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ミッション33 山奥の温泉旅館殺人事件・・・!? 2


「コイツが犯人じゃないかもしれないだぁ?どういうことだ、小僧。」


向井さんに待ったの声を掛けられた斉藤警部は、声を掛けて来た当人に向かって肩ごしに眼光鋭い視線を向けた。

その眼光はまさしく鷹の如きそれであり、「邪魔すんじゃねぇ!」と言わんばかりに殺意すら感じられるモノであった。


「先程の話でいくつか疑問に思う事がありまして。斉藤警部。もう一度確認しますが、トイレの個室に籠っていた従業員の方ですが、西條さんと真柴さんが言い争いをしている場面を見ていた訳ではないのですよね?」


だが、その視線を一身に受けながら漂々と話す向井さん。

その口元に浮かべる不敵な笑みからは、随分な余裕が感じられる。


「あ?ああ、その通りだ。その従業員は口論の声と何かにぶつかる音を聞いただけで、現場を見ていた訳じゃあねぇ・・・・・・。」


「では、質問ですが、口論の現場となった東トイレにあったりしましたか?――――――血痕が。」


「・・・・・・いいや、無かった。ほんの一滴もなく綺麗なモンだったぜ。」


「という事は、ですよ?その東トイレに血痕が無かったという事は、真柴さんはそこでは殺されていなかったことになります。」


向井さんの問いかけに、表情を苦々しいモノへと変えていく斉藤警部。

その表情はまるで、痛い所を突かれたと言いたげな様子に見えた。


「それに遺体の状態も気にかかるんですよね。心臓を一突きされた筈なのに、それにしては出血量が少ない。」


「・・・ああ?何が言いてぇんだ、テメェは。」


「彼のいた部屋のどこにも血痕が撒き散らされてはいなかったことも考えると、斉藤警部の言う通り殺害現場は別の場所だと思うのは当然。しかし、もう一つの可能性も考えられませんか?――――――そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。」


「・・・・・・・・・」


「既に死体となっている真柴さんの心臓に包丁を突き立てた場合、多少の血が飛び散ることになるでしょうが、それもタオルか何かを当てながら行えば包丁が刺さっている胸元周辺に収められる。」


「・・・・・・そう考える根拠はなんだ?」


「遺体の首元ですよ。彼の首元には何か細長い物で締め付けられた跡、絞殺の痕跡がありました。それがあるのであれば、真柴さんの死因が包丁であるとするのは早合点が過ぎると思うのですよ。」


「・・・・・・チッ!よく見てやがるな。自称探偵は伊達じゃねぇってか?」


舌打ちをしながら悪態を吐く斉藤警部。そんな彼に対して向井さんは「自称じゃなくて、本当に探偵なんですが・・・。」と溢しながら苦笑していた。


「おぉ・・・、おおおぉ・・・!よくぞ言ってくれた、向井君!その通りだ!私は犯人ではない!だから早くこの手を放したまえぶふぅっ・・・!?」


自分が犯人ではないという証言を聞いたオッサンは、沈んでいた表情をパァッと明るくして手足を振り回し始める。

だがその行動は、オッサンの襟首を掴んでいた斉藤警部がキュッと引っ張ることで黙らされた。


「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。確かに、そこの自称探偵の話で確定じゃなくなった訳だが、お前の立場はまだ犯人としての疑いが強い容疑者であることに変わりはねぇんだよ。」


