ミッション140 大輪散ったその夜に・・・?
文章構成の都合上、今回はいつもより文章量は少ないです。あと、基本的にコメディ展開なので面白いと思っていただければ嬉しいです。
「―――スパランティス島の防衛成功と、アームドレンジャーの撃破を祝してぇ、カンパーイ!」
『カンパーイッ!!』
アームドレンジャーが操縦していたガッシンジャー、及びそれから突如として変貌したゴルドニシアと、悪の組織アンビリバブルが開発したエメラルドドラゴニア。二機の巨大ロボットが戦いを繰り広げ、爆発という名の大華となって散り消えた頃から数時間後の夜。
そこそこの高さまで昇り、夜空一面に広がる星々と共に悠然と輝く三日月のその下で、タマゴ男爵及び彼に付き従う島の警備を担当する者達、更にはロボットコンテストに参加予定だった各悪の組織や秘密結社の怪人怪物達が、並々と酒が入ったジョッキを片手に祝杯を挙げていた。
その表情はまさに喜色満面。長年のトラブルメイカーというか目の上のたんこぶというか頭を悩ませてきた存在であるアームドレンジャーが倒された事がよっぽど嬉しかったのだろう。総じて皆スッキリしたような晴れやかな笑みを浮かべていた。
「う、う、うぅぅ・・・!」
「ちくしょ~・・・ちくしょ~・・・!せっかく作った傑作が、俺達の巨大ロボットがぁ~・・・!」
「お披露目から一時間もしない内に木っ端微塵になるなんてぇ~・・・!」
「飲まなきゃやってらんねぇよコンチクショウ!!」
・・・一方、そんな彼等とは真反対に、打ち拉がれ、管を巻く様な感じで落ち込んでいるグループがいた。
というかウチの組織、アンビリバブルの構成員である戦闘員三号と隊長モグラ以下部下モグラ達であった。
途中からとはいえ、自分達が参加し、建造した巨大ロボットことエメラルドドラゴニアが鉄屑のスクラップになってしまったのが相当ショックだったのだろう。泣いたり怒ったり、中には一つのジョッキにドッパドッパと複数の酒をちゃんぽんして飲み干すといった悪い飲み方をしてる奴もいた。
「イッ、イッ・・・!イッ、イイィィィ・・・!!イイッ、イーイー、イイイー?・・・イッ、イー、イイーイーイー!?イィィ・・・!イイイッ、イーイーイイーイー・・・!!」(ヒック、ヒック・・・!なんで、なんでだよぅぅぅ・・・!!そりゃあね、戦闘用として造ったからには、戦った結果壊れる事は覚悟していたよ?・・・けど、まさか、大々的にお披露目した直後にぶっ壊れるなんて誰が予想できるんだよ!?うぅぅ・・・!どうせ壊れるのなら、もっとド派手に活躍してから壊れてほしかった・・・!!)
特に酷いのは戦闘員三号だろうか。彼はブレーバーと共に設計から携わっていた分、そのショックの度合いは誰よりも大きそうであり、しばらくは立ち直れそうにない感じだ。
・・・・・・つぅか、アイツが飲んでるの酒じゃなくてコーラなんだが。アルコール成分百パー入っていない只のジュースなのに、どうやって酔っぱらってるんだあれ。場酔い?
「イーイー、イイイッ。イイーイー、イッ、イーイー。イイイーイー!」(まあまあ、元気だせって三号。今回は残念な結果になっちまったが、なあに、一度は造る事ができたんだ。また機会を見て同じ物を造ればいいって!)
ゴッキュゴッキュと自棄酒でもするかの様にコーラ飲み干してはコップに注ぎ足す戦闘員三号。
そんな彼を慰めるように、横合いからジョッキ片手に現れた戦闘員一号がその肩を抱く。
「イーイー。イッ、イイイーイー?イーイイー。イーイー。イッ、イイッ。イーイーイー。イイッ?」(そうそう。それに、一度造った事でノウハウは得られたんだろう?なら次はもっと強い機体を造れるだろうよ。だからそう落ち込むなって。ほら、コイツでも食え。醤油に漬け込んだスルメを炙ったやつだ。旨いぞ?)
