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ミッション141 蒼き不死鳥の終わり、未だ語られぬ暗霧の言の葉

ギャグやコメディをお求めの皆様へ。申し訳ありませんが、今回はそういった要素はありません。シリアス且つ若干ホラー要素が入っています。

それでも良いという方は、どうぞご覧ください。



 場面は変わり、ブレーバーの姿が見当たらない事に気付いたディーアルナが、周囲を見渡しながら呟いていたちょうどその頃。

 宴会が行われているスパランティス島の商業エリアからだいぶ離れた、大小様々な岩場が乱立する波打ち際のその一角にて、一本の人型の腕が海中から飛び出した。

 その腕はバシャリと音を立てながら岩場の上へと乗せられ、続けてもう一本の腕も現れると、辺りを探る様に岩場を触っていく。

 そして、ちょうど近くにあった凸凹(でこぼこ)とした岩場の出っ張りを掴むと、グッと力を込め―――次の瞬間、ザバァッ!と海の中から全身ずぶ濡れの人影が姿を現した。


「ぶはぁっ!ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・し、死ぬかと思った・・・!!」


 その人影の正体は、巨大空中戦艦グレートコンクエスタMark.Ⅱから落ちて海に消えた筈の、悪の秘密結社グレイスフル・ブルーの首領、ブルフレアであった。

 彼は岩場の上に乗り上げると、初めは荒い呼吸を繰り返していたが、それは時間が経つに連れて徐々に整えられていく。

 同時に、ずぶ濡れの状態となっている身体から水蒸気が立ち上ぼる。数分も経った頃には、ブルフレアの身体は完全に乾ききっていた。


「グッ・・・!クソッ!最悪だ、最悪の展開だぞこれは・・・!せっかく用意した巨大空中戦艦という切り札だけじゃない、それを扱える人材までも失っちまった・・・!作戦失敗どころの話じゃない。致命的なまでの大損だ・・・!!」


 今現在、彼が陥っている状況は、彼自身が呟いていたように最早取り返しがつかないくらいに最悪なものとなっていた。

 せっかく用意した切り札である巨大空中戦艦グレートコンクエスタMark.Ⅱを失い、更には搭乗員として連れてきた部下も全て失った。

 生き残ったのはただ一人。自分だけ。組織的な損耗具合で言えば、ハッキリ言って九割方致命傷であり、ここから状況を覆すなんてのはまず不可能。

 その事を理解していたからこそ、ブルフレアは今後自分はどう動くべきかを、ゆっくりと立ち上がりながら考えていたのだが・・・・・・。


「本拠地に戻れば多少なりとも戦力をかき集める事はできるだろうが・・・・・・正直、今回連れて来ていた精鋭部隊と比べると、本拠地に残してきた連中は、見劣りするなんてレベルじゃ済まないくらいの格下しかいないからな。戦力として期待することはまず無理だ。

 ・・・いや、それ以前に、組織運営をどうにかする方が先か。経営部門を担当していたブルーナイトメアを切っちまったからな。今後の資金繰りが難しくなるのは確定だ。ああ、クソッ!こんな事になるんなら、あの女を切らなければ良かったか・・・・・・」


 実はブルフレアは、今回の作戦に悪の秘密結社グレイスフル・ブルーに複数いる幹部の一人であるバダパスカル以外にもそれなりの数の部下を連れてきていた。

 その部下達は同組織に所属する怪人の中でも上位の実力の持ち主達で、所謂精鋭と呼べる者達であり、今回の作戦においては、強襲制圧部隊として召集していたのだ。

 本来なら、グレートコンクエスタMark.Ⅱでスパランティス島に存在する防衛戦力に大打撃を与えた後にその部隊を降下させて、島を武力制圧をする腹積もりだったのだが・・・・・・しかし、それを実行に移す前に、ブルーナイトメアの能力による不運と、アームドレンジャーが操るガッシンジャーの不意打ち特攻によりグレートコンクエスタMark.Ⅱは撃破、破壊され、立てていた作戦は水泡へと消えてしまった。