「な、なんだと!?む、む、向井君!頼む、早く私が無実であるという事を証明してくれぇ!」


向井さんに向けて必死に手を伸ばすオッサン。

その形相を見れば、彼が必死なのだという事は伝わるのだが、何故かコミカルな場面にしか見えない。

例えるのならライオンに尾を踏まれているネズミだろうか?なんだかそんなイメージが浮かんでしまう。


「貴方が連れて行かれるのは僕としても困ることになるので、出来ればそうしたいのですが、生憎と貴方が犯人ではないと言う証拠を提示できないんですよねぇ。」


「な、何ィ!?」


「現場の捜査をさせてもらえるのであれば、何かしらの証拠を見つけ出すと言うのはお約束出来ますけど・・・・・・。」


そう言いながらチラリと斉藤警部に視線を向ける向井さん。

それに気付いた斉藤警部は、「フンッ!」と鼻息荒くして答えた。


「部外者にそんな事をさせる訳ないだろうが。」


「ですよねぇ~・・・。」


「うぉおいっ!?」


斉藤警部の返答に「やっぱり・・・」と苦笑する向井さん。

オッサンも驚きの声を上げた後で「ふざけるなぁ!?」と喚く様子があったのだが、再びの首キュッで黙らされた。


「これは、もうオッサンが犯人で確定かな・・・?」


すっかり蚊帳の外的立場で彼等の話し合いを見ていた俺は、最早話はこれで終わりかと思った。

オッサンが真柴さんを殺害したと言う明確な証拠こそないが、状況証拠だけで結構怪しい点はある。

元上司部下というオッサンと真柴さんの関係の事を考えると、職場を首にされた真柴さんがオッサンの事を恨んで殺そうとして、逆に返り討ちにあって殺されてしまったんじゃないかという想像が脳裏に浮かんだが、所詮想像であるためなんにも確証はない。

おそらく斉藤警部含めた警察官達も、その線で殺人が起こったのではと考えてオッサンを早めに確保しようとしているのではないだろうか?

まあ、なんにせよ。現場に居合わせただけの俺が何か出来る訳も無く、というか人を犯人に仕立て上げようとしたオッサンを助けようなんて気持ちは微塵もなかった。


「だが、まあ、そんなにこの男が犯人ではないと言うのなら、その証拠を見つけて持って来てみろ。」


「へっ?」


そうして、刑事ドラマとかでよくある被疑者確保による事件解決で終わると思っていたのだが、斉藤警部のこの一言を聞いて、思わず声が出てしまった。


「・・・って、おや?よろしいのですか?」


驚いたのは俺だけでなく、探偵の向井さんやオッサン、それに斉藤警部以外の刑事たちもだったらしく、全員が瞠目して、斉藤警部へと視線を向けた。


「警部!?一体何を・・・!」


「フン・・・!このままじゃ、納得しないこいつ等がどんな妨害をしてくるか分かったもんじゃねぇからな。だったら、満足するまで調べさせて無実の証拠なんてないってことを分からせて納得させた方が後々楽だろう。」


「ですが・・・!?」


「そう目くじら立てるな。俺だっていつまでも待つつもりはねぇよ。この男を早く連れて行きたいのは、俺も同じなんだからよぉ。」


スパァーッ・・・、と煙草を吸って吐いた斉藤警部は、向井さんに向けてビッ!と人差し指と中指を立てて見せた。


「二時間だ。それ以上は待つつもりはねぇ・・・。現場への立ち入りは許可しねぇが、それ以外だったら好きなようにしろ。」


「なるほど。ありがとうございます。折角のご厚意に甘えさせていただきますね。」


斉藤警部の言葉を聞いた向井さんは、一瞬だけ呆気にとられた顔をするも、すぐににっこりと笑ってそう答えるのであった。







「では、これから調査に行ってきます。警察の皆さんには西條さんの()()な扱いをお願いしますね。」


「ああ、そこら辺は任せろ。()()()()()()()()()()()は丁重に扱ってやるよ。」


含みたっぷりのそんな言葉を交わした向井さんと斉藤警部は、それぞれ自分がすべき行動を取り始めた。

向井さんは事件の手がかりになりそうなものを探すために、従業員への聞き込みや、現場周辺の調査を行い始めた。

ちなみに、調査中は監視員として刑事を一名傍に付けることも斉藤警部から条件に出されたようなのだが、向井さんは嫌な顔をせずに「構いませんよ。」と頷いていた。

斉藤警部は、従業員の休憩スペースにオッサンを押し込んでいた。

容疑者の中で犯人の疑いが濃いオッサンが逃げないようにするための処置であり、警察の許可なくこの部屋から出ようものなら、問答無用で逮捕だとオッサンに厳命もしていた。

尚、オッサンは休憩スペースに押し込まれようとされる際に、「な、何をするー!?」と無駄な抵抗をしていたが、最終的には斉藤警部の「いい加減にしろ!」という言葉と共に(ケツ)を蹴られ放り込まれた。

『三幻亭』の女将である三幻寺豊子さんと従業員の玉崎千鶴さんは、他の従業員の人達と共に通常業務を行い始めた。

やっておかなければいけない事をやっておかないと明日の業務に支障をきたすからという理由らしい。

一応女将さんと玉崎さんに関しては遺体発見者という事で監視兼護衛役の警察官が付けられることになったそうだが、仕事の邪魔にならなければ構わないと女将さんは返答していた。

