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ミッション28 VS大型猫科動物!!



空中に光のサークルが出現する。その中心には光の玉が存在し、光ったり消えたりといった発光現象の明滅を繰り返す。

そして光の玉が一際強く光った瞬間、そこから二つの影が飛び出してきた。


「グルルルルルゥ・・・!」


影の一つは体長が人間の三倍程ある大型のトラ。

トラは、今自分が空中にいて地面へと落ちている最中だと認識すると、その巨体を器用にクルクルと回転させて見事な着地を決めてみせた。


「・・・ッ!バイオチェンジ、ディーアルナ!」


もう一つの影は悪の組織アンビリバブルの幹部ディーアルナこと渡辺光。

彼女もまた自分が落下しているということを認識すると、空中でディーアルナへとなる変身ポーズを行い、体を回転させて両足から地面に着地した。


「どうやら、無事にシミュレーションルームに転移出来たようだな。」


ディーアルナは周囲を見渡し、自分達が目的地に転移したことを理解する。

あの時、トラに飛び掛かられた瞬間にディーアルナが行ったことは、現在の彼女達の状況を見て分かる通り、ブレスレットに搭載されていた『転移システム』を起動しての基地内での転移であった。

本来転移を行う際には、まず秘密基地に存在する転送装置に転移したい座標を入力し、且つどの場所に転移サークルを出現させるのかを決定しなければいけない。また、転移サークルを出現させる転送台に被転移対象がいることも、当然ながら使用条件の一つ。

ディーアルナが使用した『転移システム』は、転送装置の機能を応用して、基地内部であればブレスレットに入っているガイドマップ機能を利用しての手軽且つ瞬時の転移によって、端から端まで歩いていくのに最長二時間は掛かる程の、あまりにも広すぎる秘密基地内部を効率良く移動出来る様にブレーバーが用意したシステムなのである。


「改めて考えてみると、こんなシステムを作れるアイツのオーバーテクノロジー気味な技術力って、実際相当ヤバイよな。」


ディーアルナは「このテクノロジーを上手く使えば、世界征服も簡単に出来るんじゃないか?」と思い、自らのボスであるブレーバーに対して戦慄の感情を抱く。


「まあ、それはそれとして。そろそろ現実をみようか・・・!」


とはいえ、現状のディーアルナの状況はそんな事を呑気に考えていられるほど、穏やかなものではなかった。


「グゥゥゥッ・・・・・・!」


先程ディーアルナと共にこのシミュレーションルームに転移し、地面に着地してから周囲の様子を伺っていたトラが、唸り声を出しながらディーアルナに向けて一歩踏み出してきていた。

転移した直後は訳も分からず混乱している様子であったトラだが、ディーアルナが考え事をしている最中に落ち着きを取り戻した様であり、牙を剥き出しにしながら彼女に対して敵意を向けている。


「ヤル気満々の様でなにより。だけど、そう簡単にやられるつもりはないぞ・・・!」


ディーアルナが戦う為に半身となって腰を落とし、両手の指を軽く開いて片手を前に伸ばし、もう片方の手を胸元近くに寄せる構えを取る。

その瞬間、トラは突撃を開始した。


「ガァァアアアアッ!」


トラは真正面からディーアルナをねじ伏せようというのか、まっすぐ直進して両前足を交互に、高速で振りかぶる。

縦に、横に。時折屈んでからの低空アッパーカットまでも繰り出してくる。


「『気薄空蝉(きはくうつせみ)』っ・・・!」


そんな当たっただけで肉体がペシャンコになることは間違いない攻撃を振るわれているディーアルナはというと、その攻撃のほとんどを回避していた。

動きそのものは単純で右に左にと避けているだけだが、注目すべきは攻撃を避ける瞬間であった。

ディーアルナは攻撃が迫る直前に一瞬だけ強い気迫を発してトラに強い印象を与え、それから一気に気配を薄くしてから避けることで一種の錯覚現象を発生させて、残像に近いものを幻視させ、トラの目測を狂わせていたのである。


「――――――ッ!」


とはいえ、流石に全ての攻撃を完全に避けきるなんて事は難しく、腕を使って軌道を逸らしたり、隙を見てフェイント混じりのカウンターでトラを怯ませるなどして、なんとか直撃を受けないようにしている状態であった。







