ミッション32 山奥の温泉旅館殺人事件・・・!? 1
青年の指示を受けた中居さんは、すぐに警察へと連絡を入れた。
そして通報を受けてから十数分後、現場に到着した警察官達は早速調査を開始していた。
「事件の被害者は『真柴伝助』。三十一歳。職業不明。本日ここ『三幻亭』に宿泊しに来た客の一人。遺体が発見されたのは午後七時半頃で遺体発見現場は被害者が泊まっていた部屋、か。」
「死亡原因は見て分かる通り、包丁で心臓を一突き。おそらく即死でしょう。死亡推定時刻は午後六時半から発見された午後七時半の間だそうです。」
事件現場となった部屋の中で状況を確認していた刑事達は、ある程度現場を確認した後、部屋の外に出て、そこで待っていた俺達に声を掛けてきた。
「えー・・・、では、順番にお名前とご職業、被害者の真柴さんとの関係、あとは六時半から七時半までの時間帯に何をされていたのかをお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「まずは第一発見者のそちらの方から。」
「は、はい・・・。」
事情聴取を担当する刑事達に声を掛けられた中居さんが頷く。
「私の名前は『玉崎千鶴』と言います。この旅館『三幻亭』の従業員の中居をしています。真柴様とは特に関係性はありません。あるとしても、お客様と従業員といったくらいです。六時半から七時半の間はお客様にお出しする夕飯の準備と配膳を行っておりました。」
『玉崎千鶴』さん。二十八歳。
長い黒髪を三つ編みにしてお下げのように背中に流している女性で、数年前から『三幻亭』で働いている人。
そして、この人が最初に被害者の遺体を発見した人でもあるらしい。
「次は私でございますね。この旅館の女将をしております『三幻寺豊子』と申します。私と真柴様の関係は玉崎さんとそう変わりはありませんし、六時から七時半の間は彼女と共に夕飯の準備を行っておりましたわ。」
続いて名乗ったのは、第二発見者の『三幻寺豊子』さん。五十四歳。
自分で言った通り、『三幻亭』の女将であり、同時に旅館の経営者。背中がピンと伸びている姿からは、とても五十代という老いを感じさせない凛々しさがある。
その彼女がここにいるのは、玉崎さんのすぐ後で被害者の遺体を発見したかららしい。
この旅館の従業員で事件に関係する人物はこの二人だけなようだ。
「では、続いて本日この旅館に泊まっていたアナタ方のお名前をお聞きしてよろしいでしょうか?」
刑事はこちらに振り向くと、今日この旅館に泊まっていた人物達五人――――――つまり俺達に声を掛けてきた。
が、ここで一人の人物が手を上げた。
「その前にちょっといいだろうか、刑事さん。どうして私達はここに呼び出されたのだろうか?。」
手を上げたのは浴衣を着た恰幅のいい頭頂部が禿げている男姓で、どうして事件に関わりのない自分達が呼ばれたのだろうと、首を傾げながら刑事に問い掛ける。
「それについてなのですが、被害者が死亡する前に貴方と抗論をしていたという目撃証言がありましたので、来ていただいたのです。」
その問いに対して、関係無いわけがないだろうと言いたげな視線をその男性に送る刑事。
その視線を受けた男性は一瞬「うっ!?」としたが、すぐさま「やれやれ、仕方がないな・・・」と言いたげな態度を取る。
「なるほど、そういうことか。つまり私は容疑者の一人として疑われていると言うわけだね・・・。なら、その疑いを晴らさないとね。」
男性は「んんぅ!」と咳払いをする。
「私の名前は『西条睦月』。ヒーロー連合協会の幹部職に就いている。ちなみに幹部職がどういう仕事をしているのかについては控えさせてくれ。守秘義務と言うやつだからね。それで私と真柴君との関係だが、所謂上司と部下という関係だよ。ただし、十年前の、という言葉が先に来るがね。」
