ミッション30 調査を開始しちゃった・・・?
今日からミッション29からの続きの話の投稿です。
今回はちょっとした説明回です。
とある奥深い山の中。そこに一つの建物が存在していた。
名前を『山幻亭』と言い、知る人ぞ知る秘境の温泉旅館。
別名”強運を運ぶ旅館”とも呼ばれており、何かしら元担ぎを求める客がやって来る、その界隈ではそこそこ有名な場所であった。
そして今日俺は、悪の組織『アンビリバブル』の女幹部『ディーアルナ』こと、本名『渡辺光』は、この温泉旅館へと足を踏み入れた。
「こんにちわ~!予約していた渡辺光というモノですが~!」
「はーい!お待たせいたしました。」
旅館の入口から誰かいませんか的な声掛けを行うと、廊下の奥から一人の仲居さんが姿を現して出迎えてくれた。
「渡辺光様ですね?お待ちしておりました。ようこそ、『三幻亭』へ。お部屋までご案内させていただきますね。お荷物はお持ちいたしますか?」
「あ、いえ、大丈夫です。それほど多くは持ってきていないので、このまま自分で持って行きます。」
「分かりました。それでは、こちらにどうぞ。」
仲居さんは「ご案内いたします」と廊下の奥を差し示し、俺はその仲居さんの追うように旅館の中へと入った。
「こちらが渡辺様のお部屋になる『杉の間』でございます。どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい。ご用向きの際には部屋の中にある内線電話にてお呼びください。」
「はい。ありがとうございます。」
仲居さんは宿泊する部屋まで俺を案内し、部屋の内装をある程度説明すると、一礼してから廊下の奥へと歩き去って行った。
俺は部屋の中に荷物を置いてから、部屋の奥にあるガラス扉を開け、そこにあるベランダへと出た。
「うわぁ・・・いい景色・・・!」
ベランダから見えた光景はとても幻想的であった。
青々とした草木が太陽の光を反射して輝き、旅館の庭と思われる場所にある池には、このベランダからでも分かる程大きな鯉が泳いでいるのが見える。
遠くには川が流れているのも見えており、その上には滝の様になっている所もあった。
「温泉旅館に泊まるなんて生まれて初めてだなぁ・・・!」
目の前の光景を見ながら感嘆の声を上げる。
そもそも、どうして俺がこの『三幻亭』という温泉旅館に来たのかというと、悪の組織アンビリバブルの仕事をする為であった。
始まりは、元拾い猫であり現怪人となった『ミィちゃん』こと『アルミィ』が仲間になった後、調査に赴いていた戦闘員二号の連絡が着た頃まで話は遡る。
通信で戦闘員二号からの報告を受けた後、俺とブレーバーは調整室から作戦会議室へと移動していた。
そして俺はそこで、ブレーバーから戦闘員二号が例のアレと呼んでいたモノの正体を聞いた。
「『バイオクリスタル』?」
「うむ、そうだ。戦闘員二号に頼んだ調査は、それを探してもらう為のモノだったのだ。」
『バイオクリスタル』と呼ばれる結晶体。それが例のアレと呼ばれていた物の正体だと説明を受けた俺は、「何だそれ?」と思わず聞き返してしまった。
「何でそんなものを探していたんだ?・・・と言うか、なんでそれを探しているのを俺に秘匿していたんだよ?」
「むぅ・・・。それについては、『バイオクリスタル』とは何か、という事から説明を始めねばならん。」
ブレーバーはそう言うと、ピッピッと自分のブレスレットを操作し始め、空中にホログラムモニターを投映し、『バイオクリスタル』についての資料を出現させていく。
「最初にこの『バイオクリスタル』が発見されたのは、今から数百年ほど前の我の故郷。『ゼノージア』と呼ばれる世界の、とある火山口の中であった。発見された当時は、莫大且つ高密度のエネルギーのみで形作られたそれに、多くの研究者達が発狂しながら驚いていたそうだ。」
