと書かれていた。
それとは別の話で、真柴伝助氏の自宅には彼の妻の『真柴咲子』氏が同居していたそうだが、事件が発生する数日前から行方が分からなくなっているらしく、現在警察が事情を聴くために行方を捜索しているとも書かれていた。
また記事には顔写真も乗せられており、それは今日この旅館で殺害された真柴さんと同じ顔であった。
「なんだ、これ・・・?真柴さんが既に死んでいる?どうなっているんだ・・・?」
新聞の日付を確かめてみると、約十年前のソレ。
つまり、真柴伝助と言う人間は十年前の時点で既に死んでいることになるのだが、そうであれば、今日ここで殺された彼は一体誰なのか。
真柴伝助本人か。それともその名を語る別人か。
「ダメだ・・・。さっぱり分からん・・・。」
だが、これまで一度も出会った事の無い他人が本物かどうかなんて、俺に分かる訳がない。
唐突に目の前に現れた事件に関係するだろうモノを手にした俺は、溜息を吐きながら頭を抱える。
「とりあえず、これは警察に渡した方がいいのかな・・・?」
「渡すって、何をですか・・・?」
「えっ・・・?あっ、向井さん・・・!」
横から声が聞こえて来た方へと振り向くと、そこには事件の調査をしていた筈の向井さんが立っていた。
「どうして貴方がここに?調査をしていた筈じゃ・・・。」
「ええ、そうですよ。調査の過程で色々と手がかりになりそうなものが手に入ったので、一度戻って来たんですよ。そういう貴女は、渡辺さんはどうしてここに・・・?」
「実は風呂場に忘れ物をしまして、部屋に戻る前にそれを取りに行っていたんです。あっ、もちろん警察官の付き添いありで、ですけど。」
「なるほど。・・・おや?渡辺さん、貴女が持っているそれはなんですか?」
「はい・・・?」
お互いにどうしてここにいるのかの事情を話し合う俺達。
そこでふと、向井さんの視線が別の所へと向かうのが見えた。
俺はその視線の先を追っていくと、彼はどうやら俺が手に持っている十年前の新聞紙が気になったようだ。
「ああ、これですか。実はそこのソファで拾いまして、事件に関係するモノかと思って刑事さん達の所に持って行こうと思って・・・。」
「事件に、ですか?ちょっとそれを見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「ええ、いいですよ。どうぞ。」
「ありがとうございます。・・・・・・・・・むっ、これは。」
俺から十年前の新聞紙を受け取った向井さんは、書かれている記事を読み進め、とある記事に目を留めた。
「もしや貴女が言っていた、事件に関係するかもしれないというのは、この記事の事でしょうか?」
「そうです。どうもその記事を見る限りでは、真柴さんは十年間に自宅で起きた火事で死亡しているそうなんです。それでちょっと気になって・・・。」
「ふむ・・・。なるほどなるほど。」
俺の話を聞いて、片眉をピクピクとさせつつフムフムと頷く向井さん。
片手を顎に当てながら考え込むその仕草は、まるで考える人という像のそれに似ていた。
「あれ・・・?」
考え込む向井さんを見ていた俺は、そこで彼の腕に袋が一つ引っ掛かっているのが目に入った。
「向井さん。その袋はなんですか?」
「ブツブツブツ・・・・・・うん?・・・ああ、これかい?まあ、僕の仕事に関係するモノと言っておこうかな。事件にも関係するモノではあるんだけどね。」
そんなおどけた様に両肩を竦める向井さん。
「中身を見てみるかい?」
「えっと、良いんですか?」
「君なら構わないさ。僕の推理では、君はまず間違いなく犯人ではないからね。」
ウインクしながら俺が犯人ではないと断言した向井さんだが、一体何を根拠にそう断言できるのだろうか?
「まあ、そういう事なら・・・・・・。」
とはいえ、見せてくれると言うのならそのご厚意に甘えさせてもらおう。
向井さんの持っていた袋を受け取ってその中身を見てみる。
「まずは、と。これは・・・手鞠?名前も書いてある。色褪せて読みづらいけど、『二枝咲子』、かな?・・・・・・あれ?」
その名前に俺は聞き覚えがあった。
確かそれは、依頼を受けた向井さんが現在探している筈の人物の名前だ。
だが、何故この旅館にその人物の名前の書かれた手鞠があるのだろうか?
