外伝ミッション1-4 恐怖からの逃避行・・・!?
情報屋の館の北側にある玄関ホール。
俺達は戦闘員一号の姿をした何者かと、おそらくはその仲間と思われるゾンビやスケルトン、半透明の霊体のような者達に襲われた。
戦闘員二号は、応戦しようとブレスレットの電子ストレージから武器を手に取る。
「イー、イイー。イイイー?・・・・・・イッ?イーイイーイー・・・!?」(どうする、ディーアルナ様。この不利な状況をどう乗り切る?・・・・・・おい?一体どうした。何故返事をしない・・・!?)
目の前の敵に向けて銃口を構える戦闘員二号は、傍らにいた俺に指示を仰ごうとしてきていたが、正直今の俺にはそれに応える余裕はなかった。
「・・・・・・ッ!?」
頭上を飛び交う半透明の薄ボンヤリした何か。
それを見た俺は頭が真っ白になり、体を震えさせて棒立ちの状態となっていたからだ。
「・・・あ、ああっ・・・・・・!?」
「イッ・・・!?」(クソッ・・・!?)
そんな茫然自失状態となっている俺の姿を見た戦闘員二号は、今の俺ではまともに戦う事は出来ないと判断したのだろう。俺の腕を掴んで走り出す。
「イイッ。イーイー、イイー!」(仕方がない。ここは撤退するぞ、ディーアルナ様!)
戦闘員二号は、自分達に近づこうとして来るゾンビやスケルトン共を、両手に持つ二丁のマシンガンを撃ち放つことによって撃退と足止めを同時に行っていく。
「・・・ッ!?てっ、撤退って・・・。でも、あそこには一号と三号が・・・!?」
戦闘員二号に声を掛けられる事で、ある程度思考できる位には正気に戻ることが出来た俺は、思わず亡者の群れの中にいる戦闘員一号と三号の方へと視線を向ける。
彼等も助けたいと戦闘員二号に言おうとしたが、それは彼の叱責によって遮られた。
「イイイーイーッ!イッ、イイッ・・・!」(体が震えてまともに動かせない状態のアンタを放っておけるわけがないだろうがっ!それに、もう間に合わない・・・!)
「うぐっ!?」
戦闘員二号の言葉に、自分の事を見透かされたような気分になって言葉を詰まらせる。
彼の言う通り、今の俺の体はフルフルと震えるだけで、まともに動かすことが出来ない状態。
その原因は肉体的な部分ではなく、精神的な部分にあり、そこから来る恐怖心が体を鈍らせていたのだ。
ある程度正気に戻ったとしても、未だに体の動きは完全には程遠く、精々一般人程度の身体能力くらいしか回復していなかった。
「イ゛ィ゛ィィイイイイイイッ!?!?」(ギャァァアアアアアアッ!?!?)
「――――――ッ!?さ、三号!?」
顔を俯かせ、自身がお荷物となっている状況に悔しさを覚えていた時、戦闘員三号の悲鳴が聞こえてきた。
「「「ヴォォォ・・・!ヴァァァッ・・・!」」」
「「「カタカタカタカタ!」」」
「イ、イイッ!イイッ、イイイーッ!?」(な、何だお前等!こっち来んな、こっち来んなぁー!?)
戦闘員一号(仮)に両肩を掴まれていた戦闘員三号は、ゾンビ達に囲まれながらも懸命に手足を振って奴らを撃退していた。
「オレサマ・・・、オマエ・・・、マルカジリ・・・!」
「イイーッ!イイイーッ!!」(う、うぉぉおおおっ!食われて堪るかぁーっ!!)
「カタカタ・・・、アキラメテ、オレタチノ、ナカマニナレ・・・!」
「イ゛ィ゛ィィイイイッ!?イーイイーッ!?」(ぎゃぁぁあああっ!?骸骨が喋ったぁっ!?)
『・・・・・・ラーメンクイテェ』
「イィィッ・・・イッ、イイッ!?」(ぎゃぁぁっ・・・って、何故にラーメン!?)
