ミッション93 女幹部VS野良怪人・・・!!
「ふん、目眩ましか?その程度の浅知恵に惑わされる俺ではないわ!」
目の前で紫色の光に包まれる女―――ディーアルナの姿を見ていたロックパイソンは、フンッと馬鹿にするなという感じに鼻を鳴らした。
「いざ食らえぇぇい!この俺の渾身の一撃を―――ッ!」
「チェストォッ!」
ドグシャッ!!
「―――ブゲラハァッ!?」
『ろ、ロックパイソォーーーンッ!?!?』
そして右拳を握り、大きく体を仰け反らせて協力な一撃放とうとした瞬間―――突然目の前に出現した膝によって先程の焼き直しの様に顎下を蹴り上げられて吹き飛んだ。
「うしっ、景気良く吹っ飛んだな」
ロックパイソンを蹴り飛ばした膝蹴りを放った者の正体。それは先程まで紫色の光に包まれていたディーアルナであった。
専用の戦闘服―――上下の隠すべき所機械的なアーマーが取り付けられた体にピッタリとフィットするタイプの黒いハイレグレオタードに、その上から所々には銀色の機械的なパーツが取り付けられた裾丈の長いゴツく感じられる緑色の軍服を前開きにして羽織り、付属品として銃のような物や棒状の物が納められたホルダーが付いたベルトを腰に巻き、更に両腕には肘までを覆う銀色に鈍く光る手袋を、両足には太腿までを覆う手袋と同じ材質のサイハイブーツを履いて、頭頂部には少し膨らんだ形の黒い軍帽の様な物が被り、顔に目元を覆う形のアイマスクをピッタリと張り付けた格好―――を身に付けた彼女は、膝蹴りを放った直後の体勢のまま、冷静に吹き飛んでいったロックパイソンの姿を見送っていた。
「なんと・・・!まさかアイツが二度も吹き飛ばされるとは・・・!」
そんな彼女の姿を目にした怪人達は驚きを露にザワついた。
その中でもブルー兜は、誰よりも一際動揺している様子を見せていた。
・・・というのも、ディーアルナが先程蹴り飛ばしたロックパイソンという怪人は、『ブルーロックファイター』という集団の中でも一、二を争う実力の持ち主だったからだ。
『ブルーロックファイター』に所属している怪人の大半は本能のままに活動する野良怪人だ。それ故に、物事の決着は基本的に暴力で決められていて、弱肉強食の様に弱いものは強いものに従うといった上下関係が築かれていた。
そして、その中でもロックパイソンはリーダーであるブルー兜の次に強い野良怪人だ。だからこそ彼等は、まさかあのロックパイソンがあんな小娘に、それも二度も蹴り飛ばされるなんて、といった感じに信じられない気持ちで驚いていたのである。
「・・・しっかし、アイツどんだけ頑丈なんだ?鉄骨が叩き折れる威力で蹴り飛ばした筈なんだが、ろくなダメージを与えた感覚が無かったぞ」
一方、ディーアルナはロックパイソンを仕留めた手応えがなかったことに顔を顰めていた。
一度目も二度目も半ば不意を突いた形で膝蹴りを食らわせはしたが、しかしかの怪人の体は存外に固く、打撲程度のダメージは与えられたとは思うものの、行動不能にさせる程ではないと感じていたからだ。
「仕方がない。こうなったら全員で掛かるぞ!行け、お前達!」
『アイアイサー!ヒャッハー!!』
「・・・ッ!」
そうこうしている内に怪人達は正気に戻ったのだろう。ブルー兜の命令を受けてディーアルナ達に襲い掛かる。
一部は囮の役割を兼ねて真正面から。残りは左右から強襲しようと別れて。
「ヒャッハー!」
「セイッ!」
ガッ!!
「ヘブッ!?」
真正面組の一番前を走っていた怪人の一体が手に持つ鉄パイプを振り上げながら接近してくる。
その攻撃を半身となって躱したディーアルナは、カウンターの要領でその怪人の首にラリアットを叩き込み、吹き飛ばす。
「無駄に抵抗するんじゃねぇよ!」
「豚の様な悲鳴を上げろやコラァァ!?」
「アンタ等がなぁ!!」
ガシッ・・・!ゴギャッ!!
