外伝ミッション1ー9 情報屋と黒幕の末路・・・!?
「・・・う、うぅん・・・・・・」
呻き声のようなモノを上げながら、俺は真っ暗闇の水底のような場所から自身の意識が浮上していく感覚を覚える。
俯いていた首を持ち上げつつ、自分は眠っていたのか?と思いながら目を薄らと開けてみるも、視界はぼんやりとしていてよく見えない。
己の耳には、何か複数の足跡が周囲を歩いて回っている音と、パチパチと何かが燃えるような音が聞こえて来る。
「ゲホゲホッ・・・!?」
一度目を閉じてから深呼吸をしようと思い、鼻から空気を吸ったのだが、その際に強烈な腐敗臭が感じられ、思わず咽こんでしまった。
「・・・・・・えっ!?」
結果的にその腐敗臭によって意識が完全に覚醒した俺は、涙目になりながらもしっかりと目を開き、そして己の視界に入った光景に驚いた。
「「「ドンドン、パンパン、ドンパンパン!」」」
「「「カタ、カタ、カタ、カタ!」」」
「「「ドンドン、パンパン、ドンパンパン!」」」
「「「カタ、カタ、カタ!」」」
『『『ヨイヨイ!』』』
なんと、複数のゾンビやスケルトン、幽霊の群れが円を描く様に歩きながら踊っていたのだ。
それはまるで夏祭りにでも踊る盆踊りのような動きであり、なんというか、色々とミスマッチ具合を覚える光景であった。
「な、何これ・・・?って、あれ・・・!?」
思わず呆然とした俺は自身の腕を動かそうとして、しかしそこで全く動かせない事に気付いた。
「し、縛られてる・・・!?」
己の腕が、縄で木の棒に巻き付けるように縛られている光景を目にして驚きの声を上げる。
しかも縛られているのは腕だけではなく両足もであり、今の俺の姿はまるで十字架に貼り付けられたとある聖人のような状態になっていた。
周囲の景色も見てみると、どうやらここは洋館の中にあるどこかの部屋の一室の様だ。
「イッ、イィィイイッ!?イイッ!イイイッ!!」(う、うぉぉおおっ!?放せ!放しやがれぇ!!)
「イ、イィィ・・・!イーイィー・・・!?」(お、美味しくない・・・!僕は美味しくないよぉ・・・!?)
『無駄だ無駄だ・・・!お前達も早く我らの仲間となるのだぁ・・・!!』
「「・・・イッ、イイッ!?」」(・・・って、一号がまた憑りつかれている!?)
後ろから「イーイー!」という声が聞こえて来たのでそちらへと振り向くと、そこには自身と同じように縛られている戦闘員達の姿があった。
所々若干の煤があるものの、自己修復機能によって動ける程度には回復したのか元気そうであった。
・・・・・・約一名、なんかまた憑りつかれているけど。
「い、一体何がどうなって・・・!確か、あの骨格標本を倒して、それから・・・・・・ッ!?」
訳が分からない事態に混乱する頭。
その中でどうして自身がこんな状況に陥っているのかを思い出そうとして、そこでようやく自身がゾンビとスケルトンの群れに押しつぶされたことを思い出した。
「そうか・・・!つまりあの後、俺は捕まってしまったというわけか・・・・・・!」
『その通りだ、娘子よ!』
「・・・ッ!?」
これまでの経緯を思い出して、思わずポツリと独り言を溢すと、それに応える様な声が聞こえて来た。
『クハハハハッ!ようやく目覚めたか!お主が目を覚ますのを待ちわびていたぞ!』
声が聞こえて来た方向へと視線を動かすと、そこには口元にたっぷりの髭を生やしたスキンヘッドの老人がいた。
否、その姿が半透明に透けて見え、腰から下が煙のようになっていることから、正確には老人の幽霊と言うべきだろう。
「だ、誰だアンタ・・・!?」
『寂しい事を言ってくれるな。つい先ほどまで、我らと熱い戦いを繰り広げていたというのに。』
「えっ・・・?」
老人の幽霊の言葉を聞いた俺は、「何を言っているんだろう?」と一瞬思ったが、この幽霊の話し方や先程の笑い声を思い出して、「まさか・・・!?」と呟いた。
「まさか、あの骨格標本に憑りついていた奴か・・・!?」
『そう。その通り!』
俺の答えに、正解だと頷く老人の幽霊は、両手を腰に当てながら胸を張る。
『自己紹介がまだであったな!儂の名は、”バスケット・ププロウ”!この洋館の管理をしているスーパー幽霊だ!』
『クハハハハハハッ!』と高笑いをする幽霊の老人ことバスケット・ププロウ。
俺はあの骨格標本の正体がこんな奴であったことに驚き、そしてなぜここにいるのかと声を上げる。
「馬鹿な・・・!?あの時ちゃんと倒したはずなのに・・・!」
『倒したと言うが、お主が倒したのは飽く迄儂の憑代となっていた物であって、儂自身ではない。本体である儂はなーんもダメージを負ってはいないぞ。』
『まあ、憑代を壊されたことには参ったがな・・・・・・』と、頭を掻くバスケットの姿を見て、思わず舌打ちをする。
「まさか倒し切れていなかったなんてな・・・!俺達をこれからどうするつもりだ・・・・・・!」
『クククッ!そんな事は決まっているだろう。あの戦いの中でも言っていたように、お主たちには儂らの憑代になってもらうのだよ。』
「・・・・・・え?アレ、マジで言っていたの?」
『当たり前じゃ!儂は嘘など言ってはいない!お主は一体なんだと思って負ったのじゃ!?』
「え?それはほら、よく怪談話にもあるじゃん。この恨みを晴らさで置くべきか、とか・・・。」
『儂をそこらの怨霊と一緒にするでないわ!そのような恨みなど儂にはありはせん!』
『あるとすれば、そう!食への探求のみよ!』と万歳するように両手を上にあげるバスケットの姿を見て、俺は「あの話、マジだったんだ・・・!?」と思わず頬を引き攣らせながら呟く。
どんだけ食べ物に飢えているんだ、コイツは・・・!?