「なるほど。抗論の内容をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「構わんよ。なに、大したことはない。ヒーロー連合協会をクビにされた原因が私にあるのだと言いがかりをつけてきたのだよ。まあ、私には見に覚えの無いことだったので、何を馬鹿な事をと笑ってやったがね。」
そう言いながら苦笑する西条という男性。
その笑みは、自らに絡んできていた真柴という男性に対して嘲笑っているかのように感じられた。
まさかヒーロー連合協会の幹部がこんなところにいるなんてと思いつつ、というかこんな嫌みな奴が上司とか、ヒーロー達も大変だろうなぁと俺は思ったが、言葉には出さなかった。
「私の隣にいるのは、私の秘書をしてくれている『津川昌子』君と『霧崎美緒』君だ。六時半から七時半までの間は、自分達の部屋で彼女達と共に夕飯を頂いていたよ。」
「津川昌子でーす!」
「霧崎美緒と言います。西条さんの秘書をしております。」
西条の紹介で名前は名乗る二人の女性。
津川さんは茶髪ツインテールの可愛い系の元気な人。
霧崎さんは肩まで掛かる黒髪の綺麗な顔立ちの冷静そうな人。
二人とも二十四歳という若さであり、美人美女と呼ばれるに相応しい人物達だ。
「この二人が私と共にいるのは、元々社員旅行としてこの旅館に来たからなのであって、特におかしな関係ではないので変に疑わないでくれたまえ。」
うん。絶対嘘だな。
社員旅行と言うのに他の社員の姿が見えないことから、建前というのが丸分かりである。
こんな人が上にいて、ヒーロー連合協会は大丈夫なのだろうか?
「ふむ。まあ、いいでしょう。では次は、君の名前を教えてもらってもいいかな?」
とまあ、そんな事を考えている内に自己紹介が俺の番になったので、向こう側に飛ばしていた意識を戻し、目の前の刑事に対応する。
「はい。俺の名前は渡辺光と言います。そこの西條さん達と同じ宿泊客です。真柴さんとの関係ですが、旅館内で顔を見たことはありますが、名前も知らない初対面です。六時半から七時までは遊戯スペースにいましたけど、その後は七時半まで自分の部屋で夕飯を食べていました。」
「う、うぅん・・・、そうなのかい。所で、どうも君は未成年に見えるのだが、親御さんはどうしたんだい?」
来ると思ったその質問。
実際見た目未成年の少女が旅館に一人で泊まりに来ているなんて、色々とおかしく思うのは当然だろう。
しかし、それに対する回答は既に用意済みである。
「今この旅館に来ているのは俺だけなんです。元々は家族旅行の予定だったんですけど、俺以外の家族皆に急な予定が入ってしまって・・・。でも、わざわざ準備したのに行かないのももったいないから、俺だけでも行ってきなさいって勧められたんです。」
「むぅ・・・。そうなのかい。では、親御さんと話をしたいのだけど、連絡してもらってもいいかい?」
「あー・・・。それなんですけど、無理です。ウチの両親達、今外国に行っていまして、早々連絡が取れる状況じゃないんです。後日という事であれば可能ですけど・・・・・・。」
「む、むぅぅ・・・!そ、そうなのかい。それじゃあ、仕方ないね・・・。」
「ええ、仕方ないんです。」
困り顔になる刑事に、困った風な笑みを見せる。
これぞブレーバー及び戦闘員達と話し合って決めた設定。
その名も『両親が仕事で外国に行ってしまったので、仕方なく一人旅行にやって来た子供の言い訳作戦』(By.ブレーバー命名)である。
名前がめっちゃ長いのはともかく、未成年が一人でこんな所に来る理由としては可能性としてはありえない話ではないので、多少不可思議に思われる程度には妥当だろう。
事実この話を聞いた刑事は、「そんなことがあるんだなぁ・・・」と頻りに首を傾げながら一応の納得をした。