「発狂って・・・、なんか研究所らしいところが幾つも爆発しているんだけど・・・。」
映し出されていく映像の中に、表面から薄らと虹色の輝きが放放たれている六角柱の形をした綺麗な紫色の結晶体があり、おそらくこれがブレーバーの言う『バイオクリスタル』なのだろうと思う。
あと、何故かこの『バイオクリスタル』を研究していると思われる研究者たちが、全員万歳しつつ「フォォォオオオーーーッ!!!」と叫びながら研究所内を駆け回っている映像があり、しかもその後に爆発して研究所が穴だらけになっていくのを見て、冷や汗が流れた。
「うむ。それは『バイオクリスタル』を調べている最中に、エネルギー操作を誤って爆発させてしまった映像だな。」
「ちょっ・・・!そんなにヤバい物なのか!?」
下手に弄ったら大爆発を起こす代物であるという事を知った俺は、思わず頬を引き攣らせる。
「エネルギー操作を誤れば、と言う話だ。そもそも当時は『バイオクリスタル』という物質が何なのかを研究している最中であったからな。色々と試している内に突然爆発することがあったらしい。まあ、『バイオクリスタル』自体は爆発しても壊れなかったんだが・・・。」
「壊れなかったの・・・!?爆発したのに・・・!?」
「うむ・・・。研究していく過程で判明したことなのだが、どうやら『バイオクリスタル』という結晶体は、一つの惑星に存在する全てのエネルギーが寄り集まって物質化したものらしく、見えるし触れもするのだが、元々が純粋なエネルギーで構成されたモノであるため、半ば精神体――――――所謂エーテル体と呼ばれるモノに近い物体である様で、―――――――――」
「・・・えっと、ごめん、ブレーバー。もう少し分かりやすく・・・・・・。」
詳しい説明をしようとしてくれているのは分かるのだが、内容が専門的すぎて理解が追い付かない。
「む・・・?分かり辛かったか?そうだな・・・。先ほど言った高密度のエネルギーを一本の糸に例えて言うなら、『バイオクリスタル』とは幾千幾万種類のそれが複雑に絡まり合い、折り重なって固まったモノとでも覚えればいい。」
「つまり、普通の手段では早々壊れる事の無いモノってことでいいのか?」
「その認識で間違いない。それに加えて、壊れない限りは常時エネルギーを生成し続けるというのも付けるがな。」
少なくとも、最初の説明よりは分かりやすいと思った俺は、「なるほど」と頷きながら己の見解を口にし、それを聞いたブレーバーは頷いた。
その後、ブレーバーは一度咳払いをしてから、「話を戻すのだが・・・」と説明を再開する。
「研究者達にとっては半永久的物質なその構造もまた研究し甲斐があるモノだったのだが、それ以上に彼等の興味を引いたものがあった。それは『バイオクリスタル』の”変質させる”という特性だ。」
「”変質させる”?」
なにそれ?と思った俺は、首を傾げる。
「分からないと言った顔だな。まあ、無理もない・・・。当時の研究者たちの間でも、調べ始めた当初はその特性がどういうモノなのか全く分からなかったそうだからな。」
そう言いながらブレスレットを操作したブレーバーは一つのホログラムモニターを出現させ、それに映し出されていたものを見た俺は、思わず「うぇっ!?」と悲鳴を上げた。
それは、一人の研究員の体が突如異形のそれへと変貌し、研究所内で暴れている映像であった。
「・・・えっ?何これ?何でこの人、こんなことになっちゃってんの・・・・!?」
「これが『バイオクリスタル』の”変質させる”という特性の効果だ。彼はこの特性によって”怪人”になったのだよ。」
「えっ・・・!?」
ブレーバーのその言葉を聞いて、俺は驚きの声を上げる。