雄叫びや悲鳴を上げながら近付いてくるゾンビ共を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、時には投げ飛ばしもする戦闘員三号のその姿は、まさしく一騎当千の武将の様であった。
『『『ゲッゲッゲッゲッ!』』』
「イッ、イッ、イッ・・・、イィィィイイイイイーーーッ!?!?」(ちょっ、まっ、ノ・・・、ノォォォオオオオオーーーッ!?!?)
「三号ォォーーーッ!?」
だが、やはり多勢に無勢であり、亡者の雪崩とも言えそうなその物量は凄まじく、戦闘員三号は奮闘空しく瞬く間に押し潰されてしまい、その姿は指の先すらも見えなくなってしまった。
「そんな・・・、三号が・・・・・・。」
「イイッ!イイイー!」(呆然としている暇はない!早くここから逃げるぞ!)
「くっ・・・!?」
亡者の群れの中に消えた戦闘員三号の姿を、目尻に涙を溜めながら呆然と見ていた俺。
しかし、その事に嘆いている暇もなく、次から次へと現れる亡者の群れ。
自らに迫って来る亡者共を横目で見つつ悪態を吐き、後ろ髪を引かれる思いをしながらその場からの撤退を開始する。
「イーイーイイー!イー!」(一階はもう全部奴らで埋まっている!二階に上がるぞ!)
「・・・分かった!」
二階から一階へと自分達が下りる時に使った東側の階段は、既に亡者達が押し寄せて足の踏み場もないほど埋まっていたため、消去法で位置的に近くて亡者がいなかった西側の階段を俺達は駆け上がる。
駆け上がった先には西側の渡り廊下へと出る扉があり、そのまま勢いよく扉を開けて渡り廊下へと出る。
「・・・イッ!イイィッ!」(・・・施錠!封鎖ァ!!)
俺の後に西側渡り廊下へと入った戦闘員二号は、亡者共が入って来れないように扉を閉め、近くに幾つか並べられていた、剣を掲げた騎士の上半身を模した石像を動かして扉の前に置き、向こうからは開けられないようにした。
その後、ドンドンドンと強い力で扉が叩かれる様子が見られたが、石像が壁となったことで開けることが出来ない様子であり、少なくともこの扉からのこれ以上の侵入は無さそうであった。
「イィ・・・。イッ、イーイーイー、イイー・・・・・・。」(ふぅ・・・。とりあえず、これでアイツ等はこの扉からこっちに来ることは出来なくなった訳だが、この後はどうするべきか・・・・・・。)
「脱出出来るかも知れなかった北側の出入口を塞がれてしまったからというのもあるけど、戦闘員一号と三号の事もある。アイツ等を助けられないのかな・・・・・・。」
戦闘員二号は掻いてもいない冷や汗を拭う動作をしながら、今後の行動をどうするかと悩み始める。
俺はそれに荒い息を整えようとしながらそれに同意しつつ、部下であり、仲間である戦闘員一号と三号を助け出す事は出来ないかと戦闘員二号問いかける。
「イイーイー、イーイーイー。」(言いたいことは分かるが、今の俺達にはどうしようもないだろう。)
二人の事を助けたいという気持ちが伝わったのか、頷く戦闘員二号。しかし、そのすぐ後で自分達が負うリスクの方が遥かに高いと首を横に振る。
「イイイッ。イー、イイー、イッ。イーイイーイーイー、イイー。」(それに現状では全く戦力が足りていない。脱出するにしても、アイツ等を助けるにしても、な。そして、それを行う上で一番の問題となるのは貴女だ、ディーアルナ様。)
「――――――ッ!?な、何を言って・・・!?」
「イイッ。イイイッ。イー、イイイー、イーイー。イイイッ、イッ。」(戦闘員二名の脱落。戦力という面で考えれば確かに痛い。痛いがしかし、俺としては例え彼等が欠けたとしても、戦闘能力と言う点では問題はないと考えていた。本来ならば、な。)
「・・・そ、それは・・・・・・」
戦闘員二号の指摘に、彼が言わんとしていることをなんとなく察して、思わず言葉を詰まらせる。