「ええっと・・・、では最後に貴方の自己紹介をお願いします」
俺から離れた刑事は、傾げていた首を戻して、この場にいる中の最後の人物である青年に声を掛けた。
「ええ、分かりました。僕の名前は『向井秀一』。西條さんと同じヒーロー連合協会に所属する、言わば同僚のようなモノです。」
「む・・・?という事は、貴方も西條さん達と共に社員旅行でこちらに?」
「あっ、いえ、違います。僕は西條さん達とは別件でこの旅館に来たんです。」
青年――――――向井秀一さんは薄らと笑いながら自己紹介を行い、自らがヒーロー連合協会に所属する人物であると話すも、西條達の様に社員旅行で来た訳ではないと答える。
「僕がこの旅館に来たのはとある依頼を受けてなんです。」
「依頼、ですか?」
「ええ。僕の本業は探偵なんです。ヒーロー連合協会に所属しているのは、探偵業を営む上で色々と有益だからなんですよ。」
利用するには都合のいい存在なのだと暗に語る向井さんの言葉に、思わず頬をヒクリと引き攣らせる刑事。
その後ろを見れば、ヒーロー連合協会の幹部職に就いている西條さんの頬も同じように引き攣っていた。
その表情は、「おまっ!?ここに職場の上司がいるのに、そんなこと言っていいのかい!?」と言っている様であった。
「ん、コホン・・・!えー、では向井さん、貴方が受けた依頼内容をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
咳払いをして気を取り直す刑事。
そして一拍置いてから向井さんが受けた依頼内容がどのようなモノなのかと問う。
向井秀一さんは構わないと頷くと自身が受けた依頼内容を話し出した。
ただし、守秘義務として依頼者の名前は伏せてであったが。
「僕が受けた依頼は十年前に行方不明になった友人を探して欲しいと言うモノでした。友人の名前は『二枝咲子』さん。女性。年齢は行方不明になった当時は二十六歳だったので、十年たった今だと三十六歳になりますね。この『三幻亭』に来た理由は、依頼人が二枝咲子さんから昔ここで暮らしていたという話を聞いており、もしかしたらここに何か手がかりがあるのではないかと思ったからです。」
「なるほど。では、六時半から七時半までの間は何を?」
「六時半から七時半まではそこの渡辺さんと共に遊戯スペースにいました。それ以降は旅館内を歩いて回って従業員の方に話を聞いたり、夕飯を頂いたりしていましたよ。」
行方不明の人探し。彼が本当に探偵であるというのなら別におかしいとは思わない内容だ。この旅館に来た理由もある意味筋は通っているし、特に矛盾は感じられない。
問い掛けた刑事も俺と同じ結論に達したのか、「なるほど」と頷いた。
「ありがとうございます。それでは次は、遺体発見時の状況を聞かせてください。まずは最初に遺体を発見した玉崎千鶴さんから。」
刑事から促された仲居さんの玉崎千鶴さんは頷いて、当時の状況を語りだした。
「は、はい。私が死んでいる真柴様の姿を見たのが午後七時半頃。女将さんである豊子さんと一緒にお部屋に夕食をお運びした時の事です。玄関口から何度もお声掛けをしたのですが、返事が無く。試しに扉を開けてみると鍵が開いていたので、そのままお声掛けをしつつ部屋の中に入ると・・・・・・」
「真柴さんが死んでいたという訳ですね。」
「はい・・・・・・。」
話の締めを引き継いだ刑事の言葉に頷く玉崎千鶴さん。
その顔色と表情は青く暗く、まさか人が死んでいる光景を見ることになるなんてと言う思いが簡単に読み取れた。
「旅館の女将である三幻寺さんも、この時彼女と一緒に遺体を見たのでしょうか?」
「ええ。私も彼女と共にあの人の死んでいる姿を見て驚いてしまいまして、思わず悲鳴を・・・。その後、私の悲鳴を聞いて駆け付けたのが向井秀一様でした。」