 なにより痛かったのは、召集していた精鋭たる怪人達を全てを失った事だ。一応戦力となる怪人はまだいると言えばいるのだが、残っているのは全員十把一絡げの雑魚ばかり。戦闘能力は期待できないので、裏方や資金集めの為の表向きの会社、組織運営等に回している連中だ。

 九割方致命傷と表現したのもこの事が理由であり、そんな連中を連れてきたところで簡単に蹴散らされるのがオチだし、それ以前に抜けた戦力の穴を埋める為に無理に引き抜けば、組織運営に間違いなく支障が出るだろう。端から選択肢として挙げる事自体愚策と言えた。


「チッ、ダメだな、幾ら考えても逆転の目が見えねぇ。詰んでるっつう答えしか出てこねぇや。

 しゃあない。こうなりゃ、また一から組織を建て直して・・・・・・」


「―――やれやれ。無駄に生き汚い貴様の事だ、あれで死ぬ筈がないとは思っていたが、やはり生きていたか」


「ッ!誰だ!?」


 ―――そう考えていた時だった。十数m先、鬱蒼と生い茂る闇夜に染まった森の中から何者かの声が掛けられたのは。


「久しいな、ブルフレアよ。直接会うのは十年ぶりくらいか」


「テメェ・・・!ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアァッ!!」


 声が聞こえた方向へとブルフレアが振り向けば・・・・・・そこには、悪の組織アンビリバブルのボスであるブレーバーの姿があった。

 森の中から滲み出る様に姿を現した彼は、夜風でマントを翻し、暗闇の中で仮面の四つ目を薄っすらと光らせながら、ブルフレアの元へと近づいて行く。

 そんなブレーバーの姿を目にしたブルフレアは、憎々しげな声音で彼の名を叫びながら身構える。


「はっ・・・まさかこんな所でテメェと出会(でくわ)すとはなぁ・・・!十年前に俺の組織を潰してくれた恨み辛み、今此処で晴らしてやろうか?ああっ!?」


「まったく、相も変わらず柄の悪い。・・・だが、決着を着けるというのなら願ってもない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ッ!?や、やるってぇのか!?おぉっ!?」


 ゆらりと両腕を持ち上げ、両手を緩く開いて悠然と構えるブレーバー。

 対するブルフレアも、孔雀の尾羽を思わせる背中の羽を大きく広げ、ゴオゥッ!と青い粒子を炎の様に立ち上らせる。

 ・・・が、しかし、その腰は端から見ても分かるくらいに引けていた。よく見れば両膝も微細な震動を繰り返していたり。


「ヤられる前にヤってやらぁ!【ヒートウェイブ】!!」


 声の震えを隠せてこそいなかったが、しかし技と共に放たれた怒りと殺意は本物だ。

 凄まじい熱を帯びた青い粒子がブレーバー目掛けて飛んでいき、進むに連れて空気と擦れる事で瞬く間に蒼炎へと変わっていく。

 同時にそれは岩場の上を舐める様にも広がっていき、最終的には大きな蒼い炎の波となってブレーバーの身体を呑み込んだ。


「―――フゥムッ・・・ブルフレアよ、残念ながらこの程度の攻撃では我にダメージを与える事など出来はしない。これでは精々、温いサウナに入ったなぁ、くらいの感想しか出てこないぞ?」


「なっ、なにぃ!?」


 ―――が、当のブレーバーは全くダメージを受けている様子がなかった。どころか、ダメ出しまでする始末。

 これにはブルフレアも驚愕を隠せず、動揺して一瞬狼狽える様を見せる。


「くっ・・・!なら、これならどうだ!!【サンライトレーザー】!【フレイムトルネード】!!【プロミネンスタワー】!!!」


 チュドドドドドドッ!!ゴォオオオオオオーッ!!ドッッッゴォオオオオオンッ!!!


