ミッション139 天に咲きたる紅蓮の徒花・・・!
「・・・・・・ええっと、何アレ?」
「ふぅむ・・・?浮上するように出現した位置から察するに、おそらくアレはガッシンジャーだと思われるのだが・・・・・・いや、しかし、あの機体に質量や体積を無視するようなトンデモ変形機構なんて搭載されていない筈なのだが・・・・・・ムムムゥ?」
突如として出現した、ゴルドニシアと名乗った豪華且つド派手な見た目の巨大ロボット。光を反射して金色に輝くその姿を目にした俺は混乱の極みにあった。
なにせ、ガッシンジャーが撃墜されて海に沈んだと思ったら、その沈んだ場所から突如として光の柱が立ち昇り、続いてその中心で下から迫り上がる様に姿を現したのだ。位置関係や直前の状況を鑑みれば、アレがガッシンジャーだと言うのはなんとなく分かる。分かるのだが、それでもあんな風に変貌するだなんて誰が予想できるか・・・!!
ブレーバーも俺と同様の様子だった。むしろ彼の場合、ガッシンジャーの構造を良く知っているからこそ、余計に混乱、困惑具合は酷かったと言えよう。今も顎に手を添え、首を傾げまくりながらブツブツと呟いているし。
それと、俺達の周りにいたタマゴ男爵以下怪人怪物達もまた、「え、何アレ?」といった感じに呆然と突然姿を現した金ピカロボを眺めていたり。
彼等もアレが元はガッシンジャーだという事は察しているのだろう。先程までガッシンジャーが倒された事で喜んでいた分、それが姿を変えて復活した事に信じられないと言った感じで反応が追い付いていない様子だ。
『キヒヒヒャヒャヒャヒャハァァァーーーッ!!さあ、我が野望を果たさんが為にいざ行かん!新たなるエンターテイメントのフロンティアとなる場所、スパランティス島へ!!いざ!いざいざいざぁぁぁっ!!』
と、そんな風に俺達が呆気にとられていると、突如ゴルドニシアのスピーカーから大音量の音声が響き渡る。
次いで、光の柱から飛び出したそのロボットは、両手両足を直角にクイッと折り曲げ、奇声混じりの高笑いを上げながら全力ダッシュを開始。背筋をピンと伸ばし、ズババババァッ!!と海面を走るその姿は、まさに陸上選手を彷彿とさせる完璧なフォームのそれだ。
・・・つぅか飛ぶんじゃないのかよ!?その無駄に豪華な背中の羽は飾りか!?
『キヒャーハッハッハッハッハッハァァァーーーッ!!!』
ゴルドニシアが大音量で奇声を発しながら走る、走る、走る。
その動きは想像以上に速く、下手したらあと五分もしない内に俺達がいるこの島に到着しそうな勢いだ。
『・・・!!』
それを追う様に、エメラルドドラゴニアが背部のウイングブースターを噴かせて追い掛けるのが見えた。
宙を飛びながらロングライフルを構えたエメラルドドラゴニアは、ゴルドニシアに狙いを定めるとロングライフルのトリガーに指を掛ける。
『―――エンタメビーム!!』
『・・・!』
そして指を引く直前、ゴルドニシアの首がグリンッと勢いよく一八〇度回転。続いてツインアイからジグザグな軌道を描く金色のビームが発射された。
距離も相まって意表を突く様に放たれたそれを避ける事が出来なかったエメラルドドラゴニアは、咄嗟に構えていたロングライフルを盾にして直撃を防ぐ。
『・・・!?』
『どうです?驚きましたか?このビームに当たったものは、私の思うがままに姿形を変える事が出来るのですよ!!』
―――そしてビームが当たった瞬間、ロングライフルが光に包まれたかと思うと突然グニャリと形が変わり始め、数秒後にはビヨンビヨーンとびっくり箱とかでよく見られるバネ仕掛けの玩具にみたいになってしまった。
いや何あの金ピカビーム!?当たったら姿形が変わるとかヤバくね!?