三幻寺豊子さんはその通りだと頷くと、向井秀一さんへと視線を向ける。
視線を向けられた向井秀一さんは、その通りだと頷く。
「悲鳴が上がる前、僕はロビーにある旅館の事務所にいまして、そこにいた従業員の方と話をしていました。そして悲鳴が聞こえた時、現場がすぐそこだったので、先にいた二人を除いて一番早く現場に辿りつきましたよ。現場に到着した後、状況の把握と確認を行いまして、まず真柴さんの生存確認を行い、この時点で既に死亡が確認されています。続いて玉崎さんと女将さんには一度部屋出てもらった後に、遺体とその周辺を手持ちのインスタントカメラで撮影しました。」
「インスタントカメラなんて、よく持っていましたね。今じゃ半ば骨董品扱いの代物ですよ?」
「意外と重宝するんですよ、これ。降って湧いた決定的な瞬間を撮影したりだとか、証拠を保存したりだとか、他にも色々と、ね。」
流し目をしつつウインクする向井さん。
顔が整っている分、その仕草に妙な色気が感じられる。
尚、撮影に使ったインスタントカメラは既に鑑識官に提出済みとのこと。
「・・・で、現場の撮影の最中にどんどん人が集まってきまして。そのほとんどが従業員でしたが、その中に西條さん達の姿も見られていました。」
「という事だそうですが、本当ですか?」
「ああ。確かに私達三人は現場へと向かったよ。悲鳴を聞いて一体何事だと思ってね。」
刑事に問われて頷く西條さん。
「だが、私達が現場に着いたのは従業員が既に何人か集まった後だし、事件が発生するまで私達はずっと一緒にいた。アリバイはきちんとあるのだよ。」
西條さんは、「自分達は犯人であるはずがない」と自信満々に胸を張り、その後で何故か俺に視線を向けて来てニヤリと笑った。
「だが、この場で唯一アリバイの無い、一番怪しい人物がいるなぁ。」
「・・・・・・まさか、俺が犯人だとでも言うつもりか?」
その嫌な視線に彼が何を言いたいのかを察した俺は、スッと少し目を細める。
「違うのかな?お嬢さん。君は一人でこの旅館に来たと言うではないか。つまり、君のアリバイを証明してくれる人物はいないという事。これほど怪しいと思える人物はいないだろう?」
「クククッ・・・!」と、嫌らしい笑みを浮かべながら言う西條さん。――――――否、オッサン。
やってもいないのに俺の事を犯人に仕立て上げようとする奴なんて、オッサンで十分だ・・・!!
「西條さん。まだ彼女から事件当時の話を聞いていないのですから、勝手な憶測をしないでください。」
「おやおや、これは失礼。」
刑事に勝手なことをするなと注意されたオッサンだが、まるで堪えた様子を見せない。
それどころか、未だにニヤニヤと気持ち悪い薄ら笑いを浮かべている。
「すまないな、渡辺さん。先程の件で気は進まないだろうが、当時の状況を教えてもらってもいいだろうか?」
「・・・・・・はい。大丈夫です。」
オッサンに向けてキッ!と鋭い視線を向けながら、俺は頷く。
「悲鳴が聞こえた時、俺は丁度寝る前の温泉に入ろうと、お風呂場に向かって旅館の廊下を歩いていた時でした。現場に駆け付けた時には既に人だかりが出来ていて、部屋の中を確認しようと思ったら向井秀一さんが部屋から出てくるところでした。」
「その時、近くに貴女以外の人物が誰かいましたか?」
「いえ。俺が歩いていた廊下には、俺以外誰も歩いていなかったので・・・・・・。」
刑事からの質問に答えていると、不意に横からオッサンの不快な濁声が響いて来た。
「ほぉら!やっぱりアリバイなんて無かったじゃないか!やっぱり君が彼を殺したんじゃないか?」
「あ゛ぁ゛・・・?」
まるで煽る様なその口調を聞いて、ビキッ!と額に青筋が出来る。
喧嘩売ってんのか、このオッサンは!?