「イッイッ・・・・・・イー」(あぐあぐ・・・・・・しょっぱぁい)
それに続く様に、近くのテーブル席に座っていた戦闘員二号が、おつまみである醤油の染みたスルメをちょいちょい食べつつ、お猪口に入った酒をクイッと飲ながらそう口にする。
その合間に戦闘員三号の口に手元のスルメをズポッと突っ込み、口の中に入ったそれを三号はもぐもぐと噛み締めつつ、ホロリと涙を流した。
「・・・うぅん、なんつぅか、見事な飲んだくれに成り果てているなぁ、コイツ等。自棄酒、絡み酒、吐いて漏れるは悲哀混じりの恨み節、ってやつかなこれ?・・・いや、一名、酒じゃなくてジュース飲んでるけど」
そんな対照的とも言える彼等の姿を見た俺は、頬に一筋の汗を流しつつ、宴の場で出されていた料理を取り皿に盛ってもぐもぐと食べながらそう独り言ちる。
ちなみに今更の話となるが、トウテツと共に海の中に沈んだ筈の戦闘員一号と二号が此処にいるのは、戦闘終了後にサルベージされたからである。
引き揚げられた当初は、これまでの戦闘で負った多大なダメージもあり、力尽きた様な感じで係留ロープに絡まって身動きが取れない状態だったが・・・・・・その後にブレーバーの手でボディを修復される事で完全復活を遂げ、今ではこうして宴を満喫している。
・・・また、これは余談だが、彼等を引き揚げた時に、一緒に絡まって沈んだ筈のトウテツの姿が何処にも見当たらなかった。
あれだけ暴れに暴れ、タマゴ男爵達を一時的な壊滅状態にまで追い込んだ、ある種の災害チックな存在が何時の間にかいなくなっていた事に最初は皆慌てたが・・・・・・まあでも、ああも命令を聞かず、誰彼構わず着ている衣服を毟り食うのであれば、まともに扱う事は出来ないし使い途もないだろうと、最終的には問題視されなくなったが。
「―――おや?皆さんどうされたのですか、そのような陰鬱とした雰囲気を漂わせて。せっかくの宴の席なのですから何時までも俯いていないで、ここはパーッと楽しみましょう?パーッとね」
「・・・いや、コイツ等がこんな風になったそもそもの原因であるお前がそれを言うのかよ、エメラルドドラゴニア・・・・・・」
「エメドラと略して呼んで構いませんよ。長いし呼び辛いでしょう?」
・・・・・・それからもう一つ、特筆事項があった。
それは、今こうして俺の目の前にいる人型サイズのエメラルドドラゴニアの存在だ。
あの時、あの瞬間、ゴルドニシアと共に特大の花火となって散ったかに思われていたエメラルドドラゴニア・・・・・・略してエメドラが、少し経った後に俺達の前にひょっこり現れた時は驚いた。
いやもう本っ当に驚いた。おおよそ二mちょっとくらいにまでサイズダウンしたとはいえ、まさかあの轟音轟く爆炎の中から生還するだなんて思ってもいなかったからだ。
というか、そんなん誰が予想できるか普通!?とツッコミを入れたくなったわ。いやマジで。
ちなみに、その時の様子を回想するとこんな感じであった。
『うぅ・・・うぅぅ・・・!エメラルドドラゴニアが・・・我等の造った傑作ロボットがぁぁぁ・・・・・・!』
『えっと、その・・・そう気を落とすなってブレーバー。アンタの造ったロボットは立派に役目を果たしたんだ。それを誇りこそすれ、悲しんだりするのはお門違いだと思うぞ?』
『そうですよ、ボス。彼女の言う通り、私は悪の組織アンビリバブルの敵を撃滅するという役目を果たしたのですから、そう落ち込む必要はないのです』
『なっ?ほら、ブレーバー達が造ったロボットもそう言って・・・・・・うん?ファッ!?なんで!?なんでお前此処にいんの!?さっき敵のロボットと一緒に自爆した筈じゃ・・・!?というかちっさ!?え、ちっっっっっさぁ!?!?』