そして最後に俺だが、


「それじゃあ、君は自分の部屋で大人しくしてもらっていいかな?」


「さすがに殺人犯がいる場所に未成年がいるのは・・・・・・」との理由で、現在利用している部屋に押し込まれることとなってしまった。

キチンとしたアリバイがある訳ではないが、被害者との面識が無く、殺害の動機もないので犯人ではないだろうと判断されたらしく、警察は俺の事を事件に関わらせない事に決めた様だった。

まあ、それについては、こちらとしても犯人として扱われないだけありがたいと思えるのだが、そうなってしまうと当初の目的であった『水質測る君』の回収が出来なくなってしまう。

従業員が温泉の掃除を行う際に『水質測る君』が見つかったりしたら、ちょっとした騒ぎになるのは、まず間違いない。

出来ればその前に回収したかった俺は、部屋まで送ろうとしてくれた警察官に声を掛けた


「あの、部屋に戻る前に一度温泉に向かいたいんですけど、いいですか?」


「えっ?う、うぅん、出来れば部屋で大人しくしていてほしいんだけど・・・・・・」


温泉に行きたいというこちらの主張に対し、やっぱり難色を示す警察官。

そんな反応をされるのは予想済みだったので、どうして向かいたいのかの理由を話してみる。


「実は、温泉に忘れ物をしちゃったんですよ。事件の際に風呂場に向かおうとしていたのも、温泉に入りたかったのと、そのついでに忘れ物も回収しようと思ったからなんです。温泉に入るのは無理でも、せめて忘れ物だけでも取りに行かせてもらえませんか?」


「う、うぅん・・・・・・。」


腕を組みながらどうすればいいのかと悩み始める警察官。

連れて行って良いのか、悪いのか。「忘れ物を取りに行くだけならいいかもしれない」や「でも、自分に出された指示は彼女を部屋まで送る事だし・・・」と呟く様子も見せ、最終的には「まあ、大丈夫じゃないかな?」と判断したようであった。


「仕方がない。忘れ物を見つけたら、すぐに部屋に向かって下さいね。」


「はい。ありがとうございます!」


温泉に向かう許可をくれた警察官に笑顔で礼を言う。

俺の笑顔を見た警察官は何故か頬を赤く染めて呆然としていたが、すぐに「はっ!?」と正気に戻り、ブンブンと首を横に振った。

その後、その警察官と一緒に風呂場へと向かう事になったのだが、その最中警察官は頻りに「俺はロリコンじゃない。俺はロリコンじゃない。俺はロリコンじゃない。」と、何やら必死な形相で呟いていた。

俺は、その警察官が何故そんな鬼気迫りそうな様子になっているのか分からず首を傾げるのであったが。







数分後。風呂場へとやって来た俺は、浴衣を着たまま温泉の浴場へと足を踏み入れた。


「さて・・・、それじゃあ、とっとと『水質測る君』を回収しますか。」


夕飯前に自身が入浴し、『水質測る君』を放った岩風呂の前にやって来た俺は、ブレスレットの電子ストレージからアンテナの付いたボタンスイッチを取り出した。

このボタンスイッチは、『水質測る君』の呼び出しボタンであり、これを押せば半径五百m以内であれば『水質測る君』が反応して戻ってくる仕組みになっているらしい。


「しかし、随分とシンプルだな。まあ、複雑すぎるよりはいいか。」


そう呟きつつ、「ポチッとな。」とスイッチを押す。


「・・・・・・・・・あれ?」


スイッチを押したのに、なんの変化も起きない事に首を傾げる。


「あれ~・・・?」


カチカチと数回スイッチを押してみるも、やっぱり何も変化は起きない。

「まさか、使っていないうちから故障か・・・?」と溜息を吐きつつ、もしかして近くに来たけど温泉から上がれなくなっているのか?と思った俺は、岩風呂へと近づいてみた。


「・・・・・・見えない。透明になっていると、探すのが結構難しいんだな・・・。」


岩風呂の手前で片膝をついて、湯の中を覗き込みながら手を伸ばしてみる。


ズ、ズズズ・・・!


「・・・うん?」


もう少しで水面に触れるというところで、不意に水面が小さな渦を描き始めた。


『オォラァッ!帰宅の時間じゃコラァ!』


ズドムッ!!!


「グゥフッ!?」


その渦を見て一体何だろう?と思った瞬間、バシャン!とそこから飛び出す様に物凄い勢いで現れた『水質測る君』が、高速横回転をしながら俺の鳩尾へと突撃してきた。


ドカッ!ズシャッ!ゴロゴロゴロ・・・ドンガラガッシャーン!!