「「プギィッ!?」」
続いて襲い掛かってきたのは、ディーアルナから見て右側から迫って来ていた二体の怪人であった。怪人達は横並びになると飛び上がり、空中からディーアルナへと襲い掛かる。
それに対してディーアルナは、身を屈めつつ飛び掛かってきた怪人達の足元へ移動し、両手でそれぞれの怪人の片足を掴むと、そのまま勢いよく地面に叩き付けた。
「よくもやってくれたなぁ!」
「おとなしく往生せいやオラァァン!?」
「ワン、ツー!ワン、ツー!〆のフライングクロスチョップ!!」
ドッ、ガッ!ドッ、ガッ!ドゴォンッ!!
「ゲボバギィッ!?」
「アゲェッ!?」
今度は左側の怪人達がディーアルナの下へと接近する。
二体ともガタイが良く、見るからにパワー型だと分かるそれを、ディーアルナは左のジャブと右のストレートをそれぞれの顔面へ交互に放ち、それにより足を止めた隙を突いて、勢いをつけて飛んで放つフライングクロスチョップでまとめて吹き飛ばした。
「ウゥォォオオオッ!!」
「ッ!?」
ガタイの良い怪人達を吹き飛ばした後に軽く一息吐いていたディーアルナであったが、そこへ背後から棘付き金棒を振り被った怪人が襲い掛かってきた。
「ヌゥェェイッ!!」
ブウゥゥゥンッ!!
「フンッ!」
ドギャッ!!
「オゴォッ!?」
大きく横薙ぎに振るわれる棘付き金棒。それを身を屈める事によって回避したディーアルナは、そのまま背後に立つ怪人の土手っ腹に片足での後ろ蹴りを放つ。
「ハァッ!」
ガッ!!
「カペッ!?」
そして腹を押さえながら後退りする怪人の側頭部を空中回し蹴りで蹴り飛ばす。
それ以降もディーアルナは次々と襲い掛かってくる怪人達を逆にブッ飛ばしていった。
「ソリャッ!ハアァァァッ!セィィイヤッ!!」
ドッ!ガシッ、ブンブンブン・・・!ブォンッ!!
「ぎゃあああぁぁぁーーーっ!!?」
ある怪人には首元へ袈裟斬りにチョップを食らわせてダウンさせ、その後に両足を掴んでジャイアントスイングで投げ飛ばしたり。
「オラオラオラァッ!」
ガッ!ガシッ!ドドドドドドッ!ガンッガンッガンッガンッ!!
「堪忍してつかあさい堪忍してつかあさい堪忍してつかあさぁぁゲボォッ!!?」
『のわああぁぁぁーーーッ!?!?』
また、ある怪人にはタックルで腰辺りに抱きつくと同時にその体を持ち上げ、そのまま盾代わりにして他の怪人達の下へ突撃して次々に轢いていったり。
「チェストォォ!」
ドギャッ!
「グボハァッ!?」
「ハァッ!セイッ!セリャッ!」
ガッ!ガッ!ガッ!
「ウギィッ!?」
「グフッ!?」
「ノヘッ!?」
「ちょ、待っ、こっちに来ん・・・!」
「ドォォリャァァアアアッ!!」
ドッゴンッ!!
