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冴えすぎた眼鏡


 ホロロの意図を察して、ワトロッドは指揮を執る。


 アイリーズの相手を彼に託して、自分たちは攻略を再開するというものだ。事実あの呼び声には、そうして欲しいという意図が含まれていた。


 周囲を警戒しながら、森を南西に向かって移動する。


 ボージャンとゴランドルの両名は、馬を乗り捨てて自分の足を使うことになった。馬術の選抜大会では落馬した時点で失格であるが、武闘祭にそのルールは適用されない。あくまでも騎士個人の力、集団における力が問われているからだ。


 武闘祭の試合区画にあわせて、あえて馬を下りる馬術代表もいる。図らずも今回は二人がこの形をとって立ち回る。目に見える損害といえばそれだけで、現状ではまだ全員が健在である。


「なぁ眼鏡君。まじで、ショタ君一人に任せていいのかよ?」


「ブリジッカ君。気持ちは分かるが……これが最善だと思う。それに彼は強い」


 不安げに意見する味方に、ワトロッドは指揮の意図を説明する。奇襲を受けた影響で思考も鈍っていたが、今は冷静さを取り戻して、自分たちが置かれた状況を理解できていた。


「……相手は僕たちの居場所を知って、たった一人で奇襲を仕掛けてきた」


「それにしたって、どうやって知る?」


 ジャンゴが首を捻る。


「それはわからない。けれど監視があって試合前に動くことはできない。あらかじめ区画に細工などしておくこともできない。仮にできたとして、武闘祭の覇者たる学校がする真似にも思えない」


「相手側は何らかの方法で、私たちの居場所を知ることができるようですね」


 受けた傷を治癒するナコリンが、つけ足すように言った。


「ナコリン君が言うとおり、まず間違いないだろう。その上であの奇襲。恐らくそれは時間稼ぎで、それでいて、ほかに何か目的があったのではと思っている」


「あの人、すごく強かった。まるで……」


 みなまで言わずとも、ティハニアの言葉は全員に伝わる。


 ワトロッドは、それをあえて言い切った。


「一人でも僕たちを全滅させられる。それほどだった」


 誰もが口を噤む中で、片手の人差し指を立てて続ける。


「なぜあんなにも早く接近できたのか? これはきっと彼女の能力だ。僕があれを時間稼ぎの一環と思う根拠は、奇襲に失敗しても、彼女の能力なら離脱もできると思うからだ。片道限定で及ぶことにしては、流石にリスクが高すぎる」


 中指を立てて、さらに続ける。


「なぜ一人で奇襲をしてきたか? これは今言ったとおり、彼女しか移動方法がないからと考える。相手側の全員ができるなら、もっと人員を増やせば全滅もできたはず……ここで思ったのは、彼女はあの場で僕たちを全滅させる気がなかった、ほかに目的があったのでは? ということだ。それで、もしかしたら彼女のそれは、もう叶っているのかもしれない」


「その目的って?」


 ゴランドルに問いかけられる。


「いや、少し客観性を欠くけれど、彼女の狙いはホロロ君だったと思う。味方が布陣を終えるまでの時間稼ぎなら、彼女は僕たちを追い駆けていて不思議じゃない。実際、僕たちを阻めるだけの力も、追い駆けるだけの移動力も、彼女にはあるのだから」


「なるほど……確かにナコリン、俺、ゴランドル、ティハニアにキュノと無差別に戦っていたのが、嫌にあっさりだった。最初に長弓の使い手を潰そうと考える、そんな奴が」


 記憶を振り返ったボージャンが、そう訝しんだ。


「やはり、ホロロ君と相対した途端に、ほかの誰にも興味がなくなったように思えた……といってもこればかりは確証がない。まだ背後への警戒は解かないでいて欲しい」


 注意を呼びかけて、全員にうなずきをもらう。話しているうちに、ワトロッドは状況が整理されていく感触を覚えた。彼は薬指を立てると、最後はそれについて続けた。


「しかし何にせよ、これだけは断言しても良いと思っている」


「言ってみてくれるか?」


 ミュートに明言を求められる。


 眼鏡の位置を正すと、ワトロッドはやや憤ったように答えた。


「相手の指揮官は、少し僕らを舐めている」


 アイリーズの奇襲一つから、ワトロッドはロロピアラの指揮を読んだ。奇襲の意図、一人の奇襲を認める慢心、その裏に隠された個人の目的――ほぼ正しい予想が、もうできていた。


「僕に、自分の底の深さを教えたようなものだ」


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