ミッション23 変態との遭遇・・・!?
突如目の前に現れた変態の怪人。
『レディースジェントルメン』と名乗った彼はこちらへとと片手を伸ばし、指を一本一本招くように閉じ開きを繰り返しており、その見た目はとても卑猥な印象が見受けられた。
「んん~~~?どうしたのかな、御嬢さんぅ~?」
「ひっ・・・・・・!?」
目の前の怪人は、野太い声を裏声にさせながら「何を困っているのかなぁ~?」と問いかけてくる。
容姿と相成ったその声を聞いて、背筋にゾワリッ!?という悪寒が走った。
それが生理的嫌悪感から来るものであると直感的に理解した俺は、この場からの即時離脱を決めた。
右足を一歩分後ろに下がらせて、そのまま後ろに振り――――――
「どこへ行こうというのかなぁ?」
「――――――なっ!?」
――――――向こうとした瞬間には、既に目の前に怪人が回り込んでいた。
怪人の後ろにはこの場に来る際に自分が通って来た唯一の通り道である路地裏があったのだが、それを立ち塞がれた状態となってしまった。
「う、嘘だろ・・・、目で追えなかった、だと!?」
「ぐふふぅ~!驚いたかい?私はこんな見た目ではあるが、その動きはかなり俊敏なのだ。最高速度が新幹線と同等の速度で走ることが可能なのが、私の密かな自慢なのだよ!」
「フッフッフッ・・・!」と笑う怪人。
それを聞いて冷や汗を流す俺。
「そう怖がらなくてもいいんだよ、お嬢さん。私は君が困っているのを見かけて声を掛けただけで、君をどうこうしようとしている訳ではない。どうか、この紳士めにあなたの困り事をお聞かせ願えないだろうか・・・?」
口にする内容はまともそうなものであった。しかし、変態である。
その動きはまさに紳士然としたものであった。しかし、変態である。
その見た目からして、信じることなどとても出来そうにない事は明白であった。
「さあ・・・。さあっ・・・!」
「うぐっ・・・・・・・・・!?」
一体何に困っているのか言えと態度に表しながら一歩ずつ迫って来る怪人。
俺はそれと同歩数分後ずさりながら、頭の中でどうやって逃走するかを考えていた。
新幹線と同等の速さを走れるという怪人の言う事が本当であれば、それより劣る自分が逃げ切るなんてことは不可能だろう。
であれば、ここから生還するためにはこいつと戦って勝つ他ないのではと考えもしたが、しかしそんなことをすれば、おそらくだがその様子がレーダーに捉えられてヒーロー達に気付かれてしまう可能性が高い。
「・・・・・・・・・ん?」
そこまで考えて、あれっ?て思った光。
こいつは自分の事を怪人だと名乗った。だとすれば、こいつの存在は既にヒーロー連合協会の『エマージェンシーレーダー』に捉えられている筈である。
現状を振り返ってそこまで考えた光。
しかしそれは、彼女の考えを読んだ怪人の言葉によって粟と消える。
「・・・ヒーローの到着を期待しているようだけど、彼等がここに来ることはないよ。」
「・・・・・・え?」
「不思議そうな顔をしているようだから教えてあげよう。私は彼等が怪人を発見するレーダーを持っていることを知っていてね。とある者達からそれを無効化するステルス装置を手に入れたのだよ。つまりは、余程の物好きでもない限り、ここにいるのは私と君の二人だけという訳だ。」
怪人の話を聞いて、マジか・・・!?と驚く。
つまりこいつはステルス装置を使ってではあるが、結果的にはエネルギー調整された俺やブレーバーと同じ状態となっているという事。
アイツの体のどこかにそのステルス装置があると思われるのであるが、しかしその見た目を見る限りではどこにそれがあるのか分からない。
何せ体は黒いボディースーツで覆われている意外に服のようなものは一切着ていない為、当然ポケット的なモノも存在しない。
唯一ありそうだなと思えるのは白いブーメランパンツに覆われたモッコリした下半身だが、さすがにそこに触れたいとは心の底から思わなかった。というか、全力で拒否したい。