『・・・!!』
自身が手に持つ武器のまさかの変貌ぶりに、思わずといった風に二度見するエメラルドドラゴニア。
けれど逡巡したのは一瞬だけ。使い物にならなくなったロングライフルだった物を放り捨てた後にウイングブースターの出力を上げ、さらに加速すると、弧を描くような軌道でゴルドニシアに急接近する。
『なっ、グボファッ・・・!?』
そしてゴルドニシアの横腹へと放たれるインターセプトドロップキック。回転も加えられたその一撃は、ゴルドニシアの機体をくの字に折り曲げ、大きく吹き飛ばす。
『ええい・・・!邪魔をしないでもらいたい!ゴルドブゥゥゥメランッ!!』
石切りの石の様に海面で何度もバウンドしたゴルドニシアだったが、すぐに体勢を立て直すと背中の独立可動式のウイングスラスターを取り外し、それをブーメランの様に投げた。
というか、飾りじゃなくて武器だったのかよその羽ェッ!?
『・・・!』
投げられたゴルドブーメランと呼ばれたそれは備え付けられたスラスターを噴かし、空中にいるエメラルドドラゴニアへと凄まじい勢いで迫る。
当然それを避けようとするエメラルドドラゴニアだったが、ホーミング機能でも付いているのか、機体の動きに合わせてしつこく追い掛ける。
『フハハハハハハッ!今の内に―――!』
『・・・!』
―――チュドドドドドドドッ!!
『ポウッ!?』
その間に再びスパランティス島へと向かおうとしたゴルドニシアだったが、その瞬間、行く手を阻む様にビームが連続して飛来した。
それはエメラルドドラゴニアが放ったビームバルカンであった。追従するゴルドブーメランを躱しつつ、牽制と進路妨害の為に放ったのだ。
あわや当たるかと思われたそれは、けれどゴルドニシアの驚くべき超反応でもって咄嗟に回避されてしまった。
チッ、惜しい・・・!
『くっ・・・!アレをどうにかしなければ我が野望は果たせないという事ですか。
―――であれば、仕方がありません。大願成就の為、アナタにはここで沈んでもらいましょう!』
ギュルギュルギュルと高速スピンしつつ一時後退した後にゴルドニシアはそう言うと、エメラルドドラゴニアを追い掛けていたゴルドブーメランを手元に戻して背中に取り付け直し、ブワサッと羽ばたく様に広げて上空へと飛翔。
続けて全身に存在する金色の翼を模した装甲もバサッと展開し、全身各所に金色に輝くエネルギーの球体を出現させる。
ってか結局飛べるんかい!?飛べるのに何で最初走ったのお前!?
『エンタメビーム、フルバーストォォッ!!!』
そして放たれる金色のビームの一斉射撃。その範囲は広く、エメラルドドラゴニアのいる場所を中心に雨霰とシャワーの如く降り注ぐ。
『・・・!・・・!?』
少し前に似たようなビームに当たって形が変貌したロングライフルの事を覚えていたエメラルドドラゴニアは、コレに当たるわけにはいけない、と背中のウイングブースター及び全身のスラスターを全開で噴かし、回避に専念してステップを踏むように迫り来る数多の金色のビームを躱し続ける。
避けられないモノは、射出した両肩のビットが展開したビームシールドで防ぐも―――その瞬間、それごとビットが光に包まれ、気がつけば前衛芸術っぽい奇妙なオブジェへと形が変貌していた。
それを目にして防御は愚策だと判断したのだろう。エメラルドドラゴニアは緩急織り混ぜた、けれど先程まで以上に明らかに速い機動でもって、辺り一帯に降り注がれる金色のビームを回避していく。
「お、おい、やべぇぞ!あの金ピカの撃ったビーム、こっちにまで飛んで来るぞ!」
「た、退避ーッ!退避ィィーーーッ!!」
「おわああああああっ!?!?」
―――そして、その辺り一帯には俺達のいるスパランティス島の港エリアも含まれていた。
戦闘の余波として飛んできた金色のビームが、次々に俺達の周りに着弾。元は立派だった港エリアが、瞬く間にその姿を極彩色の判別不明なオブジェへと変わり果てていく。
ってか、ヤバイヤバイヤバイ!流れ弾がメッチャ飛んで来るんですけどぉ!?思っきし洒落になってないんですけどぉぉぉ!?!?