 だが、すぐに気を取り直すと、孔雀の尾羽を思わせる背中の羽から追尾能力を持つ蒼い熱線をブレーバーに向けて放つ。

 続けて、ブレーバーを中心として四方にそれぞれ蒼い火炎竜巻を出現させ、円を描くような軌道で動かしながらブレーバーの元へと集結させ、巨大な蒼い火炎旋風となって彼の身体を包み込む。

 そして最後のトリを飾るのは、地面の下から立ち昇る様に放たれた巨大な蒼い炎柱だ。

 火炎旋風を吹き飛ばしながら出現したそれの熱量は、摂氏一万℃。プロミネンスと呼ばれる、太陽の縁から高く立ち上る炎のようなガスの塊と同等の熱量を持つそれは、余波だけでも周囲の環境を激変させていく。

 岩場は融けて溶岩に。森の木々は瞬く間に焼け焦げて飛び散る灰へと早変わり。

 焦土と化し、超高熱の熱波が渦巻く環境へと変わったその場所は、普通の生物では生きられない、呼吸すら儘ならない、まさに地獄と呼ぶに相応しいものへと変貌した。


「―――ウゥム・・・眩しい、音が煩い、更には地面に穴まで空けおって、少しは近所迷惑というものを考えてほしいものだな」


「ば、馬鹿な・・・!?」


 ―――だというのに、その中心でブレーバーは腕を組み、今何かしたか?と言わんばかりに軽く首を傾げながら平然と(たたず)んでいた。

 そんな彼の姿を目にしたブルフレアは、開いた口が塞がらないと言わんばかりに愕然とし、目を見張った。


「あり得ない!あり得ないだろうこんなの!?十年前に戦った時よりも格段に威力は上がっているんだぞ!其処らの雑魚なら余波だけで十分に死ぬレベルの即死攻撃なんだぞ!?

 なのに・・・だってのに・・・それが、効いていない?嘘だろう?

 ・・・・・・デタラメだ、デタラメ過ぎる・・・!本物の化け物かよ、テメェはっ・・・!?」


 自身が放った技は、間違いなく、全てブレーバーに直撃した筈だった。

 だが、実際には怪我らしい怪我が見られない全くのノーダメージ。マントの端にすら焦げ跡が見当たらないとか、いったいどんなペテンを使ったのかと疑ってしまうくらいには、ブルフレアにとってはとても信じ難い光景だった。


「(クソッ!クソクソクソッ!!これじゃあまるで十年前の焼き直しじゃねぇか!?

 ・・・・・・マズイ、マズイぞ。今の俺にはもう打てる手がねぇ。このままじゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・!)」


 あまりにも理不尽の権化の様な姿、光景を前に、ブルフレアは自身の脳裏に十年前の出来事を思い出し、兜の下の顔色を青褪めさせた。








 ―――十年前、当時のブルフレアと彼が率いていた悪の秘密結社グレイスフル・ブルーは、実力、組織力共に最盛期を迎えていた。

 当時の彼等の活動範囲は主にヨーロッパ圏を中心としており、同時期に活動していた他の三つの悪の組織と共に一大勢力の一つに数えられていた。

 なんなら、ブルフレアも含めた各組織のボスは『ヨーロッパ四天王』とさえ呼ばれる程だったと言えば、その知名度と影響力がどれ程だったのかは大まかに分かる事だろう。

 それ程までに有名どころであった彼等の存在は・・・・・・だがしかし、今現在では誰も知らない、噂の一つにも挙がらない程にまで零落し、忘れ去られていた。

 彼等がそうなるに至ったのは、同時期にブルフレア達ヨーロッパ四天王の間で行われた、相互不干渉の取り決めの話し合いの場で起きた出来事が原因だった。

 当時、彼等ヨーロッパ四天王が率いていた組織の間では、大小様々な四つ巴の小競り合いが頻発していた。

 そうなるに至った理由や経緯、切っ掛け等は当時でも判然としていなかったが・・・・・・しかし、このままでは組織運営や活動にも支障をきたしかねないと判断され、各組織のトップも含めた上層部は急遽会談の場を設ける事を決めたのである。

 当初、彼等の間で行われた話し合いはスムーズに進んでいた。 

 元々、ブルフレアも含めた各組織のトップ四人は利害や損得を重視する傾向が強く、一組織の長としての誇りというかプライドというか、そういったモノをあまり持たないタイプであった。

 飽くまで活動地域が重なっていたというだけで、それぞれ掲げている組織としての目的や進むべき方向性が異なっていたのも、話し合いがスムーズに進んだ要因の一つと言えた。

 なんなら、彼等四人で同盟を結んでヨーロッパ全域を制圧、支配して、自分達が統治する国家を築き上げる・・・・・・なんて構想が出てくる程度には良好な関係性を築けていた程だった。

 ・・・そうして、彼等の間で話し合うべき残る議題は、最近頻発している組織間の小競り合いをどう収めるのか、という事だけになったのだが―――。


 ―――ガッシャアアアアアアンッ!!!