「グルルゥッ・・・・・・」


トラは幾度も腕を振り回しながら、喉を鳴らす

先程からディーアルナに向けて、ネコパンチならぬトラパンチを叩き込んでいるのだが、一度も当たったという確信を得ることが出来ない不可解な状況に、内心で首を傾げる。

視界では間違いなく当たったと思っても何故か手応えが感じられず、気付いたら振り下ろした前足のすぐ横にディーアルナが無傷で立っているという状況が何度も繰り返されている。

トラが幽霊という存在を知っていれば、まさしくそのようだと思ってしまいそうな程、ディーアルナの姿は己の視界の中で消えたり現れたりしていた。


「グルゥッ・・・!」


このままでは埒が明かないと感じたトラは、一度攻撃を中断して大きく後ろに跳び下がった。

ディーアルナから距離を取ったトラは、四肢を適度な間隔で開き、爪を出して床の窪みに引っ掻ける。

しっかりと四肢を固定したトラは、ヒュゥゥウウッーーー!と大きく息を吸い込み、――――――そして咆哮した。


「ガァァァァアアアアーーーッ!!!」


「――――――ッ!?」


トラから放たれた咆哮は周囲一帯の空間に響き渡る。

それはまるで衝撃波のような勢いとなってディーアルナへと向かい、その動きを拘束した。


「グゥァアアアアッ!!」


動きを止めたディーアルナに向かって一息の如き速さで駆け、その体に己の牙を突き立てるトラ。

鋭い牙が肉を裂き、力強い顎が骨を噛み砕く。

トラは「()った!」と今まででは感じられなかった手応えの感触を味わい、しかしそれは次の瞬間にはまるで夢幻のようにかき消えてしまった。


「――――――ッ!?」


トラは捉えたはずの獲物が消えてしまったことに、驚きで目を見張って体を硬直させたトラ。


「セェイッ!」


「グフゥッ・・・!?」


そこへ突然脇腹に、ドゴンッ!という衝撃を感じ、意識外からのそれに思わず咽こむトラ。

内心で疑問と困惑が入り乱れていたトラであったが、視界の端に黒い影が走るのを目にする。

どうやらその黒い影が自身に対して蹴りを放ったようで、攻撃後にすぐさま離れようとするその影に向かって反射的に爪を振るう。


「グゥッ・・・?」


己が爪は黒い影を捉えて切り裂いて見せたのだが、爪が当たった途端に、影はまるで陽炎の如く消えてしまった。

その後も幾つもの黒い影が視界の端を掠めて行くのが見え、その度に爪を振るうのだが、やはりその全てが先程と同じように消えてしまう。


「トォリャッ・・・!」


「・・・・・・グゥッ!?」


黒い影に夢中になって爪を振るっていると、頭頂部に強い衝撃が来た。

予期せぬ方向から来たその攻撃は、どうやら先程自身の牙で捉えたと同時に消えてしまったと思われたディーアルナの踵落としによるものだったことを、その姿を視界の端で捉えたトラは理解した。

