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ミッション3 戦闘員に会っちゃった!?

2021年10月20日に文章の一部変更をしました。



「さて・・・これまでの経緯を説明したところで、そろそろ君が行う仕事についての話をするとしよう。まずは、これから君と共に仕事を行うことになる同僚を紹介しよう」


 ブレーバーはそう言うと片手を上げ、パチンと指を鳴らす。


「カモン!戦闘員一号、二号、三号!」


 その途端、部屋の照明が落ちて真っ暗になり、視界の左側にあるステージのような場所にスポットライトが照らされた。

 そこには何時の間にいたのか、三つの影が存在していた。


「イーッ!」(トゥッ!)


「イイーッ!」(トトゥッ!)


「イイイーッ!」(トトトゥッ!)


 その影達はパフォーマンスのためなのか、一度ジャンプして飛び上がるとクルリと一回転し、そして地面に着地すると順番に個々のポーズをとり始めた。


「イーッ、イイッ、イーッ!」(戦闘員、一号!)


「イーッ、イイッ、イーイ!」(戦闘員、二号!)


「イーッ、イイッ、イイーッ!」(戦闘員、三号!)


「「「イイーッ、イッ、イーッ、イイーッ!!」」」(全員そろって、アンビリバブル戦闘員!!)


 黒いタイツのようなスーツで全身を覆い、銀色の胸当てと手袋、靴を履き、顔には全体を覆う電子的なアイマスクっぽいものを付けた人物達。それぞれ一、二、三という番号が額に描かれている彼らがそうビシッ!と揃ってポーズを決めた瞬間、何故か彼らの背後で爆発が起こった。


「・・・・・・・・・」


「これが、君の同僚であり、部下となる我が組織の戦闘員達だ。雑用仕事から家事仕事、土木工事まで何でも出来る万能戦闘員だぞ!・・・・・・あ、ちなみに彼らの背後で起こった爆発は演出のために用意した映像と音声なので、実際には爆発なんてしてはおらんからな」


 目の前に現れたアンビリバブル戦闘員の説明をするブレーバー。その胸は「どうだ!」と言いたげに張っていた。

 尚、注釈として彼等の背後で起こった爆発が本物ではないとも言っていたが、別に爆発に関してはそこまで驚いていないかった。というか、どっちかと言うと無駄に凝った演出の方に驚いた。


「えっと、戦闘員って言っていたけど、彼らも俺と同じようにバイオニズム液を使った怪人なのか?」


「いいや、彼らにはバイオニズム液は使用していない。色々と諸事情があってな。彼らに行ったのはサイボーグ技術で、重要器官以外の体の大半は機械化しているのだ」


 所謂サイボーグ化というものだと理解した俺は、正直とんでもないなと思った。

 なにせ今の地球の技術力は、ヒーローと悪の組織が現れ始めてから飛躍的に上昇してはいたが、それでも精々が義手とか義足程度までであり、全身ほぼサイボーグ化する技術までは確立されてはいなかったからだ。

 バイオニズム液の事と言い、このアンビリバブルとか言う悪の組織、オーバーテクノロジー要素が満載である。


「さて、これでアンビリバブルの構成員が全員揃ったので、これから仕事の話を―――」


「・・・待った」


「―――したいと・・・って、どうした?」


「今、これで全員って言った?」


 これから仕事の話をしよう、と言おうとしたブレーバーであったが、そこで俺は待ったを掛けた。

 今、これで全員揃ったって言ったか?組織のボスであるブレーバーと戦闘員の三人、そして俺の計五人しかいないんだけど・・・・・・本当にこれだけ?幾らなんでも少なすぎではないだろうか?


「他に構成員はいないのか?実家から追い出されたとはいえ、部下の一人や二人くらいは連れて来ているんじゃないのか?」


 そう問い掛けた瞬間だった。急に場の空気が重くなったように感じられたのは。


「・・・・・・いない」


「・・・え?」


「だから、いないのだ」


 俯いてボソリという感じに話し出すブレーバー。


「実家で落ちこぼれという評価を下されていた我に、従いたいという者など誰一人としていなかった。アンビリバブルを立ち上げた時だって、戦闘員達に出会うまではずっと一人だったし・・・・・・!?」


 しまいには崩れ落ちて泣きじゃくり、嗚咽まで漏らし始めた。

 というかメンタル弱いな悪の組織のボス!?


「イ、イイーッ!」(だ、大丈夫ですよブレーバー様!)


「イー、イイーッ・・・・・・」(そうですよ。今は俺達がいるんですから、一人なんかじゃないですよ)


「イー・・・・・・」(ほら、元気出して)


「あ、ありがとう、お前達・・・・・・!」


「イッ、イーッ!」(ほら、ディーアルナ様も!)