『な、なんだ!?』


『急にステンドグラスが割れた!?いや、待て・・・!』


『―――貴様、いったい何者だ!!』


『・・・ごきげんよう、ヨーロッパ四天王の諸君。突然の訪問に重ねて失礼するが―――貴様等には、我が野望成就の為に死んでもらう』


 ―――そこへ突如、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアが襲撃を仕掛けてきたのである。

 会談の場として用意された部屋の中でも一際大きいステンドグラスを蹴り割りながら現れた彼は、着々すると軽い挨拶も早々にブルフレア達に襲い掛かって来た。

 もちろん、ブルフレア達は襲撃者であるブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアに対して応戦をした。各組織が護衛役として用意した、確かな実力を持った精鋭の怪人達もその場にいたので、彼等とも共同戦線を張った上でだ。


『ガ、ガハッ・・・!ば、馬鹿な・・・!?精鋭たる我々が、敗れる、だとぉ・・・!?』


『消える・・・消えていく・・・わ、私の身体が・・・!』


『や、やめろ・・・!やめてくれ・・・!!俺を、俺を消さないで―――!?』


『あ、ああ、ああああああっ・・・!?!?』


 ―――だがその結果は、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアただ一人に蹂躙されるがままに終わってしまった。

 その時の光景はまさに鎧袖一触・・・いや、それよりもなお酷いものだった。

 なにせ、彼が触れた先から怪人達の身体が文字通りの意味で消されてしまったからだ。

 灰色に変色し、砂粒の様に崩れ、風に吹かれて砂塵が舞うかの如く散り消えるその様は、消した当人を除いたその場にいた誰もを愕然とさせ、言葉では言い表せない恐怖心を植え付けた。


『あ、あ・・・!嫌だ、嫌だ・・・!死にたくない!死にたくな―――!?』


『く、来るな!来ないでくれ!わ、私にはまだやることが・・・!この欧州に一大経済国家を築くという夢が・・・!!あっ―――!?』


『ヒ、ヒハッ、ヒハハッ・・・!みんな・・・みぃんな消されちまった。こりゃあもう駄目だ・・・もう誰も助からない・・・・・・俺達はみんな此処で、コイツの手で消され―――』


 そしてそれは、ヨーロッパ四天王も例外ではなかった。

 彼等もまた、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアに挑み、最初こそ組織の長に相応しい高い戦闘能力によって善戦してはいたが・・・・・・しかしその奮闘も虚しく、最後には泣き叫び、浅ましく命乞いをしながら、先に消された部下達と同様の結末を迎えて灰塵と散り消えた。

 ―――その中で唯一ブルフレアだけが生き残る事ができたのは、運もあっただろうが、一目見て加我の戦力差を見抜き、自分達の方が不利だと判断して、他の者達と違って戦う事よりも隙を見て逃げる事に徹したからだった。

 ・・・・・・そうして、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアという自らを死へと誘う魔の手から見事逃げ仰せる事に成功したブルフレアだったが―――しかし、彼は決して助かってなどいなかった。むしろ、彼にとっての不幸はここからだった。


『―――大変です、ブルフレア様!なんか妙な四つ目の仮面を被った怪人が、たった一人でヨーロッパ中の悪の組織や秘密結社を壊滅して回ってます!此処ら一帯も、残っている組織はもうウチだけです!』


『な、なんだとぉ!?』


 ―――なにせこの日を境に、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアがヨーロッパ全域に存在する悪の組織及び秘密結社の壊滅に乗り出したからだ。

