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ミッション2 悪の組織に入っちゃった!?

2話目投稿です。

少しの間、区切りがつくまではこの小説を投稿していきます。

2020年4月1日に文章内容の修正を行っております。

2021年10月20日に文章の一部変更をしました。



俺がこれから働こうとしていた場所が『アンビリバブル』という悪の組織であるとブレーバーより明かされてから三十分が経過した頃。俺は彼の案内で会議室と思われる場所に来ていた。


「それではこれより、社員説明会を始めたいと思う!」


椅子に座った俺の前で、ホワイトボードを背にしたブレーバーがマントを翻してそう言う。

ちなみに、今の俺の服装はジャージ姿だ。説明会を開く前に裸のままでは不味かろうと、着替えとしてこのジャージと下着を渡され、更衣室で着替えるようにと言われたのである。

正直、裸のままというのは俺としても勘弁して欲しかったので、ありがたく着替えさせてもらった。

ちなみに、下着は男物が用意されていた。流石に元は男だった俺が女物の下着を着るのは抵抗があるだろうと思ったのだろう。気遣いは感じられるのだが、しかし同時に空しさも感じてしまい、正直服を渡された時は無性にブレーバーのことを殴りたくなった。


「まずは、我々の目的から説明したいと思う。我々の目的はぶっちゃけ世界征服です」


いきなりぶっちゃけすぎだろう!しかもノリ軽っ!?


「この世界に存在するあらゆる国家を掌握し、人心を支配し、我々がこの星の支配者であることを万民に知らしめることが、現状での我らの目的である!」


派手なパフォーマンスを交えながら説明するブレーバー。話しながらそんなに動いて疲れたりしないのだろうか?そして随分と漠然とした目的だな、おい。


「そして、今日から君も、我らと共に世界征服を目指す一員となったのだ!・・・・・・って、何だ、その呆れたような顔は?」


最後には俺に向かって指を差してくるブレーバーだったが、俺の顔を見た途端にどうしたのかと首を傾げる。


「そりゃ呆れたくもなるって。入社決定した途端に眠らされて、気が付いたら女にされていて、しかもその理由が世界征服なんていうアホな目的の為だったんだから」


「アホな目的とはなんだ!・・・・・・まあ、正直言えば、我も今時(いまどき)世界征服なんて時代遅れなんじゃないかなぁとは思っているんだが、どうしてもやらなければならないわけがあってなぁ・・・・・・」


「・・・?」


世界征服をしなくてはならない訳とは、一体?


「実は我の一族は世界征服を生業とする家系でな。一族全員が最低でも世界の一つ二つを征服したことがあるという実績を持っていて、異世界にある故郷の地ではかなり有名一族なのだよ。・・・・・・我を除いてな」


自分が生まれた一族のことを誇っていたと思ったら、突然自虐的になり始めたブレーバー。


「我は一族の中でも落ちこぼれでな。初めの頃こそ家族の期待に応えようとしていたのだが、何をやっても失敗してばかりで、最後には何もかも嫌になって引き籠もるようになったのだ」


しかも、そこそこ重そうな話である。


「・・・ん?あれ?引きこもっていた?それなのに、どうして今ここに?」


「その理由はすごく簡単。父親に家を追い出された」


「えぇ・・・・・・」


「世界の一つくらい征服してくるまで帰って来るなと、尻を蹴飛ばされてな。引きこもっていた我を心配する気持ち半分、一族のプライド半分だったんだろうが、着の身着のまま素寒貧の状態で追い出すのはやめて欲しかったなぁ・・・」


うわぁ、と俺は何も言えずただ絶句するしかなかった。

どうも話を聞く限りでは相当厳しい家だった様だ。


「まあ、その後の事は、そのままではすぐに野垂れ死んでしまうのは分かっていたし、必死になって我にも征服できそうな世界を探し始めた。そして見つけたのが、この地球という世界だったという訳だ」


そう言った後でブレーバーは一度言葉を区切る。


「文明度はレベルⅣ―――あ、どれくらい文明が発展しているかという事を表す表記で、Ⅳだと世界規模で発展しているという事―――だったから、我の持つ技術力や能力があれば一年もせずに征服できると思っていたんだが・・・実際にこの世界へやって来て調べていくうちに予想だにしていなかった事態に直面した」