「あ、ああ、うん。嫌なことを思い出させて悪かったよ、ブレーバー」


 そんな彼を戦闘員達が慰めるように背中を擦ったり、元気づけるように声を掛ける。

 俺も戦闘員に促されてではあったが、泣かせてしまったという罪悪感もあったので、素直に謝りながら彼の背中を擦ってあげた。


「・・・グスッ・・・・・・いや、君が疑問に思うことは当然だ。言ってしまえば、我に人望がないことが原因なのだからな。だから別に、謝らなくていい」


 ズズズッと鼻を啜っていたブレーバーであったが、どうやら俺達に慰められたことでメンタルが回復してきたらしい。涙を拭い、ティッシュでチーンッと鼻をかむとマントを翻しながら立ち上がった。


「・・・さて、それでは気を取り直して仕事の話をしようと思う。我が組織、アンビリバブルが最優先に行うべきことは、二つ。一つは仲間集めだ。ディーアルナに指摘されたように、流石に構成員がこれだけしかいないのは悪の組織としてはどうかと思うからだ」


 ちなみに、ブレーバーには兄と姉がいるそうで、その二人が従えている構成員の数は数千万人もいるらしい。世界征服を幾つも行ってきているのであれば、それぐらいはいてもおかしくないそうだ。

 尚、ブレーバーはその二人ほど能力が高くないらしい。なので、彼等程とまではいかなくても、せめて一万人くらいは構成員を揃えたいと彼は言った。


「もう一つは、世間に我らアンビリバブルの存在を知らしめることだ。世界征服を目標とする我らが世間に、それこそお茶の間にすら知られない無名のままでいるわけにはいかない」


 これについては、例え世界を征服できたとしても、アンビリバブルという組織という存在が誰にも知られないのであれば、何も意味がないかららしい。

 ついでに周囲へ宣伝も出来るので、仲間集めが捗る可能性かもしれないとも彼は付け足した


「そして、それを担当するのは君、渡辺光君改めアンビリバブル幹部ディーアルナとしての仕事という訳だ!よろしく頼むぞ!」


 頑張ってと激昂してくるブレーバー。

 しかし、そこで俺は再び待ったを掛けた。


「・・・ちょっと待った。仕事の内容は把握したけど、その前に一つ。・・・どうして俺が幹部なんだ?いや、人数が少ないからという理由も分かるんだが、それでも入ったばかりの人間に幹部を任せるのはどうなんだ?」


 現在の俺の立場は、会社でいうところの新入社員に該当するはずだ。それなのに、入っていきなり幾人もの社員をまとめる幹部になれだなんて、無茶が過ぎると思うのだが。


「うむ、その疑問はもっともだが、それには切実な二つの理由があってな。一つは戦闘員達についてだ」


 ブレーバーはそう言うと戦闘員達へと視線を向ける。


「見て分かる通り・・・というか、聞いて分かる通りと言った方が正しいのかもしれんが、戦闘員達は普通の言語を喋ることが出来ないのだ。喋れないのであれば、悪の組織として活動するのはともかく、我等の存在を世に広めることなど出来るわけがない」


 「実際、さっきからイーッとしか言っていないだろう?」と言うブレーバーの説明に、俺は「そう言えば・・・」と呟きながら頷く。

 そう。確かに彼等戦闘員達は、さっきからイーッとしか言っていなかった。確かにこれでは他者とコミュニケーションを取ったり、悪の組織アンビリバブルの存在を

世の中に広めるのは難しいだろう。

 ・・・でも、それならどうして俺とブレーバーは彼等と普通に会話をすることが出来ているのだろうか?その事についてブレーバーに問い掛けると、彼は「良い質問だ」と言った。


「彼らの体の中にはテレパシーリンクという特定の相手に念波―――所謂、テレパシーを送って自分の意思を伝える装置を組み込んでいてな。それにより我々と会話が出来ているのだよ」


 なんでもその昔、動物とか機械生命体とか会話が出来ない生物と話が出来るようになりたいと思って作った物らしい。・・・まあ、その結果は半分成功半分失敗であったらしいが。

 なんでも、お互いに意思疎通自体はできたそうなのだが、会話をする事はできなかったそうだ。後者の事をする為には、相手側も言葉を覚えていないと無理らしい。


「へぇー・・・・・・ん?でも、わざわざそんなものを取り付けなくたって普通に喋れるようにすればよかったんじゃないのか?そうすれば、今みたいに困る事はなかったと思うんだけど?」


「うっ・・・!?」


 ブレーバーからテレパシーリンクという物についての説明を聞いた俺は感心する様な声を出していたのだが、そこでふと疑問に思った事を呟いた。

 その呟きをブレーバーが耳にした途端、彼は何かを言いにくそうにモジモジとし始めた。


「あー、えーと、その、な・・・・・・本当はそうした方が楽だったと思うのだが・・・実は彼らに取り付けた音声用機械部品が全部不良品だったみたいでな。サイボーグ化を終えた後で起動してみたら、イーッ!としか喋れなくて・・・・・・やはり、大安売りバーゲンセールで買った中古品だったからかなぁ?」


「いや、それ不良品が混じっていてもおかしくないから」


「イーッ!?」(俺らに使われている音声機って不良品だったの!?)