 ブルフレア達がその事に気付くのが遅れたのは、当の襲撃者が高い隠密能力を有していたというのもあったが、一番の理由は、襲撃した組織の構成員を全滅させていたからだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 情報を発信する者が全ていなくなれば、必然的に情報封鎖は成される。理論的にはその通りだが、しかし実際に行うのは至難の技。

 けれどそれを、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアは()()()()()()()()()実践してみせた。

 末端に至るまで徹底的且つ執拗に、そして手際良く迅速に処理する様に構成員達を狩っていくその姿は、さながらホラー映画の殺人鬼(シリアルキラー)染みており・・・・・・その光景を偶然手に入れる事ができた映像記録で確認した当時のブルフレアは、会談の場での出来事を思い出した事も相まって、ゾッと背筋が凍り、拭いきれない程の大量の冷や汗が全身からドッパドッパと流れ落ちるのを感じた。


『―――基地内に侵入者を確認!ぶ、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアです!!ヤバいヤバいヤバい・・・!!次々とウチの連中が狩られています!ああ、また・・・!?』


『な、なん・・・だと・・・・・・!?』


 ・・・・・・気付いたときには、ヨーロッパ圏に存在する悪の組織及び秘密結社の約半数以上が既に壊滅させられていた。その中には当然ブルフレア達の組織も入っており、壊滅まであと一歩というところにまで追い詰められていた。


『―――見つけたぞ、例の怪人だ!本隊に連絡しろ!応援を呼べ!!』


『うわぁ、おいおいマジかよ・・・!この辺りで一、二を争う巨大組織がほぼほぼ壊滅状態とか・・・・・・あの四つ目仮面、どんだけヤベェんだよ・・・!?』


『んなこと言ってる場合か!とにかく今は、本隊が到着するまでアイツの動きを止める事に専念するぞ!総員、俺に続けぇぇぇーっ!!』


 ―――不幸中の幸いと言えたのは、その暴れっぷりを危険視したヒーロー連合協会が出歯って来たことだろう。

 ヨーロッパ圏の各支部から派遣されたヒーロー百十数名が、軍隊染みた統率の取れた動きでもって集中飽和攻撃を行う事で、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアと互角に渡り合う事ができ、最終的に撃退する事に()成功した。

 ・・・ただしそれは、投入された人員の九割が再起不能となるのと引き換えに、であり、損害を考慮すると実質的には敗北に等しいものであったが。

 また、それによりブルフレア達の組織が完全に壊滅させられることも免れたのだが・・・・・・とはいえ、こちらも受けた損害が酷く、組織の建て直しは困難な状態であり、今再び襲撃を受けたら今度こそ壊滅させられるのは明白だった。

 なので、このまま組織を維持するのはリスクとデメリットが大きいと判断したブルフレア達は、一時的に組織を解散させて野に降る事で安全を確保し、時が来たら組織を再結成するという手法を取ることを選択したのである。








 その後、様々な過程を経て、ブルフレアは悪の秘密結社グレイスフル・ブルーを再び立ち上げ、今日(こんにち)に至る・・・・・・といった感じの走馬灯の光景がブルフレアの脳裏に流れ、思わず彼は兜の下の顔を顰めた。


「・・・チィッ!?」


「(状況は最悪だ・・・!強化された俺の技が効かなかった時点で、蜘蛛の糸並みに細かった勝利の可能性は完全になくなっちまった・・・!もうこうなったら、一度撤退して体勢を立て直すしかねぇ・・・!!)」


 十年前の顛末を思い出し、同時にその時に感じた恐怖心も思い出したブルフレアは、即座に身を翻してその場から逃げ出そうとする。


「おっと、逃げるつもりだな?そうはさせんよ!フンッッッ!!!」


 ―――グシャゴキンッ!!!