「ゴハァァッ!?」
更には、縦に並んでいる怪人達に連続でラリアットを食らわせていき、最後の一体には全力のドロップキックを放って蹴り飛ばした。
「な、何だ?何なんだ、この女は!?強い・・・強すぎる・・・!」
そんなある意味一騎当千の様な戦いをするディーアルナに、怪人達は堪ったものではないと言いたげに慄き、畏怖し始めた。
まさか、こんな年端もいかぬ小娘が自分達を相手取って善戦するだなんて、誰も想像だにしていなかったからだ。
・・・いや、唯一ブルー兜だけは彼女が強いだろうということを予想していた。ある程度の強さがなければ、自分達のナンバーツーであるロックパイソンを蹴り飛ばすなんて芸当が出来るわけがないからだ。
「(・・・とは言え、流石にここまで強いとは思っていなかったがな。まさかほぼ全員で襲い掛かって傷一つ負わせられないとは・・・・・・だが、それが何時までも続くということはないだろう。怪人であれヒーローであれ、あれほどまでに激しい動きで戦闘を行っていれば、体力もそうだが活動するために必要なエネルギーの消費は激しい。早晩、空になるのがオチだ)」
そうして、エネルギーが尽きて動けなくなったところを集中的に攻撃すれば撃破は可能だろう。そう思ったブルー兜は、冷や汗を流しつつほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「―――ヌゥォォオオオ!!」
「・・・ッ!?」
そんな時だった。彼の背後で野太い雄叫びの声が上がったのは。
何だ?という感じにブルー兜が後ろへと振り返れば、そこには先ほどディーアルナによって蹴り飛ばされた筈のロックパイソンが、鼻息荒く仁王立ちしていた。
近くに穴が空いた壁があるので、おそらくさっきまでそこに嵌まっていたのだろう。
「おお。無事だったか、ロックパイソン!綺麗な放物線を描きながら飛んでいったから少し心配していたんだぞ!」
「フンッ、あの程度でこの俺がやられるものか!俺の頑丈さはお前も知っているだろう。・・・いやまあ、連続で顎をやられたせいで軽い脳震盪になって動けなくなってはいたが・・・・・・」
頭の角に建材が刺さったまま自身の顎を擦りつつ、「あの膝蹴りはマジで効いたわぁ。まさか短時間とは言え、この俺を行動不能にさせるなんて、相当な威力だったぞあの蹴り」とロックパイソンは呟く。
声音も表情も痛そうにしている様子はないので、痛み自体はもうないのだろう。どちらかと言えば、驚きの方が強い感じだ。
「だが食らった感じ、あの嬢ちゃんの力はそこまでではない。どうやらエネルギーを補助に利用して威力を底上げしているようだ。一度捕まえてしまえば無力化するのは容易いだろう。・・・なので、ちょっと捕まえてくるわ」
ロックパイソンはそう言うと、軽く前傾姿勢となりながらブルー兜に「じゃ、行ってくる」という感じに手を上げ、その後に地面が罅割れる程の力で一目散にディーアルナに向かって駆け出した。
「モォオオオーーッ!!覚悟しろや、嬢ちゃんぅ!貴様の体、この手で鷲掴みにしてや―――」
「【風爆昇撃拳】!」
ドゴギャッ!!
「グベファァァーーーッ!!?」
「ロックパイソォーーーンッ!?!?」
先程言っていた様にディーアルナを捕まえようとしてか、両手を前に伸ばすロックパイソン。
それに対してディーアルナは、渦巻く風のようなエネルギーを纏った右腕を下から掬い上げるように振るい、アッパーカットの要領で思いっきり殴り飛ばした。
「ま、まだまだァァ!!」
「【炎馬剛烈脚】!」
ゴガァンッ!!
「オゴォォーーーッ!!?」
「ロックパイソォーーーンッ!?!?」
殴り飛ばされ、ベシャッと地面に落ちるロックパイソン。しかしその後に達磨起こしの様にすぐさま起き上がると、再びディーアルナに向かって駆け出した。
だがそんな彼を、ディーアルナは炎の様にはためくエネルギーを纏った右足でもって、後ろ回し蹴りの要領で思いっきり蹴り飛ばした。
「グハッ!?・・・ぐっ、まだ、まだぁぁぁッ!!」
「いい加減しつこい!【猿刀手拳】!【猿撃手拳】!【猿打手拳】!【龍気砲弾】!!」
ガガガガガガッ!ドドゴォンッ!!!