トラは思わず怯んでしまうも、すぐに獲物であるディーアルナに向かって「今度こそ・・・!」と跳び掛かる。


「ガァァアアアアアッーーー・・・グブゥッ!?」


大きくジャンプしてからの空中からの強襲。しかし、それは突如トラの真下から現れた黒い影のジャンピングアッパーによって邪魔された。


「はぁああああっ!」


九の字に体が折れ曲がったトラに向けて、ディーアルナは顔側面に向けて強烈な後ろ回し蹴りを放つ。


「ギャンッ!?」


その攻撃を食らったトラは、悲鳴を上げて吹き飛ぶ。


「――――――ッ!・・・・・・グルルルルルッ・・・!」


体が地面に叩きつけられる直前に体を回転させ、なんとか四肢の足先で着地するトラ。

唸り声を上げながら頭を起こし、再びディーアルナへと向かおうとしたが、しかしそう意識した瞬間、既にディーアルナは自身の目の前にまで接近していた。


「――――――!?グルゥッ!」


驚きつつも爪を振るうが、やはりその姿は先程と同じように黒い影となって消え、そのコンマ秒後に自身の腹部に衝撃が来た。


「――――――奥義、【影牙群狼撃(えいがぐんろうげき)】」


さらにその一撃を始まりとして、ディーアルナと黒い影たちによるほぼタイムラグのない連続攻撃が、トラの全身に放たれる。

ドドドドドドドドッ!という音が聞こえそうなほどの攻撃の嵐によって、トラの体はシミュレーションルームの壁際へと追いつめられる。


「――――――こいつで、ラストォーーーッ!」


「――――――ッ!・・・ガァァアアアッ!!」


「――――――ッ!?」


拳を振り被って最後の一撃を放とうとしたディーアルナ。

しかしその一撃を隙と見たトラは、当たる直前で体を捻って回避し、トラパンチを食らわせることによってディーアルナを地面に向かって叩き落とした。


「うぐぅっ・・・!?」


最後の攻撃が失敗して地面に叩き落とされてしまったディーアルナは、すぐに起き上がって大きく後退し、体勢を立て直す。


「グルルルルルゥッ・・・・・・!」


トラは唸り声を上げながらノシッ、ノシッ、と歩き出し、ディーアルナを中心に円を描くように動く。

その瞳からは強い警戒心が感じられ、ディーアルナが隙を見せようものなら、即座に飛び掛かろうとする姿勢が見えた。


「・・・・・・くっ、さすがはネコ科動物。大型でもその反射神経の速度は恐ろしいな。」


ディーアルナは両拳を腰だめにし、両足を軽く開いた仁王立ちの構えを取る。

何時トラが攻撃してきても反撃できる様に集中するディーアルナであったが、その頬には一筋の汗が流れるのが見えた。







『ガー、ガガッ!・・・・・・イイッ!イーッ!』(・・・・・・ご無事ですか!ディーアルナ様!)


「その声、戦闘員か・・・・・・!?」


トラとの睨み合いを初めて数分後、互いに攻め入る隙が見つからず膠着状態に陥っている時、シミュレーションルームに戦闘員三号の声が響いた。


『イイイーッ。イーイーイイイー!』(今僕はシミュレーションルームの管制室にいます。ここから訓練システムを使ってディーアルナ様を援護しますので、隙を見て攻撃してください!)


現在戦闘員三号は、本人が口にした通りシミュレーションルーム内を一望できる管制室にいるようだ。

その姿は壁側面の天井付近に設置されている窓ガラスから見えており、管制室内に設置されている操作パネルを弄っている様子が見えた。


「了解!援護任せた!」


『イイッ、イー!イイイッ!イイーッ!』(それじゃあ、行きますよ!訓練システム、起動!訓練用カノン砲、展開!)


戦闘員三号が操作パネルをカタカタカタと操作すると、シミュレーションルーム内の側面の壁が動き始める。

壁の一部がスライドし、そこから長さ一.五m、縦横の幅が十cmほどのSF的な砲塔が現れる。

その数は十五個存在し、その全ての砲口が大型トラへと向けられていた。


『イッ!イイイーッ!』(行きます!蜜柑(みかん)玉をくらえぇっ!)


「応!・・・って、蜜柑(みかん)玉っ!?」


戦闘員三号が操作パネルの発射ボタンをポチッ!押すと、パシュン!という音と共にすべての砲塔から砲弾が飛び出る。

その砲弾は楕円形に近い丸っこい形をしていて、その色はオレンジ色をしており、またその頭頂部には緑色のワンポイントが見られていた。

それは通常の物よりも二倍近い大きさではあったが、紛う事なき蜜柑(みかん)であった。

戦闘員三号が命名した蜜柑(みかん)玉はクルクルと回転しながらトラへと向かっていくが、やはり元は砲弾に適さない果物であった為か、その内の幾つかは空気抵抗によって弾道軌道がズレていく物もあった