「なっ、ガァアアアアッ!?」


 だがその瞬間、ブルフレアが走り出すよりも早くブレーバーの腕が伸ばされ、その手が何かを握り潰す様に閉じられる。

 ―――その直後、ブルフレアの両足が纏っていた鎧ごとひしゃげ、潰れて、鈍い金属音と共に骨が圧し折れる音が響いた。

 堪らず悲鳴を上げ、そのまま前のめりに倒れ込むブルフレア。

 兜の下の顔は苦痛に歪み、その身体も震えていたが・・・・・・けれど、それでもなお、這ってでもその場から逃げ出さんと、未だ無事な両腕を必死になって動かそうとする。


「・・・・・・」


 ―――ガシッ。メキメキメキィッ・・・!!


「が、ぁああああ、ぐああああああーーーっ!?!?」


 だがしかし、それを悠長に見逃すブレーバーではなかった。

 ブルフレアの頭を片手で掴み、持ち上げて、そのままアイアンクロー要領で締め上げる。

 その握力は凄まじく、ブルフレアの被っている兜が徐々に指の形に沿う様に凹み始め、変形し、同時にブルフレアの頭部に圧力が加えられ、彼の頭蓋骨がミシミシと軋んだ音を立てる。


「グゥゥッ・・・!?このっ・・・!こなくそっ!・・・離せっ!離しやがれぇぇぇっ!!」


 ―――ドドドドドドッ!!!


「――――――」


 その最中に、ブルフレアが目の前にいるブレーバーに向けて、両手から蒼い炎弾を連続で放った。

 至近距離で放たれたそれは、ブレーバーの胴体に直撃し、弾けると同時に爆発。蒼炎がブレーバーの身体を包み込む。


「―――効かぬよ」


「なっ!?」


 ―――ボキボキボキィッ!!


「づぁっ!?があああああっ!?!?」


 だがしかし、その炎がブレーバーの身体を傷つける事はできなかった。どころか、衣服が燃える様子もなければ、煤汚れの一つも付く様子がない。完全なノーダメージだった。

 それを目にしたブルフレアは驚愕に目を剥いたが、しかしその目は、次の瞬間に突如発生した強力な圧力によって自身の両腕が手甲ごと圧し折られる事で別の意味でも剥くこととなった。


「先程も言った筈だぞ。この程度の攻撃では我にダメージを与える事など出来はしない、と」


「がっ、はっ・・・!クソッ・・・!クソがあああっ!!」


 折られた両腕から伝わる激痛に堪らず悲鳴を上げたブルフレアは、その後に荒い呼吸を繰り返しながら怨嗟が込められた様な声音で呟いた。


「ハァ・・・ハァ・・・・・・チク、ショウッ!せめて、せめてグレートコンクエスタを、設計通りに完成させる事が出来ていれば・・・!お前なんざ、あっという間に、消し飛ばす事ができた筈、だったってのに・・・!!」


「・・・・・・あの空中戦艦が完成していれば、か。確かに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「―――はっ?」


 ブルフレアが口にしたのは、所詮死に際に呟かれる苦し紛れの譫言の様なものだった。

 だが、それに返すように放たれたブレーバーの言葉に、ブルフレアの思考は停止した。


「・・・なん、だ?いったい何を言ってるんだ、テメェは・・・!?」


「そもそも、そもそもだ。貴様は不思議に思わなかったのか?長年世に出回ることなどなかった我の所在に関する情報を手に入れられたことに」


「だから、何を・・・!?」


「この十年間、我は一部の例外を除いて、ありとあらゆる勢力に自身の所在を掴ませないよう、様々な対策を行っていた。・・・だというのに、そんな我の情報をどうして貴様等が手に入れられたと思う?」


「そ、そんなの、テメェも懇意にしていた死霊術士の情報屋、ぺスタ・ジョレイヌから手に入れたからに決まって・・・・・・おい、おい待て。まさか、まさか・・・!!」


 最初は困惑する様子を見せていたブルフレアだったが、話を続けていく内に徐々に、しかし確実にブレーバーの言わんとしている事を察して、兜の下の顔色が一気に青褪める。


「―――そう。彼女には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ば、なっ・・・!?て、テメェ等、結託して俺を、俺達を騙しやがったのか!?」