「イー、イイイー。イイーイー、イーイイー、イイイーイー。」(現状で無事なのは、俺とディーアルナ様の二人。戦闘員の中で重火器の扱いに長けた俺と、俺達戦闘員よりも遥かに強いディーアルナ様であれば、あのゾンビやら骨やらの連中なんてどうとでも出来た筈だ。)
戦闘員二号は、自らの顎を左手で触りながら自身の考えを語る。
「イイッ、イイーイー。イーイー。・・・・・・イッ、イイイッ、イイーイーイー。」(アイツ等は数こそ多かったが、戦闘能力はそれほど高くはなかった。動きも精々一般人の身体能力程度。・・・・・・いや、一部体が腐っていた奴もいたからそれ以下もいたかもしれないが、それでも俺と貴女なら問題なく奴らを蹴散らせただろう。)
「・・・・・・うっ!」
痛い所を突かれたとうめく。
確かに俺が本来の戦闘能力を引き出せていれば、彼の言う通り問題なくアイツ等を蹴散らせていただろう。
それは主観に基づくものではなく、客観的事実からくる評価である。
「イッ、イイッ。イイイーイー。イー、イイイッ。」(しかし、実際に戦闘を行ったのは俺だけ。ディーアルナ様は体を震えさせて動けないでいた。何か理由があると思うが、今の状態では再びアイツ等と対峙しても同じ結果となるだけだ。)
「・・・・・・ぐふうぅっ!?」
戦闘員二号の追及は止まらない。
彼の言葉の槍が自らの体に刺さる様を幻視し、胸を押さえながら後ずさる。
正論オブザ正論。
俺には戦闘員二号の言葉が、暗に役立たずのお荷物だと言っている様に聞こえていた。
「イッ、イイイーイーイー・・・・・・、」(さて、そんな役立たずのお荷物となってしまうディーアルナ様だが・・・・・・、)
「こいつ、伏せていたことを口に出しやがった!?」
「・・・・・・イイッ、イーイーイー?」(・・・・・・どうして動けなくなったのか、その理由を説明してもらえると助かるんだが?)
「しかもツッコミをスルー・・・・・・!?」
北側玄関ホールで現れたゾンビの群れを見て、どうして急に体を震えさせて動けなくなったのかを聞いてくる戦闘員二号。
俺のツッコミも聞いていた筈だが、現在の危機的状況の事を考えて、「そんな事に構っている暇などない」と聞き流された。
「イイッ、イー?」(それで、返答は?)
「・・・・・・う、うぅっ・・・!・・・・・・・・・はぁっ・・・、分かった、答えるよ。」
俺はため息を吐きながら、どうして自身が動けなくなったのかの理由を戦闘員二号に語り始める。
「・・・・・・・・・動けなかった理由は簡単だ。怖かったんだよ。」
「イイー?イイイッ、イーイー・・・・・・」(ゾンビやスケルトンがか?確かにアイツ等の見た目は忌避感を感じてしまうし、怖がることは不思議ではないな・・・・・・)
俺が口にした理由を聞いて、なるほどと頷く戦闘員二号。
おそらくは、まともな感性を持った人間であれば、アイツ等の見た目に恐怖を感じることは当然の事だろうとでも考えているのだろうが、実際には少し違う。
「俺の理由から推察して納得しようとしているところ悪いけど、そっちは全然怖くないんだ。」
「・・・・・・イッ?」イイッ、イーイイー。(・・・・・・なに?しかし貴女は今、アイツ等が怖いと言ったではないか。)
「確かに怖いと言ったけど、別に全部が全部怖かったわけじゃないんだ。二号が言ったゾンビとかスケルトンとかなら、気持ち悪くは感じるけど怖くはない。」
死んでいるのに動くという点で驚きはすれど、結局は驚く程度で終わるだけ。
「俺が恐怖を感じていたのは、あの中に混ざっていた半透明の奴に対してだ。だって・・・、だって・・・!アイツ等は、殴れないからっ・・・・・・!!」
肉体という実体があれば全然恐怖は感じない。
だって触れるから。
しかし、逆に実体の無いもの関してはそうはいかない。
だって触れないから。
「イイイッ!?・・・イッ、イイッ、イー!?」(まさかの脳筋的回答!?・・・え、もしかして、そんな理由で!?)