「グルゥァァアアアッ・・・!!」


突然現れた幾つもの砲塔に対して警戒の唸り声を上げていたトラは、砲塔から飛び出してきた蜜柑(みかん)玉をその目に捉えると、自らの体に当たりそうな物に前足を振るう。


「ガァッ!・・・ミ゛ャ゛ァァアアアアアッ!?」


眼前に飛び込んで来た蜜柑(みかん)玉を鋭利な爪を使って叩き切ったトラ。

しかしその瞬間、分厚い爪によって切られたことで、蜜柑(みかん)の中から大量の蜜柑(みかん)汁が勢いよく飛び出てきて、トラの両目にクリーンヒットした。


「ミ゛ャ゛ァアアッ!ミ゛ャ゛ァァァアアアーーーッ!?」


柑橘系の汁による刺激がかなり強烈なのか、トラは前足で両目を抑えながら、まるで「目がぁっ!目がぁぁぁあああーーーっ!?」と言わんばかりに悲鳴を上げながらゴロンゴロン!と転がっている。


『イーッ!イーイイー!』(シャアッ!どうだ!蜜柑(みかん)玉の味は強烈だったろう!)


「・・・え、えぇぇー・・・・・・!?」


管制室内でガッツポーズを取る戦闘員三号。

それに対し、普通の砲弾が飛び出るのかと思ったらまさかの規格外の大きさの蜜柑(みかん)が飛び出てくるという展開に、俺は驚きでパカッ、と口を大きく開けていた。

何故砲弾が蜜柑(みかん)なのかとツッコムべきか迷ったが、今は戦闘中であることを考慮し、あえて黙ることにした。

ちなみに今回砲弾として用意された蜜柑(みかん)玉であるが、元々は秘密基地にあるブレーバーの個人用実験農園で作られていた物であり、その中であまりにも酸味が強すぎて食べられなくなり、廃棄処分予定の物を使用していたと戦闘員三号の証言で後日判明した。

ちなみに本人(ブレーバー)からの許可は取得済みである。


『イイー!イー、イイーイー!』(さあ、ディーアルナ様!今のうちに、あの子を行動不能にしてください!)


「・・・う~ん。なんか釈然としないモノを感じるけど、とりあえず了解。」


俺は口をモゴモゴさせながらも、胸に燻るツッコミをしたい気持ちを抑えながら、未だに床を転がり続けているトラへ接近しようと足を向ける。


「――――――ッ!シャァァアアアアッ!」


「あっ・・・!」


しかし、トラは転がり続けていたとしてもこちらの接近を感じ取っていたのか、両目を瞑りながら高く跳び上がった。

シミュレーションルーム内を、床を蹴り、壁を蹴り、時には天井を蹴るなどして縦横無尽に駆け回るトラ。

両目が見えていないとは思えないほど俊敏且つ迷いのない動きである。


「くそっ、なんて俊敏性だ。まさか、三次元機動まで出来るなんて思わなかったぞ・・・!?」


周囲を駆け回っているトラを目で追いかけようとするが、時折予期せぬ方向へと跳び上がるなどをする為、中々視界に捉える事が出来ない。

しかも、見失った瞬間に突進攻撃まで繰り出してくるので、中々油断できない。


『イッ、イーイイィーッ!』(ならば、今度はこいつをくらえぇぃっ!)


その様子を見ていた戦闘員三号は、再び操作パネルをカタカタし、発射ボタンをポチッ!と押した。

ボタンが押されると、壁から飛び出していた全ての砲塔が仕舞われ、今度は床に面した部分が持ち上がるようにしてスライドする。

そしてそこから円柱型に近い楕円形の掌に収まるくらいの大きさの茶色い物体が数えきれないほど大量に転がり出て来た。


『イイッ!イッイーッ!』(必殺!ドングリ爆弾ッ!)


「今度はドングリ・・・!?」


コロコロと転がり出て来た茶色い物体――――――ドングリは壁からどんどん出て来て、床面積の半分ほどにまで広がって行った。

その光景を見た俺は、またか・・・!とも思ったが。


「ガァッ!?」


先程までシミュレーションルーム内を縦横無尽に駆け回っていたトラは、見えないまでもドングリが転がり出て来たことを認識していた様であったが、その時点で既に床へと降り立とうとしていた状態であり、止まること等出来はしなかった。


「ガガガッ・・・!?グ、グゥォォオオッ!?」


床へと着地しようとしたトラだったが、そこには既に大量のドングリが転がっており、着地の際にドングリを踏みつけた瞬間、足元のドングリがコロコロと転がり始めた。

状況的にはビー玉の上に足を乗せてしまった状態に近く、ドングリによって足を滑らせたトラは、何とかバランスを取ろうとしてワタワタバタバタとし始める。

そうしてドングリの上で四肢を動かし続けている時、偶然ドングリが直立状態となり、そのドングリの傘の部分をトラの足が強く踏みつけた。


カチリッ!