だってその姿は、テレビのニュースとかで報道されたり、俺自身が出会った事のある怪人の姿とは比較にならないほどの醜悪なそれであったからだ。
体の真ん中から半分が膨れ上がった肉塊の様なものに変わり、そこから大小様々な太さ長さの触手を生やしている。
唯一原型を保っているもう半分も青黒く変色し、所々から長い毛や鱗の様なものがあるのも見受けられた。
見た目はまるっきり化け物と呼んでも差し支えない姿に、思わず俺は呟いてしまった。
「これが、怪人だって・・・?」と。
「なあ、ブレーバー。これは、本当に怪人なのか・・・?」
「うむ、間違いない。ただ、より正確には、怪人に成りかけている状態と言うのが正しいだろう。」
「・・・・・・ん?怪人に成りかけている?」
その言葉が理解できなかった俺は、「どういう意味だ?」と問い掛けながらブレーバーへと振り向く。
「『バイオクリスタル』は結晶体内部にて生成したエネルギーを常に周囲へ放射しているのだが、それに”変質させる”という特性が付与されているらしく、それを受けた存在は強制的に変質、もしくは進化をさせられる様なのだ。しかも生物や非生物問わず、だ。」
「・・・ってことは、この人はそれを受けて?」
「そうらしい。何でも実験中に事故が発生して、『バイオクリスタル』から生成されたエネルギーが暴発。それを避けようとして中途半端に浴びたことで、このような姿になったそうだ。」
ブレーバーからの説明を聞いた俺は、「ええぇ・・。」と呟きながら頬を引き攣らせた。
そして、はっ!と気付いた。
「・・・ちょっと待て。確かブレーバー、それを探しているって言っていたよな。・・・まさか、欲しいのか?」
「うむ。その通りだ。」
「マジかよ・・・。・・・というか、そんな物騒な物を手に入れてどうするつもりだよ、ブレーバー。」
「研究用にというのも目的の一つだが、一番の目的はバイオチェンジカプセルの強化だな。」
「カプセルの強化に?」
『バイオチェンジカプセル』と言えば、自分が所属している悪の組織アンビリバブルで使用されている怪人を生み出す為の機械のことだ。
俺や元拾い猫のミィちゃんが怪人となる際に使用されたモノであるのだが、しかしどうして『バイオクリスタル』の入手がカプセルの強化につながるのだろうか?
「いや、待て。バイオチェンジカプセル・・・。バイオチェンジ・・・?」
そこまで考え、ふとカプセルの名前を思い出した俺は、「アレ?」と首を傾げた。
そんな俺の様子を見たブレーバーは「気付いたようだな。」と頷いた。
「そう、名前で分かると思うが、『バイオクリスタル』とは、君やアルミィが怪人になる際に使用していたバイオニズム液の原料となるモノなのだよ。」
「うっそだろ・・・!?」
驚愕する俺に対し、ブレーバーは「嘘ではない」と返事を返す。
「バイオニズム液とは、『バイオクリスタル』を純水の中に一年間浸けておくことで、生み出される液体なのだ。それを発見したのが我のご先祖様なのだ。」
「どうだ、凄いだろう!」と胸を張るブレーバー。
「ちなみに、どうして純水に浸け込むことでバイオニズム液が出来るのかと言うと、長い時間をかけて『バイオクリスタル』の”変質させる”という特性が、純水の性質そのものを変質させたことで同じ特性を持つようになったと考えられている。」
『バイオクリスタル』とバイオニズム液の関係性を知った俺は、頬の引き攣りが止まらなかった。
「という事は、何か?俺達の体にもその特性が付いているという事になるのか?」
そう呟いてみたのだが、ブレーバーは首を横に振る。
「いいや。君達にそのような特性は付与されてはいない。何せ怪人へと至る過程で、その特性そのものも変質しているからだ。」
「・・・ん?どういうことだ?」
話の内容が上手く理解出来なくて、思わず首を傾げる俺。