「さあっ!君の悩み事をこの私に解決させたま・・・――――――」
「――――――セェイッ!!」
「――――――・・・ぐふぉうっ!?」
こうなったら仕方がないと、戦う為にディーアルナへと変身しようとした時、突如怪人が何者かによって蹴り倒された。
「まさか、こんな所にお前がいるとはな。そこの君、大丈夫だったかい?」
「・・・あ、はい。ありがとうございます。」
怪人を蹴り倒して見せた人物――――――三十代前後の黒髪短髪の男性――――――は足元に倒れている怪人に絶対零度の視線を向けた後、一瞬でこちらへと慈しむような目線を向けてながら安否を確認してきた。
その最早変わり身のごとき形相の変化に、びっくりして空返事のお礼しか返せなかった。
それでも男性にとっては安心できる判断材料であったようで、ホッと安堵したような一息を吐いていた。
「―――――――――トウッ!!」
「あっ・・・!?」
「むっ・・・?」
そんな一時の穏やかな空間の中、それを脱出の好機と見たのか、地面に倒れていた怪人は一瞬で体を起き上がらせて跳躍。こちらへと背中を向けて空地の中心に積み重ねられていた廃材の上に着地した。
「そこの君ィ!一体何をするのかね!せっかく私が彼女の悩みを聞こうとしていたのに!?」
そしてビシッ!と振り返りながら男性に向けて指を差す怪人。
「あのなぁ・・・、おかしな恰好をした変態が女の子に迫ろうとしているなんて光景を見れば、普通なら婦女暴行の犯罪現場だと思うのは当然だろう・・・。」
「そのような目に合いそうな女性を助けるのも、当然の事だろうが。」と怪人に対して呆れた表情になりながら反論する男性。
「まあ、その犯人がお前だったという事で、一先ずそういった危険はないと分かったがな。」
しかし、すぐに疲れたような表情へと変わる。
それはまるで目の前の変態怪人が、先ほど彼が口にした婦女暴行などを行うような人物ではないと知っているように聞こえた。
「あ、あの、あの怪人ってどういう奴なんですか?」
「うん?・・・そうか、君はアイツのこと知らないのか。」
それが気になった俺は男性に問う。
男性は俺があの怪人のことを知らないと分かると、説明してくれた。
「アイツはここ東京都内ではかなり有名な怪人でね。かれこれ五年くらいまえから活動している奴なんだ。」
「ここで五年も・・・・・・!?」
男性のその言葉に驚く。
ヒーロー達の本拠地があり、怪人にとって明らかに活動が難しいはずの東京で五年間も活動しているとは。
「そんなに強い怪人何ですか、アイツって・・・・・・。」
「ああ、いや、その、そういうわけでは無いんだ。というか、アイツの戦闘能力を知っている奴なんていないんじゃないかな・・・?」
「はっ・・・?」
釈然としない答えを返されて首を傾げる。
「実はアイツ、ヒーローや警察が来ると戦わずに即座に逃げ出す奴で、公式非公式問わず戦闘したという記録が存在しないんだよ。出現したと察知して現場に到着しても、そこにはもういなかったなんて事は何時もの事らしい。」
「え、えぇ~・・・?」
「フハハハハ八ッ!!私のこの足に追い付ける者など、そうそういる筈がないからね!」
自らの足を誇示するようにパシンパシン叩きながら自慢するように高笑いするレディースジェントルメン。
そのドヤ顔は、見ているこちらの心境をとてもイラッとさせた。
「でも、トップヒーロー達もいる筈の首都でよく逃げ切れていますね。」
「それは・・・・・・。」
「私が逃げ切れている理由かい?そんなの、ヒーロー達が本気で私の排除に乗り出していないからさ!」
「・・・は?」
俺の疑問に男性は言いづらそうにし、その彼の代わりとでも言いたげに話し出すレディースジェントルメン。
どういう事かと男性に視線を向けると、彼は困った顔になりながら説明してくれた。