「西條さん!聞き込みの邪魔をしないでください!」
「邪魔などしているつもりはないさ。ただ、一番犯人の可能性が高いのが彼女なんじゃないかと言っているだけだろう?」
再びの刑事からの注意も何処吹く風と言わんばかりに、漂々とそう言うオッサン。
その相手を小馬鹿にする態度と表情が、より一層腹立たしさを感じさせる。
思わず目が据わり、「一発殴って黙らせようか・・・!」と内心で思っていた時、事態はちょっと予想外の方向へと向かい始めた。
「一番犯人の可能性が高い人物、ね。楽しんでいる所悪いが、西條さん。俺達警察は、アンタこそがその犯人の可能性が高いと睨んでいるんだが?」
「・・・・・・え?」
その言葉を聞いて固まるオッサン。
俺もその言葉を聞いて驚き、聞こえて来た場所へと視線を向ける。
そこには草臥れ色褪せたスーツの上着を肩に羽織った、五十代のめっちゃ渋いオジサンがいた。
「な、なんだね君は!?」
「俺か?俺の名前は『斉藤五郎』。今回の事件の指揮を執っている警部だよ。」
斉藤五郎警部は口に咥えていた煙草を手に取ると、プハァーッ・・・!と煙を吐き出した。
「貴様!先程のセリフはどういうことだ!私を犯人だと疑っているのか!?」
「ああ、その通りだ。現在この場にいる容疑者の中で被害者の真柴伝助を殺害する理由を持つ奴は、唯一面識があるアンタしか考えられん。」
「ふ、ふざけるな!?私は殺しなどしていない!それに私にはアリバイがあるのだぞ!どうやってアイツを殺せるというのだ!!」
「目撃証言があるんだよ。アンタと真柴伝助が言い争いをしているという目撃証言がな。」
「はぁっ!?」
喚く様に自分は犯人ではないと叫ぶオッサンに対し、斉藤五郎警部は、スパァーッ・・・!と煙を吐きながら淡々と答える。
「・・・はっ!もしやその言い争いと言うのは、夕飯前の時の事か?ならば余計に私は犯人ではない!その時は私の秘書の津川君と霧埼君が一緒だった!それに、あの時私は言い寄る真柴をあしらって彼女達と共に部屋に戻っている!故に犯人は私では――――――」
「・・・・・・午後七時頃。アンタ、旅館の東トイレで真柴伝助と会ったんだろう?」
「――――――な、いぃぃっ!?な、何故、それを!?」
「その光景を目撃していた従業員がいたのさ。・・・いや、この場合は聞いていたと言うべきか。」
オッサンからの驚愕の視線を受けている斉藤五郎警部は、口に煙草を咥えながら淡々と言う。
「その従業員が東トイレの個室に入っている時に、アンタがトイレにやって来る声が聞こえたんだそうだ。その後に真柴もトイレにやって来て言い争いになったのをその従業員が聞いていた。そして話の終りに”お前の与太話などに付きあえるか”というアンタの声とドン!という音、そして真柴の苦しそうな呻き声も聞いたそうだ。」
煙草を咥えながら、スパァーッ!と煙を吐き出す斉藤五郎警部。
その瞳は鷹の目の様に鋭く、オッサンの顔を睨みつけていた。
「その後、その従業員が個室から出た時には、既にアンタと真柴の姿、その両方が無かったってぇ話だ。・・・てぇことはよぉ、考えられるとしたら、そん時にアンタが真柴を殺っちまって、殺害現場が東トイレであることを隠すために、真柴の部屋に遺体を運んだんじゃないのか?」
「なっ、なっ、なぁっ!?」
「なぁ、西條の秘書をやってる美人さん達に聞きてぇんだがよ。午後七時頃、コイツは部屋の中にいたかい?」
「「いえ、いませんでしたよ。」」
「き、君たちぃ!?」
「いや、ここで嘘なんか吐く理由が無いじゃないですか。」
「あの時、”ちょっとトイレに行ってくる”と言って、西條様が部屋を出たのは本当の事です。今ここで証言を偽ろうものなら、余計に犯人として疑いが強まることになりますよ。」
「「それに、下手に共犯者だと思われるのは、ちょっと・・・・・・。」」
「それが本音かね、君達ィーッ!?」
まさかの身内からの裏切り?に泣き叫ぶオッサン。
どんどん追いつめられるその姿にスカッとした気分を味わうも、幾らか同情も覚えてしまった。
「まあ、そういう訳だ。詳しい話は署で聞かせてもらおうか。」
「は、離せ!離せぇーっ!?私はやっていない!真柴を殺してなどいない!本当だ!信じてくれぇー!?」
斉藤五郎警部に襟首を掴まれて、ズルズルと引き摺られていくオッサン。
その光景からはなんとなく、荷車に乗せられて売られていく子牛の幻が見えそうであった。
「待ってください!」
「あん?」
「へぁっ・・・!?」
「うぇ!?」
斉藤五郎警部がオッサンを引き摺りながら表玄関から旅館の外へと出ようとした瞬間、そこへ突然待ったの声が掛けられた。
「待ってください、斉藤警部。まだその人が犯人であると決まったわけではありません!」
斉藤五郎警部に待ったの声を掛けたのは、探偵を自称している青年であり、現在俺の隣に立っている向井秀一さんであった。
閑話:その頃の戦闘員達
※会話をスムーズに行う為、直訳しております。
ザッ、ザザーッ・・・!