「アーーーッ!?」
「ちょ、待て待て待て!こっち来んアビャーーーッ!?」
「い、いぃぃやぁあああらめぇぇぇっ!?」
当然と言うべきか、防波堤の上に集まっていた怪人怪物達は即座にクルリと反転。一斉に駆け出して我先にと逃げ出し始めたのだが、ビームの飛来速度の方が遥かに速かったがために逃げ切ることが出来ず、次々着弾して金色の光に包まれていく。
タマゴ男爵達の所にも金ピカビームの流れ弾が着弾したぁ!?ちょっ、えっ、アレ生きてる?
「むっ!これはいかん!」
「へ・・・?おわっ!?」
その内の一発が俺の元にも降って来た。
余波ということもあり、狙いがデタラメで軌道が読み辛かったのもあってか反応が遅れてしまった。
ダメだ、これは避けられない。そう思った瞬間だった。ブレーバーが俺の腰に腕を回してグイッと引き寄せたのは。
そのままブレーバーは流れるように俺の体を片手で抱き上げると、地面を蹴って大ジャンプ。あっという間に防波堤から海を隔てた停泊所辺りまでの距離を軽々飛び越えながら、次々飛んで来る金色のビームを回避する。
更には、アルミィとメドラディがいる場所に着地すると、空いている方の片手を上げてバリアを展開。俺達のことを守るように降り続く金色のビームを悉く防ぎ、弾いた。
・・・・・・というか、ブレーバーの脚力どんだけあるんだよ?いくら俺でもこの距離をひとっ飛びは無理なんだけど。
あと、このビームをどうやって防いでいるんだろうか?さっきエメラルドドラゴニアのビットが展開したビームシールドごと姿形が変わったのを見るに、たぶん防ぐのは不可能な類いの攻撃だと思うんだが・・・・・・。
―――ズンチャカズンチャカズンチャカ!
「・・・うん?」
と、そこでふと軽快なリズムの音楽が聞こえてきた。
音の出所は先程まで俺達がいた防波堤であり、そちらへと視線を向ければ―――。
『フォーーー!!』
「なんか目茶苦茶踊りまくってるぅーーーっ!?!?」
そこには、派手っ派手な大きな羽根飾りが付いたサンバの衣装―――女性ダンサーが着るビキニ状のやつで、後で知ったけどタンガというらしい―――を身に纏った怪人怪物達が「ウ~~~!マンボウ!!」と踊っている光景があった。
その中にはタマゴ男爵も入っており、むしろ一番先頭で誰よりも激しく踊り散らかしていた。終いにゃ皆仲良く横一列に並んで肩を組み、足を左右交互に蹴り出す踊りのラインダンスまでやり出したのを見てつい、「何処ぞの奇天烈ミュージカルか!?」とツッコミを入れてしまった。
つぅか、無駄に踊るの上手いなあの人等!?動きも見た目からは想像できないくらいにキレッキレだし・・・・・・もしかして経験者だったりすんのかな?
「えぇ・・・何あれ、えぇ・・・?」
「ふむ・・・どうやらあのビームは物に当たると姿形を変え、生物に当たると何かしらの行動を強制させる効果があるようだな」
「強制って・・・・・・つまり、今も降り続いているこのビームに当たったら、俺達もあんな感じになるってこと・・・?」
「ウム」
ウム、じゃねぇんだわ。格好や踊り云々はともかく、要は今も上空で変な高笑いをしているあの金ピカロボに操られるって事だろうがそれは!まったく洒落になってないからな!?
「ビームに当たったら一発アウト。かと言って、このまま守りに入っていても状況は改善しない。どころかもっと悪化する。
こんなんどうしろって言うんだよ!?くそっ!せめて何か突破口にでもなるヤツがあれば・・・!!」
「・・・いや、突破口ならある。アレを見よ、ディーアルナよ。あの金ピカの脇腹部分だ」
「・・・はっ?脇腹って・・・・・・んん?うんんんん???」
ブレーバーはそう言うと、ゴルドニシアの脇腹辺りに指を向ける。
それに釣られるように俺も視線を向ければ、そこにはゴルドニシアの装甲に罅が入っている様子が見て取れた。
「あっ、罅が入ってる。もしかしてエメラルドドラゴニアがさっき食らわせたドロップキックで?