顔色を青褪めつつ、ブルリと体を震わせながら、どうして半透明の奴に恐怖を感じていたのかを正直に答えたのだが、何故か答えを求めてきた相手である戦闘員二号には驚かれた。
「そんな理由でとはなんだ!?だって幽霊は、存在していることが分かっていても触れないんだぞ!触れないものに恐怖を覚えるのは当然だろう!?」
しかし、彼の返答はこちらとしては見過ごせるものではない。
向こうから襲い掛かられたとしても、触れないのでは反撃しようがない。つまりは一方的手を出されるこちら側が圧倒的に不利ということになるのだ。
「イィ・・・、イーイイー。イイイー・・・!」(おぉう・・・、なんという徹頭徹尾な脳筋回答。思わず脱帽したくなるぜ・・・!)
こちらの剣幕に気圧されたのか、ズサッと戦闘員二号が数歩分後退る。
「・・・イーイー。イイー。イイーイー、イー?」(・・・まあ、なんだ。一つ聞きたいんだが。ディーアルナ様がそれらを怖がるようになった切っ掛けとか、あったりするのか?)
「ああ、勿論あるさ。というか、俺にとってはあの時の事が、アイツ等を怖がる切っ掛けになったんだ・・・!」
戦闘員二号からの問いに、俯き、拳を握りながらどうしてお化けの類いを怖がるようになったのかを語り始める。
「昔の話だけど、まだ両親と一緒に暮らしていた五歳頃、俺はとある離島に住んでいたんだ」
当時は俺と父さんと母さんの三人で、仲良く暮らしていた。
離島には他にも人は住んでいたが、相当な過疎化が進んでいて、自分の知る限りでは十数人程度しか残っておらず、しかもその殆どがお爺ちゃんお婆ちゃんばっかりで、若い人は両親だけ、子供なんて自分ともう一人しかいなかった。
「俺はその頃から既に修行の毎日を送っていたんだ。まあ、修行と言っても、生活に根ざしたモノばかりだけど。」
島での生活は完全な自給自足。畑を耕すだけでは満足な食事は得られない。
だが、自分達が暮らしていたその離島は、四季の変化がない常に温暖な気候に包まれ、自然の恵みも豊富であったので、漁や狩りを行うなどして生活をすることが出来ていた。
まさに毎日を生きる事が修行であるという言葉が適切な環境であった。
例えば幹の太さが三m前後ある木を持ち運んで木材や薪なんかに加工したり。
例えば山に生息している動物達と戦って勝つことでお肉を手に入れたり。
例えば水深十m以上の深さの海に潜って海産物を取ったり。
「そんな日々の中で、母さん主導の修行が幾つか行われていたんだけど。その中に幽霊との戦い方を学ぶというものがあったんだ。」
そう語りつつ、当時の事を思い出しながら目を細めて遠くを見る。
「その相手が、昔あった戦争で船と共に沈んだ軍人達でさ。肉体は失っていたから、霊体――――――所謂魂だけの状態だったんだけど、そんな彼等に母さんが手を加えて物に触れるようにしたんだよ。」
今となっても、どうすればそんなことが出来る様になるのか全く分からないままだが、当時その処置を受けた軍人の霊達は、今まで触ることが出来なかった物に触れるようになって小躍りして喜んでいた。
「・・・で、そうなった彼等と戦った訳なんだけど、全く歯が立たなくてさ。霊体だから物理攻撃なんて意味がなくて、逆に向こうの攻撃はバカスカ当たってね。地べたに転がされてよく泣かされたんだ。」
脳裏に今でも思い浮かぶあの頃の波寄せる浜辺での戦い。
軍人の霊の殴る蹴るの攻撃を回避し、隙を見つけて反撃の一撃を直撃させても、スカッと空ぶる感覚。
そして手応えが無かったことに思わず呆然としてしまった瞬間を突かれて徹底的にボコられた記憶。
「その事がトラウマになってさ。あれ以来、オバケを見ようものなら足がすくんで動けなくなるんだ。」
結局その修行は、俺がやりたくないと駄々を捏ねながら全力疾走で逃げ続けた事で中止となり、以降その修行は行われなくなった。
ただ、その時の『まだ光には早かったかな?上手くいったら難易度を上げて妖怪とでも戦ってもらおうと思っていたんだけど』という母さんの言葉が、今でも耳にこびり付いて離れなかったりする。
「・・・・・・イッ。イイッ、イーイー。イイイッ。・・・・・・イーイイーイー?」(・・・・・・ちょっと待て。話を聞いていて、色々とツッコミたい所があるんだが。とりあえず今はこれだけ聞かせてくれ。・・・・・・貴女に母親がいたのか?)