「グゥオ・・・?」


ドカァーーーーーンッ!!!


「ガァァァアアアアアッーーー・・・!?・・・・・・・・・グフッ!?」


何かのスイッチが押されるような音が鳴ったと思った瞬間、踏みつけていたドングリが轟音を上げて爆発した。

爆発の威力はその大きさからは予想がつかないほど凄まじく、直撃を受けたトラは天高く舞い上がり、天井近くまで辿りつくとそのまま地面に落下。地面にドシャリと倒れ伏した。

横たわったトラの様子を見てみると、体が千切れている様子はなく五体満足の状態で生きてはいたが、その全身は爆炎によってプスプスと黒く煤けており、爆発の衝撃を直撃で受けた為か、意識はあるが満足に体を動かせずにピクピクと震わせていた。


「え、えぇぇぇええええっーーー!?」


想像もしていなかったまさかの展開に目を見開き、驚愕の叫び声を上げる。

最初の砲弾として使用された実際には普通だった蜜柑(みかん)と同じ様に、今回出て来たドングリも何の変哲もない物だと思ったら、まさかの爆発。

蜜柑(みかん)玉の時とは別の意味で開いた口が塞がらなかった。


「ちょっ、戦闘員三号!なんか、ドングリが爆発したんだけど!?何アレッ!?」


『イッイッイッ・・・!イーイー。イイーッ!イイイーイーイー、イーイイーッ!イーイーイイイーッ!』(フッフッフッ・・・!あれこそ、我が組織の秘密兵器の一つ。ドングリ爆弾ですよ!見た目は秋頃によく見られるドングリの形をしていますが、その実態は地雷性小型爆弾!傘の部分を踏みつけた瞬間スイッチが作動して爆発するという仕組みなのです!)


「まあ、まだまだ改良の必要がある兵器ですがね。」と言葉を付け足す戦闘員三号。

その言葉を聞いた俺は思わず頬を引き攣らせた。

戦闘員三号の言葉通りであれば、爆発の衝撃で飛び散って床一面に拡散したこのドングリ全てが爆弾という事であり、うっかり踏みつけようものなら、先程の爆発を受けて舞い上がったトラと同じ目に遭うという事だろう。

ちなみにこのドングリ爆弾だが、組織の活動に使えるかもしれないとブレーバーが思いついて作り始めた物だということが後日判明。

しかし、デザイン性から使う機会や用途がかなり限定されるし、何より本物に似すぎているので、もし無関係の人間が興味本位に触りでもして爆発したら危険だという理由で、廃棄処分が決定した代物だったらしい。

戦闘員三号が今回の件でこれを使用したのも、丁度良いからついでに在庫処分してしまおうとの考えからであったと後で教えてくれた。

まあ当然、作られた経緯を知って、「なんて恐ろしい物を作っているんだコイツ等は・・・!?」や「どうしてわざわざドングリの形にしたんだよ・・・!?」とツッコミも入れたが。


『イッ、イイッ!イーイイー!』(さあ、今がチャンスです!コレを使ってあの子を捕まえてください!)


戦闘員三号が再度操作パネルをカタカタと鳴らす。

すると今度は自身の近くにある床がスライドし、ウィーン、ガコン!と、そこから台座のようなものが現れた。

台座の上には護身用によくあるスタンガンを大型化させたような物が置かれていた。

その大きさは全長約百三十cm程で、子供一人分の大きさと同等であり、側面に付いているレバーのようなモノの大きさから、片手持ちを前提として作られているようであった。


『イイーッ!イイイーッ!イーイーイイイー、イイー、イーッ!』(秘密兵器その二!『スタンバスターガン』!相手に強烈な電撃を与えて行動不能にし、さらに電流の拘束具にて対象を捕縛する機能を持った、拘束用兵器だよ!)