・・・でも、あれ?確かアイツ、装甲がかなり硬かった筈だよな?散々攻撃を食らっても、表面が傷付いたり焦げたりするだけで、全然壊れる様子はなかったような気が・・・・・・」
そう。これまでの戦闘でガッシンジャーは、その装甲に大小様々な傷こそ付けられていたが、しかしそれが砕けたりする様子など微塵も見せなかった。どころか罅の一本すらも入る様子はなかった。
破壊された各種兵装や間接部の事は抜きにしても、その頑丈さは呆れる程ずば抜けていたからだ。
なのに、その装甲に罅が入っている。ガッシンジャーを元に変貌したのであれば、少なくともその装甲の硬さは元となったモノと同等の筈なのに、だ。
「どうやら、あのロボットの装甲は元のそれと比べると遥かに脆くなっているようだな。でなければ、たかがドロップキック一発であそこまでのダメージを負うわけがない」
「つまり、今のアイツはわざわざ装甲の隙間とか間接部とかを狙わなくても、普通に攻撃すれば倒せるって事なんだな?」
俺がそう言うと、ブレーバーは頷きを返して見せた。
「ウム。あとは現状もっとも厄介な問題となっているこのビームの雨霰をどうにかすれば、その隙を突いてエメラルドドラゴニアがフィニッシュを決めてくれるだろう。
―――こんな風にな」
ブレーバーはそう言った瞬間、パチンッと指を鳴らした。
―――ドガァアアアンッ!!
『!?!?』
同時に、ゴルドニシアの罅が入っていた脇腹装甲で突如爆発が発生。それによって生じた衝撃で体勢が崩れ、また意識外の一撃を食らった事による驚きと動揺もあってか、降り注ぐ様に放たれていた金ピカビームがストップした。
というか今何やったのブレーバー!?何をどうしたら指パッチンで爆発が起きるのさ!?
『―――!!』
―――そして、先程ブレーバーが口にした通りに、エメラルドドラゴニアが背部のウイングブースターを全力で噴かしてゴルドニシアへと肉薄。両腕のビーム発生機からビーム刃を展開し、動きを止めた隙を突くように力なく伸びきったゴルドニシアの四肢目掛けて連続で振り抜き、斬撃を放った。
『んなっ!?くっ・・・!嘗ァめないでいただきたいィィィ!!』
『・・・!』
自身の両腕両足が切り飛ばされた事に驚くゴルドニシアだったが、その直後に自身の頭部をグルングルンと回して高速大回転を開始。続けてツインアイから金ピカビームを連続発射する。
「のわあああああっ!?!?」
「ちょ、まっ、止まって止まって止まってェェェ!?!?」
「目が・・・目が回るぅぅぅ!?」
「ウプッ・・・!?き、気持ち悪い・・・!」
ちなみに、この時大回転しているコックピット内部では、操られているアームドグリーンを除いたアームドレンジャー達が悲鳴を上げていたり。
自分達が乗っているコックピットが突然高速回転を始めたら、そりゃあ悲鳴の一つくらい上げてもおかしくないだろう。
なお、その事にディーアルナ達は全く気付いていなかったり。なにせ、彼等の声は外部に漏れたりしないように軒並シャットダウンされていたので。
オンパァーがそうした理由は単純だ。単に、アームドレンジャー達が邪魔にしかならないと思ったからだ。
彼等がこれまでやらかしてきた事をオンパァーは知らなかったが、それでも自身のエンターテイメント的な趣味趣向とは合致していない事は分かっていたので、余計なことをされないように処置を行っていたのだ。
まあ、言ってしまえば隔離である。
『エンタメビーム、ラピットスプラッシュファイヤー!!』
『・・・!!』
―――ヒュン!ガシャァッ・・・!
『むぐぅっ!?』
高速大回転する頭部のツインアイから全方位且つ高速連射且つ無差別に放たれる金ピカビーム。
当たれば勝利は確定なその攻撃は、しかしエメラルドドラゴニアが顎下から突き上げる様に掌底を差し込み、押し込むように固定する事で強制的に止められた。
更には機体の上下をグルリと反転させると、真下の海面へと叩き付けた。
おおっ!ちょっと変則的だけど、もしかしてアレは砲丸投げスラムか!巨大ロボバトルで繰り出されるとめっちゃダイナミックに感じるな!