「騙してなぞいないし、嘘も言ってはいない。事実、その情報が貴様等に買われたと彼女から連絡を受け取った後、もっともな理由をつけて我はこの島に赴いているのだからな」


「ふ、ふざけんな!!そんなの、グルになって一芝居打ってたって事には、変わりねぇだろうが!!クソッ!?まさか、あの情報屋がコイツの仲間だったなんてな・・・!まんまと、嵌められたぜ・・・!」


「・・・仲間、とは少し違うな。どちらかと言えば彼女とは、切っても切れない間柄・・・所謂、腐れ縁、というやつだ。

 ・・・それと、一つ訂正させてもらおうか。彼女の情報屋としての信用と名誉の為に言わせてもらうが、貴様等を嵌めたのは我()であって彼女ではない。彼女は飽くまで情報屋としての職務を全うしただけに過ぎんよ。

 ・・・それに、そもそも彼女に流すように頼んだ情報は、先程も言った様に、我が近々この島に向かおうとしている、というものだけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 たったこれだけの情報だけで攻め入ることを決めた貴様等が愚かだっただけではないのか?」


「んなわけあるか!?俺達が得た情報では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!たったそれだけなわけあるか!!」


「ほう?では聞かせてもらおうではないか。その情報がいったい誰からもたらされたものなのかを」


「誰からって、そりゃあ、情報収集も担当していたアイツ、か・・・ら・・・・・・待て、待てよ。まさか、まさか()()()()・・・!!」


 そこまで口にしたところで、ブルフレアは何かに気付いたようにハッとした。


「そうか、そういう事か!最初からグルだったのはっ・・・!!

 だが、何でだ!?何でテメェはそんなにも俺を始末しようとする!・・・いや、俺だけじゃない。十年前、あの会談の場に集まっていた俺以外の他の組織の連中も、テメェは徹底的に片付けていた。最後の一人まで逃がすことなく執拗に・・・!執念深さまで感じる程に・・・!」


 ブルフレアの身体が一瞬、ブルッと震える。目の前にいる存在をおかしいと、異常だと感じているかの様に。


「いったい俺達の何がテメェをそこまで執着させる!俺達がいったい何をしたって言うんだ!?今のテメェの姿はまるで・・・そう、まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「復讐者、か・・・・・・なるほど、それは言い得て妙だな」


 得体の知れない何かを見るような視線を向けるブルフレアに、ブレーバーは淡々とした調子で言葉を返す。


「確かに我は、()()貴様等から何かしらの被害を(こうむ)ったわけでも、それに準ずる何かを受けたこともない。

 ―――だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なにせ貴様等には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その前に、障害となるであろう貴様等を始末しておきたいと考えるのは当然のことだろう?」


「わけが、分からねぇ・・・!いったい何の話をしてやがる・・・!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「なに、何も知らない、未だ何も成しえてはいない貴様からすれば、その様に思うのも当然だ。何もおかしくはない。だが・・・・・・」


 ―――ギチギチギチッ・・・!


「ぎっ!?あ、がっ・・・!?」


「それに答える義務も、義理も、我にはない。これ以上問答するつもりもない。

 ―――話はこれで終いだ。長きに渡る貴様との因縁、今ここで断ち切らせてもらおう」


 ブレーバーの腕に万力の様な力が込められ、その手に鷲掴みにされているブルフレアの兜にビキビキビキッと罅が走り、ボロリと目元を覆っていた部分が零れ落ちる。

 同時に、ブレーバーの反対の腕がゆらりと持ち上げられて手刀の形を取り、今にもブルフレアの身体に突き刺し、貫かんと構える。


「・・・ああ、そうだ。最後に冥土の土産として貴様には教えておこう。

 ・・・十年前、ヨーロッパ四天王と呼ばれたお前達の組織の間で発生した小競り合い。アレを勃発させたのは―――この我だ。」


「―――ッッッ!?!?」


「組織のトップである貴様等を纏めて始末する為に、各組織の下っ端共を(あお)り、(そそのか)し、対立を促していたのだよ」


「なっ・・・!」


「それだけではない。貴様等が一同に集まったあの会談の場。あれを用意したのも我だ。丁度良く使えそうな建物を用意し、更には各組織の構成員に(ふん)して噂を流す事で組織間での話し合いをする必要性を生じさせ、貴様等が一ヶ所に集まる状況を作り出していたのだ。