そんな俺を見ながら「実を言えば・・・」とブレーバーは説明を続ける。
「そもそも『バイオクリスタル』という結晶体は、それ単体ではただの綺麗な結晶体でしかないのだ。その特性を発揮させるためにはトリガーとなるモノが必要なのだよ。」
例えばそれは何かを欲する欲望だとか、ああしたいこうしたいという願いや思いだとか、そう言ったある種の感情に基づいたモノだと語るブレーバー。
「バイオニズム液での怪人化の際も、対象となる個体の能力や性質、そして抱いている感情に応じて付与された特性が変化し、その個体にとって適切な『能力』が発現する様になるのだ。」
バイオニズム液での怪人化のプロセスがどういうモノなのかを知った俺は、「な、なるほど・・・。」と頷いて見せた。
だが、そこで新たな疑問が出て来た。
「なあ、ブレーバー・・・。ちょっと気になったんだが、この秘密基地にバイオニズム液があるってことは、もしかしてここに『バイオクリスタル』もあるのか?」
そう。バイオニズム液の生成には『バイオクリスタル』が必要であり、そう考えると必然的にそれがこの秘密基地に存在するという事になる。
そしてその問いに対するブレーバーの答えは「もちろんあるぞ。」であった。
「実はバイオニズム液は、怪人化の際に使用した後にはただの水になってしまうのだ。どうやら、特性が能力へと変質して対象に付与される際にバイオニズム液の特性も消えるようになっているらしいのだ。」
それ故に、必然的に使い捨てにするしかなく、また未使用のバイオニズム液でも、『バイオクリスタル』から離されてから一週間経過するとその特性が消えてただの水になってしまうのだとブレーバーは話した。
「つまり、バイオニズム液を確保しておくためには、『バイオクリスタル』が絶対に必要という訳か。でも既に持っているのに、どうしてわざわざ探したりしているんだ?」
「うむ。そこに関しては『バイオクリスタル』自体の希少性が理由だ。『バイオクリスタル』が一つの惑星に存在する全てのエネルギーが集まった結晶体だという事は話したと思うが、それ故に形成される場所はかなり限定され、その年月も相当長いのだ。」
『バイオクリスタル』が発見される場所が大抵前人未到の所ばかりであり、生成にも千年単位の年月がかかるのだと聞いた俺は、「それじゃあ確かに希少になるのも仕方がない」と納得した。
「あと、我が実家に帰る条件の一つとして、新しい『バイオクリスタル』を発見して持ち帰るというのがある事も理由だったりする。」
「おい・・・!」
そして付け足すように言われた理由に、思わずガクッとした。
「いやな。元々我の一族は、研究者として名声を轟かせていた一族であってな。世界征服を始めるようになったのは何代か前の当主からだったのだが、その目的も『バイオクリスタル』を得るためだったそうなのだ。・・・まあ、今ではそこそこの数を手に入れることが出来たので、何が何でも欲しいという事はなくなったのだが、一族の中で一人前と認められるための慣例として今も残っているのだよ。」
「希少すぎるから、一族の中でも一人前と認められるようになるのに何十年と掛かる場合もあるんだけど・・・・・・」というブレーバーの呟きを聞いた俺は、どんだけスケールの長い話なんだと戦慄してしまった。
「まあ、そういう理由もあって、この世界に来た時から時々探してはいたのだが、――――――」
「――――――イッ、イイッ。」(――――――それを、今回俺が見つけたという訳だ。)
ブレーバーの言葉を、その時作戦会議室の入口から入って来た戦闘員二号が引き継いだ。
「イッ、イーイイー、イー。」(只今、調査を終えて帰還しましたぜ、ボス。)
「おお・・・。帰ったか、戦闘員二号。」
