ミッション21 ヒーローの事情・・・・・・?
ヒーロー連合協会の会議が終わり、出席者達はそれぞれ会議室を出て行く。
「・・・・・・はぁ、やっと終わった。」
その内の一人、黒髪黒目の皮ジャンと青いズボンを履いたとある男性が疲れた顔でため息を吐いた。
男の名は『御城輝幸』。怪人や怪物と日夜戦い、市民と世界を守るヒーローである。
会議に参加しているという事は、当然彼も日本ヒーローの中での上位五名の内の一人であるという事は間違いない。
彼のヒーロー名である『スパイラル・ジェッター』は世間一般ではかなり有名であり、ヒーローとしての彼を知らない者は日本にはいないだろう噂される程だと言えば、その凄さが分かるだろう。
そんな彼であったが、先ほど出されたため息で分かる通り、とても疲れている様子であった。
現在彼はとある事情で、朝から晩まで街中を歩いて回る日々を送っていた。
今回の会議にも本当は出席するつもりはなく、自身の事情の方を優先しようとしたのだが、そんな彼の行動を予想していた本部職員及び同僚のヒーロー達の手によって有無を言わせず連れて来られてしまい、渋々会議に出る事となってしまった。
「随分とお疲れじゃないか、御城。」
「ああ・・・、お前か、ラッセル。」
「応よ!お前の友人のラッセルさんですよぉ!」
そんな彼に声を掛ける人物が一人。
・・・・・・いや、その姿は人物と呼べるのだろうか?
その体は全身が機械的な、分かりやすく言うのであればメカメカしいパーツで構成されていた。
黒を基調にした体に緑色に発光するラインが走り、キラリと光るツインアイ。体系はスッキリとしたものであったが、体の各所から刺々しいパーツが伸びており、刺さったらとても痛そうである。
彼の名は『ラッセル・バレンスタジー』。元はヨーロッパで活躍していたヒーローであったが、日本支部の要請で補充要因としてやって来たヒーローである。
ヒーロー名は『メタルブレード』。体のほとんどが『バイオメタル』と呼ばれる特殊金属で作られたパーツで構成された、所謂サイボーグである。
地元のヨーローッパ圏でも相当有名な人物であったが、この日本でも人気が出てきて、今では日本ヒーロー上位五名の内の一人として数えられていた。
そんなラッセルは、御城に声を掛けながら「ハハハハッ」と声を出して笑っていた。
「日本の諺にもこんなのがあったはずだぞ。確か、ため息を吐くと幸せが逃げるだっけか?」
「その友人は、俺が出たくもなかった会議に俺の意思を無視して強制連行したがなぁ?」
「おいおい、まだ根に持ってんのかよ?」
漂々と、いっそ陽気とも言えそうな楽観的な雰囲気で話すラッセルに、御城は恨みがましい目線を送る。
「と言うか、ヒーローの中でも上位五名が定例会議に参加することは規則で決まっていた筈だろう?何より今のお前は序列一位だ。俺らヒーローの筆頭が会議に参加しないなんてことは対外的にもまずいだろう。」
「――――――ッ!?俺は、それを、こんな形では欲してはいなかった・・・!!」
「だとしても、だ。それでも、お前が序列一位なのは変わらない。」
「くっ・・・!?」
序列一位と言う言葉を聞いた御城は、そんな称号などいらないと吐き捨てようとしたが、それはラッセルに論されて止められてしまう。
ヒーローの序列一位とは、言わばその国のトップヒーローの事を表し、それは様々な悪事を働く組織が数多存在する今の時代では、人々の憧れであり、希望となる存在の事を差す。
言うなれば最強のヒーローの称号とも言えるモノであり、名声と栄光が約束された地位とも言えるそれを求めるヒーローも数多く存在する。
「・・・・・・お前だって以前から序列一位になりたいと言っていただろう。」
「・・・・・・ああ、確かに言っていたさ。だがこんな、アイツの死を理由にして得たくなどなかった・・・!!」
もちろん御城も他のヒーロー達と同じくその地位を求めていた側の人間であった。
だが、御城はそれを手にする際に素直に喜ぶことは出来なかった。
何せ元々は序列二位だった御城がその地位に就くに至った理由が、元序列一位であった親友であり、ライバルであった男が死んでしまったことを発端としていたからであった。