「アバババババッ!?ブベラァァーーーッ!!?」
「ロックパイソォーーーンッ!?!?」
しかしロックパイソンは諦めない。ドシャッと地面に落ちた後にまたもすぐさま起き上がり、三度目の正直とでも言わんばかりの全力失踪でディーアルナの下へと向かう。・・・まあ、実際に突撃するのは四度目なのだが。
それをディーアルナは、こっち来んなぁ!と言いたげな声を上げながら連続で技を放って迎撃する。
手刀で伸ばされた両腕を弾き、拳で顔面を殴って仰け反らせ、掌打で胸を打って後ろへと下がらせる。そして最後に両手の間に集中、圧縮させたエネルギーを弾として放ってロックパイソンを吹き飛ばした。
「まだ、まだだぁぁ・・・!」
「うっそだろ・・・!?あんだけしこたま攻撃したってのに、本当にどんだけ頑丈なんだよ、コイツ・・・!?」
エネルギー弾を食らって吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がったロックパイソン。
だがしかし、彼はもう何度目かも分からない体を起こす動作をすると、若干ふらつきながらも両の足でしっかと立ち上がった。
「クハハハッ・・・!バカめ、この程度のダメージで俺を倒せると思ったか・・・!」
冷や汗を流し、腹部を片手で押さえながらニヤリとした笑みを浮かべるロックパイソン。
その肩に、ブルー兜の手がポンと置かれた。
「無理をするな、ロックパイソン。あとは私がやろう。お前は一度休め」
まだ余裕はありそうだがパフォーマンスを維持する為に一度休ませるべきだと考えたのだろう。ブルー兜は下がっていろという風に声を掛けるのだが、しかしそれに対してロックパイソンは否と首を横に振った。
「いや・・・いいや、まだだ、ブルー兜。俺はまだ下がるつもりはない・・・!」
「ロックパイソン・・・お前という奴は・・・・・・」
そんなロックパイソンの姿に、そこまで勝負事に熱い奴だったのか・・・!とブルー兜は感嘆の声を上げようとして―――しかし、次に彼が口にした台詞によってそれは止まった。
「俺は・・・俺はまだ、あの無駄にデカイ乳を揉んでいない・・・!!あの柔らかく、弾力のありそうな女性としての象徴をこの手で掴むことが出来ていないってのに、下がるなんてことをして堪るものかよ・・・!!」
「・・・ん?」
「・・・は?」
血反吐でも吐くかの如き気迫を込めてそんな事をシャウトするロックパイソン。
それを耳にしたブルー兜とディーアルナは、揃って訝しげな声を漏らした。
「・・・え?いや、え?待て、待ってくれ、ロックパイソン。もしかして先程から何度も不死身の如く立ち上がって突撃を繰り返していたのは、まさか・・・・・・」
「あの嬢ちゃんの胸を鷲掴みにする為だが、何か?」
両手の指をワキワキとさせながら、何を当たり前な事を?といった感じにキョトンとした顔をするロックパイソン。
そんな彼の顔を見たブルー兜は、ええぇ・・・?と言葉にし難い複雑な表情を浮かべた。
真面目に戦おうとしているのだと思っていたら、まさかの性欲全開な答えを聞いたのだ。そんな顔になるのも無理はないだろう。
「な、なるほど・・・通りで狙いがおかしかったわけだ」
複雑な表情を浮かべていたのはディーアルナもまた同じであった。
相対していたが故に、ロックパイソンの視線や両手を伸ばす動きが自身の胸元に集中していたのに気付いていた彼女は、何度も迎撃する中でいったい何の意図があってそんな動きをしているのだろう?と内心で首を傾げていたのだ。
・・・まあ、その目的が自分の胸を揉むことだったということを知った後は、反射的に胸元を両腕で隠し、頬を赤らめながら一歩二歩と後退りしたが。
「ロックパイソン・・・お前という奴は・・・・・・」
「・・・む?どうしたんだ、ブルー兜よ。何故そんな呆れたような、残念なものを見るかのような顔をするんだ?」
さっきとは違った意味合いの視線をロックパイソンに向け、溜め息を吐くブルー兜。
一方のロックパイソンはと言えば、何故自分はそんな視線を向けられているのだろう?といった感じに、不思議そうに首を傾げていた。
「む、むぅ・・・何やら腑に落ちないが、まあそれは後で聞けばいいな。―――というわけで、その乳を思う存分揉ませろや嬢ちゃんぅぅーーッ!!」
詳しい話は後でもできると頭を切り換えたロックパイソンは高々と宙を飛んだ。
頬を赤らめ、鼻息を荒くし、両手の指をワキワキとさせながらダイブするその姿はまさに性欲に染まった獣そのもの。そんな輩に捕まってしまったらどうなるかなんて、その手の知識を持っている者であれば容易に想像できてしまえることだろう。
「誰が揉ませるか、この変態がぁぁッ!?【猿撃剛手拳】ッ!!」
ドゴッシャァッ!!!
「ヒデブルッハァァァッ!?!?」
「ロックパイソォーーーンッ!?!?」
―――まあ、そんな展開がそう易々と起こるわけがなかったが。
何故なら、自身に向かって飛び掛かってくるロックパイソンの姿を見たディーアルナが胸元を左腕で隠しつつ右腕にエネルギーを集中して巨大な腕を形成し、そしてその巨腕でもって力一杯に殴り飛ばしたからだ。
そんなロックパイソンの姿を見たブルー兜はまたもや思わず叫んでしまうのだが、しかしその内心では「でも、ある意味自業自得だよね、これ」という感じに彼が殴り飛ばされるのは当然だろうと納得もしていた。だって端から見たら痴漢行為のそれだし。
ついでに「というか、野良怪人とは言え欲望に忠実過ぎやしないだろうか、この牛」と小声でツッコミも入れていたり。
ドゴォォンッ!!