『こちら戦闘員一号。予定のポイントに到着したぜ。そっちはどうだ?』
『戦闘員二号だ。こっちもポイントに到着した。これより調査を開始する。』
『戦闘員三号でーす。僕も到着したよぉ~!僕の方も今から調査を始めるから!』
『了解。全員無事に辿りつけたみたいだな。じゃあ、俺も調査を始めるか。』
『了解。・・・それにしても、この山凄いね。今僕がいるのは結構な奥地で人の手が入っていない場所だけど、規模が普通の山の植生と段違いだよ。まるでジャングルだ。』
『おそらくバイオクリスタルの効果によるものだろうな。アレは有機物無機物問わず、きっかけがあれば何でも変質させちまうからな。』
『でも、今回は前人未到の場所とかじゃなくて良かったよなぁ。』
『確かに。未だにバイオクリスタルって、その生成方法がはっきりとは分かっていないからね。生成条件が色々と厳しすぎるからだというのは分かるけど、もし次を見つけるとしたら、今回みたいに辿りつく事が出来る場所であってほしいなぁ・・・。』
『それは願望としか言えんだろうよ。まあ、自分達で生成出来る様になれば、一々探しに行かなくて楽になるだろうと思うがな・・・。』
『それこそ願望だろう。少なくとも現在の技術力でそんな事出来る訳ないって。』
『それもそうだな。』
『『『アハハハハハハッ』』』
『それはそうと、ディーアルナ様の方は大丈夫かな。』
『大丈夫だろ。あの人の担当調査ポイントは普通の温泉旅館だぜ。そうそう何か起こる訳がないって!』
『少なくとも命に関わる程の危険性はないと思うがな。』
『俺としては羨ましいと思うがな。心温まる温泉に綺麗な景色、そして美味しい旅館の飯!俺も行きたかったぜ。』
『その気持ちは分かるけど、さすがに僕らが行くのは無理だよ。こんな怪しい恰好の連中を中に入れる訳がないって。』
『まあ、だからこそ、ディーアルナ様が向かう事になったんだがな。』
『いいなぁ、ディーアルナ様。俺も温泉入りてぇーっ!・・・・・・って、ん?』
ザッ、ザザザーッ・・・・・・!
『どうした、一号。』
『いや、なんか今、ガサガサって物音が・・・・・・えっ?何アレ?』
『一号?』
『ちょっ、マジで何アレ?凄く、大きいです・・・・・・!』
『おい、一号。一体何を見つけたんだ?』
『見つけたというか、やって来たというか・・・。あっ、こっち振り向いた。・・・んで、こっちに走って来たぁぁーーーっ!?ギャァァァァッ!?!?』
ザザザザザーッ・・・!!
『い、一号!?一体何があったの!?応答して、一号!』
『緊急事態だ。急いで一号がいるポイントに向かうぞ、三号!』
『りょ、了解!』
『く、来るなら早くしてくれ!も、もうアイツがすぐそこまで、グバァァァッ!?』
ドバゴォォーーーンッ!!
『『い、一号ォッ!?』』
次回投稿は8月15日です。