「・・・予想だにしていなかった事態?」


「それは―――この世界、悪の組織多すぎだから!!」


そう言うとブレーバーは両手で顔を覆い、ブワッ!?と泣き出した。


「・・・・・・あー・・・」


ブレーバーの言葉に思い当たる節があった俺は、目の前で嘆く仮面の人物を慰めることは出来なかった。

なにせ、現在この地球では数多くの悪の組織と呼ばれるような存在が世界各国におり、水面下で複雑に蠢いていたからだ。

有名どころでは、おぞましい姿の改造人間を暴れさせるという活動をしている、アメリカにある秘密結社『暗黒の翼』。オーバーテクノロジーで作られた兵器を使って、様々な軍事施設を破壊して回っているドイツの超科学組織『メルファンカウプ』。異世界からの侵略者でアフリカで主な活動を行っている異界侵攻軍『バルバロッサ』等々。この他にも中小規模の悪の組織が存在し、それぞれ独自の活動を行っているのが今の地球の状況なのである。


「いやまあ、最初は一つの世界にこんなに悪の組織が存在していることに驚きはしたよ?したけど、今暴れている連中は皆たいしたことない奴ばかりだったから、その気になればどうとでも出来る・・・んだけど、そんな彼らに対抗し、拮抗する勢力が存在するというのが、本当に訳が分からない!?」


「・・・・・・ああ、ヒーローって名乗っている彼らの事か」


さらに悪の組織が存在しているのであれば、ある種お約束というべきか、彼らと戦うヒーローと呼ばれる存在もこの地球にはいた。

個人だったり、戦隊系みたいに複数人、組織として活動している所など、その数は世界中に存在する悪の組織と同等くらいはあるのではないかとニュースキャスターが言っていたのを俺は薄らと覚えている。


「最初は我だけで十分だと思って、奴らが争っていた現場に突撃したんだけど、次から次へとやってくる増援が凄く鬱陶しかった!強さ自体は片手で簡単に潰せる奴らばかりなのに、数だけは無駄に多くて、最後にはもう嫌になって逃げ出してしまったのだよ」


そう言いながら、どこか遠くを見るブレーバー。

当時の状況を思い出しているのか、めっちゃ憂鬱そうな雰囲気が感じられる。


「・・・・・・まあ、そんな経緯があって、我一人だけでは世界征服は不可能だと判断し、我も奴らのように仲間を集めて組織を作ろうと考えと、このアンビリバブルという組織を立ち上げたというわけだ」


長々と続いた話をブレーバーはそう締め括り、その後で「ここまで何か分からないことはあるか」と彼が聞いてきたので、俺は「質問があるんだけど・・・・・・」と手を上げた。


「あんたが悪の組織を作った事情は分かった。けど、それでどうして俺が女にされなくちゃいけないんだ?」


ブレーバーの言う仲間を集めるというのが、怪人を造り出すことを指しているのは、説明会を始まる前に言った俺を怪人にする為という発言から分かっていた。・・・のだがしかし、それでどうして俺を女にするなんてことになったのかが分からなかった俺は、そうブレーバーに尋ねてみた。


「・・・・・・その事なのだが、実はよく分かっておらん!」


「・・・・・・はぁ?」


その答えに、俺は思わずドスの利いた低い声を出してしまった。


「オイコラ。俺を怪人にしたのはアンタだろうが。それなのに分からないとはどういう事だ、アァン?」


「ま、待て待て!?説明する!ちゃんと説明するから!だから拳を握ったまま詰め寄らないで!あと顔!それ絶対カタギの人がする様な顔じゃないから!ステイ!ステイステイステイ!?」


拳を握り締めながら今にも殴りかからんとする俺に、ブレーバーは「待った待った!?」という感じに両手を前に出し、その後でどうして分からないと言ったのかの理由を話し始めた。

ブレーバーの説明では、俺を怪人にする為に使ったのはバイオニズム液と呼ばれる液体だと言う。この液体は、数百年前に存在したブレーバーの一族の超弩級の天才と呼ばれていた人物が世界征服を快適かつ楽に進める為に作り出したものらしく、これが作られて以降は今まで征服するのに手間取っていた世界を快進撃的に掌握することが出来るようになったのだそうだ。

・・・ただ、このバイオニズム液には唯一の欠点というか、ある特性があるらしい。


「その特性とは、素体となる被験体の素養によって怪人の容姿と能力が変わるという事。分かりやすい言葉で例えるなら、ソシャゲのガチャのようなモノだな」


「・・・・・・つまり、俺には女になる素養があったから、この体になったと・・・?」


「・・・・・・・・・多分」


どうして俺が女になったのか?という疑問について答えと思われる事を言いながらウンと頷いたブレーバーを見た俺は、ガクリと両手両膝を着いて落ち込んだ。

そりゃまあ、確かに俺は昔から顔とか体付きとかで女みたいだとはよく言われていたけどさ。ついでに言うと料理とか洗濯とか掃除とか、そういった家事全般もやっていたのもあって、近所のおばちゃん達にはお嫁に欲しいくらいだわ、とまで言われた事もあるけどさ。だからって、だからって・・・・・・!―――いや待て。まさか、それで女になる素養があると判断されたのか?