俺達の元へと近づいてきた戦闘員二号は、草臥れた様子を見せながらもシュビッ!と敬礼をし、それを見たブレーバーは「ご苦労だったな」と彼を労わった。
「それでは調査結果を報告してもらおうか。」
「イッ、イー。」(了解です、ボス。)
そう返事をした戦闘員二号は、自分のブレスレットを操作してホログラムモニターを投映する。
「イイイッ、イーイーイー。イイーイーイーイー。」(『バイオクリスタル』の反応が確認された場所は、栃木県にある那須岳と呼ばれる山の中腹。おそらくこの辺りに『バイオクリスタル』があるとは思われますぜ。」
俺達の目の前に出現したのは、山の形を模した立体映像であり、おそらくこれが戦闘員二号の言った那須岳だと思われる。
そしてその山の中腹辺りに円を描く様に赤い線が引かれており、この範囲内に探していた『バイオクリスタル』があるのだろうと当たりをつける。
「イイッ、イーイー。イイッイー・・・・・・」(ただ、申し訳ないですが、発見までには至りませんでした。せいぜい痕跡程度しか・・・・・・)
「いやいや!そこまで分かれば十分だ、戦闘員二号よ!捜索範囲を絞れただけでも僥倖だ!」
ブレーバーは「よくやってくれた!」と戦闘員二号を称賛し、それを受けた彼は「ありがとうございます。」と頷いた。
「しかし、よくここまで場所を特定できたな。確か『バイオクリスタル』って、普通なら前人未到の場所で生成されるんだろう?よくもまあ、見つけられたもんだ。」
「イイッ、イイーイー、イーイー。」(それについてなんだが、実を言えばその存在と場所は、数年前の時点である程度分かっていたんだ。)
「そうなのか?」
「うむ。そも、その存在が確認したのは、我がまだこの世界に来たばかりの頃の事だ。当時の我は自身の秘密基地を作るのに適した場所を見つけようと、色々な所を見て回っていてな。その際に、丁度この山の近辺に来たことがあったのだ。」
「丁度この辺だ。」と、ブレーバーは赤線に囲まれた場所から少し離れた所を指差した。
「我はここで偶然『バイオクリスタル』の反応を捉えてはいたのだが、当時の状況のせいでそれを探すことは出来なかったのだ」
ブレーバーが那須岳に到着してから数時間が経過した頃に、ヒーロー達からの襲撃があったのだと語る。
「山に向かう際に、我は途中近くの町に寄ったのだが、どうもその時に町の住人に姿を見られていたらしく、ヒーロー連合協会に通報されてしまったみたいなのだ。」
「あの時は本当に参ったなぁ・・・」とブレーバーは溜息を吐いた。
その後ブレーバーは、襲ってきたヒーロー達全てを返り討ちにした後、秘密基地を作るに適した場所を探すために再び旅立ったのだと言う。
「だが、今は違う・・・!秘密基地は作った。仲間も増えた。あの時できなかった事を、今こそ行おうと思ったのだよ。ちなみに戦闘員二号を派遣したのは、昔の出来事だという事と、ヒーローとの戦闘をしていたことで詳しい場所を覚えていなかった為だ。」
「なるほどね・・・・。それじゃあ次の任務は、その『バイオクリスタル』を手に入れる事、と言う訳だ。」
「うむ。その通りだ。とはいえ、まだ詳しい場所までは分かっていないので、今回はそれを特定する為の情報収集がメインだが・・・・・・」
「――――――ならばその任務、このアタシに任せていただこうかぁっ!」
ブレーバー達と話をしながら次の任務の確認をしていると、突如そんな気合の入った声が部屋の中に響き渡った。
「悪の組織アンビリバブルの怪人であり、姐さんの舎弟のアルミィ。ここに参・上!」
そして何処からともなく現れた猫耳猫尻尾女怪人ことアルミィが、シュバッ!とカッコ可愛いポーズを取りながら俺達の目の前に着地した。
・・・というか、本当に何処から現れたんだ、コイツは!?扉が開く音なんてしていなかったぞ!?