「byブレーバー作!」と自慢げに語る戦闘員三号。

先のドングリ爆弾もそうだが、外観は良くある形の物だがその中身は色々とオーバーテクノロジー染みた技術が使用されていることを理解し、「やっぱりコイツ等、その気になれば世界征服なんて簡単に出来るんじゃないか」と、内心で密かに思い、背筋に冷や汗が流れた。


『イイーイーイイー、イイイーイーッ!』(使い方は市販のスタンガンとほぼ同じで、相手に密着させてスイッチを入れれば痺れさせることが出来るよ!)


「本体側面に付いてある持ち手部分にスイッチがあるから、使うときはそれを押してね!」という戦闘員三号の説明を聞きながら、スタンバスターガンを手に取る。

ゴツイ見た目の割には重さはそれほどなく、精々一、二kg程度。取り回しの感覚も、イメージ的にはガントレット的なモノが近く、腕を突き出せばスタンバスターガンもまた同様に突き出せた。

レバー部分にはスイッチが二つ存在し、一つが通常の電流を流すモノで、もう一つが拘束用の物だろうと当たりを付ける。


「よしっ。それじゃあ、トドメと行きますか!」


スタンバスターガンの取り回し方をある程度確かめた後、そろそろ戦いを終わらせようと、体の向きをトラへと向ける。


「グゥッ・・・!グゥルルルルゥッ・・・!」


トラの方もなんとか体を動かせる程度には回復したのか、足元をふらつかせながら立ち上がって見せる。

しかし、やはり爆発の衝撃が体からまだ抜け切れていないのか、まだどこか動きがぎこちない様子であった。


「・・・行くぞ!」


「ガァァアアアアアッ!!」


スタンバスターガンを右手に装備し、トラに向かって駆け出す。

トラの方も、多少体がふらついているが戦意は衰えている様子はなく、接近してくるこちらを迎え撃とうと吼える。


「まずは周りに散らばっているドングリ爆弾を如何にかしないとな!」


このままトラに向かって接近した際に、下手をしたらドングリ爆弾を踏みつけて、うっかり爆発させてしまう危険性を考慮した俺は、駆け出すと同時に一つの技を撃ち放った。


「――――――【飛翔(ひしょう)風弾掌(ふうだんしょう)】!」


左手にエネルギーを収束。その過程でに空気中の気流を操作し、ヒュイィィィン!と周囲の空気を掌に集め、十五cm台となった風の弾丸を前方に向けて撃ち出す。

風の弾丸は乱気流を生み出し、さながら横向きの小さな台風のように飛んでいき、進行上にあるドングリ爆弾を吹き飛ばしながらトラの元へと突き進んで行く。


「グウゥッ・・・!」


トラは自身に向かって飛んで来る風の弾丸を跳び上がって回避。風の弾丸が通った後を通って接近してくる俺に向けて両前足の爪を突き出してきた。

爪で引き裂ければ良し。出来なくても全体重で押し潰してから、その喉元を己が牙で引き裂いてくれようと考えていたと思われるが、その考えは既にお見通しであった。


「往生際が、悪い!」


「ガァァァアアアアアアッーーー!?」


飛び掛かって来たトラの真下に潜り込むと、がら空きとなった胴体に向けてスタンバスターガンを突き出し、スイッチを押す。

バチバチバチッ!と音が鳴り響き、トラは自身の体の中を電流が流れていくのを感じて悲鳴を上げる。


「拘束具、展開!」


続けて拘束用のスイッチを押す。

スイッチを押した瞬間、直接トラの体に流れていた電流が向きと形を変え、まるで縄と輪を掛け合わせたような形状となって、トラの体を包み込んだ。


「グゥ、オォォッ・・・・・・」


電流の拘束具によって体を拘束されたトラは、最後の足掻きとばかりに暴れるも、これまでの戦いのダメージが響いているようで、その動きは弱々しく、少しした後にはドシャリと力尽きて床に倒れ、意識を失った。


『イイイーッ!イイー。イーッ!』(ミッションコンプリート!お疲れ様でした。ディーアルナ様!)


「ああ・・・、ありがとう。今回は本当に疲れたよ。」


トラが意識を失ったのを見届けた後、俺は戦闘員三号の労わりの言葉を聞きながら地面に座り込み、疲労からくる大きな溜め息を吐くのであった。





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