「ゴゥハァッ・・・!?」


その突撃が直撃した俺の体は勢い良く吹き飛び、浴場のタイルの上をバウンドし、転がって行き、最後には重ねる様に積み立てられていた木桶に頭から突っ込む嵌めになってしまった。


「おぉ・・・、おおぉぉおうぅぅぅうぅ・・・・・・!?」


幾つもの崩れた木桶に埋もれながら、突撃を受けた腹を押さえてビクンッ、ビクンッ!と体を震わせる。

『水質測る君』の一撃は凄まじく、俺はそのあまりの衝撃によってまともに体を動かせなくなっていた。


(・・・というか、正直言って吐き気がヤバいんですけど・・・!さっきの一撃のせいで、せっかく食べた夕飯が戻りそうなんですけど・・・!?お腹の他に口元を押さえてはいるけど、マジでヒロインならぬゲロインになりそう・・・!いや、悪の組織に所属しているからヒロインと自称するのは色々とおかしいとは思うけど、マジでそれぐらいヤバイ・・・!?)


「うっ・・・ぐっ・・・!」


優秀な怪人ボディのおかげか、さほど時間が掛かることなく段々と吐き気が治まってきたので、寝転がっていた体勢から上半身を起こし、それからなんとか立ち上がる。

一応最低限動く分には問題なさそうであったが、立ち上がった際の足取りはフラフラとした状態で、近くにあった鏡で自分の顔を見てみれば、一目で体調が悪いと思えるくらい顔色が真っ青となっていた。


ドタドタドタッ、ガラッ!


「失礼します!大丈夫ですか!?」


鏡に写る自分の顔色を見て、「具合悪い人にしか見えないな」と思っていると、急いでいます!と表現できそうな足音が脱衣場から聞こえてきて、次いで勢い良く戸が開いて風呂場まで付き添ってくれた警察官が顔を覗かせた。


「大丈夫ですか、渡辺さん!何があったんですか!?」


俺の顔色を見て、「すわ事件か!?」と血相を変える警察官。

だが、俺はそんな警察官に対して「事件じゃないです。事故です。」と首を横に振る。


「ちょ、ちょっと、足を滑らせて、重ねてあった木桶に頭から突っ込んじゃいまして・・・・・・!」


「そ、そうなんですか?でも、なんだか顔色が悪そうですが・・・?」


「倒れる際に、床とお腹の間に木桶を挟みまして、今絶賛吐き気を我慢しているとこーーーーーーうっぷ・・・!?」


「そ、そうだったんですか・・・。あの、無理しなくてもいいですからね。脱衣場まで来れますか?」


「ええ、大丈夫で・・・ーーーーーーッ!?」


心配気な視線を向けながら脱衣場まで来れるかと問い掛けてくる警察官。

俺はそれに頷こうとして、しかしそこで体の表面を何かがヌルリと舐めるような感触を覚えた。

()()”の形は細長い縄に近い何かであり、ズリズリと這いずるように体に巻き付きつつ、水に濡れたコンニャクのような滑りを感じさせながら浴衣の中へと入り込んできた。


「一体何が・・・、って、えぇ・・・!?」


自分の体を見下ろして、現在進行形で巻き付いてきているモノの正体を見た俺は、(小声で)驚きの声を上げた


『隠遁モードじゃ、オラァ・・・!』(小声)


その正体とは、『水質測る君』であった。


「ちょ・・・!?うんんぅ・・・!?」


ウジュルウジュルとお湯に濡れた触手を絡ませ、這わせつつ、俺の体にピッタリと張り付く『水質測る君』。

光学迷彩を起動して姿を隠していることから、おそらく事前にプログラミングされていた隠密行動状態だとは思うのだが、それで何故俺の体に巻き付いてくるのか分からなかった。


「はうっ!?あっ・・・!くうっ・・・!?」


本体を胸下辺りに固定し、本体から伸びる滑った触手が全身を舐め回すように這いずりながら絡み付く『水質測る君』。

その触手の一挙一動に背筋がゾクゾクと粟立ち、不快感のような、でもどことなく違うような、そんな感覚を味あわされる。


「(何この感覚・・・!?段々変な気分になって・・・!っていうか、なんか収まっていた吐き気が振り返して・・・・・・!?)」


奇妙な感覚と吐き気のダブルパンチに思わず両膝をつく。

マジで早くなんとかしないと!?と内心で思い、浴衣の上から『水質測る君』のスイッチを押そうとするが、どうやらスイッチは体にくっついている方にあるようで、上手く押すことが出来ない。