 ・・・そうして、貴様等はまんまと我が用意した会場に集まった。それが罠とも知らずに」


「・・・ッ!」


「その後の顛末は貴様も知っての通り。だが、唯一の誤算だったのはブルフレア、その時に貴様を取り逃がした事だ。まさかあの状況で迎撃ではなく逃走を選択するとは予想外だった」


「ブレ、バラント・・・!」


「・・・だがそれも、今回の件でようやく帳尻を合わせる事が出来そうだ。

 ―――貴様の命という名の対価が支払われる事によってな」


「ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアァアアアーーーッ!!!」


 その瞬間、ブルフレアの両目が、カッ!と見開かれた。


「テメェがっ、全部テメェがあああああアアアアアッッッ!!!」


 怒り、恨み、憎しみに、怨嗟。それら負の感情が一緒くたになった叫びがブルフレアの口から放たれる。

 同時に、孔雀の尾羽を思わせる背中の羽から大量の青い粒子が噴き出し、集束され、無数の蒼い熱線、あるいは炎弾となってブレーバーに向けて放たれた。

 ブレーバーの全身に直撃し、その身体は再び蒼炎に包まれるが・・・・・・けれど、やはりその身体が傷つく事はない。着弾の際に発生する衝撃も受けている筈だというのにまったく小揺るぎもしていない。

 群青色に染め上がる視界の中、ブレーバーは慌てることなく仮面の四つ目、その奥にある瞳から覗かせる、暗くて深い、紫炎渦巻く鋭い視線をブルフレアへと向ける。


「アアアアアアァァァーーーッ!!!」


「―――去らばだ。我が怨敵にして仇敵よ。我を恨みながら死ぬがよい」


 ―――ズンッ!!


「が、ハッ・・・!?チク、ショウ・・・ちく・・・しょ・・・ぅ・・・・・・」


 一際大きい絶叫と共に周囲に飛び散って炎上していた蒼炎を集め、胸の前で圧縮し、エネルギー球を形成するブルフレア。

 臨界を超えて放たれれば、射線上にあるもの全てを消滅させる威力の砲撃となったであろうそれは・・・・・・しかし、実際に放たれるよりも前に繰り出されたブレーバーの貫手(ぬきて)によって貫かれ、霧散した。

 そしてその勢いのままブレーバーの腕はブルフレアの胸へと突き刺さり、背中まで貫通する穴が穿たれた。

 直後、ビクンッ!と大きく身体を震わせたブルフレアは、そのままブレーバーに身体を預ける様に脱力して動かなくなる。

 次いで、その全身から急速に熱が失われていくと共に灰錆色へと変色していき、最後には砂の様に崩れ、一陣の風が吹くと同時に跡形もなく散り消えた。


「これでまた一人、我が野望成就の障害となる者は消えた。残る傀儡共(かいらいども)はあと僅か・・・・・・。

 ―――今度こそ、今度こそ・・・!長きに渡る我が宿願、果たして見せる・・・!!」


 その最期を見届けたブレーバーは、ゆっくりとした動作で構えを解き、マントを払う事で身体の各所に残る蒼炎を消し去る。

 そして、俯く様に自分の掌をジッと見詰めながら呟き、握り締めた後、踵を返してその場を後にしようと歩き出した。


「・・・・・・それはそれとして、宴会はまだやっているだろうか?せめて、多少腹に溜まる程度のツマミと酒が残っていると良いのだが」





今回はここまで。次回投稿は現在執筆中であり、完了次第投稿する予定です。

それでは皆様、また次回で。

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― 新着の感想 ―
ブレーバーすげぇ…としか言いようがないな…そしてブレーバーが言ってた傀儡共って単語も引っかかるブレーバーの宿敵なのだろうか?
ブレーバーあんたって人は(٥↼_↼) まさかずっと1人で戦っていたのか(´⊙ω⊙`) いや待てよ?(‘◉⌓◉’)ならばディーナを助けたのも必要事項で後々の重要な因子になるからか?!(゜ο゜人)) …
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