「あの変態の危険度ってそう高くないから、ヒーローの中でも上位のメンバーが出動する事がないんだ。」
一定水準まで危険度が高くなければ、もしものことを考えてトップにいるヒーローは動かすことが出来ないのだと男性は語る。
「それにその、とても言いづらい事なんだけど、アイツの活躍のおかげで女性が関係する事件に関しての治安が一部を除いて良くなっているというのも理由の一つになっているみたいでね。」
「へっ?治安が良くなっている?」
何でも、あのレディースジェントルメンという変態怪人は、怪人でありながらこの東京都一帯で様々なヒーロー的活躍をしていたそうなのである。
交通事故にあいそうな少女がいれば救いだし、火災現場に取り残された女性を助け出し、足腰が悪くなって横断歩道の真ん中で動けなくなった老婆を背負って自宅まで送り届ける、なんてことをこの変態はしていたそうだ。
婦女暴行や誘拐などの事件も彼の手によって解決したものがいくつも存在しており、それによって女性が事件事故に巻き込まれるケースがここ五年間は過去最低を記録しているのだという。
それだけ聞けば格好はともかく行動そのものはヒーローのそれなのだが、それならば何故自他ともに怪人と言う呼称で呼ばれているのであろうか?
何故という疑問に首を傾げていると男性は疲れたような表情で苦笑した。
「たしかにアイツの行った行動はヒーロー活動のようなものだけどね、問題はその後なんだよ。」
「・・・その後?」
「あの変態は、助け出した女性に対し、報酬とか対価という名目で、その女性が着用していた下着を盗んでいくんだよ。」
「え゛っ・・・!?」
確かにレディースジェントルメンの活動によって女性が事件事故に巻き込まれることが極端に減りはしたのだが、代わりに彼の怪人による下着ドロの事件数が大幅上昇しているのだという。
真正面から堂々と、厚着していようがズボンを履いていようが関係なく、恐るべき早業で服の中から女性下着を抜き去されていくのだそうだ。
しかもその対象は老若問わずであり、五歳前後の幼女から九十歳の老婆まで幅広く被害にあっているのだという。
「一時期は下着を盗まれた女性被害者と、警察の女性警察官、ヒーロー連合協会に所属している女性ヒーローが結託しての『大規模捕縛及び殲滅作戦』なんてものも起こったんだ。」
総勢五千人規模の女性が参加しての大捕り物であったそうだが、しかしその活動空しく、結局はあの素早い逃げ足によって捕まえることが出来なかったらしい。
「そういう訳で、アイツはヒーローではなく怪人として呼称されているのさ。」
「ふっ・・・。私は元々女性という存在が大好きでね。その思いが強過ぎて、私の体は怪人として変化してしまったようなのだよ。まあ、そのおかげで救助活動と言う名目で女性と触れ合うことが出来ているのだから役得と言えるのだがね!」
「えぇぇっ・・・・・・。」
光は話を聞いてドン引きし、自身の嫌な直感は間違っていなかったのだと確信した。
つまりは彼の助けを借りてしまえば、下手をしたら光もあの変態の魔の手に掛かる可能性があったということであり、その事に思い至った光は自らの体を抱いてブルリと体を震わせた。
「まあ、大丈夫。俺が来たからにはそんなことはさせないよ。」
その姿を恐怖感から来るものと男性は判断したのか、体を震わせている俺を気遣うように「任せてくれ。」と声を掛けてきた。
「こらこら、そこの君ィ・・・!彼女の悩み事を解決するのはこの私だぞ!邪魔しないでほしいんだがなぁ・・・!?」
「うっさいわ!この変態が!」
「なにおう!?私のどこが変態だ!!」
「どこからどう見ても変態だろうが!?」
ぎゃあぎゃあと言い争う二人。
その内レディースジェントルメンは埒が明かないと思ったのか、「ならばどちらが彼女の悩みを解決できるか競争と行こうじゃないか!」と言い出し始めた。