「イーッ、イイーッ!?」(ていうか、大安売りバーゲンセールの中古品って!?)


「いやな、お前達を拾った当時はまだ今みたいな潤沢な資金を持ち合わせていなくてな。重要となる部品以外のものまでしっかりと買い揃えられるほど持ち合わせがなかったのだよ」


「イ、イイー、イーイイー・・・・・・」(そ、それなら、これからバージョンアップして頂ければ、ちゃんとしゃべれるように・・・・・・)


「・・・・・・・その、だな。とても言いにくいのだが、一応専門の業者に既にに注文してはいる。いるのだがしかし、どうやら大口の依頼が入ってしまっているらしくて、こちらの要望に応えられるのが一年くらい先になると言われてしまった」


「「「イイー・・・・・・」」」(そんなー・・・・・・)


 ガッカリする戦闘員達。期待していたからこそだろう。その落ち込み様は相当なものであった。


「・・・あー、それで、もう一つの理由なのだが、我自身が問題でな。我が一人でヒーローたちと悪の組織の争いに乱入した話は覚えているか?」


「うん。一人でも世界征服出来そうって思って戦って、最終的にはやってくる援軍の多さに嫌になって逃げたんだよな」


 場に広がった微妙な雰囲気をなんとかしようと考えたのだろう。居たたまれないと言いたげに頬をポリポリと掻いていたブレーバーは、そう言って話題を別のモノに移した。

 それに俺が頷きながら答えると、ブレーバーもその通りと言いたげに頷く。


「ウム。それでまあ、何と言うか・・・どうやら、我はその時に結構やり過ぎてしまったようでな、連中のブラックリストに登録されてしまったようなのだ」


 ブレーバーが言うには、その戦場で戦っていた怪人やヒーロー達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していたそうなのだが、その内に超危険人物だと認識されてしまったらしく、戦いの最後ら辺では彼等は互いに一時休戦し、共闘してブレーバーを倒そうとするようになったそうだ。


「・・・まあ、それでも我の方が圧倒的に強かったから簡単に蹴散らせたのだがな。ただそれ以来、我が表に姿を出す度に、その二つの勢力は率先して且つ全力で我の事を襲うようになってな。後に秘密基地を作ろうとした時にも、周りへの被害も度外視して攻撃して来たのだ」


 そのせいで、これまで作ろうとしてきた秘密基地の大半が破壊されてしまったらしく、時には秘密基地を作ろうとした土地とその周囲一帯が焼け野原になるくらいの徹底的な破壊活動も行われたそうだ。


「何の関係もないご近所様にまで迷惑を掛ける結果となってしまった事もあり、今我が出て行けば、まず間違いなくその周辺一帯は火の海と化してしまうだろう。故に、我は彼等を率いて活動を行う事が出来ないのだよ」


「・・・・・・・・・」


 切実且つとんでもなく物騒な理由であった。こんな話を聞いたら軽々と「お前が行けばいいじゃないか」とは言えない。

 ・・・というか、悪の組織とか秘密結社側はともかく、まさか町や人々を守る立場の筈のヒーロー側までそんな事をするとは。・・・・・・それだけブレーバーが驚異だと判断されたのだろうか?だとしても、周辺一帯を焼け野原にするのは流石にどうかと思うが。


「・・・分かったよ。そういう事情なら仕方ない。俺も町を火の海になんてしたくないからな」


「おお、分かってくれてありがとう!」


 溜め息を吐きながら俺が幹部職に就くことを了承すると、ブレーバーは嬉しそうに声を上げる。


 正直に言えば、俺は心の隅で一抹の不安を感じていた。本当に自分は、このアンビリバブルという悪の組織でやって行く事が出来るのだろうか?と。

 だが、ブレーバーには自身が抱えていた借金問題を解決してくれたという恩もある。少なくとも立て替えてくれた分は働こうと思った俺は、内心で「とりあえず、自分が出来る範囲で頑張ってみるとするか」とそう呟くのであった。






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