「(くそっ!?一旦引き剥がさないとダメか・・・!だけどその為には、目の前にいる警察官を何とかしないと・・・!)」


殺人事件が起こった手前、怪しげな機械を持ち込んでいたことがバレたら、犯人として挙げられる可能性が高くなる。

なので、『水質測る君』をどうにかする前に、まずこの警察官を浴場から退散させるべきだと考えた俺は、何故か若干前屈み状態になっている彼に向けて声を掛けた。







渡辺光と風呂場まで付き添って来ていた警察官は、浴場で体を捩じらせている彼女を目の前にしてどうすればいいのかと考えていた。

温泉に忘れ物をしたと言う彼女を脱衣場まで送った後、戻るまで入口で待機していると話して待っていたのだが、突如脱衣場からドンガラガッシャーンという音が聞こえて来たことに驚いた。

もしかして彼女に何かあったのではないかと慌てて中に入った警察官が目にしたのは、顔色を青褪めさせながらフラフラと千鳥足状態となっている渡辺光の姿であった。

大丈夫かと問い掛けると、なんでも足を滑らせてお腹を木桶に打ち付けてしまったらしく、顔色が青いのも、喉元に湧き上がってくる吐き気を我慢しているからだと彼女は答えた。

少なくとも事件などではない事に安堵の息を吐いた警察官。まあ、一息ついた後にどうして彼女が浴場にいるのかと疑問を覚えたりしたが。

多分渡辺光の言う忘れ物というのは、浴場での落し物だったのかなと当たりをつけた警察官は、脱衣場まで来れるかと彼女に問いかけた。

渡辺光は頷き、一歩足を踏み出そうとした瞬間、ビクン!と突然両肩を跳ね上がらせて硬直した。

それから何故か急に両腕で体を抱きしめつつ身を捩り始め、悩ましげな色気を感じさせる息を吐き始める彼女。しかも先程は気付かなかったが、彼女はお湯か何かを被っていたようで、濡れた浴衣が肌に張り付き、その年齢からすれば色々と発育が良すぎる体型を顕わにしていた。

一体何がと思いつつも、渡辺光から感じさせる年齢以上のエロスを目にし、耳にした警察官は、頬を赤く染めながらその彼女の姿に魅入られていた。

顔色を真っ青に染めながらどことなく頬を羞恥に赤く染めつつ、ビクンビクンと体を小刻みに震えさせる姿に、警察官の加虐心が大いに刺激され、もっと見ていたい・・・!直にその体に触れてみたいという欲求が湧き上がってくる。

無意識のうちに彼女に向かって手を伸ばそうとして、しかしそこで「自分は何をやっているんだ・・・!」と正気に戻った。

正気に戻った警察官は、「危なかった・・・!?」と目を瞑り、頭をフルフルと横に振るう。

今の羞恥に震える彼女の姿は男の性的欲求を過剰に刺激するモノであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()警察官にとっては、非常に心臓に悪いと言うか、目に毒過ぎるモノであった

かといって目を瞑ってその姿を見ないようにしても、耳から入り込んでくる艶めかしい声が警察官の正気度をガリガリ削って来ており、彼は内心で「もう本当にどうしたらいいんだ、これぇ・・・!?」と半ばパニック状態になっていた。


「ふぅ・・・、はぁ・・・。あ、あの、すみません・・・!」


「は、はいっ!?」


「俺は警察官ロリコンじゃあない俺は警察官ロリコンじゃあない」という呪文のような言葉を内心で呟いていた警察官は、突然目の前の渡辺光から声を掛けられたことに驚き、

裏返ったような声で返事を返しながら、「一体何事!?」と内心で独り言ちる。


「従業員の方に、お願いして・・・、換えの浴衣を、持って来てもらっても、良いでしょうか・・・?」


「ご覧の通り、服にお湯が、掛かっちゃいまして・・・・・・!」と胸元を押さえつつ、艶めかしい色気がたっぷりと含まれた声を溢す渡辺光。

彼女のその声を聞いた警察官は、自身の正気度がレッドアラートを鳴らすのを感じ、理性の糸が千切れそうになる感覚を味わう。

このままここにいてはダメだと判断した警察官は、「わ、分かりましたぁ!?今すぐ取ってきまぁす!?」と脱衣場に向かって全力疾走し、自らの警察官としての矜持を守るためにその場から脱出するのであった。