「こ、今度は何だ!」
そんな色々とカオスな状況の中、突如として大きな破砕音が建物内に響き渡った。
壊されたのは、どうやらブルー兜達やディーアルナのいる所からは遠めの場所にある壁だったらしい。モクモクと煙が立ち込め、漂うその場所で、ジャリッと音を立てながら二つの人影が姿を現した。
「ようやく見つけたわよ、この誘拐犯共!よくもまあ私の可愛い生徒を拐ってくれたわね!この落とし前、高く付くわよ!!」
一人は長い金髪をサイドテールに纏め、テール部分をまるでドリルのようにカールさせた髪型にした、赤縁の眼鏡を掛け、女性用のビジネススーツをしっかりと着こなした女性であった。
顔形はシュッとしていて、勝気そうな印象だが、十人中十人が美女と言う程の美貌の持ち主であり、その女性としての魅力が十二分なスーツに収まりきらない我儘ボディは、ビジネスウーマンと言うより十八禁系のお店にいそうな人物だという印象を抱かせる。
そんな彼女は赤縁の眼鏡を指でクイッと上げ、そのレンズの向こうに見える綺麗な青色の瞳が納められた目を細めながら、怪人達に向けてビシッと指を差す。
「コハァァァー・・・ッ!」
もう一人は黒い髪を角刈りに整え、暑苦しいほどの男らしさが感じられる彫りの深い顔立ちの男性だった。
首から下は全体的に筋肉質な、まるでボディービルダーのような見た目であり、ムキムキとした筋肉がワイシャツやジーパンの下から服を破りそうになるくらいに自己主張していて、またその両目から放たれる赤い眼光は、見るものに怖気を覚えさせる程の強烈な覇気を感じさせていた。
前者の女性は女教師ヒーロー『ウィップティーチャー』。主に愛用の鞭を使って戦うヒーローであり、彼女の操る鞭は変幻自在とまで言われ、その巧みな鞭捌きで数多くの怪人や犯罪者たちをひれ伏させ、捕縛した実績が数多ある人物でもある。
そして後者の男性だが、そちらに関してはブルー兜がよく知っている人物であった。
というか、自分達の標的であり、これからボコってボコってボコりまくる予定の相手だった動物園の飼育員『山田』であった。
「馬鹿なっ・・・!何故奴等が此処に・・・!?此処は子供達を拐った地点から幾つか県を跨いでいる場所だぞ・・・!いったいどうやってこの場所を特定したんだ・・・!?」
その二人の姿を目にしたブルー兜は驚愕し、目を剥いていた。まさかあの二人がわざわざこんな所まで追ってくるだなんて、全く予想だにしていなかったからだ。
彼がここまで動揺するのには訳がある。・・・というのも、ブルー兜も含めた『ブルーロックファイター』に所属していた怪人達は、山田の弟妹達を誘拐する際に早々にバレないように、足がつかないように痕跡をしっかりと消し、更には簡単には追って来れないように誘拐した地点から幾つか県を跨いで移動していたからだ。
だというのに、そこまでしたというのに、こんなにも早く居場所が特定されてしまうなんて事態は、ブルー兜達にとってはまさに予想もしていなかった誤算だった。
何故、どうやって、と困惑しながら思わずといった風に呟いてしまうのも無理もないだろう。
「そんなこと、説明するまでもないわ。―――愛よ」
「愛!?」
「そう、愛よ!ウチの可愛い生徒達への愛がこの場所を指し示してくれたのよ!」
「(まあ実際には、淑女同盟の皆さんに頼んで見つけ出してもらったのだけれど)」
そんな彼の呟きに答えるように胸を反らし、自信満々にそう断言するウィップティーチャー。
けれどその実、自身が所属している淑女同盟―――色々とグループ分けがされており、その中で彼女が入っているのは少年のは部と呼ばれる所―――に調査協力を依頼し、そこから得た情報で居場所を特定していたのだが。
・・・・・・とは言え、愛をもって見つけ出したという点では嘘は吐いていないので、わざわざそれを口にすることはしなかったが。
「(・・・まあただ、一つだけ不思議に思っていることはあるのよねぇ)」