そうして懐かしい過去の情景に思い馳せていると、戦闘員二号が質問をしてきた。
しかし、何故そんな質問をするのだろうか?
「・・・?・・・当然だろ?母さんがいなきゃ、俺がこの世に生まれるわけが無い。それに父さんは言っていたんだ、俺は父さんと母さんの間に生まれたんだよ、って。」
「イッ、イー・・・・・・。」(そ、そうか・・・・・・。)
俺がそう答えると、戦闘員二号は一応の納得はして、それから何かを考え出した。
ブツブツと呟きながら自分の内に籠ってしまった戦闘員二号に、どうしたんだろう?と思う俺。
とりあえず一度声を掛けて意識を戻してもらおうと口を開こうとした時、どこかから声が聞こえて来た。
『オモシロカッタァ~!ネェ、モットハナシヲキカセテヨ!』
「えっ?」
「ブツブツブツ・・・・・・・・・イッ?」(ブツブツブツ・・・・・・・・・なに?)
突然聞こえて来た幼さが感じられる甲高い声を聞いた俺と戦闘員二号は、あれ?と首を傾げる。
「・・・・・・今言ったのって、誰?」
「・・・・・・イイッ、イー。」(・・・・・・少なくとも、俺ではないな。)
俺達は目線を合わせて頷くと、バッ!と声が聞こえた方向へと振り向いた。
『ドウシタノ~?ハヤクツヅキヲキカセテヨォ~!』
そこには、半透明の何かが両手と思われる部分をフリフリと振りながら話をせがむ姿が・・・・・・!?
「・・・・・・いっ、」
「イッ?」(いっ?)
『イッ?』
「いぃぃやぁぁああああああーーーっ!?!?」
その存在を目にした瞬間、俺は女らしい悲鳴を上げながら脱兎と逃げ出した。
「イッ!?イイー!?」(ちょっ!?ディーアルナ様!?)
『アレ~?ドウシタノ、オネエチャン?モットオハナシキカセテヨォ~!』
「来るな来るな来るな来るなーーーっ!?!?」
ダダダダダダッ!!と全速力による即時離脱。
自分でも「ここまで速く走ることが出来たのか!?」と驚く程の速度が出ていたと思うのだが、しかし半透明の何かはそれに苦も無く追随してくる。
『ア、ワカッタァ!コンドハオニゴッコダネ!ソレジャア、ワタシガオニヲヤルネェ~!』
「だから付いて来るなって言ってんだろうがっ!?」
俺が逃げる姿を遊びだと勘違いした半透明の何かは、『ツカマエチャウゾ~!ガオォ~!』と両手を振り上げて追いかけてくる。
対して俺は絶対に捕まって堪るかと、目尻から涙をダバダバ流しながら必死に足を動かし続ける。
そうして無我夢中で洋館内を駆け回った俺は、最早自分が何処をどう通って、そして今自分がどの場所にいるのかすらも分からなくなってしまっていた。