互いに最高のヒーローを目指して切磋琢磨してきあった関係であり、先に序列一位へと至った親友の事を御城は誇らしく感じ、それと同時に何時かは実力でその地位へ至って自分より下になった親友を悔しがらせてやろうとも考えていた。
しかし、その思いはつい先月までの事であった。
最強の、そして最高のヒーローと呼ばれていた御城の親友は、以前発生したとある事件にて爆発に巻き込まれて帰らぬ人となってしまったのだ。
「・・・・・・御城。お前。あの時の事をまだ気にしていたのか・・・。アレはお前のせいじゃない。あの時のお前は負傷していて、満足に動く事すらできなかっただろうが。」
「・・・それでも、あの場に俺がいれば何か出来たかもしれないと思うと。」
「そんなもしもの話をしても仕様がないだろう。」
ツインアイの目尻を下げて困ったと見えそうな形の表情になるラッセル。
ラッセルは御城の抱いている感情が後悔と呼べるものだと理解していた。
それは当時彼等と共にその事件を解決する為に参加し、状況を知っていたラッセルだからこそ分かるものであり、それ故にラッセルは御城に言う。「アレはどうしようもなかった」と。
御城の親友が死ぬ切っ掛けになった事件。後に『大量銀座誘拐事件』や『ヒーロー爆撃事件』とも呼ばれるようになったそれは、東京の銀座にいた多くの市民が、複数の怪人達の手で彼等の根城として現れた機動要塞内に誘拐されてしまったことが始まりであった
もちろんその事を知ったヒーロー連合協会はヒーロー達へ近場にいる者から順次現場に向かうようにと指示を出した。
総勢百人のヒーローが集結し、これほどの数のヒーローがいれば誘拐された人々を問題なく助け出せるだろうと最初は誰もが思っていた。
だが、事態は予想の斜め上を進んでいた。
ヒーロー達が現場に到着した時、なんと怪人達は誘拐していた人々を解放したのである。ただし、その体に爆弾が括り付けられた状態で。
彼等の体に取り付けられていた爆弾は二種類存在していた。
一つは通常の火薬を用いられて作られた爆弾で、至近距離であれば強化スーツを着たヒーローであっても爆発四散してしまう威力があり、もう一つは起動した際に周囲五メートルの範囲にあるモノを巻き込んで中心に向かって押しつぶしていく重力子爆弾であった。
爆弾にはあるセンサーが取り付けられており、一定距離内にヒーローがいると認識した途端に起動し爆発してしまう仕組みであり、さらに厄介なことに時限式としても作られていて、一定時間が経過したら人々に取り付けられた爆弾が一斉に爆発する仕様になっていたのである。
彼等を救おうとしていたヒーロー達は、この事態を知ってその足を止めるしかなかった。
何せ自分達が近づいただけで人々に取り付けられた爆弾が爆発してしまうのである。しかもまず間違いなくヒーローを殺せるような代物が。それを知れば救助活動など出来る筈もない。
しかし、だからと言って何もしなかったらどっちにしても時間経過で爆弾は爆発してしまうことになる。
それらの事を踏まえてヒーロー達は話し合い、最終的に元凶である怪人達を倒すことを優先することにした。
その事を決めるに至った理由は、爆弾の時限式の存在であった。
人々に取り付けられた爆弾は、ヒーローには反応するがそれ以外には反応しないことが調査の過程で分かっており、構造も単純な物であったので警察組織に存在する爆弾処理班であれば問題なく解体処理を行える。
しかし、爆弾が取り付けられた人々の数は数百万人も存在し、すべての爆弾を処理する前に時間になって爆発してしまうのは間違いなかった。
だが、これも調査の過程で爆弾の時限設定はとある怪人から発信される特殊な電波によって管理されていることが分かり、その怪人を倒せばタイマーは止まって時間的な余裕を確保することが可能となると分かったのである。
ヒーロー達はそれぞれの方法で怪人達の根城である機動要塞に接近し、待ち構えていた怪人達を撃破していった。
もちろん、目標であった時限式の電波を発信していた怪人も見事倒すことに成功した。
だが、その過程でヒーロー側も甚大な被害を受けていた。
怪人との戦闘の最中に、ヒーローに助けを求めた人々が接近して諸共に爆死してしまったり、または怪人の攻撃から人々を守ろうとしてセンサー範囲内に入ってしまい、爆死してしまうなどの事態が起こっていたのである。