「えっと他には、写真立てか・・・?幾つかあるな。」
手鞠以外に袋の中に入っていたのは、複数の写真立て。
最初に取り出した写真立ての中に納められている写真には、年若い女性と小学生くらいの女の子が写っており、背景にこの旅館の外観がある事から、おそらくここで撮られた写真なのだろうと思われる。
他の写真立てには、その女の子が成長していく過程の写真が収められており、おそらく旅行に行った時のモノや家族写真と思われるモノもあった。
そして写真立てを見ていた俺は、ふと「あれ?」と声を出した。
「この写真に写っている人って、もしかして女将さん・・・?」
最後に目にした家族写真。その中に『三幻亭』の女将さんの姿が写っており、その隣にはすっかり大人になった女の子の姿もあった。
「もしかして、この二人って親子なのか?」
「ほう!そこに気付きましたか。どうやら貴女は頭の廻りが良い人の様ですね。」
俺の呟きを耳にした向井さんは、良く出来ましたと言いたげに嬉しそうな反応をする。
「そう言うってことは、向井さんはこの二人が親子だと知っていたんですか?」
「ふふっ・・・。その答えは、これから僕が行う推理を聞いて貰えれば、おのずと分かることですよ。」
「推理・・・?」
含むような笑い方をしている向井さんを見て、「この人は何を考えているんだろう?」と俺は思った。
彼の浮かべる笑顔はほんわかとした優しそうなそれなのだが、彼の笑顔を見た俺は、何とも言葉に出来ない妙な警戒心のような感情が己の胸に湧き上がるのを感じた。
「そこの警察の方。」
「はっ!私ですか?」
「ええ、貴方です。すみませんが、斉藤警部に伝えてもらえますか。真柴さんの遺体が置かれている部屋に事件関係者を全員集めて欲しいと・・・・・・。」
俺との話をした後、俺の付き添いで傍にいた警察官にたいしてそう頼む向井さん。
最初は渋る様子を見せた警察官であったが、「今回の事件の詳細が分かったので、それを説明したいんですよ」と向井さんが言うと、警察官は一瞬驚き、それから分かりましたと真剣な表情で頷いて駆けて行った。
おそらく上司である斉藤警部の元へと向かったのだろう。
「では、僕達も行きますか。」
「あの、行くって何処へ・・・?」
「もちろん、真柴さんの部屋にですよ。言ったでしょう。事件の関係者は全員集まってほしいと・・・。」
「え゛っ?」
にっこり笑いながらそう言う向井さん。
その笑顔は先程と変わらずほんわかとしていながら、しかしどこか凄みのようなモノを感じた俺は、断る事が出来ず頬を引き攣らせることしか出来なかった。
閑話:その頃の戦闘員達
※会話をスムーズに進めるため直訳しております。
ザッ、ザザッ、ザーザザー・・・!
『大丈夫か、一号!』
『助けに来たよ!無事!?』
『お、おおぉ・・・!こ、ここだ。二号、三号・・・!』
『おお・・!そこにいたのか、一号・・・って、ズタボロだな!?』
『うわぁ、酷い・・・!?まるで何度も地面を転がったような土塗れだね・・・!』
『一体何があったんだ、一号?お前がそんな姿になるなんて普通じゃないだろう。』
『ああ・・・。実際アレは普通じゃなかったぜ・・・!あんなのがこの山にいるなんて思ってもみなかった・・・!』
『『あんなの・・・?』』
ザザザー・・・ザーザー・・・ドスゥン!
『・・・・・・な、なんだ、今の音?』
『・・・・・・何かの足音みたいだったね。』
ドスゥン・・・!ドスゥン・・・!・・・・・・ブフゥーーーッ・・・!!
『・・・今度は鼻息みたいなのも聞こえたな。』
『・・・うん。しかも結構近かったよね。』
『・・・あ、ああっ・・・・・・!?お、お前等!後ろ、後ろ・・・!?』
『一号のこの反応。やっぱり後ろに何かいるんだな・・・。』
『どうする、二号・・・?』
『どうするも何も、確認しなければ始まらないだろう。一、二の、三で振り向くぞ。』
『分かった・・・。合図は僕が言うね。行くよ・・・。一、二の、三!』
ブフゥーーーッ・・・!ブフゥーーーッ・・・!ブルゥァアアアアアアッ!!!
『『『ギャァアアアアアアーーーッ!?出たァアアアアアッ!?!?』』』
ドカンッ!バカンッ!ブオンブオン!?ドッカーーーンッ!!ブルゥァアアアアアアッ!!!
ザザッ、ザザザー・・・!
ザーザー・・・!
ザッ、プツン!
次回投稿は8月25日予定です。