しかし男性はその言葉に対し、フッ!と笑みを浮かべると、首を横に振り始めた。「そんなことをする必要はないさ。」と。
それを見て訝しんだレディースジェントルメンであったが、不意に遠くから何かの音が聞こえて来るのが分かった。
それは「ウゥー・・・!ウゥー・・・!」という音であり、段々と近づいて来ていた。
「この音は・・・・・・まさか、貴様ァ!」
「ああ、そうさ!事前に警察に連絡していたんだよ!今までの話は、唯の時間稼ぎさ!」
「今度こそお縄につけ!」と言う男性。
レディースジェントルメンは苦い顔になり、捕まっては堪らんと踵を返した。
「仕方あるまい・・・!今回はこのまま退却させてもらおう!そこのお嬢さん、貴女の悩みを解決できなくて申し訳ない・・・!!・・・では、さらばっ!!」
「トウッ・・・!」という掛け声と共にレディースジェントルメンは跳躍。
四方を囲んでいたビルの壁に足を掛けて、三角跳びの要領でどんどん上昇していく。
そしてビルの屋上へ到達すると光達に向けてシュビッ!とポーズを見せながら建物の影へと消えて行った。
その後、ビルの向こう側から喧騒が聞こえてくるようになった。
『見つけたぞ、この女の敵がぁ!!今日こそ捕まえてやらぁっ!!!』
『ほぅ・・・。君かね、婦警!相変わらずの美しいプロポーションだねぇ!ふははははははっ!捕まえられるものなら捕まえてみなさい。まあ、君には無理だろうが――――――ふぼぅふ!?・・・・・・えっ?ちょっ、何だいそれは!?』
『テメェ用に用意した秘密兵器だ!こいつを食らって昇天しろやぁっ!!』
『え、いやそれ死んじゃう。死んじゃうって・・・!?お、おおおぉぉぉおおおぉぉおおおぉおおおおっ・・・!?』
その後チュドーンッ!ドカーンッ!という騒音まで聞こえ始め、それらは次第に遠ざかって行くのであった。
レディースジェントルメンが去って行った後、男性はこちらに振り向く。
「さて、大丈夫だったかい?アイツに何もされなかったかい?」
気遣うように声を掛けてくる男性。
被害を受ける前に目の前の男性に助けられた形になるので、当然被害らしい被害なんてものはないので、問題ないと頷く。
「そうか・・・。それは良かった・・・。それじゃあ、早くここから離れよう。ここにいたら、何時またアイツが戻って来るか分からないからね。」
男性は俺が頷く様子を見せるとホッと安堵したような息を吐き、この場から離れるように促す。
確かにこの人の言う通りこのままここにいたら、またあの変態がやって来る可能性がある。というか絶対困っていると思ってやって来るだろうと予想した俺は、拒否するようなことをせずに男性に促されるままに移動する。
「ふうっ・・・。やっと大通りに出てこれたね。さて、それじゃあ君に聞きたいことがあるんだけど、どうしてあんなところに入り込んじゃったんだい?」
路地裏を抜けて二人で大通りで出た後、男性は俺に何故あそこにいたのかと問いかけて来た。
「どうしてと言われても、目的地に行こうとして迷子になっていたとしか言いようがないんだけど・・・。そういう貴方は何故あそこに?」
「俺かい?俺はあそこにいたのは、携帯か何かを見ながら路地裏へと入っていく君の姿を見つけて、気になって後を付いて行ったからだよ。」
「ちゃんと前を見ずに歩いているのが心配になってね。」と男性は語る。
それを聞いて「そういえば、そうだったな。」と、あの路地裏に行くまでの自分の行動を思い返し、説得力があるなと思い納得する。
確かにあの時の自分は異常状態となった携帯端末に戸惑い、現在位置が分からないまま街中を彷徨っていたので、そう思われていてもおかしくはなかっただろう。
「ご心配をおかけしました。」
「いやいや。それで、迷子って言っていたけど、どこに向かうつもりだったんだい?」
「えっと、『和菓子屋母黒堂』というところなんですけど。」
「えっ?あそこが目的地なのかい?こことはかなり反対方向にあるけど・・・。」