当時の事件に関わっていた御城とラッセルも、怪人との戦闘の際に巻き込まれてしまった人々を守ろうと奮闘し、結果として重傷を負ってしまい、戦闘終了後には医療スタッフの元へと運ばれることとなった。
そして事件収束間際、あとは人々に取り付けられた爆弾を外すだけとなった時に、ニュースでは不幸な事故と呼ばれるようになった出来事が起こってしまった。
戦闘の余波で脆くなっていたビルの外壁が崩れ落ち、不幸にもその真下にいた女性の元へ落ちようとしていたのだ。
それに気付いた御城の親友はどうにかその女性を救い出すことに成功。しかし、最悪な状況が変わることはなかった。
女性の体にはまだ爆弾が外されていない状態であり、御城の親友が助け出す際に接近してしまったことで爆弾が起動。すぐにでも爆発してしまう状況であった。
そして御城の親友は選択した。女性を助けるという選択を。
御城の親友は女性に取り付けられていた爆弾を力ずくで引きはがした後、唯一被害が少なくなると思われる空中に爆弾を抱え込みながら跳躍し、爆発に巻き込まれて死亡したのである。
「あの時ほど、俺は自分の無力を恨んだことはなかった。そんな俺が、親友をむざむざと死なせた俺が、序列一位になるなんて納得できるわけがないだろう!!」
御城はあの事件の日に追った傷が原因で一週間の間意識不明の状態であり、当然親友が死んだことを知らなかった。
彼が親友の死を知ったのは意識を取り戻した後、報道されていたニュースを見たからだ。
親友の死を知った時、御城はそんな馬鹿なと信じたくはなかった。しかし、事実として親友が死亡したことには間違いがなかった。
後日、ヒーロー連合協会は死亡した御城の親友の跡目として当時序列二位だった御城を繰り上げで序列一位に就かせることを決定した。
日本の治安を守り、人々に正義の光は陰ってはいないという事を知らしめる為という名目であったが、実際は例の事件の被害によって数多くのヒーローが再起不能になったり、死亡してしまったりなどでその人数が激減してしまったからであった。
初めの頃は御城はそんなものはいらないと強く拒否して辞退しようとした。
しかし、当時の情勢では御城以外にその地位に就けるヒーローがいないという事もあり、ヒーロー連合協会と同僚のヒーロー達が説得して何とかその決定を受けてもらえるように頼み込み、それを受けた御城は内心では全く納得していなかったが、情勢が落ち着くまではという条件付きで渋々ながらその地位に就いたのであった。
「例え誰であっても、アレはどうにもならなかっただろうよ。いつまでも引き摺るな、御城。」
「俺だって理屈では分かってはいるさ・・・。それでもな・・・。」
「御城・・・・・・。」
ラッセルは当時の状況を思い返しながらそんな御城の肩を慰めるように叩くが、御城の表情は晴れることはなかった。
御城は「すまない」と一言零して、トボトボと歩き去っていくのであった。
寂しそうに去っていく御城の後ろ姿を心配そうに見送るラッセル。
「情けない姿ね。あれが今の序列一位だなんて。」
そんなラッセルに一人の女性が声を掛けた。
コツコツと靴音を立てながらラッセルに近づく肩まで伸びたふんわりとした金髪にエメラルドブルーの瞳が特徴的なスーツ姿の女性。
「アンタか、羽澤。それとも『クラッシャーバニー』の名で呼んだ方がいいか?」
彼女の名は『ヴィルマリア・羽澤』。日本人とドイツ人のハーフであり、『クラッシャーバニー』のヒーロー名が有名な人物で、御城とラッセルと同じヒーローの中での上位五名の内の一人であった。
「どちらでもお好きに。しかし、あれが今の私達の筆頭だなんて信じたくないわね。」
ヴィルマリアは気に入らないと言いたげにフンッ!と鼻息を荒くした。
「仕方がないさ。仲の良かった親友が死んだんだ。ああなってもおかしくはないだろうよ。」
「だとしても、ああまで疲れ切るものなのですか?あれでは緊急事態が起こった際に何某かの事故を起こしてもおかしくないわよ。」
ラッセルの言葉にヴィルマリアはスッと目を細める。
「ああ、いや、親友が死んだことで落ち込んでいるのは確かなんだが、アイツが疲れているのは別の理由だよ。」
そんなヴィルマリアに「違う、違う」と手を横に振るラッセル。