『ヌゥオオオオオオオオーーーッ!!!まだだ!まだこの機体には武装が残って―――!』
『・・・!!』
ギュルギュルギュル!ギリリッ・・・!
『な、なんとぉー!?』
バッシャアン!と海中に沈んでいた状態から背部のウイングスラスターを噴かして海上へと飛び出るゴルドニシア。
けれどその瞬間、ウイングスラスターも含めた機体全体を包み込むように複数のワイヤーが海中から出現。続けて、同じく海中から現れたエメラルドドラゴニアが自身の手の中にあるワイヤーの束を力強く引いた瞬間、ギュッとワイヤーが引き絞られるような感じに一気に収縮され、ゴルドニシアを拘束した。
『くっ、この、離せ!離せぇぇぇい!!というかこのワイヤーは何処から現れたのですか!?』
ワイヤーによって全身を雁字搦めに縛られたゴルドニシアがバッシャバッシャと海水を跳ねさせ、波立たせながら拘束から逃れようと暴れている。
その様はまるで、糸が絡まって溺れかけている水鳥の姿を連想させた。
『ええい・・・!残っている武装を使おうにも、こうもガッチリ固定されては・・・!!
―――仕方がありません。こうなれば最後の手段を使うしかないようですねぇ・・・!!』
「さ、最後の手段って、いったい何をするつもりなんだお前は!?」
『何って、そんなのもちろん決まっているでしょう。
―――自爆ですよ。まともに身動きが取れなくなった以上、最早選べる手段などそれしかありませんからねぇ。』
「いやいやいや待て待て待て!?コイツは、ガッシンジャーは俺達のロボだぞ!勝手に自爆させようとすんじゃねぇよ!!」
『元、でしょう?それに、今さら口出ししようとしても手遅れですよ。
―――なにせ、この機体はもう既に自爆シークエンスに入っていますからねぇ!』
『・・・ピーーー!自爆装置、作動します。爆発まであと三分です』
「「「「は、はあああああああっ!?!?」」」」
『キヒッ、キヒヒッ、キーヒヒヒヒヒヒッ!自爆装置を作動させました!あと三分でこの機体は自爆!そしてそれと同時に、機体内部でチャージされているエンタメビームもスパランティス島の全域も含めたこの辺り一帯に大量放出!晴れてこの島はエンターテイメント性に溢れた島へと生まれ変わる事でしょう!その瞬間の光景を見られないことが残念ですが・・・・・・しかぁし、これはこれでエンターテイメント的な感じがするのでヨシ!!』
「いや、全然ヨシじゃないんだが!?心の底から冗談じゃないんだけどそれぇ!?」
自暴自棄というには喜色が混じる笑い声を上げるゴルドニシアに、俺は思わずツッコミを入れながら叫ぶ。
ちょ、最後の最後で自爆しようとするとか・・・!どうすんの!?なぁ、これどうすればいいの!?!?
「ヌゥ・・・!ダメだな、何とかしようにも流石に距離がありすぎる・・・!」
ブレーバーも何とかしようとしてか、ゴルドニシアがいる方向に腕を伸ばして見せたが、けれどかの金ピカロボのいる位置は射程距離外だったようで、悔しげに腕を下ろした。
『―――なるほど。仕方がないですね、これは。どうやら今この時、この瞬間、私のこの機体を賭ける必要が出てきたようです。
・・・申し訳ありません、ボス。貴方様に用意していただいたこの機体、私のワガママの為に使わせてもらいます』
「ムッ!?何を言っているのだ、エメラルドドラゴニア!お前はいったい何を考えている!?」
―――と、その瞬間、聞き覚えのない声が変身用ブレスレットに搭載されている通信機能越しに聞こえてきた。
どうやら声の主は、エメラルドドラゴニアであるらしい。かのロボットが口にしたセリフに不穏なものを感じたのか、ブレーバーが慌てた様子で声を上げた。
いや、つぅかアイツいきなり喋り始めたんですけどぉ!?今まで駆動音とか電子音っぽい音しか出していなかったのに突然流暢に喋り出したんですけどぉ!?
「・・・むっ?何を驚いているのだ、ディーアルナよ。エメラルドドラゴニアは高度な特殊AIを積んでいるから、会話によるコミュニケーション機能は標準搭載されているぞ」
「そうなの!?じゃあ何で今まで喋んなかったのアイツ!?」
『―――その方がロボットらしいと思いまして』
まさかのそんな理由で!?