そこでふと、ウィップティーチャーは視線を横にいる山田へ向け、内心でポツリと呟く。
「(私の隣にいる彼はどうやって此処まで来れたのかしら?拐われた生徒達のお兄さんだということは、前に授業参観などで会っているから知っているのだけれど・・・)」
そう。ブルー兜達の居場所を特定し、ウィップティーチャーがこの場所へ到着した時、どのような方法かは分からないがそこには既に山田が来ていたのだ。
まさか誘拐された生徒達の家族がこんな所にいるだなんて欠片も予想していなかった彼女は心底驚いた。
「・・・で?貴方達、私の可愛い生徒達を何処に隠してくれやがったのかしら?」
自身よりも早くこの場所に来るなんてとても一般人とは思えない、と内心で独り言ちるウィップティーチャーであったが、今はそんな事を気にするよりも、と思考を切り換えて視線を左右に動かし、自身の教え子達の姿を探す。
「先生~!百合子先生~!」
「兄ちゃ!兄ちゃも!こっち!こっちだよ!」
そして見つけた。ブルー兜達怪人を間に挟んだ向こう側に二人がいる。
元気に手を振りながら自身の本名を言っている様子から、どうやら大きな怪我などはないらしい。
「・・・・・・ん?んんん?」
その事に、ホッと安堵の息を零したウィップティーチャーだったが・・・・・・しかし、同時に見覚えのある人物が二人の近くにいることに気付いて、思わずギリッと手に持つ鞭を両手で握り締めた。
「(アイツ、あの女・・・!?私の可愛い生徒達が通う学校をブッ壊してくれやがった、あの・・・!!)」
自身にとって最高の職場であったあの学校を倒壊させた―――根本的な原因は手抜き建築による構造的な欠陥だったと分かってはいるが―――憎いあん畜生ことディーアルナの姿を視界に捉えたウィップティーチャーは苛ただしげに歯軋りする。
だがしかし、ディーアルナの立ち位置を見て、状況的にどうやら子供達を守っているようだとも理解した彼女は、そちらに関しては一旦後回しにすることにした。
現状で最優先するべきは自分の復讐心ではなく、助け、守るべき子供達の身の安全だったからだ。
「・・・キッ!」
「うぇっ!?」
まあ、それでも鋭い視線を向けることは止められなかったが。
「・・・・・・」
そんなウィップティーチャーを横目で見ていた山田は、やれやれと若干呆れているような溜め息を吐いた。
ディーアルナと浅からぬ因縁があるのは彼も同じだが、これまでに数度、偶然にというか何かの拍子に会っていたこともあって根は悪い奴等ではないということを察していたし、コイツ等に悪事とか無理そうだ、というある種の信用のようなものもあったので、最初の出会いの時に抱いていた敵愾心はとっくのとうに無くなっていた。
具体的には、「何してくれてんだテメェ等コラァァッ!!」的な気持ちが、「ああ、うん。がんばれ?」となるくらいには。
まあ、しょうもない悪事を働いているのを見かけたら知り合いのよしみで折檻でもしてやろうかな?と内心思ってたりもしていたが。
「・・・・・・!」
「くっ、分かっています。ええ、分かっていますとも。今は脅威度の低い彼女の相手をするよりも、あの子達を拐った誘拐犯達を片付けて安全を確保するのが先決だということは・・・!」
なので山田は、ウィップティーチャーに「今のアイツはウチの弟妹達を守ってくれているようだから、あっちの事は任せて、俺達はあのクソッ垂れの怪人共を片付けよう」といった感じに立てた親指でクイックイッとブルー兜達の事を差す様子を見せる。
それを目にしたウィップティーチャーは彼の言わんとするところを察したのだろう。仕方がないと不承不承に頷きつつ鞭を構えた。
「さあ、覚悟しなさい貴方達!お仕置きの時間よ!!」
「ウゥオオオォォッ!!」
ピシッ!と鞭を引っ張るウィップティーチャーと雄叫びを上げる山田。
二人は息を合わせたように身構えると、ブルー兜達怪人に向かって駆け出した。
次回の投稿は4月29日の予定です