「何でもアイツは死んだ親友の、つまりは元序列一位だったあの男の息子を探しているんだよ。」
「あの人の息子を?何故?」
「それについてなんだが、この事はちょっと他言無用にしてもらっていいか?」
「むっ?何故、そのようなことを?あの人の息子であればその才能は期待できるでしょう。育て上げれば優秀なヒーローとなる可能性は高いはず。それに唯一残された親族として報道陣が黙っていないはずは・・・・・・・・・ちょっと待って、そういえばどうしてその事がニュースに出ていないのかしら?」
そこでふと、ヴィルマリアは今更ながら一つの疑問が浮かんできた。
御城の親友は序列一位になって以降十年間に渡って大々的に活躍していたヒーローであった。
その知名度は日本国内では絶大なもの。そんなに有名であれば親族関係者へ報道がインタビューを行ってもおかしくはないはずだ。
それなのに彼の死亡以降その子供に関する話が欠片も出ていないなんておかしく感じる。否、そもそもの話、彼の子供の事がニュースで報道されたことなんて彼女は今まで一度も見たことがなかった。
「ねえ、ラッセル。これってどういう―――――――――」
「ストップだ。羽澤。」
「――――――ッ!?」
どういう事かとラッセルに問いかけようとしたヴィルマリアであったが、それはラッセルの手によって止められた。
「ここでその話はまずい。こっちへ来てくれ。」
「・・・・・・・・・分かったわ。でも、キチンと説明してくれるのよね?」
「もちろんだぜ・・・!」
グッと親指を立てて応えたラッセルは、「こっちだ。」とヴィルマリアを近くにあった倉庫室へと案内した。
「ここなら防音性もバッチリだし、聞き耳を立てられる場所もない。盗聴器の類は俺が分かるからどうとでも出来るしな。」
「前置きは良いから早く説明してくれないかしら?こんな埃っぽい所にあまり長居は・・・・・・ハクシュッ!」
「おおっと・・・!悪い、悪い。それじゃあ本題に入るか。」
舞い上がった埃によってクシャミをしたヴィルマリアを見たラッセルは、着いて早々に話し始めた。
「あの男の息子に関してなんだが、どうも現在は行方知れずになっているらしい。」
「えっ!?それは本当なのですか・・・!」
ヴィルマリアは驚きの声を上げる。
ラッセルはそんな彼女の様子に間違いないと頷く。
「間違いない。俺もその事を知ったのは、御城から話を聞いたからだ。何でも、アイツが治療を終えて病院から退院した後、あの男の仏壇に線香を立てようと思って自宅へと向かったらしいんだ。・・・だが、そこには何もなかったんだそうだ。」
「何もなかった?」
「ああ、仏壇だけじゃない。家具や生活用品、さらにはあの男の息子の姿もなかったそうでな。まるで最初からそこは空き家だったとでも言えそうな状態であったらしい。」
「・・・・・・住所を間違えたとかではなくって?」
「それはない。なにせ御城の奴は、何度かあの男の自宅であるアパートへ足を運んだことがある。もちろん俺もだ。」
ラッセルは「飲み会でぐでんぐでんに酔ったあの男を送り届けるためだったけどな。」と言い、その時に何度か出迎えてくれた彼の息子の姿を確認していた。。
「御城と一緒に調べたんだが、どうもあの男の葬式を終えた次の日、つまりは御城が自宅へ向かう三日ほど前にそのアパートから出て行ったらしい。当時のあの子はまだ未成年だったから、どこかの施設に入る為だと最初は思ったんだが、それにしては色々とおかしな話が聞けてな。」
アパートの退去手続きとか荷物の運び出しを行ったのがその息子本人じゃなかったようだと、ラッセルは話す。
それを聞いたヴィルマリアは眉根を寄せた。
「それは、その子の後見人となった人物が手続きなどを行ったという事で解釈していいのかしら?」
「いいや、違う。・・・あの男は元々孤児院育ちだった。必然的にその息子の親族は父親以外いないことになる。」
ラッセルはフルフルと首を横に振って否定する。
「一応あの男の担当をしていた職員が色々と手配をしていたようだが、その段階ではまだ後見人など決まっていなかったみたいだ。それどころかその職員もあの男の息子が姿を消したことを知らなかったらしい。」