警察官が浴場から出て行っていった後だが、俺は何とか体に絡みついていた『水質測る君』を停止させることに成功した。

『水質測る君』の触手はまるでタコやイカの足の様に異様な吸着性を発揮してなかなか離れなかったのだが、最終的には本体を鷲掴みにして力づくで引き剥がし、起動するときにも押したスイッチを押して停止させたのだ。


「ヤバかった・・・。本当にヤバかった・・・!」


脱衣場の床にペタンと座り込みながら、喉元にまで迫り上がって来ていたモノを何とか飲み下しつつ安堵の溜め息を吐く。

『水質測る君』による鳩尾襲撃と触手による絡みつきのコンボは、俺の肉体だけでなく精神にまでダメージを与えていた。

まさか機械に、それも仲間が作った物に気絶する一歩手前まで追いつめられることになるとは思ってもみなかった。

何より一番ヤバかったのは、騒動に気付いた警察官が浴場に駆け付けて来たことだ。

彼がやって来たことで下手に動く事が出来なくなり、またそれが原因で『水質測る君』が身を隠すために俺の服の中に入り込んで来て、より一層状況が悪化したと言っても過言ではなかった。


「まあ、警察官には出て行ってもらったことで、如何にかすることが出来た訳だが、もう二度とこんな目には遭いたくないな・・・!」


虚空を見上げながら自身が吐露するその言葉は、心からの本音であり幾つもの感情が入りまじった切実さを感じさせるモノだった。







閑話:その頃の秘密基地


ギュピーンッ!


「はっ!?姐さんの助けを呼ぶ声が聞こえたような気がする!行か――――――」


「――――――せないぞ、アルミィよ。」


「ご、後生ですから行かせてください、ブレーバー様!姐さんの、姐さんの助けを呼ぶ声が聞こえたんですよ・・・!」


「いや、そんな声聞こえてないから。気のせいだから。なので、しっかりとベッドに横になって休もうか。」


「う、ううぅーっ!?いいから行かせてくださいよぉー!?」


「あのなぁ、君は今エネルギーが枯渇している状態なのだぞ?今出て行ったら行き倒れになる可能性が高いだろうが。」


「それでも、それでもぉ・・・!」


「ふぅ、やれやれ。この手だけは使いたくなかったが、仕方ない。アルミィよ、これを見よ!」


シュバッ!


「そ、それは・・・!?」


フリフリ・・・!フリフリフリ・・・!


「そう!これぞ人類が作り出した娯楽の一つであり、ペットショップにも普通に売られているアイテムであり、ペットグッズの代名詞の一つ・・・!」


「あっ・・・!ああっ・・・!?」


「その名も、猫じゃらしだ!」


フリフリフリフリ・・・!


「ニャ・・・、ニャァアアアーーッ!!」


ゴロゴロゴロッ・・・!


「ほーれほれほれぇ!こっちだこっち!そして今度はあっちだ!」


「あっ、あああっ・・・!?か、体が勝手にぃ!?」


「ハァーハッハッハッ!怪人となって人の姿を得ようとも、元となった動物の習性がなくなる訳ではないのだよ!ほれほれほれぇ・・・!」


フリフリフリ・・・!フーリフリフリフリ・・・!


「ニャッ!ニャニャニャッ・・・!フシャーッ・・・!?・・・くっ、くっそぉーっ!?体が、止まらないぃーっ!?」


「フハハハハハッ!我に勝とうなど、百年早いわぁ!」


フーリフリフリ・・・!フーリフリフリ・・・!


ゴロゴロゴロッ・・・!


「あ、ああっ・・・!アーーーッ!?・・・・・・・・・ガクッ・・・!」


バタン・・・!


「やれやれ、ようやくエネルギー切れでダウンしたか。回復が遅くなるから、あんまりこの手は使いたくなかったんだがなぁ・・・。よっこいしょっと。」


ヒョイッ・・・。スタスタスタ。


「さて、この子をベッドに寝かせるとして・・・。エネルギーが回復しきるまでは、動けないようにベルトで雁字搦めにでもしておくとしようかな・・・?」






次回は8月20日に投稿予定です。


裏話:温泉の中にいた『水質測る君』の反応。


『あん?呼ばれたんか?しゃあないのぅ。』←ポチッとなの時。


『そんなに急ぎなんか?なら超特急で向かわんとなぁ!』←連続でスイッチを押した時。


『超高速回転開始!方角固定!射出角度確認!』←水面が渦を巻いていた時。


『オォラァッ!帰宅の時間じゃコラァ!』←主人公の腹部に突撃した時。



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