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極まれり強欲

 

 十二月二十一日をもって、今年の武闘祭における上位十六位が決定する。


 結果は運搬を専門とする高速飛龍により、三日で帝国のアズ・ラ・ファルエの宮殿に届けられた。またこの報告は玉座の間にて、各領から皇帝派の貴族が集められた中で、大々的になされた。


 これは帝国の優勢を信じていたラテリオスが、実際そうであった場合に開戦の宣言をするために、そう逸り過ぎたがゆえに、取り計らっていたことだった。


 件の虐殺事件の黒幕として強い疑いがかかった皇帝は、連邦や中立国からはもちろん、帝国内部の人間ないし多方面から不信感を抱かれている。


 その際の失言からダグバルムに企てを悟られていても不思議ではない状況にある。


 汚職にまみれた高官たちの虐殺を僥倖とする人間も多く、あまり事件は取り沙汰されなかったことから、大多数の民衆は虐殺があったことさえ知らない。


 つまり帝国は、皇帝は、水面下で引くに引けない状況にはまっていた。





 少し張らなければ声が反響しない、赤い絨毯敷きの大広間。


 二階建て家屋が余裕で収まるほどの高い天井が、整列した逞しい石柱に支えられている。


 最奥部に段違いに高く構えられた玉座を際立たせるかのように、皇族の威光を象徴しているかのように、その空間には所狭しに豪華絢爛な装飾が見受けられた。


 一歩でも足を踏み入れたなら、荘厳と感じざるを得ない、そんな印象がある。


「この度は拝謁を賜り、まこと光栄の至りにて、満腔の歓喜の披歴に堪えませぬ」


 左右に列席する貴族の間を歩き出でて、広間の半ばに跪いた男が言った。皇帝派の中でも力ある、ラテリオスとも親密な、開戦の企てを知る数少ない貴族だった。


 男は最寄りの龍脈上の領地主だったことから、皇帝に『その報』を届けさせるに相応しい人物と思われていた。


「うむ。……して?」


 葡萄酒が波打つグラスを片手に、玉座の肘掛けに頬杖をつきながら、ラテリオスが続きを聞いた。どういった報告か既知の上だったが、事情を知らない貴族たちの手前では恍けてみせた。


 あくまでも期待はしていなかった、そう上手に出て事を運ぼうとしていた。


 時に、かたわらには宰相がわりとして、険しい面持ちでカミュリオスが立っている。


 がわり――とは、前皇帝の時代までは存在した宰相を、自分に意見する役どころを嫌った現皇帝が排斥し、周囲に反対された末に『弟が務めるならば許す』として話がついていたのだ。


 当初は皇族が力を持ち過ぎると危ぶむ声も上がったが、カミュリオスが人格的だったことで今は落ち着いている。


「はい。二十一日時点のアルカディア騎士武闘祭における、我が国の戦果報告をここに」


 男が封のされた洋紙を軽く差し上げる。


「おぉ、まことか。では読み上げてみよ」


 十年待ちわびたこの瞬間に、ラテリオスが口元を緩ませる。男が丸まった洋紙の封を切る様子を、今か今かと眺めやる。


 男の咳払いに文書が読み上げられる兆候を感じると、彼は耳を澄ませた。


「報告。十二月二十一日の試合結果をもち、今年度のアルカディア騎士武闘祭における上位十六位に格付けられた国、領、州が決定した。仔細は次のとおりで、あ……っ!?」


 読み上げる声を詰まらせて、男が身体を震わせ始める。


「……どうした?」


 訝しげに表情を変えて、ラテリオスが問いかける。


 沈黙していた男が、覚悟を決めたように続きを読み上げる。


「……連邦より十一カ国。帝国より二領。中立国より三州。不正はなく結果はくつがえらない」


 表情を失くして、ラテリオスがすくと立ち上がった。


 気が触れたように、手元のグラスを足元に叩き付ける。


 突拍子もない振る舞いで注目を集める中、誰に口を挟むことも許さない雰囲気を放って、足早に玉座を離れていく――あきらかな癇癪の果てにあるものが何か、それに感づいたカミュリオスがその背中を追う。


 玉座の横合いにあった廊下に進み入って、


「陛下……兄上、お待ちください!」


「認めぬ、認めぬ、認めぬ……断じて認めぬ」


 いつぞやの問答を、さらに切迫させたような時間が繰り返される。


 ラテリオスの背中に、カミュリオスが制止の声を投げかける。しかし苛立たしげに足音を鳴らして歩く前者の足は止まらない。ただ後者の声が、むなしく廊下に響いた。


「兄上、なりませぬ! なりませぬぞ、兄上!」


 煮えを切らしたように、諌めるための文句が語気を増して続く。


「っ……いいかげんに現実をお受入れなさい! 連邦は衰退などしていなかったのです。かくなれば双方ともに痛手を負う戦など、お止めになるべきだ! ご辛抱なさい!」


 一言一句を聞きとめたラテリオスが、顔をしかめて振り返る。


 続けざまにあった彼の言葉は、カミュリオスに絶句と絶望を与えた。


「黙れぃ! 余は神聖カルメッツァ帝国の皇帝なれば、それすなわち人の王であろうが! 余にひれ伏さぬ者の存在を許して、何を王であると申すか!? 余は断じて認めぬぞ!」


 この男は、何を言っているんだ……?


 本当にこれが、仮にも一国の王たる者の言葉だと、私の兄の言葉だと言うのか……? 


 気力の失せたカミュリオスが、ラテリオスを追う歩みを止める。


 ――その強欲なる意志は、もう誰にも止められない。


2018年1月26日 全文改稿。

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