① 火の化身
大神殿での事件が起きてから暫くは平穏無事な日々を送ることが出来、しかしながら、俺としてもこの力を少々持て余していた。
普段の授業や鍛錬の後、自室にて自習を重ねていたところに、この力を操る訓練も始めていた。
下手に家具へ燃え移っては困るので、なるべく物から離れた部屋の中央に座し、左手を掲げて意識を集中して、徐々に火力を高めてみたり、逆に火を弱めてみたりと、自分なりにこの力をモノにしようと考えた。
試せば試すほどに、俺はもう、人間ではないのではないかと悩むようになった。
特に確信したのは数日前の夜のこと。
ミオの話で、俺は身体を貫かれたというのに溢れ出す炎によって傷を消し去ったという。
そこで俺は夕食時を見計らい、ナイフを手にとって腕の一部を切りつけた。
あくまでも皮膚を浅く切る程度であったのだが、じわりと血が滲み出してくるかと思っていた俺の予想に反して、傷口からたちまち赤い火が噴き出し、次に見たときには傷口は跡形もなくなっていた。
つまり、俺は外面こそ人間の形をしているが、皮から下には炎が詰まっているようだった。
俺という意思が宿った火、日守暁良という人間の皮を被った炎。
そんなデタラメでインチキな存在を言葉で表すには、もはやバケモノとしかいいようがなかった。
あの灼熱地獄に棲まう火の精霊の如く、身体の至る所から火と溶岩を溢れ出す日がいつか来るのではないか。
その恐れから、俺は自分の力を操る術が欲しく、訓練を始めるに至った。
ただ、外見以外にも人間らしい部分はきちんと残っていた。
ずばり食欲である。
訓練を始めてみてわかったのだが、火を出すと体力の消耗が存外に多く、肉体の疲れも相まって感じるのが空腹だった。
そしていざ食事ともなると、今までの自分とは思えぬ程の量が喉の奥に流れ込むのである。
炉に石炭を次々に放り込んで火勢を保つイメージ、とでも言えばいいだろうか。
特に城の中庭でミオに接吻された日の夜は酷く、3日ぶりの食事ということもあったのだろうが、それでも胃袋の底がしれない程に俺は食べた。
こんなに食えるのはバトル系漫画の主人公くらいのものだと呆れる程に。
それまではトレイに載っている数枚の皿で満腹になっていたはずが、その時ばかりは通常の5倍以上は軽く平らげたと記憶している。
料理を何度も運ぶ羽目になったバレッドの顔が忘れられない。
だがこれだけ食べても、身体の中で燃え尽きる為に一切の排泄が無くなった。
ただ身体の中の炎が燃えてさえいれば、俺は疲れもしないし、眠ることもなく、まして病気にもかからず、試す気にはならないが、死ぬことも無いのだろう……。
本当にインチキな身体になったものだと日々悶々としていた俺だったが、されど、誰も俺のことを恐れはしなかった。