「マジか・・・・・・!?」
まさかの反対方向へ進んでいたという事実にガックリとなる。
「結構な有名店だから、地元の人間であれば迷わず辿り着けるはずなんだけどなぁ・・・?」
「あ~、その、実は俺、地元の人間じゃないんですよ。東京に来たのも知り合いにその店の新商品を買って来て欲しいと頼まれたからでして・・・。」
「そうだったのかい?それじゃあ、仕方がないね。」
納得したという風に頷く男性。
これまでの会話から目の前の男性が目的地の事を知っている地元民ではないかと思った俺は、このままおかしくなった携帯端末に頼るよりも、彼に道案内をお願いする方が確実ではないかと考えた。
「あの、『和菓子屋母黒堂』を知っているという事は地元民の方ですか?出来れば、目的地までの道を教えて欲しいんですけど。」
「構わないよ。あの店へはよく通っているからね。・・・と言っても、俺は別に地元民という訳じゃないんだけどね。」
「えっ?そうなんですか?」
「ああ。元々仕事の都合で東京に来ただけで、地元は別なんだよ。」
苦笑しながら答える男性。
何でも務めている会社の本部が東京にあり、その本部で会議に参加するために来たのだと言う。
・・・と言っても、男性的には出たくもなかった会議であったそうで、本当なら欠席するつもりだったのを同僚に強制連行されてしまったのだそうだ。
社会人としてどうなのだろうか、それは。
「社会人として問題ないんですか・・・?」
・・・・・・しまった。思ったことを、つい言葉にしてしまった。
いやだって、とある店でアルバイトとして働いていた頃の話で、業務改善の為の会議に諸事情で参加出来ないとなった際に、支払われる賃金が半額にまで減らされたことがあったのだ。
当時の店長曰く、「店を良くするための会議なのに、そこで働いている奴が参加しないとは問題だろうが!」とのこと。
自身の語る諸事情と言うのも、店に行く途中で突如発生した事故によって通勤路が通れなくなり、仕方なく大幅に遠回りしたからであり、その事を店長に伝えるも「そんなの気合で何とかすれば良かっただろうが!」と謎の根性論を振りかざされて理不尽に怒られた。
さすがに賃金半額では働く意味がないので、結局そのアルバイト先は退職して別の仕事先を探すことにしたのだ。
・・・・・・ちなみに後日、その店は店長の横暴に職員が耐えかねて次々と辞めていき、運営できなくなって潰れてしまったそうな。
その事をつい思い出してのセリフであったのだが、それを聞いた男性は耳が痛いとばかりに後ろ頭を掻く。
「ははっ・・・。それを言われると辛いなぁ。まあ、そこは個人的な事情があるという事で、これ以上指摘しないでもらえるとありがたいかな・・・。」
「いえ、その、こちらも言い過ぎました。すいません。」
元は自身の迂闊すぎる口が原因だったので謝る。
男性はそんな微妙な雰囲気となってしまったその場を切り替えようと思ったのか「そ、それじゃあ、目的の店に案内するからついて来てね・・・!」とこちらに手招きしながら歩き出した。
俺もまた、先を行く男性の後を追いかける。
「そういえば、せっかく知り合ったのに、まだ自己紹介をまだしていなかったね。俺の名前は御城、『御城輝幸』だ。」
歩き始めてしばらくすると、男性はこちらに顔を振り向かせながら自身の名前を語る。
変態から助けてもらったこともあり、こちらも礼儀として名前を名乗ろうとしたが、しかし現在の自分の所属は悪の組織であることを思い出し、さすがに本名を名乗る訳にはいかないだろうと思い止まる。
どうしようと少し考え、偽名を名乗ることにした。
「御城さんですね。俺の名前は・・・ディーナと言います。目的地までですけど、よろしくお願いしますね。」
怪人名のディーアルナを少しもじったものではあるが、それを名乗りながら男性――――――御城さんに向けて愛想笑いを浮かべるのであった。