「姐さん。ブレーバー様。このアタシにかかれば、探し物程度なんて簡単にこなして見せますとも!・・・というか、置いていくなんて酷いじゃないですかお二人とも!アタシも話に混ぜてください!」
目の前に現れて、自信満々に「自分に任せろ!」と言うアルミィだったが、その後にどうして自分を置いていったのかと問い掛けて来た。
だが、それに対する俺達の答えは決まり切っていた。
「いや、だって、戦闘員二号からの通信の後に、君、倒れてしまったじゃないか。」
そう。俺達がこの部屋に移動しようとした時に、アルミィは『アタシも行きますぅ、zzz・・・』と言いながら突然バタリと倒れ、そのまま寝入ってしまい、流石にそのままにしておくわけにはいかなかったので、戦闘員三号に頼んで医務室まで運んでもらったのだ。
まあ、ここに来ている時点で、医務室から抜け出して来ているのは一目瞭然だが。
「ともかく!とーもーかーくー!今回の任務はアタシが行きます!そして、完璧に熟してみせたらアタシを褒めてください、姐さん!具体的には膝の上で頭を撫でたり顎を優しく撫でてください!」
元気よく言うアルミィであったが、セリフの後半では頬を赤く染めて、欲望丸出しのだらしない表情になっていた。
「欲望ダダ漏れ過ぎて、我ビックリ!?・・・でも、君は今回留守番だからね?」
「何故に!?」
だが、そこでブレーバーからダメだしが出た。
「いやいや。何故も何も。今の君はまともに活動できる状態ではないからだよ。」
「先ほどまで君は暴走状態だったんだぞ?」と言うブレーバー。
しかし、アルミィは諦めなかった。
「な、何を言っているんですか、ブレーバー様。アタシはこんなに元気なんですよ!?」
彼女は、「おいっちにーさんしー」とラジオ体操でやるような動きをして、「自分は元気いっぱいです!」というアピールをする。
だが、それでもブレーバーは首を縦には振らない。
「それは君の『Kエネルギー』を調整の際にある程度回復させているからだ。だがそれも飽く迄最低限。長時間での活動や戦闘を行えるほどには回復してはいないのだ。」
先程倒れてしまったのも、回復した分の『Kエネルギー』を使い切ってエネルギー切れになってしまったからだと語るブレーバー。
怪人にとって『Kエネルギー』とは、能力を使用する為の燃料でもあるが、同時に活動する為の生命力のような物でもある為、これが切れてしまうと回復するために強制的にスリープ状態になるのだと言う。
「現在の君は、暴走状態になっていたことによって保有している『Kエネルギー』を大量に消費している。その為、何時スリープ状態に陥ったとしてもおかしくない。」
そんな状態だからこそ、ブレーバーはアルミィを外に出すつもりはないのだと語ったのだが、当のアルミィ本人は「何を言っているんですか!」と声を荒げる。
「ほら!アタシはこんなに元気なんですよ!スリープ状態になんて、なるわけがぁzzz・・・」
そして「ほら、ほらぁ!こんなに元気一杯なんですよ!」と盛んに体を動かして、問題なく活動できるという事を示そうとしたアルミィだったが、その途中でパタリと、唐突に力尽きたように床に倒れて寝息を立て始めた。
「ほらぁ・・・、だから言ったのに・・・。」
「完全爆睡状態になっているな、この子。」
「イーイイーイー。イイイーイー、イー。」(おそらく回復していた分のエネルギーも使い果たしてしまったんだろうな。確か、こうなった怪人はしばらく目を覚まさないんですよね、ブレーバー様。)
「うむ。叩いたり、擽ったりなどの外部刺激をいくら与えようとも、エネルギーが回復するまでは梃子でも起きん。」
「つまり、留守番確定ということか・・・。」
元気いっぱいにアピールしたことによって無駄にエネルギーを消費してしまったアルミィに、思わず苦笑する俺達。
「まあ、彼女には医務室でしっかりと休んでもらうとして、それでは改めて新たな任務を告げるとしよう。」
戦闘員二号にアルミィを医務室に戻してくる様に指示を出したブレーバーは、こちらに正面を向けると、作戦内容を伝えて来た。
「ディーアルナ以下戦闘員達には、明日から那須岳にて『バイオクリスタル』の調査を行ってもらう。おそらく泊りがけの作業になるのでしっかりと着替えなどを用意しておくように。調査に必要な機材や拠点はこちらで用意するので、追って指示が出るまでは待機しておくように。」
そう指示を出したブレーバーに、俺は「了解!」と敬礼をするのであった。
次回投稿は8月5日です。




