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果されぬ約束

 

「ジャンゴ君! なんで反撃しないの、なんで戦わないの!?」


 客席から同様の言葉を、絶えず投げかけ続ける。ホロロは闘争の場で行われている試合の展開に、ただただ納得ができなかった。


 対戦相手のヴォイドに、ジャンゴが一方的に打たれている。


 前日の両者の立ち回りを思い比べても、本来ならば対処できないというよりは、容易くあしらえるだけの技量が、ジャンゴにはあるように感じられた。


 しかし、不自然なほどに反撃をすることなく、硬気のみで耐え続けており、彼はそれが――。


「ジャンゴ君! ジャンゴ君……なんで、僕との約束は……なんでなの!?」


 観客の大半が声援を送る一方、前日に煌気化を見せたことで期待が高まっていたのか、この状況に失望して罵声をあげる者もちらほらといた。すでに開始から、十分が経過しようかという頃になる。


 そうした客席の声に埋もれても、その必死な声は、確かに届いてるはずだった。


 聞えている、きちんと聞こえているさ……。


 だからそんなに熱く叫ぶなよ……。


 期待に応えて、目の前の奴をぶっ飛ばしたくなるだろう……?


 ホロロの声を聞き、ジャンゴは苦痛にゆがむ顔で、無理にでも笑みを作ってみせた。


 シアリーザを人質に取られていた。試合前に偽物のイオラから事実を知らされ、次の試合で負けるように脅迫されていたのだ。


「ははっ、ヨルツェフ教官の言ったとおりじゃないか、本当に手が出せないんだなぁ?」


 小さな声量の笑いには、勝ち誇ったような抑揚がある。ただ無抵抗な相手に振り下ろす木剣には、何らためらいの気配もない。ヴォイドの所業は、純粋な悪意に満ちていた。


「ヴォイド、お前は知っていながら……美しくない」


 容赦なく打たれ、肢体の骨を軋ませ、硬気を削られ、しだいに回復に使える力も失っていく。


 フォトンの保有量が一般人より多くとも、騎士養成学校の生徒たちと比較すれば少ない。だから、ジャンゴは長引く戦いを得意としていない。


 煌気化を習得したのは、一分間という限定的な時間に、すべてを賭ける道を選んだからだ。


 たぶん、俺はこのまま負ける……。


 何もなす術もないまま打たれ続けて……。


 自分の欠点を熟知している彼は、まもなく訪れるだろう、限界を悟っていた。


「いい加減沈めってんだよぉ!」


 苛立ち半分、面白半分のヴォイドから畳みかかられた。硬気が弱まって、負う傷も目に見えて悪化して、打撲、骨折、裂傷なども一気に増えると、ジャンゴは満身創痍になった。


 たとえ傷を負って苦しかろうと、血反吐を吐いて醜くなろうとも。俺はな……。


 足元も覚束ない、意識も朦朧とした状態で、彼はそれでも自ら降伏だけはしない。


 意地だった。


「美しい俺は……美しくあり続ける!」


 言い切った直後に脳天を打たれ、ゆっくりと後ろ向きに倒れる。ジャンゴはそのまま起きあがれなかった。ヴォイドから陰湿な笑声を、意識の途切れる間際まで聞かされていた。


 審判の宣言によって試合は決着する。この陰惨な結末は、客席へ不快感を与えるとともに、過去に類を見ない、小さなざわめきを起こすだけに終わった。





 なんで、どうして、こんなことに……。


 何があったっていうの……?


 試合後、ホロロはいても立ってもいられなかった。


 闘争の場から運営の医療係によって運び出されたジャンゴのもとに走る。追いついて、ちょうど、それが闘争の回廊を担架で運ばれている途中に出くわした。


 ほかの第六の生徒たちが付き添っている輪に混ざり、ぐったりとしているそれに、何度も呼びかけた。


 これに反応してか、ジャンゴが目を覚ました。第六の生徒たちが、安堵の声をこぼした。


「お前か? ……約束、守れなかったな……気をつけろ……奴は……」


 ジャンゴが言いかけた言葉の先を、ホロロは聞くことができなかった。治療室に到着した医療係から『付き添いはここまででお願いします』と断られてしまった。


 何があったの、そんな風にならなくちゃいけない事情は、なんなの……。


 医療係が治療室の奥に消えるのを呆然と見送り、第六の生徒たちと立ち尽くした。


 約束が果たされなかった理由が『もし誰かがそうならないように仕向けたのだとしたら』と考えると、彼は胸の奥に言い表せない悔しさが込みあげて、やまなかった。


 大会の裏で動くヨルツェフの悪意が、ついに大会へと影響を及ぼした。


 大会は知らず知らずに害されて、二日目を終える。


 未だ誰も、気づくことがないままに。


4/11 全文改稿。

2018年1月12日 1~40部まで改行修正。

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