「―――ハッ、そうだ!そのバイオニズム液とか言うやつで女に成ったんなら、もう一度そいつを使えば男に戻れるんじゃないか!?」


すっかり落ち込んでいた俺だったが、そこでふと「もしかしたら!」という感じにハッとした。


「いやいや無理無理。バイオニズム液での怪人化は遺伝子レベルでの肉体の書き換えと再構築を行っているから、例えもう一度使ったとしても既に完成されたその体を元に戻すことなんて不可能だ。なにせ、君の体にはもう元となった肉体情報など欠片も存在しないのだからな。・・・時間を巻き戻すというのなら話は別だが」


・・・・・・しかし、現実はそう甘くはなかったらしい。折角見出だした一筋の希望は、ブレーバーのその説明によって粉々に砕かれた。

俺はこれまでの人生の中で初めて自分の元の容姿を呪いたくなった。


「うぅ・・・!クソッ、これじゃバイトにも行けな・・・・・・あっ!?」


今の自分の姿では今まで働いていたバイト先に行けないじゃないかと落ち込む俺であったが、そこでお金に纏わる自身の問題を思い出した。


「そうだ、借金!十億円!早くお金を稼がないと、闇金融の怖い人達がやってくる・・・・・・!?」


借金のことを思い出した俺は、どうしようと慌て始める。

だがその動きは、ブレーバーの次の一言で硬直した。


「ん?君が背負っていた十億の借金なら、三日前にすでに我が払って完済しているが?」


「・・・・・・・・・え?」


借金が返済し終わっていると聞いて、思わずブレーバーの方を見る。


「・・・・・・ごめん、もう一度言ってくれる?」


もしかしたら聞き間違いかもしれないと思って聞き返すと、ブレーバーは何故聞き返すのかと不思議そうに首を傾げながらも答えてくれた。


「ふむ?だから、君が背負っていた十億の借金なら、今から三日前に一括で返済し終わっているぞ。ほら、ここに返済完了したという書類もあるし」


ごそごそとブレーバーが懐から取り出したのは複数枚の借用書。それ等は全部、前に弁護士の人に見せてもらった父さんの借用書と同じやつであり、そこには確かに返済済みの表記が記されていた。


「・・・・・・え?なんで?」


「なんでって、君は何を言っているのだ?面接の時に言ったはずだろう。君の借金を我が代わりに支払おうと」


「い、いやいやいや!?十億円だぞ!十円とか十万円とかじゃなく十億円だぞ!そう易々と、しかも一括で払うなんてことが、早々できるわけが・・・・・・!?」


「ああ、組織の資金の事を言っているのか?それなら問題はない。ウチは資金源が潤沢だからな。実はこの世界に来た時に活動資金を得るために株取引を始めたんだが、これが大当たりしてな。今じゃ年収約一千億円くらいはあるのだよ。だから十億円くらいならば、ほんの少しの出費程度にしかならん」


「・・・・・・・・・・・・」


開いた口が塞がらないとはこの事だと思った。そりゃあ確かに株取引は成功すれば莫大な資金を得ることは出来るだろう。だが、失敗すれば一気に転落人生を送ることになってもおかしくない。なのに、年収一千億円も稼いでみせるとか。おそらく、とんでもない商才とそれをうまく回せる手腕があるのだろう。

そしてもう一つ、先ほどの会話の中で気になった内容があったのでそれも聞いてみた。


「・・・あと、俺の借金を支払ったのが三日前って言っていたけど、どういうこと?」


「ああ・・・そういえば、その事を伝え忘れていたな。君は目覚めたばかりで気付いていないだろうが、我と君が出会ったあの日から既に三日が経過しているのだよ」


ブレーバーの説明では、俺があの廃工場で眠らされ、先ほどまで入っていたカプセルに入れられてから既に三日が経過しているそうだ。

肉体情報の書き換えや再構築、出来上がった体の調整などで時間はかかるといっても、本来なら一日くらいで完了するそうなのだが、よっぽどバイオニズム液と相性が良かったのか、調整が完了するまで三日もかかったらしい。


「ここまで時間がかかるほど相性がいいのは、我の知る限りウチの一族くらいしか思い当たらないのだが、不思議なこともあったものだ」


そう言いながら不思議そうに首を傾げるブレーバー。おそらく彼も、まさか三日も掛かるだなんて予想していなかったのだろう。「俺が目覚めたときに歓迎会を開けるように急いで準備していたのに」とも零している様子から、それが伺えた。






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