『・・・・・・と、言う訳で、そろそろお主には儂の憑代となって働いてもらうとするかのう?』
「――――――ッ!?く、来るな!?」
まるでジリジリとにじり寄って来るかのように、ゆっくりと近づいてくるバスケット。
何とかこの場から脱出できないかと考える俺だったが、満足に体を動かすことが出来なかった。
本来普通の縄程度であれば力ずくで引き千切ることが出来る筈なのだが、的確に関節を拘束されているせいで上手く力が込められず、身じろぎする程度しか動かせない。
『クククッ!無駄じゃ無駄じゃ!お主はここから逃げることなど、出来はせん!』
「い、嫌だ・・・!来るな・・・!来るなっ!?」
両手をワキワキといやらしく動かしながら近づいてくる老人の幽霊に対して、体を動かす事の出来ない俺は、恐怖心を覚え、涙目になりながら首を横に振る。
『クハハハッ!さあ、今こそ、この儂の憑代となるの、じゃぶふぅっ!?』
「・・・・・・・・・えっ?」
そしてその手があと一歩まで近づいて来た時、バスケットは突如頭上から現れた赤い巨腕によって潰された。
「・・・・・・・・・」
「お、お前は・・・!?」
俺はその巨腕の主に見覚えがあった。
ソイツは、洋館にやって来た時から何度も見かけていた赤肌の巨人であった。
逃げたりしている最中にはよく分からなかったが、身長はおそらく三メートルくらいあり、上半身と両腕は筋骨隆々としていて、近くで見るば力強さがとても良く感じられる。
ただ、そんな上半身に対して何故か下半身はこじんまりとして、上下のギャップ差が凄まじい。
体の至るとこに縫合跡のようなモノが見られ、それは顔にも見られている。
頭部には申し訳程度に乗っかるように茶色の髪が生えており、まるでトマトのヘタの様な印象を覚えた。
「な、なんでこいつを・・・?仲間じゃなかったのか・・・?」
「――――――仲間とちゃうで。どちらかと言えば、その幽霊爺はウチの下僕やな。」
「ッ!?だ、誰だ!?」
目の前の光景を見て「仲間割れか?」と思っていた俺は、横から聞こえて来た女性の声に驚き、そちらへと視線を向ける。
「こんばんわぁ。お嬢ちゃん。」
そこにいたのは、妖艶さを感じさせる相貌と豊満な肉体を持つ一人の女性。
ゆるフワカールの長いワインレッドの髪に、日に焼けたような色合いの肌色。
胸元までを覆う肩出しタイプの赤いシャツと、黒いタイトミニスカートを身に着け、その上に袖と裾にだぶつきが感じられるコートのような白衣を羽織り、大きめの青いショルダーバッグを肩から掛けている姿が目に入った。
「イソベエから侵入者がいるとは聞いとったけど、まさかこないなお嬢ちゃんだとは思わんかったなぁ。素直に驚きやわ。」
「えっと、イソベエ、って誰?」
「ん?ああ、コイツやコイツ。このデッカイのがイソベエや。」
「・・・・・・えっ!?コイツ、イソベエって名前なの!?」
赤髪の美女が赤肌の巨人を指差し、俺はこの巨人の名前がイソベエだという事に驚きの声を上げる。
西洋人風の見た目なのに、名前が昔の日本人名って、こっちのギャップも十分に激しいな・・・!?