『ええい・・・!私を無視してなに面白そうな漫才染みた事をしているのですか!?
―――私も混ぜなさい!見ている者皆爆笑必須なコントを披露して見せましょう!!』
お前はお前で何トンチンカンな事言ってんの!?自爆間近の状態なこと忘れてないか!?
『そう声高にせがまなくても、除け者になどしませんよ。アナタには私と共に大輪の花となっていただきます』
『ヌッ・・・!?』
エメラルドドラゴニアはそう言うと、ワイヤーの束を握っているのとは逆の手を軽く開く。
次の瞬間、そこに大小様々な光の粒が集約し、時間にして一秒にも満たない間にその手の中に通常の物よりも大きな樽が現れ、握られていた。
「ムゥッ!?アレはまさか『物体転移』か!?バカな、能力を引き出したというのか!?
いや、それよりも・・・アレは確かブルーナイトメア達が何やら用意していた物だった筈・・・・・・まさか、あやつ!?」
エメラルドドラゴニアが何をしようとしているのか気付いたのだろう。ハッとしたブレーバーが声を上げて止めようとするが・・・・・・しかし、それよりも先にエメラルドドラゴニアがワイヤーを引いてゴルドニシアを引き寄せ、抱き抱えると、ウイングブースターを全力で噴かし、上空へと勢いよく飛び上がった。
「止めよ、エメラルドドラゴニア!馬鹿な真似は止せ!!」
「ッ、オイ、ブレーバー!アイツはいったい何をしようとしているんだ!」
「あやつは相手よりも早く自爆するつもりだ!」
「はっ!?な、なんだってそんな事を・・・!?」
「・・・相手は動力炉を暴走させ、臨界点を超える事で辺り一帯にビームをバラ撒くつもりだった。だが、そうするよりも先に破壊してしまえば、それを阻止する事ができる。
その事にあやつは気付いていた。だからこそ、相手を一撃で屠る手段を選んだのだ!」
「一撃でって・・・もしかしてその手段って、アイツが持っているアレのことか?俺にはただの大きめな樽にしか見えないんだけど・・・・・・」
「見た目はそうだが、中身が凶悪なのだ!アレには半径五km圏内にあるモノを全て焼き尽くし、粉微塵にする威力のある爆薬が詰め込まれている!エメラルドドラゴニアも頑丈に造られてはいるが、それでも、直撃を受ければ粉微塵に消し飛ぶことになる!!」
「ファッ!?そんなにヤベェ代物だったのアレ!?」
そう話している間にも、エメラルドドラゴニアはゴルドニシアを抱えたまま空を切り裂くような勢いでさらに高く、遠くへと高度を上げてゆく。
『ヌオオオオオオッ!?!?離せ!離しなさい!私はあの島を一大エンターテイメントの舞台にするという使命が・・・!!』
『それはアナタが周りの迷惑を考えずに勝手にやろうとしているだけでしょう?そのような行いは、ただの害悪でしかない。止められるのは当然の流れというもの。
―――潔く散りなさい、愚かな道化よ』
エメラルドドラゴニアのやろうとしていることをゴルドニシアも察したのだろう。慌てた様子でジタバタと、まるで陸に釣り上げられて跳ねる鯛の様に暴れて逃げ出そうとするが・・・・・・四肢がなくワイヤーで雁字搦めにされている事、エメラルドドラゴニアがガッチリと抱き抱えたまま離そうとしない事によってそれは叶わなかった。
「や、止めよ、止めるのだ!お前の機体を作る為にどれ程の時間と金を掛けたと思っている!」
『ありがとうございます、ボス。アナタのお陰で、私は自らの本懐を果たす事ができる』
「え、エメラルドドラゴニアァァァーーーッ!?!?」
そうして、高度にして約一万m。雲の遥か上まで到達したエメラルドドラゴニアは、その手に持つ爆薬が詰め込まれた樽をグシャリと握り潰し―――次の瞬間には、日が傾いて夕暮れ色に染まり始めた空に、真っ白に輝き、赤みを帯びて燃え盛る、爆発という名の大輪の花を咲かせるのであった。
次回は7月29日に投稿予定です。