肩を落として落ち込むブレーバーを俺が慰めていた時に、後ろから電子音混じりの声が聞こえたので振り向いてみたら・・・・・・そこにはなんと、全身のスラスターを噴かしながら空中に浮遊するエメドラの姿があったのである。
これは騒動が一段落した後の軽い後始末を皆でしている最中にブレーバー達から聞いた話なのだが・・・・・・なんでもエメドラは、外郭となる巨大ロボットボディと機体中枢であり本体でもあるコアユニットといった、ある種の二重構造のような造りになっていたらしい。
言ってしまえば、あれだ。ロボットがロボットを操縦するといった形である。・・・まあ、合体方式的には某勇者ロボのそれが感じとしては近いらしいのだが。
―――つまるところは、だ。エメドラがあの大爆発の中から生還できたのは、何の事はない。ただ単に、自爆する直前に巨大ロボットボディから分離脱出をしたからである。こう、ペイルアウツッ!みたいな感じに。
「ああ、うん。実際そう思ってはいたから、これからはそう呼ばせてもらうけど・・・・・・というかそれはそれとして、三号達は何時まで酒やらジュースやらを自棄になって呷っているつもりなんだ?本体のコアユニットはこうして無事だったんだから、それでヨシじゃダメなのか?」
「・・・ふっ、ディーアルナ様。確かに、確かに、エメドラの根幹たるコアユニットが無事だったのはよかったとは思います。ですが・・・ですがねぇ・・・!」
「それでも!かなりの時間と資金、労力を注ぎ込んで建造した巨大ロボットボディが!出撃して半日も経たずに粉微塵のスクラップに変わるのを目にしたら!建造に携わった一技術者としては普通にクるものがあるんですよ!精神的にね!」
「・・・あの時、エメドラが爆発に呑み込まれたのを見た瞬間、俺達は全員燃え尽きちまったんですよ。真っ白に、ね・・・・・・」
「イ~・・・イイッ、イーイー。イー、イイッイー。イーイーイイイーイー」(あ~・・・こりゃダメだわ、ディーアルナ様。コイツ等全員、ある意味イッちまってるわ。もうこうなったらコイツ等の気の済むまでしばらく放っておいてやった方が無難だな)
「えぇ・・・」
チーン、なんて擬音が聞こえそうな感じに遠い目となって比喩表現なしにマジで真っ白になる部下モグラ達と、そんな彼等の様子を目にして、ダメだこりゃと言いたげな感じに首を横に振って溜め息を吐く戦闘員二号。
・・・ああ、うん。確かにこれは二号の言う通り、しばらく放っておいた方がいいかもしれない。というか、その真っ白になるやつどうやってんの?脱色?
「むむ・・・!そういうことであれば、今こそ同僚との数々の飲み会で培った飲みニケーション及び宴会芸スキルを披露する時!いざ行かん!天下分け目の桶狭間へッッッ!!
・・・あ、三号くんはお酒ダメなのでブドウジュースをあげますね」
「いやお前ロボットじゃん!酒飲めないじゃん!そもそも造られたのは最近だろうが!何時何処でそんなスキルを覚えたんだよ!?」
俺のツッコミを背に、エメドラは四つのジョッキを両手で持ちながら、トアァーッ!と今もグダっている連中の元へと突撃する。
それからなんやかんやあったのか、隊長モグラが酒樽から直で一気飲みすることになったらしく、場を盛り上げる様に、イッキ!イッキ!イッキ!という掛け声が上がるその中心で、持ち上げた酒樽の縁に口をつけてゴッキュゴッキュと喉を鳴らし、「プハァッ!どんなもんじゃい!!」と声を上げる彼の姿があった。
そんな、酒飲み共の独壇場と化し、ノリと勢いのフルスロットル状態となっている彼等の姿を見て、「うん。なんかもう色々とグッダグダだなこれ!」とツッコミを入れつつ、内心では若干呆れていた俺は―――そこでふと、あることに気付いた。
「・・・って、あれ?そういえばブレーバーの奴、何処行ったんだ?」
次回は8月5日に投稿予定です。