「さて、と・・・。お嬢ちゃんが何者なのか聞きたいところやけど、その前にやることがあるんで、ちょっと待っといてや。」
赤髪の美女はそういうと、赤肌の巨人イソベエに顎をクイッとする動作を見せる。
それを見たイソベエは、以心伝心とでも言うのか、己のやるべきことを理解したようで、先程叩き潰した老人の幽霊を鷲掴みにしながら部屋の奥へと歩いていき、そこにあった天井から垂れ下がっていた紐を引っ張る。
「な、なんだ・・・?床がスライドして、何かがせり上がってくる・・・?」
紐が引っ張られた後、部屋の奥の床が少し下に動くとそのまま横へとスライドして消え、現れた暗い穴から大きな壺のような、鍋のようなものが現れた。
『・・・・・・はっ!?わ、儂は一体・・・?』
そこで叩き潰された衝撃から気が付いたのか、バスケットが目を覚ました。
「目ぇ覚めたか、バスケット?」
『・・・えっ?・・・・・・ヒ、ヒイィィィーーーッ!?な、何故!どうして!?今日は帰ってこない筈じゃあ・・・!?』
自らの顔を覗き込むように見てくる赤髪の美女の姿を目にしたバスケットは、何か恐ろしい物でも見たかのような悲鳴を上げた。
「そのつもりだったんやけどなぁ。取引がご破算になったんで、しゃあないから家で気晴らしでもしよう思って帰って来たんよ。んで、いざ帰ってきたらウチの家が随分と荒らされていたことにビックリ。イソベエに聞いたんやけど、自分、家の中で随分と大暴れしたらしいなぁ?」
『そそそそれはアレですよ、アレ・・・!侵入者がやって来たので、それを撃退するために仕方なく・・・!?』
「嘘つくなや。自分、また憑代欲しさに人を襲ったんやろう?」
『何故その事を!?』
「イソベエに聞いた。」
『イソベエェーッ!また貴様かぁーっ!?』
『ぬぉぉおおおーーーっ!?』と、叫ぶバスケット。
何とかイソベエの手の中から逃れようと体を捻らせる動作をするも、一向に抜け出せない様であった。
逆にいい加減にしろ」と言いたげに、イソベエが鷲掴みにしている手をキュッと握りこむと、バスケットは『ギュッ!?』という悲鳴を上げて黙った。
「ウチ、言ったよなぁ。無闇矢鱈と人を襲うなって。」
『し、しかし、今回は侵入者で・・・!』
「アホ。侵入者であろうと同じ事や。前に自分が憑代を得た時に起こした騒動を思い出せや、このボケ!あの時の後始末にどれだけの出費が出たと思っとるんや!自分の言い訳なんぞ聞きとうないわ!仕置きや仕置きぃ!――――――イソベエ!」
パチンと指を鳴らす赤髪の美女。
それに応じる様にイソベエは先程現れた壺のような鍋のような物へと近づいていく。
『ま、まさか、それは・・・!?お、お待ちください!儂が悪うございました!だ、だから、だからアレだけは・・・!?』
「じゃかあしい!しっかり仕置きを受けろや、このアホンダラ!」
『ぎゃぁぁあああーーーっ!?!?』
ドボンッ!とイソベエの手によって壺のような鍋のような物に入れられるバスケット。
どうやら中には水が入っていた様で、バスケットが入れられる際に水飛沫が舞うのが見えた。
「おらおらおらぁ!どんどん掻き回したるでぇ、コラァ!!」
『ぎゃぁぁあああーーーっ!?と、溶けるぅ!溶けてしまうぅ!?アーーーッ!?!?』
赤髪の美女は何処からか先にヘラが付いた長い棒を持ち出すと、バスケットが入ったそれに突っ込んで、グ~ルグ~ルと掻き回し始めた。
掻き回されている側のバスケットは、悲鳴を上げながら水の中をグ~ルグ~ルと回っていく。
時折それから出して見せるその顔は必死さを通り越して最早死に体であり、どことなく溶けている様にも見え、聞こえてくる悲鳴もどこか悲壮感を感じさせるモノがあった。
「どうしたどうしたぁ!もうオシマイか?オシマイなんか、ワレェ!もっと根性見せろやぁ!!」
何よりも、鬼気迫る程嬉々として棒を掻き回す赤髪の美女が恐ろしかった。
「アハハハッ!もぉっと回れや、バスケットォ!」
『ヒィイイイーッ!?』
頬を赤く染めた彼女の表情は、「メッチャ楽しい!」という気持ちが口にせずとも分かるくらいに恍惚としていた。
彼女のその姿を見た俺は、次は自分の番かもしれないと思うと己の体の震えを抑えることが出来なかった。
文章が長くなってしまったので、前後に分けました。
続きは近日中に投稿予定です。