「何それ?ヒーローが死亡した際の親族への対応は、担当していた職員の義務の一つの筈よ。それなのに知らないだなんて・・・・・・。」
「俺もその事が疑問に思ってその職員の事を調べているんだが、色々と怪しい所があってな。『宝堂文三』という男を知っているか。」
「ええ。確か書類偽造や闇金融との癒着が発覚して逮捕されたと聞いていますが。」
「どうやらその職員が、様々な手続きを行うための弁護士として雇っていたみたいなんだよ。」
ラッセルの含みのある内容に、続けなさいと顎をしゃくるヴィルマリア。
「どうやら、あの男の葬式の手配とか相続についてとかの対応を全部その男に任せていたらしい。しかも、押収した宝堂事務所の書類を確認してみたら、下手をしたらその子供が身売りされるところだったようだ。」
「人身売買とか臓器売買の対象として売り出す腹積もりだったようだ。」と苛立たしげな声を出すラッセル。
「なっ!?・・・・・・いえ、待って。されるところだったとは、どういう事?」
「そうなる前に、その宝堂という弁護士が捕まったからだよ。」
宝堂文三が逮捕されたのはその事に関する書類が作られる前の事であり、彼が逮捕されたのことで芋づる式に癒着していた闇金融にも一斉検挙が行われたのである。
それを聞いたヴィルマリアはホッと一息つこうとしたが、あれ?と首を傾げた。
「ちょっと待って?それじゃあ、その子供は一体何処へ行ったの?」
「それが分からないんだ。少なくとも宝堂文三の仕業ではないことは間違いないが、だったら誰があの子を連れて行ったのか。」
ラッセルはその事を本格的に調べようとしたのだが、そうなる前にヒーロー連合協会から捜査を中断するように指示が出されたと話した。
「ヒーロー連合協会が?どうして?」
「分からねぇ。何か理由がありそうなんだが、極秘事項だの一点張りで何一つ答えようとしない。」
「上位五名の内の一人である筈のアナタにも教えられないというのはおかしな話ね。本部上層部と同じS級の情報閲覧権限がある私達にすら話さないだなんて、彼等は一体何を隠しているのかしら?」
ヒーロー連合協会の本部上層部の不可解な行動に疑問を持つヴィルマリア。
そんな彼女に、だからこそ自分は秘密裏に調べているのだと答えるラッセル。
「少なくとも、碌な理由じゃなさそうだぜ。バレない様に情報収集してみたが、そこで気になる情報を得た。」
ラッセルは自身が入手した情報をヴィルマリアへ教える。元序列一位の男が一億円もの借金をしていたという事を。
「一億!?どうしてそれほどの大金を・・・・・・。散財するような方には見えませんでしたが。」
「その見立ては間違っちゃいない。あの男は相当な倹約家だった。そんなアイツがこれほどの借金をする理由が俺には思いつかない・・・。何よりおかしいのは借金額の変動だ。」
これを見てくれと手首のボタンを操作してホログラムモニターを出現させるラッセル。
そこには元序列一位の男が負っていた借金についての書類であった。
「・・・・・・・・・なんなの、これ。借金をしていたのは十年前から。それも最初の頃は数百万だったのが、一年を超すごとにどんどん増えて行っている?」
「借金の名目はあの男が破損した機材の修繕をする為という事だが、俺が知る限りあの男がそんなことをしたことはない。」
「自分の装備品すら自分で修理していた姿を見たことがあったから、余計にな。」とラッセルは呟き、それを聞いたヴィルマリアは目を細めて思案した。
「この一件、何かしらの裏がありそうね。この事を御城は?」
「いや、知らん。というか教えてない。真面目なアイツが知れば、本部上層部へ直談判しに行きかねないからな。」
だからこそあの生真面目は、疲れてしまうまであの男の息子を探しているのだと答えるラッセル。
ヴィルマリアはそれに「なるほど・・・。」と苦笑してみせた。
「話は分かったわ。この件に関しては私も調べる。もっとも、アナタは最初から巻き込むつもりだったようだけど。」
「たははっ、バレたか。流石に一人で調べるのは限界があってなぁ。ちょうどお仲間が欲しかったんだよ。」
軽快な笑いを見せるラッセル。
そんな彼を見ながらまったく仕様がないなぁと苦笑しながらため息を吐くヴィルマリアであった。
続きは現在執筆中です。1週間前後を目安に投稿します。




